何時の間にか無限航路   作:QOL

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~何時の間にか無限航路・第15 話、エルメッツァ中央編~

■エルメッツァ編・第十五章■

 

 

 紛争を食い止めたり、スカーバレル海賊団なる海賊組織を壊滅に追い込んだりと、紆余曲折あって久方ぶりに惑星ツィーズロンドへと辿りついた。

 

 港に艦隊を停泊させた後、俺は軍本部にアポを取り、紛争問題の解決及び何故か達成してしまった海賊退治を終えたことを直接報告する為、俺はトスカさん達を連れて、あの野心あふれるオムス中佐殿に面会しに来たのであった。

 

 

「ユーリ、アンタまだあの中佐が苦手なのかい?」

 

「いや、まぁ。いい加減諦めたッスけどね」

 

 

 向かう道中、俺の心中は穏やかではいられない。どうもあのねっちょり感って言うの? 纏わりつくかの様な視線と雰囲気が嫌なんだよね。今回はさらにこちらからあることを承認して貰いに行くから余計に気分が滅入った。

 

 

「艦長、そんな事よりも早く建物の中に入ろうっ?」

 

「イネス、何でそんなにワタワタしてるんスか?」

 

「別に艦長が尻込みしようがどうでも良いんだが…「酷ッ!」…ココは玄関だから目立つんだ!」

 

 

 そういや殺気からもといさっきから、ニコニコとした顔を崩さない守衛さんの額に青筋が浮かんでるね。うん、ここで騒いでたら怒るよね? 俺達は急いで受付に歩いていく。別に守衛さんが怖かった訳じゃないぞ? ほんとうだぞ?!

 

 

「あの、すみません。アポをとってある0Gドッグのユーリです」

 

「あ、はい。話しは通ってます。ただ、中佐は現在こちらでは無く士官宿舎にいらっしゃるので、其方に向かった方が早いかと思います」

 

「そうですか。情報感謝です」

 

 

 さて、何回も来てたからいい加減顔見知りになった受付の人にお礼を言いつつ、俺らは士官宿舎へと足を向けた。士官宿舎へ着き、受付さんに知らされていた部屋番のインターフォンを鳴らす。部屋の奥にでもいたのか、少し待たされてからやっとインターフォンがつながった。

 

 

≪おお、ユーリ君来たかね?ロックは解除したから入っても大丈夫だ≫

 

 

 適当にへーイと返事を返し、オムス中佐の部屋へと向かった。流石に佐官だけあり、宿舎はかなり豪華な部屋なんだよなぁ。俺の世界で言う所の六本木ヒルズ位かね? そんな訳でオムス中佐の部屋へとやってきたのである。

 

 

「君の活躍は聞いている。大分頑張ったそうではないか?海賊の被害も一気に減った」

 

「はは、それ程じゃないですよ。皆が頑張ったから出来た事ッス」

 

「それでも、彼らは君の元に集まった者たちだ。それを率いている君も誇っても良いだろう」

 

 

 とまぁ、こんな感じで社交辞令のあいさつのやり取りが行われる。正直、俺はこういう真面目なのは苦手である。うぅ~肩が、肩が五十肩みたいに凝って来たでヤンス。

 

 

「挨拶はその辺にして、何か私に用があって来たのだろう?」

 

 

 そろそろ真面目に不真面目するべきかと真面目に不真面目なことを考えていたところ、オムス中佐はそう言って真面目な表情でこちらを見る。というか、ふつうは用が無い限りこんなとこ来ねぇよ。察しろよ。

 

 

「ええ、ウチの艦隊も大きくなりましたので、一応しかるべき所に報告に来ました」

 

「やはりか…。ステーションに居るあのホワイトフリートから、君達のIFF信号が出ていたから、もしやと思ってはいた。しかしまた随分と勢力が増えたな」

 

「海賊退治の為に頑張りましたので」

 

 

 正確には海賊退治の後、マッド達が趣味と実益の核融合の末に生まれた艦隊なのだが、そういうのは別に言わなくても良いだろう。必要なのは、艦隊がそこにあるという事実で、過程は問題ではない。

 

 

「でまぁ、反逆勢力とか、新たな賊とかに間違えられない為にエルメッツァに承認して欲しいんでスよ」

 

「ふむ成程、そう言えば君達の目的は宇宙を巡る事だったな。確かに誤解を避ける為に国家の様な公式の存在に船団として認めてもらいさえすれば、犯罪を起さない限りは色々と便利だろう。名声という意味でもな」

 

「解っていただけたようで何よりッス」

 

「なぁに、君達の名声は意外と高いのだよ? 非公式ながら紛争解決に尽力し、更にはこの宇宙島にはびこる海賊も一掃してくれたからな。その貢献度ならば、すぐに君たちの艦隊は政府公認になることだろう。とりあえず何と言う団体名にするかね? 一応呼び名を決められるのだが」

 

 

 呼び名ねぇ?

 

 

「決めないとどうなるんですか?」

 

「認識番号で呼ばれるだろう。今なら0Gドッグ第8千番艦隊か船団という事になる」

 

 

 ふむ、ソレは味気ない。せっかくの船団なのに、呼び名が第8千番艦隊とか。なんかカッコ悪い。とりあえず後ろにいるイネスとトスカさんに聞いてみた。

 

 

「ねぇ、どんな名前が良いと思う?」

 

「そうだねぇ、ここはやっぱりユーリがきめな」

 

「僕もそう思う。この船団を率いるのはユーリだからね」

 

「実は二人とも考えるのがメンドイとかじゃ?」

 

「「ギク」」

 

 

 ギクって、口に出して言うなや。まぁ良いけど。

 

 

「ほいだば、俺が勝手に決めるッスね」

 

 

 そういや、ふと思い出したが、俺たちは海賊から渾名を付けられていたっけ。

 

 

「決めたかね?」

 

「はい中佐、≪白鯨艦隊(モビーディック・フリート)≫でお願いします」

 

 

 ウチの艦隊の旗艦ユピテルは白い船体だし、それに合わせた護衛駆逐艦艦隊も全部白い。漆黒の宇宙でも目立つであろうその姿は、確かに白鯨と銘打つにふさわしいと思った。ユピテルは美人さんなのである。なんちゃって。

 

 

「成程、白色の艦で構成されているからか。洒落ているではないか。それでは、とりあえずソレで登録しておこう。空間通商管理局にも手続きをしておくぞ?」

 

「お願いします」

 

 

 はぁ、これで国家から認められた0Gドッグか。国家の犬とか言われそうだけど、自由に好き勝手するから犬ではないぞ。せめてオオカミで通したい……野良犬とか言われたら泣くけどな。

 

 

「手続き云々は、そちらからのアドバイザーと共に私がしておくとしてだ。ちょっと以前に君から言われた報酬として、エピタフについての情報をくれと言った事があったな? (ラッツィオ編・第7章あたり参照)」

 

「え、ええ確かに――!」

 

 

 やっべ、すっかり忘れてた。元々嫌がらせ用に言った報酬だったんだけど、もしかしてエピタフが見つかったとか? いやいや、まさかそんな伝説になるような遺物がそうそう簡単に見つかる訳ないじゃん……あれ?ちがうの?

 

 

「実は調査に出ていた調査船がとある宙域で行方不明になってしまった」

 

 

 Ou……なんてこったい。

 

 

***

 

 

 さて、現在、我々白鯨艦隊は行方不明となった調査船を捜索するために、惑星オズロンドを経由して、進路を一路ボラーレ宙域へとっていた。

 

 正直なところ面倒くさそうなので断りたかったのだが、以前の報酬に情報を頼み、その結果行方不明になってしまったらしいのだ。さすがに見捨てるのは寝覚めが悪いので、仲間にそのことを説明した後、急いで調査しに逝く事となったのである。口は災いの元とはまさにこのこと。

 

 そして件の調査船が行方不明になったのは、辺境も辺境の惑星ボラーレ近辺宙域らしい。どれくらい辺境かというと、以前紛争関連で立ち寄ったベクサ星系への航路のほぼ倍の距離といった感じだろうか。

 

 ベクサ星系自体、資源採掘の為の星系なので辺境といえば辺境なのだが、こっちはそれに輪をかけて辺境といえるかもしれない。

 

 

「艦長。ボラーレ宙域に到達しました」

 

【全艦隊オールグリーンです】

 

 

 そして、道中で特に何か起きるというわけでもなく、俺たちはボラーレ宙域に到達していた。もともと危険度は低く、ちゃんと航路を確保できる安定した宙域の筈なのだから、海賊とかのような敵と遭遇する可能性もほぼなかった。

 

 この間あったことといえば、新しく増えた駆逐艦や巡洋艦と連携できるかの確認や普段の日常程度であり、特筆すべきことは本当に起きなかった。あまりに平和で昼寝が捗ったのは言うまでもない。

 

 

「艦長?」

 

「おいユーリ。返事くらいしな」

 

「おっと、すまないミドリさん。少し考え事してたッス」

 

「それはいいので指示をください」

 

 

 んー、それじゃあねェ。とりあえず広域探査を行う事にしよう。レーダー班のエコーさんにお仕事して貰おうかねぇ。そう思いつつ、俺はコンソールを操作して彼女のところに通話用の空間ウィンドウを繋げた。

 

 

『あらー?艦長、なんか用ー?』

 

「ウィ。広域探査で調査船のこん跡とかって調べられるッスか?」

 

『ちょっとまってー。うん、大丈夫、できるよー』

 

「それじゃ、ちょっと探して貰っても良いッスか?」

 

『まかせてー、久々の出番だから燃えるわ~』

 

 

 なんかメタな発現だった気がするが、俺はそれを華麗にスルーして空間ウィンドウを閉じる。ふぅ、大型艦になってブリッジがでかくなった事の弊害ってやつだな。駆逐艦だと離れても凡そ3m程度なんだけど、このクラスのフネになると、艦長席から下の席まで6mの落差がある上、一番離れた席だと最大20mを越えていたりする。

 

 普段だと座席の通信パネルのスイッチをオンにしているんだけど、偶に一人で考えたい時などに切ってしまったりすると相手に意図を伝えられない状態になる訳だ。このフネになってからは、常時携帯端末とかが手放せないと言う訳である。

 

 フネもデカイから、マジで携帯端末が無いと、一々デパートの迷子センターみたいにアナウンスしないといけない。それはある意味非常に恥ずかしいのである。俺も何度か呼び出しを喰らったことがあるが恥ずかしかったとかを超越したね。マジで。

 

 

「正直、エピタフ何ぞどうでも良いスけどねぇ~」

 

 

 通信を閉じてから一人ゴチる。あれって持っているだけで大変なアーティファクトだからなァ。周囲にはそれが目的の一つみたいな事を言っちゃったし、後悔先に立たずを身をもって体験中ですわ。

 

 

【そうなのですか?艦長】

 

 

 と、俺の漏らした声に反応する者がいた。

 

 

「あや?ユピ聞いてたッスか?」

 

【私はこのフネそのモノですから】

 

 

 そういやそうだった。

 

 

「あー、まぁとりあえず今のは秘密ってことで頼むッスよ」

 

【何故ですか?】

 

「バレるとメンドイから」

 

 

 俺が悪戯っぽくそう言うと【はぁ、そう、ですか……艦長との秘密、ですか】と、微妙に納得してなさげではあったが、一応了解してくれたようだ。

 

正直、エピタフ関連は原作通りに進めるのが目的ならあった方が良いけど、そういうのにこだわらないなら無くても良いってのが内心なんだよね。手に入るなら有っても良いし、無いなら別に無理して欲しいとは思わない。

 

 エピタフは約十センチ四方のキューブ。詳細は不明な謎のアーティファクトである。原作ゲームにおけるキーアイテムであり、こいつに下手に手を出すとイベントであったような喜劇悲劇含めてさぞかしスリリングな事態が起きるだろう。

 

 その所為で俺のフネのクルーが一人でも欠ける様なことになったら、俺はちょっと耐えられんかもしれん。なんだかんだ言っても彼らに対して愛着が湧いてるしな。彼らと共にもっと遠くまで、もっと不思議な物を見る為にも今は力を付ける時期なのだ。

 

 とはいえ、軍からの依頼みたいなもんなので、探さないわけにもいかない。前途は多難だな。とりあえず周辺のスキャンを暫く行わせて、何か反応があるか見てみよう。

 

 

『艦長ーあのねー、なんか資源探査装置が惑星オズロンドの近くで資源衛星帯をみつけちゃったー。どうするー?』

 

「行くに決まってるじゃないッスか?イネス、航路変更、リーフはそれに合わせて針路変更ッス」

 

「ま、何をするにもお金は居るもんな」

 

『針路変更アイサー』

 

 

 前言を撤回するようで恐縮だが、途中で小遣いを稼いでも怒られはしないだろう。だって俺たちは0Gドッグ。宇宙の放浪者はなんでも手に入れたがるのさぁ。

 

 

***

 

 

 さて、資源衛星に人海戦術であたり、適当に掘り終えて金銭に換算して300G程度の資源を手に入れた。儲けたぜ。その後は再び広域探査を行いながら、惑星ボラーレに続く航路へとフネを進めた我ら白鯨艦隊。

 

 アバリスを前に後ろにユピテルが付き、その二隻のまわりを巡洋艦が挟み込み、駆逐艦は広範囲に扇形に近い形で展開させる。この輪形陣の変則のような陣形は広範囲に展開する為の陣形で、VFも駆逐艦たちの通信アレーを通して遠くまで偵察に出せるのが利点であった。

 

 この陣形でとりあえずオズロンド方面からボラーレへ向かう航路上をローラー作戦の如く探査を行う。これでいずこかにいるかもしれない件の調査船の足跡を見つけようと考えたのだ。見つかればよし、見つからなければ、まぁ別の航路や宙域で同じ探査を行うだけである。

 

こうして、早く見つかれと内心呟きつつ、探査を開始した。

 

 

「艦長、先行していたK級駆逐艦が、この先で航海灯を切って停止している艦船を複数発見しました」

 

 

 そして、さっそく索敵網に不審船発見の報が上がる。いや、はやいよ。まだ捜索再開して20分経ってないんだけど? たまたま索敵陣形に掠める位置に不審船が来ていたのか? というか不審船っていうがどんな不審船だ?

