プチファンタジー・ストーリー   作:クリステリアン

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第30話 海辺のサバイバル(節約)生活Ⅲ

 翌朝、4人は支度をし、朝食を作って食べた。

「きょうはおととい受けたクエストにいかないとな」

「詳しいことなんかもう一度ギルドで聞く必要がある。おれがいってこよう」

 ユードーは食事が終わるとギルドまで出かけていった。その間サンクたちはきょう持っていくお弁当を作った。朝食の残りとか、きのうのパンの残りなどで。そして後片付けが終わったころ、ユードーがもどってきたので、みんなは出かけることにした。

 ユードーは、「ギルドで聞いた話によると依頼の悪魔は町の南のあの台地を進んだ場所に目撃証言があったそうだ」と指差した。そこは町外れの低い山や丘が広がるあたりだった。「これが討伐書だ。とりあえずいってみるか!」

 4人はその台地目指して歩いた。やがて森の茂る台地のあたりまでたどり着いたが、そこからの道が二手に分かれていた。

「いわれた場所にきてみたけど…道が二手に分かれてるじゃないか」

「ギルドで悪魔のいる場所を聞かなかったの?」

「道が2つあるなんて聞いてない」

「一体どっちにいけばいるんだ?」

 4人は困った。

 そして…考えた末、4人は二手に分かれて捜索することにした。この丘は広いので両方を探すわけにもいかない。地図を見ながらこっち半分を探してくれと、サンクとフィリナは左を、ユードーとラファエロは右を探すことになった。

「午前中探してみて、弁当を食べて、午後からまた探して、ギルドにも寄らなきゃいけないから日が沈むちょっと前…だいたい午後3時くらいにこの森の手前で落ち合うことにしよう」とユードーは森の手前の空き地を指差した。「もちろん早くに悪魔を倒せたらもっと早くもどってもいいぞ」

「じゃ、いこう」みんなそれぞれ、そっちはよろしく!とか油断するなよ!とかいいあって先に進んでいった。

 サンクとフィリナが歩いていくと、しばらく森の茂みが続いたが、やがてそれは途切れ、開けた丘が目の前に現れた。

「おれたち、この丘を探すのか!」「きょうのクエストをクリアすれば10万マール超えるわ」「よーし!さっそく探そう!」2人は丘を登っていった。できるだけ丈の長い植物がなく歩きやすいところを歩いてゆく。「サンクとこうして2人で歩くのは久しぶりだわ」とフィリナ。丘を登れば下に小さくアレスポッドの町が広がっているのが見渡せる。四角いケーキみたいな家々や時計塔がありすごく綺麗だ。2人はここから見える風景や悪魔がいそうな場所のことなど喋りながら丘を探していった。茂みを掻き分けたり、2人して助け合いながら段差を下りたり、洞窟を覗いてみたり……2時間ほど探して歩いたが、なかなか悪魔は見つからず、2人はくたくたになってしまった。

「はー疲れたー」「そろそろお昼くらいの時間だしお腹も減ってきたから昼食にしない?」

 そこで2人はお弁当を食べようと海を望む丘の斜面に座り、お弁当を出した。魔物たちにも魔物用の弁当を出し、サンクは与えている。普段ならサンクの背はフィリナよりも少し低いが、座ると身長差はなかった。きのうの薄いパン?に朝食の残りのグリルした肉を包んである。2人はぱくりとパンにかぶりついた。

「これ、きのうフィリナが作ってたやつだろ、なんかおいしいけど変わってるな」とまた食べる。「たしかパンを作ったんじゃなかったか?」

「最初はわたしも普通のパンを作ろうとしたのよ?でも全然膨らまなくて難しいし、生地をおいて発酵させてみたり、砂糖を入れてみたり、バターを入れてみてもダメで大変だったんだから!」フィリナは顔を赤らめ膨れたようにいった。

 サンクはそれを聞き、フィリナがそんなことまでしてパンを作っていたのに驚いた。その様子を想像するとそのときの苦労が目に浮かぶようでいろいろ涙ぐましかった。それを考え、サンクはまたパンを一口食べる。なかなかおいしい。きのうはパンくらいで真剣になってるフィリナがおかしくてつい笑ってしまったが、やっぱり久しぶりに小麦粉の料理を食べるとちがうな…とサンクは思った。

