魔法使いがやってきた
ある街道沿いの、小さな川のほとりに、サンクとフィリナは座り、休憩していた。
「じゃあこの魔物が使う相手を怯えさせて逃げ出させる技はなんていうんだ?」
「『ほえる』よ」
「じゃあこの魔物のこの技は?」
「のしかかり」
「へぇ~…」
サンクはきのう手に入れた魔物使い用のガイドブックを見てフィリナと喋っていた。フィリナは魔物について詳しいと聞いていたが、どうもそれは本当だったようだ。
サンクはさらに本を探し、「じゃあこの技は?」ときいた。
「飛び蹴り」
サンクは答えを確かめる。ん?
「残念!けたぐりでした~!」と得意げにいった。「へへ~っ、フィリナにもわかんなかったんだ!」あははと笑い、サンクはまるで鬼の首とったみたいにいう。
カァ~ッとフィリナは赤くなり、「こっこれは……ちょっと勘違いしただけなんだから!!」
あれから、サンクは親に認めてもらい旅を続けていた。ユードーやラファエロともしばらくは一緒に旅していたが、いまはもう別れて2人だけだ。
ユードーたちとはあれから塔のダンジョンにいったりした。そのダンジョンは修行のために作られたもので、幻でできた悪魔がうようよしており、それらはある程度ダメージを与えると消えるようになっていた。頂上には攻略特典のアイテムが用意してあり、4人はそれを手に入れると同時にレベルも上げることができた。
それから宗教都市へもいったりした。この世界にも宗教を信じる者がたまにいたが、4人にはそこまでの信仰心はなかった。エスパーにも神がいるかどうかはわからないのだ。これまではっきりした恩恵を授かったことがなかったし、この世界には聖属性も存在しないので。あと湖水地方にもいった。そこでは田んぼがいっぱい広がっていて、米という食材が日常的に食されていた。フィリナの家はたいていパン食だったので米には馴染みがなかったが、サンクの町では割とよく食べられていたようだ。4人はその町で米料理をたらふく食べたのだった。
「そろそろいきましょうか」2人は休憩を終え、また歩き出す。サンクはいま、世界一の魔物使いを目指して旅していた。とりあえず、この地方で近々行われる大会に出てみようと思う。フィリナも、自分の契約していた召喚獣たちを呼び集め、いまではケースに入れ持ち歩くようになった。フィリナはエスパー系を専門に使う世界一の魔物使いを目指すそうだ。
「フィリナは世界最強のエスパーになるんだと思ってたな」そうサンクがいうと、最強のエスパーというのは国に管理されて自由に動けないのだといわれた。魔物に戦わせるようになり、フィリナ自身が戦うことはあまりなくなっていった…。ちなみにルシアランティスには、召喚獣としてならいいが自由を奪われるのは嫌だと手持ちの魔物になるのは断られてしまった。
そうして次の町への道をしばらく歩いていたのだが、突然目の前に…「ん?」煙のようなものがぐるんぐるんと渦巻いてその煙がポンッと弾けると、「ふうっ」ある1人の女の子が現れた。2人はあっけにとられ、ポカーンと見ている。女の子は2人と同じくらいの年齢で、赤毛のおかっぱの外はねヘアーで、とんがり帽子と膝下までのワンピースを着ていた。
2人はそれを見て、「いったいなんだ?」「もしかしてエスパーかしら」と話し合っていた。女の子は2人に気づくと「…」と眺め、歩み寄ってきた。
「こんにちわ、わたしマミという名前で魔法使いなの」
「魔法使い?」2人はよくわからなそうな顔をした。「魔法ってなんだ?」
