意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
「 … …なあ、何で今朝はこんなに早いんだ? 」
不機嫌な声で、西城くんが訊ねる。
「いよいよ今週一週間だからな。朝から色々と予定が入っているんだ 」
現在の時刻は、いつもより一時間以上早い。
「レオの方こそ、どうしてなんだ ?」
僕は危うく吹き出しそうになった。
「エリカも今朝は随分早起きね?」
この兄妹、意外に良く似ている。特にその性格が。
「 … …あたしは大抵、早起きだけど」
そこで、千葉さんに妙案が浮かんだ。ここでも話題を大胆転換出来ると。
「師匠は、どうしてこんなに早いのよ!」
千葉さんそれでは自然な話題転換にはならないぞ。まあ、いいか。その流れに乗ってあげよう。
「カウンタースイング!」
たたたたったたーん!効果音を共に四次元ポケットから取り出しはしなかったが、僕はバックから改良型1を取り出した。ちなみにキャビネットで振り回したのは改良型3だった。
西城くんも千葉さんの思い付いた妙案に気付いた。
「それそれ!師匠さっきの練習させてくれよ」
西城くんは、僕の手から改良型を引ったくり素振りをし始めた。
カチカチ、カチカチ、カチカチ、カチカチ、音が連続で二回なる。失敗素振りだ。
「何やってんの!全然ダメじゃない。貸してごらんなさいよ」
千葉さんがいつもの溌剌とした調子で西城くんをからかう。
「師匠。レオがやっているのは柳生と示現と千葉流か?」
「そうや」
僕は、改良型の説明も司波くんにした。
一方で、千葉さんの西城くんへの指導は、本格化している。通学路で。どうやら昼は道場で技を磨き夜は寝床で…運動会?墓場でだったけ?
「千葉さん。西城くんがイマイチなんは重心を間違えてるからや」
「「へっ?」」
日本人は、重心を意図するとき西洋人、もっと言えば大陸人よりも若干低い位置を意識する傾向にある。
「関元*やない。気海*を意識するんや!」
『気海』
その文字通り「気」の海。
気海の「気」は、東洋医学で言う「先天の気」と言って生まれながらに持っている生命力の「気」。
生まれながら持つ気が多く集まるところという意味です。
『関元』
「関」は関所、重要な場所。
「元」は元気の意味。
臍下丹田(さいかたんでん)にあり、元気の生まれるところで全身の臓腑(ぞうふ)・経絡(けいらく)の根本でもあることからも関元と呼ばれています。
*気海と関元をあわせて「丹田」と呼ばれることもあります。
なんて説明される事が多い。日本人はこれでもあまり支障を感じなかったりするが(本当はある!)西城くんのように思い切り西欧人体型な人には動きにくさがよりひどくなる。
「サッカーボールを蹴る時は、どちらを意識した方がやりやすい?」
僕は、西城くんの関元と気海を触って場所を教えた。両方とも臍と前陰の間にある。彼はボールを蹴る動作を試した。納得したらしい。動きやすい位置を確認してすぐに素振りをする。
カチ。カチ。カチ。
「めっちゃええやん!」
「素人目でも今のは良かったと思うぞ」
素人は、素振りでを見ただけで柳生とか示現とか千葉流とかわかんないよ。司波くん。
「こいつが、師匠みたいにちゃんと触って教えてくれていたら」
「レオのバカ───!」
千葉さんが、真っ赤になって早足で校舎に向かって歩いて行った。
「何、怒ってんだ?」
「とりあえず、追いかけて『オレにはお前が必要だ』と言ったれ」
「考えておくぜ。Danke!」
西城くんは、爽やかに千葉さんを追いかけて行った。
「Bitte.」
「師匠。チョッと質問だが良いか?」
「ドイツ語は、挨拶程度しかできへん」
「師匠が、見本の素振りを見せた時、師匠の身体を軸が移動したように感じたがあれが体軸なのか?」
司波くんにドイツ語ネタはスルーされた。しかし、体軸の移動は見逃さなかった。
「そうや!さすがは深雪さんのお兄様や」
