何時の間にか無限航路   作:QOL

11 / 44
ようやく改訂できた。
遅れてすまない、すまない。


第三章 エルメッツァ中央
~何時の間にか無限航路・第9話、エルメッツァ中央編~


■エルメッツァ編・第9章■

 

 

 

 さて、貰えるもんは貰って置こうの精神の元、俺達は現在いるエルメッツァ・ラッツィオからお隣の宇宙島であるエルメッツァ中央に進路を向けた。到達するためには途中にある惑星ベルン近郊を通過する航路を経由して、宇宙島を結ぶ空間直結門のボイドゲートを通過しなければならない。久しぶりの長旅になりそうだ。

  短期間のうちに係留する宇宙島を変えるのは、道中のリスクを考えるとあまり例を見ない。新進気鋭な0Gドッグなら多少なりとも躊躇するのだが、実は宇宙島を変更する理由はオムス中佐から報酬を得るという目的のほかにもう一つあるのだ。

  

 

 つい先週、この宙域を荒らして回っていた海賊団を軍と共に蹴散らしたことは記憶に新しいだろう。宇宙基地まで持つような大規模な拠点を持つような海賊であったが、マッドサイエンティストを抱えている俺達相手では荷が重過ぎて、現在海賊活動は沈静化しているといってもいい。拠点を失ったのだから、精々が小さなフネを散発的に襲う程度だろう。シャチの群れの如く大物を狩っていた栄光は過ぎ去ったのだ。

 そんな訳で俺達が海賊の本拠地をぶっ潰して略だ…ゲフンゲフン、落ちている物の有効利用をしたお陰で海賊の活動が大幅に縮小した。だがその反面、海賊が居なくなってしまったことで、俺達の普段の収入となっていた海賊船を拿捕しての金稼ぎに利用する事が出来なくなってしまったのである。

 

 

 別に殲滅とかしたわけじゃないし、他宙域にも海賊勢力はいるので、一時的に空白地帯と化したあの宙域を狙う海賊を待ち伏せれば狩ることは出来たのだが、残存艦隊といっても小型の水雷艇が一隻だけだったり、斥候として単艦でくる輩とかだったりして実入りは激減してしまっている。 

 ただでさえリアルタイムで貯蓄を消費していると言うのに、せめて駆逐艦レベルじゃないと買い取りの値段的に美味しくない。貯蓄消費の原因はもちろんマッドどもに一因があることは言うまでもない。

 

 そもそも0Gドッグは資源採掘可能な惑星を発見したり新たな航路を発見したり治安を脅かす海賊などの討伐を行ったりして名声値を蓄積しておけば、フネの修繕や補給をほぼ無償でしてもらえるようになっているのである。

 それなのに資金不足に陥るのは通商管理局が保障していない事、すなわちマッド共の技術開発により消費される資源があるに他ならない。消費されるのは資源なのになんで金がと思われるかもしれないが、特注の機材を要求されたり稀少金属や稀少土類がトン単位で必要とされれば自然とこうなる。

 

 

 むろん宇宙は広いのだし、自前で採掘して資源を得れば安く出来るのだろうが、残念ながらすでに発見されている航路上にある資源星はその殆どが採掘済みであり、よしんば採掘できても鉄やニッケルといった宇宙ならどこでも出るようなありふれた資源しかない場合が多い。もちろんこれらも売れば金になるが、ショックポイント破砕採掘装置を備えた大型採掘船などの大規模採掘と比べると、機械掘りとはいえ採掘量はスズメの涙。

 

 一山幾ら(といっても最低100トンからだが)で100G程度の利益を得るよりも、ある意味で準資源の塊である海賊の宇宙船をスクラップにしてサルベージ、もしくは鹵獲したほうが金額が高くなるのは仕方が無いのである。それに採掘機械は近隣惑星から採掘専用の許可を帯びている0Gドッグで無いと補給や保証をしてもらえないので根無し草な俺たちの場合、下手に高価な採掘装備を持つとこれまた金が…。

 

 

 兎に角、言いたいのは下手の横好きで手を出すよりも、必要な資材を必要な分だけ買い揃えたほうが結果的にお安いということなのだ。リアルタイムで資金を消費してくれる連中には色々と申したいこともあるが…、まぁ連中も敵艦のスクラップを再利用するなりして可能な限り安くはしてくれるようやり繰りはしてくれている。そこらへんを容認できるかが、艦隊司令官としての器が試されるところだと俺は思うことにしている。

 

 話を戻すが、そんな訳でラッツィオ軍基地を出た後、思いつきで新兵器開発した所為でお金を消耗してしまった俺達は早く次の宙域に進み金を稼ぎたかったのだ。

 まってろ海賊船(金づる)、俺たちの懐を暖めてくれ。

  

 

 

――そしてゲートまでの道中はキングクリムゾン。ゲート前に来ていた。

 

 

 

「ボイドゲートが見えてきました艦長」

「いよいよこの宙域ともおさらばッスね」

「しかし、次の宙域の方が大変かも知れないね」

 

 ボイドゲートを前にして、トスカ姐さんはそんな事を言った。

 

「なんでッスか?」

「次の宙域にはここで潰しちまった海賊と袂を同じにする兄弟海賊団、スカーバレル海賊団が居るのさ。恐らく弔い合戦をかねて襲われるかもね」

「義理人情ってヤツッスかねぇ。ま、お金が向こうから飛び込んできてくれるのは大歓迎ッス。エコーさん聞いてた?」

「はいはい~、レーダーの警戒レベル上げておくのねー?」

「たのんだッスよー。早期発見、早期金積っスからね~!」

「O~K~!」

 

 

…………………

 

 

 

……………

 

 

 

…………

 

 

 ボイドゲートを抜けた先は満点の星空…宇宙なのだから当然である。それはともかく俺達の艦隊は遂に二つ目の宇宙島であるエルメッツァ中央宙域にたどりついた。

 新しい宙域なので(海賊狩り的な意味で)非常に心躍るところであるが、先ずは情報集めが必要と判断したので、俺はフネの進路をラッツィオ側に繋がるボイドゲートから直線距離において一番近い惑星パルネラに寄港することにした。

 

「そして例によって訪れるのは酒場だったり」

「マスター!ボンベイサファイアをロックで…」

「あいよー!」

 

 0Gドッグ御用達酒場は今日もほどほどに繁盛って感じだった。この光景自体はそれなりに海賊が少ない宙域では当たり前の光景なので特筆すべき事はない。それ以上に情報が欲しい俺は、隣で度数の高い酒をジョッキで飲み始めたトスカ姐さんを尻目に、ちゃっちゃと酒場のマスターに話しかける事にした。

 

「ねえマスターさん。いきなりで悪いんスけど、なんか役立つ情報ないッスか?」

「ふむ、情報ですか?」

「もうね。なんでもいいっス。なんせ“来たばかり”ッスからね」

「なるほど…では、惑星ネロにメディックという医療団体の本拠地があるのはご存じですか?」

「メディック…衛生兵ッスか?」

「いえ、団体名がメディックというのですよ。彼らは医療ボランティア団体でしてね。紛争地帯で苦しんでいる傷病人に無償治療を施して救って回っているんです」

 

