TS転生してまさかのサブヒロインに。   作:まさきたま(サンキューカッス)

49 / 61
「冒険?」

 流星の巫女の伝説を、詳しく紐解くと哀しい悲恋の物語なのは知っているか? お伽話では、流星の巫女が魔族をやっつけて、皆が幸せになって、めでたしめでたしで話は終わっている。

 

 めでたくなんて、あるものか。流星の巫女様は、はっきりと泣いておられた。愛する人と添い遂げられぬ我が身の不幸を嘆き、悲しんでいた。

 

 ゆめ、忘れるな。

 

 この魔法は決して万能では無い。一人の悲壮な覚悟を持って成し得た奇跡に他ならぬ。

 

 後世に伝えて欲しい。あの女性(ヒト)の想いを。無念を。慟哭を。

 

 初代の巫女様の、その献身を。人族の未来のため、いやきっと、愛した人に生きて貰うため。

 

 その身を捧げ、成し遂げた奇跡を。我らミクアルが、いつまでも伝承して行かねばならぬのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流星群を見た後、オレはアルトと別れて一人、アジトへゆっくり歩き出す。

 

 アジトに戻る時、念のため時間をおいてアルトと別々に帰る事にしたのだ。一緒に帰ったとこを目撃されたら修羅場勃発のリスクがある。

 

 何せ、アルトの奴は本来は今日オフであり、近場で修行をしている事になっているのだとか。Mr.ARTとか言う司会者は、アルトと別人として公的に扱われているらしい。意味が分からん。

 

 そんな理由でオレは謎の司会者ARTと別れ、一人アジトへ帰った。居間で駄弁っていたルートに軽く手を振り、私室へ戻り着替えを済ませる。

 

 今日はアルト、誰の部屋に行くのだろうか。いや、気にしちゃダメだ、オレはアルトが何処で何をしようと、ただただ信じる。信じて、騙されてあげる。それがオレの、唯一出来る自己防御だから。

 

 アルトの一番じゃなくたって、オレと居てくれている間だけ構ってくれればそれでいい。

 

 ああ、何だ。オレもフィーユの事を笑えなくなったなぁ。

 

 

「ただいま。」

 

 丁度着替え終わった頃、玄関でアルトの声がする。奴も帰ってきたようだ、だがオレは出迎えに行かない。

 

 今までもアルトが帰ったくらいでいちいち出迎えになんか行かなかったし、今頃玄関には4人娘が押しかけているはずだ。アイツらと一緒に居るのは少し辛い。

 

 

 フィーユ、そう言えば言ってたな。男は気が多いものだから、贅沢言っちゃいけないって。

 

 自分を大事に思ってくれるなら、他の人に目が行っても耐えてあげなさいって。

 

 ・・・辛いな、恋愛って。前世だと倫理観が違ったから、浮気に対してオレも文句を言いやすかったけど。今世は多妻の人も割かしいるもんなぁ。貴族とか殆どそうだし、ウチの村長もそうだし。

 

 もやもやするけど、郷に入りては郷に従えと言う。この世界がそういう倫理観なら、オレが我慢しないといけないのかね。

 

 ・・・よし、ワインでも飲んで寝るか。酒に逃げよう、そうしよう。バーディの買い置きならパクっても文句言われんだろ。

 

 そう考え、居間に出向きワインボトルを1本入手する。バーディの伝手で安く美味いワインが大量に入手できるので、わがアジトでは酒には困らないのだ。最も、好んで酒を飲むのはオレ、バーディ、レイくらいだけど。

 

 つまみも欲しいな、誰かの部屋にアテが無いか聞きに行こう。確かルートの部屋にまだ焼き菓子かチーズの在庫があったはず、ついでにルートにも女装してもらって肴にするか。

 

 女装したルートなら浮気じゃないし、アルトの機嫌も損ねないだろ。

 

 丁寧にラッピングされた旨そうなワインを握りしめ、オレはルートの部屋に向かう事にした。この胸にぽっかりと開いた寂寥を癒せるのは、可愛い女の子か女装したルート以外にあり得ない。

 

 そんなこんなでオレは適当に私服を見繕い、奴に着せるべく手に持ってプラプラと廊下を歩いていると。

 

 

 

「アルト、今日は僕に時間をくれないか?」

「む、分かったルート。シャワーを浴びたら、すぐお前の部屋に向かおう。」

「待ってるよ。」

 

 

 

 怪しい会話をする二人をたまたま目撃してしまう。シャワー・・・。

 

 ・・・あ、そっかぁ。今日はルートの日かぁ。

 

 

 

 知りたくなかった事を知ってしまったオレは、零れる涙を堪えながら、ひっそりと部屋に戻るのだった。

 

 ─────どっちが攻めなのかなぁ?