マミは、「わたし、これまであるところに夢と希望を与えにいってたんだけど、この前その期間を終えて魔法の国に帰れることになったので、帰ろうとしたの。でも失敗して気づいたらこの世界にきちゃったってわけ」
2人は唖然とその話を聞いていた。
「つまり、あなたは別の世界からきたってこと…?」
フィリナがきくと、「その通りよ!物分かりがよくて助かるわー」とマミはいった。マミの顔は、2人よりも平ためで、堀りが浅かったが、でもこの世界にギリギリいても変ではないかという顔立ちだった。
「本当に別の世界からきたのか?」「言葉が同じだわ」2人がいうと、「翻訳魔法のおかげなの」とマミ。
「1週間前、この世界に飛ばされてきて、そしてわたしは元の世界に帰るためいろいろと調べたわ。調べた結果次の満月の日に帰れることがわかったけれどそのほかにいくつか材料が必要なの。そこでその材料を手に入れるためにまずはお金を稼がなくちゃと思って、きのうギルドというところに登録して依頼を受けたのよ」マミはここぞとばかりにギンッと2人を見つめ、「そこであなたたちにお願いがあるんだけど、わたしと一緒にその依頼にいってくれない?」といった。
2人はそれを聞き、「ええっ!?」「なんでわたしたちが!?」と驚いた。
「わたし1人じゃこの世界のことはよくわからないし心細いのよ!」
うーんと2人は考える。
「お願いっ!材料を手に入れないと魔法の国に帰れないの!」2人は顔を見合わせた。
フィリナは「…」とマミを見つめ、「この世界とちがうところに帰るっていうけど、あなたそんなことができるの?そういえばさっきもわたしたちの目の前にテレポートしてきたみたいだけど…」ときいた。
サンクが、「フィリナと同じエスパーなのかな?」「わたしの力じゃほかの世界へなんて移動できないわ」と喋っていた。
マミが、「魔法の力よ!そうそう、この世界では超能力っていうのがあるようね。きのうギルドで登録するときに調べてもらったけど、わたしにもMPというのがあったわ」
どうやら魔法も超能力も同じMPを動力源として生み出される力らしい。魔法使いとエスパーの技には重複するものも多いとか。だが、マミの見解では超能力は魔法の一種であり、やれることは魔法のほうがずっと多いという。むしろ魔法使いに比べやれることが少ないものをエスパーといってもいいという。
「魔法だと例えばどんなことができるの?」フィリナがきくと、「いま見せてあげるわ!」マミはどこからかステッキを取り出し、「えいっ」と振った。すると、2人の目の前にポンッとスーパーファミコンを出した。2人はおおっと驚く。
「わたしのいたところにあったものよ」とマミ。
「なんに使うものか全然わからないけどすごいわ!」「おれもわかんないけど、でもなんか知ってるような気がする!」続いてマミはまたえいっとステッキを一振り。すると2人の手の中にポンッとどんぶりが現れた。おおっと2人。
「わたしのいたところの料理よ♡」「うまいうまい」「なんか変わった味だけどおいしいわ」2人はかけうどんを(慣れない箸で)ズルズル食べながらいった。
「魔法って力で食べ物が出せるんなら食費が浮いていいわ」とフィリナ。超能力にはそんなことはできない。
「ほかにはこんなこともできるけど」マミがまたくるっとステッキを振ると、なんと2人の姿が猫になってしまった。「ニャッ!?」
サンクとフィリナはお互いの姿を眺めて驚いた。エスパーは幻を見せることは可能でも本当に姿を変えることはできない。でもいま2人はまぎれもなく猫の姿になっているのだ!「ミュウ?」お互いの顔を触ってみると肉球の感触があった。肉球パンチ!
