another SILENT HILL story 病める薔薇~   作:瀬模拓也

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~第4章 よく似た悪夢~

それを見つけ出したのは本当に偶然の事だった。

 

 

 

ラジオから聞こえたホワイトノイズにロサラは慌てて近くの店に飛び込んだのだ。そこは喫茶店だったらしく整然と並べられたイスとテーブルが冷たくロサラを見詰めていた。タバコの吸い殻やカウンターの上のトーストなど病院と同じで人だけがここから切り取られてしまった様な感じだ。

 

店内を見回していたロサラは床に散らばる紙の一群に目を引かれた。バーの呼び込みチラシの隣に「サイレントヒル」と言う言葉を見つけたのだ。

 

拾い上げてみるとゴシップ雑誌の一部らしく千切られていて読めない所もあったがどうやらサイレントヒルにまつわる古い伝承をまとめた物らしい。

 

 

 

 

―その事に関して我々は当時16歳の少女を見つける事は叶わなかった。しかし我々はサイレントヒルに伝わる禍々しい儀式に付いて知る事になった。

 

 

その生贄の儀式は男の胸に――突き立て。穴を穿ち、吹き出す赤い血にて祭壇を濡らすと神を慰め、――忠誠を示すためである。

 

また「死者を甦らせる儀式」と言うものもあり関連は―――同等と考えられる。尚「希望の―――・・・・・・

 

 

 

      

 

読み終えたロサラはゆっくりと首を振る。気分が良いかと聞かれれば全くそうではない。サイレントヒルの病院に入院して一年、兄はおろか病院内でもこんな話は聞いた事が無い。まったく、一体どこから拾って来たのかと感心する程だ。こう言う雑誌は2~3人が言ったあやふやな話をまるで誰もが知っているかの様な言い方で面白ろ可笑しく誇張してしまうのだ。それほどまでに平穏は彼等にとって忌み嫌う物なのだろうか。

 

 

 

嫌な気分のまま奥のキッチンに入ると弾丸の箱が置かれていた。空っぽだった弾倉にそれを詰めると少しだけ勇気付けられる気がした。

 

「でも何だか慣れてきそうで怖いな、銃を使う事にも勝手に持ち出しちゃう事も・・・」

 

思っていた事を口にしているのに気付きロサラは苦笑する。1人だとどうしても声をだしたくなる。

 

目を閉じて息を吸い込むと焼き菓子の甘い匂いがした。

 

無事に帰れたらお菓子を沢山作って食べよう。一年振りだから上手く出来るかしら?それからベッドの上で本を読んで、サイレントヒルにある遊園地にも行ってみたいな、ああその前にシャワーを浴びるのが先じゃない。

 

先ほどの嫌な気分を落ち着かせる様に幸福な想像で頭を満たしてゆく。おかげで目を開ける時には気分も少しだけ良くなっていた。

 

 

 

 

ネイサン通りから郊外に抜ける道は例えロサラが走り幅跳びの選手でも飛び越えられない程広く深く陥没していた。まるで刃物でも入れた様に綺麗に切り取られた道路を見てロサラは溜息を付いたもののそれ程気は滅入らなかった。直傍に迂回出来る道があったからだ。

 

 

「ローズ ウォーター パーク」

 

園内に植えられた沢山の薔薇とどこまでも続くトルーカ湖が展望出来るサイレントヒルの名所の一つだ。満開を迎える初夏は勿論のんびりと湖面を見ながら散策するオフシーズンも魅力的な場所なのだと以前兄から聞かされていた。

 

流石に今は優雅に散歩と洒落込む気にはなれないが話しに聞いて憧れを抱いていた場所を前にロサラは少しばかりの期待を込めていた。

 

けれども園内に入って直にロサラは困惑する事態にぶつかった。北欧風の石段を一段降りるたびに霧が濃くなっていき、終にはほんの数ヤード先すら見えなくなってしまったのだ。今や霧はベルベットの様に重たくロサラに纏いつきこれ以上進むのを拒んでいるかのようだった。

 

「きゃっ。」

 

湖を隔てる柵にぶつかり身を乗り出したロサラは眼下に広がるその姿を見て驚いた。ここは本当に湖なのだろうか、本来ならば昼過ぎの日差しを煌かせる湖面は乳白色の霧に覆われかつての面影を垣間見る事さえ出来ない。まるで湖の水全てが蒸発してここから溢れ出ている様だ。

 

 

溜息を付いたロサラは柵を背に凭れる。本当にこの町はどうなってしまったのだろうか。

 

 

不意にほんの少しだけ霧が薄れた気がした。霧の合間から売店のカラフルな屋根が見える。

 

「・・・誰っ!?」

 

白く霞んだ視界の中に動く影をロサラは見つける。動きから人の様にも見えるが先程のバケモノと言う事も考えられる。

 

