TS転生してまさかのサブヒロインに。   作:まさきたま(サンキューカッス)

42 / 61
「新技!」

 それは、本当に何となくとしか言いようのない、衝動的な行動だった。

 

「アルト、どうやらコボルト本隊は撤退していくみたいだ。追撃をかけるかい?」

「・・・必要ないだろう。深追いしても大した戦果にはならん、罠だったら目も当てられん。リスクと釣り合わない。」

 

 王都の北に位置する街に現れたという、コボルトの群れ。たった3人での遠征であったが、こいつらの殲滅にさほど時間はかからなかった。

 

 王都の王国軍本隊が俺達に随伴してくれていたので、俺の仕事は敵の将軍格の撃破のみで良かったからだ。コボルトリーダーは確かに動きが早く強かったけれど、魔法で足止めしてから一太刀に袈裟切りで葬れた。

 

 後は逃げ惑う雑兵の後始末である。追撃せず、周りに居るコボルト達を油断せず丁寧に葬っていたその時、俺の勘が告げた。

 

 ────フィオが傷つきそうな、そんな気がする。

 

 

 

 

 

 

「おい、アルト? どこ行くんだお前!」

「すまないバーディ、用事が出来た!! 後は任せる、すまないが戦後処理はルートと一緒にやっておいてくれ!」

「・・・うん? え、ちょっと、まさかアルトお前戦線離脱するの? じゃあ俺も戦後の書類仕事やるの!? 俺今日は帰りにボインな店を予約────」

「任せた!!」

「ちくしょおぉ!!」

 

 いつも戦場帰りは全力で仕事をサボるバーディに、今日は俺が全ての仕事を投げて。一心不乱に、俺の勘に従い日の沈む方向へ駆けだした。この方向は・・・確かフィオの故郷、王国不干渉のミクアル自治区域だったか。 

 

 こういった勘は、今世では何故か絶対に外れないのだ。きっと、フィオが困っているに違いない。ならば、俺が駆けつけない理由はない。

 

 風を切り、空を翔け。俺は一筋の矢の如く、彼女の元へと疾走して。

 

 そして、数十里は駆けただろうか。辿り着いた先に居た、血にまみれ、涙でくしゃくしゃになった顔のフィオを。俺は安心させるため、優しく抱きすくめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、フィオを困らせていた因縁深きオーク共を斬り倒し。

 

 なんとか笑顔になってくれたフィオをいつかのように背に抱いて、俺とミクアルの戦士達は悠々里へと帰還した。

 

 断崖絶壁のその上の、彼女の故郷の人々の出迎えの先に居たのは、息絶え絶えとなった巨漢だった。どうやらこの老人はフィオの父親らしい。

 

 彼の命脈はまさに尽きようとしており、フィオであっても助けられないと聞いた。そんな彼の最期の望みは、家族みんなとの大宴会だった。

 

 せっかくなので俺も、席を用意して貰いその宴会に参加させてもらった。愛するフィオの父親であるし、世のため人のために、自ら好んで戦い続けていると言うこの里の住人とも1度交流してみたかったのだ。

 

 ところが葬式が始まって間もなく、唐突に若い男にフィオを賭けた勝負を挑まれた。周りの雰囲気から宴会の余興の一種だと察する事が出来た俺は、場の空気を読んでいい感じの闘いを演じて見せた。

 

 いつまでも空気を読めない俺ではないのだ。

 

 ラントと言う青年は中々に盛り上げ上手であり、自分の斬撃孔に見事に下半身を嵌らしたり、俺の斬撃を躱しつつ見事にズボンだけ斬られパンツ姿になったりと実に素晴らしい面白芸を見せていた。きっと盛り上げ担当の宴会奉行なのだろう、ウチでいうとバーディの様な立ち位置に居る男か。即座に切り倒さなくて本当によかった。

 

 彼等にとって、きっと息絶えんとしているこの老人は特別な存在なのだろう。羞恥心をかなぐり捨て身体を張って、式を盛り上げようとするその心意気には脱帽だ。

 

「ねぇ。君はアルト君、って言うんだよね。」

 

 俺の斬擊の受け身をとった後、次はすっぽりと頭が地面にハマり、パンツ姿で頭を抜こうともがいている愉快なラント青年を感心しながら眺めていたその最中。たしかフィオがフィーユ姉と呼んでいた、フィオによく似た女性が話しかけてきた。

 

「初めまして。アルトと呼んでください。俺に姓は無いので。」

「ええ。初めまして、私はフィーユって呼んで頂戴。聞いたわよ、フィオに色々ヤったみたいじゃない。」

「・・・う、その。」

「良いの良いの。それくらいされないとあの娘、きっと男に転がる事なんかなかっただろうし。」

 

 フィオの姉であろうその女性は、悪戯っぽく愉快そうに笑った。

 

「隠せてるつもりなのかしらね、フィオったら凄い幸せそうな顔で貴方のこと話してたの。だから、私はあなたを信用してあげる。裏切ったら、この里全員敵に回すから注意しなさいね?」