2人(匹)は困り、「ミィミィ(戻して!戻して!)」魔法使いのスカートに前足を立てて訴えた。魔法使いはなく2人をしばらく眺めてからステッキを振り、ポンッと2人を元に戻してくれた。
マミの話では、ほかにも魔法で性別も変えれるし種族も変えられる。人を美人にしたり若返らせたりもできるらしい。超能力にはそんなことはできない。
2人は魔法という力を見せてもらいそのあまりのすごさにあっけにとられていた。
「魔法ってすごいわねぇ…」
「まぁ、わたしの生まれた国では当たり前の力よ。そうだわ、あなたも魔法を習得してみたら?」マミはフィリナにいった。
「わたし?」
「あなたの見た目なら絶対にいけるわよ!魔女!見るからに魔力高そうだものね」
フィリナは考えていたようだが、「…魔法ってどうやって習得するの?」ときいた。
マミは、「わたしの国に魔法の練習のための魔法書があってそれで覚える方法があるわ。あと、魔女になるには悪魔と性的に交わることによって契約する方法もあるわね」
「悪魔と?」2人は眉をひそめた。
「つまりあなたも…」と指さされる。「魔法ってエグいな」「わたしはちがうったら~!!」魔法使いは必死で否定した。
「ねぇ、ところでこれでわたしの力もわかったと思うのだけど。わたしの依頼を手伝ってくれる?」とマミはきいた。
サンクとフィリナは顔を見合わせ、そして頷くと、「まぁ、この世界にきたばかりで困ってるみたいだからな」「わたしたちもギルドメンバーだから役に立てるかもしれないわ」といった。
そして、「ああ。おれもいろいろ力を貸すぜ!」とサンクはいった。
それを聞きマミは喜び、「キャア!嬉しい~っ!ありがとうっ!」とサンクの腕にしがみついた。
フィリナは驚き、「理由はわからないけどなんだかとても腹が立つわ!」
じとーとそれを見つめるフィリナにサンクは慌ててマミを引き離した。
「あなたたちの名前はなんていうの?」とマミ。
「おれはサンク」「わたしはフィリナよ」と答える。
「そう、わかったわ。でもこれでどうにか魔法の国まで帰れそうでよかったわ!」3人はあしたさっそくクエストにいくことにし、約束をした。
「それじゃ、あしたの朝になったらいきましょう。そうね、あの教会の前で待ち合わせするのはどうかしら?」とマミは指差した。
「あぁ、いいぜ!」「いいわ」3人は時間などを決めて別れ、サンクとフィリナは近くの町の宿屋にいき泊まった。
次の日の朝。2人とマミはその教会の前で落ち合い、一緒にクエストに向かうことになった。
「そのクエストってどこにいけばいいんだ?」
マミはどこからか地図を取り出し、「ギルドで場所は聞いているわ。たしかここから5kmくらい離れた場所にある組織のある建物にいくらしいの。ホラ、ここよ」と指差す。「その組織が表向きは宝石を扱う事業をしているらしいんだけど、裏でいろいろ悪いことをしてるらしいわ。依頼した人も土地を騙し取られたらしくて、その証拠となる契約書を盗んできてほしいのよ」
「盗む…?」2人は複雑な顔をした。「それって…」普通のギルドにはこんな依頼は持ち込まれない。どうもマミが登録したというのは表立って頼めない依頼の集まるいわゆる闇ギルドといわれる場所のようだった。
3人は地図を見ながら依頼の場所まで歩き、やがて町外れの林のある地帯にやってきた。その木々の向こうに低い山があり、その頂上に建物が建っていた。
「あの山の上の建物が依頼された場所よ。まずはあそこまでこの山を登らなくちゃ」
「それならテレポートでいきましょう!クナーベ!」フィリナはケースから、キツネのような魔物を取り出した。「このクナーベの力があれば離れた場所に移動できるの。いい?クナーベ、あの頂上近くにテレポートして」「クウッ!」元召喚獣のフィリナの魔物であるクナーベは頷き、技を出し始めた。
「あぁ魔法生物ね。わたしにも国にいたときお供がいたわ」とマミは懐かしそうに。
魔物の使うテレポートは、人の使うものとちがって発動が超遅かった。もちろんいけるのは近い場所以外前に休んだ建物の前限定である。
