TS転生してまさかのサブヒロインに。   作:まさきたま(サンキューカッス)

37 / 61
※本話には怪電波が飛んでいる恐れがあります。すかさず目を滑らせて、即座に読み飛ばすことをお勧めいたします。


「鼓動?」

「全く、フィオも来れば良かったのによ! 昨夜のジェニファーちゃんは、かなりの大サービスでおっぱい祭りだったんだぜ!」

「あはは、惜しいことをしたな。昨夜はちょっと用事があってな。」 

「お前、最近ソレばっかだな。バイトか?」

「そんなとこだよ。」

 

 

 フィオが、バーディと、表面的にはいつも通りに楽しく会話している。だが、その内心はどうなのかなんて見ただけでは想像もつかない。フィオはまさしく、普段のまま自然な態度で俺達と笑っていた。

 

 ────俺には分かる。勇者の勘と言うのだろうか、今世の俺には悪いことが起こりそうな時に、前もってソレを察してしまう能力があるらしい。

 

 今、まさに。俺の頭にはアラートがけたたましく鳴り響いていた。恐らく今、ここの対処を誤れば取り返しのつかない事になるだろう。

 

 

「あー、フィ、フィオ? こ、これはだな。」

「何だ? アルト。」

 

 

 ああ、その仕草はいつもの彼女だ。

 

 不敵な笑顔のフィオのその目。にやりと歪めたその口元。だというのに、彼女から湧きだすこの底冷えする冷徹さはなんだ。

 

 何故バーディは、気付かないのか。彼女の所作は間違いなく平時のものだが、この凍てつくような瞳の奥の揺らめきは尋常なモノでは無い。

 

 この俺の頭が凍り付いて、二の句が継げない。もしかしたら魔王より怖いかもしれない。駄目だ、馬鹿な事を考えていないで何かを言わないと、今度こそフィオに愛想を尽かされる。

 

「アルトがテンパってやがる、凄いウケる。大丈夫だってアルト君、俺もフィオもこの事を言い触らしたりしねぇよ? ケケケ、お前の出す袖の下次第だけどな。」

 

 黙ってろバーディ。もう、1番知られたら不味い女性(ヒト)に知られているんだよ。

 

「それより聞かせてくれよバーディ、お前さ、何か面白いモノ見たんだろ?」

「ああ、半分寝てたがハッキリ見たぞ、すげぇ爆笑映像を。あのアルトがよ、ジェニファーちゃんの爆乳に顔を埋めてさ、物凄い鼻の下伸ばしながらハグされてたんだぜ。ソレだけでも十分に笑えるってのに、コイツ、その後目の前の巨乳を有難そうに手を合わせて拝みだしたんだ! 巨乳を崇める謎宗教に入信でもしたのか!? ブハハハ!」

「アッハハハ! 何だソレ!」

 

 

 ・・・Oh、ジーザス。見られてしまっていたのか、アレを。くそ、ちゃんと意識が無いか確認しておくべきだった。

 

 ────あ、ヤバい。遂にフィオの表情が崩れてきた。あのフィオが、表面上ですら平静さを失いつつある。

 

 

「本当、ウケるだろオイ? ガハハハ・・・。ん、あれ、どうかしたかフィオ?」

「ハハハ・・・ハハ、ハハ。」

 

 

 フィオの笑い声が、徐々に萎んでいく。と、同時に顔が俯き、笑顔が消える。

 

 ぺたぺた。口元を噛みしめながら、自らの慎ましい胸を触るフィオ。

 

 違う、聞いてくれ、誤解だ。何とかソレを伝えようとして、俺の口だけは魚のようにパクパクと開くが、肝心の言葉が何一つ出て来ない。頭が真っ白で、次の句が継げない。

 

 ────ヤバい、ヤバい、ヤバい。

 

「ハ、ハ、ハ・・・。」

「・・・フィオ、どうしたお前、なんか様子が───」

 

 落ち着け、考えるな、行動しろ。言葉が出て来ないなら、態度で示せば良い。動け、動け俺の身体!

