提督になったし艦娘ぶち犯すか   作:ぽんこつ提督

3 / 22
初陣 ②

 提督が着任した次の日。

 深海棲艦は再び動き出した。

 提督の着任が間に合ったとも言えるし――鎮守府の内情を詳しく把握出来なかったとも言える。幸と不幸、どちらとも取れるタイミングだろう。

 

「提督、ご指示を」

 

 現在、作戦室にて。

 赤城・長門・鳳翔さん・妙高・神通・吹雪・伊168・大淀の八隻が集まっていた。

 中心にいるのはもちろん提督だ。

 ギリギリで着任した彼だが、鎮守府の内情について詳しく知らなくとも、着任している以上は指揮を取らなくてはならない。

 だが、もちろん、誰もがそう期待してはいない。提督が新任だから――というよりは、多少の指示などほとんど無に等しいからだ。

 周辺の海域を模した地図の上には、青色の凸と赤色の凸が置かれている。

 真っ赤。

 数えるのもバカらしくなる程の赤色の凸。

 どう考えても、戦術で覆せる範囲を超えている。もしかしたらこの圧倒的戦力差を覆せる方法もあるのかもしれないが――それを新任の提督に求めるのは酷というものだろう。

 

「そうだな……」

 

 提督は青色の凸を持ち、次々と各海域に配置していく。

 ――速い。

 戦場を見て、部隊メンバーを確認し、戦術を決めるまでの速度が異様なまでに速い。何も考えていないのでは? と思うほどだ。

 その上――いわゆる『定石』とは大きくかけ離れている。

 

 戦術とは、例えるなら将棋の様なものだ。

 確かに『手』の通りは無数にあるだろう。しかし将棋には『定石』が存在し、達人同士の戦いであれば、中盤まではその『定石』通りに進められる。終盤の『詰み』を意識する段階になって、初めて『手』が細分化してくると言えるだろう。

 艦娘の戦いもそうだ。

 序盤として戦術。

 中盤として陣形。

 そして終盤の接敵になってようやく、個々人の個性や性能を活かした動きが出てくる。

 

 提督の指示は、そういった型にまったく嵌まっていなかった。

 長い歴史の中で培われてきた定石を無視し、まったく新しい戦術を立てていく。そこだけ見れば、まるで素人。いや、素人以下と言っていいだろう。長門は少し不安を抱いた。

 だが、それも一瞬のこと。

 長門は直ぐに考えを巡らせる。

 過去、この鎮守府に配属された提督は百戦錬磨のベテランか、新進気鋭の天才ばかり。この提督もそうなのだろう。いやこの絶望的状況でたった一人送り込まれてきた事を考えれば、彼らを上回る提督だとすら思える。

 そんな彼が『定石』を知らない訳がない。

 幼い頃から大本営の手で受けた教育によって、嫌というほど叩き込まれているだろう。そして今、彼はそれをあえて無視している。それ以外考えられない。いったい何故……?

 

(確かに……この状況を打破するには、従来の方法では不可能だろう。それを思えば、この戦術は妥当ではないが、考えられる事の一つか)

 

 そもそも、その『定石』に頼っていたから、この事態を引き起こしたのだ。なるほど確かに、それを考えればむしろこれ以外無い気さえしてくる。

 

(しかし、初陣でこれを実施するとは、提督はどれだけの胆力を……)

 

 訓練にいくら慣れていようと、命のかかった実戦とはまた別のものだ。ましてやこれは、日本の存続をかけた戦いといっても差し支えない。

 例えそっちの方が合理的と分かっていても、つい『定石』に頼りたくなってしまう場面だ。

 それを汗一つ浮かべずに無視し、更にはこの速度で作戦を練る。普通の人間では絶対にできない事だろう。

 

「――こんなところか。総員、抜錨してくれ」

 

 ついに提督の戦術が完成し、出撃命令が下る。

 提督補佐のために大淀だけが残り、長門以下七隻は執務室を出ていく。

 

 長門率いる鎮守府最強の部隊――『第一艦隊』に下された任務は『鎮守府近海の護衛』だ。

 毎度一番槍を務め、誰よりも死地を切り裂いて来た長門からすると、少し拍子抜けな気もする。

 後方で待機する、というのはどうにも向かない。もちろん、手を抜くつもりは毛頭無いが。しかし、『第一艦隊』を後方に下がらせるのには、どんな意図が……。

 