 メディック、彼らは俺の時代で言う所の国境なき医師団みたいなもんである。たとえ辺境星系であってもそこに病床人がいるならば、専用病院船で即座に駆けつけ治療します!が信条のお医者さんたちのあつまりらしい。基本自分優先な0Gドッグが闊歩している時代に随分とまぁ奉仕精神に溢れた方々がいらっしゃるもんだ。とりあえず覚えておこう、まぁ一応サド先生という医者はいるから特に重要な問題ではないな。

 

「まぁ、誰かが大けがしたら利用することにして、ほかには?」

「あとは、星系間の紛争問題で宙域が荒れているので、ここいらを航海するなら気をつけた方が良いですね」

「なるほどなるほど…追加でもう一杯OK?」

 

 マネーカードをちらつかせながら意味ありげに笑みを浮かべてやると、酒場のマスターも同じく笑みを浮かべていた。情報には対価を、ソレはどこの時代にもおんなじだったり。

 その後も適当に金を握らせ、噂話も集めて行く。火が無い所に煙は立たずとは良く言ったモンだ。キナ臭い話がこんな辺境入口近くの田舎惑星にまで届いてやがる。どうも紛争が始まるというのは決定っぽいな。しかもこんな時期にツィーズロンドに行く事になっている俺ら。ヤナ予感で脳汁があふれそうだ。

 

「俺あの中佐に会いたくないッス~…」

 

 溜息出ちゃう。艦長だもの…。あの人なんか野心がビンビンって感じでなぁ。その為に利用されそうで…というか既に利用されてるんだけどね。怖くなったら逃げよう。うん。クルー達の為にもな。

 

 

―――――こうして情報を集めたあと、一日を待たずにすぐにこの惑星を立つ。

 

 

 この星には設計図データを売っている会社も何もないからな。長居してもしょうがないのだ。順調に航路に乗った為、俺はまたやる事が無くなり艦内の散歩へと向かう。そう言えば、ケセイヤさんに頼んだアレ、出来ているだろうか?ふとそう思いたった俺は、フネの格納庫兼、男共の夢の部屋へと向かった。

 

 

…………………

 

 

 

……………

 

 

 

………

 

 

「イィィィィヤァッホォォォォッ!!」

『どうだい艦長?お前さん専用のVF-0Sw/Ghost《フェニックス》の乗り心地は?』

「最高ぉぉぉぉッス!」

 

 ギュインギュインと鋭角に曲がりながら叫ぶようにして応える。操縦桿が馴染む、非常に馴染むぞぉぉぉ!!これが専用機体の威力なのか!?

 ほんの少し前にフラフラと格納庫へとやってきたのだが、飛んで火にいるなんとやらであった。なんと格納庫にはちょうど組み上げたばかりでシートのビニールがまだ掛ったままの出来立てホヤホヤな新採用艦載機が台座に固定されているではないか。

  

《―――飛ばないか?》

「うほっ」

 

 そんな声を聞いた気がした俺は、ホイホイとシートに着座してしまったのだ!あまりのすわり心地の良さに艦長権限で早速自分の物だーひゃっはー!と駄々をこね…もとい、所有権をもぎ取り着座調整してから飛び出した――というわけだ。

 本来はVF単体のはずなのだが、なぜか最初から宇宙用追加パック登載している。パックの形状は劇中最終話に登場したゴーストパックである。いわゆる特攻仕様であり、原作の用途的に使い捨てブースターな印象が強い装備だ。

 もっとも現在背中に背負っているGhostは無人攻撃偵察機からの流用ではなく、完全に専用のブーストパックって事になっている。形状がそのまんまだけど、浪漫汁溢れてかっこいいから俺は気にしない。

 

「行くぜ三段変形!!」

 

 戦闘機形態から中間形態にシフト!そのまま人型形態に!

 くぅ~ロマンだぜ!最高だぜ!

 小型船舶運転免許持ってたユーリに感謝なのぜっ!

 

【艦長、フネから離れすぎています。反転してください】

「…了解」

 

 でも。操縦の細かいサポートはユピテルに頼んであるんだけどな。ええそうですよ。俺が幾らユーリ君の知識持ちでも宇宙戦闘機の操縦なんていきなりはピーキー過ぎて出来ませんわ。シミュレーターにデータぶち込んで練習しないとね。うん。

 どちらにしても既存の艦船とは性質が全然違う操縦法になる。純粋に飛行機と操縦が変わらない形態のファイターやヘリやホバークラフトみたいな中間形態のガウォークの場合は、推進器を使うから慣れれば問題ない。

 だが人型形態の時は脚部を使うので歩行という動作が追加される。これが厄介で操作が前二つとかなり異なるので、いきなり変形して操縦なんて事はまず不可能。俺もユピという高性能なAIのサポートがないと無理である。ガンダムの種の序盤でOSがどうたらで運転できますん!とか喚いていたみたいな感じだろうか?

 

「早い所、人型形態も自分で運転出来る様になりたッスね」

【そしたら私はお役御免で寂しいです】

「いやいや、ユピにはフネの管理っていう仕事が―――」

【艦長のサポートがしたいんです】

「うれしいこと言ってくれるじゃないの。じゃあとことん付き合ってもらうからな?」

【はい!頑張ります!】

 

 ユピの発言に思わずアベってしまった。グス、本当に成長したなぁユピは~。感情って言うのも覚え始めたんじゃないだろうか?AIに寂しいって言われるとは思わなんだよ。

 

「そうだいい事考えた。お前、俺の後席役しろ」

【本当ですか!】

「どうせしばらくはパイロットの補充目当てが無いッスからね。その点ユピなら信頼出来る優秀なクルーッスよ?俺の後ろを預けても良い女房役にはちょうどいいッス」

 

 ユピはかなり高性能なAIだからな。航路やレーダーのオペレートはミドリさん譲りでウマいだろう。

 

「そう言う訳でケセイヤさん?聞いてた?」

『おう艦長、面白そうだから任せとけ!通信機能の向上とか“色々”やってやるよ』

【お、お願いいたします!ケセイヤさん!】

『任せとけ!この俺を誰だと思ってやがる!』

「【マッドな整備班長ケセイヤさん!】」

 

 俺とユピが口をそろえてそう言うと、ケセイヤさんは漢らしい笑みでサムズアップした。どうやらマッドは褒め言葉らしい。

 

『そう言う事だ。まぁとりあえず艦長、その機体無事に戻しておいてくれよ?先行量産したばっかりで予備パーツも造ってないんだからな。壊れたら直せないぞ?』

「了解ッス。……うん、結構飛び回っていたしそろそろ仕事に戻らんと怒られそうだし戻るかな。ユピ!帰還誘導頼むッス!」

【アイサー艦長っ!】

 

 ユピに頼むと旗艦ユピテルの格納庫ハッチが開き、誘導ビーコンが伸びた。これに沿ってあとは帰るだけなんだけど、ソレだと面白くないなぁ。

 

「ユピ、ココから普通だと大体どのくらいかかる?」

【そうですね。9分と言ったところでしょうか?】

「それじゃあアフターバーナーを起動させたなら?」

【………数分も掛からないかと思います。ですが、最大加速では慣性制御のGキャンセラーでもキャンセルしきれないGが発生するので、調整が万全でない今はあまりお勧めできません】

 

 いやまぁ、そうなんだけど、どうせなら限界性能を試してみたいじゃないか。

 

【解りました。サポートします。でも限界だと感じたら私が操縦しますよ?】

「仕方ないッス、ゴーストパックの力が見たいだけなんスから」

 

 とりあえずB形態からF形態へと戻してっと。俺はコンソールの黄色と黒のシマシマのボタンをグイと押した。なんかよく見るとドクロベェ様みたいなマークがあったような気がするが、見なかった事にしよう。

 

≪ギュゥゥゥゥン―――ドウンッ!≫

「ぐがっ!負けるかぁぁ!」

 

 襲い掛かるかなり強烈な加速G、だけど俺だって負けてやらん。デイジーリップでも気絶するなんて恥ずかしかったからアレから鍛えたんだ!トーロと一緒に偶に重力が何倍かの部屋にいるんだから、それなりに耐えられる筈!

