意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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横浜騒乱編23

「最近、調子はどないですか?」

僕は、いつものように明るく振る舞っている小野遥さんに話し掛けた。彼女は、何の事かわからない素振りをしてみせた。すっかり諜報員が板について来た。知っているのに知らんぷり!なぜ?なぜ?なぜなの?これは基本の技術だ。

 

「河原くん。カウンセリングをするのは、私ですよ」

小野さんは、あざとくならないくらいの上目遣いとアヒル口になった。上手くなっている!これなら男の子なんてイチコロよ〜てかぁ?ついでに言うと二つの胸の膨らみは何でも可能にする武器なのだ!

 

あ、そんなの関係ねェ!僕には。なのですぐに本題に突入する。

 

「司波くんとは、うまく行ってます?」

 

小野さん、椅子から転げ落ちそうになった。

 

 そこは本当に転げ落ちるのが桂文枝一門の芸風だ。元々は「新婚さんいらっしゃい!」というTV番組で桂三枝(その頃は三枝と名乗っていた。)が偶然押されて椅子ごと転倒してしまった時に大いにウケた。

 

それ以来ゲストの新婚の旦那さんのふがいない受け答えに突っ込みを入れる代わりに六代 桂文枝師匠が椅子ごと転がるようになったのだ。その芸は今も継承されており、転がる椅子も代が変わるごとに更新されより安全に転がりやすく改良されている。

 

新婚さんいらっしゃい!は、100年以上続く超長寿番組だったのだ。今司会をされているのは九代 桂文枝である。

 

小野さんは、まだ修行が足りないようだ。素人に突っ込みを入れるのは好ましくないが公安関係者なら構わないはずだ。

 

「言いにくい事は、本人に直接頼んだらええんですよ。『あなたの事をもっと知りたいの。女の子だもん!』とか」

 

「ちょっ」

何か言おうとして小野さんは言葉に詰まった。耳がみるみる赤くなって行く。

 

えっ?図星!司波くんは、関わる女性を皆んな自分に惚れさせる天然ジゴロだね。藤林さんも半落ちみたいだし。

 

「自分の手に負えない男は初めて。だから惹かれるのかなぁ。でもあの子は危険。でも上司は探れ!ハニトラ上等なんて言うし」

と、彼女の心に映り行く由無し事をそこはかとなく言い付って差し上げた。

 

小野さんの顔は、赤から青になった。怪しうこそ物狂ほしけれ。アルカリブルー6b?それは青から赤だった。

 

顔色を元に戻して小野さんが、質問で反撃してきた。なんて中和滴定な方だ。

 

「ところで、河原くん。何の相談なのかなぁ?」

小野さんは、心を見透かされたのをスルーして対抗したのだ。こうなれば酸化度を調べてやろう。

 

「言いにくいけど、小野先生を誘うかどうか今迷ってます」

僕は、年上の女性に告白せんとして一念発起したが、本人を目の前にしてデートの誘いをなかなか言い出せない純情でウブな男子学生の「心」にして言った。つまり、「本当に」そうなって言ったのだ。

 

「へっ?」

思わぬ攻撃を受けた小野さんは、動揺して心臓が定格心拍数を超えた。過負荷か?もう絶縁破壊したか?

 

「いやぁ、安宿先生も誘ったんですけど」

 

「一体、何の話をしているの?」

 

「戦争の誘いですよ!他に何かあります?」

 

「は?は—————————あ!」

 

「小野先生の戦闘力はあまり期待してませんが、何なら兵器を貸しましょか?」

 

「何を言ってるの?そんなのダメです!」

 

「百山校長の承諾もちゃんと得てますよ」

邪魔したら、外患誘致罪で刑事告発すると言ったら快く承諾してくれたのだ。うちの校長は、一高内部に敵工作員がいるのを知っていて放置しているので、訴訟を起こされると相当まずい立場に追い込まれるのだ。

 

仮に外患罪を免れても資産凍結は免れない。テロ三法のおかげだ。

 

