何時の間にか無限航路   作:QOL

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な が ら く お待たせいたした!

仕事が変わったり色々あって執筆全然できなかったけど。

私は、帰ってきたー!


~何時の間にか無限航路・第16 話、エルメッツァ中央編~

■エルメッツァ編・第十六章■

 

 さて、ふざけた真似をしてくれた連中に制裁と加えた後、俺はチェルシーと別れてトスカ姐さんを迎えに行った。いまだに話しているなら最初に分かれた0Gドッグ御用達の酒場に居る筈だと思ったからである。

 

 そして案の定、酒場の中を覗きこむとカウンター席に彼等はいた。感じから察するに彼らの話し合いは既に話は終わっている様なので声を掛けることにした。

 

 

「おいっすー、トスカさーん、内緒話終わったッスかー?」

 

「ん? おおユーリ迎えに来てくれたのかい? ちょうど話が終わったとこだよ。それと、ほら」

 

「あん?何スかこのプレート」

 

 トスカ姐さんは俺の手に小さなプレートを渡してきた。

 なにかのデータボードのようだな……まさか?

 

 

「それはさ。エピタフ捜査船の残骸、航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)だよ」

 

「げ?!」

 

「アゼルナイア宙域側のボイドゲート付近で発見した残骸から、私がサルベージしたものです」

 

 

 表面上はゲッと声を荒げて見せるが、内心では“ああ、やっぱりね”と納得していた。万が一沈んでいないことを考え捜索したが、これだけ探して見つからないんじゃ、沈んでるよな。おまけにこのメモライザーがここにあるとくれば、エピタフ捜査船は間違いなく沈没したってことでファイナルアンサー。

 

 

「ま、とりあえずコレはオムス中佐んとこに渡しとかないとダメっすね」

 

「ああ。調査船が沈んだって報告だね」

 

「面倒臭いスッけど、報告しない訳にもいかないッスからね」

 

「えらいネェ。ま、頑張んな艦長さん」

 

「副長なんスから、少しは手伝ってくださいよォ」

 

「何言ってんだい?これはアンタの仕事。私の仕事はお酒を呑むことさ」

 

「酒代は経費で落ちないですよ?」

 

「いいのいいの。副長権限で割り込ませとくから」

 

「だめだこの人。早く何とかしないと」

 

「ハハ、楽しそうで何よりですな。では私はここで失礼します。トスカ様、ユーリ様。またいずれ」

 

 

 席を立ったシュベインを見送った後、とりあえずまだお酒呑むーと騒いでいるトスカ姐さんを引っ張ってユピテルに戻りツィーズロンドへと出発した。

 

 だがしかし、やはりというべきかツィーズロンドへと向かう航路の間、若干トスカ姐さんの態度がおかしかった。原作どおりに事が推移しているとすれば、最大の敵で最大の味方のアレ等の影がちらついているのだろう。

 

 ま、ケセラセラに任せるとしよう。そのほうが面白いだろうし。それが後に大変な事態を招くとは、この時の俺は予想だにできなかったのであった。と、フラグを立てておけば安心だね! さて、どうなる事やら。

 

 

***

 

 

 トスカ姐さんを引っ張り、ユピテルのブリッジに来た俺は、直ぐに発進準備を行わせた。大掛かりなフネなのでユピの補助が得られるとしても発進はやっぱり緊張する。そんなどこか張り詰めた空気が漂う中で、俺は号令を下した。

 

 

「本艦はこれよりツィーズロンドへ向けて発進するッス」

 

「了解、各艦発進準備。各セクションは発進手順に従い、プロセスを消化してください」

 

『整備班了解。ダメコンチェック異常無し。各艦、隔壁及び気密、自動診断では問題無し。目視でも異常は見受けられないぜ』

 

『生活班も了解。補給貨物の搭載は完了し既に固定済み。こっちはいつでもいけるよ』

 

「トクガワ、エンジンスタート」

 

「了解、インフラトン機関へのエネルギー閉鎖弁オープン。出力臨界へ、システムオールグリーン」

 

「航法プログラム及び、航法システムも異常無し」

 

「レーダーシステムもー、正常に稼働中ー」

 

 

 各部署からの報告が寄せられる。整備を終えているユピテルに、特に異常は見られない。護衛艦隊は既に発進を完了しているので、後は俺達だけだ。

 

 

「管制からの発進許可降りました。メインゲート解放されていきます」

 

「微速前進ッス」

 

「アイアイサー、微速前進ヨーソロ」

 

 

 正面の全長数キロはある巨大ゲートに張られたデブリ用シールドが解除された。シールドの全面開放を確認し、ゆっくりとユピテルが動き出して行く。

 

 

【管制より電文“貴艦ノ旅ノ安全ヲ、祈ル”以上です】

 

「各シークエンス消化完了、艦長」

 

 

 ステーションから出た後、ミドリさんが俺の方をジッと見た。

 準備が完了したことを感知し、俺は艦長席から指示を出す。

 

 

「白鯨艦隊、発進する」

 

「陣形は来た時と変わらず、防衛駆逐艦艦隊を前面に出します」

 

【ダッシュ達に指示を飛ばしておきます】

 

 

 ステーションの外に展開している護衛艦隊が、ユピテルからの指令信号を受信。

 旗艦ユピテルの前方に展開して先行した。

 

 

「各艦発進、遅延艦は存在せず」

 

【対海賊用EPを通常出力で展開開始】

 

「針路上にー障害物は感知できませんー」

 

「無人RVF-0発艦、航路に展開します」

 

「全行程完了だ。おつかれさん」

 

 

 そうトスカ姐さんの声が聞こえたので、俺は力を抜いた。なんだかんだでフネの発進と寄港の時が一番危ないから神経を結構使うんだよなぁ。

 

 

「ま、それなりに休暇が楽しめて良かったッスね」

 

「だね。この先忙しく成りそうだしな」

 

「ああ、“連中”の事ッスね。ウチの艦隊なら逃げ回るくらいは出来るッスよ」

 

「はは、そうだろうね。何せ乗ってるヤツが奴だからな」

 

 

 どういう意味じゃい。

 

 

「ま、多分大丈夫ッスよ。ウチの連中はすさまじくタフッスからね」

 

「ああ、そうだね」

 

 

 トスカ姐さんはそう返すと、外を映す映像パネルの方に目線を向けた。やっぱりどこか心配そうである。俺はそんな彼女をみて、出港前に彼女と話した内容について思い出していた。

 

 

――出航1時間前。

 

 

「ヤッハバッハ?それが調査船を墜とした連中の名前ッスか?」

 

「ああ、その通りだ」

 

 

 出港直前、俺の部屋にやってきたトスカ姐さんは俺にそう述べた。それはシュベインとの話し合いで、話していた内容。曰く“ヤッハバッハがマゼラン銀河圏への侵攻を開始した”という事らしい。非常に大変な事態なのを物語るかの様に、彼女の顔は何時になく真剣である。

 

 だがちょっと待って欲しい。何故に今それを俺に話す? 俺としては突然の事態に内心ハトがミサイル喰らった様な感じだった。なんせ覚えている限りでは、原作においてこの時期のユーリにヤッハバッハの話はしていない筈なのだ。

 それなのに、彼女は俺にヤッハバッハのことを喋った。寝耳に水とはまさにこの事である。俺は原作知識によりヤッハバッハが何であるかを知っている。それこそ眼の前で真剣な面持ちで此方に視線を向ける彼女よりも……だからこそ。

 

 

「それって銀河にある国家か何スかね?」

 

 

 だからこそ、俺は真剣に呆けることに徹した。何故ならこの時期、ヤッハバッハの情報は俺の憑依先であるユーリの生まれ故郷のロウズはおろか、周囲の宇宙島を束ねるエルメッツァ星間国家連合ですら掴んでいない。

 一地方星系出身の若造が知っていてはおかしい。彼女を警戒させない為に俺はそれをごまかした。

 

 

「ああ、その通りさ。ここら辺からだとアゼルナイア宙域。ゲート無しだと5年はかかる距離にある」

 

「5年、違う銀河系ッスか?」

 

「そう、そして私の故郷でもあるのさ」

 

 

 この時代のフネの殆どが主機関に用いているインフラトン機関。このエンジンはその原理上、光の速度を軽く超える早さで移動可能である。そうであるにも関わらず、5年もかかる距離にある宙域なのだ。

