提督になったし艦娘ぶち犯すか   作:ぽんこつ提督

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更新が遅すぎるあまり、後から連載した他の作品に話数があっという間に抜かれる今日この頃。
なお、提督はヌけない模様。


閑話 “調和”の元帥

 現在大本営には、五人の元帥がいる。

 

 元帥とは、海軍の頂点に立つ者達の事である。

 調和・闘争・義勇・明晰・色香――彼らにはそれぞれ司っている『律』があり、有事の際は各々自分の『律』に準じた意見を出す事で、多角的な視点から結論を下しているのだ。

 その中の一人――“調和”の元帥は部屋で唸っていた。

 

「……これは本当に人間の成果なのかね?」

「はい」

「それはまた……随分有望な若者だ」

 

 彼を悩ませているのは最近横須賀鎮守府に着任した、一人の提督である。

 一週間と四日前、日本は終わりかけていた。

 敵はひたすらに強大で、一方こちらは疲弊しきっている。このままでは滅亡を待つばかりだ。

 そこで元帥達は横須賀鎮守府を捨て石にし時間を稼ぎ、その間に他の鎮守府を補給する事を考えた。

 

 非人道的な作戦である。

 当然会議は紛糾したが、調和・闘争・明晰を司る三人の元帥がこの意見を支持した事により、横須賀鎮守府を放棄する事が決まった。

 鎮守府を運営するには、最低一人は提督が居なければならない。

 終わりを待つ横須賀鎮守府に派遣した、繋ぎの提督。

 本来ならもう既に死んでいたはずの彼こそ、“調和”の元帥を悩ませる原因である。

 

 彼は海軍で何の教育も受けていないにも関わらず、たったの一週間であの深海棲艦の大軍を押し返したのだ。

 更に彼はインドに孤立した艦娘達の情報を一早く察知し、即座に救出に向かった。その上、人類で初めて深海棲艦の擬態を見破り、あまつさえ戦艦水鬼を単騎で撃退、更には飛行場姫の死体まで持って帰ってきた。

 どれも歴史に名を残すほどの戦果だが――これをわずか二週間足らずで成し遂げたというのだから驚きだ。

 

 更には、艦娘の為に昇進を断り、更には自ら危険を冒して艦娘を助けに行ったと聞く。

 人間的にも素晴らしいと言えるだろう。

 いや、ここまで来ると最早異常だ。

 普通の人間のそれではない。

 最初は報告書を偽装したのかとも思ったが、彼の部下であり、彼に救出された不知火がそれを否定した。

 

「大和、報告書を」

「はい」

 

 彼の秘書艦である大和から、あの男についての報告書を受け取る。

 ――何とも怪しいものだ。

 “調和”の元帥はそう感じた。

 小学校、中学校、高校、大学。彼はその全てに所属し、無事卒業した。少なくとも、書類の上では。

 しかし同じクラスや担当教員に彼について聞いてみると「そう言われればそんな奴もいたような、いなかったような……」というリアクションをみな一様に取るのだ。

 長い学生生活の中で、彼女や親しい友人が一人もできない……。

 それどころかちょっとした友人の一人――名前を覚えている知人の一人さえいない!

 はたしてそんな寂しい事があるだろうか――

 否!

 そんな事は絶対にあり得ない!

 

 では何故誰もあの男の事を覚えていないのか……?

 

 答えは一つ。

 彼の背後についている何者か――あるいはあの男本人が、過去を偽装したのだ。

 大本営、反艦娘派、深海棲艦。

 これまでは主に三つの勢力がしのぎを削ってきたが、彼はもしかしたら新たな勢力から送られてきた存在なのかもしれない。

 

「大和」

「はい」

「君は彼をどう思う?」

「特に何とも。貴方様のお心が私の心でございます」

 

 ――大和は大変優秀な艦娘だが、こういう所が玉に瑕だ。

 不知火もそうだが、もう少し自分の意見をというものを持って欲しい。

 

「とりあえず、お手並み拝見といったところかな」

 

 彼が戦争に関して別格な能力を持っている事は、最早疑いようがない。

 だが、提督はそれだけでは務まらない。

 

 “調和”の元帥の手に握られているのは、一つの新聞だ。

 記事の見出しはこうである。

 “民間上がりの英雄”。

 彼が民間の出でありながら、凄まじい戦果を挙げた事の記事だ。

 これを読んだ世間の大半は彼を支持するだろうが――一部の人間は疑い、妬み、嫌うだろう。

 その中でも特に厄介なのは手柄を取られた他の鎮守府の提督と、それから反艦娘派の人間達だ。

 