 

 

「現在、シルエットなどからデータ照会中―――出ました。エルメッツァ地方軍の艦艇の様です」

 

「地方軍? それにしちゃ、妙なとこをうろついてるねぇ」

 

「何か気になるんスか?トスカさん」

 

「ああ、いくら地方軍でも、こんな辺境までは特殊任務でもないかぎり普通は来ない筈だから気になって」

 

 そこまでトスカ姐さんが説明した時であった。先行したK級から送られてくる映像にノイズが走る。何事だ? そう思った直後、ユピテル艦橋に接敵のアラームが鳴り響いた。

 

 

【前方のエルメッツァ地方艦隊。ガラーナK級へ砲撃を開始しました。熱量の増加に伴い自動防衛システムが作動。オートリアクションを行います。ミサイルの発射を検知、APFSおよびデフレクター同時展開します】

 

 

 我が艦どころか無人の艦隊をも統括するAIユピが、K級に対して行われたことを逐一報告してくる。どうやら、あちらさんが行き成り敵対行動を仕掛けてきたようだ。

 

 幸いこちらの駆逐艦はデフレクター展開が間に合ったようで、向こうが撃ってきたミサイル攻撃が当っても対した損害は出ていないようだった。精々デフレクター用シールドジェネレーターに負荷がかかる程度か。

 

 それ以前にK級を動かしているAI自体、コントロールユニットに付属する超高性能AIユピの模造AIである。これまでの航海の間に、航法を担当しているリーフの操艦技術を、コンソールを通して電子的に学習している彼女からコピーされたAI達。

 

 そんな彼女らが見せる戦術的な艦隊機動、すなわちTACマニューバは、かなりのレベルに到達していた。実際、攻撃を受けたK級は単艦でありながら相手艦隊の攻撃をほとんど躱している。まれにグレイズ……じゃなくて至近弾で掠ることはあるが、船体に直撃というのは確実に避けていた。

 

 どうしてもよけられない場合はシールドが厚い部分で受け止めるなどという芸当をやってのけるなど、非常に芸が細かいのはコピー元が優秀だったからだろう。

 

 

「敵艦隊、さらに砲撃を開始」

 

【K級に直撃弾。デフレクター出力3%程低下、耐久値3000±200で安定。正常値内です】

 

 

 でも、実質ダメージはないとしても、この“攻撃が掠る”というのは、実にいやらしい動きである。なにせ相手から見れば掠るということは攻撃対象が弾道の軸線に被っているということで、すなわち当てられると錯覚してしまうのだ。

 

 つまり、敵さんがムキになる。当たりそうなのに当たらないというのは、砲撃手の微妙なプライドを刺激するのだ。相手がきわめて冷静な人間ならば、当たらないと判断したら即、砲撃を中断するだろうが、この微妙な回避の所為で敵は無駄弾を消費している。

 

 レーザー弾頭だってエネルギーの塊だから、無駄に撃てば当然、ため込んだエネルギーを無駄に発散していることになるのだ。フネの機関部からもたらされるエネルギーは膨大で、ほぼ無尽蔵に近いが、ため込んでおけるレセプターは限界がある。エネルギーはレーザー砲だけではなく、フネのすべてを動かす原動力だ。

 

 それを無駄に浪費するのは、バカなの? 死ぬの? と言いたくなるもんだ。しかし、あの連中は戦力差を見ていないのだろうか?

 

 

「あの連中、なんで攻撃してくるんスかね」

 

「さぁね。多分解ってないんじゃないかね?」

 

「ナニがッスか?トスカさん」

 

「だって今、ユピテルと巡洋艦は海賊避けに電子妨害装置の出力を全開にしてるだろ?それに他の駆逐艦もだいぶ離れた位置にいるしね。単艦しかいないようにみえているのかもしれないよ。大体目視できる距離じゃないんだしね」

 

 

 成る程、先行しているK級はともかく、後方にいる俺達白鯨艦隊本隊は向こうに見えていなかったのだ。だから連中、駆逐艦一隻しか居ないと思って攻撃してきているという事か。

 

 しかし何で軍が攻撃してくるんだ? 地方軍とはいえ扱いは正規軍、民間所属の0G ドッグに手を出したとなれば、下手すれば軍法会議ものになるのに……、もしかして艦種がまずいか? K級の元になったガラーナ級は海賊が多く使用する艦の一つだしな。

 

 

「もしかしたら、俺たちのことが地方までは伝わっていないのかも知れないッス。とりあえず向こうに回線を開いて、こっちが海賊じゃない事と中央政府軍、オムス中佐の指示でこの宙域に来たって事を通達するっス」

 

「アイアイサー、敵旗艦への回線開きます」

 

 

 正直、向こうが手を出してきたのには腹が立つが、さすがに“まだ”政府軍相手に喧嘩売るほどバカじゃない。ロウズの時は弱小の辺境宙域の領主だったからいいけど、大国であるエルメッツァ相手だと規模が違うのだ。

 

 逃げるが勝ちとも思ったが、なんで攻撃されたのか原因を探らないとこの先が心配だ、ありえないと思いたいが、万が一これがオムス中佐の差し金だったらどうしよう? 腕のいい、というかよく口が回る弁護士っていくらだっけ?

 

 そんな事を考えているウチに、通信回線が繋がったらしくブリッジ中央にあるホログラムを投影するホロスクリーンに立体映像が投射された。あちらさんはエルメッツァでの将官の服装をしているおっさんだった。

 

あれ? この人、どこかで見たことがある様な? だれだっけ?

 

 

『ふははは。待っていたぞユーリ君!』

 

「あのう、すみません。自分あなたとお会いしたことありましたッスか?」

 

 

 なぜか高らかに笑う男に俺がそう返すと、画面の向こうでズッコケた。

 

 

『貴様! 私を覚えていないだと!?』

 

「ええと、ごめんなさい?」

 

『覚えていない上に疑問系だとぉっ!?』

 

 

 ウェーブした髪を七三分けにしたおっさんなんてどこにでもいるしなぁ。

 

 

『ラッツィオ軍基地の司令だったテラー・ムンス少佐だ! 忘れたとは言わさ――』

 

「忘れたも何も全然覚えて無かったッス。ねぇトスカさん」

 

「ああ、そういやオムス中佐の後ろに何人か立っていた金魚の糞の一人だっけね?」

 

『――そこまで忘れられる私って一体。しかも金魚の糞あつかい……酷い』

 

 

 なんかホログラムが地面に手をつけてるんですけど? 具体的にはorzな体勢をしている。上官のあまりの痴態に部下も慰めるべきかほっとくべきか悩んでる姿がリアルタイムで写ってるんですが……いや、そこは慰めておこうぜ? こういうタイプって面倒臭いだろうから。

 

 

『ええい! とにかく貴様らは忘れても! 私は忘れん!』

 

「いやだから忘れるとか以前の問題じゃなくて、覚えてないんだってば」

 

『黙れ黙れ! 貴様等のお陰で私は職を追われ、軍から逃げ回るはめになったのだからな! 怨念返しをしなければおさまらないっ!!』

 

「いや、そんなこと言われても俺達テラー少佐……いや元少佐が軍を追われる原因に心当たり無いんスが?」

 

 

 今の此方の心情を表すならまさに???の状態が当てはまる事だろう。

 だって全然こちらとしては身に覚えがないんだもん。

 

 

『なら一言で応えてやろう!私はスカーバレル海賊団とつるんでいた!』

 

「自業自得じゃないッスか!」

 

『煩い! だまれ! しゃべるな! 行くぞ! たかが駆逐艦一隻ならば負ける訳がないっ!』

 

「なんか、すっごいセコイ戦い方ッス!」

 

『かしこい戦略と言ってくれ! そうやって各個撃破して、最後は貴様の戦艦を丸裸にしてくれよう!』

 

「丸裸って、戦艦フェチ?」

 

【ひっ、変態さんだー!?】

 

『ちがう! そうじゃない! 私はノーマルだ! ええいもう切るぞ!』

 

 

 一方的に切られる通信。というか直ぐに来れる距離に俺達が潜んでいるとは思っていないらしい。しかもこの戦闘は、あのテラーとかいうおっさんの八つ当たりなのかよ。付き合わされる部下の人々が可愛そうだろ、jk

 

 

「仕方ない。以降エルメッツァ軍離脱艦隊をテラー艦隊と呼称。全艦電子防御を維持しつつ全速前進。あと遭遇したK級に他のK級たちを応援に向かわせて先行。その後は敵艦の索敵範囲内で電子防御解除、俺たちも合流ッス」

 

「あいよー」

 

 

 戦闘指示、たぶんこちらがセンサー的に見えていない奴らは電子封鎖を解除するだけで驚く筈だ。実際その通りとなり、こちらが電子防御を解除したとたん足並みの乱れが顕著に表れた。その隙に狙われたK級の元へ他のK級を回し、ガラーナK級突撃駆逐艦10隻がテラー艦隊と激突した。

 

 ちなみにテラーの艦隊は旗艦をいれて全部で五隻である。旗艦と思わしき巡洋艦が一隻いるようだが、ウチの自重という言葉が落丁した辞書をもつマッド連中に魔改造されたハイエンド駆逐艦を十隻も相手するのは少々荷が重かったらしい。

 

 

【敵艦へ攻撃を開始】

 

「レーザー直撃、敵駆逐艦のインフラトン反応消失。撃沈です」

 

 

 直列に並ぶ単縦陣を取り、反航戦に近い形ですれ違いざまの戦闘。だが開始からわずか数分もしない内に敵の駆逐艦三隻が撃沈される。一気に戦力の半分を持って行かれたのに敵は逃げようとしなかった。

 

 それは覚悟を決めていたとか、敵に後ろは見せないとかいうような高尚なもんじゃない。逃げようとしているんだが、慌ててしまって余計に動けないのが遠目からでも解る。練度不足が露呈していたといってもいい。奴らは元軍人じゃないのか?

 

 考えられるとすれば、テラー元少佐は軍基地の司令官だったってことか。長い間現場を離れていたから、艦隊戦なんてもんは久しぶり、そんな上司にヘイコラついて来てしまった部下もまたお察し……と。

 

 

【K級、小型レーザー砲をインターバル1で速射射撃】

 

「レーザー弾頭、敵各艦に命中。射撃誤差は0,02パーセント、すばらしい。巡洋艦も大破しました」

 

 

 元軍人だというので、こちらも少しは身構えていたのだが……、前衛艦が脱落したから少しは奮戦するのかと思えば、たかが護衛駆逐艦たちの小型レーザー砲がきた途端に慌ててフラついた為に攻撃が直撃。あげく、そのままあっさりと撃沈。これでは拍子抜けである。

 

 結局、旗艦艦隊は一発も撃つことなく戦闘は終了という運びになってしまった。これでは何のために、旗艦艦隊の電子防御を解除したのかが分からない。まさかの初実戦になったK級突撃駆逐艦たちも、装甲表面が少し削れただけで、船体はほぼ無傷である。

 

 これでは、そこいらの海賊の方がまだ根性がある。あれで本当に元正規軍だったのかと、見ていて情けない気持ちになってしまう。これ以上の攻撃は敗者に鞭打つのと同じになるだろう。K級たちへの攻撃命令を一時中断させるとするか。

 

 

「撃ち方止め! 警戒を厳にしつつ、戦闘での生存者の救助を行うッス! EVA要員はスタンバイ」

 

「了解、ルーイン班長に連絡し、これより生存者の救助を行います」

 

「ふむん。あの様子じゃ、あまり生き残りはおらんかもしれんのぅ」

 

「仕方ねぇよトクガワのじっちゃん。宇宙に出てるんだから死ぬ覚悟位あんだろ。撃たれる前に撃つのも0Gドッグの基本だぜ」

 

 

 俺と同じく連中を哀れに思ったのか、トクガワさんが溢した言葉にリーフが返す。撃たれる前に撃つ、戦闘の基本だよな。悲しいけど、隙を見せると何するかわからないって一面を0Gドッグが持っているってのも否定できない事実なのよね。

 

 

「とは言うモノの俺達は全然戦ってないな。これじゃあ腕が鈍っちまう」

 

「まったくだぜストールよ。このリーフ様の華麗な戦闘機動も拝めないとは、連中も哀れだぜ」

 

「そこ! 話してないで仕事する!」

 

「「アイマム! トスカ姐さん!」」

 

 

 今回は出番がなかったリーフとストールの愚痴をトスカ姐さんが諌めて空気を引き締める。緊張感を維持したまま、俺たちは一応いるかもしれない生存者を捜す為に、ユピテルはテラー艦隊の残がいへと近寄っていった。

 

 

………………………

 

 

…………………

 

 

……………

 

 