 一体全体どれほど離れているか簡単に想像がつくだろう。

 

 

「なんとも言えないッスね。しかし、侵略ねぇ?」

 

「連中にかかれば、この銀河はすぐに征服されるだろうさ」

 

「でしょうね。この銀河を巡ったトスカさんがそう言うなら。んで、俺にどうしろと?」

 

「正直なところ解らない。でも巻き込まれる可能性がある以上。アンタに話しておいた方がいいと考えた」

 

 でしょうな。ま、答えは後になってから出してくれれば良いさ。

 さーてさて、どうしようかね? 先ほどの説明によれば、相手は自力で5年以上航海出来る航続距離を誇る艦船ばかり。対してこちらは、ウチのフネは別にして良くて恒星間クラス程度と言ったところ。うわぁ、既にフネの性能差で負けているじゃん。

 

 

「一応聞くんスけど、そのヤッハバッハってウチのフネで勝てる相手ですか?」

 

「解らない。タイマンなら圧倒出来るかもしれないけど」

 

「数ッスか?」

 

「ああ、梃子摺るくらい強力なフネが数万隻以上だ。普通に考えたら勝てる訳が無い」

 

 

 おまけに数でも負けている。に、逃げるんだァ、勝てるわけ無いよ……と某M字ハゲのヘタレ王子が喚き出しそうな程の戦力差。本当にどうしてくれようか?

 

 

「ていうか、一度にそれだけ相手すれば、余程のフネでないと勝てませんって」

 

「だよねー」

 

 

 数の暴力というのは恐ろしいモノだ。白鯨艦隊は我等が誇るマッド達曰く、小マゼランを蹂躙出来る程の性能があるらしいが、ソレはあくまで乗っている人間のことを考慮に入れなかった場合である。

 実際は長時間の戦闘によるマンパワーの低下、それによるマシンパワーの低下が起こる。そうなったら後はフルボッコだ。動けないフネは的でしか無い。チの場合AIが動かしてる所もあるから一概にそうとも言えないだろうけどね。 

 

 しっかしそうかぁ、かなり強いフネを作ったつもりだったけど、それでも足りないか。金溜めて隣の銀河の最新鋭艦であるアーマズィウス級量産したろっかな? 小マゼラン銀河の大海賊のサマラ様が使っている高性能海賊船、エリエロンド級でも可。

 ランキングシステムにより試作品かどうかは知らないが、基礎設計図は持っているから造れなくは無い。それらを増産できれば、そうそう負けはしないだろう。俺らの艦隊はな。問題は俺たちだけ強くなっても結局は負けることと乗る人間がいないってことと、建造費が嵩むこと。財政難、つらいです。

 

 

「とりあえず、何時攻めてくるか解らない敵が居る。それだけは知っておいてほしかった。ただそれだけさ」

 

 

 思考の海に漂いかけていたところを姐さんの言葉を聞いて我に返る。

 

 

「なはは、気ィ使ってたのに、随分信用されたもんスね?俺も」

 

「ああ、そうだね。最初の頃はただのバカな子坊だと思ってたからね」

 

「それは何かヒデェっス」

 

「最初の頃だけさ。大体アンタは規格外過ぎる。普通はこんな短期間でこれだけの規模の艦隊を組むなんてありえないんだよ。覚えてるかい? アタシとであったのは、ほんの数ヶ月前だって事に」

 

 

 考えてみれば確かにロウズを旅立ってから数カ月程しか経って無いんだよな。

 どんだけハイスピードで勢力を伸ばしてんだか……皆のお陰だけどさ。

 

 

「クルー全員のお陰ッスよ。仲間が頑張るからここまでこれた。青臭いけど、そう言うもんス」

 

「ああ、そうなんだろうね」

 

「その仲間にトスカさんも含まれてるんスからね? お忘れなく」

 

「え?――あ、ああ! そうだった。私も仲間、なんだよな」

 

 何故か問いかけるかの様な、それでいて確認するかのような声のトーンを出すトスカ姐さん。俺は彼女の仕草に一瞬ため息を着き、何をいまさらという感じで肩を上げた。

 

 

「当たり前ッス。トスカさんは俺の副艦長。その部署だけは他の人間には渡さないッス」

 

「ふふ―――ありがとさん“ユーリ艦長”」

 

 

 

 

 

 

――――とまぁ、そう言った事があった訳でして。

 

 とりあえず、ヤッハバッハのことはしばらく誰にも口外しないという話になった。 下手に他の星で話して回っても、余計な混乱を招くだけであるし、まだ明確な確証が得られない現在、信じてもらえない確率の方が高い。下手をすれば国家に目をつけられ国家騒乱罪とかで獄中に放り込まれてしまう。いくら俺が色んなところを見たいとはいえ勘弁だ。

 

 だから密かに脱出を含めた色んな準備を進めるしかあるまい。生き残る為の準備ってヤツをね。やれるなら小マゼランの方々をお助けした方がいいんだろうけど、それをするには年月が足りない。遅くても一年以内にヤッハバッハが来てしまうので、倒す為の戦力増強などは無謀もいいところ。

 俺たちのフネが大マゼラン製の設計図を元にして建造されているので、性能が小マゼランのそれよりも数段高い位置にあるのだが、ヤッハバッハさんはその大マゼラン製をも上回る性能の艦であふれてたりする。アバリスが旧式艦艇扱いされるくらいだと言えば想像つくだろうか?

 

 そんな連中と正面から戦うのは、もはや玉砕でしかない。だが考えようによっては、倒さなければそれなりの戦力を揃えられるということでもある。たとえば嫌がらせのゲリラ戦用に足の速いフネを用意するとか、大量の機雷を散布できる機雷散布船を造るとかな。 

 幸いなことに、ウチには技術チートなマッド達がいる。この変態技術者達がいるお陰からか、技術的にはヤッハバッハに勝っていると思う。この先のために更なる予算を連中につぎ込むことになるのか……とほほ、また海賊狩りが始まるぜ。

 

 

「艦長、ちょっといいか?」

 

「ん?サナダさん、どうしたッスか?」

 

 

 さて、この先の資金稼ぎに対して暗鬱とした気分でいた所、なにやらサナダさんが話しかけてきた。何か俺に伝えたいことがあるらしい。

 

 

「実は試験的にアバリスとユピテルに軍事用ECMをベースに機能を追加して強化したステルスモードを搭載してみた」

 

「ステルスモードッスか? 追加機能って。もしかして光学迷彩とか?」

 

 

 ははは、まさかそんなフネを覆える光学迷彩とかありえ―――

 

 

「む?誰か漏らしたのか?サプライズにしようとせっかく極秘に開発を進めていたのだが」

 

「え?マジ?」

 

 

―――神さま、マッド達が力を合わせると、貴方の元にまで飛翔できそうです。

 

 

「重力偏重を利用して光を捻じ曲げ、周囲の空間に溶け込むようにした。技術的には古くからある光学迷彩装置だ。もっともフネに搭載する大きさの物はこれまでなかったからそれなりに面白かった」

 

「そ、そうっスか。楽しそうで何より」

 

「ユピテルは勿論、他の艦にも実際に搭載してみた。ただし予算の都合上、アバリスとユピテル、それに巡洋艦にだけしか搭載出来なかったがな」

 

「ソレ以前に俺んところにそんな報告全然なかったんスけど?」

 

「言っただろ? 驚かせてやろうと? そして『こんな事もあろうかと』の為だ」

 

 

あー、すべてはソコにつながるんですね?解ります。

 

 

「あり? サナダさん、サナダさん。コレって一部の艦にだけ搭載してるんスよね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「てことは、護衛の駆逐艦隊は丸見えって事ッスから、海賊ホイホイなんじゃ?」

 

 

 例えば巡洋艦クラスのフネを持っている海賊がいるとしよう。俺たちにしてみればいいカモだが海賊にはこちらの姿は見えていない。そこに20隻とはいえ、駆逐艦だけで構成された艦隊が通ったとする。

 ゼラーナやガラーナは速さにステ振りしたような性能で基本性能は並の艦だ。ウチの場合は改造が重ねられて性能が底上げされ、見た目以外はもう面影は残っていないが、それでも見た目は駆逐艦のまま。海賊に巡洋艦が数隻でもいたら、普通に襲い掛かってくるかと思うんだが?