「そんなとき前にホットケーキを作ったのを思い出して、薄くすれば膨らまなくても食べれるものが作れるんじゃないかと思ったのよ」とフィリナ。そして自分の作ったパンをまた食べる。本当は肉をはさんだサンドイッチかホットドッグ的なものが食べたかったが、いまのフィリナでは無理だった。でもこれはこれでまぁまぁいいものだ。

 パンを食べ終え、お茶を飲む2人。そしてフィリナはどこからか包み紙を取り出し、クッキーを食べだした。

「あ、それ」それに気づき、サンクが。クッキーをくわえてフィリナは振り向いた。

「きのう作ったの、まだ残ってたから持ってきちゃった」フィリナはあとで食べようと思って自分の分をこっそりくすねていたのだ。

 フィリナはおいしそうにクッキーを食べている。きのうのクッキーはサンクもおいしいと思ったし、自分も食後に甘いものを食べたかった。そう考え見ていると、フィリナもちら、とこちらを見、「ほしいの?」ときいた。「うん」コクンとうなずくサンク。フィリナは手を伸ばしてクッキーをサンクの口に食べさせた。

.:.・.·⚹·.·・∴· サンクは頭が真っ白になったように固まってしまった。

「おいしいでしょ?2人には内緒ね」また食べだすフィリナ。サンクはうつむき、しばらくかぁ~っと体中熱くさせていた。

「も、もう1枚!」サンクはいい「しょうがないわねぇ」また食べさせてもらっていた。

· .· .· .

 サンクは気持ちをごまかすようにあちこち目を泳がせた。遠くの緑が美しく、ちょうちょが2匹戯れているとか、下のほうの海岸のきらめきとか…ふと、フィリナのなめらかな太ももが目に入り、そういえば、暑いからってこの前タイツを脱いだんだっけ…などとどうでもいいことを考えたりしていた。いまはブルマを履いてるけどあのときはパンツ一枚で…と思い出しさらにカアッとなっていると、いつのまにか向こうで遊んでたポロとチビドラがやってきて、フィリナの持つクッキーを欲しがった。

「キャア!」飛びつかれてクッキーを落としそうになってフィリナは慌ててクッキーを上にあげた。

「もうあまりないから少しだけよ」2匹はフィリナにクッキーをもらい、喜んで食べていた。

「午後からはまた悪魔を探さなくちゃね」

「でもどこにいるんだろうな」

「次はこっちのほうを探してみましょ」とフィリナは手で示した。

「よぅし!ポロ!チビドラ!」サンクは魔物を呼ぶと、魔物たちは前にきた。「悪魔が見つかったらまた戦うことになるからな!頼んだぞ!」

「ワウッ!」「ギャウッ!ギャウッ!」ポロもチビドラも張り切っていた。

「じゃあ、いくか」2人は立ち上がった。

「サンクは、魔物使いを目指すことにしたのよね」とフィリナ。「ねぇ、きょう戦う悪魔ってDランクだったわよね?」

「うん、だから2人でもだいじょうぶと思うけど…」

 2人は再び悪魔を探し出した。さっき見た討伐書には、イタチだかアナグマだかみたいな姿の悪魔が描いてあった。2人はその見た目を思い浮かべ、喋りながら探し歩いた。サンクがバカなことをいってからかい、それをフィリナがムキになっていい返す。2人は2人きりになるとよくこうしてふざけあっていた。

 だがまだ悪魔は見つからない。

「こっちにもいないみたいだな。うーん、もしかしてユードーたちのいるほうにいるとか」

「諦めるのはまだ早いわ。次は下に降りてあのあたりを探してみましょう」

 2人は丘を降りた。下に降りると赤茶けた岩の海岸が広がっていた。

「悪魔のやつー!出てこーい!」サンクはあちこちあたりを眺め、フィリナも岩の裏を覗いたりしながら歩いていった。そうして海岸沿いを100mほどいったところに…

「あっ」岩陰に、探していたのと同じイタチだかアナグマだかの姿をした悪魔がいたのだ!

「あいつ、依頼された悪魔じゃないか!?」「間違いないわ!倒しましょう!」「とうとう見つけたぞ!」「グワァ~ッ!!」悪魔は2人に気づくと爪を出し、こちらに襲いかかってきた!「うわあっ!」「キャアッ!」よける2人!

「ポロ!チビドラ!」サンクは叫び、魔物たちを向かわせた!「ワウッ!」「ギャッ!」ポロとチビドラは飛びかかり、攻撃した!「ブライトボール!」フィリナも悪魔に攻撃する!「グウッ!!」悪魔はダメージを受けていた!