 あっさりと戦闘が終了したのはいいが、生存者捜索は意外と難航した。K級駆逐艦たちの性能は高く、ウチの優秀な砲撃手であるストールのコンソール・ログから抽出した砲撃術の経験をある程度生かした精密攻撃も出来るのだが、今回は迎撃戦ということもあり、そういった“船体を残す”攻撃を行えという指示をしなかった。

 

 これにより容赦ない砲撃を行ったせいで、フネの残骸が大いに歪み、内部区画への侵入を妨げていた。EVA班の班長であるルーインが当初砲撃で出来た装甲の穴から侵入を試みたものの、船体が全体的に歪んだことで通路側のエアロックも歪んでしまい、解除できなかったのである。

 

 その為、別のルートから内部を調べる為にVE-0ラバーキンといった作業用の機体を呼び寄せて探査機器を使ったりした。フネの多くは大破爆沈しても内部構造的に頑丈な部分、主にバイタルエリアが生き残っていることがあり、そこに生存者がいたりもするので、生存者捜索は慎重に作業しなければならなかったのである。

 

 

『こちらEVA班長のルーイン。巡洋艦の残がいを調べていたら、なんとか生きてる区画があって生存者がいるみたいだ』

 

「あいあい、なら救出お願いするッス」

 

 

 その苦労あってか、生存者を発見することができたので、まぁよしとしよう。敵対が終われば助け合うのもまた、船乗りの心意気というものである。敵対したからって、無暗やたらに殺す必要はないからな。

 

 あと、モジュールを埋め込むブロック工法に感謝だ。これでなければ各区画の独立性ある堅牢さはあり得ないのだから……。俺はルーインのおっさんに、生存者の救出をお願いした。アバリスから小型のランチが発進し、生存者を回収しに、巡洋艦の残がいへと近寄って行く。

 

 そして、生き残りたちを収容したとの報告が入った。

 

 これがテレビなら、某丸見え系で放送が可能な位の出来事になるんだろう。フネが大破するような攻撃を受けて、それでもなお運良く生き残れたのだから。まるでゴキブリのようなしぶとい幸運とも言える。もっとも、攻撃側は俺達だけど細かいことは気にしない方向でお願いします。

 

 しかし、残念なことにその生存者というのが―――

 

 

「なんでか、こういう時って悪人がしぶとく生き残るんスよね」

 

「い、いたた、そう手荒にしないでくれたまえ。ムチウチなのだ」

 

 

―――何故かテラー・ムンスその人だった。既に敵陣の中に居ると言うのに実に偉そうである。大物なのか愚かなのか、後者だろうな。大物だったら、俺達の艦隊なんて歯牙にもかけずに出し抜いたり、もしくは相当な被害を出す筈だからな。

 

 

「贅沢言いなさんな。なんなら今すぐタンホイザに叩きこんでもいいんだよ?」

 

「うむ、それは困るな。しかしトスカ女史よ。あまり品のない言葉づかいはよろしくないぞ? 程度が知れる」

 

「ご忠告ありがとう。でも別にこまらないさ。とりあえずアンタを宇宙に放り出せば大事ないからね」

 

「ま、まぁまぁトスカさん、その辺で抑えてくれッス」

 

「チッ、わかったよ艦長さん」

 

 

 んで、テラーの厚顔無比な態度が癪に障ったのか、トスカ姐さんがお怒りになったのを鎮めておく。おお怖、なまじ顔が美人だからお怒り顔が恐ろしいのなんのって、おまけに舌打ちとか……ある種の業界ならご褒美になりそうだ。

 

 まぁテラー元少佐もタンホイザに叩き込むという0Gドッグ独特のスラングに怒ったから売り言葉に買い言葉な感じだったんだろう。なんせこのスラングは面と向かって相手に吐き捨てれば、即命のやり取りになってもおかしくない程、下品かつ最低のスラングとされているのだ。

 

 このスラングで言われているタンホイザってのは、おそらくはワープなどに使う時空の歪みか、通常空間と高次空間の隙間にあるタンホイザー・スペースを意味する言葉だと思われるんだが……詳細は解らんわ。言い回しが未来過ぎるんだよ。中身20世紀人の俺には理解できかねます。

 

 

「とりあえず、元少佐の身柄はツィーズロンドのオムス中佐に引き渡すッス。まぁそれまで大人しくしてるッスね。ちなみに我がフネの中では常にAIが監視してるッスから、逃げようとしても無駄ッスよ?」

 

【なにかしようとしたら、備え付けの電気銃(テイザー)で焼き殺しますね】

 

 

 さらりとユピが怖いことを言うが事実だ。彼女が常にコイツらを監視する、テロを起そうとしても保安部員が真っ直ぐに駆けつけるから何もできんだろ。第一生存者を閉じ込める区画は一時的に隔離スペースとするから、自爆しようが何しようが艦全体に影響は出ないしな。

 

 先ほどの戦いといい、目の前で生き残ったという安心感からか、もう伸びきった面してる彼らが、組織的な抵抗をして見せるとは到底思えないが……、油断は禁物だ。慢心ダメ、絶対である。どんな強者もチートヤロウも大体が慢心で倒されるのだから。石橋を叩いたあげくに爆破して新しく作るくらいの心意気でちょうどいいのだ。

 

 とりあえず生存者の顔は見たので、もう彼らに用はない。彼らには軍に引き渡すまでは彼らにふさわしい場所でおとなしくしていてもらおう。念のため再度抵抗は無意味だから的なことを説明し、最悪宇宙に放り出すからと言いくるめて、彼らを退出させようとした。

 

 その時、それまで黙っていたトスカ姐さんが、保安部に引っ立てられようとしたテラーの前に立って口を開いた。また喧嘩でも吹っかけるのかもしれないので、一応そうなったとき止めようと彼女の近くに俺も立っていたので、彼女の問いかけが耳に入ってきた。

 

 

「そういや元軍人さん、あんたエピタフの調査船に手をかけなかったかい?」

 

「な、なんのことだ?私は軍の目を隠れてここに隠れていただけだが?」

 

「ふぅん、ウソついてる訳でもなさそうだね」

 

 

 トスカ姐さんに問われたことの意味が解らないらしく、テラーのオッサンは不思議そうに首を傾げていた。なるほど確かにこのボラーレ宙域にいたのなら、かの調査船を見たかもしれない。

 

 

「では詳しいことは自白剤カクテルを飲ませた上で……」

 

「まて! なんだその人権無視なドリンクの名前は!?」

 

「大丈夫ッス。ちょっと頭がぽやーってして、しばらく前後不覚になるけど、記憶全部吐き出すだけッス。恥ずかしい秘密も大暴露大会っスよ。いけるいける」

 

「いけるいける♪ ではなぁあい! や、やめろ腕をつかむでないお前ら! ぶ、ぶっとばすぞー!?」

 

「……まぁ冗談ッスけどね。つれてけ」

 

 

 この反応、本当に知らないようだ。まぁ俺たちが法律に引っかかりそうな拷問……もとい、尋問をしなくても、エルメッツァ政府軍の情報部におられるプロの方々がやってくれるだろ。

 

 口角泡を飛ばして喚いていたテラー元少佐は、そのまま両サイドを保安部員に抱えられて連れていかれた。まったく、テラー元少佐の所為で、とんだ一騒ぎだったけど、まぁ此方への損害が無くて良かったな。

 

 

「トスカさん、ありがとッス」

「何が?」

「さっきの質問は、俺がすればよかったッス。マジフォロー感謝ッスよ。もう結婚しよ?」

「……ごめんよ艦長。私結婚するなら酒屋の人って決めてるんだ」

「お酒大好きだから?! ちきしょー!ちきしょぉぉぉ!!」

 

 

 なんてことだ、トスカ姐さんは酒屋さんが理想の人だと!?

 0Gドッグから酒造に鞍替えしようかしらん?

 

 

「まぁ冗談なんだけどね」

 

「冗談スか。まぁ俺も冗談スけど」

 

「そろそろ真面目にいこうよ、ユーリ」

 

「へいへい。そいじゃ、当初の予定通りに惑星ボラーレ方面の航路を探査する。惑星ボラーレへと針路を取るッス」

 

「「「アイアイサー」」」

 

 

 そして俺達は惑星ボラーレへと針路を取った。

 どうでも良いが、あのおっさん何時頃軍に引き渡せばいいだろうか?

 

 

***

 

 

 数時間後、特に何も発見できずに俺たちは惑星ボラーレへと到着した。普段の航行とちがい、いくえふめいの調査船を見つける為に眼を皿のようにした探査航行だったので、クルーの疲労がたまっている。そう判断した俺は補給と休憩を兼ねて、そのままボラーレの衛星軌道上に浮かぶ空間通商管理局所有のステーションに停泊することにした。

 

 停泊した時、ステーションの艦船ドックの一区画を占領してしまったのはご愛嬌だ。無人艦とはいえ全部で26隻もいる大所帯なのだ。辺境のあまり大きくないステーションだったので、他の0Gドッグから奇異の眼で見られている気がする。大所帯ゆえ仕方がないのよ。

 

 

 さて、オムス中佐が言っていた調査船は、この近くの宙域で行方不明となっている。周辺宙域を探査したが、残がいを発見するまでには至らなかったので、すくなくともオズロンド方面からボラーレまでの航路で沈んだという線は低いようだ。

 

 残っているのは航路が設定されていない外宇宙方面の宙域であるが、そうなると広大過ぎて航路を探査した時のようにはいかない。というか人手が足りない。そのため、さらなる作戦を決行した、人海戦術である。

 

 さっきと同じやんと言われそうだが、今度は俺たちだけではなく、このボラーレにいる者たちの力を借りるのだ。といっても『一緒にどこに行ったかわからない調査船さがそうぜ!』っていちいち周りに声をかけるのではない。

 

 鉱物資源採掘の為、周辺の宙域に繰り出しているであろう0Gドッグや空間鉱員が行方不明の調査船を見ていないかを調べるのである。

 

 

「んじゃ、ここには3日ほど停泊するッス」

 

「まさか忘れるとは思わないが、全員もしこの惑星へ降りる時は携帯端末を所持する事。予定が変更になって、この星から離れるって時に連絡が付かないのは困るからね」

 

「ブリッジ要員と班長さんは、この事を各班に通達しておいてくれッス。耳にタコでも重要事項だからちゃんとやるッスよー」

 

「「「「アイサー艦長!」」」」

 

「それじゃ、自由時間開始」

 

 

 一応調査も行うので仕事も兼ねた寄港なんだけど、なんだろう? この修学旅行のノリは? まぁ調査のことさえ忘れなければ後は自由行動なのだし、殆どのクルーにしてみれば休暇だな。幾ら小さい惑星とは言っても惑星は惑星である。温泉の様なレジャー施設の一つや二つくらいあるのだ。

 

 多分、きっと、めいびー。

 

 

「んじゃ、俺達もとりあえず酒場へと行きますかね」

 

「行くのは私とチェルシーとミユ、それとトーロと、あとはイネスとかだね」

 

「それじゃあ声かけるッス。あれ、そういえばルーのじっさまはこの後どうするんスかね? あとついでにウォル少年」

 

「ああ、あのじっさまは適当に惑星を見て回るつもりらしいよ。さっきそう連絡してきた。んであの少年はその御供だ」

 

「あー、成程。趣味の散歩ッスか」

 

「ま、そんなとこだろうね」

 

 

 何気にあの爺さんアグレッシブだからなぁ。

 御供のウォル少年も大変だこりゃ。

 

 

「それじゃユピ、留守番頼むッスよ」

 

【いいなぁ、皆さん惑星に降りられるなんて】

 

「はは、ユピは身体が大きすぎるッスからね。その身体じゃ降りれないッスよ」

 

 

 ユピも色んな感情を覚え始めたな。

 今度は羨ましいという感情か、スゲェなこの時代のAIって。

 

 

「ま、携帯端末から行動を見てもらうしかないッスよ」

 

【はーい、今はソレで我慢します。行ってらっしゃいませ皆さん】

 

 こうして俺達はユピに留守番を頼むと、惑星ボラーレへと降りて行った。

 

【ええ、そうですとも今は、ね。……ケセイヤさんの研究費水増ししておこうかな?】

 

 

 ユピが思っていた以上に成長を遂げていたことに、この時の俺は気が付いてはいなかった。まさかあんな事になろうとは、神さまでも予測付かなかったんじゃねぇかな?