 

 

「いいじゃないか、カモが寄って来る」

 

「いや、そもそも隠れる為のステルスモードじゃ・・・」

 

「いずれすべての艦に搭載させた時が真価を発揮できるだろう」

 

「おーい、目をコッチ向けて喋ってくれッスー」

 

「だからその為にも艦長、よりいっそうの働きを望むと技術陣一同は思っている」

 

「ちょいまて! まだぼったくる気ッスか?!」

 

「科学の成功と発展の為には十分な投資と犠牲が必要なのだ。わかってくれ」

 

「いま犠牲って言ったッスよね!?」

 

 

 にゃろう、ステルスモードはこれから先の事を考えれば非常に便利そうだけど、今のままじゃ頭隠して尻隠さずじゃねぇか。海賊ホイホイとしては使えるが、なんか釈然としねぇな。

 

 

「ま、いいか。いずれ全艦配備してくれるッスよね?」

 

「ああ、ソコは大丈夫だ。なに、軽く2万Gを越える程度だ」

 

 

 2万Gとか初期の購入可能艦の値段より遥かに高いじゃねぇか。具体的に言えば初代旗艦だったアルク級、あれが三隻余裕で買える。んー、でも合計26隻も居るウチの艦隊の規模から考えたら、すさまじく安いということなのか?

 

 

「海賊船を艦隊ごと無傷で拿捕して5回分ってとこッスね。資材費も含めると……10回分ッスか……おうふ」

 

「俺達も便利なポケットを持った狸ロボットじゃないからな。新装備には金が掛かると思ってくれ」

 

「OK,なら金は作るから全艦配備よろしくッス。期待してまっせ?」

 

「ああ、まかせておいてくれ」

 

 

 そういってクールに去っていくサナダさんを尻目に、俺は内心ほくそ笑んでいた。本当なら財政的にOKを出すのは憚られるのだろうが、俺はGOサインを出したのは理由がある。冷静に考えれば光学迷彩装備のフネなんてロマン過ぎて脳汁溢れるだろ。

 

 敵からの砲撃を浴びせられる駆逐艦隊! 敵は慢心して舌なめずりをしてさらに追い打ちの砲撃を加えてくる! 勝利を確信した敵! そこに宇宙から滲み出る様にして現れるユピテルとアバリスと巡洋艦隊が圧倒的な砲撃をッ! カッコイイじゃん!

 

 

「むふふ、これで色んな戦法がとれるッス! ウハッ! 夢が広がリング!」

 

「相変わらず常識外れだね。ウチの開発部署」

 

「トスカさん、あいつ等に似合うのは常識じゃなくて非常識ッスよ」

 

「なんだか自分が色んな事で悩んでたことが、とてもバカらしくなってきたよ」

 

「はっはっは!まぁ気にしたら人生の負け組み決定ッスよ」

 

「はは、負け組みかァ」

 

 

 俺とサナダさんのやり取りを近くで聞いていた姐さんが黄昏ていたが放っておこう。下手に刺激してはいけない気がするのですハイ。でも、大体マッド連中に常識を求めるのがまずダメだろう。常識に捕らわれてはいけないのですね!わかります。

 

 

 まぁ、あいつらはアイディア提供しているうちに何故かケーニッヒ・モンスターを造ったような連中だしな。そうVB-6ケーニッヒモンスター、マクロスシリーズに登場する機体の一つだ。原作ではデストロイド・モンスターと呼ばれた2足歩行機動兵器が元になっており、それに飛行・展開可能という機能を付け加えた機体だ。

 形式番号にV(ヴァリアブル)B(ボマー)とつくように可変型の爆撃機である。最大の特徴はVF-0と同じく可変する機構と大口径4連装レールガンを搭載している事だ。大型機ゆえに運動性能はVF-0に劣るのだが、その分航続距離やペイロード、さらに防御力や攻撃力が秀でている。

 

 ただし、ウチでの名前はVB-0モンスターとなる。開発経緯が俺の出したアイディアにプラスして、基本性能は高いが器用貧乏であったVFシリーズを違うアプローチから強化しようという運びで作られた設計が元となっており、デストロイドモンスターを経由してない直接開発された機体であったからだ。

 あと、多分オリジナルと異なり、モンスターはブロック工法を採用している。堅牢なフレームに機能が集中したユニットを接続するように造られているのだ。元ネタの機体にそんな機能があったか知らないが、このおかげでまるでサンダーバード二号機の如く、ペイロード部分を別の機能の付いた物と変更できたりする。

 

 爆撃機機能は勿論のこと、ペイロード部分を兵員輸送ユニットに帰れば強襲輸送艇としても機能するのだ。他にもレールガンも元ネタでは推進器を兼ねていたが完全に分離しており、別の兵装や機能が付いたユニットへと変更できる、うーんオールマイティ。

 勿論、配備しましたよ? 最初見たときは小さいザンジバル級かと思ったけどカッコいいから問題なし。第一変形できる大型機動兵器は漢の浪漫である! 余談だが大気圏内も普通に飛行できるらしく、この間トランプ隊が起した戦闘に巻き込まれた時に保安クルーを運んだのもモンスターだ。

 

 スゲェなマッド。いよ! 我が艦隊の屋台骨! もう手放せないぜッ!

 

 

「確かに連中に似合うのは非常識か」

 

「しまいにゃ、自力でボイドゲート作り上げたりして」

 

「金や資材、後は好奇心さえあればやりそうだ。歯止めが効かないし」

 

「逆を言えば金が無ければ作れないって事ッスけどね」

 

 

 手放せないけど、やり過ぎでフネが吹き飛ぶ様な事故とかは勘弁かな。その辺りはユピに監視させているけどな。危険なことを無意識で行いそうになったら、ユピがまず警告してくれる。それで大体7割は危ないことは起きない。意外と低い数字なのは研究に夢中で警告に気が付いてくれないってパターンがあるからだけど……。

 

 ともあれ、マッドたちはユピが俺に頼まれて警告してくるのを知っている。つまりユピの言葉は俺の言葉と同じとなる。彼らにとっては俺がパトロンにあたるから、パトロンの意向には従ってくれるのだ。稀に暴走するがメリットを考えたらデメリットは可愛いもんだ。今日もまた艦内の研究室エリアで開発に勤しんでんだろうなぁ。

 

 

「んー、それじゃあ取り合えず、そのステルスモードを起動させて様子を見てみるッスか」

 

 

 ま、それなりに鴨が来てくれればいいかな。

 俺はそう思いつつ、艦長席に深く腰掛けたのだった。

 

 

………………………

 

 

…………………

 

 

……………

 

 

 さて、いつの間にか配備されていたステルスモードの按配ですが、それは実に透明で素晴らしいものでした。予想したとおりに先行しているK級とS級の駆逐艦の艦隊に食いつく食いつく。こんな特別な装備を作ってもらえるわたしは、特別な存在なのだと感じました。

 

 思わずベルタースでオリジナルが混じってしまったのはしょうがない。なんせ海賊狩りの難易度がEasyからBerry easyになってしまったのだ。カモだと思って追いかけた先の洞窟が超巨大クジラの口の中とか相手からしたら笑えないだろう。背後からの強襲、おいしかったです。お陰で少しだけ懐が暖かくなったからマッドに感謝ですわ。

 

 

「艦長。航路上に航海灯を灯していない未確認艦を探知しました」

 

「未確認艦? 識別は?」

 

 

 そんな時、ミドリさんから未確認艦の発見情報が入った。航路上で航海灯を灯さないのは見つかりたくない海賊の類か敵意のある0Gドック位のモノである。そのため、そういうフネを見かけた場合だいたいは警戒して進むのが定石である。

 

 ちなみに現在、俺たちも航海灯を点けていない。なんせステルスモードの試験中だから、灯すことができないのである。だが万が一ステルスが壊れるなりなんなりして第三者に見つかった場合を考えて、艦隊に先行していてステルスモードを持っていない駆逐艦隊は航海灯を点している。閑話休題。

 

 

「海賊では無いようですが……、単艦で我が艦隊の針路上に停止しています」

 

【K級の索敵距離にはいりました。スキャン開始―――データ解析終了。相手は400m級、シルエットからして恐らくカルバライヤ星団連合が各国に輸出している装甲輸送艦のボイエン級です。ただ、所々カスタムが施されています】