自分のことのように照れている妹を一瞥して司波くんが質問を続ける。
「この前視せててくれた技術とは違うものなのだな」
「そうや」
僕は、太極拳の型を披露した。呉氏の短い套路だ。
「ここで、軸が右から左に移動や」
発勁!単鞭の。
「わかった?」
「ああ。でも、良いのか?師匠。門派の秘密とかに関わらないのか?」
「オレがかまへん。と言ったからエエんや」
その一言で、司波くんは僕の正体を理解できた。後ろに控えている深雪嬢は少し拗ねている。完全に置いてきぼりになっているからだ。
「後から、お兄様に手取り足取り詳しく教えてもらい」
司波さんは、顔を赤らめてわずかに身悶えした。一体何を想像しているのだ。
「それと司波くん。九重にも言うてもエエよ」
司波くんは、驚いていた。他人の目にわからない程度に。
九重八雲レベルは、日本国内では最高峰なのかも知れないが、舞台を世界に移すと「入門したばかり?」に過ぎない。点穴が奥の手では、本気で笑われてしまう。いや、心配されてしまう。
ただ、誤解のないように書いておくが、小成と言えども神へ至る道を歩んでいるのは間違いない。祝福された魂を侮るのは神のルール違反だ。
◇◇◇
「太極拳の練習の最中に天から天使達が舞い降りてくるのが見えた気がしたんです」
「そりゃあ凄いわ!先天の世界と少しつながったんや」
白石くんは照れていた。いやマジで白石くん凄いよ。でも太極拳で天使とは…まぁ、公開されている情報通りの現象が起きる方が実際には珍しい。
ただ、次回の練習で天使が見えるかはわからない。おそらく見えない。大抵一過性の現象なのだ。なので、見えなくなっても気にするなとフォローしておこう。
僕等が朝練を済まして教室に戻って来ると、何か不穏な雰囲気が漂っている。
「……」
「……」
「……」
千葉さん、司波さん、司波くんが無言で睨み合っている。というか睨みつけているのは千葉さんで司波兄妹は何食わぬ顔をしていた。その周りを柴田さんと吉田くんがグルグルと回ってる。西城くんは我関せずを決め込んでいる。
僕も、何食わぬ顔で鉄火場に凸った。
「司波くん、さっきの体軸の続きや。あの軸は天心と地心につながっとる。軸に沿って動ければ時光を超えられる」
「司波さん、見えんかったらできへん理屈はない。お兄様の出来ることは、司波さんも出来るようになる。絆や。二人の絆が助けてくれる」
「千葉さん。西城くんはバリバリのゲルマン民族体形や。教える時は、欧米人に教えるつもりで教えたらええ。重心は高め、丹田も高い位置。ゲルマン民族大移動や!」
目をパチパチさせている三人から離れて、僕は西城くんの所に移動した。
「プレゼントや。必殺技は、数稽古で習得するもんやない」
僕は、カウンタースイング改良型を西城くんに手渡した。
次に唖然としている柴田さんに
「決して崩れる事のないジェリコの壁が守られたかは、自分の骨盤・股関節とアスカのそれらを水晶眼で見分けたれ!」
「君は、ミズキ、柴田さんに何を言ってるんだ!」
「これは、模擬戦で十文字元会頭をぐらつかせた吉田のミキくんではあ〜りませんか!How are you?」
「僕の名前は吉田幹比古だ」
「噛みまひた!」(≧∀≦)
全くウケなかったが、今日は仕方ない。存在が薄い日なので調子はイマイチなのだ。
◇◇◇
さて、横浜有事まであと一週間となった。本日は、ゴルゴ13第581話無音潜水艦で有名になった神龍にお邪魔している…等と書いた原稿のチェックをしていたら、藤林さんから連絡が入った。夜更けに何の用事だ。
「あなた、一体どういうつもり?」
随分、砕けた感じの物言いだ。彼女と僕に何かあっただろうか?
「外患誘致罪等の刑事告発状と懲戒請求申し立て書が巷で多量に作成されているのよ!」
「それのどこが問題なんです?犯罪と思ったら誰でも告発できるはずです。懲戒請求も弁護士法に同じように書かれているはずですが」
「その大半が、あなたの知り合いかあなたの書いている小説の読者なの!」