 

 

 

―――と思ったんだけど…。

 

 

 

「ぐががが…やっぱりまだ無理ッス!」

 

 まだ無理でした。ブラックアウト寸前にまで我慢したけどコレ以上は無理。仕方ないので再度スイッチを押しブースターを止めて通常航行に戻す。ちぇっ、まだ早すぎたか…ケセイヤさんに頼んで対G訓練室作ってもらおう。

 

「あー、顎が痛いッス」

【大丈夫ですか艦長?】

「ん?平気ッスよ。ただ自分の脆弱さを自覚しただけ」

 

 もやしっ子って言われたくないけど、このままじゃ貧弱貧弱ゥ~とみんなから言われそうだ。プロテインでも買って筋トレするべきか?そう思いつつシートに背を持たれる俺だった。

 

 

 

***

 

 

 

 さてじゃじゃ馬な専用機の練習もそこそこに、フネは目的地である惑星ツィーズロンドに到着した。ステーションに停泊し、クルー達には休息、そして俺は――――

 

「やってまいりましたが軍司令部ってな」

 

 俺以下数名を引き連れて政府軍司令部にやってきていた。ココでくれるって言う報酬の為に俺は来たのである。

 

「流石軍本部、ドデカイ建物ッスね」

「そうかい?これでもこじんまりしている方だと思うが」

「コレでッスか?…はぁ宇宙は広い」

 

 見上げれば広い敷地に数百メートルはありそうな建造物。建物の大きさだけなら東京都庁を軽く超えているんだけど、まぁこの世界だと1000mクラスの高層ビルは結構当たり前に各惑星に建っているし、第一大気圏外まで伸びるオービタル・エレベーターなんて大きいのだと全長数百km…そう考えると、軍施設でもこじんまりしているように見えるから不思議だ。

 

「とりあえず守衛さんに話しかければ良いんスかね?」

「まぁ、それが良いだろうね」

「俺が言うんスか?」

「ユーリがあたし達の代表だろう?しゃきっとしな!」

 

 バシンとケツを叩かれる。うーむ、気合入れられてしまったからにゃ、頑張らにゃ男が廃るってモンだ。とりあえず中に入れてもらわないと話が進まないので、司令部の入口に立っている守衛に話しかけた。

 どうやら既に話は通っているらしく、そのままある一室へと通された。

 

「おお、待っていたぞユーリ君」

「お久しぶりです中佐。報酬ください」

「とうとうロウズからココまでやって来たのだな」

「ええ、トスカさんを含め優秀な部下達に助けられました。あと無視しないでください」

「ふむ、船乗りはそうして航海をするモノだ。仲間の助力を恥じる必要は無いぞ。それと報酬はちゃんと用意してある」

 

マネーカード!お金ですよ!お金!!……最近守銭奴みたいになってる気が……。

 

「毎度っ!」

 

 でもお金はお金。お金に罪は無い。

 

「う、うむ。――さて、さっそくだが君に幾つか話がある。まずは頼まれていたエピタフの情報なのだがね」

 

 幾らくらい入っているかなぁフヒヒと笑っていたら、ちょっと引き攣った笑みを浮かべた中佐が咳払いをしたので、頬ずりしていたマネーカードを懐へとしまう。それを見ていた中佐がなにやら指パッチンで合図を送った。すると背後のスクリーンが点灯。何かが投影された。

 投影されたのはダークグリーンの背景に浮かぶ白い文字。非常に細かな文字が高速で上から下へと流れている。早さもそうだが分量も多いので眼で追いきれない。これは何といった視線を送ると中佐が口を開いた。

 

「エピタフの情報量を甘く見ていたよ。まさかこれ程まで考古学の遺物に関する情報が多いとは…今は手に入れたデータの洗いだしに手間取っている状況なのだ。すまない」

 

 ああ、後ろの言語が流れる画面はそういう演出か。いやいらんだろその演出。

 それはおいて置いて、ククク我が仕返し慣れり。エピタフは真偽はともかく小マゼランはおろか隣の銀河にまで名が広まっているようなアーティファクトなのだ。中央お勤めのエリート軍人様であろうとも、浮かび上がってきたデータは非常に膨大で泣きそうになっているだろう。

 いやぁ、利用されてやったんだから、これくらいの仕返しはねぇ?

 

「それと最後なのだがね」

 クククと黒い笑いを心の中で浮かべていたら、またもや話題変換で再び画面が切り替わる。今度はこの周辺の宙域図が投影された。なんかある惑星がピックアップされてら、何々、ファズ・マティ?

 

「この宙域にはスカーバレル海賊団がまだ存在している。かなりの海賊船がファズ・マティに集結中とのことだ」

「ファズ・マティ?」

 

 再び画面が切り替わる。今度は何か球状の三次元立体モデルが投影された。見た感じ何かの人工物のスキャンしたものっぽい。というか、これってデ○スターの模型に似てるような…。

 

「スカーバレル幹部、アルゴン・ナラバスタの本拠地である辺境の人工惑星だ」

「人工惑星ですか。豪勢な事で…」

 

 見たところ目玉みたいなスーパーレーザー発射口はなさそうだから、文字通り唯の人工惑星なんだろうな。俺も超弩級宇宙戦艦作ったけど、それとは比べ物にならないだろうお値段。

 かー、これだから略奪者ってのは始末が悪い。こっちが資金面で四苦八苦してるってのに、あっちは強奪した財力に物を言わせて巨大宇宙建造物ですかー?羨ましいぞコラァ!

 つーか人工惑星だから自力で移動できたりするのかな?これで実は外側が流体金属で覆われてて、内側からものすごいビーム砲がせり上がってとか言われたら裸足で違う星系まで逃げるけどね。

 

「情報によると、最近内部エネルギーが活発化しているらしい。その時期はラッツィオでの海賊討伐が行われた後と重なっている。おそらく残存戦力が合流したという事なのだろう」

「ふーむ。じゃあ俺達襲われますね、分かります」

「君たちは大分彼らに恨みを買っている様だから確実だろうな。まぁそう言う訳で海賊の掃討にも力を貸してほしい」

「報酬は出ますか?」

「おおよそ3000用意してある」

 

 ならやるか。ジャンク品なら駆逐艦編成の10個艦隊分の売り上げと同等の値段だしな。拿捕した場合もっと高いが確実に拿捕できるってわけじゃないし。それにこちらとしては海賊が収入源なので元より海賊狩りはやるつもりである。言われなくてもという心情だったので、ある意味渡りにフネであった。

 中佐に海賊掃討依頼を受諾する事を伝え、俺達はそのまま基地を後にしようとした。だがいざ踵を返した俺達に中佐は再び声を掛けた。

 

「あと、君たちはディゴという男を知っているかね?」

「ディゴ?…知りませんね」

 

 ウチのクルーになら知り合いの一人はいるかもしれないが、すくなくても俺の知り合いにはいない…って考えたら、俺の友達とかって乗組員以外いないんじゃね?