 

 俺は即座に、フィオに向かい合ってその場に正座をし、そのまま地面にぶつかる程の勢いで顔を激しく擦りつけた。

 

「は、は、ふ。・・・ふぇぇぇぇん、バカァァァァ!!」

「え、ちょ、フィオ!? 何で泣き出して、て、えええ!?」

「本当に、申し訳ありませんでした!!」

 

 あたふたと、右往左往するバーディ。

 

 足の指まで見事な左右対称性(シンメトリー)を形成し、深く土下座する俺。

 

 大声を上げ立ち尽くし、子供のようにわんわんと泣き出すフィオ。

 

 

 

 此処が早朝の人気の無い道で良かった。昼間なら大騒ぎになっていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拝むなよ・・・、拝むなよ、馬鹿じゃ無いのかお前。そんなに不満だったか? あんなに好き勝手してた癖に、ずっと内心で物足りないなーとか思ってたのか? 言えよ、だったらそう言えよ、そんな当てつけみたいなことしないでさ。」

「誤解だ。違うんだ。俺が愛しているのはお前だけで、ジェニファーに関しては、その、相談に乗って貰っただけなんだ。」

「お前は相談する度に乳に顔を埋めるのか?」

「その、アレは、ハグで、挨拶みたいなモノで、その。」

「うっさいバカ。良いよ、分かってるよ、デカい方が良いもんな。オレだって気持ち分かるもん。だよな、それが正直なお前の気持ちだもんな。」

「本当に違うんだ。俺が好きなのは、お前で、フィオだけで、その。ゆ、許してくれ、この通りだ。」

 

 平身低頭。

 

 場から完全に置いてけぼりになったバーディの存在を無視し、俺はひたすらにフィオに詫びていた。

 

 俺は馬鹿じゃ無いのか。昨日、酒が入っていたとは言え、一体何をやっているんだ? なぜ乳を拝んだ? フィオの言うとおり、馬鹿じゃ無いのか。

 

「言えよ、本当は嫌なんだろオレと付き合うの。ヤった責任取ってるだけなんだろ? 良いよ、そんな気持ちで付き合わなくても。」

「聞いてくれ、俺が愛しているのはお前だけなんだ。どうか、幾らでも謝るから、俺を捨てないでくれ。」 

「ふん、どーだか。どうせ、オレのことを体の良い性処理道具とでも思ってるんだろ。デートの度にさ、それはそれは嬉しそうに好き放題しやがってさ。」

「うう、申し開きも無い。だが、信じてくれフィオ、本当にお前だけが────」

「無理、しなくて、良いんだって、オレ、分かってたし、どうせ、そんな、オチだって、その、その、」

 

 フィオはいつしか、大粒の涙を溢し始めその場にへたり込んでしまった。これは、イカン。

 

 胸が、軋む。心が、痛い。どうして俺は、フィオをこんなに悲しませているんだ? 俺はフィオと付き合って、こんな顔をさせたかったのか?

 

 ────違うだろ。彼女が一番可愛いのは、笑顔の時だ。

 

 

「頼む、聞いてくれフィオ。今から、俺がどれだけお前を愛しているかを語るから。心の底の、素直な俺の気持ちを全て吐露するから。だから、どうか、泣き止んでくれ。」

「何だよ、ほっといてくれよ、お前さ、そもそも本当にオレ一人だけなのか───」

「フィオの碧い瞳は、ライトブルーに輝く母なる大海原をも見劣らせる、まさに美の象徴だ。」

「・・・は? 何だ、いきなり────」

 

 フィオは落ち着く気配が無い。ならば、もう俺に出来ることは───

 

 両手を広げる。身に着けていた甲冑をガシャンと落とし、身軽になった俺はトントンとつま先でリズムを取り、剣の鞘で地面に落ちた甲冑を軽快に叩き、音楽を奏でだす。そう、俺に出来る事とは、

 

 ───愛を唄う、これしか無い!!

 

 

 ・・・フィオに、伝えるんだ。俺の、本心を、思いの丈を、この誰にも負ける気がしない全力の愛を! 全て包み隠さず、ここで曝け出してやる!

