魔物や悪魔と戦ったりして予定より時間はかかったがまだ時刻は早かったので4人は町を見て回ることにした。そのうちにギルドを見つけたので、なかに入ってみた。ギルドで仕事を見つけがてら、ギルドの人にこの地域に出た悪魔のことをきいてみようと思ったのだ。
ギルドの職員に話しかけ、なにかいい仕事はないかきいてみた。
「それならぜひ頼みたい仕事があるんだ」
職員は、「うちの町の商会からの依頼で、あす1日仕事の手伝いを頼みたいそうだ。仕事といっても簡単なものらしいし、いまちょうど人手不足だそうだから引き受けてくれると助かるんだがな」
4人はその依頼を引き受け、探している悪魔のことをきいてみた。
「おれたち、ある噂を聞いてここにきたんですけど、この地方の領主が悪魔に襲われて石にされたって本当ですか?」とサンク。
職員はそれを聞き、「あぁ、領主様ね!うん。なんだか悪魔の力で石にされて、いろいろと大変らしいね」
それを聞き、やっぱり…と4人は顔を見合わせた。きのう聞いた噂は本当だったようだ。
「その悪魔ってこうゆう姿じゃないですか?」サンクはバッグから以前貰ったあの悪魔の絵を取り出して見せた。
「見た目は知らんが、石像からはかすかに悪魔のパワーが感じられたらしい」
「おれたちもそこにいきたいんですけど!」サンクはいうが、「領主の館はここから少し遠い。まだ北へ20kmはあるんじゃないかな」といわれてしまった。
「20km…」同じグランツライヒ領ではあるが、目指す悪魔まではまだまだ歩かなくてはいけないようだ。
「それよりさっきの依頼のことだけど、待合室でもうすぐ説明があるからいってきてくれ」
そういわれ、サンクたちは時間まで待ってからいわれた場所へと向かった。ドアをあけると、そこにはもうみんな集まっていて10人くらいの人が椅子に座っていた。正面には立派な身なりのおじさんと秘書らしき男、それから15、6歳の少年が1人。
その少年は入ってきた4人、正確にはフィリナの姿を見て驚いたように目を見開いた。そのまま、椅子に座るフィリナを目で追う。
「うむ、これで全員揃ったようだな。えー、今回諸君にはわたしの商会の手伝いをお願いすることになったわけだ」
男は商会の会頭だそうで、あす商会で手伝ってもらう大体の仕事内容や商会の場所などをみんなに伝えた。
「と、いうことで、あすは朝8時までに集合してくれ。ではこれで」男は立ち上がり出ていき、みんなもぞろぞろと立ち上がって解散した。
ユードーとラファエロはほかのギルドメンバーとなにかおしゃべりしており、サンクとフィリナもギルドの掲示物やら見ていろいろ喋っていたのだが、そのときギルド職員からサンクにちょっと用事があると呼ばれた。どうやらこれまでのクエストでの実績のことで、なにか話があるらしいとサンクだけが呼ばれた。サンクは不思議そうな顔をしたが、ひとまず職員についていった。
向こうのほうで、先ほどから数人の女の子に囲まれていた少年が女の子たちに断り、こちらに歩いてきた。それは、さっき待合室で会頭の横に座っていた少年で、少年はフィリナの前にきて止まり、話しかけた。
「きみ、さっきうちの商会の手伝いをしに待合室にきてた子だよね」と少年。
きょと…とフィリナは見つめた。
「ぼくは会頭の息子でカールっていうんだ。きみはなんていう名前?」
「わたしの名前はフィリナだけど」
「そう…フィリナさん。初めて見る顔だよね。もしかして旅をしてるの?」
「えぇ」
「そうか。じゃあこの町は初めてかな。よければぼくが町を案内しましょう」
それを聞き、後ろにいた女の子たちがざわっとした。
「これから一緒に町を見にいこう」とフィリナの腕を取ろうとするが、フィリナは後ろに下がり、「せっかくだけど、仲間に知らせずに勝手にいけないわ」といった。
「仲間?あぁ…」カールは、「それなら、うちのものにいって言付けを頼んでおくよ。ぼくはいい場所をいっぱい知ってるし、きっと素敵な時が過ごせると思うよ」
