TS転生してまさかのサブヒロインに。 作:まさきたま(サンキューカッス)
「駄目だ、このままではもう勝ち目がない。私は、私は諦める訳にはいかないのに。」
一人の少女の、悔しそうな呟きが深夜の個室に木霊する。
「約束の期限までアルトと会話禁止だと? そんなの、実質諦めろって事じゃ無いか・・・クソったれ! ルートの奴、悪魔みたいな罰則言い渡しやがって。」
先日、
因みにそのルート自身も既に裁かれた後だったりする。彼は罰として今後女装を禁止されてしまい、その判決にむしろ嬉々としていたとか。
「まだだ・・・。アルトと二人っきりの状況なら、アルトと何をしても分からない筈。だが恐らく、同じ手は何度も通じない、皆を出し抜けるチャンスは一度だ。その一度で、決めてやる。」
そして、青い髪の少女は決意した。元々、彼女には己が幸福のためならどんな手でも使う覚悟はある。
「何度も何度も、男は経験している。悦ばせ方も、愉しませ方も、全て熟知している私なら。一度でアルトを骨抜きにしてやれる、して見せる。」
汚れきった自分の、その半生で培った全てを使って、女の戦いに勝利する事を。
「問題は、アルトが同性愛者の可能性なのだが・・・。うん、よし。だったら逆にそれを利用してやればいい。」
暗闇の中、ニヤリ、と外道少女は独り笑う。
「アルトの童貞は・・・私が貰った!!」
くちゅん。
どっかの部屋で
結局、俺とマーミャの噂の件はすぐに終息した。すぐにマーミャ本人が実家に事情を説明し、その圧力をもって俺達の関係を訂正させたからだ。
噂を広めていたその元凶が、噂の火消しを行ったのだ。当然、迅速に事は進み、一連の騒動はその日のうちに終息した。
一部のゴシップ好きのメイドが未だにあれこれと噂をしているらしいが、俺とマーミャの関係についての信ぴょう性はほぼ無くなったと言っていい。これで、一件落着である。
まったく、最近のレイには困ったものだ。悪戯がどんどんと激しくなっている。どこかで叱った方が良いだろうか。
一応その日はルートに彼女の処遇を任せる事にして、約束通り俺はジェニファーの店に行って合流しへべれけに酔ったフィオのお守りを楽しんだ。
俺を見て嬉しそうに鼻歌を歌う彼女を愛でながら、その日はバーディ、ジェニファーを合わせ4人で飲み明かし、彼等と別れた後2人愛し合ったのだった。
その、翌日である。
「大変だ、アルト・・・。今朝起きたら、私にチ●コが生えてしまったんだ・・・っ!!」
昨日仕出かしてくれたばかりの俺の仲間、青髪の黒魔導士レイがとんでもない事になっていたのは。
「すまない、レイ。もう一度言ってくれないか? 何だって?」
「朝起きたらチ●コが生えてた。」
「は、え、ええ!? と、とにかく女の子が何度もそんな言葉を口にしちゃダメだ!」
「アルトが言えって言ったんじゃないか。」
朝っぱらから俺は、大混乱である。
今日は休日でフィオに贈り物でも買おうと町を探索していたその折。
たまたま出会った顔色の悪いレイが、開口一番にそんな意味不明の症状を俺に訴えて来た。生えるって、どう言うことだ。
「その、一応さっき町中の回復術師に診て貰った。フィオには恥ずかしくて相談できなくてな。」
「そ、それで?」
「魔力の強い女性にたまに起こる事だそうで、病気ではなく回復術が利かない。外科的に切り落とすくらいしか手はないそうだ。」
「は、はぁ。不思議な事はこの世にまだまだ溢れているんだなぁ・・・。」
だったらフィオにも生えたりするんだろうか? なんとか受け入れる覚悟は有るけど、正直ヤだなぁ。
「その、突然の事で私にもどうしたらいいか判断しきれなくて。アルト、少し相談に乗ってくれないか。こんなことを笑わず真面目に相談に乗ってくれそうなのはアルトしか思いつかないんだ。」
