TS転生してまさかのサブヒロインに。   作:まさきたま(サンキューカッス)

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「吹雪?」

「大事な話が有るんだ、アルト。悪いが、俺に時間をくれねぇか。」

 

 それは、フィオ達が依頼から帰って来て早々の事だった。快活剛胆を体現している天下無双の槍使い、俺の頼れる仲間のバーディが、何時になく真剣な面持ちで俺の肩を掴み頭を下げた。ひどく、思い詰めている様子でだ。

 

「それは、急ぎの話なのか。」

「出来れば、今日中に話をしておきたい。」

「・・・分かった。今夜は、開けておこう。」

 

 彼がココまで真剣な表情になったのは、先々週の俺達パーティの連携訓練の話以来である。普段は羽目を外す事が多くとも、大切な事ならば誰より真剣に話すこの男。無碍には、出来ない。

 

 ・・・本音を言えば。旅を終え王都に戻って来た恋人(フィオ)に早く会って、クリハを呼んだ時のデートの無作法を謝罪しておきたかったのだが。

 

 今夜は、仕方ないだろう。仲間の危機が、自らの色恋より優先なのは当然なのだ。

 

 今日の所はフィオに口頭で謝罪して、後日にゆっくりデートに誘うとしよう。最近の俺は、フィオに迫ってばかりだったな。次はゆったりと、フィオに任務の疲れを癒してもらえるようなデートプランを考えておこう。

 

「・・・おい、アルト。聞いてるのか?」

「え、あ。すまない、上の空だった、何の話だったか?」

 

 む、いかん。可愛いフィオの事を考えていると、ついつい目の前を疎かにしてしまう。こんな様ではフィオに笑われる。

 

 自重だ、自重。

 

「はぁ、今夜の話だよ。ゼア・グロッセ・ブラスタ。俺達が集まる店の名前だ、覚えたな? 夕刻8時に予約を入れとく。出来れば誰にも見られず、来てほしい。」

「ああ、分かった。場所は?」

「このチラシをもっておけ。地図も載ってる、迷うなよ。じゃあ、また今夜。」

「ああ。」

 

 バーディは俺に小さな紙きれを渡し、そのまま暗い表情で鍛錬場に向かっていった。今から、兵士達との合同訓練の筈であるのだが、あの様で指導など出来るのだろうか。

 

 こつん、と何も無いところでバーディがよろめく。

 

 重症だ。あの男が、あんなにも覇気が無い姿を晒したことなど今までなかった。これは、気を引き締めて夜の相談に臨まなければならない。

 

 ヤツの渡してきた紙切れに書かれた地図を頭に入れながら。俺もバーディと別れ、割り振られた兵士との合同訓練に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・アルト、ヤった女から責任取らずに済む方法を教えてくれぇ・・・。」

「帰って良いか?」

 

 夕刻8時。約束の時間。

 

 店に向かう途中嫌に客引きに合うし、約束の店が嫌に派手な装飾の店でとても嫌な予感はしていたのだが。

 

 まさか、呼び出されたのが前世でいう所のキャバクラだとは思わなかった。セクシーな衣装を着た娘たちが、俺にその豊満な身体を摺り寄せてくる。

 

 ・・・香水の匂いがキツイ。ああ、何でこんな事に。

 

「何だよぅアルト! お前まで俺を見捨てるって言うのかよ!」

「見捨てない理由があるか。誰を押し倒したのか知らないが、ヤった事には責任をきっちりとだな・・・。」

「覚えてないんだよ! 酒に酔い潰れて前後不覚になってだな、気付いたらお互い全裸で寝てたんだぞ、そんなんで責任なんかとれるかよ!!」

「・・・いや、取れよ。明らかにヤってるじゃないか。」

 

 ああ。フィオとのデートを先延ばしにして、俺はここで一体何をやってるのだろうか。と言うか、あんなに覇気が無かった原因は好みじゃ無い女性をヤった後悔なのか。コイツ、ここでぶっ殺してやろうか。

 

「酒だってそんなに飲んでなかったはずなのに! 糞、旅の疲れなのか? 異様に酒が回るのが早くてだな、うぅぅ。」

「なら、今回の任務中の話なのか。」

「そうだよ、畜生。なんで俺が貧乳の責任なんぞ・・・!」

 

 ・・・待て。

 

 今回の旅に同行した、女性だと? しかも貧乳で、バーディと、仲が良かった女性って・・・?