 

「カスタムされた輸送船?……メイン・ホロモニターに投影してくれッス」

 

「了解、投影します」

 

 

 ボウっとホログラムがブリッジの空間に浮かび上がる。浮かんだ影は、まるで片刃のナイフを思わせる形状をしている。この細長い形をしたフネはカルバライヤ星団連合が輸出している輸送艦の一種であるボイエン級のものだ。

 質実剛健を胸とするカルバライヤの優秀な装甲技術が使われたフネであり、甲虫の外殻を思わせる装甲を纏わせたような独特の船体をしている。有機的な感じを思わせる形状は、物理的な衝撃に高い耐性をもち、堅牢なフレームに支えられている為、フネ全体での耐久力も非常に高いと評判で各国にも認められているモデルであった。

 

 武装こそデブリ破砕用小型レーザータレット一門しかない通常の輸送艦であるが、彼女が身に纏う装甲に使われている技術が優秀なため、そこいらで手に入る下手な駆逐艦よりも堅牢な造りをしている。

 すくなくとも元輸送艦を改装設計したアルク級といった俺たちの初代旗艦よりも装甲値だけなら高い。武装じゃ勝っていたけど、輸送艦の方が硬いっていうのも微妙な話だな。

 

 

 それはさておき、いま眼の前にいるボイエン級は、そこかしこに手が加えられているのが見て取れた。とくに顕著なのが輸送艦後部にあるコンテナユニットを接続するスペースで、本来は台形を組み合わせた格子状の空間に大型コンテナを積む場所なのだが、今はコンテナユニットがあるべき後部をそっくり取り払われている。

 いわば船体全部から後ろ側は機関部を除きむき出しの状態で、大型コンテナの代わりに、片仮名でいうところのキに近い形状に足場が伸びた状態となっている。その足場は航宙機の接続ユニットらしく、沢山の戦闘機が機首の部分を上にして縦に繋がれていたのである。

 

 

「ユピ、すこしあの航宙機を拡大してくれ」

 

【はい、サナダさん】

 

 

 サナダさんの指示で吊り下げられた航宙機がメイン・ホロモニターに拡大投影される。ホログラムに浮かび上がったのは翼を広げた鳥を思わせる戦闘航宙機の姿だ。モスグリーンに近い色で統一されたそれらの機体が十数機、形状から察するにエルメッツァ製の戦闘航宙機だった。

 

 

「アレは、ビトンっスか? 何でまた戦闘機が?」

 

「いや艦長。アレはフィオリアだ。ビトンのアッパーバージョンに相当する」

 

 

 俺の呟きに訂正をいれてきたサナダさんは、俺のコンソールにデータを送ってくる。LF-F-035フィオリア、それがホログラムに映る戦闘機たちの名称らしい。良く見ると羽根の形状からしてビトンとは色々と異なる。おそらくは設計から変更が加えられたのだろう。

 

 ビトンと比べて機首のノーズコーンが若干縮み、エンジン部分が大型化、ステルス機のように直角を多用した機体となっていた。F-22ラプターの胴体に肥大化したスタビライザーが翼端についたことで前進翼のようになった翼をもったという感じだろうか。

 武装は改造されていないのならビトンと共通のSSL対宙ミサイルとK-133リニアガンを搭載しており、スタビライザーの大型化でリニアガン投射時の命中率が向上し、エンジン大型化によるペイロード増大でミサイル搭載量も増え、制宙能力も向上している。

 

 まぁ、もともとバランス型の機体だったビトンが若干性能アップした機体だと考えればいいだろう。それにしてもバブルキャノピーは継承しているが、航空機然とした形状だったビトンと比べ、いかにも航宙機という形状となり、些かカッコよさに欠けるな。いやまぁ宇宙じゃ空力学が働かないから形状にこだわらないのは正しいのだが。

 さて、そんな改装空母のような感じの変なボイエン級を見つけたうちのクルー達はどんな反応を示しただろうか?

 

 

「艦長ー、どうするよ? 撃ちゃいます? 撃たせちゃいます?」

 

「ばーろーストール。いきなり弾を撃ちこんでどうすんだよ」

 

「でもようリーフ、敵かも知れねぇじゃん?」

 

 

 最近トリガーハッピーな疑いがもたれているストールはとにかく砲弾を撃ち込みたくてたまらないようだ。友人で操舵主を務めているリーフに言いすくめられてもまだ諦めきれないらしく、俺にキラキラした目を送ってくる。やめろ気持ち悪い。

 

 

「もしかしたら、ただ単に何かしらのトラブルかもしれませんぞ?」

 

「トクガワさんの言う通りッス。今のところ駆逐艦隊に敵意は向けて無いみたいだから様子見ッス」

 

 

 そしてエンジンのエキスパートであり、色んな意味で生き字引である皆のおじいちゃんなトクガワ機関長の鶴の一声に俺は賛同した。こちらに対して敵意があるのなら、まず先遣艦隊に対してレーダー照射を行いつつインフラトン機関の出力を上げる為、エネルギー量の増加がみられる筈だ。

 

 俺たちのところから目視はムリだが、すでに互いのレーダーレンジ内に入っている距離なので、実際かなり近い。今のところ相手に戦いを起こす気はないらしく、停止したK級およびS級の群れを前にして平静を保っている。戦闘出力を上げないのは襲う気があるのならおかしい。

 多分、こちらと戦う気はないのだろう。少々邪魔だが動く機が無いのならば仕方がない。航路の横をすり抜けていくことにしよう。まったく路駐の車みたいな連中だな。

 

 

――そんな風に思って、少々楽観視していたのだが。

 

 

「ボイエン級に動きがあります。フィオリアを次々と射出中です」

 

「あれ? 戦う気ないと思ったんスけど」

 

 

 ある一定距離まで停船しているボイエン級と、俺たちの先を行くK級駆逐艦が接近した時、相手に動きがあった。腹に後生大事に抱えていたフィオリアを次々と発艦させたのである。電磁式ガイドレールから宇宙に放出された艦載機が、発艦後スムーズに編隊を組んで航路上に展開していく。

 その様子は見事の一言に尽きる。どうやら手練が乗っているらしい。おまけに展開している編隊は航路上におけるK級S級駆逐艦隊の進路をふさぐようにして展開してくるじゃないか……。

 

 とりあえず駆逐艦隊には停止信号を送って正体不明の編隊に突っ込まないように停船させたが、どうしようかね、あれは。

 

 

【フィオリア、編隊を組んで駆逐艦艦隊の前面に展開中】

 

「格納庫にVF隊発進可能な様にスタンバっておけと通達。それとモンスターも歩行モードで甲板にいつでも出られるように待機させとけッス。あと駆逐艦隊の一艦を経由して、向うのフネに通信を入れてくれッス。何が目的なのか知りたいッス」

 

「アイサー、艦載機発進準備と駆逐艦を経由して通信回線を開きます」

 

 

 ユピテルは現在ステルス起動中、わざわざ相手側に位置を教えてやる必要は無い。今のところ目の前の不審な改装空母であるボイエン級の目に写っているのは、K級およびS級の駆逐艦隊だけだろうからな。その中に旗艦がいるかの様に仕向けるのだ。

 

 まるで戦闘をとにかく回避しようとしているように見せているが、実際そのとおりなのである。別に相手が強そうだから戦闘したら被害が出て割に合わないからというわけではない……いや、ある意味で割に合わないからあまり戦いたくないのだ。

 理由としては、今こちらに対し敵対行動ととも取れる行為をしてくる相手が、ボイエン級を改装した輸送艦を使ってきていることだ。純正の戦闘艦ならいざ知らず、輸送艦というのは物資を運べるペイロードがあるからこそ価値がある。

 

 だが、目の前のボイエン級は改装空母化していて、本来ペイロードのほとんどを担う後部格納庫が消滅している状態だ。ああいうカスタムをされた艦はあまり人気がない。既存のフネとは違う特性を持ってしまっていて使い辛いので買い手側に敬遠され、売り払っても買い取る人間がいないので安く買いたたかれてしまうのだ。