やがてクナーベのからだに光がたまりだし、「もうすぐ発動するわ!クナーベにつかまって!」そういわれ、みんなはクナーベにつかまると、やがて光があふれ、フッと消えた。
山の中で──。みんなは目をあけ、あたりを見回した。「山の中か?」「建物はどこ?」フィリナが指差したほうに、木々の隙間から遠くに建物が見えているのに気づいた。
「あそこに依頼された書類があるのよ」とマミ。
サンクは「でも書類を盗むっていったいどうやって盗むんだ?」と疑問を浮かべた顔をした。
マミは、「わたしの魔法で透明になって建物に忍び込むの。そして書類のある場所を探すのよ」
2人はそれを聞いて不安になった。悪事をしている証拠を得るためとはいえ、なんだかこちらが犯罪を犯すようだ。
建物の入り口には門番が立っている。マミは、「それじゃ、忍び込むわよ!インビジブル!」と手を広げた。すると…「わあっ」2人はお互いの姿を見て驚く。なんと3人は色が薄く、からだが半透明になっていたのだ。
「わたしたちが見れば半透明だけど、ほかの人から見ればまったく見えなくなってるわ」
「本当?」
これでまったく姿が見えなくなったとは。超能力にはこんなことは(ry
マミについて、2人は建物のドアの近くまで近づいた。音で気づかれないように忍び足で口をつぐんでいた。
しばらくそこで待っていると、ドアが開き、だれかが出てきた。どうやらそれはここの従業員らしく、門番はその男と喋っている。『いまよ!』マミは口パクでそういい手招きして3人はそのあいたドアからなかへ忍び込んだ。そのとき、少し急いでしまったので、門番と従業員がなにかと思い少しいぶかしそうな顔をしていた。
3人はドアから離れたところへいき、ホッとした。3人が忍び込んでも特に音などならず、セキュリティも作動しなかったようだ。この世界には透明化の術がないので警備もすり抜けてしまうのだ。3人はさらに歩いて奥に入っていく。
「とりあえず依頼されたリンドという従業員のところまでいきましょ!」マミはそういい、3人は従業員のいる部屋をひとまず見にいくことにした。そうしていくつかの部屋を見ていくうちに、「リンドさん、これはどうしましょう」という声に気づき、3人はハッとして振り返った。すると、「ああ、そうだなここに置いといてくれ」と答えている男。リンド!あの人が!契約書をすり替えて、依頼者の土地を騙し取ろうとしていると聞いた男だ!
3人はしばらく部屋の隅でその男を見ていたが、やがてリンドが部屋から出ていくのを見て自分たちも急いで出ていった。
どこかへ歩いていくリンドを見る。
「後をつけましょう」とマミ。「契約書を探さないといけないけど、たぶん本人についていけばありかがわかるはずよ」3人はリンドについていった。
するとリンドは、ある部屋の前にくると鍵でドアをあけた。そしてなかに入ろうとする。3人もそのドアがあいているうちに、急いでなかに飛び込んだ。3人が見ているとリンドはある金属の箱の前にいく。どうやらそれは金庫のようだ。リンドはダイヤルを回し中から取り出した紙束を見ていたが、やがてそのなかの1枚を取り出して眺めた。
「フッ、あの馬鹿のお陰でまたわが組織のものが増えることとなった。この土地にアジトを立てれば組織の力はさらに拡大し、わたしの野望はさらに現実へと近づくのだ!」ガハハハ…と笑い出すリンドに、3人はゴオオオッとなにか恐ろしいものが迫ってきたかに感じて顔を青ざめさせた。なんてことだ!リンドは悪の組織を拡大させ、この世を自分の思い通りにしようとしているのだ!
リンドはなにかを思い出したように金庫の前から離れた。そのあいている金庫を見て、3人は顔を見合わす。いましかない!そして急いでその金庫に近づいていった。あの中に依頼の契約書があるのだ!
マミは金庫の中からその書類を取り出し、内容を確かめた。するとそれは依頼された書類に間違いなく、「コレコレ」とマミは喜ぶ。そしてそれを持ち去ろうとするが、そのとき……じょじょに3人のからだの色がはっきりし、姿が現れ始めたのだ!