「ああ、分かった。俺で良ければ力になろう。」
話で聞いただけの俺ですら大混乱なんだ。朝目覚めた時にそんなモノが生えていた彼女の驚きの方が、遥かに凄まじいだろう。
「それじゃ、その、悪いがあまり人に聞かれたくない話なんでな・・・。」
レイは、少し恥じらった表情で、こう言った。
「二人きりになれる場所、いこっか。」
・・・その時、ピン、と。俺の中の嫌な予感センサーが何かを察知したけれど。
困っている仲間を放っておくという選択肢が取れなかった俺にはどうしようもなく、何が起こってもすぐに対応できるよう警戒心を最大限に持ちながら、魔道服を揺らして歩くレイについて行くのだった。
この、胸騒ぎは何なのだろうか。
「生えてないじゃないか!!」
「ははははは!! 今更気が付いても、もう遅いわ!!」
誰にも見られたくないから・・・、と言う彼女について行き、何故か逢引き宿に入る事になった俺は、部屋の中で全裸となったレイに襲い掛かられていた。
「くく、アルトォォ? どうだ、生の女体は。怖がらなくったっていいんだぞ? 男より女の方がずっとずっと気持ちが良いんだ。」
「レイ! いいから服を着ろ、服を!!」
「照れるな、照れるな! 良いんだ・・・、この私を好きに抱いていいんだ。どうだ、やや華奢とは言え私も出るところは出ている、女性としての機能は果たせる。」
「コラ、女の子がそう簡単にそういう誘いをしちゃいけません!!」
「そうはいっても顔は真っ赤だぞ、アル・・・、あれ? あんまり赤くないな。」
つまりは、これはまたしても彼女の悪戯だったのだろう。心配をして損をした。
にしても、コレは俺をからかっているのか、そう言った行為に対する彼女のモラルが低いのか。何にせよ、こう言う事を恥ずかしげも無く迫るのは良くない。
性行為と言うのは、愛した人間に対し同意を持って行うモノだ。昨日のフィオなんかは何でも受け入れてくれて正直たまらんかった・・・、じゃなくて。
特にそんなつもりの無い人間を騙して逢い引き宿に連れ込み、強引に迫るなど許してはいけない。
・・・フィオは、よく許してくれたなぁ。本当は俺に説教出来る資格は無いのだが、彼女の為にもココは心を鬼にして雷を落とそう。
「え、嘘? アルト、お前は今、結構冷静だったり? その、えーと、興奮してすら無い・・?」
・・・それに、最近のレイは少しやりすぎである。ココで叱ってあげるのも、彼女に対する愛情か。
俺は手加減しつつ、それでいて痛いように彼女の頭に拳骨を落とした。
「ふん!!」
「痛っ!? え、ちょ、私脱いでるぞ? 脱いでるのに何でそんなに冷静・・・?」
「座れ、レイ。最近のお前は、ちょっと悪戯が過ぎる。」
「・・・今、裸で、その。」
昨夜、俺はフィオに出し尽くしているのだ。今の俺の精神性は、もはや賢者と呼べるだろう。
・・・じゃ、無くて。説教だ、説教。
「良いから、正座。流石の俺も少し腹を立てているぞ、レイ。人の信頼を裏切るような真似は、何時かお前に跳ね返ってくると、あの時に言わなかったか? それを覚えてくれていないなら、俺は悲しいぞ。」
「え、あ、その。」
「正座は、どうした。」
「・・・ヒッ!」
少し睨みを利かせてやると、レイはビクンと怯えてその場で正座した。とはいえ全裸は目に毒だ、彼女に寝床に有った布をかけ、ユックリと説教を始める。
「そもそもだな。お前は昔から悪戯の加減が出来ていないのだ。マーミャの件もそうだし、以前の軍資金の着服だって────」
「・・・はい。」
よし、今日はみっちり叱ろう。
この後、3時間は彼女を正座させたまま、俺は滾々と彼女に道徳を説くのであった。