 精々がもとのボイエン級輸送艦の売値の半分に届けばいい方だろう。あれで年期の入った艦齢持ちだったら、もう目も当てられない。ジャンク品の方が高いことになってしまう。大体中身無しの輸送艦単品だと戦闘艦より格段に安いのだから本当に割に合わないので、いまはマジで戦いたくなかった。

 

 

「艦長、準備出来ました」

 

「うす。―――あー、こちら白鯨艦隊旗艦ユピテル。航路上に艦載機を展開中の正体不明艦に次ぐ。何故我が艦隊の進路を塞ぐように艦載機を展開したか理由を述べよ。事と次第によっては敵対行為であると認識させてもらう。返答は如何?」

 

「……不審船からのコンタクトあり、通信回線つながります」

 

 

 問いかけに応じるつもりなのだろうか? 通信回線がオンラインになった。ミドリさんが気をまわしてくれたのか、メイン・ホロモニターの別枠が開かれ、そこに巨大な空間ウィンドウとしてモニターのホログラムが浮かび上がった。

 

 浮かんだモニターにはしばらくの間、ザーと砂嵐の画像が流された。相手側との通信システムが少し異なるからか、送られてくるデータが脆弱で少し増幅しないと画像処理に時間がかかったからだ。やがてノイズが減り、通信ウィンドウに像が浮かんできた。

 

 

「え? あれ? アナタはまさか!?」

 

『やぁユーリ君……待っていましたよ』

 

 

 ホロモニターに浮かび上がったのは、惑星ボラーレで偶然出会った傭兵部隊トランプ隊のリーダー、ププロネンさんであった。中々にナイスダンディーないい男で、一言二言会話しただけだがよく覚えている。なんせ向こうの落ち度で地上での戦闘に巻き込まれたからな! 忘れようにも忘れられんっちゃよ。

 

 そういう訳である意味でお互い顔見知りである。だからなのか、通信ではお互い和やかな対応であいさつを交わした。いきなり戦闘機を展開したのには驚いたが何か理由があったのだろう。話が分からない連中ではないのだし、ここは交渉でどうにかしたいな。

 

 だが、そう思った時に俺の手元にあるコンソールのライトが点滅し、サブウィンドウが新たに表示された。何気なくそのウィンドウに眼を通したのだが、そこに表示されている情報に眼を疑った。

 

 

「あの、ププロネンさん。なんでウチのフネにいきなりレーダー照射とスキャンしているんスか? これって明確な敵対行為ですよ? 航宙機で進路をふさぐことといい、冗談というにも度が過ぎるし、程ほどにして欲しいんスけど?」

 

 

 それは先行している駆逐艦からの情報だった。どうも、あちらさんの改装輸送艦と艦載機からレーダーの照射を受けているらしい。しかも戦闘レベルで……つまりスキャンされているということなのだが、それをK級とS級の両駆逐艦に搭載されたAIたちが探知して【これは0Gドッグ的にアカンやつやろ?どうする艦長?処す?処す?】とユピ経由でデータを送ってきたのである。

 

 通話中だったからあえて文字で伝えてくるあたり空気が読める良い子たちだな、と場違いなことを考えてしまうのは、ちょっと現実逃避したいからだった。なぜなら通告無きスキャンというのは0Gドッグの感覚でいうと、あからさまな挑発であり、同時に立派な敵対行為でもある。

 いうなれば眼前で中指おっ立てられたあげく、ふぁっきんと言われてテメェマジぶっころ五秒前という感じだろうか。普通そんなことをされたら容赦なく戦闘に発展するので顔見知りでもやってはいけないある種のタブーとして知られている。

 

 だが待ってほしい。ププロネンさんはそんな人じゃない。地上で出会った時、彼らは堅気には迷惑かけないように配慮できる素敵な傭兵部隊の隊長だった。だからきっと、これは何かの間違いなのさ。僕たちは手と手を取り合っていける。そうすれば平和に解決できるんだ――!

 

 

『我らは元よりそのつもりですよ。ユーリ君。あなた方に戦いを挑ませていただきます』

 

 

 ―――問答無用だったよコンチクショイ!

 

 どうしてだ、とか。なんでそんなことを、とか言うつもりはない。正直、いきなり戦いを挑まれる動機なんてありまくりで、一体どれが原因なのか自分でもわからん。なんせ海賊関連は恨みつらみがもう言葉では言い表せないレベルだしな。

 

 マッドサイエンティストを養う為に使われる資源代の所為で、常に財政難から他の海賊ハンターの分の獲物も根こそぎ奪っていたから、その方面でも恨みを買っていたかもしれない。他にも……あるかもしれないなぁ、俺頑張りすぎでランキングいっきに上位に入ったからこれまでの上位ランカーの方々に眼をつけられたかも。

 

 

『あと我々がユーリ君に戦いを挑むのは―――』

 

「あー、みなまで言わなくても解ってるッス。だれかに頼まれたんスよね? あんたら傭兵だしさ。オマンマの為なら仕方なしってヤツッス」

 

『いえ、これは我らの意思で―――』

 

「まぁ俺たち各方面から恨みは買ってるから、そーいう依頼がどこかで出ててもおかしくはなかったッス。人気者はつらいんスよねぇ」

 

『勘違いされているようなのでちゃんと聞いてください』

 

「え?―――違うの?」

 

『違います。我らが戦いをあなた方に望む理由。それは―――』

 

 

 ププロネンさんはそこまで言うと一度言葉を区切る、そして溜める溜める。あまりの溜めの長さにこちらの誰かが唾を飲み込んだ時、タイミングを計ったかのように再び口を開いた。

 

 

『―――主君探しなのです』

 

「「「「……はぁ?」」」」

 

 

 思わずブリッジメンバーの口から異口同音で同じ声が漏れた。むろん俺も同じように声が漏れた。このサイバネティクスが絶頂を超えて衰退期に突入している時代に、まるで古代の浪人のように自分達が仕えるべき主君を探しているとでもいうのか? なんて時代錯誤なんだ……。

 

 

「もしかして惑星ボラーレに居たのも、そこで海賊と戦っていたのも此方を探る為だったんスか?」

 

『いえ、普段の我々は戦場を巡りながら、その中で輝ける人物……すなわち仕えるべき人物を探しておりまして、あの場で話した事は殆ど事実なのです。偶然ですが休暇にあの星を選んで正解でした。ユーリ君。君のような人物を見つけられたのだから』

 

 

 えーと、つまり理由は不明だが御眼鏡にかなってしまったと。それで、そうやって見つけた輩ことをもっとよく知りたいから襲うってことなのか? まるでどこぞの庭師の辻斬りみたいな行動基準じゃねぇか……迷惑ってレベルじゃねぇ。

 

 

「むむむ、どうしても戦いは避けられないと?」

 

『お嫌でしたら直ぐにでも迎撃して我らを撃退なさってくれてもかまいません。ですが、その場合は手痛い一撃を貰うやもしれません。これはある意味、我らが相手にかす試練なのです。戦うことでしか存在できない不器用な我らなりの見極め方』

 

「なんつー迷惑な。それに撃退って……其方も生き延びること前提ッスか」

 

『ええ、それくらいの腕はある。そう自負しておりますゆえ。それに―――』

 

 

―――道半ばで果てるほど、この命は安くありません。

 

 

 そういってこちらを見つめてくるププロネンさん。その視線に込められた感情はどこまでも鋭く、冗談でもなんでもなく只々本気であると無言で訴えてくる。まさに問答無用とはこのことだろうか。こっちが何を言おうが戦うまであきらめるつもりはなさそうである。

 

 それに……まったく、試練とはよく言ったものだ。彼らの申し出を受ければそのまま彼らの思惑通りにことが運ぶ。結果がどうであれ戦いの中で見極めを行いたい彼らの思惑には合致するのだから、彼らにしてみれば条件達成ということになる。

 逆にそれが気に食わんと一蹴すれば、俺は戦いを挑んできた傭兵団を前にして戦う前に逃げ出した臆病者の醜聞が付いて回るということになるのだ。ふむん、名声が気になる0Gドッグ相手なら中々に悪辣で有効な手だろう。

 本来、名声値ランキングの上位に食い込む輩というのは、名声に響きそうなスキャンダルやゴシップを嫌う。そういう連中は頭の回転も速いのだから言わずもがな俺が察したようなことを理解する。

 

 そして、すべては彼らの掌の上か……何とも、ここまで考えてくると逆に痛快だな。

 

