意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
今から三十五年前、第三次世界大戦、またの名を二十年世界群発戦争の後期、対馬は大亜連合高麗自治区軍の攻撃を受け、住民の七割が殺された。
その後の我国の対応は最悪だった。事実上、報復をしなかったのだ。大亜の政治工作が効いたからだ。
これは言うと不味いかも知れないが、頭の良い読者なら薄々気付いているので書いておこう。先ずは簡単な年表だ。
2060年 大亜細亜連合高麗自治区軍が日本の対馬に侵攻した。
2062年 四葉真夜が大漢の崑崙方院に拉致され、3日後に救助される。
2063年 崑崙方院が壊滅する。(四葉の報復による)
2064年 大漢が内部崩壊し大亜細亜連合に併合される。
誰が一番得をしただろうか?いうまでもなく大亜連合だ。
2045年に勃発した20年世界群発戦争(第三次世界大戦)は2065年に終結した。そのどさくさに、いつのまにか大亜連合が中国大陸を制覇した事になっていたのだ。大国との本格的な武力衝突無しにだ。
同じことを第二次世界大戦で中国共産党が成功している。中国共産党は日本軍はおろかその他の列強と一切の戦闘無しに第二次世界大戦の戦勝国になってしまっている。
したがって、こう考えられる。
対馬へ高麗自治区人を焚き付け支援し侵攻させ、崑崙法院に四葉真矢夜を拉致させ四葉の復讐を側面支援したのは大亜連合であり、第三次世界大戦(?)も戦勝国ではないにせよ、敗戦国にはならない政治工作に成功したと。
とはいえ、中国市場は日米欧に握られている。大亜連合の工作は国内市場を海外勢にある程度支配される代償を払っていたのだ。フリーランチはない!
さて、今回の横浜事変。
多くの人が何故こんなバカな侵略作戦を大亜が実行したのか理解できない。しかし、1982年のアルゼンチンのフォークランド紛争、1979年のソビエト連邦が軍事介入、1989年に撤退したアフガ二スタン侵攻、1990年に発生したイラクのクウェート侵攻なども当時はその動機がハッキリしなかったが、百年近くたって今は明らかになっている。要は利権つまり金に困っただけだ。
戦勝国に収まった大亜連合だが、国内市場を海外勢に抑えられている。それを打開する為の作戦の一環に対馬侵攻や横浜侵攻がある。ただそれは、泣き言に過ぎない。我国は、第二次世界大戦の敗戦で国内市場だけでなく有りとあらゆるものを戦勝国に抑えられた。しかし、時間をかけて金を払って一つづつ取り返して来た。
日本国憲法を改正した後も交戦権を振り回して他所の国のものを武力で強奪しなかった。だから、他の国も同じようにやれとは言わない。ただ戦争は復讐法が適用される。やったらやり返されるのが自然なのだ。いや、掟なのだ。
侵攻を受けた対馬はその後要塞化された。それだけで、日本が済ませると考えていたら大間違いである。
司波くんはムーバルスーツを身に着けたままの姿で「サードアイ」を手に、要塞化された対馬の第一観測室の全天スクリーンの真ん中に立った。
僕の前世がフラッシュバックする。悟りの門の前に立ち門が開き始めた時の経験だ。
……
私の「彼女と結婚してあげたい」気持ちはやがて「結婚したい」と若干変わる。しかしその変化によって上丹田から発するエネルギーが増えた。若干違う真言なのだが、その効果はかなり違った。しばらくすると下丹田のほうのエネルギーを活性化させていた「時間が欲しい」とする大願とそれは1つになっていった。そして、それが「小説を書こう」と言う強い意志になった。
丹田が確実に動き出すのもわかるようになった。とぐろ巻いていた竜が動き出すような感じだ。本格的な始動はまだ起きなかったが。
仏はすべて同じ誓願を持つ。これを総願という。具体的には四弘誓願(しぐぜいがん)を指す。菩提心(ぼだいしん)と呼ばれるものも、これと同義である。
