提督になったし艦娘ぶち犯すか 作:ぽんこつ提督
吹雪は憂鬱だった。
せっかく大戦が終わり『第三艦隊』の連中から離れられたのに――また連中を指揮することになってしまったのだ。
吹雪にとって『第三艦隊』の指揮をとることほどストレスの溜まることはない。しかも今回は隠密行動厳守であり――戦場は海外と来ている。憂鬱にもなるというものだ。
事の発端は今から僅か三時間前。
夕張が所属不明の艦娘からの無線をキャッチした。
内容はこうだ。
生きたい――誰か、助けて下さい。
恐らく、先の大規模侵攻によって何処かの国か海域に取り残された艦娘だろう。
何があったのか、詳しいことは分からない。だが確実に言えることは、その艦娘は助けを求めているということ。
もちろん罠の可能性もあるが――それはその『声』を聞いた艦娘全員が否定した。
明石と夕張は即座に無線の出所を調べ始めた。
そしておおよその位置を特定。
そこからネット掲示板やSNSを解析し――『艦娘に関する情報が規制されている地域』をサーチした。日本の艦娘が海外にいれば、大きな騒ぎになる。なのにその騒ぎが起きていない。それはつまり、情報を規制しているということ。そこをついたのだ。
詳しい位置の特定に成功したのが、つい二時間前のこと。
艦娘達は直ぐに救出作戦を実行しようとしたが、事はそう単純ではない。
まず艦娘が海外に行くには様々な許可が必要であり、その許可を出すのは大本営。艦娘が日本を出る事は、事実上不可能に近い。
次に敵は、艦娘を追い込むほどの戦力を持ち合わせている。敵の詳しい総戦力が分からない以上、助けに行ったこちらが負ける可能性がある。
同胞を助けたい。
場所は分かってる。
助けられるだけの力もある。
ただ――方法だけがない。
「提督に指示を仰ぐか?」
行き詰まる会議の中、長門がポツリと言った。
あの方ならなんとかしてくれるかもしれない。
それは誰もが頭の片隅で意識しながらも、決して口に出さなかった言葉だ。
何故なら……。
「それは甘えです、長門さん」
神通の言う通りだ。
艦娘を助けたい、というのは任務でも義務でもない。
ただ自分達のワガママだ。私用の為に上司の知恵を借りる兵器が何処にいるというのか。
更に言えば――この程度の事も自分達で出来ないのか、と提督に呆れられるのが怖い。彼は圧倒的な才能を持つ指揮官だ。だがその手足が弱く不器用ではなんの意味もない。
――私達を無能だと思ったら、提督は別の鎮守府に行ってしまわれるかもしれない。
艦娘達は恐怖を抱いていた。
もちろん提督はお優しい方で、見捨てるような真似はしないと分かっている。それでも、少しでもその可能性があると思うだけで、どうしようもなく怖くなってしまう。
やはり最善は、自分達が持つ情報を大本営に渡す事だろうか。
その場合『保護』や『救出』よりも『処理』になってしまう可能性が高いが……そうする他ないのも事実である。
会議がその結論に決まろうとしていたその時、会議室のドアが開いた。
入ってきたのは、提督だ。
艦娘達は即座に敬礼する。相変わらず、少しの乱れもない見事な敬礼だ。
「私は少し休暇を取る」
確かに、提督には休む権利が与えられていた。
だがまさか――このタイミングで使うとは。
夜襲や提督の緊急の用に対応出来るよう、提督の部屋の前には24時間艦娘が、最低三隻はついている。
昨日その任についていた神通曰く、提督は夜遅くから明け方まで訓練を積む、まさに武人だそうだ。
更に。
この間の大戦後の発言から分かる通り、提督は身を粉にして市民の為に働く、高潔な人間である。平和になったからと言って、安易に休暇を取るとは思えない。
つまり――これはただの休暇ではない。では何故休暇を取る、などと言ったのか?