 

「ど、どうしたのかね?急に頭を抱えて?」

「宇宙って孤独な場所なんだと急に思ってしまって」

 

 無限に広がる大宇宙…広すぎッス。と大宇宙の彼方を思い浮かべている俺を見ていた中佐は、何かもう諦めたような目でこっちを見ていた。痛い人でさーせん。ふひひ。

 

「話を続けるぞ?実はこの男は海賊に潜入しているスパイでな?」

「スパイ?ザッカスさんじゃなくて?」

「海賊もかなりの規模があるからな。本拠地に送り込んだ人員は指の数じゃ足りんよ。ついでにいうと我々が最初に遭遇した時、君たちに襲い掛かっていたのはこの男だ」

「わおっ!―――まさかあの戦闘って仕組まれていたという事ですか?」

「海賊団を壊滅させたおかげで彼奴の仕事は海賊のスパイから紛争地帯での諜報任務に変更されたのだよ。報告書に毎回休みを寄越せと書きなぐるあたり、大分大変らしい」

「ちょっと、さりげなく話を流さないでくださいよ。あの時はけっこう怖かったんですよ?それに紛争ですか?そう言えば辺境の惑星で噂を聞きましたけど…」

「この宙域にある資源惑星帯を巡って紛争が起きているのだ」

 

 オムス中佐がそう言うと、再び画面が切り替わる。今度は宙域図に小さな艦隊達が映し出され、画面上の両陣営のチビ艦隊たちは砲雷激戦でボカスカやり始めた。さりげなくレーザーやミサイルが飛び交っているあたり芸が細かいぞ。スゲェなオムス中佐の部下さん達。

 

「直接的な敵ではないとはいえ、戦地での任務を行っている彼にも支援が必要なのだ」

「要は自分たちの力を貸せと?」

「そうだ、出来れば君たちの力を貸してほしい」

 

 つまり、ざっくばらんに言うと、戦場に行く→ディゴさんと合う→なんかして紛争をどうにかしろ!って事ですね。なんという脳筋、そんなん軍隊なんだから本国に任せろや。与えられた戦力だけでどうにかしたいのは山々だけど、海賊と紛争、二面作戦は失敗の元ですぜ。

 正直地雷臭がヤバイので俺は応えあぐねいていた。すると、今まで黙っていたトスカ姐さんが口を出してきた。

 

「それって、報酬給与の条件に追加した話かい?」

「いや、そう言うつもりは無い。コレは私からの素直な頼みだと思って欲しい」

「ふぅん…ココで断ると“何も無い”航路上で流星群が見られるって寸法かい?」

「ふむ、宇宙では流星群は珍しくないがね」

 

 流星群、ね。人為的なのは流星群と呼ぶのだろうか?

 

「解りました。出来るだけやってみましょう」

「な!?……ユーリいいのかい?」

 

 中佐を睨むように俺より一歩前に出ていたトスカ姐さんが驚いたように振り返った。その眼には困惑が浮かんでいたので、俺は彼女のほうに顔を近づける。

 

「どうせこの宙域には暫く留まる予定ッス。協力しないで下手に放置しておいても、結局紛争には巻き込まれるッスからね。組織の援護が得られる状況はあるに越した事はないッスよ」

「そりゃ…そうだけど」

 

 なーんか、今度はトスカ姐さんの方が答えに困っていた。俺が即決したのにビックリしたんだろうかね?とりあえず損得勘定から言わせてもらうと、この宙域に居る以上は協力した方が良いだろう。一部航路は恐らく一般人の入出が制限されているだろうからな。どのみち紛争を終わらせないと次の宙域に行くのも大変そうだ。

 

「こちらに火の子が降りかかる前に消す。俺たちならソレ位出来るでしょう?」

「……アイアイサー、艦長はアンタさ。わたしはそれに従うよ」

「感謝する。ディゴ中尉はネロと言う惑星で活動している筈だ」

 

 はいはい、接触しろって事ですね?解ります。りあえず報酬は手に入れたので、俺達は黙って部屋から退室する。玄関に向かう途中でトスカ姐さんが口を開いた。

 

「ふぅ…報酬を貰いに来ただけが、色々頼まれちまったね」

「致し方無いでしょう?ココで断ったら暗殺ですよ」

「やっぱりユーリも気がついていたか」

「ええ、あの中佐はかなりの野心家です。下手に断るのは得策じゃ無い」

「そうだね…ところでその喋り方止めな。背筋が痒くなる!」

「あ、酷いッス!俺だって真面目な時は真面目ッス!」

 

 そんな事をギャーギャー言い合ってたら、守衛のおじさんに注意されちったい。

 

 

***

 

 

「―――ま、そう言う訳だから、とりあえず惑星ネロに向かうッスよ」

「「「「りょうか~い」」」」

「あと恐らく海賊連中が来るけど―――おいしく頂いていくッス!」

「「「「了解っっ!!」」」」

 

 この先の予定を主要メンバーであるブリッジ要員たちに説明したのだが、なんか前者と後者で返事の気合が違う。それも仕方がない、だって軍からの協力依頼は報酬こそ出るがそれは固定額なのだ。

 だが後者の海賊の場合うまくいけば一攫千金。アウトローで博打が嫌いじゃない0Gドッグが性分的にどちらを選びたくなるのかなど言わんでもわかる。それ以上に束縛を嫌う自由な連中なので、結構面倒くさいというのは分かってるんだろうな。

 糞が付くほど面倒臭いが、既にやるといった以上やらない訳にはいかない。この程度で軍に狙われるのは以前にも言ったがバカらしいのだ。別に期限指定はされて無いから、最終的にどうにかできれば道中片手間でも得に問題は無いだろう…たぶん。

 

「さてと、ケセイヤさん?」

『おう!艦長、なんか用か?』

 

 適当にメンバーに説明を済ませた後、俺はブリッジの艦長席から直接ケセイヤさんへと連絡を入れた。現在彼は格納庫にいるらしく、空間ウィンドウの背景には忙しなく動き回るガントリークレーンやマニピュレーター、更には低重力にしてあるのか宙を飛び交う人の姿が映っている。

 ケセイヤ自身、作業途中だったのか機械油か何かの汚れが頬に付着していた。忙しそうだが俺は彼に確認しなければならない事があった。

 

「ケセイヤさん、VFの電子機器強化タイプって作れるッスか?」

『おーRVF-0の事だな?』

「え?」

『こんな事もあろうかと既に出来ているが、何だ?さっそく使うのか?』

 

 そういうと空間ウィンドウに新たな画面が生まれる。画面端にはケセイヤの横側が見えていることからさほど遠くない場所らしい。だが新しいウィンドウのメインは画面中央いっぱいに写りこんでいるVF-0であろう。