 艦娘の存在は明らかに憲法第9条に反している。

 なのに何故日本が所持するのを許されているかというと――国連憲章の集団的自衛権が行使されているからだ。

 憲法か国連憲章、どちらがより強い効力を持つのかははなはだ疑問ではあるが、こと深海棲艦の戦争に関しては、国連憲章を優先する事とした。

 それに異論を唱えたのが反艦娘派である。

 

 他にも、例えば新約聖書では『世界が再び悪意に満ちた時、また神の審判が下るだろう――』といった終わり方をするのだが、深海棲艦が正にそれである。故に我々はそれを素直に受け入れるべきだ、と主張しているのも反艦娘派だ。

 

 他にも。

 現在の与党を降ろすための口上として艦娘を批判する野党、

 艦娘という兵器の非人道性を訴える民衆、

 鎮守府のせいで海が汚染されたと訴える学者や漁師。

 彼らもみな反艦娘派である。

 

 約一五年前。

 彼らは手を結び合った。

 最初こそ小規模だった彼らの勢力は二次関数グラフ的にその数を増やしていき――いつしか反艦娘派と呼ばれる様になったのである。

 結成当時は様々な思考を持った人間の集まりだった反艦娘派だが、今では『艦娘を排除すべき』という思想に取り憑かれており、過激な行動もしばしば目立つ様になっている。

 そんな彼らが『民間上がりの英雄』など認めるはずがない。

 恐らく今日の朝からでも、旗とメガホンを持って横須賀鎮守府の前を占拠している事だろう。

 

 彼がこと戦争に関して、卓越した技能を持つことは最早疑いの余地がない。

 しかし、提督は戦いが上手いだけでは務まらないのだ。

 周囲に住む人間と良好な関係を築いたり、反艦娘派を上手くしのいだりといった、副次的な業務もこなさくてはならない。

 “調和”の元帥は戦いは他の元帥に比べて一歩劣るが、その辺りの業務は“色香”の元帥と並んで一歩抜き出ている。

 はたして彼はどうなのか……。

 “調和”の元帥は、そっと成り行きを見守った。

 

 

   ◇

 

 

 あー……パンツ食いてえな。

 

 鎮守府に戻りながら、俺はそう思った。

 インドに慰安旅行に行った俺だが、知らない間に何だかよく分からない事件に巻き込まれていたらしく、後半はエライ苦労させられた。しかも結局脱童貞どころか、オナ◯ーも出来なかったのだ。結果、俺の疲労は有頂天なのである。

 そんな疲れ切った俺は、こう思った。

 

 ――パンツが食いたい、と。

 

 個人的には淡いブルーでフリルがついてて、それでちょっと汚れてて臭かったらもう言うことなし。それだけで100年間は生きていける。なんなら長寿ギネス記録に挑戦するまである。

 

 チラリと、横に座る山城を見る。

 こいつなんかの間違いで俺にパンツくれないかな?

 お茶を淹れて出したつもりがパンツだった、みたいな。

 パンツが無理だったら、ブラジャーでもいい。それでも全然出来る。最悪靴下でもいいな。うん、俺は靴下でもイケる。

 

「提督、そろそろお時間です」

 

 車に揺られる事数時間、ようやく鎮守府が見えてきた。

 ……ん? なんか鎮守府の前にエライ沢山人いるな。俺にパンツを届けにきた女子高生の集団、ではなさそうだ……残念。

 じゃあなんだ?

 

「提督、いかがいたしましょう?」

 

 ごめん、なにが?

 「歩道が広いではないか、行け」とか言えばいいの?

 万引きとか飲酒運転ならともかく、人殺しはちょっと……。

 しょーがない、俺がちょっと行って退くよう頼んでくるか。

 

「あっ、提督!」

 

 俺が扉を開けると、吹雪が慌てたように叫んだ。

 大丈夫、大丈夫。穏便にやるから。

 

「すまないが、少し退いて――」

「お前がこの鎮守府の提督か!」

 

 声をかけた瞬間、あっという間に人に囲まれた。

 「戦争反対!」だとか「人殺し!」だとか、いろんな事を耳元で叫んでくる。

 

「その服を脱げ!」

 

 その中でも一番多いセリフがこれだ。

 なんだよ、服を脱げって。

 まさかこいつら……俺のパンツが欲しいのか? 食べたいのか?