 すると……悪魔が唸り声をあげたかと思えば白い光が敵のからだを包みだし、その光が、「わあっ!」「キャッ!」サンクたちの上に落ちてきた!!

「く…」攻撃を食らい、サンクとフィリナはダメージを受けヨロヨロと立ち上がった。「まさかあんな技が使えるなんて…っ!」「よーし、こうなったら…」サンクはバッグからケースを取り出し、「いけっ!アカザカナ!フメイジュ!」残りの2匹も向かわせた。「こうなったら戦力増強だ!」サンクは、「フメイジュ!まず枝でその悪魔を縛るんだ!」と命令、フメイジュは枝を伸ばし、敵を縛ろうとしたが、さっとすり抜けられてしまった。「よーし、それじゃあポロ!チビドラ!」サンクはポロとチビドラに攻撃させ、ダメージを与える。時折フィリナもエスパー技で攻撃する!悪魔は時々反撃しつつもそれらの技にじょじょに後退し追い詰められていった。

「いいぞ!そのまま右へいくんだ!!」魔物たちはさらに攻撃する!「アカザカナ!」「ピルーッ!」海からアカザカナが飛び出し、サンクは、「水鉄砲だ!」と叫んだ。「ピルーッ!」アカザカナの水鉄砲が命中し、「グワッ…」悪魔はとどめを刺されついに倒されてしまった。

「やったぁ!」みんなは喜び、サンクは魔石を拾いにいった。

「クエストクリアしたぜ!」「みんなのおかげね」サンクは魔物を再びもどした。

 その後、サンクたちは先ほど降りてきた丘をまた登ったのだが、その途中、「あっ!」サンクがうっかりと剥き出しになった岩で少しケガをしてしまった。

「いて~」としゃがんで足をさする、「どこ?」フィリナがサンクのズボンをまくり、「ヒール」とケガを治してあげたりした。サンクはケガが治ったことを確かめ、フィリナを見た。それを見てフィリナは微笑んだ。2人は再び一緒に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 最初にやってきた街道近くの丘への入り口で──。

「あっ」ユードーは歩いてきた2人を見つけ、「遅いぞー!!」と腕を振り上げた。

「おまえら倒したんならもっと早くもどってこいよ」「悪い」約束の時間を少し過ぎてしまっていたのだ。4人はギルドまで報告するためテレポートでもどった。

 そして報告後、報酬を受け取るとついに所持金は10万マール超えたのだった!4人はやっと迎えたこのときに、喜びを通り越しジ~ンと感動していた。「ようやくおれたちの努力が報われたか~…」「長かったなぁ…」

 

 それからの日々は、少し買ったものも加えつつも4人はいままで通りの生活を続け、そして迎えた闘技大会表彰式の日。大会の行われたコロシアムでユードーは会長から祝いの言葉とメダルを受け渡された。ユードーが優勝したのは水泳、円盤投げ、格闘技の3部門であった。客席からは歓声があがり、そのなかには3人の姿もあった。

 ユードーの賞金も加わったおかげで、船のチケットを買ってもまだお金は結構余った。いよいよ出発の日が近づき、4人は出発の準備をしなければいけなかった。とったイノシシの肉がまだ残っていたので食べきれない分はフィリナの作ったオーブンを少し組みかえてせっせと燻製にした。手持ちの食料や日常品ももう残り少なかったので店で買いだめをした。

 そして出発の日となり──。4人は荷物を整え支度をし、これまでの数日自分たちが暮らしてきたキャンプ地を眺めた。ちょうどテントが岩や木の陰になる涼しい場所だった。近くには小さな洞窟もあったが幸い雨はほとんど降ることはなく、そこへ逃げ込むこともほとんどなかった。数日過ごしたその場所を見ているとそこであった様々なことが思い出されて感慨深かったが、それよりもついにこれから悪魔のいるエドラント大陸へ渡れるということのほうが4人にとっては大きなことだった。

 港で、4人は船の乗降口へと走った。甲板へ立ち、ワクワクしながら海や町の風景を眺める。やがて出港時間となり船はゆっくり動き出した。港にいる人たちに手を振られ見送られながら、船は陸地から遠ざかり、海を進んでいき、やがて沖に出た。一行は海辺の町での節約生活の日々を終え、次回からはエドラント大陸へ!

 


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