 航空力学が考慮された滑らかかつ鋭利な形状を持つ戦闘機の系統を思わせるVF-0.その背中の部分を大きく丸いものが覆っている。一本の支柱により機体と接続されたそれは機体の6割を覆うほど巨大なものであった。かの機体が背負う丸い物体、それこそがレドームと呼ばれるセンサー機器であった。

 ケセイヤのヤツ、信じられない事につい一日前に色々ロールアウトしたばっかりの機体のバリエーションを既に完成させていたのである。これには俺もビックリしたが、まぁ考えてみれば、この間の試乗の時に色々作ってくれる事を同意していたので、作っていてくれたのだろう。

 これだからマッドは手放せない。浪漫溢れてかゆいところに手が届くのだから。

 

「その機体、早期警戒機って事で使いたいんスけど。なんとか使えないッスかね?」

『問題無ェよ。ちょちょいっと俺がレドームの設定を直してやればネジサイズの物体でも発見できらぁな。ただ問題はこの一機しかないから――』

「それじゃあもう少し時間が要るッスか…」

『――いや、2時間くれれば6機程度なんとかなるな』

「………は?」

『要するに普通の機体の背中に追加装備みたくレドーム貼り付けたダケだからな。一応コックピット周りのアビオニクスもある程度弄らんといけないし、センサー範囲も搭載できるCPUの関係で若干狭いが、早期警戒程度なら十分だろうよ』

「あ、ああそうなの?じゃあ頼むッスよ?それじゃ」

『おうよ。しかしさっすが俺だな。こんな事もあろうかと色々作れるなんてマジで天才だぜい――』

 

 ………マジぱねぇ。

 

 

 

 あ、そうだ。忘れちゃだめだった―――

 

「エコーさん、後でケセイヤさんが早期警戒機を出すんで、早期警戒機とのセンサー範囲のデータをモニター出来るようにリンクさせといて欲しいッス」

「了解したわ~。アクティブとパッシブの両方とも使うのねー?」

「そこら辺の専門的な設定は任せるッス。ケセイヤさんとも相談してくれッス」

「わかったわ~」

 

 エコーさんの方にも連絡を入れたので、後はよきに計らうことだろう。早期警戒機があればこれ迄よりも更に広範囲で索敵する事が可能となる。そうなれば、今まで取りこぼしていたような海賊艦隊も発見できるかもしれん。

 いやー、幸先がいいな。稼ぐぜ稼ぐぜ。

 

「各部署は半舷休息に移行。適当に休息を取りながら過ごしてほしいッス」

「半舷休息了解、アナウンスしておきます」

「トスカさん。後は任せた」

「あいよブリッジは任せておきな」

 

 さて、必要な指示は下したし、俺は俺でシミュレーターでVFの操縦練習でもしよう。せっかく作った劇場版特攻仕様機を遊ばせて使わないのはもったいないからな。

 

 

……………………

 

 

 

………………

 

 

 

…………

 

 

 ブリッジを後にして暫く。俺は船内の空いていたスペースに何時の間にか増設されたVF用のシミュレーターモジュールに赴き、そこで自分専用機の操縦法を会得する為に特訓を行っていた。

 実は本来のシミュレーターモジュールはもっと後のほうの星系でしか手に入らないのであるが、このモジュールは廃品その他から自作されたモジュールらしく、このフネに搭載されたもの以外はどこにも存在しない唯一のモジュールだったりする。

 

「ぐあぁぁっ!疲れたッスーー!!」

 

 実際のVFと同じレイアウトで調整されたアビオニクスが配置されたコックピットモジュールに乗り込んだまま、俺はそう叫んでいた。戦闘機の操縦+二足歩行ロボの操縦という全く操作法が異なる機体を動かすというのは、なんていうかすっごく疲れた。

 しかもこのシミュレーターはサナダさん特製の慣性制御装置によって疑似Gを体感できる本格仕様なのだそうだ。どこで手に入れたのか小型グラビティ・ウェルの技術を流用しているらしい。

 ゲロ吐かずに良くココまで持ったモンだと自分で自分をほめたい。

 

「ユーリやっと見つけた。何してたの?」

 

 コックピットモジュールでぐったりとしていたところ、俺以外誰もいなかったシミュレーター室に誰かがやって来た。そちらに眼をやれば瑞々しい翠の髪を靡かせる美少女の姿が…我が義妹チェルシーが来ていた。ぜんぜん気がつかなかったぜ。

 

「んー、見てのとおりシミュレーターッスよ。この間のトライアルでウチの主力になった戦闘機があったっしょ?あれの専用機を強請ったら貰えたんで、特訓中なんス」

「ふーん。近くで見てもいい?」

 

 そういって俺がいるモジュールのところまでやってくるチェルシー。俺が座っている部分は少し上のほうに置かれているのだが、そこへ来る途中の階段を上っていたチェルシーがバランスを崩して転びかけたので、慌てて手を伸ばし彼女を抱きとめた。

 だが直後、全身に走る稲光!これは―――

 

「痛い!筋肉が痛い!乳酸が痛い!」

 

―――筋肉痛であった。かなり集中して練習していたので、これまで気になっていなかったのだが、チェルシーが来た事で気が緩んだっぽい。思わず叫んでしまう俺を見たチェルシーは名残惜しそうに俺の腕から離れた。

 

「筋肉が痛いの?それなら新鮮なグレープフルーツジュースが良いね。作ってくる」

「い、いつの間にそんな豆知識を…」

 

 ビクンビクンと筋肉の痛みに顔を顰めていたら、チェルシーがそんな事を言い出したので驚いた。まぁ確かにグレープフルーツなどはアスリートは結構飲んでいるらしいと俺も聞いた事がある。すぐには効かないだろうが、折角可愛い義妹が俺の為に準備してくれるというのだから、飲まないという選択肢はないのだっ!

 

 それはともかく、グレープフルーツなんて何時積んだんだっけ?そう呟いた俺にチェルシーはコテンと首を傾げながら不思議そうに口を開いた。

 

「アレ?ユーリ知らないの?フルーツとか船内ショップで買えるんだよ?」

「船内ショップだと?―――ああ!!」

 

 そうだ!この間、一々生活班の倉庫に取りに行くのが面倒臭いっていうクルーの要望に応えてモジュール突っ込んだった!!

 

「まってチェルシー、俺も行くッス!つーかまだ俺行ったことないし」

「うん、じゃあいっしょに行きま……一緒?」

「一緒に行きたいんスが…迷惑か?」

「あ、ううん!?違うの!………これってデート、だよね?この間トスカさんから貰った雑誌にそんな記述あったような――ゴニョゴニョ」

 

 何故かブツクサ呟いているチェルシー。なんか考え込んでいるみたいだけど、悩みでもあるんかな?今度それとなしに聞いてあげたほうがいいかもね。そんな事よりもショップモジュールについて好奇心が刺激された俺は、筋肉の痛みにもめげずにシミュレーター室からでた。

 それのしてもホントウチの旗艦はデカイ。艦長の俺ですら把握しきれないぜ!