 

 

 

 

 

 

 空のワインボトルが、床に転がる。

 

「・・・ダメだぁ、頭がモヤモヤして、苛立ちが消えてくれねぇ。」

 

 アルトは、今何をしているのだろうか。

 

 ルートにキスでもしているのだろうか。

 

「────ヤだなぁ。でも、受け入れないと。」

 

 ルートは実際可愛いもんなぁ、オレから見てもそうだもん。ブツが生えてるのが不思議で仕方ない。

 

「・・・アルトォ。」

 

 眩暈がする。クラクラと精神を蝕む、ルートの顔。

 

 でも、この不快感に解決策なんて無い。何とかして、自分で心に折り合いを付けないと。

 

 せめて、何処かに吐き出してしまいたい。何かぶつけるモノが欲しい。そんな、八つ当たり的な思考に陥っているオレに、

 

 

 

 突如、天啓が舞い降りた。

 

 

 

「そうだ、あの手があるじゃないか。」

 

 何故忘れていたのか。似たような悩みを持った人間が身近にいたことを。ルート以外にも、ちゃんと頼れる仲間が居る事を。

 

 修道女(シスター)たる彼女なら、きっとオレの相談に真摯に応じてくれる。オレのこのモヤモヤを、全て受け止めてくれる。

 

 この時はワイン一瓶も飲んでいて、流石のオレも少し判断力が落ちていたのかもしれない。そのままオレは思い付きの通りに、ユリィの部屋に押しかけた。

 

 アレを、得るために。

 

 今思えば、とんだ愚行だが、この時のオレは全く自覚出来ず、ただユリィの部屋へ真っ直ぐ突き進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレに必要な道具である、紙と筆はユリィがたまたま持っていた。オレは、これ幸いとばかり貸してくれと頼み込み、無事に笑顔の彼女(ユリィ)から譲り受けることが出来た。

 

 ・・・そう、オレの悩みを打ち明けると、修道女たる彼女は優しく明るく受け止めてくれて。

 

 そして喜んでと、大切な宝物である“例のブツ”を貸し出してくれたのだ。

 

 オレの私室の机の上に置かれている、ユリィから借りたモノ。

 

 ────「ひと夏の淫夢・男色勇者編~アルト×バーディ~」

 

 

 

 

 まさか、またこの魔本を開くことになるとは思わなかったな。以前クリハはバーディの男色を受け止めるため、丹精込めてこの本を執筆したという。ならばオレも、同じ様に魔本を精製すればアルトとルートの情事を受け止められるのでは無いかと考えたのだ。

 

 ・・・とは言え、オレは今世でロクに絵を描いたことは無い。前世の引きニート時代に培った、パソコン作画の知識が有るだけだ。この世界の筆を用いた絵なんて描いたこと無い。

 

 だが、だからこそ。ジックリと満足いくまで作業に没頭し、それでこのモヤモヤを晴らす事が出来るのだろう。

 

 初めての同人活動。初めての薄い本作り。

 

 姿勢を正し、クリハ本(おてほん)を参考にしながら、オレの冒険(どうじん)は始まる。その日、オレは徹夜で寝ることを忘れ、夜が明けるまでルート×アルト本の精製に勤しむ事にした。

 

 やがて額には汗が滲み、指には墨がこびりつき、机には所々に墨の零れた痕跡が残る。そんな過酷な執筆環境の中、オレは実物(アレ)を思い出しながらカリカリと静かにアルトのブツをデッサンしていく。

 

 朝日が差し揉む時間、最後のスジを書き込む。そして、オレはやり遂げたのだった。

 

 目の前には、ルートの巨大なブツを頬を染め受け入れるアルトの絵。我ながら、渾身の作画だと思う。あまりの威力に吐き出しそうだ。

 

 最後の見開きにペン入れが終わり、作業が終了して。日が照りつける中、かすかな達成感と心地よい微睡みに誘われ、オレは机の上で意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルート、部屋に入るぞ。」

「うん。ゴメンね、夜遅く呼び出して。」

 

 ステージは終わり、プロデューサー兼司会としての仮面を脱ぎ捨てた俺は、何処か哀しそうなフィオと夜道を共にアジトへと帰った。

 

 フィオは、最近何処か寂しそうだ。父親が死んだ事を今になって感じだしたか、はたまた他に何か悩みがあるのか。無理に問いただすのは良くないが、だからと言って無視できない。

 

 ゆっくりと、話してくれるのを待つしか無い。

 

 

 フィオの事を気にかけつつもアジトへと戻ると、ルートは俺に話したいことか有るらしく、帰って早々に呼び出されてしまった。

 

 真剣な顔だった。バーディと違い、ルートの事だからきっととても重要な話なんだろう。

 

 

 

 

 