「ああっ!」3人は驚く。後ろのリンドが振り返り、それを見て驚いた。
「なっなんだ!お前ら!」「見つかったわ!」「逃げろっ!」3人は慌てて部屋から飛び出た。「まっ待て…」一瞬立ちすくんでいたリンドも慌てて追ってきた。3人は走って逃げる!
「いったいどういうことなんだ!?」「透明になったんじゃなかったの!?」マミは「透明化の効果が切れたみたい。うっかり持続時間を忘れてたわ」「ええっ(汗)」
リンドは口に笛を当て、ピィーッとならす。すると、ダダダダ…となにかがやってきた。それはこの屋敷の中にいた4人ほどの組織のメンバーだった。
「不審者だ!あいつらを取り押さえるんだ!」メンバーたちは3人のほうへやってくる!3人は慌てた。
「あいつらのところへ向かえ!」「バウッ!」メンバーの連れていた黒くて細い犬の魔物たちが、こちらに向かってきた!3人はぎょっとする!
「捕まるわけにはいかないわ!」
その間にも魔物たちはこちらに近づいていて、いまにも噛みつかれそうだ!サンクはとっさに、「チビドラ!そいつらに火を吐くんだ!」「ガウッ!」チビドラは、口から火を吐き、魔物たちにバーッと火をあびせていった。魔物たちは目を丸くして驚いていた。「それから電気をあびせろ!」「ワウッ!」ポロはからだから発せられた電気を敵の魔物たちに落とした。なんかよくわからないが、ポロは最近雷属性の技に目覚めたらしい。
魔物たちは電気を受けて、倒れてしまった。ここのメンバーたちがやってきて、驚いていた。「おのれ!よくも!」「みんな!やっつけておやり!」メンバーたちが3人に向かってきた!フィリナはクナーベを出し、「クナーベ!祈りの光よ!」という。「クウッ!」クナーベが力をためると、たくさんの光が発せられ、敵のもとに降り注いだ。「うわあっ!」「キャアッ!」召喚獣のときには好きな名前が使えたが、いまは魔物学会の正式な技名をいわなければいけなくなってしまった。召喚するときの詠唱文も必要なくなった。それに技も少ししょぼくなったようだ。
敵たちは攻撃を受け、くたんと倒れ込んだ。
「いまのうちに!」3人はまた逃げ出す。「ま、待てぇ…」敵はよろめきながら3人を追おうとする。
3人が走った先にちょうど窓が見つかった。
「ここから出ましょう!」とマミ。
「ええっ!?ここ3階だぜ!?」が、マミは窓をあけるとくるりと指を振り、魔法でなにかを出した。それは大きなつるで地面まで続いていた。「これを伝って」と窓を出たマミはつるから降り始めた。サンクとフィリナも仕方なくそれに続いた。
「お前ら~!!」メンバーたちが再びこちらを見つけてやってくる!サンクはちょうど窓から出たところだった。
「逃がさんぞ!センプード!」「プーッ!」 敵の連れていた腕が羽のようになった魔物が、からだを回転させる!すると、「うわっ!」激しい風が吹き付け、サンクは吹き飛ばされそうになってしまった!
「ポロ!」一緒にいたポロが吹き飛ばされる!「キャウ~ッ!」ポロは横の小さい出っ張った部屋の屋根に引っかかってしがみついた。「ポロッ!」サンクもとっさにそちらに飛び移り、ポロを助けた。「だいじょうぶか?」「クウッ!」
フィリナとマミが下でハラハラしながら見ていた。メンバーの1人が窓を出てつるからその屋根に移ってくる!「とっ捕まえてやる!」とこちらに向かってくるが、サンクはそれをかわし、またつるのところへいき、そこから下へ降りた。「待てーっ!」メンバーたちもつるから降りようとするが、マミが指を振ると、そのつるはパッと消え、「グエッ」とメンバーは下へ落ちた。
「おのれぇ…」下の入り口からリンドたちが現れた!