 

「ププロネンさん。戦い、受けてたってもいいッス」

 

『おお!』

 

「「「「ちょ!艦長!」」」ユーリ?!」

 

「断ってもどこまでも追いかけてきそうッスからね。ケジメをつけておいた方が後腐れが無くていいってもんスよ」

 

 

 だけどな…、俺は思いっきり息を吸ってからはっきりと言ってやる。

 

 

「ただし、俺たちへの試練はこの戦い、それも模擬戦として戦りあう一回こっきり。俺たちも暇じゃないッスからね。甘いかも知れないッスけど、これが飲めなきゃテメェらと戦う気なんて毛頭ない。とっととケツ巻いて逃げてやるっス」

 

 

 コンソールに手を叩きつけて睨むようにププロネンの方を見た。なんか堂々と逃げると宣言しているが、俺は別に名声値にこだわりがある訳じゃないからな。あれは飽く迄、ランキング上位報酬である高性能な戦闘艦の設計図を手に入れるのが目的だったから、それ以外に利用価値は俺にとっては無いも同然だ。

 すでにランキング上位報酬を手に入れた今、名声値に関してはあってもなくてもあまりこだわりはない。大体下がったとしてもまた色々とやっていれば多かれ少なかれ名声値は上下するのだから、こだわったところで意味などないと俺は言い切れる。足かせになるというのなら、躊躇なく切れる。その程度の価値なのだ、アレは。

 

 ともかく俺は模擬戦ならば受けてやると彼らに言い放った。模擬戦なら不慮の事故が起きない限り、艦や装備といった資源を消費することもない。俺によし、お前によしで皆ハッピーになれる提案だろう。

 大体さぁ、俺たちとアンタらが戦ったところで身入りが少なすぎるんだよ。改装空母なんて特定条件に特化させちゃった代物なんて買い手が付かないから、ローカルエージェントに安く買いたたかれちゃうしな。本気でやり合いたいなら戦艦と巡洋艦複数、駆逐艦に空母の編制でやってこい。そうすりゃ残骸でも大儲けだぜ。

 

 さて、この提案に対し、通信の向こうではププロネンがなにやら考えている御様子。これでハイって言わなきゃ俺ァ迷わず逃げるぞ?

 

 

『いいでしょう。受けていただけるのであれば模擬戦でも一向にかまいません』

 

「あ、こっち勝ったら無償で傘下に加わってもらうッスよ?」

 

『結構。臨むところです。模擬戦とはいえ戦いは戦い。存分に我々の力を見ていただきますよ』

 

 

 俺の考えを見て取ったのか、しぶしぶという感じではあったものの、ププロネンはこちらの要望を受諾した。本当に戦うことさえ叶えばいいという感じだったのだろう。

 

 

「ああ、それと……少し驚くかもしれないッスけど許してほしいッス。―――サナダさん、ステルスモード解除」

 

『なにを言って―――ほう?』

 

 

 そして俺は、ステルスモードを解除させた。それによって、彼らにしてみればいきなりこの宙域に現れた2隻の戦艦と4隻の巡洋艦。それを見たププロネンの顔に、少しだけ驚きの色が浮かんだ。

 

 

『まだ隠し玉がありましたか。噂に聞く白い戦艦が見当たらないので不思議には思いましたが』

 

「まぁ新装備の試験中だったんスよ。フネの数は倍ほどに増えたけど、これが今の俺たちが出せる全力ッス」

 

『おお嬉しいですね。やりがいがあるというものです。しかし不思議ですね。こちらでは隠れていたそちらの姿を見つけられなかった。そのまま模擬戦に持ち込めば簡単に勝てたのでは?』

 

「そっちが全力で向かってくると感じたから、こちらも全力で答えたまでッス。あまり見くびらないでもらいたいもんッスね」

 

『それは失礼しました。我らも食らいつく甲斐があるというもの』

 

 

 俺の言にププロネンさんは感心したといった風に頷いてみせた。あーうー、実のところ裏があるから少し心苦しいな。ステルスを解除してユピの姿を態々見せたのは、さっき言ったみたいなちょっと格好をつけたいという思いもあるが、ホントのところはこちらの全力を少しでも垣間見せることで相手の戦意を削ごうという思惑がある。

 確かにステルスモードを展開したまま叩けば、バックスタブ攻撃の如くに奇襲することができ、模擬戦の戦局を非常に有利に進めることが出来る。駆逐艦艦隊をおとりにし、火線が夾叉するポイントに誘導して、逃げる隙間もない弾幕をもってしてクロスファイアを形成すれば、こちらの力を示すという意味では十分すぎるだろう。

 

 

 しかしである。彼らの言動を見るに、その精神の根幹には騎士道精神に近い何かを持っていることがうかがえた。態々、俺たちの艦隊の進路を塞ぎ、正面から直接対決を挑んでくるあたり、正々堂々の戦いを望んでいると俺は感じた。

 そんな精神の彼らがステルスモードで隠れていた艦からの奇襲で負かされた時、果たしてその結果に満足してくれるだろうか? 確かに戦術的には正しいのかもしれない。俺としても騙し討ち奇襲で自軍の被害が抑えられるならバッチコーイである。

 

 だからこそ、あえて姿を現すことに決めたのだ。こうして手の内を晒すことで相手に対し本気になった。正々堂々と戦おうじゃないか。そう錯覚してくれるようにしたのである。姑息だが仮にも配下に加わるかもしれない輩なのだ。将来の不安要素になりえる芽はなるべく摘んでおくに限るのである。

 

 

「知ってるッスか? 俺たちは白鯨とよく呼ばれてるッス。この巨体に食らいつくには些か小さいんじゃないッスか?」

 

『ご心配なく。我らは戦場では獰猛なシャチとよばれたこともあります。文献によればシャチという生き物は群れで狩りを行い、自信の何十倍もある獲物を食らったといいます。そう、まさに目の前にいるような大きなクジラを―――』

 

「ふむ……なかなか。では」

 

『ええ、我らの力を知ってください。そしてあなたの力をみせてください』

 

 

そういうと、彼はもう話すことはないのか通信を切ったのだった。

 

 

「はぁ………めんどうくさ」

 

「何言ってんだい。自分で決めたんだからシャンとしな」

 

「あいてっ!?」

 

 

 通信を終えて内心を吐露したら、トスカ姐さんにしっかりしろと後頭部を叩かれた。それを見ていた他の連中が笑って……いや、爆笑してやがる。くそー、結構痛いんだぞコレ。

 

 

「まぁ面倒くさいけど。あれで相手しなかったらもっと面倒くさいだろうしな」

 

「リーフの言うとおりだ。艦長が決めたのなら別に文句はない。まぁ俺は砲撃ができれば問題ない」

 

「ほっほ。今日はまだ戦闘をしていないからか、エンジンは元気が有り余っているようですじゃ。少し激しく動かしても問題はなかろう」

 

「戦闘中のステルス状態のデータが取れなかったのは残念だが、まだ微調整がいるマシーンだからな。モードを切ってくれたのは逆にありがたいな」

 

「すでに各部署に模擬戦が行われると通達しました。艦長が号令を掛ければすぐにでも動けます」

 

「………重力井戸も、正常稼働中よ……重力レンズ形成も問題ないからシェキナも使える……」

 

「レーダーも~、オールグリーンですー! デブリ一つ見逃しません~!」

 

「よかったねユーリ。クルーの皆は乗り気みたいだよ? むろん私もね。あれだけ啖呵切ったんだから、やっちまいな!」

 

 

 怖いことおっしゃるな我が副長は。まぁ全面同意だけど。

 

 

「気合いも注入されたことだし、それじゃ一丁始めるッスかね。各艦、対空模擬戦闘準備。陣形は菱形輪形陣に移行ッス」

 

「了解。各艦に対空戦闘準備を指示。各艦に通達、これは模擬戦です。繰り返します」

 

【各艦のAIに指示を出します。本艦を中心にして各艦は菱形輪形陣に移行。同時に連携に必要なTACマニューバを再計算中……】

 

「火器管制を対空間戦闘にシフト。モードは模擬戦闘に変更するぜ」

 

「機関内のエネルギー加圧率30%に上昇。正常範囲内じゃ、模擬戦とはいえ実戦に則すのじゃから、一時的に非戦闘部署へのエネルギー制限を開始する」

 