「長門。私に貴女の名前を刻ませないでね」

「……ん、ああ。それは私のセリフだ。妹が先に沈む事ほど辛いことはないよ」

 

 考え事をする長門に話しかけたのは、妹の陸奥だ。

 ――ああ、いつの間にかここまで来ていたのか。

 長門は思考を戦いへと切り替える。ここを超えれば、そこは死地なのだから。余計な思考は削ぎ落とさなくてはならない。ここに刻まれていった者達の為にも。

 

 海に出る時、艦娘達は必ずこの道を通る。

 この道は――通称『墓場』と呼ばれている場所だ。

 元々はただの道であるここが何故『墓場』と呼ばれているか?

 それは以下の通りだ。

 艦娘は兵器である。

 人によく似た形、思考を持っているが、法律上の扱いでは紛れもなく兵器だ。

 兵器であるが故に、身体の中に埋まった弾丸を取り除くのに、医師免許がなくとも傷害罪にならない。

 兵器であるが故に、彼女達はなんの許可もなく武器を持つ事を許される。

 そして兵器であるが故に――彼女達は墓を作る権利を持たない。そもそも寿命がない彼女達が死ぬときは海の上であり、死体さえ残らないが、形だけの墓すら作れないのだ。

 だからいつからか、彼女達は同胞が死んだ時、この道に名前を掘る事にした。 

 彼女達は出撃する際、海に残して来た仲間達の名前を必ず見る。

 そしてその時、感じるのだ。

 散っていった同胞の無念を。

 そしてその時、想うのだ。

 これ以上名前を増やしたくないと。

 

「第一艦隊、出撃する」

 

 ――戦争が始まった。

 

 

   ◇

 

 

 神通率いる水雷戦隊――『第二艦隊』は海の上を進んでいた。

 戦っているのではなく、進んでいた。

 鎮守府を出て、提督の指示通り進み――とっくの昔に深海棲艦の領海に入ったのだが、一度も敵に遭遇していない。

 

「神通、どういうこと?」

「分かりません。深海棲艦が出現していない、というわけではないようですが」

 

 姉・川内の問いかけに、神通は首を横に振った。

 鎮守府で最も強い軽巡洋艦の神通でさえ、この事態に説明がつけられないでいた。

 

 『第二艦隊』もそうだが、深海棲艦の部隊もまた常に移動している。

 本来であれば、もう二、三度は接敵していてもおかしくないのだが……、敵の影も形も見えない。

 かと言って深海棲艦がそもそも出現していないのかと言われると、無線を聞く限り、そういうわけでもないらしい。

 こんな事は偶然ではあり得ない。となれば……。

 

「深海棲艦の動きを全て予測していた、という事ですか」

 

 この戦術を立てた提督の思惑以外にはあり得ない。

 にわかには信じられない事だが、提督は謎に満ちている深海棲艦の思考を読み、進路を予想し、神通達を奴等に見つからないようここまで連れて来たのだ。

 そうした理由は何故か?

 神通は直ぐにその答えに行き着いた。

 答え合わせをするかの様に、無線に大淀からの連絡が入る。

 

「こちら作戦司令部、大淀。『第一艦隊』が敵の主力艦隊と接敵しました。敵援護部隊も同海域にいる様です。『第三艦隊』と合流し、背後から奇襲してください」

「旗艦神通、了解しました」

 

 神通の予想通り、吹雪率いる遊撃部隊――『第三艦隊』もこちらと同じ状況にあるようだ。

 やはり……と、神通は自分が思い描いていた提督の作戦が正しかった事を確信する。

 

 理由は分からない。

 だが深海棲艦はこの日、民間の港や海岸ではなく、鎮守府を目指していた。

 提督はそれを読み切り、逆に誘き寄せたのだ。

 そこで鎮守府のバックアップを万全に受けられる鎮守府近海に最強の『第一艦隊』を配備し、これを迎撃。

 更にはその進路を完璧に予想し、『第二艦隊』及び『第三艦隊』を素通りさせ、深海棲艦が完全に油断したところで背後から奇襲をかける。

 挟み撃ちになれば、この戦力差を覆せるかもしれない。

 しかも奇襲に関して言えば、川内型はプロフェッショナルと言っていい。この人員も計算され尽くしての事だろう。

 高速艦が少ない代わりに、火力が高い『第一艦隊』を鎮守府近海に配備したのも名采配と言える。

 