 

 

***

 

 

 さて、俺たち0Gドッグが地上に降りた時まっさきにやること。それは酒場へ直行することだ。なんかこう書くと呑んべぇの行動原理みたいな感じがするが、これはあくまで情報収集の一環なので問題ない。酒場で情報収集はRPGの基本です。

 

 そんな訳で酒場に到着した俺達は各個に分かれて情報を集める。俺の場合は適当に飲み物を頼みつつ、マスターに話しかけてみた。というか、酒場のマスター自体が噂話を取り扱う半情報屋みたいな立ち位置なので、噂を聞きたいならマスターに話しかけるのが一番なのだ。

 

 

「マスター、なんか変わった事ない?」

 

「へぇ、ここいらはエルメッツァの辺境ですからね。政府の干渉も無く、静かなもんですよ」

 

「静かなんだ?」

 

「ええ、偶に冒険者が来る程度で、フネの行き来も殆ど無いです」

 

「なるほど。あ、情報あんがとッス」

 

 

 注文した酒を片手に、マスターの前から離れた。どうやら、この近辺では今のところ何の異変も起こっていないということらしい。調査船が沈没もしくは通信が出来ない状態になったのは確かだが、この周辺には来ていないということなのだろう。

 

 

「こりゃ無駄足だったかな?」

 

「そうかも知れないねぇ。まぁ静かなところだし、休暇だと思えば良いんじゃないかい?」

 

 

 酒場でたいした情報を得られなかったので、おもわずそう溢したら、何時の間にか俺の隣に来ていたトスカ姐さんもグラス片手にそうおっしゃった。俺たちは互いに顔を見合わせて、はぁとため息を吐く。ここまで来て無駄足になりそうだから、思わずため息も漏れるってもんだ。

 

 兎に角、0Gドッグ御用達の酒場で欠片も情報が得られないとなると、あとは個人の情報屋とかに頼るしかないが、辺境惑星にそういう類の商売を生業としている人間は少ない。

 

 たしか調査船が消息を絶ったのは俺たちがファズ・マティに飛び込むより前のことである。消息不明になってからそれなりに日が経過しているから、沈んでいたとしたら生存はまず絶望的。

 

 それなのに情報が噂すら酒場に流れてきていない。そりゃ調査に来ているだけだから、別に急ぎの仕事って訳じゃないが、探す以上は手がかりの一つは欲しいもんである。

 

 

「ところで我が妹君であるチェルシーはどこ行ったんスか?」

 

「ん? なんかミユに手を掴まれて買い物に付き合わされてるみたいだったよ」

 

 

 停滞してしまった雰囲気を変えようと話題を変えた。それにしてもミユさんに我が妹は連れて行かれたか……。ミユさんはマッドである以外は悪い人じゃないし、チェルシーは色んな人間と触れ合って欲しいから、特に問題は無いかな?

 

 

「一応念のためにトーロとかを護衛に付けて置いたけど」

 

「グッジョブだトスカさん」

 

 

 それなら安心だ。既にトーロも魔改造済みだしな。あ、魔改造と言っても『ヤメロショ○カー!』みたいな意味じゃない。トーロは俺たちの仲間になり、保安部の部長になってから真面目に重力制御室での訓練に明け暮れていた。

 

 その訓練の成果はバカにできない。宇宙に進出して環境に適応した未来人の体質か、それともフネのオキシジェンジェネレーターにプロテインでも流し込む細工がしてあるのか、訓練を続ければ続ける程にその身体は徐々に鍛えられていくらしいのだ。

 

 もしくはトーロの遺伝子が特殊なのかもしれない。何せ鍛えてから短期間だが、すでに保安部の大体の奴よりも身体的には強く、単騎での身体能力は俺よりか、はるかに上である。俺も鍛えてはいるが、ぽっちゃり体系の癖してゴムマリ見たく跳ね回るトーロの身体能力には追いつけん。

 

 つーか1Gの環境下で垂直に3mもジャンプ出来る人間ってどうなのよ? 見た目ぽっちゃり少年が何mも飛び上がる姿はある意味すごいシュールで……俺なら対峙した時にあのジャンプを見せられたら確実に戦意喪失するぜ。

 

 

「んじゃ、後はのんびりするッスかね。なんか飲み物でも飲むッスか?」

 

「んー、そうだねェ―――ん?」

 

「どうしたんスか?トスカさん」

 

 

 別の飲み物でも注文しようとした時、なんかトスカ姐さんが俺の背後に目を向けていた。なんだろうかと思い彼女の視線を辿ってみると、その先にナイスミドルという言葉が実によく似合いそうな男が座っていた。

 

 トスカ姐さんは、立ちあがるとその男の方へと近寄って行く。ま、まさか一目惚れとかそういうのか? これは他のクルーと彼女を弄くる話題が出来そうだ。そんな命に係わりそうなことを考えていると、トスカ姐さんはどこか信じられないというような声色で、その男に声をかけていた。

 

 

「アンタ……。もしかしてシュベインじゃないか?」

 

「ん?―――おお! コレはトスカ様! お久しゅうございます!」

 

 

  シュベイン?……あー、なんか思い出した。そんなキャラクターも確かに原作に居たっけな。何かいつの間にかクルーになっていて、どういうわけだか最後まで居て、それなりに能力も高く、オールラウンダーで癖が無くて使いやすいキャラだった筈だ。

 

 それ以外の情報はすでに忘却の彼方で点で忘れてるけどな。原作プレイしたのもう何か月も前だ。攻略ウィキが見られるわけでもないから、どんどん情報がすっぽ抜けていく。ノートかなんかに原作知識を留めておくべきかと前に思ったが、誰かに見られる可能性を考えると実行に移せなかったんだよな。

 

 まぁ、俺強ェー状態も楽しいといえば楽しいが、うろ覚え状態でその場その場で思い出して挑戦していくというのも楽しいもんだと半ばあきらめている。原作に似た展開もあるが、現実なので何が起きるかわからないという未知への楽しみもあるからな。

 

 さて、このシュベイン……さんを付けよう。シュベインさんとの出会いは、俺たちの進む未来にどんなことをもたらしてくれるのかな? 楽しみだ……とかっこよく決めてみる。ぶっちゃけ中二病が再発しただけだな。おえぇ。 

 

 

「トスカさん、このヒトと知り合いッスか?」

 

「ん? ああ、まぁ昔からのなじみでね」

 

 

 さてさて、俺も会話に混ぜて貰おうかと話しかけてみるが、やはりというか何と言うべきかトスカ姐さんの歯切れが悪い。そういえば、このシュベインとかいう人は原作の無限航路において、前半のストーリー時に結構重要なイベントに関連する人だったよな。

 

 たしか、イベントは―――おう、もうそんな時期だったのか。思い出しちまった。俺はネタバレなんて怖くないから、今この場で指摘してやるぞ? いくぞ? せーのっ

 

 

「や、や、やっはばっは!」

 

「「っ!?」」

 

「ズズ、あー。急にくしゃみが出ちまったッス。ん? どうしたんスかお二人さん?」

 

「え、あ……なんでもないさ! なァシュベイン!」

 

「そ、そうでございますとも! トスカ様!」

 

 

 ごめん、やっぱり無理だった。へんなクシャミということで誤魔化したが、微妙に漏れ出た単語が二人にとっては驚くべき単語だったから驚愕している。おや? 意図せずに悪戯が成功したような感じ?

 

 そんで、慌てる二人を何慌ててるんだコイツ等みたいな眼で見てたら、なぜかトスカ姐さんに殴られた。俺の目つきにイラついたかららしい。姐さんのあまりの暴挙にシュベイン呆然。俺は理不尽さに涙した。

 

 

 まぁ、とにかく、俺が指摘したかったのは、もうすぐ始まるであろう原作ゲームにおける大イベント、銀河国家間の戦争相手ことだ。すこし前に起きたアルデスタ・ルッキオ間の紛争とはわけが違う、もっと大規模な文字通りマゼラン銀河の命運をかけた戦いの幕が開けるのだ。

 

 敵はマゼラン銀河の外側にある外銀河、それも複数の銀河系を支配下に持ち、全宇宙の四分の一を勢力圏に置くという超弩級大国のヤッハバッハ帝国である。正直名前と曰くを聞くとSF小説に出てきそうな冗談みたいな話だが、マジで凄まじい勢力を誇る連中で、常に闘争と繁殖という生命の根源を主軸に活動する恐ろしい国家である。

 

 正直もうこいつらに狙われた時点でマゼラン銀河詰んでるんだが、今はまだ先触れしか来ていないし、一介の0Gドッグである俺には今のところ打つ手がないので静観しかあるまいて……。

 

 

「シュベイン・アルセゲイナ。何でも屋でございます。以後お見知り置きを」

「俺はユーリっス。艦隊の頭はらせてもらってるッス。よろしく」

「ユーリ様ですね? よろしくお願いいたします」

 

 

 さて、仕切りなおしてお互いにご挨拶。彼の喋り方はどこかセールストーク気味な敬語であるが、多分これは彼の気質によるものだな。あまりにも自然過ぎて演技だとは思えない。演技の可能性もあるが、人間だれしも初対面の相手になら演技くらいするから気にしないわな。

 

 一流の0Gドッグはまず相手を疑ってかかるモノなのである……なんてな。そして、この後は再開したことを喜ぶ感じで一緒に呑むことにした。適当にその昔、トスカ姐さんが駆けだしだった頃の話で盛り上がったところで、トスカさんが本題に入る事にした。

 

 

「ところで、アンタなんだってこんな所に居るんだい?」

 

「その件でございますが、私もちょうどトスカ様にお会いせねばと思っていたところでございます」

 

「あん?」

 

 

 シュベインのその言葉に怪訝そうに眉を狭めるトスカ姐さん。

 彼は一杯酒を飲んで喉を潤した後、口を開いた。

 

 

「実はアルゼナイア宙域につながるボイドゲートの復活を確認いたしました」

 

「何だって!? そんな、一体なんで……」

 

 

 トスカ姐さんはいきなり大声を出すと、イスがひっくり返った事んい気が付かずにそのまま立ちあがった。彼女の声は酒場のけん騒に混じって消えたが、当のトスカ姐さんはショックを受けて呆然としている様だったので、俺は黙ってイスを直しておいた。

 

 彼女が取り乱した原因はアルゼナイア宙域のボイドゲートの事だろう。というかソレ聞いてこうなったんだし。ま、俺は空気読める男なのであえて聞こうとはしないのだ。あれ? 空気が読めるってイニシャルで表すとKYじゃね?

 

 

「アレはデッドゲートだった筈だろう!?」

 

「その通り。しかし復活し、その機能を取り戻したのも厳然たる事実でございます」

 

 

 シュベインのその言葉に、彼女は苦虫をかみつぶしたような顔をした。ふむぅ、俺がいるのに随分と喋るのね。0Gドッグとはいえ駆け出しの俺には彼らの言っている意味は理解できないとでも思ってるんだろうなぁ、無意識で。残念ながら結末も何もかも知っているんだけどな。その通りに進ませる気はないけどな。

 

 今の話でも、デッドゲートという単語が出たが、これはボイドゲートのもう一つの呼び名のことである。通常は星域間をつなぐワープ門として機能しているボイドゲートだが、中には機能停止しているゲートがあり、それらのことを総称してデッドゲートと呼ぶのだ。

 

 むろん駆け出しの人間はそんなことはしらない。あのゲートを空間通商管理局が管理しているが、彼らが建造したものでもないということも……原作知識万歳。他の人間が知らないことを知っているってのは気持ちがいいのぅ。

 

 

「く、それで連中は?」

 

「その確認の為、私もゲート付近まで行ってまいりましたが」

 

「どうだった!?」

 

「すでに侵入が始まっておりました」

 

「なんてこった!―――シュベイン」

 

「ええ、解っております。その為に少しばかりお時間を頂きたいのです」

 

 

 さて、俺が内心ふざけている間にもシリアスな場面がその場に展開され、普段飄々とした態度を崩さないトスカ姐さんがナイフのような緊張感を醸し出しているあたり、どれだけシリアスなのかが簡単に想像できる雰囲気が醸造されつつあった。

 

 そしてようやく肝心な話が始まろうというところで、シュベインが俺の方をちらりと見た。これは多分、俺にはまだ聞かれたくない類の話なのねーと理解した俺は、ごく自然に席から立ち上がった。

 

 

「ユーリ?」

 

「解ってるッスよトスカさん。俺は席を外せばいいんスよね?」

 

「……すまない」

 

「構わんスよ。俺とトスカさんの仲じゃないッスか。ま、ちと寂しいけど我慢するッス」

 

「ごめんよ。こればっかりは色々と覚悟がいるんだ。だから、ちょっとの間頼むわ」

 

「へいへい。あ、そうだトスカさん。内緒話をしたいなら端末の電源をOFFにしとかないとユピに筒抜けになるッスよ?」

 

「え? そうだった! 重ねて済まないユーリ」

 

「なぁーに。それくらいは、ね。それじゃまた後で。シュベインさんもまたッスね」

 

「ユーリ様、心遣い感謝します」

 

 

 何故かお辞儀をされたが、俺はそれに手を振って応える程度にして、その場から離れるのであった。0Gドッグのユーリはクールに去るぜ。

 

しかし、そうなると暇になるなぁ。

 

 

「とりあえず、イネスとか探してみんなと合流するッスかね」

 

 

 

 

~残された主従ズ~

 

 酒場から出ていく若き銀髪の艦長を見送るトスカとシュベイン。申し訳ないと内心トスカは思ったが、まだユーリにこの件を話すわけにはいかない。理由はユーリがまだ年若いから……などではなく。

 

 

(アイツに話すと……どうなるか予想できないんだよね)

 

 

 最初は、ただの夢見がちな子供だと思っていた。どこにでもいる平和な地上での暮らしに嫌気がさして、宇宙を目指す者。これが若さかと思わず思ってしまうような屈託のない……というか不安なんてテンで考えていないノーテンキな頭のバカ。

 

 本来、宇宙に出る者であるなら当然知っているべきことをほぼ知らず、その癖に宇宙船の簡単な整備から機器の操作まで出来ていたりと、その能力は実にチグハグで、おまけに何故だかは知らないが日常で知っているべきことまで知らなかった。

 

 そんな状態であっても宇宙に出たがる。辺境宙域で生まれたガキってのは、どれだけ無謀なのだろう。そう思いつつもトスカの「打ち上げ屋」としての矜持が、仕事を放り出すことを許さなかった。依頼人を必ず宇宙に連れ出す打ち上げ屋の仕事は信頼第一。失敗するわけにはいかなかった。

 