 

「オイコラ貴様ぁ! 誰に手を出したか言え! 言え、早く!」

「オア!? や、止めろ頸が閉まってる、は、放せアルトォォォ!!」

「言えバーディ。貴様、誰に手を出した!!」

「クリハだよ!! あのメイドの!!」

 

 ・・・そういえば、今回の旅にはあのメイドも同行していたのだったか。なんだ、そっちなら何も問題ないな。

 

「なんだ、なら初めからそうと言え。」

「ゲホ、ゲホ。何だっつぅんだよアルト───あ、そっか。お前さんフィオ狙いだっつってたな。」

「まぁ、そういう事だ。」

「はぁ、まだ諦めてなかったのかお前。無理無理、アイツが男に靡くとか想像も出来ん。」

「・・・そうか。」

 

 もう、俺と恋仲なんだがな。まぁ、今はそれを語るまい。

 

「ヘーイ、バーディサン。ズイブン元気、ナイネー?」

「来てくれたかジェニファー!! 傷付いた俺を、君の胸で慰めてくれぇー!!」

「HAHAHA! バーディサンは甘えん坊サンネー!」

 

 宴もたけなわ、店の奥から出て来た異様に彫りが深い、爆乳の女性がバーディの隣に腰を落とす。彼女はそのままバーディに抱きつかれ、快活に笑っていた。

 

 ・・・大の男が、若い娘の胸に顔を埋め、泣きつく様は筆舌に尽くしがたい見苦しさだ。バーディめ、誰かに慰めて欲しいならジェニファーさんとやらで良かったんじゃ無いか。俺がここに居る意味はあるのか?

 

 ああ。本当に何をやってるんだろう、俺。今すぐにフィオに会いたい。フィオに癒されたい。

 

「ソコの、格好いいオニーサンも、ズイブンションボリネー?」

「・・・ああ。自分の存在意義について、悩んでいるんだ。」

「オーゥ、それはイケマセンネー。ソレは誰シモ、一度はマヨウ事でショー。ケレド、誰にも必要とサレナイ人間はイマセーン。元気、出してクダサーイ。」

 

 ジェニファーさんは優しい目で、盛大に俺を慰めてくれた。いや、そうだけれどそうじゃない。

 

「何だよアルト、俺からジェニファーまで奪うのか!? お前はもうモッテモテなんだから自前で我慢しろ畜生め!」

「いや、その。なんだ、俺が今悩んでいる原因はお前なんだが。」

「うるっせー! あんなに4人からチヤホヤされてる男に、モテない俺の気持ちが分かるか!」

「本当に面倒くさいな、この男。」

 

 要するに、バーディは自分のヤやらした事の責任を取りたくないと、愚痴る相手が欲しかっただけなのか。

 

「喧嘩は、良くないデース。ジェニファーは、皆のジェニファー。リピートアフタミー?」

「ジェニファーは皆のジェニファー・・・。うおお! ジェニファーちゃーん!」

「HAHAHA! お触りは、NOデスよ?」

 

 ・・・バーディの奴、ジェニファーが来て随分と機嫌がよくなったな。俺、要らないだろコレ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーディはその後も最低な事を愚痴り、泣きつき、飲み続けた。ジェニファーは流石と言うべきか、そんなどうしようも無い(バーディ)の話をうんうんと頷いて慰めている。奴をぶん殴らないプロ意識が、凄い。