たとえば、薬師如来の十二願は「一切衆生の苦悩を除き、一切の病患を除かん」というものであり、阿弥陀如来の四十八願は、法蔵菩薩の時に立てて成就したものであり「念仏の衆生を救いとげん」との誓願である。
私の本願と薬師如来や阿弥陀如来のそれとは、あまりにスケールが違い過ぎるように見えるが、千里の道も一歩からとは正にこの事だった。彼女との結婚に向けて具体的な行動を開始すると請願の内容が深化して行った。薬師如来や阿弥陀如来のそれに少しづつ近くなって行くのだった。
……
『マテリアルバースト、発動します』
風間さんの命令を復唱し、司波くんはサードアイの引き金を引いた。
アインシュタインの特殊相対性理論により発見されたE=mC²。
わずか1キログラムにも満たない質量が熱と光のエネルギーに転換される。その熱量はTNT(トリニトロトルエン)換算20メガトン。
過剰な光量に、スパイ衛星の安全装置が作動しスクリーンがブラックアウト。
巨済要塞の向こう側に位置する鎮海軍港出で撃準備を整えつつあった10隻近くの大型艦船とその倍を上回る駆逐艦・水雷艇の艦隊は、全滅、いや、消滅した。
若い士官の中には、トイレに駆け込んだものもいた。
灼熱のハロウィン。
後世の歴史家は、この日、2095年10月31日のことを、そう呼ぶかも知れない。
それは、軍事史の転換点であり、歴史の転換点とも見做されるだろう。
それは、機械兵器とABC兵器に対する、魔法の優越を決定づけた事件として。
魔法こそが勝敗を決する力だと、明らかにした出来事として。
それは、魔法師という種族の、栄光と苦難の歴史の、真の始まりの日になるであろう。
表の世界では。
しかし、内実は異なる。この日、我国は世界史上初めて軍事上世界一の米国に並んだ。
魔法と機械兵器のハイブリッド使用とC級あるいはB級魔法師の組み合わせによる戦略級魔法師と同レベルの事象改変を可能にしたからだ。
そして、もう一つ重大な事があった。
軍の命令とは言え、司波くんはまた自分の請願をはたした。「愛する妹を煩わすものを排除する」だ。ただし、これからも、彼の愛する妹を煩わすものは次々と現れてくる。
その都度、請願ははたされ深化して行く。一方、煩わすものに対処するだけでは問題を解決するには至らないと早晩司波くんは気付くだろう。敵は次第に強敵になり、ついには国家を敵に回すことになるからだ。
彼の請願はやがて、「この世界から戦争を無くす」とするスケールの大きいものになる。それは、薬師如来の「一切衆生の苦悩を除き、一切の病患を除かん」というものや、阿弥陀如来の「念仏の衆生を救いとげん」との誓願と本質的に並ぶものである。
司波くんは遅かれ早かれ悟りを開いて菩薩にありやがて仏にまで到達するだろう。それしか、愛する妹を守る方法がないからだ。
対馬要塞や九州北部沿岸に影響を与える竜巻や津波は観測されなかった。巨済島が防波堤の役割になったのだ。
作戦は無事終了した。
「全員、帰投準備に入れ!」
風間さんの命令を受けて、柳さんが撤収を命じた。
司波くんはサードアイを床に下した。
フルフェイスのヘルメットから一瞬垣間見えた彼の瞳には、わずかばかりの動揺も存在しなかった。
僕は、ほっとした。
もし、彼がサードアイを発動し損ねたら海底に潜む藤掛・渡辺に攻撃命令を出さなければならなった。(しつこいようだが、命令は彼等の上官が下す。僕は彼等が躊躇しないメンテルケア担当だ。)さすがの司波くんも一日に二発のマテリアルバーストを使用するのは難しいと予想していたからだ。それは、杞憂だった。
請願をはたすと請願は深化し、使えるエネルギーは増大する。僕の前世でも経験したことだったが、司波くんも例外ではなかった。
親鸞聖人伝絵ー御伝鈔に学ぶー 高松信英・野田晋 東本願寺出版部
親鸞が聖徳太子が阿弥陀如来であると明言するようになった出来事が書いてある。南無阿弥陀仏と念仏を唱えるだけで極楽浄土に生まれられると親鸞が直覚した出来事も書いてある。