フィリナはう~んと考えた。
「ね?」またフィリナのからだに手を回し、歩いていこうとするが、フィリナはするりと抜け出し、「でもわたし、やっぱり疲れてるしやめておくわ」と向こうにいたユードーやラファエロのもとへといってしまった。
その日の夜、きょうのギルドには宿泊所があったので、4人はそこに泊まることにした。宿泊所では、男女に分かれて泊まるのだが、フィリナはそこで相部屋になった女の子たちから話しかけられていた。
「あなた、きょうカール様から誘いを受けてた子でしょ」この部屋にはあす仕事で一緒になる女の子もいたのだ。
女の子はうっとりと、「この町のギルドメンバーの子に聞いたけど、カール様って商会の会頭の息子でしかもあの容姿だからとってもモテるんだって」
「あぁ、かっこよかったもんねー」女の子たちは色めき立った。
「でもあなた断ってたわね」
「は?どうして?」とびっくりしたようにいった。
「どうしてって…」フィリナはなんとなく2人きりでいくなんて気が進まなかったのだ。
「あんなにかっこいい男の子に好かれたら普通喜ぶのに本当に変わってるわ」と女の子。
「そ、そうかしら?」そして、「あっ!もしかしてきょう一緒にいた人のなかに恋人がいるとか!」
「えっ?なにそれ」
「この子ギルドでほかの男の人3人と一緒にいるのを見たのよー」どうやら最初、フィリナたちのパーティがギルドにきたところを見られていたらしい。
「なんでそうなるの?」フィリナは辟易した。
「そういうあんただってたしか彼氏と組んでるんでしょ?」
「ふふっ、まぁね」きゃいきゃい恋の話をしている女の子たちに、フィリナは話題が自分からそれてほっとしたものの、精神がガリガリ削られてしまった。
(女の子との会話ってこんなに煩わしいものなのかしら…)どうにも、自分が女の子ばかりでの会話に向いていないと思ったフィリナなのだった。
翌日の朝──
4人は朝食をとると、町で昼食を買って引き受けた依頼の場所へと向かった。そこは、美しい庭に囲まれた白い大きな建物で、入口の前にはもうすでにきょう商会の手伝いをする人々が集まっていた。
なかから商会の人が出てきてなかに案内した。
なかに入ると数人の従業員と、きのうのカールがいた。従業員は、きょう依頼を受けてきた人たちに仕事の内容を説明し、役割を分担させだした。
「きみたちはこの手紙をここにある住所の家に配ってきてくれ」サンクとユードーとラファエロはたくさんの手紙を渡され、カールにそういわれた。フィリナはここに残って伝票整理など頼まれたが、「わたしもそっちの仕事がいいわ」とサンクたちと一緒の仕事を希望した。が、「女の子は体力がないから、この仕事のほうがいい」といわれてしまった。
サンクたちは手紙の配達に出かけていき、残った者はいいつけられた仕事をやりはじめた。フィリナは、いわれた持ち場につき、伝票整理をやりはじめた。
すると…そこへカールがやってきていった。
「やぁ、仕事でなにかわからないことない?」
「カールさん」
カールは髪をかき上げ、「きのうはきみに町を案内できなくて残念だったな。でもきょうもいつだってきみのために付き合うからそのときはいつでもいってください」
「……」そういえば、たしかきのうギルドで相部屋になった女の子に、自分が好かれてるみたいなことをいわれたことを思い出した。
カールはフィリナをまじまじと観察しだした。服装は流行のものとはいえず、冒険者だからだろうかちょっと妙なデザインで(いわゆるファンタジー衣装)、旅をしているゆえかよく見ると着ているものは薄汚れて少しくたびれている。髪型も少し変だ。だが、それらが包んでいるボディと顔立ちは極上であった。カールはフィリナのからだもじろじろと見つめた。
そしてまた話しかける。趣味や、自身のことなど…。フィリナは適当に相づちを打ちながらもたじたじとしていた。こういうことに慣れていなかったのだ。…フィリナに声をかけてくる勇気ある男などそうそういるものではなかったが、彼は自分にとても自信があった。
