提督になったし艦娘ぶち犯すか 作:ぽんこつ提督
大本営所属。
それが何を意味するのか……天龍には分からない。
吹雪は何事か考えている様だが、やはり天龍には関係ない事だ。
「吹雪、下がってろ」
天龍の仕事は吹雪を守り、彼女の立てる作戦を忠実に守ること。それだけを考えていればいい。
「シズメ……!」
戦艦棲姫が砲撃を撃って来た。
同時に、港湾棲姫が突撃してくる。
砲撃を躱せば、後ろにいる吹雪に当たる!
天龍は飛来する砲弾を、全て切り落とした。そして砲弾が爆発する前に、横一閃。爆風を剣圧で横に流す。
ここまでを港湾棲姫が接近する前に、天龍は行った。
――キイィィィン!
そして近づいてきた港湾棲姫の爪と、天龍の剣が甲高い音を立ててぶつかり合う。
お互いの力は完全に拮抗していた。
だが、天龍の剣は一振りで、港湾棲姫の腕は二つある。
つばぜり合いをしていない方の腕を、港湾棲姫は天龍に向けて振った。
「艤装解除」
それに対し、天龍は一旦艤装を解除した。
突然剣がなくなり、港湾棲姫の体勢が崩れる。しかし、艤装を解除したということは、天龍の身体能力が人間のそれへと戻った事を意味する。不安定な一撃とはいえ、掠っただけで天龍の身体はバラバラになるだろう。
だが、そうはならない。
天龍は
「艤装展開」
そして再び艤装を展開。
戦艦棲姫の追加砲撃を全て叩き斬る。
弾丸が当たるどころか、やはり爆風すら当たりはしない。
「バケモノカ……コイツ」
防戦一方とはいえ、『姫級』二隻と拮抗するなど、あり得ないことだ。
一方で、当の天龍も焦りを感じていた。
天龍の弱点を一つ上げるなら、それは体力だろう。
身体をフルに使う彼女の戦い方は、体力の消耗が激しい。このままでは遠く無い未来、後方から砲撃のみを行う戦艦棲姫との間に決定的な差が生まれ、押し負けるだろう。
それならば……、
「吹雪、プランBだ」
「……あの、プランBなんて初めて聞いたんですけど」
「流れで分かれよ、そのくらい!」
「無茶ですよ!」
と言いつつ、吹雪には何となく天龍の言わんとしている事が分かった。
幸か不幸か、付き合いだけは無駄に長いせいだろう。
艦娘の身体能力は高い。
特筆すべきは、その力だろう。
例えば吹雪は人と同じくらいの大きさでありながら、50000馬力という途方も無い力を有している。
その力を仮に――速度に変えられたら。
そこらのバイクや車より、よっぽど速くなるのではないか。
「うおおおおおお!」
そういうわけで吹雪は、自転車を漕いでいた。
バイクは高いものでも、約200馬力ほど。50000馬力の吹雪が自転車を漕げば、もちろんそれよりずっと早い。
とはいえ自転車には耐久度があるので、全力は出していないが。
ちなみに自転車は、その辺の民家から勝手に拝借したものだ。
「バカカ……アイツラハ………!」
戦艦棲姫と港湾棲姫が急いで追いかけてくる。
当然砲撃もしてきたが――それは吹雪の歴戦のドラテクで躱した。
「吹雪、少し集中させてくれ」
荷台に座る天龍は、剣をしまい目を瞑った。
奴らは――最重要標的である提督の位置を知るこっちを逃したくないはずだ。
だが、速度的に追いつかない。
それならば、相手は必ず何処かのタイミングで先回りをしてくるはずだ。
港湾棲姫はこのままこちらを追跡しながら、位置情報を伝え続け……地理に詳しい戦艦棲姫が裏から回る。挟み撃ちの形だ。
二隻が別れ、一隻になる一瞬の隙。
天龍はそのタイミングをひたすらに測っていた。
「――ッ!? 天龍さん!」
大通りに出たところで、待ち構えていたのは武装した人間達だった。
――一斉射撃
吹雪や天龍はともかく、自転車の方は砲撃を受ければ一溜まりもない。後ろからは二隻の『姫級』。今ここで足を止めることは、死を意味する。
「前二割は任せた。後はオレがやる」
天龍は自転車の荷台に乗ったまま、静かに剣を構えた。
そして飛来する弾丸に、そっと剣を合わせる。
弾丸は軌道を変え、他の弾丸に当たった。
僅かな動きで後ろ・右・左――全体の八割の弾丸を落とす。
一方で吹雪も、自転車を漕ぎながら何とか砲撃し、弾を撃ち落とす。
それでも完璧とは言わないが――自転車が何とか通れるくらいの隙間は作り出せた。
「――来ると思ってたぜ」
次の瞬間、港湾棲姫が後ろから飛びかかってきた。
それを天龍が迎え撃つ。
天龍は分かっていたのだ。
ここに人間達を配備させていることも、
その攻撃に乗じて敵が仕掛けて来ることも。
分かった上で、それに乗った。
何故なら――
「はぁあ!」
一閃。
港湾棲姫の体を
天龍が本気を出せば、最初から港湾棲姫の爪くらい切れたのだ。しかし本気の斬撃の後には、どうしても余韻が出来てしまう。その隙に戦艦棲姫に逃げられては面白くない。