 

 俺は艦長席から立ち上がるとコンソールから内線を繋げ、全艦に号令を下した。ブリッジ内が少しあわただしくなると同時に通常照明から戦闘照明に切り替わり、若干ブリッジの中は暗くなった。そんな中でもクルー達は自分に当てられた仕事を黙々と消化して、その報告が俺の元に集中する。

 

 

「向こうから模擬戦でのルールに関する書面が相手から届きました。艦長、確認を」

 

 

 オペレーターのミドリさんの報告と同じくして、彼女のコンソールから俺のコンソールにププロネンさんらが送ってきた書面データが転送されてきた。それを空間ウィンドウとして展開し、内容を確認する。今回は模擬戦ということもあり実弾は使われない。リニアガンは撃てないが、代わりに照準用レーザーに照射による判定が行われる。

 

 それと彼らが腹に抱えている対艦ミサイルなどに関しては、模擬弾への換装が間に合わないので、信管を作動しないようにロックした状態で使用するらしい。俺が居た時代ならいざ知らず、この時代のミサイルの爆薬は電子励起で起爆するタイプなので、電子制御されている信管が動かなければ起爆しないから、模擬弾代わりに使用できるだろう。

 

 もっとも艦載機の対艦ミサイルで艦を沈める為には、当たり所にもよるが駆逐艦相手でも最低十数発はいる。被弾に関する攻撃判定もそういう風に判定する筈なので、フネで戦うこちらが有利だといえた。

 

 ただし、艦の兵装も別個に判定が行われるので信管抜きミサイルが直撃した兵装は使用不可判定となる。APFシールドに包まれてはいるが砲塔に関してはフネ本体と比べ装甲が薄いのはセオリーだからな。特にミサイルには電子妨害が効く。そうなるとロケットと扱いがあまり変わらなくなるので妥当なルール設定であろう。

 

 ふむ、見た所ではルールには特に不審な点は見当たらない。このまま俺が同意すれば、このままのルールで模擬戦が開始されることだろう。だが今のままでは戦力でも圧倒的な差があるこちらが有利過ぎる。

 そう思った俺は、模擬戦のルールに少し変更を加える。変えるのは勝利判定で互いの殲滅だけではなく、あちらさんには旗艦への到達。すなわちユピテルを射程におさめられる距離に到達することが勝利条件に含まれるように追加した。

 

 

「なんで態々向こうが有利になるように調整するんだい? ユーリ」

 

「慢心、ダメ、絶対。ってことッス。今回は模擬戦だからあまり危険はないッス。けど、だからこそ実戦を想定しておかないと本番の時に手痛いしっぺ返しを食らうこともあるッスからね。石橋はたたいて渡るに限るッス」

 

「……ああ、なるほど。この間の海賊との戦いのと同じだね」

 

「そうっス」

 

 

 艦載機に乗せられるサイズの火器で、装甲に秀でる戦闘艦を撃沈するのは若干手間だが、逆に言えばできなくはないともいえる。先のスカーバレル海賊戦役において、俺たちは艦載機に通常では乗せない大型対艦兵器を乗せて攻撃力を底上げしている。

 そのことから解るとおり、例え小型戦闘機であっても武装によっては敵艦に対して効果的な対艦攻撃を行わせることが可能なのだ。それらを考慮して今回の模擬戦は、こちらには秘匿された強力な対艦兵器を旗艦。この場合はユピに対して使用するという形である。

 

 訂正したルール内容に不備や問題はないとして、俺は目の前に浮かぶ空間ウィンドウを指先でなぞるようにしてサインを書いてコピーした後、コピーした俺のサイン入りのデータを向こうにも転送した。

 この程度のデータは簡単に偽装や内容変更が行えるのだが、こういった流れはいわゆる伝統みたいなものだ。いつの時代も書類とかによる協定はある程度の効力を有するのである。ま、こんな変則的な戦力差の大きな模擬戦とかも珍しいのだが。

 

 ともあれ改定したルールを向こうが承諾してくれれば、これで晴れて模擬戦の開催である。何かしら文句を言われるかもしれないとも考えていたが、予想に反してそんなこともなく了承のシグナルを返してきた。てっきり武人めいた気質から、そのような手心は不要と言ってくると思っていたが、なかなかどうして強かなところもある。

 彼らのような戦闘集団がどこかの軍隊に収まらず、こうして流浪の傭兵団となっている理由も案外こういったところにあるのかもしれない。

 

 

 

 

 さて、お互いに規定を定めたので、すでに模擬戦は始まっているといえる。俺は戦闘準備を発令し、各艦、各部署を警戒態勢に移行させた。この模擬戦では内容として実戦に則したものであるから、隔壁の閉鎖や機密の確認も行われ、先の発令からわずか十分もしない内にほとんどの手順を消化させていった。

 

 

「ユーリ。向こうは戦闘機だ。こっちも迎撃機を出した方が良い」

 

「トスカさんの意見を採用ッス。ミドリさん」

 

「はい艦長。すでにユピが無人機を制御して順次発艦準備を終えています。他の艦も稼働機、全機発進可能です」

 

「では最低限の直掩機を残し全機発艦。迎撃にあたらせろッス」

 

「アイアイサ―」

 

 

 トランプ隊とは距離がある為、まだ余裕があると見た俺は、先ずは攻撃隊を先に展開させることにした。トランプ隊と当たるのは我が艦隊が誇る自慢のVF-0部隊(無人機)60機である。1600mを超える船体を持つクセに艦載機の数が少ないのは、ただ単に現在までに製造できたVFの数がたった60機しかないからだ。

 

 余談だが、原作であるゲーム、無限航路における空母の最大搭載機数は大型空母でも一律60機程度であった。この搭載上限はモジュール搭載スペースの都合によるところが大きく、たくさん積めば積むほど艦載機爆撃の攻撃力が上がるが、それに反比例するかのように居住区や機関室や射撃指揮所といったモジュールが圧迫されてしまうので注意が必要だった。

 なにせ居住性が確保されていないと疲労度が加速度的に上がりやすく、長距離航海が出来ない。機関室がないとTACマニューバの回避率が下がり被弾率が跳ね上がる。射撃指揮所が無ければ砲撃が外れる……という風に、ゲームではパズル的な要素でモジュールを組んだうえで、艦の機能のバランスを取ることが重要だった。

 

 モジュールは真四角や長方形や一本線といった様々なサイズと形状があり、それを隙間なく詰め込むことが出来れば艦の性能が上がるというわけだ。

 当然、俺も無駄なスペースを削る為に隙間という隙間にモジュールを詰め込んだものだ。格納庫が置けるカタパルトスペースにデフレクターや自然公園のモジュールをいれたり、機関室を入れるスペースに何故か食堂モジュールを詰め込んだりと、実際にやったらクルーからの批難轟轟確実なモジュール組み合わせも普通にやっていたのである。

 

 とはいえ、実際にクルーが乗り込んでいる以上、冗談でもそんな組み合わせは今後もできまい。やろうものなら集団リンチが待っているのだ。これが上に立つ人間の苦労ってやつなんだ。

 

 

 話を戻すとゲームにおいて艦載機を一つの艦に乗せるのはあまりできなかった。星々を渡り歩く以上、どの項目のステータスも打ち捨てられない項目であったので、バランスを取る以上は仕方がなかったのである。

 

 また戦闘においても艦載機数の出撃枠には上限があり、その上限は艦隊が搭載している艦載機を全部合わせて100機までであった。

 一応、艦隊に空母を二隻編入するとゲームにおいては最大の120機の艦載機が運用できることになるのだが、ここには落とし穴があり、数値上は艦載機数が120機存在していても、実は艦載機の攻撃力合計は100機で頭打ちになるので、事実上の出撃枠はたったの100機となっていたのだ。

 

 いわゆるゲームの仕様というヤツで、出撃できない残りの20機は予備機というか残機扱いになっていた。艦載機は戦闘中、敵に何割か撃墜される為、連続出撃の場合は打撃力が低下していくのだが、この予備機も積みこんでいるとその分だけ出撃可能な時間が伸びるというシステムになっていた。

 

 もっとも、撃墜された分の補完として残機枠が出撃できるだけで、稼働機100の壁は変わらずであったが……。

 

 

