TS転生してまさかのサブヒロインに。   作:まさきたま(サンキューカッス)

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R-18版はアルト視点になります。


「淫夢!!」

 アルトに抱きすくめられ、どれだけの時間がたっただろうか。一瞬のようにも思える。1時間はこのままだったかのようにも思える。

 

 オレは、今、全身を押さえつけられている。筋肉質な腕に、鍛え上げられた体幹に、射貫くようなその眼光に、あらゆる行動を封殺されている。両手を胸の前で繋ぎ、仰向けで神に祈るような姿勢のまま、オレは固まってしまっていた。脳内は、疑問符が湧き出ては沈み、膨れては萎む。

 

 一体、何が起こった!? なんで、どうして、こうなった!?

 

 真剣な奴の目をまともに見れない。せいいっぱい顔を逸らしても、アルトの視線は外れない。

 

 感じる。何か、強い意志で、オレを押さえつけているのを感じる。

 

 この膠着状態は、いつまで続くのだろうか。オレはいつまでこの男に、こんな状態で拘束され続けねばならないのか。

 

 だがこの均衡は、直ぐに崩れ落ちた。

 

 奴が、動いた。いや、元々この状況では奴しか動けなかったのだけれど。

 

「・・・ッ!」

 

 アルトは何の断りもなく、無言でオレの大腿部を撫で上げた。ぞくり、と悪寒が背筋を走る。

 

 奴の息が、どんどん荒くなってきた。奴の手が、少しずつ乗降してくる。どんどん、オレのアレへ向かって進んでいく。

 

 どうしよう、オレはこのまま昨日の様にヤられるのか? また、凌辱が始まるのか? 嫌だ! 二度とごめんだ、あんな屈辱は!

 

 ・・・噛みついてやる。それ以上手を進めてみろ、お前の鼻っ柱を嚙み千切ってやる。覚悟しろよこの色情魔。勝てないまでも、せめて一矢報いてやる・・・。

 

 

 

 すり、すり。

 

 

 

 ところがアルトの手は、太腿の付け根で止まったのだった。それ以上、進んでこない。ポタリ、と汗がオレの頬を打つ。横目で見ると、アルトの顔は、大丈夫かというくらい真っ青だった。

 

 よく見るとオレの肩を押さえる腕は震えているし、下半身に置かれた手先は既に汗でビッショリだった。アルトの手は、ひんやりと冷たい。

 

 ・・・ふむ、さてはビビッてるのか、アルトの奴。昨夜はあんなに傍若無人だった癖して、今更になってチキってやがる。まったく、情け無い奴だ。

 

 いくら待っても、手は先へは進まない。そのまま太腿を撫でられ続けるだけだ。少し、くすぐったい。

 

 ははん。コイツ、さてはテンパってやがるな。

 

 オレは奴の惨状を前に、少し余裕が持てるようになった。絶体絶命な状況ではあるけれど、アルトより精神的に優位に立てるのは気分がいい。

 

 さて、次はどうするんだ? とうとう、ヤバイ所に手をやるつもりか? 迂闊にもアルトは、オレの肩を抱いてはいれど腕を押さえてはいない。両手はフリーだ。

 

 さあ来やがれ、渾身のビンタをお見舞いしてやる。

 

 

 

 

 ぐい。

 

 

 

 

 突然に頬を撫でられ、オレの目の前には先程まで思いっきり張り倒すつもりだった(アルト)の顔が現れた。

 

 アルトが手を伸ばしたのは、オレの顎。心の準備も無く顔面を向き合わされ、迂闊にもオレは思考を一時的に止めてしまった。

 

───近い。

 

 ちょ、待って。何でコイツ、今日に限ってこんなに的確に揺さぶりかけてくるの? 実は女慣れしてるんじゃねぇか、コイツ!?

 

 息がかかり合う距離。

 

 蛇に睨まれた、蛙。

 

 まな板の、鯉。

 

 ああ、駄目だこれ。どうしようもないじゃないか。

 

「・・・いいな?」

 

 奴は真顔で、そんなとんでもない事を問う。

 

 ・・・良い訳があるか!? 頼むからここから逃がしてくれ! 

 

────止めろ、オレを見るな。

 

 肩を掴まれている。体は覆いかぶさられている。顔は吐息のかかる距離。

 

 何かを期待した表情のアルト。乱れた呼吸音。顎を掴まれ、外せない視線。

 

 

 

 

 

 

────何故か、オレは、頷いていた。

 

 

 おい、何をやってるんだオレは。馬鹿じゃねぇの。意味が分からない。何頷いているんだ、この妙な空気に流されたんだろうか? ああ、そういえばオレってば前世(むかし)からせがまれると断れない性質(タチ)だっけ───

 

「分かった。行くぞ、フィオ。」

「・・・。」

 

 もう、自分で自分の考えていることが分からない。奴の顔が近づく。思わず、目を閉じる。そして、

 

 

────唇を奪われた。舌を入れたりとかは無かったけれど、数秒間はタップリと吸われた。唾液の糸が引かれ、オレの頸を冷たく刺激した。

 

 そう言えば、昨日はキスとか無かったな。これ、ファーストキスか。

 

 奴がオレを抱きすくめている間に、オレはぼんやり、そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、コイツが何なのかよくわからない。

 

 気が付いた時には、丸裸になっていた。いつの間に脱がされたのか、覚えていない。

 

 気が付いた時には、体が熱く火照っているし、頬が真っ赤に上気していた。

 

 初夜の時が嘘みたいに、快感しかない。コイツ、鈍感糞野郎だと思っていたが、こりゃ童貞じゃねーな。流石に上手すぎる。コノヤロー、女に興味ないふりして、コッソリやることはやってるんじゃねーか畜生め。

 

────脚が、大きく跳ねる。

 

 ・・・あ。今、凄い声出したな、オレ。こんな声出せるのか、初めて聞いたぞ。

 

 なんだコレ、何も考えられない。今、何をされてるかもわからない。体が自分のモノじゃないみたいに跳ね回っているのだけが、分かる。どんな体勢で、どんな顔をしているんだろうか、オレは。奴に、どんな景色を見せてしまっているんだろう。

 

 ああ、ああ。堕ちていく。これは、抗えない。

 

 そして、物凄い快感と共に背筋がピンと跳ねて、そのままオレの意識が飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、朝日が照り付ける。まどろみと光彩が安い宿の相部屋に混ざり合い、心地よい朝を演出した。

 

「・・・はっ! なんだ、ただの淫夢か。」

 

 オレはいつものように、起床時間にスッキリと目を覚ました。寝起きがいいのが、オレの自慢の一つなのだ。

 

 それにしても、随分と悪い夢を見たものだ。本当、妙に生々しい夢だったな。心なしか、身体が暑苦しい。風邪でも引いて、熱でうなされたのだろうか。ボディチェック、ボディチェック。風邪ならちゃちゃっと治さなきゃな。

 

 もぞり。暑苦しくオレを圧迫してる何かが、動いた。何だ? 野良犬でも潜り込んできたか?

 

 

 

 

────いや、違う。オレってば、誰かに抱き着いてない?

 

 

 

 

 

 

 ・・・バシーーン。

 

 心地よい朝に、少女の悲鳴と気持ちいい炸裂音が響き渡る。

 

 覚醒したオレは混乱の極致で、布一枚身に着けず抱き着いてしまっていたその男を、全力で張り倒したのだった。 

 

 汚い小さなその民宿に居た全員が、少女の悲鳴と叫び声で昨夜に何があったのかを理解したという。

 

 




次回、更新は3日後の6/18の17:00です。
記載ミスで17日になっていました。
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