 

 いつしか、酔い潰れたバーディは机に突っ伏して呻いていた。彼の周囲には、高価そうなワインの瓶が散乱している。

 

 これは、かなりの金額になるんじゃ無かろうか。まさか、俺も半分払うのだろうか。やっていられない。

 

 ・・・嗚呼、早くフィオに会って謝りたい。

 

「アルトサン、トッテモ難しい顔、シテマスネー。何か、悩みが有るナラ、聞きマスヨー」

「ジェニファー・・・。」

 

 悩みと言うか、疲れというか。フィオに会いに行きたいというか。

 

 ああ、そうだ。どうせ金をとられてしまうなら、少しでも利を得る行動をとらねば勿体ない。せっかく、バーディの奴も酔い潰れている事だ。パーティの誰にも相談できないし、彼女にフィオについて相談してみようか。

 

「その、ジェニファーさん。怒らせてしまった恋人に対して、1番誠意ある謝り方は、何でしょうか。」

「ンー? ハハァ、アナタにはキュートなガールフレンドが居るのですネー。ツマリ、アナタがウッカリ、ハニーを怒らせてシマって、今トッテモ悩んデル。オーライ、オーライ。」

 

 俺の相談を受けたジェニファーは、ニカリと白い歯を光らせ、グッと親指を立てた。

 

「謝るヨリ、喜ばせマショー。サプライズ・デートで彼女のハートを取り戻しテ、ソコでグッと彼女を胸に抱イテ、情熱的に謝リナガラ、ベッドに誘う。これで、万事オッケーよ!」

「いや・・・、彼女はベッドがあまり好きじゃ無い。と言うか、この前怒らせたのは調子に乗って迫ったからなんだ。」

「オーゥ、シット! それはダメネー。無理矢理迫るの、1番良くナイ。ソンなんじゃ、百年の恋も冷メチャウヨー。」

「ウッ・・・。ですよね、なら俺はどうしたら良いだろう?」

「紳士的に、信用を取り戻すマデ、彼女をエスコートするノデース。王国の、お姫様を扱うヨーニ、彼女を大事にシテアゲマショー。彼女の機嫌が直ってカラ、次からは更に紳士的にアプローチして、ベッドに優シク、誘うと良いデース。」

 

 女性(フィオ)への対応は、やはり女性(ジェニファー)に従った方が良いのだろう。今後、丁寧に紳士的にフィオに接して、失った信用を取り戻していくしかないという事か。なら暫くは、我慢だな。

 

「そうか。ありがとう、ジェニファーさん。」

「ドウイタシマシテー。」

 

 そう言って彼女は、豪快にワインを煽り、笑顔になった。ジェニファーは、凄くパワフルな女性の様だ。笑顔がまぶしい。

 

 彼女の笑顔は、確かに他人もつられて笑顔にしそうな、そんな明るさを持っている。その笑顔をもってこの店で、彼は疲れた冒険者たちを癒しているのだろう。だが、俺は個人的にもう少し慎ましい笑い方をする女性の方が好ましいな。

 

 少し、照れながら。ニシシと口元を曲げ、甘えたように身体を寄せてくる、フィオの笑顔が頭に浮かぶ。本当に、フィオに惚れ込んでしまっているな俺は。隣に居るのがフィオなら、どれだけ今日は幸せだったか。

 

「ヘイ、ホールドミー!」

 

 最近ほとんど会えていない恋人に想いを馳せていると。ジェニファーは、豊満なバストを惜しげ無く広げ、腕を開き唐突に俺の前に現れた。

 

「え、えっと、その。」

「彼女に、謝ル元気、分けてアゲマース。ハグミー、ドーユゥアンダスタン?」

「えっと、その。俺には、恋人が居て・・・。」

「ノンノン、ハグは、挨拶。カモン、腕を開きっパナシはシンドイデース。」

「え、ああ。」

 