 

「……帰りは手を繋いで、それから――あ!?ユーリ待って!一緒がいいよ!」

 

 

***

 

 

 そう言う訳で、艦内ショップにやってまいりました。

 位置的には居住区画、船体のやや後で中心に近い位置にあるらしい。すぐ隣が生活班の倉庫なので、在庫切れで無い限り品数は途切れないのが自慢だそうだ。

 

「へぇ、ここが艦内ショップッスか?」

「うん、それなりに大きいでしょ?」

 

 うん、大きいね。セッティングした時は小型モジュールだった筈なんだが、下手なスーパーよりも大きい。だが驚くべき事はそれだけではなく、なんともいえない懐かしさをショップから感じていた。

 店自体は新装開店なので綺麗なものであり、内装もノスタルジックなものなどない。むしろモダンというか整頓された小奇麗さがそこにはある。だが、俺はこの光景を、ものすご~く見た事があるんだな、コレが。

 

「これなんていうジャ○コ?」

「ん?何か言ったユーリ?」

「いえいえ、何にも言って無いですよ?」

 

 スゲェなイオ○グループ…この時代にも残ってやがった。

 売っている品物も、多少パッケージが違う程度で変わらな―――

 

「……何コレ」

「ブルゴ産のグレープフルーツよ」

「グレープフルーツってこんなんだっけ?」

「ええ、美味しいよ?」

 

 グレープフルーツがブドウのように房についてます。一体どんな品種改良がおこなわれたんだオイ。名を体で表したんかい。後で調べたら、これが普通のグレープフルーツの実り方だそうです。俺が知識不足名だけだった。

 

 俺ったら、本当に、馬鹿orz

 

「いろいろなモノが売ってるッスね」

 

 とりあえずグレープフルーツを二つカートに入れて、それ以外の事はスルーすることにした。そしてショップ内を見て回るが、流石は○オングループである。雑貨の品揃えが半端ない。なんかここだけ20世紀な空気があるような気がして俺はノスタルジックな思いが浮かぶぜ。

 

「うん、雑貨や食料品、衣服に薬や化粧品、それに武器も売ってるよ」

「……え?武器まであるんスか?」

 

 我が妹の言葉にちょっと絶句。マジかよ。ショップ入れた張本人だけど全然知らなかったぞ?何でもありか?と言うか艦内で武器売ってどうするんだよ?

 

「とりあえずグレープフルーツとか買って帰るッスか」

「うん、解った。じゃあちょっと買って来る」

 

 彼女はそう言うと、あの房付きグレープフルーツを持ってレジに向かう。ちなみにレジはセルフで、商品タグをセンサーにかざした後マネーカードで購入する。これは以前から生活班のところで物を貰う時から使っていたシステムであり、ステーションで補充される物以外の嗜好品などの金が掛かるものを買った時に使われていた。

 使った分は給料から天引きされるシステムだが、たとえ給料が残って無くても次の月から天引きできるようになっている。これの恐ろしいところは銀行と財布が合体しているようなところにあり、実際どこぞのマッドな改造バカはカード使いすぎでメシ以外でのカードの使用が停止中であったりする。自業自得だべ。

 

「しかしまぁ、次はどんなモジュール入れるッスかね?」

 

 自然公園のモジュールでも購入するかね?

 そう思っていると――――ケツがぶるった。なんだ?

 

「ん?携帯端末?――はい、もしもし?こちら素敵な艦長です」

『ミドリです。艦長、さっそくエコーが海賊の艦隊を発見したそうです』

「わかった、すぐに行くッス」

『お待ちしてます』

 

 あらら、どうやら敵さんのご登場だ。そしてボケをスルーされて泣きそうだ。

 だけどそんな事言ってる場合じゃない。全く、政府軍も航路の安全くらい守ってほしいな。

 

「チェルシー、悪いけど俺ちょっとブリッジにいって来るッス」

「ん、わかった」

「ソレは後で貰うんで頼むッスよ?」

「うん、それじゃあね」

 

 俺はショップで彼女と別れ、ブリッジへと向かった。

 

 

***

 

 

【艦長、ブリッジイン】

「状況は?」

「オル・ドーネ級巡洋艦1、ガラーナ級、ゼラーナ級駆逐艦が各一隻ずつです」

「観測データから察すると、ラッツィオ方面より改造が施されているらしい」

「既にAP・EPは展開、奴さん達は目が見えなくて焦っているぞ」

「全武装の射程圏内だから既にロックしてあるぜ」

「―――で艦長、どうするんだい?」

 

 呼ばれたから来たものの、報告を聞く限り俺が来るまでも無かったな。

 すでに準備は万端じゃねぇか。俺要らない子?……まぁ俺には指示を下すっていう役割があるしな!問題ないな!あははは。

 

「んじゃ攻撃しよう。でも敵の武器をなるべく潰すようにするッス」

「原型はとどめるんだな?撃破はしないの?」

「敵が降伏せずに逃げようとしたり攻撃してきたら、まぁ花火も嫌いじゃないッスが、そうすると高く売れないッスからね。エンジンもなるべく残したいッス」

「精密射撃を行うって事か…ま、なんとかならぁな」

 

 同じジャンク品でも原型率高いほうが買値が高い。

 生活の知恵(?)ってヤツですね。分かります。

 

【艦長、控えているアバリスは使いますか?】

「う~ん☆」

 

 ユピが進言してきた。その内容にドナルドはついつい…もとい、俺は少しあごに手を当てて考える。

 

「いや、必要ないッス。今回はホーミングレーザーの実戦テストにちょうどいいッスからね。シェキナを使うッス」

 

 シェキナは旗艦ユピテルの両舷に配置された発振機から照射されるレーザー砲である。重力井戸の技術により空間で捻じ曲がり敵へと曲射できる新兵器であり、今回の敵との戦闘でどれだけ使えるかが解るだろう。前回の実験は成功してるから、たぶん大丈夫だと思うけど実際使ってみないと使い勝手は解らんのだ。

 

「そう言う訳でストールさん!ミューズさん!やっておしまーい!」

「任せてくんしゃい!ポチっとな!」

「…あらほらさっさー」

 

 船体各所からレーザーが照射され、重力レンズにより偏向。

 ストールの勘とユピによる演算により、的確に敵艦へと向かって行く。

 

「全艦、兵装に着弾、戦闘不能の様です」

「フネの噴射口も潰すッス。航行不能にしちまえ!」

「了解!」

 

 更にレーザーを照射、噴射口に当てて敵を逃げられなくする。マジで俺ら鬼畜すぎるな。自重しないけど…というか段々砲撃の腕が神掛かって来たなストールさん。

 

「ミドリさん、降伏勧告を打電、無理なら沈めて構わないッス」

「了解」

 

 ミドリさんが降伏勧告を行うと、敵さんはあっさりと降伏した。

 ついでにフネから降りて逃げるなら追わないと通達したところ、我先にとフネを捨てて脱出艇に乗り込み逃げて行った。まるでネズミが逃げるような有様だ。こうして新しい宙域での初戦闘はあっけなく終ったのだった。

 

「なんとまぁ、歯ごたえの無い敵だったな」

「まぁ敵は逃がしたから、また襲い掛かってくるでしょうな」

「カモがネギしょって帰って来るッスね」

「実に効率的なやり方だ。さすがはユーリってとこかねぇ?」

 

 褒めるなよ。照れるぜ。効率よくやらねぇとフネが立ち行かないだろう?