 金は貰っていたので最初の内はビジネスとして色々と世話を焼き、アフターサービスのつもりで0Gドッグの基礎を教えてやった。それこそ操艦に敵との戦い方に不時着した時のサバイバルに、空間通商管理局への書類審査の方法、0Gドッグのあり方のすべてを、だ。

 

 

 それなりの速さでそれらのことを覚えていったユーリだが、基礎を修めた後の成長はトスカの予想を遥かに上回る。基礎を修めたことでトスカの手を離れるや否や、まるで勝手知ったるなんとやら、ユーリは休みもほとんど取らずに非常に効率的に金稼ぎを始めたのだ。

 

 ふつうの0Gドッグなり立ての初心者は、最初の内は危険な仕事に手をだすような真似はしない。宇宙に上がって飛び回るのでさえ、いろいろと銭が掛かるのだから、しばらくは惑星周辺のデブリ回収といったゴミ拾いの真似事をするのが定石だ。

 

 だが、ユーリは駆逐艦を仕入れてからの行動は定石に当てはまらない。デブリ回収は輸送業の真似事の最中に行い、配達はもちろんのこと、バーのマスターに頼まれてのツケ支払いの催促からロウズ警備隊を翻弄して撃破し、そのジャンクの回収したりと手広く仕事をやり続けた。

 

 それは、まるで乗組員の疲労度の限界に挑戦するような采配であった。実際に、幾人ものクルーが金稼ぎの期間中に入れ替わっている。一週間の内で同じ顔ぶれが無い日もあった。

 

 幸いだったのはロウズ自治領宙域が領民の流出を恐れた領主デラコンダの采配で航宙禁止法なるモノが制定されていて、職にあぶれた者たちが大量にいたことだろう。その状況でなかったら、ユーリの行動は人手不足で行えなかった筈だ。

 

 それはともかく、あまりにもやることなすことに節操がないので、一度トスカはユーリに尋ねたことがある。何故そこまで必死にお金を貯めるのかと、帰ってきた答えは“ロマンの追求、それと世の中ゼニずら”という要領が得ない返事であった。

 

 本当に何を考えているのやら……そう思っているうちに、いつの間にか巡洋艦を飛び越えて戦艦を購入し、0Gドッグの自由を束縛した悪の領主デラコンダを倒し、気が付けば海賊の討伐までやってのけた。生き急ぐのとは少し違う、とにかく予想もつかない行動でいろいろとやってのけるのだ。

 

 そんなユーリであるから、目が離せないのと同時に、この重大な危機のことを話して良いものかトスカには予想が出来なかった。なんだかんだで義理堅いアレのことだ。話せば協力は惜しまないだろう。それだけの恩は売っているのだから確実だ。

 

 

 だが、そんな風には利用したくない、巻き込みたくないという自分がいるのをトスカは自覚していた。同時に、まさか自分が情に絆されるとはねェ、と自嘲する。なんだかんだでユーリの元で働いた時間は、これまでの生きてきた時間の中でも五本の指に入るくらいに楽しかったのだ。

 

 だから、もう仲間だと呼べる彼らを利用することに、トスカは恐怖にも似た感情を覚えていた。あの強大な敵相手に戦うというのは言うならば玉砕に近い。ましてやそれが彼女の私怨からくるものであるのなら、仲間と呼べる者たちを巻き込める程、トスカは人間性を捨てていなかったのである。

 

 故に悩み、その所為で眉間に皺が寄り始めたトスカを見ていたシュベインは、すこし驚いたように口を開いた。

 

 

「随分と信頼されているご様子ですね」

 

「ん? ああ、まぁアレが宇宙に上ってからずっと付き合いが続いているからねぇ。見ていて飽きないし、居心地も……悪くないのさ」

 

 

 ユーリがやらかしてきたある意味功績ともいえる出来事を思い出していた彼女は、腐れ縁ってヤツさ、と呟きつつグラスをあおる。笑みが自然に浮かんできたのを隠すために酒を煽ったが、目の前の聡い男にはそんな照れ隠しなど見え見えである。

 

 まぁ、それを指摘するような子供っぽさは持ち合わせていないので、シュベインはトスカのその様子を見て、顔には出さずに内心苦笑するだけで留めていた。

 

 

「なるほど。しかし……いやはや安心しました」

 

「何がだい?」

 

「そのように、柔らかな表情ができるように……いえ、柔らかな笑みを思い出せたのですね」

 

「うっ……そんなに、これまで変な顔してたかい?」

 

「いえいえ、トスカ様はいつまでもお美しい。ですが、これまではどこかに焦燥にも似た陰りが見えておりました。それが貴女様を危うくみせておりましたが、いやはや。長生きするものですね。久々に懐かしきものを見ました」

 

「そうかい」

 

 

 穏やかに笑顔を湛えるシュベイン。カラン、とグラスの氷が音を立てる。彼の言葉にどこか憮然とした態度で返すトスカは、自分のグラスに酒を足してから、この話題から離れるようにして話を主題へと戻す。酒場の喧騒の中でトスカとシュベインの会話は溶けて消えていった。

 

 

***

 

 

「はて?ユピのナビだとここら辺に居る筈なんだけど?」

 

【間違いなくココからビーコンは出ています】

 

 

 秘密の話しあい中のトスカ姐さんが、話し合いを終えるまで外で遊ぶ事にした俺。やってきたのは惑星ボラーレに広がるうっそうとした森林地帯だった。ちなみに仲間のビーコンもここから出ているのを探知しているので、出来るなら一緒に遊ぼうと思っていた。

 

「しっかし、良い森だなぁ」

 

【針葉樹と広葉樹がバランスよく生息しています。テラホーミングがキチンと行われた証しでしょう】

 

「そうだね。ふぁあぁぁ~」

 

 

 だが、何となく来てみた森林地帯のあまりにも良い空気に、思わず体を伸ばしてあくびをしてしまう。腐葉土特有の香りが、無機質な宇宙船の空気に慣れた身体を、何ともリフレッシュさせてくれるのだ。森林浴はストレス解消にかなり効果的かもしれないねぇ。

 

 

「気持ち良いッスねぇ~」

 

【でしたら艦内自然公園の森林部分は、ここを参照にしてみましょう】

 

「へぇ、そんな事出来るんスか?」

 

【しばらく歩きまわって貰えばデータを集められると思います】

 

 

 そりゃ良いね。お仲間を探してる最中だからちょうど良いしな。俺はユピに言われたとおり森の中を散歩する事にした。考えてみれば、この数カ月ずっと宇宙に居たんだよなぁ。こう言った自然と触れ合う機会も殆ど無かったぜ。

 

 

「お、この特徴的な葉っぱの形は、カエデの木ッスかね?」

 

【ボラーレカエデです。メイプルシロップの原料ですね】

 

「この場合、ネーミングセンスが安直だと行った方が良いんスかね?」

 

【さぁ? ところで、この先にチェルシーさん達が来てますよ?】

 

「あ? ホント?」

 

【はい、ビーコンの識別からするとミユさんとも一緒です】

 

 

 そーいや、ミユさんと買い物に引き摺られてったんだっけ? てことはトーロも一緒か。合流しようと思い先へと進むと、皆休憩所みたいに成っている場所で休んでいた。よくよく見るとイネスも一緒である。何故かやつれてるが、気にしない。

 

 

「うーす、みんな」

 

「お、ユーリか。トスカさんとは一緒じゃねぇのか?」

 

「いやさ、なんか昔のなじみとあったらしいッスから、KYな俺はその場から離れたんスよ」

 

「ねぇねぇユーリ。KYってなぁに??」

 

「それはだねチェルシーさん。この場合のKYとは空気を読めるという意味だろう」

 

「いやイネス少年。まずはKYの意味を教えてやらんと解らんみたいだぞ」

 

「結局KYってなんなの???」

 

 

 KYの意味が解らず、首をかしげているチェルシーは、どこか子犬を彷彿とさせる。

 う、なんか可愛いじゃねぇか。

 

 

「それはさて置き、なんか色々と買ったッスね~」

 

 

 見れば休憩所のすぐ脇に、大きな荷物の山が出来ている。おおよそ人間が持てる量ではないが、大方トーロが持ったんだろうな。ああ、イネスが疲れてるのは、これを運ぶの手伝った所為かな?

 

 

「ふむ、殆どが女性の必需品だ。化粧品は勿論のこと、生――「いやソコは言わんくても解るッス」――む?そうかね。あとはまァその他いろいろだ。イネス少年の女装用具とか」

 

「へぇ、って! ぇえええぇぇぇーー! イネスおま!?」

 

「ちがう艦長! 決してボクのじゃない! ソレは勝手にミユさんが―――!」

 

「おや違うのかね? 良く艦内で女装していたから、てっきりそうかと思い買ったのだが?」

 

「い、要らないお世話ですッ! 大体アレは女装してたんじゃなくて、女装させられていたんですっ! 全部トスカさんの陰謀なんですっ!!」

 

 

 そうだよな?あのイネスが、まさか覚醒してそんな趣味持ってる訳無いよな?

 

 

「ちょっと! 艦長とトーロも何でボクから離れるのさ!」

 

「いや、ナァ?」

 

「なんとなくっスかね?」

 

 

 特に意味は無いよ。別に特に意味はさ。大事なことなので二回言った。

 趣味は人それぞれだから気にする必要なんてないさ。

 

 

「な、なんだその生温かい目は! 本当にボクは違うんだぁぁ!!」

 

「ハハハ、まぁ人それぞれッス」

 

「大丈夫、俺はお前がどんな趣味してても友達だからな。なぁユーリよ」

 

「勿論スよー(棒」

 

「だったら何でまた距離をとるのさ」

 

 

 いや、特に意味は(ry

 

 

「イネスくんの女装?あ、あれ?なんか。アタマイタイ」

 

 

今度はチェルシーが頭を抱えて!?ま、不味い!

 

 

「てゐッ!」

 

「ハウっ!?」

 

「よーし、気絶したッスね?」

 

 

 俺は直ぐにチェルシーの背後に回り込むと手刀を一発。ふぅ危ない危ない。忌まわしき記憶は思いださない事に限るぜ。黒チェルシー様は恐ろし過ぎるのだ。

 

 

「お、おいユーリ、チェルシーに何してんだよ?」

 

 

 俺の突然の行動に、理由を知らないトーロは驚いている。

 だが俺にはこうしなければならない義務があるのだ。

 

 

「何スかトーロ、チェルシーは貧血で倒れただけッスよ?」

 

「いや、今確かにお前が―――」

 

「ふむ、T少年。私の経験上、コレ以上の追及は色んな意味で不味いと思うぞ?」

 

「いやミユさん。つーかT少年って、俺はトーロだぜ? トーロ・アダ」

 

「この際そう言ったのはどうでも良い。問題は艦長の目だ」

 

「目?」

 

 

 なんやコラ?

 

 

「良く観察してみろ、すわってるぞ?」

 

「ゲェ――すまねぇユーリ」

 

「解れば良い。ところでイネスは何してるッスか?」

 

「あっちに顔を向けろ少年」

 

 

 そうミユさんが指差したので、さっきから静かなヤツの方を見てみた。

 

 

「アレは事故アレは事故アレは事故アレは事故アレは事故アレは事故――――」

 

「理由はわからないがイネス少年はトリップ中だな。しばらく放置するしかあるまい」

 

 

 見れば光が反射しない濁った眼でうつむいたままブツブツとつぶやいている。

 アレは俺もトラウマだからな。その気持ちは解らんでもない

 しかし、なんていうか―――

 

「何々スかね?このカオス」

 

「少なくとも、少年が来てからこうなったのは確実だ」

 

「返す言葉もねえッス」

 

 

 この後、イネスとチェルシーが目を覚ますまで森林浴をしていた。この子らが復活する頃には森林浴効果なのか航海中に体に蓄積していたストレス関係の疲れが取れたような気がしたので満足だ。流石は大自然の不思議ぱぅわ~、森林浴は偉大である。

 

 

「さぁて、行きますかいね?」

 

「「「りょうか~い」」」

 

「どうせだし、どこか食べるところいかない?」

 

「お、いいな。ユーリのおごりで」

 

「なんでなんスか。そこはトーロだろ」

 

「じゃあ間をとってイネスな」

 

「おk、ゴチになるッス」

 

「なんでだよ!?」

 

 

 そんな和気藹々とした空気が流れるなか、何気なく木々のざわめきに耳を傾けた時である。俺は木々が擦れる雑多な音の中に、普段この稼業をやっているせいで、よく耳に聞きなれていた音が混じっていることに気がついた。

 

 それは非常に微かな音であり、木々のざわめきの所為で聞き取りにくいが、たしかに聞こえる。何が聞こえたのかというと、銃器を使った時の戦闘音だ。それも甲高い独特の吸気音……メーザーライフルかほぼ同じ機構を持つレーザーライフルに装備された電子冷却システムが奏でる冷却音だろう。

 

 先ほども言ったが、俺はこの音をよく知っている。なんせ二回も海賊に襲撃仕掛けたからな。聞き飽きる程ちかくで聞いたから耳が覚えていたのだ。こっちに来てから荒事が日常と化していたから、もう身体で覚えてしまっていた。順応したと喜ぶべきか、悲しむべきか。

 

 それは置いておいて、こんな音が聞こえるあたり、あまりいい事態になりそうもないな。それに、ふむ……。よーく耳を澄ますと、時折ドカドカっという花火のような炸裂音が聞こえてくる。どうやら戦闘をしている連中は手榴弾的な物も使っているようだ。

 

 この音はいま俺たちが居る東屋から距離的に遠いから、周囲の雑音に紛れてあまり目立たない。が、複数かつ同時に音が聞こえてくることから、おそらく複数の何者かがそれなりに近いところで戦闘を行っているのかもしれない。

 

 おまけに、だんだんと音が近づいている気がする。むむむ、ボラーレは辺境で平和というか、こういう荒事が起きそうな場所ではなかったとおもうんだが……。

 

 

「……トーロ」

 

「おう、気づいてるぜ」

 

 

 イネスやチェルシーやミユさんといった白兵戦にあまり顔を出さない面子はまだ気が付いていないが、戦闘音は確実にこちらに近づいてきている。これは少し、動いた方がよさそうだ。

 

 幸いというべきか、トーロもこのことに気が付いている。さすがは保安部の部長なだけはある。経験も積んでいるから実力はあるのだろう。これなら色々まかせても大丈夫そうだな。

 

 

「ん?どうしたんだ二人とも――」

 

「いいかイネス。四の五の言わずにトーロに続くッスよ。チェルシー、ミユさん!」

 

「え? 何? どうしたのユーリ」

 

「ふむ、わかったよ少年。さぁチェルシー。私の手を持って」

 

「え? ええっと、わかりましたミユさん」

 

 

 突然の俺たちの変わりように困惑するチェルシーとイネス。ミユさんは俺たちの行動に驚きはしたが、すぐに順応してチェルシーの手を取ってくれたのはありがたい。それに比べて未だに困惑しているイネスを蹴飛ばすようにして、俺たちは近くの藪に移動した。

 

 藪に移動した直後、背後の東屋に迫る風切り音が……ありゃ迫撃砲か?