 ふむ、挨拶ならば仕方ない。彼女に急かされるまま、俺は体を預けジェニファーに胸いっぱい抱き締められた。

 

 その豊満な弾力はまさに宇宙的な神秘を秘めた超新星爆発であり、俺が今まで体験したことの無い理想郷(アルカディア)へと誘う扉であった。

 

 顔にピッタリと吸い付いて、形を変えズブズブと肉の中に埋もれていく感触。母体の中のような温もりと、男の下半身をくすぐる刺激が混ざり合い、弾け飛ぶ。

 

 まさに、ビックバン。

 

 ・・・そうか。これが、巨乳か。これが、女性の胸か!

 

 

「────っ、ぷはっ!!」

「オーウ、少し元気出た顔になったネー。アルトサン、グッドラック! 私は、応援シテマスヨー。」

 

 凄まじい、体験だった。俺は、目の前で微笑むジェニファーと、その胸を。

 

 取り敢えず、両手を合わせ無言で拝んでおいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。

 

 

 結局、酒の入っていた俺はその後もジェニファーさんにフィオの相談を続け、気付けば朝になるまで話し込んでしまった。

 

 目を覚ましたバーディと、お会計の紙を見て目玉が飛びててしまったが、中々に良い経験が出来たと思う。

 

 水商売といえば、あまり良い印象は無かったけれど。毎日毎日、疲れた人間の心を癒すと言うのは並大抵の精神力では出来ない。彼女達は、少なくとも目の前に居る人を救っている。だからこそ、商売が成り立つのだ。

 

 もう来ることは無いだろうが、良い社会経験になったと思っておこう。

 

 

「ふぃー、財布がスッカラカンだぜ。アルト、お前さんが夜通し嬢に付き合わせるなんて意外だな。背負って帰って貰おうと思ってお前を呼んだんだが。」

「2度とそんな目的で俺を付き合わせるな。まぁ、良い社会勉強になったから今回は良しとしておこう。」

「プックク、まさかアルトがキャバにハマるとはな。次からあそこに行く時は、声かけるようにするぜ。」

「いや、結構。確かに良い経験になったが、1度経験すれば十分だ。もう行くことは無いだろう。」

「照れるなって、ボンヤリとだが一応見てたんだぜ? お前がジェニファーちゃんに・・・」

 

 

「なぁバーディ、何を見てたんだって?」

 

 

 バーディと並び。アジトへと戻る道すがら。

 

 俺が聞きたくて堪らなかった、愛しい少女の声がした。

 

 

「うお、フィオか。珍しいな、こんな朝っぱらから。」

「ん? まぁな、ちょっと野暮用でな。それよりお前ら、珍しい組み合わせだが何処に行ってたんだ?」

「昨日お前も誘っただろうが、ゼア・グロッセ・ブラスタだよ。愛しのジェニファーちゃんに、久々に会いに行ったんだ。相変わらず、すんごい爆乳だったぜ!」

 

 

 ・・・。

 

「ふぅん、珍しいな。アルトも行ったのか、ゼア・グロッセ・ブラスタ。」

「ああ。コイツ案外楽しんでた様だぞ? 俺が寝た後、夜通し飲んでたみたいだし。朝起きたらさ、アルトがジェニファーちゃんに膝枕して貰ってて流石にキレそうだったわ、わはは。」

 

 

 あれ? 確か、俺は、フィオに2度とそう言う店に行くなと、懇願したんだったよな。

 

 なるほど。ソレで、昨日フィオは、バーディの誘いを断ったのか。

 

 

 

 

 チラリと、目が合う。愛しい、恋人と。

 

 

 

 

 無邪気な笑顔で人懐っこくバーディに微笑む、金髪を揺らす純白の少女。

 

 その彼女の瞳だけは、ブリザードが吹き荒れる荒野の如く、冷徹で無感情な眼だった。




次回更新日は9月2日です。

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