スラム出身とは言え、何時までもその場所の倫理観に縛られていてはいけない。俺達は、今いる場所の倫理観に適合し、生きていく必要がある。
結局。彼女の目が死んできた辺りで解放してあげたあたり、俺はまだまだ甘いのだろうけれど。
帰ってからはルートに任せて、もう一度説教が待っているのだから俺は多少甘くしてやっても良いのかな。
「・・・ほう。アルト、ありがとう。レイの奴、またやらかしたのか。」
「違うんだ、これは、その。」
「ふ、ふふふふふ。どんな厳罰がいいでしょうかねー、うふふふふふ。」
「・・・コイツは、そう言う奴だし。見張っておくべきだった、ごめんアルト。」
アジトに戻るとルートが居なかったので、女性陣3人に引き渡すと、それはそれは獰猛な笑みを浮かべて皆がレイを受け入れてくれた。
うん、皆レイの悪戯には辟易しているんだな。タップリ反省して貰おう。
「待て、それは何だ。やめろ、そんなモノ付けられたら・・・!」
「私の実家は貞淑な貴族だからな、こういったモノも渡されたりした。まさか他人に使う事になるとは思わなかったが。」
「鍵、誰が預かります?」
「・・・ウチ、持っておく。絶対に分からない場所に、置いておくし。」
「やめろ!! 待って、本当にそれだけは、それだけは!」
酷く怯え、許しを乞うレイ。うむうむ、反省してくれている様子で何よりだ。
・・・ところででマーミャが持っている、鍵付きの下着は何なのだろう?
「やめろォォォォ!!」
「アルト様は少し部屋から出ていてくださいねー。」
「おう、分かった。」
まぁいいや。気にしないでおこう。
少女は、街の喧騒の中を1人歩いていた。
その道の先には、彼女の目的地は無い。ただ、ボンヤリと歩みを進めているだけである。
「いや、あはは。まぁ、薄々そんな気はしてたんだが。」
金髪を揺らし歩くその白魔道士に話し掛ける人は居ない。誰かが、彼女に話し掛けられる雰囲気では無かったのだ。
「そっかー・・・。」
彼女は思い出す。コソコソと辺りを気にして、仲間の黒魔道士と2人逢い引き宿に入る、恋人の姿を。
呆然とその場に立ち尽くす事数時間、着衣の乱れた黒魔道士が、疲れた顔で恋人と宿から出て来る姿を。
「・・・。」
何かの間違いかもしれない。何かの誤解かもしれない。だったらいいな。
彼女は衝撃でシャットダウンした脳の片隅に、わずかに残った思考回路でそんな夢を見ながら、フラフラと明後日の方向へと歩き出していた。
1人、怯えながら。
「嫌だなぁ。知りたくなかったなぁ。でも、アイツ、格好いいもんな。そりゃそうだよ・・・。」
元々、そんな気はしていたのだ。でも、何時しか頭からそんな可能性は除外していた。自分だけの彼であって欲しいと、そう願ってしまったから。
もし、浮気をしてないかと、帰ってアルトに問い詰めたらどうなるだろう。
謝ってくれるのだろうか? 誤解だと、誤魔化すのだろうか? それとも────
『ああ、なんだフィオ、気付いちゃったか。じゃあもう良いよ、別れよう。』
あっさりと、捨てられてしまうのだろうか。
「あ、はは。どうして今、知っちゃうかなぁ。もう、遅いっつーの。」
彼女の身体は、アルトだけを覚えている。彼女の心も、既にアルトに預けきっている。
今更彼女に、アルト以外の選択肢は残っていない。
「成る程なぁ、こうやってハーレム維持してるんだなアイツ。感心するよ。」
この白魔導士は、元々視野が広い人間ではない。そんな彼女が、生まれて初めて男性に恋をして、更に視野は狭くなり。
すれ違いで始まった2人の恋模様は、更に混沌としていく。
次回更新は10月4日17時です。
これでやっと最終局面に入りました。