 

 

「きたぞ!」

 

「ちょ、ちょっとまってくれ! なにが―――」

 

「死にたいのか! 死にたくないなら走るんだ!」

 

 

 もしそうなら、もう振り返る余裕なんかない。大荷物を捨てて身を軽くし、大慌てで全員が藪に避難した直後、東屋が爆発し炎に包まれた。やれやれ、こんどは一体なんなんだ?

 

 

***

 

 

「なぁユーリ」

 

「何だいトーロくん」

                         

【撃てッ!撃ちまくれ!】                  

       

【グレネードどこいった?!】

 

「俺達ってさ?この星に休養に来た様なもんだよな?」

 

「まぁオフレコだとそうなるッスね」

                          

【アパム!弾持ってこい!】

 

【マガジンはコレで最後です!】

 

【ええい!くそ!】

 

「なぁユーリ」

 

「何だいトーロくん」

                       

【クソ!俺はまだ死にたくねぇ!】

 

【酒場のお嬢さんに花を―――】

 

【バカヤロウ!なんで早く届けなかった!】

 

「何で俺達の背後では、戦争が起こってるんだろうな?」

 

「争いとは、些細かつしょーもない理由から始まるもんで―――」

 

「いや、戦争の発生理由はどうでもいい。それよりもなぜに戦闘に巻き込まれなきゃならんのかってことだ」

 

「そんなもん、アソコで戦っている連中に聞いてくれッス」

 

【【【うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!】】】

   

 

 さて、手元で部品を組み立てつつ、そろそろ解説とでも洒落込みますかね。いや洒落込むっていう表現はおかしいな。どっちかっていったら……なんだろう?

 

 まぁ一言で説明するとしたら、現在俺達の背後で銃撃戦が起こっているのだ。ドンパチやっていた連中がこっちにまで戦闘範囲を広げるというはた迷惑なことをしでかしてくれたおかげで、頭上をビームが飛び交ってすこぶる危ない。

 

 

「ふーむ、困った。幾らか買った物に傷が付いてしまったぞ」

 

「いやミユさん何をのんきな」

 

「そうは言うが、稼いだ金で買った物が傷つくのはあまり良い気分では無いぞ?」

 

 

 まぁ、ソレはそうッスね。よし、後はコレをはめ込んで。

 

 

「おし、完成」

 

「さっきから何組み立ててるんだい?艦長」

 

「ん?組み立て式エネルギーバズーカ」

 

「ちょっ、おま」

 

 

 手に持った長方形の物体。これはケセイヤが開発したエネルギー式バズーカの小型版だ。ファズ・マティ攻略でも活躍したEバズの携行しやすくするためにダウンサイズ化を図ったところ、威力は下がったが機能はそのままに小型化に成功したものらしい。

 

 プラズマを泡のようにした弾頭をレールガンのように加速して発射できて、おまけに発射した弾は何かに接触すると炸裂するようになっている。エネルギーを込める量次第で麻痺モードも可。原理は知らん、プラズマなんて両云々の前に接触しただけでドロドロになるだろうとかいう細かいこたぁいいんだよ。何と言う不思議仕様でおk。

 

 

「この間から良く見るけど、お前バズーカよく使うよなぁ」

 

「コレが一番戦りやすいッスからねー」

 

 

 メーザーライフルみたく威力不足じゃなく、何より適当に撃っても爆風でどうにかできる。船内ではさすがに威力落とさないと使えないが、それでもエネルギー泡を少し指向性を持たせて炸裂させれば大型のショットガンみたいな使い方もできる。万能かつ一発屋なところも男らしくてロマン武器だからな。馴染む、馴染むぞぉ!

 

 もっともあくまで護身用に組み立てただけだから、実際に使うのかはその時次第だ。そう説明したら護衛用にしては威力過多だろうって眼で皆から見られた。けど、こまけぇこたぁいいんだよぉ。

 

 

「それにしても、平和な公園でいきなり戦争始めやがって。あいつ等一体全体ナニモンだ?」

 

「どちらも軍って訳じゃ無さそうだけどね」

 

「イネス、なんでそうだと解るッス?」

 

「だって、装備がてんでバラバラじゃないか」

 

「じゃあ海賊ゥ? 俺達に復讐にでも来たか?」

 

「うーん、無差別に撃ってくる方は海賊みたいッス。だけど、それだとこっちで海賊と戦っている連中は誰なんスか。わからないッス」

 

 

 ボラーレも一応はエルメッツァ中央に属する星なので、この辺で軍隊っていったらエルメッツァ中央政府軍しかおらなんだ。それなのに今交戦している連中が使っている装備は中央政府軍の物ではない。在野でも売られている装備である。

 

 一部軍の純正アサルトライフルを使っているのもいるが、ごく一部なので軍からの横流し品とかそういう奴じゃないかと。中央政府軍って巨大な組織だから、末端連中の武器の横流しとか割とよくあるからなぁ。

 

 

「手前で戦っている連中は海賊って訳でも無さそうだな。服をちゃんと綺麗にしてある」

 

「服を綺麗? そんなんでわかるのか?」

 

「解らないのかトーロ? スカーバレルの海賊連中は結構小汚かったじゃないか!?」

 

「おお! さすがはとっ捕まった事があるイネス。よく知ってるな!」

 

「ひっ―――ハウゥ、思い出したくもない忌まわしき記憶がぁぁぁ!!」

 

「こらトーロ。イネスのトラウマ刺激すんなッス」

 

 

 頭抱えだしたイネスはとりあえず放置するにしても、今戦っている連中は一体ナニモノなのかを考えないとな。見た感じ俺たちがいる藪側から見て、手前に布陣している連中は海賊ではなさそうである。

 

 理由としては、海賊のような場当たり的な行動が少ない。海賊は数で優れているらしく、とにかく力押しで戦っているが、手前の彼らはリーダー格らしき髭で髪の長い男が率いており、その指示の元で全員が一丸となって行動している。その無駄のない動きは、なんというか軍隊に近いモノを感じるぞ。

 

 だが軍隊にしては彼らの服装には統一性がない。普通正規軍ならお揃いの戦闘服で戦うものだが、あの連中は思い思いに着飾って中にはゴスロリみたいな動き辛そうな格好の奴までいる。というかああいう恰好って、この時代でも絶滅してないんだな。

 

 それは兎も角、彼等がなんらかの特殊任務を負った特務部隊の可能性もないではないが、それにしては態々ここで戦う理由がないように思える。しかし観察して気がついたが、どうも巻き込まれた俺達の方を考慮している節が見られた。俺たちは藪に隠れているのだが、彼らにはバレているらしい。まぁ時々顔出してたからな。

 

 手前の連中が本当に特殊部隊なら、俺達のことは放置しているだろう。いわゆるコラテラルダメージってヤツだ。そう考えると特殊部隊の線は薄いといわざるを得まい。おかげで余計に彼らがナニモノなのかがわからなくなってしまったが、少なくともこちらに危害を加えるつもりは今のところなさそうだ。

  

 対して、海賊だと思った方はやっぱり海賊だったらしい。関係ない(と思う)俺達がいるにも関わらず、銃火器を所かまわず撃ちまくっているからだ。敵か味方かはわからずとも、少なくても海賊の方には近寄らない方が無難だろう。手にしたEバズを撫でながらそう思っていると、突然連中の戦いを覗いていたチェルシーが何かに気付き叫んだ。

 

 

「あ! ユーリ! あの人狙われてる!」

 

「え?」

 

「ほらアソコ!木の上から狙ってる!」

 

 

 そう言って指差すチェルシー。見れば手前の連中と相対していた海賊の一人が、ちょうど手前の連中から死角になる位置に生えている木に登っている。その手には銃身が長いスナイパーライフルらしき長物を携え、手前で奮闘している連中のリーダー格であろうロン毛のおっさんを狙っていた。

 

 しかもそのおっさん、自身が狙われているのに気がついていない。コイツは不味い。

 

 

「頭下げろォォォッ!」

 

 

 俺は咄嗟にそう叫んで、Eバズの引き金を引いていた。これで俺たちは巻き込まれた第三者から、戦闘に介入する第三者にジョブチェンジしたわけだ。余計なことをしてしまったとは思うが、目の前の集団が崩壊すると、背後に居る俺たちにも被害が及ぶ。

 

 それなら多少なりともこちらへの配慮をしてくれている集団を手助けした方がいい。幸い敵は宇宙航海者の敵である海賊だ。すでに地上で暴れるという暴挙を犯しているのだし、こちらが何をしても問題はあるまいて。

 

 もっとも、ちょいとやりすぎてしまった。発射したEバズはエネルギー弾であり、何かにあたるとエネルギーを放出しながら消滅……すなわち爆発する。むろんバズなのでメーザーライフルなどと比べたら精度に劣るが、一応は真っ直ぐ飛ぶので狙った方には飛ぶ。

 

 だが咄嗟に撃ったからか、若干照準がしたにいっていたらしく、エネルギー弾は海賊に直撃しなかった。その代わりスナイパーが上っていた木の幹に命中したエネルギー弾はプラズマを放出し、そのエネルギーで幹を中ごろから消し飛ばし、ボッキリ折ってしまっていた。エネルギーの出力設定をミスっていたらしい。

 

 

「ユーリ、やり過ぎ」

 

「だな」

 

「そうだね」

 

「威力設定ちゃんと見よう少年」

 

 

 お蔭で仲間からはブーイングされたが、狙われていたリーダーさんは助けたのでこれでいいのだ。これによりスナイパーは倒れる幹に捕まったまま地面へと落下し、哀れ腰をしこたま打ち付けてのびてしまった。狙われていたリーダーも流石に気が付き、こちらのほうに振り向いて驚いた顔をした。 

 

 あ、やばい。状況把握されてないと俺たちが敵対行動取ったと思われるかも……そう思ったのだが、予想に反してリーダーの男はすぐに顔を海賊の方へと向けると、声だけで「援護に感謝します!」と叫んで戦闘を続行した。

 

 どうやら敵対していると思われなかったらしい。これ幸いと俺も俺で問題ないぜ!と適当に手を振って返し、ついでに「どうでも良いからとっとと戦闘を終わらせてくれッス!」とエールにも似た注文を送った。

 

 

「まかせな! すぐに終わらせてやるよ!」

 

 

 俺の言葉に返事したのは、リーダー格の隣にいた恐らく副長と思われる女性であった。引き締まったゴリラみたいな肉体をした、くすんだ金糸の髪を無造作に切ったショートヘアにしている彼女はそう叫んだ後、アスリートかくやと思える肉体を翻すと戦闘に飛び込み、両手に銃を携えて海賊達を一気に蹴散らしてしまう。

 

 烈火の如きその動きにこっちは言葉も出せず、彼らが敵を掃討するのを黙ってみていることしか出来ない。そして俺が頼んだフネからの救援が来る頃には、本当に戦闘は終わっていたのであった。俺、援護いらなかったんじゃね?

 

 

***

 

 

「いやはや、助かりましたよ」

 

 今、目の前には先程まで戦っていたグループ……聞いたところによるとトランプ隊と呼ばれる傭兵集団であるらしい……のリーダー格である男が立っている。互いに自己紹介したところ、名をププロネンと名乗った彼は、俺に対し再び感謝の言葉を送ってきた。

 

 正直こちらとしては巻き込まれた側だから、文句の一つでも言いたいところなのだが、俺は幸いなことにエアリード力に定評がある男である。あえて文句を口にはしなかった。 

 

 べ、べつに周囲をゴツイ方々に囲まれていて、その人たちの雰囲気が戦闘終った直後で興奮している所為か凄いプレッシャーを放ち、その所為でお肌がピリピリとしていたからとかじゃないんだからね! ホントなんだからね!