マミは書類を取り出し、「この組織で騙し取った土地の契約書は頂いていくわね。もう悪さをしてはダメよ」といいまた指を振った。するとドアが現れた。驚いているみんなを前にマミはそのドアをあけサンクとフィリナをそこに通しいってしまった。ハッとしたリンドたちが近づいたときにはもうドアは消えてしまっていた。
サンクたちが現れたのはきのうマミと出会った場所にほど近い街道だった。
サンクとフィリナは、「あそこからここまで移動してきたのか?」「宿屋の前でもないのに?」と驚いていた。やはりマミの魔法はエスパーの上位版だけあってとてもすごい。
「手伝ってくれてどうもありがとう。この通り頼まれた書類は手に入ったわ」とマミ。
「依頼はうまくいったのかしら?」
「えぇ、あとはこれをギルドに届けるだけだわ」
そして、マミは書類を持って依頼を受けたギルドまでいったのだった。
マミはギルドから戻ってきて2人に、「報酬を受け取ることができたからこれで元の世界に帰れるわ」という。
「たしかそれで材料を買うんだったな」
「えぇ、満月はあさってだからそれまでに手に入れなくっちゃ」
そこでマミと2人は元の世界に帰るために必要な材料を一緒に買いにいった。店の並ぶ通りを歩き、この世界の物がよくわからないマミは2人に教えてもらいながら材料を買っていった。店にはいろいろと珍しいものがあったようで、マミはよく驚いていた。
そして夕方にはどうにか材料も揃い──。
「いやー、助かったわ!あなたたちがいなきゃわからない材料もあったから」と喜ぶマミ。「きょうはいろいろと付き合ってくれてありがとうね。お礼といっちゃなんだけど、今夜はわたしの家に泊まってくれていいわよ」
マミの家とはなんだ?2人はそういう異世界人のマミに不思議そうにした。するとマミは野っ原に「えいっ」と手をかざした。すると、ポンッと煙がたち、そこから現れたのは…
「うわぁ…」2人はそれを見て目を開き驚いていた。そこには大きな家が建っていたのだ。ちょっとしたお屋敷といってもいいだろう。
「わたしが夜寝泊まりするのに使ってるうちなの。 さぁ、どうぞ入って」ドアをあけたマミに続いて2人もそっと足を踏み入れてみた。すると、なかはたくさん部屋があり、家具や調度品で整えられており、2人は見とれたようにあたりを見回していた。
マミは一通り部屋のなかを案内してくれたが、どの部屋もいろいろ物があり、掃除機や電子レンジやTVなど2人が見たことない設備(少なくともこの世界の類似品よりはずっと優れている)が置いてあり、2人はそれらを見て「すごーい」と興奮しっぱなしだった。
ある部屋で。なにか四角い道具が置いてあり、マミがその道具についていたスイッチを押すと音楽がなった。
「ステレオ便利だったから出せるように練習してみたの」それは2人が初めて聞く感じの曲で、マミはその曲に乗って踊りだし、2人は誘われるまま、よくわからないながらもロックンロールで一緒に踊った。夜はお風呂を使わせてもらい、そのお風呂でもまた優れた品質に感激させられた。ぶくぶくと泡が出るジェットバスという初めて入るものだった。
「あぁさっぱりした」風呂上りにパジャマになった2人だが、同じ部屋はダメだといわれてサンクは別の部屋に、フィリナはマミと同じ部屋に寝ることとなった。
ベッドにつく前にフィリナとマミはいろいろ語り合ったりした。話題はやはりお互い不思議な力を持つ者同士、
「わたしの世界では魔法は1000年くらい前に現れて、それから長い年月をかけて発展していったの。呪文や魔法陣を使う様々な術式が生み出されていったわ。いまはもう簡略化されてそういうのは必要なくなったけど」
「超能力はいつからあるのかよくわかっていないの。あるとき突然変異で現れて……記録に残るなかで一番古いのは古代帝政(大体古代ローマみたいな感じ)のころなんだけど、石器時代からあったという人もいるわ」
「前にわたしがいた世界の人たちはまったく魔法が使えなかったのよ。代わりに科学が発達していて生活はまったく不便じゃなかったけど」
「この世界では自分の意思が物体に反映されるんだからよく考えてみれば不思議だわ」
自分たちの好む超自然の話に花を咲かせていた。また、「ところであなたってだれか恋人はいるの?」ときかれ、フィリナは突然のことに戸惑った。女の子というのはどこの世界でもそんな話をしたがるものなんだろうか?