 ――いや、どうもそうではないらしい。

 なんか彼らの御目当ては、俺がふだん着ているこの白い軍服の様だ。これ、邪魔なんだよなぁ。なんか暑いし、勲章とかついててジャラジャラするし、鬱陶しいことこの上ない。

 別にあげちゃってもいいか。

 

「そんなにこれが欲しいか? ならばやろう。ほら、受け取れ」

 

 俺が言われた通り軍服を脱いで渡すと、奴らが黙った。なんか唖然としてる感じだ。

 その間に、さっさと逃げてしまおう。

 俺は車に乗って、吹雪に行く様命じた。

 

「よろしいんですか?」

「……逆に聞くが、何か問題が?」

「いえ。提督、私は――私達は貴方の信頼にきっと答えてみせます!」

 

 だから、なにが?

 何か問題があるって聞いてるんだから、答えろよ!

 パンツ食うぞ!

 

 

   ◇

 

 

 数日後。

 

「提督、どうぞ」

 

 加賀からアホみたいな量の新聞が渡される。

 有名どころに加えて、経済新聞とか、果ては海外の新聞まで。俺をなんだと思ってるんだ、この女は?

 まあでも、読むけどね。正確には読むふりをするけどね。だって新聞読んでる人ってかっこいいじゃん?

 

 新聞を開くとそこには……俺だ。

 新聞に俺が写ってる。

 しかも大見出しで。

 記事にはこう書いてある。

 

『民間上がりの英雄 神対応を見せる』

 最近話題となっている、民間上がりの英雄と呼ばれる横須賀鎮守府の提督。彼が反艦娘派に見せた『神対応』が、今話題になっている。

 提督にとって白い軍服は己の身分を証明するものであり、それがない間は何の権限も持たなくなる。つまり、軍服を着ていない間は、艦娘に殺される恐れさえあるのだ。

 反艦娘派の方々はその軍服を提督の『象徴』とし、脱ぐ様に求めた。

 普通この要求は拒否するものだが、横須賀鎮守府の提督は一瞬の迷いもなく、この軍服を脱ぎ、手渡した。その所作は非常に流麗であり、反艦娘派の方々への敬意が感じられた。

 横須賀鎮守府の提督が何故提督の象徴たる軍服を、こうまで簡単に手渡したのか。提督からのコメントが得られない以上、それは不明だが、この行動は結果的に、全てが丸く収まる『神対応』になった様だ。

 

 

   (中略)

 

 

 横須賀鎮守府前に集まった反艦娘派の方々は、横須賀鎮守府の提督のこの行いに感銘を受け、この軍服をクリーニングした上で、提督に返上する事を決めた。

 現場に居なかった反艦娘派の上層部はこの決定に反対している様だが、彼らの意思は固い様である。恐らく、その現場に居た人間にしか伝わらない、ある種のカリスマの様な何かを、彼らは感じたのだろう。

 余談ではあるが、彼らが横須賀鎮守府の提督に軍服を返す際、軍服に振りかけた香水が、今若者の間で大流行している。特に何か高価な物を借りた際にこの香水を振りかけてから返却するのが流行している様だ。

 この香水のメーカーは「横須賀鎮守府の提督が、我が社の香水の匂いのする軍服を着用して下さっている事は、非常に名誉な事だ」とコメントした上で「今度は自分でも使っていただきたい」とし、横須賀鎮守府の提督に大量の香水をプレゼントする事を検討している様だ。

 また、これまで批判が多かった大本営だが、彼の登場から支持率が急上昇しており――

 

 

 そこまで読んだところで、俺は新聞を読む事をやめた。

 先ずドッと冷や汗が出てきた。

 あの時、適当に渡した軍服、まさかそんなに大事な物だったとは。危ねえ。すぐ返ってきてよかった。後ちょっと返ってくるのが遅れたら、うっかり長門の奴にでも殺されてたかもな。あいつ俺の事嫌いだし。

 ていうか俺、いつの間に『民間上がりの英雄』って呼ばれてたの?

 

「提督」

「……なんだ」

 

 呆然としていると、加賀が話しかけていた。

 

「とても、気高い行為だったと思います。提督に比べれば浅慮な私ですので、勿論全てを理解しているとは思いませんが、提督のお心遣いには感服します」

 

 だから、何を言ってるの?

 俺のお心遣いってなんだよ。お前達が俺にお心遣いしてくれよ。

 まあでも、あれだな。結論としては――

 

 ――パンツ食いてえ。












【簡単な元帥説明】
“調和”の元帥→裏から手を回す人
“闘争”の元帥→直ぐ戦う人
“明晰”の元帥→白黒はっきりした人
“義勇”の元帥→熱血ないい人
“色香”の元帥→エロい人

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