 

 ……いや、ホントは正直勘弁。怖いので威圧感やめてつかーさい。

 

 

「こっちも巻き込まれてただけッスからね。そっちはこっちに考慮してくれてたし、どうせ味方するならそっちかなぁって」

 

「打算、ですか。いや、しかし君が撃たなければ私は撃たれていたでしょう。その件については礼を受け取ってください」

 

「アタシからもリーダーを助けてくれたことに礼を言うよ」

 

「あーうー。ここで突っぱねるのもある意味魅力的ではあるが、まァそこまで言われたなら素直に受け取っておくッスよ」

 

 

 ププロネンさんの隣に立っていた、サブリーダーであるガザンさんからも礼を言われた。しかし、女性で傭兵やってるとはねぇ~。成程確かに姉御肌って感じがするぜ。

 

 

「ところで何でまたこんなとこで戦闘をしたんスか? 下手したら市民巻き添えだったッスよ?」

 

 

 俺はすこし咎めるような視線を送りながら彼らにそう尋ねた。巻き込まれた手前、こちらとしても、納得のいく理由を聞きたかったのだ。これに関してリーダー達は少~しだけ苦そうな表情を浮かべたが、きっちり説明してくれた。

 

 この騒動の発端は実はかなり単純な話らしく……その、喧嘩してたらああなっちゃったらしい。なんでも傭兵集団トランプ隊として各宙域を転々と私歩く彼らは、この惑星ボラーレに久々に休暇を取りに来たのだそうな。

 

 この星はよく言えば大自然が多く、逆にいえばそれ以外何もないのどかな星である。しかしながら、職業上常に緊張とスリルの隣り合わせな生活を送る彼等にしてみれば、この星で流れる平穏な時間は戦士の休息にうってつけだったらしい。

 

 そんな訳で休暇を満喫していた彼等であったが、たまたま街中で一般市民を威圧する集団を発見し、持ち前のバイタリティにより彼等を咎めたところ、その集団こそ正体を隠して地上に降りていた海賊の一味だったらしく。あとはさっきの通りというわけだ。

 

 

「しっかしケンカからマジ戦闘に勃発とか」

 

「最初は軌道エレベーターの繁華街にある酒場で殴りあいしてたんだけどさ。あんまりに大乱闘したもんだから、そこのマスターに追い出されちまってさ」

 

「流石は0Gドックも利用する地上の酒場だけありました。マスターの腕っ節も強かったのです」

 

「そのままだと市街戦をやっちまいそうだったからね。流石に一般人に被害を出すのは不味い。だから連中を挑発しながら街の外まで誘導したって訳」

 

 

 マジか? スゲェな酒場のマスター。素手とはいえ数十人を一度に相手にして外に放り出すとか達人とかそういうレベルじゃね? しかし成程、それで普段人が少ない森林の所に来たって訳なのか。お陰で俺らが巻き込まれたけど、それでも彼らなりに考えての行動だったんだな。

 

 

「ま、ウチとしては傷ついて壊れたモンを弁償さえしてもらえれば、文句は無いッスよ」

 

「そう言ってもらえると助かります。まさかここに人が居るとはこちらも予想外でしたので」

 

「傭兵稼業は信用が第一。キチンと弁償させてもらうよ。こちとら稼ぎだけは結構あるからね。関係ない連中を巻き込んだ弁償がそれで出来るなら安いもんさ」

 

 

 ガザンさんはそういうと胸をドンと叩いて見せた。この後、弁償して貰う物の値段をミユさんと相談し、彼らに伝えに行った。やはり女性用品はどの時代でもややお値段が張る。男の俺には理解できないであろう領分だが、ないがしろには出来ないからな。

 

 あと、連絡先についてはトランプ隊の依頼窓口にでも電話すればいいらしい。どうやら彼らは結構傭兵としては有名で、依頼も多いからネットの公式サイトまで持っているらしい。これも依頼になるのかねぇと言ったら、出費が嵩む依頼ですから、正直あまりやりたくないですねと正直にププロネンさんに返された。HAHA、こやつめ。

 

 そんな訳で値段交渉が行われた矢先。上空からこちらに近寄ってくる爆音が聞こえてきた。先ほどまで海賊と戦っていたからか、まわりのトランプ隊の人達は一瞬で戦闘モードとも呼べる雰囲気に変わる。ププロネンさんも柔和な表情が消えて冷たさが増し、ガザンさんに至っては両手にアサルトライフルを持つと爆音のする方に向けていた。

 

 

「敵かっ!」

 

 

 ガザンさんが銃口を向けた先の空には、点のように小さい何かが飛んでいるのが解った。しかし、あれに攻撃を加えてもらっては困る、なぜならアレは―――

 

 

「あ、まってガザンさん。今来たのはウチの仲間ッス」

「なんだって? 仲間を呼んだのかい?」

「さっきの戦闘の時、ウチの母艦に援助要請出してたんスよ。まぁ、活躍の前に終わっちゃったんで呼んだ意味はなかったッス。今連絡入れて武装解除させとくッス」

 

 

―――今更だが、援軍がご到着してしまったのだから。

 

 

「おー、みんなご苦労さん、そしてすまねぇ」

 

 

 保安部トップのトーロが、保安員達と話をつけに行く。ああ見えてアイツは保安員達と仲が良いからな。俺が行ってもいいけど、トランプ隊を放っておく訳にもいくまい。なにせ傭兵達には、あの装甲宇宙服姿の保安員達は敵なのか味方なのか不明なのだ。俺という人質が傍に居ることで安心させてやるのである。

 

 

「―――とまぁそう言う訳だ。ご足労だったけど、もう帰っても良いぜ」

 

 

 特に混乱が起きると言う事もなく、トーロが上手く纏めてくれたらしい。一言二言話した程度で、全員大人しく輸送艇に戻って行った。それを見送った後、トーロが俺の所に寄ってくる。うん?なんだろうか?

 

「ユーリよぉ、一応もう大丈夫になったから帰るよう言ったけどよぉ。どうするよ?」

 

「うーん――後で酒奢るとでも伝えておいてくれッス。勿論予算は出すッス」

 

「わかった。皆にはそう伝えとくぜ。それとアンガトな」

 

「気にすんなッス」

 

 

 フネに残っていた保安員達も急いで駆け付けてくれたのだ。何事もなかったとはいえ、その労をねぎらわないのは上に立つ者として失格ってヤツである。まァ多分その酒代は、俺のポケットマネーって事になっちゃうんだろうけどさ。とほほ。

 

 

「はぁ艦長職も楽じゃないッスねぇー」

 

 

 色々考えなきゃいけないんだよなぁ。

ノゼローゼ、もといノイローゼにならないといいけど。

 

 

「お取り込み中の所すまないがユーリ君。先程の彼らは仲間なのですか?」

 

「あ、放っておいてすまねぇッス。あいつ等はさっきも言ったとおり、ウチの母艦から派遣して貰った、フネの保安クルー達ッス。警備から白兵戦までこなす戦闘部隊ッス」

 

 

 ちなみに内輪でも保安部の役職はそれなりに人気が高い。なぜなら白兵戦の際、海賊船にいち早く乗り込み真っ先に敵と戦う花形職だからだ。危険も多いがその分派手な役職、それが保安部なのである。それに艦内風紀を調整する役職でもあるから、フネにいる警察官といっても過言ではないのだ。

 

 また彼等は数こそ少し増えたが、そのほとんどがラッツィオの頃から鍛え続けた連中である。全員幾多もの海賊船の制圧と、海賊本拠地での戦闘経験を積んだ猛者達だ。軍隊程厳密な規律とかそう言ったのは無いけど、必ず集団戦闘を行う様に訓練した上、ケセイヤさん印の装備を持っているので、その戦闘力は初期とは比べ物にならないほど向上している。

 

 さらにはトーロと共に重力が調整され、重力が通常の数倍にも及ぶトレーニングルームでの訓練にも耐えている。故に彼等一人ひとりの実力は、恐らく軍の一般兵のそれよりも上であると俺は思っている。

 

 彼らは仲間意識も高く、俺も時々訓練に参加しているからか、それなりに慕われているらしい。微妙にノリがレンジャー部隊ッポイところがある連中だが皆とても気の良い連中だ。時たま趣味に走るレジャー部隊と化すが……まぁ些細なことだ。

 

 

「保安クルーですか。それにしては練度が高い。動きに無駄が無いですね」

 

「ああ見えて、連中は戦闘航宙機の操縦から、白兵戦、殲滅戦まで戦闘に関することは殆どこなせる連中ッスからね。そこいらの兵隊にゃ負けない自信はあるッスよ」

 

 

 ププロネンさんは感心した顔で保安部員を見ている。保安部員は非武装での戦闘能力はトーロに次いで高い。艦長職の所為で訓練をさぼり気味にしている俺よりか数段高いだろう。

だから俺は彼らが反乱を起こさないように福祉厚生および給料に気をつけている。人気職の所以はそこにあるともいわれているが、こればっかりは予算に糸目を付けられない。反乱起こされたら確実に負けるしな、ブルル。

 

 幸いなことに真面目な人材が多いからか、無茶な福祉厚生を言い出さない。せいぜいがトレーニングルームの拡張や白兵戦模擬シミュレーターやプロテインドリンクバーの追加程度である。ウチの一番の大金食いであるマッドたちよりもずっと健全だ。そこにしびれる憧れる!

 

 

「そう言えば君は艦長とか言っていましたね? 彼らの上官にあたるのですか?」

 

「大きな視野でみるなら皆は俺の指揮下にいるッス。だけど0Gドッグの場合軍隊みたいな細かな指揮系統は無いんで、大まかな役職があるだけッスね。あとは現場での判断にゆだねてるッス」

 

「なるほど、いや中々君は良い視野を持っていますね」

 

「そうスかね?普通のことだと思うッスけど?」

 

「普通、ですか?」

 

 

 ププロネンさんは、すこし以外そうに俺を見た。まぁ0Gドッグは自分本位でなんでも自分のやりたいように部下に指示を下すヤツが多いらしいからな。だが元日本人の俺から見たら、そんな頭ごなしに何でもかんでも命令を出すのに抵抗があった。

 

 だから色々と考えたら現場に任せるという考えに至った。言ってしまえば他力本願。良い意味では適材適所ってやつだ。俺は艦長ではあるけれど白兵戦での戦闘指揮が上手いって訳じゃない。俺の役職は艦長、様々な部署を統括し、大まかな指示を与えてフネがキチンと運用されるように頑張る仕事だ。

 

 そして普段はクルー達の問題や悩み相談を聞いてやる、艦長のお悩み相談室ってとこなんだよなぁ。なお、当然のことながらカウンセラーの技能は持っていないので、男女間といった複雑かつ下手に手を出すとこんがらがる知恵の輪のような問題にはノー・タッチで過ごしている。

 

 というか、俺がちょんがーなのに……リア充は爆発すればいい。

 

 

「成程、貴方は自分のすべきこと、しなければならないことも明確に解っているのですね?」

 

「そうしなきゃ、とっくに辺境宇宙のロウズで沈んでるッスよ」

 

「ロウズからここまで成程。ああ、引きとめて申し訳ない――あ、そうでした。貴方はどれくらいまでこの星に?」

 

「ん?そうスッね。今日をいれて後3日程ッスかね」

 

「そうですか。まぁまた町とかで会いましたらよろしくお願いします」

 

「こちらこそッス。ではこれにて」

 

「はい。“またいずれ”」

 

 

 そういうとププロネンさんは踵を返してガザンさんのところへと歩いていった。なんか最後の言葉が妙に含みを持たせていたような気がするが……気のせいだろうか?