 さて、この後は拿捕したフネごとトラクタービームで牽引する。

 

「惑星ネロまで後少しッスね」

「案外海賊たちは出て来なかったな」

「まぁ紛争が起こってるからそっちに行ってるんだろうね」

 

 紛争中って言うのはゴタゴタしてるから、政府軍の監視も緩い。だから商船とか襲い放題だし、軍の輸送船を襲っても良い。敵方に偽装していればそれだけ稼げると言う訳である。

 

「稼ぎ方間違えてるよな」

「まぁ効率はいっスけど。まさに外道ッスね」

「まぁ外道だから海賊張ってるんだろうけどな」

「「ちげぇねぇ」ッス」

 

 こんな会話をしながら、三隻ほどの収穫と共に、ネロへとたどり着いた。

 

 

***

 

 

 ステーションにフネを預け、指定された場所に向かう。

 と言っても、行くところはやはり酒場だったりする。

 

「しかし、毎回思うんスけど」

「ん?どうしたユーリ」

「なんで会合場所は酒場ばっかなんでしょうね?」

 

 常々疑問に思っていたのだ。どうせなら人気の無い所で話すんじゃねぇの?酒場なんて不特定多数の人間が沢山いるのにどうしてなんだ?

 

「それは――」

「逆に酒場のほうが目立ちにくいんだよ」

「「――誰だ!」」

 

 トスカ姐さんとの二人の会話にいきなり水を差した低い声のした方を向く。そこには50代くらいで髪の毛をオールバックにした男が立っていた。あれ?この人どこかで見たような…。

 

「よぉ、中佐から連絡は受けてるぜ?」

「あ!あんたがディゴさんか。そういや前に見たな」

 

 ディゴさんは中佐が言っていたとおり、ラッツィオにいた頃(第6話)にスカーバレル海賊団の専用巡洋艦であるオル・ドーネ級に攻撃された時に見ていた。あの時交信した巡洋艦の艦長で海賊団で幹部をやっていた人物だ。

 もっとも一見すると唯の冴えない中年労働者にしか見えんが、そういうのが大事なのかもな。スパイだし。

 

「というか海賊の時のまんまな姿なんスね」

「あんた普段からその格好してるの?」

「いやなに、此方の方が動きやすくてな。良い服だろ?」

 

 さぁ?俺はこの時代のファッションには疎いもんで…。

 

「良いんスか?アレ」

「まぁ普通な方じゃないか?」

「良いんだよ。周囲に溶け込めて目立たずに済むと言う意味じゃとても良い服だ。スパイの基本は大衆に紛れ目立たないことだからな」

「確かにそこら辺のおっさんと大差ないッスね」

「はは、ありがとよ」

 

 スパイだけに目立つのはダメなんだろうなぁ。片手に酒瓶持ってるから仕事帰りに飲んでたおっさんに見えなくもない。そういった意味じゃティータの兄貴はダメダメだったな。酒場でモロにエルメッツァ中央軍の軍服姿だったし。

 まぁあの人はなんか麻薬とかで洗脳されてて二重スパイ化されていたらしいから、色々と日常生活に変化があってもおかしくはないが…。

 

「ところで出会って早々で恐縮なんだが、お前等のこの先の航海に役立つ人間を一人、仲間に加えてやって欲しいヤツが居るんで紹介してもいいか?」

「仲間に?なんでまた」

「ああ、実は俺の知り合いからの紹介でな。情報の取引ついでに引き受けたはいいが、ここいら急に紛争ががおっ始まっただろ?そんな時に美味い事お前等が着てくれッてわけだ。ちなみにアイツはゴッゾの生まれらしくてな、ここらの宙域に詳しいから、いろいろと役に立つとは思うぜ」

 

 そう言うと彼が手招きしてみせる。すると彼の背後の席から一人の少年が立ち上がり姿を現した。白い髪の毛で線が細く眼鏡でインテリっぽい。第一印象は、インテリめがね?

 

「…イネス・フィン。よろしく」

「ん、俺は艦長やってるユーリッス」

「あたしは副長のトスカだ」

「艦長…?君が…?」

 

 なんだコイツ。名乗って握手まで差し出したのに、それを無視して俺を上から下まで舐めるように見てきやがる。うーん?―――ま、まさかコイツはっ!?

 

「あ、おいおい俺にそのケは無いぜ?」

 

 思わず椅子ごとイネス少年から遠ざかった。こっち見るな、ケツがむずむずする。そんな俺の態度にイネス少年は少しばかり眉根に皺を寄せて叫んだ。

 

「僕も無いよ!」

「ならなんで上から下までじっとり見るの?馬鹿なの?死ねよ」(((( ;゚Д゚)))

「ストレート過ぎないかなぁ!それ!というかいい男が怯えるなよ気持ち悪い!?」

「いい男?やっぱり」

「ち、ちがう今のは言葉の綾で――」

「うっさい。ゲイは嫌いなんスよ。オネエ系は嫌いじゃないけど」

「その違いがわからないよ!?なんなんだ君は?!」

「私が噂の変な艦長で「はーい、そろそろ真面目にやるよユーリ」グエっ!?」

「おい、イネス。そこらへんでいいから話を進めようぜ?」

 

 ギャーギャー言い始めた俺達を見かねてトスカ姐さんとディゴさんが割って入ってきた。というか姐さんにヘッドロックをかけられた俺は、彼女の腕っ節の強さ+豊満な胸部追加装甲を前に極楽と地獄を両方味わっていた。

 すこしして開放され、とりあえず仕切りなおしと相成った。

 

「…まぁいい、一応協力させてもらうよ」

「あ゛?一応だって?」

 

 だがいざ話が再開すると、これである。上から目線もいいところだった。

 

「ボクとしては君みたいな子供が艦長とは思えないもんでね。本当にそうならボクが認めたら艦長と呼んでやるよ」

                    _, ._  

 何コイツ?偉そうなこと言いやがって( ゚ Д゚)

 俺は隣にいるトスカ姐さんに目配せして席を立つ。

 

「トスカさん、帰ろう」

「そうだね」

「え!?ちょっと!」

「どういうつもりだ?ユーリくんよ?」

「そっちこそ分かってるんスか?こちとら協力してやる立場なんだ。あいにくウチのフネには失礼なヤツを乗せるほどの余裕は無いんス」

 

 ディゴさんが一瞬剣呑な空気をまとってにらんできたが知ったこっちゃない。俺は艦長で艦隊のトップ。気に入らんヤツを懐に入れておくほどお人よしじゃないつもりだ。大体なんだ?いきなり人を見るなりガキ扱いしてその言葉。

 原作ユーリならどうなのか知らんが、俺はああいうのはノーセンキューだね。なんとなくだが他のクルーといざこざを起しそうな気がするしな。

 

「だが、ここらの宙域の案内に雇って貰えば役に立つぜ?」

「知らぬ土地なら自力で調べるくらいできる。最低限の礼儀も知らんヤツと我慢して旅するような状況でもないッスから」

「嫌しかし」

 

 ディゴさんは俺の頑なな態度にトスカ姐さんに助けを求めるような目線を送った。もしかしてトスカ姐さんが俺の保護者か何かだと思っているのだろう。残念ながら俺はお飾りの艦長などではなく、立派に一人の艦長なのである。

 

「はん、ウチの艦長がそういうなら、副長の私はなにも言えないねぇ」

 

 だからトスカ姉さんがそうきっぱり言い放つのは当然だといえた。両者に何とも言えない沈黙が流れる。だが、その沈黙を破りイネスが口を出した。

 

「どうやら見誤っていたみたいだな。君は確かに艦長だ」

「――へっ?!」

「どうした急に?」

 

 いきなり態度を軟化させたイネス少年に俺達は面食らう。第一野郎に褒められても嬉しく無いんだが?というかディゴさん、俺達よりかは知り合いの筈のアンタがなんで驚愕してるんスか?

