風が吹く。あなたは、その優しい風に撫でられた頬をさする。木々は揺れ、小鳥がさえずり、木漏れ日が未来への道を照らし出す。
風が吹く。なびく髪は魚のように宙を泳ぐ。走る足音は軽く、切れる息は薄く、その激しい鼓動はあなたの生命。
風が吹く。あなたを追う足音は、ただあなただけを求める。草をかきわけ、空気を押し分け、美しく、甘い匂いを追いかける。
風が吹く。あなたはつまずき、転んでしまう。思わず浮かんだなみだをふき、痛みに気づかないふりをして、駆ける。
風が吹く。足音は徐々に近付く。息は切れる。足が震える。お腹が痛む。それでも、この美しい自然を駆ける。
あなたは限界まで駆ける。走る。逃げる。風のように、全力で。それでも、足音は、消えない。風は、止まない。
ふと、風が止んだ。
『お嬢さん、ようやく捕まえた』
彼はあなたの手を掴む。
『楽しいおいかけっこだったよ』
彼はあなたの肩を撫でる。
『でも、僕の勝ちだ』
そして抱きしめてくる。
『もう逃がさない』
彼の心臓は動悸を刻み、あなたの心臓と同調する。
『絶対に、離さないよ』
―――答え合わせといこうかな?
屋敷を出れた。あなたは、傷の付いた頬をさする。木々は揺れ、小鳥がさえずり、木漏れ日が最後の希望を、出口を照らし出す。
走り出すと、伸びた髪が鬱陶しい。出来る限り足音は小さく、息は切れても薄く。五月蝿く激しい鼓動は、しかしあなたの命がまだ残っているということ。
追い掛けてくる足音が聞こえる。居場所が分かっているかのように、草を掻き分け、棒を打ち鳴らし、あなたを追いかけてくる。
あなたは躓き、転んでしまう。涙を拭き、痛む足を動かし、駆ける。立ち止まる暇はない。足音はすぐそこまで迫っている……。
足音は徐々に近付く。息は切れる。足が震える。お腹が痛む。それでも、この箱庭を駆ける。自由の為に。
あなたは限界まで走る。逃げる。全力で。それでも足音は消えない。寧ろ近付いてきている。疲労がピークに達しかけている。
「つ~かま~えた」
目の前に門。後一歩。しかし……捕まった。
「もう鬼ごっこは終わりだよ」
悔し涙で視界が歪む。後、後ちょっとだったのに……!
「君はもう逃げられない」
抱き抱えられる。あなたは必死にもがくが……悲しいかな、あなたにもう逃げ出す力は無い。
「二度と逃がさないよ。永遠に、永久に」
「い っ し ょ だ よ」
ゲームオーバー ―――なんちゃって。