いわゆるテロ対策三法案の正式名称は以下の通り。

・犯罪による収益の移転防止に関する法律の一部を改正する法律

・国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結などに関する特別処置法

・公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律

 

「どうせ公にできない仕事で横浜に行くんでしょう?だったら兵器持参でお願いしますよ!」

 

「ちょっと、何するつもりなの?」

 

「日本を敵の攻撃から守るだけですよ。参加するしないはあなたの心に問うて決断して下さい」

 

『けだし隻手の声とは如何なることぞとならば、即今両手打ち合わせて打つ時は丁々として声あり、唯だ隻手を挙ぐる時は音もなく香もなし』

 

小野さんは、僕が何を言っているかわからない顔をしているが、彼女の心はわかったようだ。

 

「こんな感じで隻手の声を聞ける。よう見とき」

 

僕は、座禅の姿勢と太極拳の立禅の姿勢を彼女に示した。

 

「どちらでも好きな方をやったらええ」

 

「これがホンマの公安禅」

 

「はぁ⤵︎」

小野さんのテンションは下がった。最期のダジャレは、全くの蛇足だった。ダジャレ落ちは、竹取物語の頃からの我が国の話独特の話の終わらせ方の一つだ。当時の方々には大ウケだったのかも知れないが、今はかなり微妙だ。

 

ちなみに正しくは『公案』だ。

 

禅宗において雲水が修行するための課題として、老師(師匠)から与えられる問題である。

 

日本では昔から1千7百則とも言われ、法身、機関、言詮、難透などに大別されるが、その他に様々な課題がある。ほとんどがいわゆる「禅問答」的な、にわかに要領を得ず、解答があるかすら不明なものである。有名な公案として「隻手の声」、「狗子仏性」、「祖師西来意」などがある。

 

隻手の声

 

両手を叩くと音がする。では片手の音とはなんだろう。

 

べつに大した意味はない。片手の音を聴けば良いだけのことだ。聞こえるまで聴け!錬金術にも同じ修行がある。鋼とか武装になれるかわからないが、アルケミストにはなれる。早い人は、その場で聴けるようになる。遅い人でも3カ月もあればできるだろう。とりあえず、半年やっても出来ない人は、出版社に連絡してくれてたら良い。対策を教えよう。

 

では狗子仏性は?

 

狗子仏性(くしぶっしょう)は、禅の代表的な公案のひとつ。『無門関』第1則、『従容録』第18則では「趙州狗子」。「趙州無字」とも言う。

 

概要

 

一人の僧が趙州和尚に問う。

 

「狗子に還って仏性有りや無しや」(大意:犬にも仏性があるでしょうか?)。

 

趙州和尚は「無」と答えた。

 

これを巡る公案である。

 

仏性は全てにあると仏教では教えている。特にどんな生物にも本来備わっているはずなのに趙州和尚は何故に「無」と答えたのか?

 

この後わかった様なわからないような解説が延々とされていたりするのだが、こんなどうでも問答を内弟子は行っていると自慢気に100年前は語っていたのだ!今でもこのレベルだと考えただけでゾッとする。今はもっと進歩していると信じたい。

 

これも簡単な話で、実際にそこら辺の犬に「あんた、仏になれるんか?」と訊けば良いだけなのだ。

 

「なるつもりや!」

犬が答えた。

 

「犬やで、無理やろ!そもそもなんで犬に転生したん?スライムよりマシか?」

 

「前世でやらかして犬まで落とされた。一発逆転に協力してくれ!恩は返す」

犬が必死で訴える。犬がどんな恩を返せるのか期待はできないがこれも何かの縁だ飼うことにした。

 

 ちなみに人から動物に転生するのはほとんど考えられない例外は象くらいだそうだ。象に尋ねたことがないので確信を持って答えられないが。それなのに、犬まで落とされたとなるとこれは相当酷いことをしたのだろう。機会を見付けて聞き出してみよう。

 

てな具合だ。簡単だろ?間違ってもバウリンガルでやったりするなよ!

 

 

 

 

 


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