 

 

 

 

 

フィオを称える賛頌歌

作詞・作曲 アルト

 

フィオの碧い瞳は

ライトブルーに輝く

母なる大海原をも見劣らせる

まさに美の象徴だ

 

フィオの金色に靡く髪は

月明かりを思わせるその切なさと

太陽のようなフィオの笑顔を想起する

まさに明の象徴だ

 

フィオの慎ましい胸は

本質的な奥ゆかしさが表出し

連なる山脈、遠く及ばず

まさに優の象徴だ

 

ああ、俺は知っている

フィオの幼さに隠れたその美貌を

フィオの人を勇気づける明るさを

フィオの溌剌さに潜むその優しさを

 

ああ、俺は耐えられない

フィオと会えぬ寂寥に

フィオの哀しいその顔に

フィオの居ない世界など

俺には考えられないのだ

 

~間奏~

 

フィオの華奢なその腕は

多くの命をすくい上げてきた

降臨した女神の成す奇跡

まさに癒の象徴だ

 

フィオの柔らかなその足は

今まで踏みしめてきた戦場を────

 

 

 

 

「もう止めて!! 分かった! 分かったからいきなり謎ポエムを公道で垂れ流すな大馬鹿野郎!!」

 

 俺が、その場でノリノリに歌い始める事数分。いよいよ2番に入りかけた辺りで、フィオに両手で口を塞がれてしまった。

 

 2番以降の歌詞も、自信が有るのだが。

 

「何? 何なのその歌!? いつ作ったの、馬鹿じゃねぇの!?」

「フィオを称える歌だ。お前に信じてもらう為、俺が今ここで作り上げた愛の鼓動(ビート)だ。」

「いや、何で今歌を作ったんだよ! そして何でそれを今歌うという選択肢が出て来るんだよ!」

 

 フィオは顔を真っ赤にして怒っている。どうやら、俺渾身の1曲は彼女にイマイチ伝わらなかったようだ。やはり、付け焼刃のメロディでは信頼を取り戻せないという事か。俺の音楽に関わる才能の無さに、思わず絶望する。

 

「違うからな! その顔は勘違いしてる顔だ、別にお前の歌のセンスの話じゃ無いからな!? お前の謎行動に対してオレは文句言ってるからな?」

「なあ、フィオ、アルト。そろそろ状況を説明してくれ。話にまるで付いていけないのだが。」

「うるせぇバーディ、引っ込んでろ。これは、オレとアルトの間の問題でだな────」

「え。いや、だからお前ら、まさか付き合ってんの?」

 

 凄く今更な質問を、バーディが飛ばしてくる。

 

 ・・・まぁ、こんなにバーディの目の前で騒いだら、流石に俺達の関係もバレるわな。

 

「・・・あ、えっと、そのだな。あは、あはははは。」

「フィオ、諦めよう。俺のあの歌を聞かれてしまっては、最早誤魔化すのは無理だろう。」

「いやあの歌は、意味不明すぎて全然誤魔化せるポイントなんだが。むしろ、あー、しまった。オレのあの反応は言い訳出来んよなぁ。」

「否定しないのか? マジ? マジかよお前ら。」

「えっーとだな、ナ、ナハハハハ!」

 

 

 取り敢えず笑って誤魔化そうとしているフィオ、物凄い複雑な顔で俺達を交互に見つめるバーディ、そして歌った時の両手を広げたままのポーズで棒立ちしている俺。

 

 

 王都の街道は、朝っぱらから混沌としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、何だ。つまり・・・」

 

 結局俺はバーディに対し、前回俺とフィオが敗走した後、身を寄せ合うに至った経緯を説明する事になった。

 

 勿論フィオが恥を掻かぬよう、暗殺者(クリハ)の件は伏せて、フィオに告白した日は俺が暴走したことにしたけれど。

 

 そして、その後。俺は、泣き止んではくれたものの、未だ暗い表情のフィオを元気付けるため。今回と前回の件をしっかり謝った上で、改めてフィオをデートに誘う事に成功した。

 

 しかも隣にいたバーディに、デート当日は仲間たちを上手く誤魔化しておいて貰えるという確約も貰えた。今後も、それとなく俺達をフォローしてくれるとのこと。

 

 ・・・随分と頼りない協力者だな。あまりアテにはしないでおこう、女性関係で此奴はロクでもない奴だという事は昨夜の愚痴でよくわかっている。彼の助言は何の役にも立たないだろう。

 

 秘密だった俺達の関係を知る、一人の協力者を得て。フィオと俺の関係は、なんとか維持する事が出来たのだった。これ以上やらかしたら今度こそ愛想を尽かされそうだ、もっとフィオを大事にしよう。そう、心で決意した。




次回更新日は9月5日です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。