 

 とりあえず、その背を見送ったあと俺達もそれぞれ帰還の徒についた。一部はまた買い出しだ。なんせさっきの戦闘で無事な荷物はほとんどないのだ。後で請求書をププロネンさんに送っておこう。

 

 

 

 

 

~ユーリ達と別れた後の傭兵リーダーたち~

 

 

「ガザン」

「どうしたリーダー」

「久々に、面白い人材を見つけました」

「おーやおや。リーダーが嬉しそうにするなんて久しぶりだね。で、どうだった?」

「まだまだ甘いところがありますが、あれは実に面白そうです」

「勘かい?」

「勘です」

「なるほど。じゃあ、他の連中を集めて準備しておくよ」

「そうしておいてください。手筈どおり頼みます」

「言われるまでもないね」

 

 

***

 

 

 さて、色々あって俺は保安部員たちと一緒に兵員輸送艇に乗り込み、ユピテルの格納庫へと戻ってきていた。結局あの後は生き残った荷物の整理やらで、飯を食う話はお流れになってしまった。つか、もう時間的にはおやつの時間だ。飯を食べる気分じゃない。

 

 皆とも適当に別れてしまったので、一人で飯を食うのもなんだかあほらしい。何かつまめるもんを買って部屋で楽しむかなぁ。先の戦闘で保安員達を運んだ装甲兵員輸送艇が整備班たちの手で格納されていくのを眺めつつ、俺はこの後の予定を考えていた。

 

 

「さってと、この後はどうするかな」

 

「あ、ユーリ。ここに居たの?探しちゃった」

 

「およ? チェルシー、どうしたんスか?」

 

「最近ユーリとお喋りしてないから探してた」

 

「おう、そいつはすまなんだ。悪い兄貴を許してくれッス」

 

「ううん、許さないよ?」

 

「えー!どうすれば許してくれるッスか!?」

 

 ふと気が付くと、チェルシーが俺のすぐ近くに来ていた。あうち、最近人間と触れ合う様になった所為か、性格変わってませんか貴女? 俺が少し慌てて言うと、彼女はすこし恥ずかしそうに此方をチラチラと伺っている。

 

 そして、勇気を出すかのように小さくガッツポーズを決めると、俺に振りむいた。

 

 

「だから、あのね? 一緒に二人で出掛けない?」

「ん? なんだデートのお誘いッスか? お安い御用ッスよ。まだボラーレで見て無いとこもあるからね」

「デデデ、デートじゃないよっ!? で、でもやったっ! それじゃ行こうよユーリ!」

 

 

 OKすると笑顔を浮かべて彼女は俺の腕を掴むとぐいぐいと引っ張った。まるで遊園地を前にした子供みたいだな。そんなチェルシーの仕草に思わず和んだ。

 

 

「引っ張らなくてもちゃんと行くッスよ。チェルシー」

 

「あ、ごめんね。迷惑だった?」

 

 

 そういうと覗き込むようにして俺を見上げてくる。

ぐぅ、これが上目使いの破壊力か。やるじゃない。

 

 

「うんにゃ、久々の家族のスキンシップ。迷惑じゃないッスよ」

 

「そっか、よかったぁ」

 

 

 ウチの妹はかわええなぁ。そう内心和みつつ、俺は彼女と手を組んで格納庫から出て行った。

 ちなみに――――

 

 

「よし、腕を組みました。計画通りです!」

 

「はぁはぁ、若い二人はーこの後~……きゃー!」

 

「エコーさん、鼻血出てますって。ミドリさんティッシュもってない?」

 

「あ、どうぞトーロくん、しかし相変わらずねエコー?」

 

「だってー、こう言うのってー、とぉってもおもしろいですからね~。キャ~♪」

 

「ウチの妹は、全く……」

 

「とか言いつつアコーさんも大概好きですねぇ?」

 

「煩いぞトーロ。プロテインの割引止めるぞ?」

 

「あ、すんません」

 

「むかって、する」

 

「ん?イネスどうしたんだ?」

 

「いや、なんでもない……(なんで見てたらムカムカしたんだろう?)」

 

 

 五人ほど無粋なストーカーが義妹とのデートに引っ付いて来ていたことに俺は全然気が付かなかった。ちなみに五人のストーカーを含め、すべてを見ていたユピはというと……。

 

 

【艦長のばか……くすん。】

 

 

チェルシーと良い雰囲気を醸してたので場の空気的に出て来れず、ついでに俺に相手にして貰えなかったので少し拗ねていた。だから、この後ろの連中のことを俺には教えなかったのだ。

 

まぁそんなこんなありつつも、俺は義妹と共にデートに出かけたのだった。

 

 

***

 

 

 さて、やってきたのはパンモロと呼ばれる動物の放牧地であった。パンモロは品種改良を何世代にもわたり受けた生き物であり、偶蹄目という俺達の世界でいうところの牛に相当する生き物である。

 

 どういう品種改良を受けたのかは不明だが、牛にしては首が長い上に前足が縮んでしまい、大きく発達した後ろ足で二足歩行している。姿的にはダチョウのような感じだろうか。そんなウシ科から離れた体躯をしているが、一応は角を頭から伸ばし、面構えも哺乳類のソレであるあたり、偶蹄目の面影を残している。

 

特筆すべきは他のどの動物よりも環境変化に強く、病気とかにもならないので、餌と水と空気さえあればどんな環境の星でも生きられる。その性質から広く星々で飼育され、農耕の補助役から乳牛や肉牛といったタンパク源として愛用されている。部位にもよるが肉質は味も淡白な牛肉のような感じがして割とうまい。

 

そして、この生き物の飼育は基本的には牛舎にて鮨詰めにして飼育するのが一般的らしいのだが、ここボラーレでは観光用なのかパンモロを放牧し、牧歌的な風景が楽しめるようになっていた。

 

 いやァ~、地上の平和な風景というのは心癒されるもんだわ。オールドタイプだからかねぇ? ニュータイプは見たことないけど。

 

 

「平和だねぇ~」

 

「ほんと、気持ち良い天気」

 

 

 ん~、と伸びをする義理の妹を微笑ましく見つめながら、平和な気分でゆっくりと放牧地を歩く。風が良い具合に吹いているからか、気分が晴れやかになるなぁ。事務仕事とかで蓄積された多大なストレスが軽減されていく気がするぜ。

 

 

「よぉ、あんたら観光かい?」

 

 

 のんびり歩いていたところ、柵の向こうで作業をしていた人に声を掛けられた。

 

 

「はは、似たようなもんスね。平和で良いとこッス」

 

「だろう?何にもないとこだが、平和な事だけが取り柄ってね。そうだ、お近づきのしるしに、一杯どうだい?」

 

 

 農夫さんはそう言うと、しぼりたてのパンモロの乳をコップに注いで渡してくれた。あ、もちろん水筒からだ。その場で搾ったのは衛生管理の都合上、そのまま渡せないんだそうで……妙に現実的だなオイ。

 

 

「良いんスか?」

 

「ありがとう。おじさん」

 

 

 でもくれるというのなら遠慮なくもらうのがユーリクオリティ。機前のいい人だなぁと思いつつ、渡されたコップに口をつけてみる。搾りたて特有の滑らかな舌触り、口の中で転がすと甘酸っぱいような濃厚な味わいが楽しめた。

 

 製品と違って味の調整が為されていないが、それこそ天然モノの味わいである。こういうのでいいんだよ、こういうので。これこそ最高のゼータクってというんだろうなぁ。

 

 そんな時である。

 

「ら、らとれぇぇ!!戻ってきてくれだか?!」

 

「ホワイっ!? 人違いッスよ!?」

 

 

 なにやら駆けてきた初老の男性に抱きつかれかけた。男の、それも初老の男性に抱きつかれる趣味はないので、思わずよけてしまったところ、男性は慣性の法則に従って顔面で地面を掘り返していた。

 

「あ……、そうだぁ、ラトレはこんなに若くないっしょ……」

 

「いや、ラトレってだれッス?」

 

「おらの息子だべ。なんだか星の学問さするって三年前にこの星さでてってそれっきりだべさ」

 

「それって忘れ去られたってことッスかね」

 

 

 思わず本音が漏れたところ、初老のおっさんは口から息を吐き出して倒れた。

 

 

「ぐはっ!……そうだよなぁ、こんなド田舎のことなんて忘れてるだぁよぉ……」

 

「ユ、ユーリ。そんなこといったらおじさん可愛そう。大丈夫おじさん、きっと帰ってくると思う」

 

「そうかぁ? めんこい嬢さん。こんななんもない星に?」

 

「ううん、それでもその……ラトレさんにとってここは故郷なんでしょう? どんなに遠いところにいっても、故郷の事は忘れないと思うわ」

 

「……そうだなぁ、嬢さん、ありがとうなぁ」

 

 

 初老のおじさんはチェルシーに礼を言うと、そのまま立ち去った。それにしても驚いた。成長しているとは思っていたが、あの人見知りだったチェルシーが他者を慰めるなんて……。

 

 うれしくなった俺は、思わずチェルシーを撫でまわした。

 

「な、なんでなでるのー?」

 

「いやぁ、成長した姿が見れてうれしくてつい」

 

「おうおう、仲がいいねぇ。おじさん思わずにやけちまう」

 

 

 パンモロの乳くれた農夫さんが見ているが関係ない。口では疑問を述べるが逃げようとしないチェルシーは可愛い。そして可愛いは正義だ。

 

 その後、しばらく撫でまわして満足した後、散策を再開した。

 

 

「なんかほっとするッスねぇ」

 

「しばらく航海が長かったからね、ところでユーリ」

 

「ん?どうしたんスか?」

 

「私、ユーリとこういう場所で暮らしたい」

 

「へ? いやチェルシーさん!?」

 

 

 その言葉に一瞬固まる俺。

 

 

「お、いきなり告白かい? 若いっていいねぇ~。邪魔なおっさんはアッチ行ってるわ」

 

 

 まだ目の前にいた農夫のおじさんは、にやにやと笑いながらその場を去った。

 うぉーい!なんか勘違いされてないかい?!

 

 

「え? あ! ち、ちがうの! だってここロウズの故郷に似てるんだもの!」

 

「あ、なんだそう言うことッスか」

 

 

 びっくらこいた。なんのフラグも立ててないのに告白とか超スピードなんてもんじゃねぇぞ。農夫さんの意味深な言葉の意味に、自分の言葉が違う意味に捉えられた事に気がついたチェルシーは赤面してイヤンイヤンと首を振って熱を冷まそうとしていた。

 

 一言でいうなら、萌えた。美少女のもだえる姿って絵になるよね。だけど、突然そんなことを言い出すなんて、宇宙の航海は彼女には合わなかったのかな?

 

 

「チェルシーは航海に出るのが嫌になったスか?」

 

「ううん、そうじゃないわ。宇宙は怖いところだと思っていたけど、最近はそうでもないの。色んな人とお話しして、色んな物を見て、みんなと笑って。うん、楽しいわ」

 

「そう何スか? でも無理してるんだったら遠慮なくいってくれッス。どこか平和な場所に降ろすから」

 

「うん、ユーリならそう言うと思った。でも私は降りないわ。私がいる場所は、ユーリがいるところだもの」

 

「あうあー」

 

 

 花が咲いたかのような微笑みを自然と浮かべた彼女に思わず見惚れた。同時に俺の精神防壁に楔が打ち込まれる。まて、もちつけ……じゃなくて落ちつけ。俺に義妹属性はないから、だから落ちつけ。どくどく心臓の音がうるさい、な、なんにゃんだこりは?

 

 

「は、はは。妹も成長してるとはね。兄としてはありがたい限りッス」

 

「妹か、いまはそれでもいいかな~」

 

「ん?なんか言ったッスか」

 

「ううん、なんでもないわ。お兄さま」

 

 

 チェルシーは笑みを湛えたまま、腕に抱きついてきた。一瞬彼女の笑みが非常に……野獣の眼光な気がして背筋がゾクゾクきた。やるじゃない。

 

 でもすぐにそれも消えて、俺の腕に抱きつく彼女はなんだか甘えん坊な子犬みたいである。背筋がゾクゾクきてる間に精神防壁の展開は完了したので、甘える彼女を見てもなんとも思わなかった。なんとも思って無い、だから大丈夫だってば。

 

 

 

―――すぐ近くの茂み―――

 

 ある意味天然少女なチェルシーの自覚のない甘える攻撃により、ユーリの理性を守る防壁にヒビが入りかけていたちょうどその頃、ちかくの茂みにはストーカーたちが陣取っていた。

 

 

「おお! すり寄ったぜ! 面白くなってきた」

 

「やりますねチェルシーさん、天然だけど妹という立場を最大限に利用してますね。あれで天然でやってるのですから、あなおそろしや」

 

 

 オペレーターのミドリ、レーダー手のエコー、生活班のアコー、さらにはトーロ&イネス。彼らは傍目から見れば仲睦まじく見えるユーリ兄妹のじゃれ合いを楽しそうに見つめている。なんで? 暇だったし、面白そうだったからである。

 

 

「ふわーふわー!フはッ!」

 

「はいティッシュだよ。鼻に詰めときなエコー」

 

「ありがとー、ねーさん」

 

 

 ちょいと妄想癖があるエコーは色々と考えてしまったのか鼻から赤い液体がポタポタ零れだす。流石に放置するとスプラッタなので、アコーがすかさずポケットティッシュを彼女に渡していた。長年の姉妹は立てではない。

 

 

「はぁはぁ、あふぅ」

 

「ポケットティッシュ、足りるかな?」

 

 

 ただ詰めた紙が尋常じゃない速さで赤く染まるので、持ち合わせのティッシュの残量が気になるアコー。エコー、どんだけ興奮しているのやら。

 

 

「艦長とチェルシーさんって兄妹なんだろ?いいのかなアレ」

 

「ありゃイネス知らなかったのか? あいつ等血の繋がりは無いんだぜ?」

 

「そうなのか? でも何でトーロはそんなことを知ってるんだ?」

 

「サド先生から酒の肴に聞いた。検査した時DNAを調べたんだと。でもユーリはそのことをしらねぇ」

 

「え? なんでさ?」

 

「だって、その方がおもしろいじゃねぇか」

 

「そう、かなぁ?」

 

「そうだぜ。あれも賭けの対象だからな。一口噛むか?」

 

「ボクは遠慮しとくよ。馬に蹴られたくない」

 

「ほら、そこ! 静かにしてください! 艦長達に気付かれちゃいます」

 

「「了解……あ」」

 

 

 固まるトーロとイネス、その視線の先には夜叉がいた。

 

 

「「「え?」」」

 

「ほう、君たちはそないな場所でなんばしよっとるのかなぁ」

 

「ユ、ユーリ! これには深い訳が! というか後半なんて言ったんだ!?」

 

「最近おとなしいかと思えば全く」

 

「ち、ちなみに、艦長は何時からそこに?」

 

「ん?ミドリさんが大声で気付かれちゃいますと言った辺りッスね。さて、減俸とお仕置きされるのとドッチガイイ?」

 

「「「「「減俸でお願いします!!!!」」」」」

 

 

 ニヤリと、ヒトもコロせそうなエミで訪ねてくる上司を前に、5人は首が壊れそうなほどに頭を下げて懇願した。結果、その5名は、しばらくの間給料半分で過ごしましたとさ。

 

 




ふはははは、睡眠時間を削ればこのくらい!
………ごめんなさい、頭痛いです、もうしませんから許して。
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