それにフィリナは本来人と親しくなることが苦手だ。仲間が一緒なら人ともうまく付き合えるが、1人だと愛想がなく、支配力には長けているのだが、社交性に乏しく気さくに話すことができなかった。
しばらくし、ようやくカールが向こうへいってくれてフィリナはホッとした。向こうにいた仕事仲間からもこちらを見てひそひそいわれていたのだ。
そしてしばらくは与えられた仕事に没頭していた。だが、しばらくするとカールはまたやってきて、今度はフィリナに庭へきてほしいといった。
「さぁ、こちらへ…」「えっ?あの…」半ば強引に、フィリナの手を取り庭へ連れ出す。
「なにか用?」庭に連れてこられたフィリナ。すると、カールはどこからかバサッと花束を取り出した。
「あなたのために用意した花です。どうぞお受け取りを…」と紫のユリのような花を差し出した。フィリナはそれを見てたじろぎ、「ごめんなさい、わたし植物にあまり興味がなくて…」と断った。
しかしさらに花を押し付け口説こうとするカールに、フィリナはそんなもの持ってもどれないからとどうにか断って元の仕事場へもどった。
そんなフィリナのところへやってきたきのうの相部屋になった女の子やほかの地元の子たちが、「やっぱりあなたカール様に好かれてるわね」「うらやましいわぁ」ちょっと皮肉っぽくいわれた。
「でも今回口説く相手のタイプは珍しいわね。わたし、これまであの人が付き合ってきた女の子を知ってるけど、みんな金髪の子ばかりだったもの」
…それではいったいなぜあんなに自分にかまってくるのだろうか。先祖に金髪もいるが、フィリナは金髪ではない。でも、せっかく好いてもらっても嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちであった。
「断っちゃったの?」と女の子たちがさっきのことをさらに聞こうとするのをかわして、また仕事にもどり続けていると、しばらくしてまたカールはフィリナのところにやってきた。そしてまた話しかけられる。フィリナはいま仕事で忙しいといったが、カールは構わず話しかけ続ける。周りはまたひそひそいっていた。
そのうちにカールは自分に近寄ってきてベタベタ腕を回しはじめ、「2人で庭で話しませんか?」と顔を寄せてきた。フィリナは後ろに身を引き、「まだ仕事中なのにいけるわけないわ。あまり近づかないで」と断った。
その後もカールは話しかけてきたが、さすがにフィリナはムッとして、話しかけてくるカールにできるだけ距離をとって仕事をしていた。
そのうちに…昼休憩のベルがなった。みんなは仕事をやめ昼食の用意を始めたが、そこでもフィリナはカールに、「昼食をご一緒しませんか?」と誘われた。
う~ん…。食べる相手のいないフィリナは迷うが、いや、やはり自分にくっついてくるやつだ、断ろう、と思ったそのとき、「フィリナ!」と呼ばれた。フィリナが振り返ると、そこにはサンクが立っていた。
「サンク!配達の仕事は?」
「ちょうどさっき配り終えて予定より早く終わったんだ!」
「ユードーとラファエロはまだみたいね。いまちょうどお昼なのに」
フィリナはカールを振り返り、「サンクも一緒ならランチを一緒に食べるわ」といった。
カールは、「えっ?いや、それは…」少し複雑な顔をし、向こうへいってしまった。
「向こうのほうで食べよーぜ!」サンクはそっとフィリナの背中に手をあて庭へ向かおうとした。フィリナはそれを見る…。
自分でも不思議だったのだが、パーソナルスペース──普通、人にあまり近づかれると嫌な感じがするものだが、フィリナは、これをサンクにだけは感じないのだ。フィリナはう~ん…と考えたが、でもまぁ深く気にせずランチの場所へいった。
庭の片隅の木陰で、2人は持ってきた昼食を広げた。いろいろとおしゃべりしながら食べているうちに、フィリナは安心したように元気を取りもどしていった。
