提督になったし艦娘ぶち犯すか   作:ぽんこつ提督

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初陣 ①

 横須賀鎮守府は日本でも屈指の規模を誇る鎮守府である。

 基地の規模や設備の充実さはもちろん、日本にいる艦娘の約十二分の一がこの鎮守府に所属しており……提督の数も五人と最も多い。

 この規模はアメリカやロシア、中国でもそうお目にかかれないほどだ。

 

 ――つい三日前のことである。横須賀鎮守府が壊滅したのは。

 

 深海棲艦は決まった周期で大侵攻をして来る。

 日本の周期で言えば、春夏秋冬に一回ずつだ。

 今にして思えば、これが深海棲艦の作戦だったのだろう。

 鎮守府は、そのシーズンまでに軍備を備える。高速修復材を溜め込み、資材を貯蓄し、艦娘を温存する。

 しかし、逆を言えば。

 そのシーズンが過ぎてしまえば、鎮守府は無防備となる。

 大侵攻さえ終われば、その次はない。そんな保証はどこにもないのに、今までそうだったから、という理由で、高速修復材や資材を使い果たすのに、なんの躊躇も無くしてしまうのだ。

 

 

 九月七日。

 夏の大侵攻後のことである。

 ()()は突如始まった。

 深海棲艦の存在が確認されて以来の、大規模侵攻。

 その総数は集計不可能――なにせ、日本の排他的経済水域を全て埋め尽くすほどの深海棲艦達が集まっていたのだから。

 その総戦力はもっと分からない。

 elite以下など何処にもいない。奴等の部隊は全てflagship・鬼・姫で構成されていたのだから。

 こちらの戦力は無に等しい。

 夏の大侵攻が終わればしばらくは攻め込んで来ないと、貯蓄を全て吐き出してしまったのだから。

 横須賀鎮守府に所属していた歴戦の提督達は全員戦死し、艦娘達もその数を大きく減らした。

 

 ――その時、紛れもなく日本は負けた。

 

 日本は撤退を余儀なくされた。

 海を諦め、陸地へと逃げたのだ。

 古来より残る自然を残す、などとは言っていられない。森を切り倒し、山を消した。

 だが、その作業も直ぐに終わるわけではない。

 故に日本は、鎮守府に『時間稼ぎをしろ』と命令した。

 しかし、艦娘は提督がいなければ戦えない。

 海軍学校で教育を受けている提督達は将来、日本が立て直した時に必要な人材だ。彼らをむざむざ死地に送るなど、出来るわけがない。

 

 ――故に“彼”が送られたのだ。

 

 なんの教育も受けていない、突然現れた提督。

 場繋ぎとしてはちょうどいい。

 誰も“彼”に期待などしていなかった。

 だが、これが、この死地こそが。

 高速修復材も資材も何もなく、味方もおらず、敵はひたすらに強大な、この死地こそが――後に『英雄』と呼ばれる男の初陣にして、伝説の序章だったのだ。

 

 

   ◇

 

 

 戦艦『長門』はその日の事をよく覚えている。

 

 深海棲艦の侵攻には『波』がある。

 二、三週間怒涛のように攻め込んだ後、パッタリと攻撃が止むのだ。普通ならその時に補給をすれば良いのだが――しかし、この大規模侵攻がそうした油断の隙をついて始まった事を思うと、そうもしていられない。

 『何もしてこない事』が逆に焦燥感を煽る。

 そんな緊張しきった空気の中、その男は来た。

 

 滅びを待つだけの鎮守府に来た、新しい提督。

 この鎮守府の状態を知らされてないわけがない。きっと絶望した顔の人間が一人増えるだけだろう。“彼”が来るまで、長門はそう思っていた。

 ――『目』だ。

 『目』が違った。

 その男の『目』はギラギラと何かに飢えていた。

 それでいて、その男は何も気負ってはいない。まるでカフェにお茶でも飲みに来たような、完全にリラックスしきった姿だった。

 

 そんな彼を見た時、長門は今日歓迎会を開く事を決めた。

 次の大規模侵攻が始まれば、この鎮守府はもう持たない。それならば、最後の時をめいっぱい楽しんでやろう。生まれてこのかた、ずっとこの国に殉じて来たんだ。最後の晩餐くらい、多少豪華でも許されるだろう。どうせ提督に顔見せしないといけないわけだしな。そんな軽い、しかし重い気持ちだった。

 

 その日の夜。

 いざ歓迎会が始まっても、艦娘達は浮かない顔をしていた。

 当然だろう。

 疲労と絶望。それから充満する死の臭い。

 楽しめるわけがない。

 

「――酒が美味い」

 

 たった一人を除いて。

 この日着任したこの提督は、これから起こる惨劇を前にしながら、まるで何も感じていないようだった。

 そんな彼を見て、

 一体どんな人間なんだろう?

 と、興味を持った艦娘が一人、また一人と彼の元へと挨拶に来る。

 

 ――そこには日常があった。

 

 戦いの中で、彼女達が忘れてしまった日常があった。

 彼はそう、本当に何でもないように会話しているのだ。

 疲労も絶望も、そして死の臭いもしない。

 それに当てられてか、艦娘達にも徐々に笑顔と気力が戻っていった。静けさに満ちた歓迎会には、いつしか笑い声と歓声が響くようになっていた。

 隼鷹の強制一気や、龍驤の一発芸。

 比叡と鳳翔さんのお料理対決。

 楽しそうにはしゃぐ駆逐艦達。

 高雄と愛宕のキャットファイト。

 那珂ちゃんの楽しそうに歌う声。

 ああ、こんな楽しい鎮守府は一体いつぶりだろうか。戦う内に、私達は『何のために戦うのか』を忘れていたのかもしれない。国の為に――じゃない、仲間のために。この日常のために。そう、そうだった。そんな簡単なことすら、私は海の上へ置いてきてしまっていたんだ。

 知らず知らずの内に、長門は涙を流していた。

 

(――ッ!?)

 

 涙を拭いた長門は、ふと提督の方を見た。

 そして感じた。

 またあの『目』だ。

 ギラギラとした、あの『目』。食い入るように艦娘達を凝視している。

 

 ――艦娘一人一人の『性能』を見ている。

 

 長門は提督の思考にあたりを付ける。

 

 艦娘が過去に存在した実在の船をベースに造られている以上、そこにはデータが存在する。

 例えば長門であれば、

 耐久80

 火力82

 装甲75

 雷装0

 対空31

 回避24

 対潜0

 搭載12

 といった具合である。

 しかし艦娘には『練度』と呼ばれる『個の揺らぎ』がある。練度を積めば積むほど、艦娘は一部のステータスが上昇していくのだ。何がどのくらい上昇したのか、その割合を見分けるのは歴戦の提督であっても難しい。

 

 ――それを見極めているというのか? この一瞬で? しかもここは、戦いの場ですらないんだぞ?

 

 だが、それ以外の理由など思い当たらない。

 しかし同時に、そんなことができるとは思えない。だが仮に、そんな事が出来るとすれば……。

 悩む長門に答えがもたらされるのは近い未来――明日の事である。











最初のセリフが「酒が美味い」のクズ主人公がいるらしい。

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