 

「あ、あのイネスが…俺の事はこき下ろす事しかしなかったイネスがほめた!?」

「失礼な人ですね。この育毛ヤロウ」

「ズラじゃ無い!この陰険眼鏡が!」

「育毛って言ったんだ。あと眼鏡は名前じゃ無い。イネスだ」

 

 なんか、読めてきたぞ。イネスの野郎、俺を計ろうとしたんだな?でも俺は自分の意思でヤツを拒絶した筈なんだが?そこら辺はどう写ったんだ?

 

「今まで見た0Gドッグは育毛「ディゴさんっだ!」…ディゴが政府軍とつながりがあると知った途端にお客様扱いしようとしてたからね。その点君は自分の意思をシッカリとと通した。これは0Gドッグにおいて一番大切なものだと思ったのさ」

「どうやら、唯のプライドが高い高慢ちきってわけじゃなさそうッスね。勘違いしてたそこは謝るッス」

「いいさ、そう言ったのには慣れている」

 

 確かに誤解を頻繁に招きそうだなぁ。喋り方が妙に冷静なのも、そう言った所から来るのかもしれない。それは一先ず置いておくとして、だ。

 

「何故いきなり褒めた?煽ててもフネには乗せないぞ?」

「別に?素直にそう思ったから褒めた。ただそれだけさ。そこに他意は無い」

 

 成程なるほど、コイツもそれなりにプライドでもあるのかと思っていたが、どうやら相手を見定める事が出来る人間だったか。やれやれオイラもまだまだってことかねぇ。

 

「で、どうする?乗せるのか乗せないのか?」

「うーん、実質イネスは何が出来る?」

「まぁ色々と…科学と指揮と管制なら出来るかな?」

「ふむん」

 

 空きは無いな。だが常に冷静な判断が出来そうだし、とりあえずは彼を乗せる形に持っていくか。これで有能ならくみこんじまおう。

 

「まぁいい、この宙域の案内出来るんスね?」

「そこら辺は任せろ。この宙域は庭みたいなもんだ」

「そうか、それなら航路アドバイザーって事でどうだ?」

「構わない。最初からそのつもりだし、既にディゴには前金も貰っている」

「はは、踏み倒しにならなくて良かったッスね。ようこそイネス」

「こちらこそ」

 

 こうしてまた一人仲間が増えた。

 

「はぁ、結局乗せるんなら今までの会話は何だったんだよ」

「ディゴさん、一々気にしてたら身が持ちませんよ?」

「おい、今どこを見た?」

「いえ~別に?」

 

 アデランスってこの時代にもあるんだろうか?

 

「まぁそんな事は置いておいて、紛争の話何スけど」

「俺としてはさっきの視線の先について子一時間「ディゴ、ズレてる」―――ズラじゃねぇ!いや、まぁ…本題に入っか」

 

 流石にふざける雰囲気じゃ無いのは解るんだろう。ディゴさんの顔が真剣なモノへと変わった。彼は手元のお冷が入ったグラスから水を少しだけ飲んで咽を潤すと、静かに語り始めた。

 

「直接的な原因はベクサ星系だ」

「ベクサ星系?」

「レアメタルとかの資源となる物質が多く含まれた衛星や準惑星・小惑星に恵まれた星系でな? これがまた丁度紛争している2国の中間にあるんだなこれが」

「成程。あ、どうぞ続けてください」

「それでな随分と昔なんだが、このベクサ星系の分割を巡って一度は両国間で分割協定が結ばれたんだが、その境界線を越えて片方が通達もなく資源採掘を始めちまった」

 

 おー成程、俺の時代で言うところの領海における資源採掘の問題みたいなもんだな?

 お互いが決めた領海を越えて採掘したら、そら戦争になるわ。

 

「最初は採掘業者同士のいざこざ程度だったんだが、今じゃお互いの国が艦隊を出しあって睨みあいってわけさ」

「中央政府軍は動かせないんスか?」

「一応自治権を持つ星だからな。強引な介入をしたら批難を喰らうのは中央政府だ」

「なるほどねー。コレだから政治は面倒臭いんスよね」

「ああ、全くだ」

 

 情報部も大変だな。そんな事態だから休みも取れないだろう。

 まぁ同情はしないけどな。

 

「小マゼラン随一の集積国家エルメッツァ。合わせて3万隻の艦船も張り子のトラみたいなもんだ」

「で、俺達は何をすればいいんスか?」

「直接何かしてくれって言う気は今の所ねぇさ」

「今の所、ね?」

 

 てことは時期が来たらやらせる気満々かい…やっぱ逃げようかなぁ?

 

「逃がさないぜ?」

「なんも言ってないッス」

「眼が逃げたいって叫んでるぞ?これでもスパイだからな。人間の内心をある程度察するのには長けてんだ」

 

 さいで。

 

「まぁ、とりあえずお前達には、とある人物を探して来て欲しい」

「とある人物?」

「ルスファン・アルファロエン。かつて政府軍にいた伝説の戦略家だ」

「伝説ってつくと、なんか途端に胡散臭くなるッスね」

「はは、今の人間は殆ど知らんだろうな。だが彼なら良い解決方法を思い付くだろうってのがオムス中佐の意見だ」

「一人の人間が情勢を変えるなんて夢見たいな話ッスね」

「それが出来るから伝説扱いなんだよ」

 

 再び、ディゴさんは水を飲んだ。そうかルスファン・アルファロエンか…、確か原作にも登場した人だったな。ゲームのシステム上、あまりその戦略が生かされるプレイは出来なかったけど…。

 俺が原作知識を思い返している最中、話を聞いていたトスカ姐さんが口を挟んだ。

 

「ふーん、そのアルファロエンってのは、どんな人間なんだい?」

「引退してからは身を隠し、今は自由気ままな放浪生活だそうだ。ちなみに70を超えた老人だって話だ」

「70で放浪?!元気な人ッスね?」

 

 まぁ俺の前の世界でも、じっ様は齢80にして登山とかしてたけどな。

 

「情報が足りないねェ。それだけじゃ雲をつかむような話だ」

「ラッツィオ宙域の辺境で見たって人間がいるらしい」

「辺境っていうと」

「ボイドゲートを越えたアッチの方だろう。また戻るのか」

「面倒臭いッスね」

「頼むぜ、こっちもこっちで解決しなきゃならん問題だらけで、首も回せないくらいなんだ。猫の手どころかサルと鳥と犬の手まで借りたいところなんだ。マジで頼む」

 

 そう言われてもなぁ。とりあえず辺境周辺をかたっぱしから調べるしか無いな。軍から手伝え言われた仕事は、どこにいるかも分からん老人の捜索か。面倒くさいと思いつつも、俺はディゴさんと別れそのままフネ戻り、翌日になって出港した。

 

 当然ながらクルー達には逆戻りかよと突っ込まれたが、やらないわけにもいかないのだ。でも結局引き返して前の宙域に戻るなんて、やっぱり面倒臭いなぁ。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。