自転車を入手したのは、逃げる為ではなく追うため。
向こうがこちらを逃したくなかったように、こっちも向こうを逃す気などなかった。
挟撃になる形で、正面から攻撃しようとしていた戦艦棲姫だが、港湾棲姫が斬られるのを見た瞬間、踵を返した。
だが、吹雪の漕ぐ自転車の方が圧倒的に早い。
あっという間に追いつき――再び一閃。
両足を斬り飛ばす。
「ァ、アアア……足ガァ! 私ノ、私ノ足ガアァァァ!」
「殺さない程度には手加減しておいた。捕虜にするんだろ?」
「流石です、天龍さん!」
流石なのはお前だ、吹雪。
天龍は内心そう思ったが、口には出さなかった。
実際、吹雪は凄い。
天龍の作戦を一瞬の内に読み取り、それのみに天龍が集中出来るよう、他の全てを受け持った。
直接的な戦闘能力こそ低いが、天龍では決して出来ない役割を吹雪は軽々とこなす。
吹雪のそういう所を、天龍は尊敬していた。
……無論、決して口には出さないが。
「それじゃあ、瑞鶴さんと山城さん達と合流しましょうか。現在位置を調べますから、ちょっと待ってて下さいね」
「んじゃあ、オレは戦艦棲姫と港湾棲姫を拘束して来るわ」
「はーい」
鋼鉄製のロープで港湾棲姫と戦艦棲姫を縛る。
海の上では直ぐに沈んでいってしまうが、陸の上ではそういったことはない。捕虜を捕らえる、と言う点においては陸もそう悪くないかもしれない。
縛っていると、戦艦棲姫が声をかけてきた。
「オ前……天龍……自分ガ強イト思ッテイルダロウ?」
「あ?」
「オ前ナドゴミダ……姉サン二比ベレバナ。モウ直グココ二クル。オ前達の仲間ヲ殺シタ後デナ………」
――吹雪は慣れた手つきで電探を起動させ、瑞鶴と山城の位置をサーチしていた。
……?
何かが、おかしい。
この反応が正常なら――瑞鶴と山城は吹雪の真上にいることになる。
「ふぶ――」
天龍が吹雪を呼ぶ前に、巨大な何かが上から落ちて来た。
戦艦棲姫と非常によく似ているが、それより一回り大きな体。より禍々しさを増した艤装。
降って来たのは――戦艦水鬼だった。
◇
瞬間、吹雪は戦慄した。
電探は故障などしてはいなかった。
戦艦水鬼の両腕に握られているのは――紛れもなく山城と瑞鶴と不知火だ。
三者共に轟沈寸前。
一方で戦艦水鬼の方は、何の怪我も負ってはいない。
瑞鶴と山城は正規空母と戦艦。紛れもない強者なのに。無傷で倒した、というのか。そんな事があり得るのだろうか……?
(……え?)
目の前で、戦艦水鬼が消えた。
次の瞬間、吹雪の真横に戦艦水鬼が現れた。
何のことはない。
戦艦水鬼が高速で吹雪のそばに移動し、攻撃しただけだ。特別なことは何もしていない。ただ吹雪には一連の動作が全く見えなかっただけ。
「吹雪!」
とっさに、天龍が間に入る。
天龍は剣の腹で戦艦水鬼の拳を受け止めた。
――ポキン。
あっけなく、剣が折れる。
驚愕する天龍の顔面に、戦艦水鬼の拳が深々と突き刺さった。
天龍は吹き飛び……、
一、二、三――五つ目の民家に突っ込んだところでようやく止まった。
そんな事御構い無しに、再び戦艦水鬼は吹雪に向かって拳を振り下ろす。
――ドン!
民家の瓦礫を吹き飛ばすほどの踏み込みをした天龍が、またしても間に割って入る。
先ほどの咄嗟の一撃とは違う、しっかり踏み込んでの一撃。天龍の剣は戦艦水鬼の指をわずかに斬りつけた。
戦艦水鬼は一旦後ろに下がり、不思議そうに天龍を見た。
「……分カラナイナ。ナゼ……コノ駆逐艦ヲ庇ウ?
見レバ分カル……オ前ハ強イ。軽巡洋艦トシテハ……頂点ノヒトツト、言ッテイイダロウ………。ダガ、所詮ハ軽巡洋艦、ワタシノホウガ強イ。マシテヤ、ソンナ足手マトイヲ連レテイテハ………絶対二勝テハシナイ。ソレガ分カラナイ……ワケジャナイダロウ? ナゼ庇ウ?」
「黙れ」
天龍と戦艦水鬼がぶつかり合う。
――速すぎて見えない!
吹雪は天龍を援護しようと思ったが、両者の動きは速すぎた。狙いを定めるどころか、姿さえ見えはしない。
また速さだけでなく、力も桁違いだ。
うっかり余波に触れただけで、中破しかねない。
「天龍さん!」
「大丈夫だ、吹雪。オレが守ってやる」
――攻防を経て、天龍の体には無数の傷が出来ていた。
一方戦艦水鬼の方は、指先に僅かな切り傷が出来た程度だ。
それでも天龍は笑って、吹雪の頭を撫でた。
「軽巡洋艦……天龍ト言ッタカ……オ前ハ強イ。ナノニナゼ弱キ者ヲ守リ、人二味方スル?
我々ト共二来イ、天龍。オ前ノ様ナ強キ者ハ、此方側二居ルベキダ」
「断る。オレの居場所はここだけだ。それに、吹雪も人も弱くない。お前が弱い面しか知らないだけだ」
天龍の剣と戦艦水鬼の拳が、再び激突した。