 それはさておき、俺がいた世界の最大級の空母で70機前後、露天駐機で90機近い航空機が運用できていたことを考えると、正味空母に60機あまりというのは少々少なすぎる気がしないでもない。

 事実、ユピテルは全長だけでも俺の世界で最大の空母であるニミッツ級航空母艦の軽く六倍はある。しかしそれでも最大搭載数は200機前後となっていた。ゲームと違って現実なため、格納庫モジュールをきちんと組み込めば稼働機60機の壁はないも同じなのだが、戦闘空母なので主砲や装甲にスペースを取られていたのだ。

 

 また大型艦ゆえにどうしても大きくなってしまうバイタルパートの容量。それと設定上存在しているズィガーゴ級の秘密ギミックが関係しているのが、モジュール設置スペースを圧迫している主な原因であった。秘密のギミックがなんなのかって? それは秘密です。

 

 

「第一次攻撃隊の半数、発艦完了しました」

 

「お、相変わらず早いッスねぇ」

 

「発艦口が非常に大きいですから」

 

 

 さて、数こそ少ないが高性能な60機の艦載機たちは、順次発艦口から発艦していった。彼らは弧を描きながら旗艦後方へと回り込み、そのままフライパスしながら編隊を組むと艦隊の近くで後続が上がるのを待っていた。

 

 そして指示を下してから僅か数分。それだけで搭載艦載機の半数がすでに展開していた。ユピテルにおける艦載機の発艦は非常に早い、ユピテルには複数の発艦口が存在し、その配置は頭蓋骨の目や口の穴によく似た配置が為されているのだ。

ユピテルの原型となったズィガーゴ級は、中央船体に牛骨の頭部を模したオックススカルボーン型戦斗略奪ボディをもっており、いわゆる頭蓋骨に見える船体に開いた目や鼻や口に相当する空洞は、全て格納庫直通の飛行甲板であったのだ。

 

 その中でも、もっとも特徴的なのは口にあたる部分だ。

 

 自分の顔を触ればわかるが、口というのは他の顔のパーツと比べても横に広く開いている。この口にあたる大発艦口と呼ばれる部分が他の発艦口と違って機体を並列に展開させた状態で同時発艦することができるのである。ネームシップからしてズィガーゴ=頭蓋骨の洒落を掛けているだけはある。

 

 つまり口にあたる部分に沿って並列に置かれた電磁カタパルトから一斉射出できるのである。遠目から見ると口から歯を飛ばしてるように見えるけどな! とぅーすっ!

 

 

 もっとも、我が艦隊の科学者および技術者陣がズィガーゴの改造を行った際。威嚇目的でもあった顔のような空洞は艦体剛性や耐久性を著しく低下させ、また唯でさえ弾薬などが溢れている格納庫が野晒しというのも、下手したらミサイル一発で大損害が起きる可能性があるとして、現在では何もない時の発艦口には装甲蓋がかぶせられていた。

 

 その所為で牛骨の形状をしたノッペラボウという逆に不気味な風貌にも見えてくるようになったのは誤算だった。幸いなことに改装の際にフネの全長が少し伸びたうえ、艦全体が白いこともあって、先んじて白鯨(モビーディック)の名称が広がったため、のっぺら牛頭蓋の名称は回避できたと言える。ある意味危ないところだったんだぜ。

 

 

「艦長。S級からも護衛機が発進。トランプ隊との交差点に移動させます」

 

 

 続いてゼラーナS級からも艦載機が飛び立った。当然ながら高性能ゆえに数が少ないVF-0ではない。とはいえ既製品の艦載機でもない。駆逐艦の小さい飛行甲板から飛び去っていく一見すると華奢な姿を見て、大丈夫なのかとトスカ姐さんが訪ねてきた。

 

 

「あれって役に立つマシーンなのかい?」

 

「ふーむ、いつか使うと思っていたッスけど、まさか模擬戦が初出撃になるとはね。機体スペックでは敵さんには負けてない筈ッスよ。めっちゃ軽いし」

 

「軽い…か。フットワークを生かせれば良いんだけど…」

 

「なにぶん無人機ッスからねぇ」

 

 

 俺とトスカ姐さんは互いに顔を見合わせて、互いに感じている不安感から小さく溜息を吐く。飛び立った機体は全て人が乗っていない無人機なのだ。無人機には人が居なくても使える利点があるが同時に弱点もある。歴戦の傭兵相手にどこまで頑張れることやら……。

 

 ところで、ゼラーナS級に積まれている艦載機は艦隊を離脱し、第一次攻撃隊を追うようにしてトランプ隊が居る方面へと進んでいた。その歩みはVF隊と比べれば遅い、なぜならそれらは純粋な航宙機に非ず。人型をした機動兵器であったからだ。

 

 

 この人型は、さきのトライアルで落選した筈の機体で、元ネタは前世のアニメに登場した花の名前の機動戦艦に登場するエステバリス、名前までそのまんま同じな機体である。当初はお蔵入りにする予定だったが、駆逐艦に乗せるにちょうどいいサイズという事情で再び陽の目をみることになった数奇な機体である。

 

 本来は直掩機兼機動砲台として艦隊防空の役目を持つのだが、今回は模擬戦ということもあり直接迎撃に回していた。先に出撃した第一次攻撃隊をさきがけにして、その後ろを行動範囲ギリギリの位置に展開したエステバリスが守るという二段構えの攻撃を仕掛けたのだ。

 

 特にS級に搭載されているエステ隊は一隻当たり16機いる。十隻いるS級から全機発進させたので、合計して160機が出撃したことになる。VFよりも後で出てきたエステの数がなんで多いのか? 内燃機関がない分、構造が単純で一度ラインを作ったら簡単に増産出来たのだ。その所為でVFの増産が遅れているのはなんともはや。

 

 対するププロネンさんたちは全部合わせて20機程度であるので、相手との戦力差は1対8という状況だ。トランプ隊にとっては非常に分が悪い勝負にも見え、一見すると多勢に無勢であるが、こちらには先も述べたとおり懸念材料があった。

 

 それは迎撃に当てた機体がすべて無人機であることだ。その制御はユピと各艦に搭載されたAIが共有して管制している。彼女らは優秀なAIたちであるが、当然のことながら数が増えれば増えるだけ処理能力に負荷がかかるので、無人機の動きが若干硬くなるというデメリットがあった。

 

 それでもこれだけの数を放出すればさすがに驚愕するだろう。

 

 そう思っていたのだが……。

 

 

「無人VF隊、まもなく敵機と接敵します」

 

【VF各機、トランプ隊と交…戦…? え!?】

 

「どうしたッスかユピ。報告を挙げてくれ」

 

【すみません艦長。それが……すれ違いざまの瞬間。こちらが10機落されました】

 

「え? なにそれ怖いッス」

 

 

 はい、全っ然驚いてくれませんでした。先に出撃していたVF隊を示すグリッドが戦術マップ上でトランプ隊を示すグリッドと重なった瞬間、一気にこちらだけ数が減ったのだ。無人機を制御していたユピが一瞬フリーズしてしまった程である。

 

 彼女がフリーズを起こすなんてよほどのことなので心配だが、あくまでも一瞬のことなので大事ではない。しかし、その様はまるで人間が声を詰まらせた時の行動によく似ていた。なんとも人間臭いAIだよなぁ、みらいのぎじゅつってすっげー。

 

 現実逃避している場合ではない。この間にもVF隊は毎秒数機というハイペースで撃墜判定を食らっており、機体ステータスを表すモニターが真っ赤に染まっている。

 おまけに連中は分厚い迎撃網の隙間を縫うようにして、すれ違いざまに“進行上邪魔になる機体だけ”を落して突破してきていた。俺は連中の技量が半端ではないことを改めて痛感させられた。

 

 人手不足ゆえに無人機で運用されているVFに対し、数こそ少ないがトランプ隊は有人。呂布みたいな一騎当千とまでは無いモノの、恐らく全員がエース級と呼ばれる腕前を持っているのだろう。個々にカスタマイズした機体を駆るのも頷ける。マシンパワーとマンパワーが合わさり最強に見えるってか? なんてこったい。

 

 だが、これはまだ序の口に過ぎないことを身を持って示されるのだった。

 

 

 




いやホント遅れて申し訳ない。

とりあえず二本同時投稿です。


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