その理由に、全員が一瞬にして思い当たった。
「これから私は、プライベートで出かける。プライベートで、だ。お前達の供はいらない。いいな?」
ここまで強調する、という事は最早間違いないだろう。
つまり、提督はこう言いたいのだ。
まず、提督が単身インドへと飛ぶ。あくまで『プライベート』という名目で。
提督とほぼ同タイミングで艦娘が秘密裏に入国。
提督の指示の元、孤立している艦娘を保護する。
そして『プライベート』で来た提督が『偶然』に艦娘を発見、保護。艦娘に関しておおよそ全ての権限を持っている提督なら、強引に艦娘を連れて強引に帰国することが出来るだろう。
もちろん、デメリットがないわけではない。
常に裏から艦娘が目を光らせているとは言え――提督にまったく危険が及ばないわけではない。
それにこの鎮守府の艦娘が密入国してる事が発覚すれば、責任を取るのは提督だ。
加えて、提督と艦娘は直接的に会話することが出来ない。それはつまり――提督の僅かな仕草から、あの神懸かり的指示を読み取らなければならないということだ。
デメリットがないわけではない、どころではない。
デメリットだらけだ。
反面、メリットは少ない。
この作戦を無事遂行したところで――何の名誉も得られなければ、昇進することも出来はしない。
だが、反対する者はいなかった。
(またあの『目』か……)
提督の『目』はいっそう鋭さを増し、その顔は何かに対する覚悟と決意に満ち溢れていた。
その何かとは――考えるまでもない、同胞を助けたいという想いに決まっている。
そういうお方なのだ、提督は。
(しかし、流石は提督だ。何処かから艦娘が孤立している情報を入手し、一瞬で彼女達を救う手立てを考えるとは)
ここ一週間で、提督と最も長く一緒にいたのは間違いなく長門だ。
信頼関係も、短い間ではあったが、かなり深まったように思える。
だが、提督の考え――いや、思考能力の限界が見えて来ない。
「提督、発言してもよろしいでしょうか?」
「構わん」
「僭越ながら、私共の方で便と宿の手配をさせていただきたく思います」
「……ああ、任せた」
任せた。
その言葉の何と重いことか。
この『任せた』は額面通り、宿と便の事だけではない。向こうに着いてからのその他諸々を含めて『任せた』と言ったのだろう。
それを受けて艦娘達は――狂喜した。
先程も言った通り、この作戦の最中提督とコミュニケーションを取ることは出来ない。その中で艦娘は指示を読み取り、更には提督の命を守らなければならないのだ。
――任せた。
その言葉は、信頼の証だった。
常日頃から『提督のお役に立ちたい』と願っていた彼女達にとって、これ以上に嬉しい言葉はない。
これに報いずして、何が忠義か。
艦娘達は忠義を捧げられる喜びに震えながら、任務への決意を固めた。
さて。
話を冒頭に戻すとしよう。
この名誉高い任務を任されたのは『第一艦隊』や『第二艦隊』、『第四艦隊』ではなく――『第三艦隊』である。
というのも、『第一艦隊』はその戦闘力においては比類ないが、何かと派手な彼女達は今回の様な任務には向いていない。次にお鉢が回ってくるのが『第二艦隊』だが、『第二艦隊』旗艦・神通は世界的にもよく知られている艦娘だ。その知名度が足を引っ張りかねない。
そういうわけで『第三艦隊』がこの任務を任されたのである。
それにこう言っては何だが、『第三艦隊』の面々は今回の任務の様な『非合法な行い』に精通している。そう言った意味では、これ以上ない程の適任だろう。
「はあ……」
それでも、吹雪はため息が抑えられない。
提督からの信頼。
『第三艦隊』の必要性。
色々と応えたいし、分かってもいるのだが――それでも嫌なものは嫌なのだ。
『第三艦隊』のメンバーは基本、鎮守府にいない。
普通は鎮守府で鍛錬を積むか、あるいは任務に就いているのだが、彼女達は両方行っていないからだ。
任務の際、思い思いの場にいる彼女達を迎えに行くのも吹雪の役目である。
先ずは一人目。
他のメンバーと違い、“彼女”の居場所はハッキリしている。尤も連れ出すまでのが大変なのだが……しかし見つけるのも連れ出すのも大変な他の者に比べれば大分マシだ。
『ミス・バージン』――という店が“彼女”の溜まり場である。
ピンクのネオンに彩られたその店は、中学生相当の見た目を持つ吹雪には中々入り辛い。だが泣き言ばかりも言ってはいられない。吹雪は店に入り――“彼女”がいるであろう店の一番奥まで、一直線に歩いた。
いた。
“彼女”は店の奥にある大きなソファーに堂々と陣取り、両脇にたくさんの女の子をはべらせていた。最早見慣れた――見慣れてしまった――光景だ。
彼女は吹雪に気がつくと、こっちに来いと手招きした。
両脇にいる女の子がみな吹雪を睨みつける。何でこんな思いをしなくてはならないのか。
「よう、吹雪。奇遇だな、こんな場所でさ」
「奇遇じゃありません。貴女を呼びに来たんです――天龍さん」
『第三艦隊』所属・天龍型一番艦『天龍』はニヤリと笑った。
天龍をクッソカッコよく書きたい。