影はロサラの切迫した声に応じずこちらに向って来る。ロサラに緊張が走り銃を取り出そうとするが普段そんな動きなどした事の無い彼女にとって銃を構える事は簡単では無い。

 

もたついている間に腕を影に掴まれてしまう。

 

「はっ・・離してっ!」

 

恐怖に駆られ片手に銃を持っている事さえ忘れロサラは掴まれた腕を離そうと両手で暴れる。

 

「まっ待った!離すからっ!離すから。」

 

あっさりと解放された腕にロサラは自体を飲み込めずに跳ねるようにその場から数歩退いた後銃を構えた状態で放心していた。

 

 

―今しゃべったのは誰?

 

―兄さん?

 

 

荒い息を付いて声の主、影の姿を凝視する。

 

 

風など吹いていない筈なのに目の前の霧が散って行く。

 

 

そこに居たのは一人の青年だった。

 

ロサラの気を宥めようと笑みは浮かべているが銃を突きつけられているため両手を挙げて完全に無抵抗を示している。

 

「その・・・ただこの町について聞きたい事があるんだ。」

 

しどろもどろとした人間らしい雰囲気は逆にロサラの気持ちを落ち着けた。

 

そして未だに自分が銃を突きつけている事に気付く。

 

「あのっ・・・ごめんなさい。」

 

慌てて銃を仕舞い謝罪する。

 

「いや・・・俺の方こそいきなり悪かった。」

 

暴漢の疑いが晴れた青年は手をヒラヒラさせる。

 

「俺の名前はアレックス。」

 

そう言って人懐こい笑みを浮かべる。よく見れば兄と年齢も近いようだ。

 

「ロサラよ。」

 

良い名前、とアレックスは笑ったが直に真面目な顔でロサラに向き直る。

 

「どうなってるんだ、この町は?誰1人居ないし、それにこの霧は・・・」

 

改めて問われるとロサラは困窮してしまう。自分にも分からない事だらけだ。

 

「分からないの。私も今朝起きたらこんな風になっていて。今までこんな事なかったのに。」

 

手すりに寄りかかりもう一度トルーカ湖を眺める。霧の海は相変わらず何も答えてくれない。

 

「君は・・・どうしてこの霧の中を?」

 

詮索好きというよりは会話を途絶えさせたく無い口調でアレックスが尋ねる。

 

「私は・・・兄さんを探して、今朝迎えに来てくれる筈だったのに何所にも居なくて。」

 

口に出すと朝からの疲労が重く圧し掛かる気がした。

 

「だからって、この霧の中を。それに、あんなバケモノだってウロウロしているのに。」

 

「平気よ。私強いもの。」

 

強がりだとバレていてもロサラは笑って銃を構え直す。

 

内心アレックスの一言で安堵していた。本当はサイレントヒルは霧に覆われてなどいなくてまるで夢遊病者の様にロサラ一人だけ誰も町に居ないと思い込んで今まで彷徨っていたのではないかと不安を抱いていたのだ。

 

 

「アレックスはどうしてサイレントヒルに?」

 

「えっ?」

 

今度はアレックスが驚いた様な顔をした。

 

彼がこの町の外から来たような言い方だったからそう聞いたのだが違ったのだろうか。

 

「あぁ・・・その、彼女の見舞いに来たのだけれど。この霧で迷って・・車はハイウェイパーキングに止めた途端に動かなくなるし・・・・」

 

そう言うアレックスはどこか遠い所を見ている気がした。

 

「病院・・・かぁ。」

 

サイレントヒルにはロサラが入院していた病院以外にも幾つかあった筈だ。その内の何所なのだろうか。

 

「そうだ。私地図を持っているからあげるわ。それを見れば・・・」

 

困った時はお互い様だ。先程の事のお詫びもかねてロサラは地図をアレックスに差し出す。

 

「でも、君はどうするんだ?」

 

「私は町の入り口の方を目指すわ。兄さんの会社がそこにあるから。」

 

ここからなら道なりに行けば地図が無くても迷わない筈だ。

 

ロサラは心配無いと言った素振りをして見せたがアレックスは地図を受け取るのを躊躇っている様に見えた。

 

「待った。俺も一緒に行くよ。」

 

少し考えた後に頷いたアレックスはそう切り出した。

 

「えっ。でも・・・・」

 

病院はどれも町の中心に集中して建てられている。ロサラが向う方向とは違う。

 

「こんな危ない場所で女の子を1人にさせられないよ。」

 

そう言い首を傾げておどけるアレックスにロサラは笑い出してしまう。

 

「ありがとう。」

 

頼もしい道連れが出来た事と独りきりだった心細さから解放された安堵感からロサラは喜んでその申し入れを受け入れた。

 

 

 

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