「その、結論から言うよ。魔王軍が動きを見せてる・・・いや、正確には明日から動きを見せるだろう。」

「本当か。」

「うん、精霊の占いだから信頼度は高いと思う。」

 

 ゴクリ、と唾を飲む。また、戦争が始まるのか。

 

「それと、何だか嫌な気配。強大な魔法の予兆かもしれない、魔力の渦を感じるよ。こっちも多分、明日。」

「魔王軍も遂に、全面攻勢に出て来た訳か。」

「その認識で良いと思う。この件は王様には報告してるよ。・・・ここからは、内緒の話。」

 

 ルートは声を落として、耳打ちするように俺の耳に囁いた。

 

「流星魔法かもしれないんだ、その魔法。」

「────何だと?」

「あの魔力の渦が魔法だとしたら、明らかに空に向けて放てる術式っぽい。あんな大規模で、空に向けて打つとしたら流星魔法(メテオ)位だと思う。────フィオには内緒にしておいてね。」

「む、何故だ?」

「ああ、アルトは知らないのか。フィオは流星の秘術の継承者なのさ。流星の巫女(フィオ)の扱う魔術は、流星魔法に対する最強のカウンターなんだよ。」

 

 ・・・いや、説明されるまでも無い。フィオのその立場については、既に知っている。ミクアルの里でその話は聞いていた。

 

「だったら尚更、話しておいた方が良くないか?」

「ただの憶測だからね。もし本当に流星魔法(メテオ)だったとしても、発動から隕石が引き寄せられるまで3日はかかる、慌てる必要は無い。」

「そうか。ではわざわざ内緒にしておく理由は?」

「────それだけどね、流星魔法の術者は・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重要な話を教えてくれたルートにお礼を言い、俺は部屋を出た。

 

 正直、オレは今とても戸惑っている。ルートから聞かされた話は、想像していた以上に深刻だった。流星の秘術にそんな秘密があったとは。成る程、フィオに聞かせられない話というのは納得だ。

 

 流星魔法であった場合はなるべく考慮せず、その他の大魔法の場合を想定して動いておこう。ただでさえ弱っているフィオに、これ以上負担はかけられない。

 

 ・・・彼女は、何を悩んでいるのか。俺では相談相手足りえないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その、翌朝。早朝、剣を振り鍛錬していた俺に、ゴミを見る目でクリハが話しかけてきた。王宮から呼び出しがかかったようだ。恐らく、何か魔王軍に動きがあったのだろう、ルートの予知通りに。

 

 身支度を整え、俺はフィオを起こすべく、彼女の私室へ向かった。流星魔法の話を彼女にしておくべきか、否か。俺にはその判断がつかなかったが、ルートの話を聞いて無性に彼女に会いたくなったのだ。朝起こしに行くことを口実に、フィオを愛でたいという下心もあったかもしれない。

 

 フィオの部屋をノックし、外から呼びかけてみる。中にフィオの気配はあるのだが、返事はない。おそらく眠っているのだろう。

 

「開けるぞ、フィオ。」

 

 朝から王宮へ呼び出しもかかっている。ここは体を揺すってでも起こしてやらねばならない。俺は彼女の部屋に入り、そして、

 

「おーいフィオ?」

 

 机の上で突っ伏しているフィオを見つけた。何か作業をしていたのであろうか、近づくと彼女の腕は黒く汚れ、机には本が置かれていた。

 

 きっと魔本の解読でもしていたのだろう。この世界の魔術書は難解で、読むだけでも精神をすり減らす。自分に必要な部分だけ解読しメモしていくのが、この世界の主な魔本の読破法なのだ。

 

 熱心だな、彼女は。昨日は疲れ果てていただろうに、研鑽を怠らないとは。そういえばレイの黒魔術書に興味があるって言ってたような、きっとその本を・・・。

 

 

 

 

 

『良いのか? 僕の股間の怪物が鎮まる頃には、君のケツに赤い薔薇が咲いているぞ?』

『大丈夫だルート・・・。俺のケツは強靭だ、安心してその男の娘キャノンを解放すると良い。』

 

 

 

 

 

 フィオの机の上の本をうっかり確認してしまった俺は、無言で部屋の外に出て、部屋の外から再びフィオに起きるように声をかけるのだった。

 

 ・・・腐ってても、フィオはフィオ。可愛い恋人だ、多少の欠点は受け止めてやろうじゃないか。俺だってフィオに邪な劣情を抱くんだ、フィオだって邪なことを考えていても気にしない。

 

 フィオの股間からアレが生えてくる現象よりずっとマシだ。頭にこびりついた自分であろう男の濃厚なプレイの絵を、記憶の彼方に消し去ろうと努力しながら、オレは部屋の外からフィオに声を掛け続けるのだった。




次回更新日は10月13日です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。