「無論、彼女が泣いたなら俺の寝首を刎ねに来ても構いません。俺は絶対にフィオを離さない、彼女に全てを捧げる覚悟です。」

「・・・あらら。あの娘の彼氏にしては随分と真面目ねぇ。ま、不真面目よりは良いか。」

 

 少し変なものを見る目で、彼女は俺をニヤニヤと眺めながら俺の手を引っ張った。

 

「さて、村長がお呼びよ、アルト君。あの娘の父親だから、気合入れて話してきなさい。」

「・・・分かりました、フィーユさん。」

「因みに、私の旦那様でもあるから。面倒な事を言ってきたら呼んでね、私が叱ったげる。」 

「それは、助かります。では行ってきます。」

「うん、うん。」

 

 唐突な呼び出しだが、彼がフィオの父親と聞いているし納得出来る。死ぬ前に、俺と話をしておきたいのだろう。それにしても、随分若そうだったがフィーユさんは村長の奥さんなのか。成る程、それで俺を呼びに来てくれたんだな。

 

 うん? 確かフィーユさんはフィオの姉で、村長はフィオの父親だったような。

 

 ・・・あれ?

 

 

 

 

 

「貴様が、フィオの恋人だの?」

 

 目の前に居る、今にも命尽きようとしている大男。俺の考えが正しければ、実の娘に手を出した男でもある。

 

 フィオの姉に手を出してるってことはつまり、そういう事なのだろう。それとも、フィーユさんは連れ子なのか? いやまて、どっちにしろ娘に手を出してるじゃないか。

 

 ひょっとしてフィオも狙われているのじゃないか?

 

「初めまして、村長殿。フィオは渡しません。」

「お前がソレを言うのか。つまり、フィオをくださいじゃなく、既に奪っておると、そう言うのか。カカカ、それもよし!」

 

 何やら妙な納得をしている老人から、俺は警戒を解かない。死にかけとは言え、それにかこつけ何を要求してくるか分からないからだ。

 

「そう敵視するな、少年よ。別に反対などせんよ、あのフィオの様子を見てたらの。それに、なかなか強いらしいじゃないか。俺とも、腕比べしてもらいたかった。」

「・・・いえ、俺はまだまだ未熟者です。自らの研鑽の為にも、是非とも貴殿と手合わせがしたかった。」  

「ほほー! 成る程、その若さ、その練度でなお増長せず向上心を持つか。ああ、今代の勇者で1番の腕と聞いたが、納得だの。」

 

 老人は何かに納得した様に、俺を見ながらかすかに微笑む。そして少しだけ、寂しそうな顔になって、穏やかに話を続けた。

 

「フィオはの、案外視野が狭い。小局を見て最適解を出すことに長けるが、目先の人間を助けようとして大局を見失いがちなのだ。だから、アルト少年よ。俺の娘を、フィオを、どうかよろしく頼む。」

 

 その男は、微かにだが、はっきりと頭を下げた。フィオを貰い受ける立場の俺より先に、頭を下げさせてしまった。

 

 その老人の言葉は、紛れもなく純粋で、真摯なモノだ。大事な娘を他の男へ預ける、父親の目だった。

 

 ・・・また、俺は間違えてしまったようだ。先程まで、俺は何を考えてこの偉大な老人を疑っていたのか。嫉妬心に駆られ、なんと情け無い思考に陥っていたのか。

 

 自分の浅慮を、痛烈に恥じる。

 

「どうか、お任せください、義父上。あなたの御遺思は、このアルトが確かに承りました。例えどんな危機に陥っても、俺が彼女の障害を一太刀に叩き切って見せましょう。」

「うむ、うむ。君の言葉は虚が無く、実に気持ちが良いな。お前に任せたぞ、アルトとやら───」

 

 この時、確かに。俺とこの老人は、心の奥底で堅く繫がった。フィオを大事に思う、その心意気で互いに共鳴しあったのだ。

 

 そして、

 

 

「ところでの、フィオの●●●の具合はどうだったかの?」

 

 

 即時にその繋がりは断ち切れた。

 

 

「・・・ご老人?」

「まぁ、良いから照れずに付き合え。なかなか子宝に恵まれんかったでな、こういった話をしたことが無かったのだ。うむ、俺も娘の下世話な話というモノをしてみたいのよ。」

「いえ。その、申し訳ないのですが遠慮します。」

 

 躊躇無く娘の●●●の具合を聞いてくる、この男。やはり、実の娘の●●●に興味がある変態なのだろうか。

 

「そう、良い子ぶるでないアルト。男同士、絶対に秘密は漏らさんよ。それに、ホラ。なんならフィーユの具合と好きな事と、色々教えてやるぞ?」

「結構です! そ、それはフィーユさんに悪いのでは無いかと。」

「構わん構わん。アイツ、人に見られるのが好きな女でな、たまに、外でヤるとそれはそれは昂ぶってだなぁ。」

「・・・そ、そんな風にはとても。」

「いや。アイツはな、何だかんだでかなり好き者よ。普段は飄々としておる癖に、ベッドの上では変貌して、そりゃあ何とも激しくて、のう。」

「ご、ごくり。」

 