「……凄いお方」

「んー? 神通が人を褒めるなんて珍しいじゃん」

「そうでしょうか……」

 

 知らず知らずの内に思っていた事が口に出ていたらしい。

 神通は珍しく顔を赤くし、そっぽを向いた。

 

 川内の言う通り、神通はあまり人を褒めない。

 それは彼女が思う『凄い』の範囲が狭い――というより、『当たり前』の範囲が広いためだ。

 朝起きてから、夜寝るまで。ひたすらに鍛錬を積む。神通はそうした生活を『当たり前』だと考えている。故に、彼女はあまり人を褒めない。大体の功績が彼女の『当たり前』の中に収まってしまうからだ。

 その神通を持ってしても、提督が一体どれほどの修練の果てにここまでの指揮能力を得たのかを考えると、『凄い』と思わざるを得なかった。

 

「……神通。そろそろ戦闘海域だよ」

「はい、姉さん」

 

 海に出ているのに珍しく気が抜けた神通に、川内は声をかけた。

 流石というべきか、直ぐに鎮守府最強の軽巡洋艦が帰ってくる。

 

「ではみなさん、行きましょうか」

 

 『第二艦隊』のメンバー五隻は、声を揃えて返事を返した。

 

 

   ◇

 

 

 二三:〇〇。

 明け方近くから始まった戦いはようやく終わり、再び八隻は提督の元へと集結していた。

 結果は――鎮守府側の勝利。

 ほんの少し深海棲艦の勢力を押し戻したに過ぎない、僅かな勝利だが、確かに勝った。

 深海棲艦の大規模侵攻が始まって以来、全ての鎮守府が敗走を続ける中、この提督は初陣にして勝利を収めたのだ。

 艦娘達は喜びを胸に帰投し、報告書を提督に提出した。

 

 ほとんどの艦娘が笑みを浮かべながら、提督が報告書を読み終わるのを待っていた。

 しかし大方の予想に反し、彼は報告書を読み終えるとこう言った。

 

「――この程度か」

 

 確かに、戦果としては小さいだろう。

 だが、今の状況を鑑みれば大きな戦果だ。

 艦娘達は一瞬、悔しそうな顔をした。

 しかし、直ぐに思い直す。

 今日の戦術を見る限り――誰よりも現状を把握しているのは他ならぬ提督なのだ。その彼が「この程度」と言ったということは、本来ならもっと戦果を挙げられたはずだ。少なくとも、彼の想定では。

 至らなかったのは自分達。

 自分達の練度は高い、とたかをくくっていた自分達なのだ。

 

「提督」

 

 真っ先に動いたのは神通だった。

 膝を折り、提督に頭を下げる。

 

「私の力が至らず申し訳ありません。これより一層精進に励みます。微力ではありますが、私の力が貴方様の一助となるよう、全力を尽くしますので、どうかお側に」

 

 ――神通は歓喜していた。

 

 良く訓練しているな。

 これだけの戦果を、流石だ。

 これまで。神通が何かすれば、歴代の提督達は必ず彼女を褒めた。

 他の艦娘であれば喜んだだろうが、神通は違う。

 むしろ、どうしてこれだけの戦果で満足しているのだろうか? という気持ちの方が強かった。

 周りに強要しようとは思わない。

 しかし、自分にとってはこれが当たり前。その程度の事を一々褒めるなんて、志が低い。

 神通本人すら気がつかない心の奥底で、彼女はそう思っていたのだ。

 

 そこへ来て、この男はどうだろう。

 神通ですら驚くほどの偉業を成しながら、少しも喜ばず、それどころか「この程度」と切り捨てた。

 初めてだった。

 神通と同レベル――どころか、それ以上の基準を持つ人間は。

 

 艦娘は兵器。

 使われてこそ意味がある。

 この時神通は初めて、自分の主人に出会ったのだ。












地の文を書いてる時、いつも無意識のうちに鳳翔さんに「さん」をつけてしまう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。