「そんなのいないわ…」と答えた。「またまたぁ、サンク君のことはどう思ってるのよ?」ときかれ、「そっそーゆうんじゃないわ!」マミにからかわれ否定しつつもフィリナは顔を赤くし、2人は恋の話なんかも少ししたりしていた。
翌日は、また3人一緒に町を見たりその辺の原っぱでピクニックしたりした。食事はいつもマミにかけうどんを出してもらって食べていたが、そこへ近所の村人たちがやってきて、不思議そうに見られた。マミはその人たちにもかけうどんを出してあげ、一緒に食べた。村人たちもかけうどんを食べおいしいといって喜んでいた。
その日もまたマミの家に泊めてもらい次の日、今夜は満月であり、マミが元の世界に戻ることができる日だ。マミは最後に帰還の儀式に使う道具を確認すると、「きょうは元の世界に帰らなきゃ」満月の日の昼のうちに儀式を行わなければいけないそうだ。
「いままでいろいろ世話になったわね。大したお礼もできなかったけど」
「あの家に泊めてもらって十分楽しかったわ」
マミはきのう作っておいた道具を地面にかけると、その地面が不思議な色に変わりだした。「あなたたちに出会えてよかったわ」マミのからだがじょじょに薄くなっていく。「こちらこそ」マミは手を振り、2人も手を振ると、マミは完全に消えていなくなっていた。2人はあっけにとられ、ゆっくりとその場所を確かめにいく。地面の色ももう元のように戻っていた。
「…いっちゃったな」
「本当に別の世界からきていたのね」
2人はいま起こった不思議な出来事にしばし感慨深そうに立っていた。
「無事に帰れるといいな」2人は前を見つめていた。
魔法も異世界も自分たちの世界からすれば未知のものだった。そして、今後この世界には麺類が広がることになる。
2人はその後また旅をするため歩き出したのだが、次に立ち寄った町で、ある新聞を見た。そこにはあの宝石商の人間たちの悪事が明るみに出、みな逮捕されたということが書かれていた。サンクたちがおととい書類を盗みにいった組織だ。
「組織なくなったんだ」
「これでもうあの組織に苦しむ人はいなくなるわね」
2人はまた歩き出す。そしてちょっといったところにあった川原で休憩しだした。そのとき、きょうの出来事を思い出し、その話をした。
「なんか、すごかったな、魔法って」
「わたしの力と似たのもあったけど、でもエスプじゃできないこともあったわ」
「まぁどっちの力もおれたちが暮らしていくのに助かる力だけどな!」とサンクはいった。
フィリナは少し考え、そしていいだす。
「科学が発達すれば超能力はここまで活躍できないわ。でもわたしはたとえ科学の発達した世界に生まれていたとしても超能力を使っていたでしょうね」
この世界はエスプが生活に活用されていた。でも科学が発展すればほかのエネルギーに取って変えられるだろう。つまり電気である。
「サンクは?」
「おれは、ほかの世界に生まれてたとしても魔物使いをやりたいな!」
2人はまたいつものようにたわいない話をし、楽しそうに笑っていた。
何年かあと、子供時代をほとんど遊ばずに過ごしてきたフィリナから、この人となら自分が求めていた旅の楽しさを与えてくれそうと思って声をかけたみたいなことをサンクはいわれるのだった。