 待て。俺は、何の話をしているのだ。

 

「そ、その辺りで話を終えませんか村長殿。」

「何じゃ、内心では興味津々の癖に。貴様、死にゆく老いぼれの我が儘に付き合う事すら出来ん、性根の冷たい男なのか?」

「え、いや、その。」

「ほれほれ、言ってみ? フィオの奴も、何だかんだベッドに乗ると変貌して大暴れするんじゃろ? どんな抱き方しとるんじゃ?」

「い、いえ。フィオは、彼女はその、凄くおとなしいですよ?」

 

 ぐ、しまった、迫られてつい喋ってしまった。フィオの性格を考えたら、こういった事を吹聴されるのは嫌だって分かりきってるのに。

 

 ところが、そんな俺の焦燥は、次の老人の一言で消し飛んでしまう。

 

「何ぃ? ・・・ふむ、つまりまだ遠慮されとるんだな、お前。心の底から信頼されとらんのじゃ無いか?」

「────なっ!?」

 

 俺が、フィオに信用されてない? そ、そんな。俺は心の底からフィオを愛しているし、フィオに対してやましい事は何もしてな────

 

 

 この間はデート開幕に、ベッド直行して嗜められ。ジェニファーさんの1件で、とても哀しい思いをさせ。挙句、お詫びのデートは仕事ですっぽかす。

 

 

 ────そう言えば今の俺って、フィオに何時捨てられてもおかしくなかったっけか。

 

 

 

 

 

「ど、どどどうしましょう村長殿。俺は、このままだと愛想を尽かされるかも・・・!?」

「カカカ、面白いのぅ。」

 

 もしフィオが、俺に対して元々大きな不信感を感じていて。その上で、俺があんなに色々とやらかしているのだとしたら。

 

 今のこの状況はもう破局秒読みでは無いか。不味い、不味いぞ。

 

「安心しろ、アルト少年。俺はお前が気に入った。それとなく、俺からお前を推しておいてやろう。」

「ほ、本当ですか。」

「その代わり、何だ。貴様とフィオの近況を聞いておかねばならん、さて、キリキリ話せ。的確にアドバイスしてやるから。」

「は、はい!」

 

 そんな風に諭されてしまっては仕方が無い。俺は、このやむを得ぬ事情により、村長殿へフィオとの情事をつまびらかに説明する運びになったのだった。

 

 話す事、数分。あの村の若者から伝授された伝説の大技“大車輪”に関しては、流石の村長も唸りを上げ感嘆してくれた。大車輪を現代にまで、正しい型で継承している男は少ないらしい。

 

 だが、同時にそれくらいしか俺の“奥義”が無いと知るや、彼の顔は一転して渋いモノとなった。

 

 如何に強力な体位であろうと、何度も繰り返してしまえば徐々にその力は失われていくのだ。だから常に、男は新しい刺激を求めて●●●の研鑽をせねばならないらしい。

 

「仕方ない男じゃの。よし、フィーユの様な小柄な女を抱くときの秘奥を、1つ口伝してやろうじゃないか。」

 

 そういって、フィオの父たる目の前の老人は、俺にとある必殺技を伝授してくれた。ミクアルの里に伝わる由緒正しい型の一つだそうだ。

 

 この奥義はある程度修行していないと大怪我をしてしまうそうだが、幸いにも俺の肉体なら耐えうるだろうと太鼓判を貰った。

 

「つまりだな・・・、───するじゃろ?」

「そ、そんなことが可能なのですか。」

「無論。お主ほどの性豪なら、俺のこの奥義を授けても惜しくは無い。」

 

 

 

 その老人の熱い信頼のこもった言葉に、思わず俺は涙を流して頭を垂れる。この老人の信頼に応える為にも、次のデートでフィオの気持ちを取り戻し、授かった新たな力を以てフィオを快楽の海に叩き落すことを決意したのだった。

 

 そんな、周りを気にせず夢中に語り合う、助平男二人の最低な猥談は。その話題の張本人たるフィオが此方に近付こうと立ち上がり、同じく話題の張本人たるフィーユの手によって留められ、奇跡的に事無きを得ていたコトを二人は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その夜。偉大な老人は逝去する。

 

 彼は家族に見守られる中、満足そうな笑顔をもってその生涯に幕を下ろした。葬式で流された涙の数が、その人間の人望を示すというならば、この男はどれだけ慕われていたのだろうか。

 

 そんな大英雄が俺に残した、その最期の言葉は。

 

「●●●を舐めるとき、キチンと股を開かせて羞恥心を煽るのだぞ、アルト少年。」

 

 

 

 俺の隣で号泣してるフィオにはとても話せない、卑猥で最悪な遺言だった。

 




次回更新日は9月22日です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。