その後、休憩が終わるまで2人はそこで話していたが、やがてベルがなり、2人はまた建物へともどった。
また午後からの仕事を指図され、みんなは仕事にもどった。サンクはフィリナとは離れた部屋での仕事をいいつけられ、そこにいった。また仕事をしていたフィリナのもとへカールがやってきて喋りかけはじめた。先ほどからあまりフィリナに歓迎されていないのに、驚くほど気持ちの読めないやつだ。フィリナはまたさっきと同じように気取って喋るカールに時々相づちを打ちながらも距離をとって仕事を続けた。
やがてユードーやラファエロも配達を終えて帰ってきたが、カールはまたも2人にサンクと同じ部屋で仕事をするよういいつけた。先ほどからフィリナに話しかけているカールに、周りのみんなはひそひそいったり嫉妬の目を向けたりしていた。その噂はほかの部屋の人間にも知られていった。
フィリナは先ほどからしょっちゅうやってきては世間話や口説いてくるカールを適当に返事しながらかわしていたがさすがにちょっとうんざりしてきて、「あなたね、さっきから喋ってばかりだけど、自分の仕事はやらなくていいの?」といった。
カールは一瞬ポカンとしたが、「あぁ、ぼくはここの会頭の息子ですし、こんな雑用やったりしませんよ」とニッコリ笑った。そしてまたフィリナを口説きはじめる。…聞く耳持たなかった…。いっそこられると仕事の邪魔だとハッキリいってしまおうか…と思っていたとき、別室にいったはずのサンクとユードーがやってきてカールに、「さっきいわれた仕事でわからないことがあるんだけどきてくれませんか?」といった。カールは面倒くさそうに、「そんなことは近くにいるものにきけばいいだろ?」といった。「いま近くにはここの人はいないんです」と2人は、強引にカールの手を引き向こうへいってしまった。
それきり勤務終了までカールは姿を見せなかった。
やっと依頼の時間が終わり、フィリナは帰る支度をした。そこへやってきたのが……さっきまでどこかにいっていて姿を見せなかったカールだった。
「フィリナさん、お話があるのですが…」
「話?」フィリナはやや戸惑った顔をする。
「えぇ、ここではちょっと…こちらへきていただけますか?」カールはフィリナの手を取ると、「あっちょっと」と困るフィリナを強引に建物の裏へと連れていった。
横を向き佇むカールを、なにかと思って見ていると、カールは振り返り、「フィリナさん、ぼくはあなたのような素晴らしく美しい人に初めて出会いました。まるで、天界の女神がこの世に降り立ったかのような…」そしてフィリナの手を両手で握り、「一目惚れしたんです。どうかこの町に残ってぼくの恋人になってくれませんか?」といった。
「ええ?」フィリナは驚き、赤くなった。
告白なんてされたのは初めてだ。カールは真剣な顔をしている。フィリナは困り顔を背ける。
「それは…」と返事をしかけたときだった。ぐ…と自分の腕が後ろから引かれ、そこにいたのはサンクだった。
「フィリナはおれのだ!」ぐっと横にフィリナのからだを引き寄せ、そう叫んだサンクは、フィリナを引っ張って歩いていってしまった。
あぜんと、それを見つめるカール。そのまま出口まで歩いていく。
そのとき……初めてサンクの気持ちに気づいた気がして、フィリナの顔は不思議と赤くなっていた。いや、そんなことはこれまでにも何度もあったような気がするが、フィリナはそれを見ようとしなかった……無関心だったのだ。
ユードーとラファエロが門のところにいるのを見、サンクはそれまで掴んでいたフィリナの腕を離した。まだ、気持ちが収まらないフィリナは胸を手で押さえた。
前だって心臓の音が聞こえるくらい近づいたこともあったのに、いまはこんなにドキドキする。ひょっとしたら勘違いかもしれないけど、あれは、自分がパーティの戦力としてという意味かもしれないけど、でもなんか期待……みたいなのが湧き……フィリナは顔を赤面させていた。