何時の間にか無限航路   作:QOL

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~何時の間にか無限航路・第1話、ロウズに降り立つ編~

■ロウズ編第一章■

 

―――モソモソ、木のウロからソロリと顔を出す。

 どうやら墜落してきたあの飛行物体はちゃんと不時着したようである。あやうく不運(ハードラック)と事故(ダンス)っちまうとこだった。べ、別に怖く何か無かったんだからネ!漏らしてもいないんだからネッ!……精いっぱいの虚勢を張ってみたがこれは普通にキモい自重しよう。とにかくいきなり死にかけたが、ある意味でこれはほぼ原作通りなので問題無い、と思いたい。

 

 ソレはさて置き先程まるで狙ったかのように墜落してきた宇宙船は恐らく憑依先のユーリ君が呼び寄せたであろう“打ち上げ屋”という何でも屋さんのデカパイ姉さんが落ちて来たという事だろう。俺が宇宙に出るには何としても彼女と接触しなければならない。下手すると落ちてきたのはロウズ警備隊の可能性もあるが、その為にも確認を……そう思いながら俺は藪をかき分けて暗い森を進む。

―――そして、居た。

 パチパチと爆ぜる様に燃える焚火に照らされて座っている女性。その背後に鎮座しているのは彼女の宇宙船である魔改造輸送船デイジーリップ号だろう。壊れているからかバチバチショートしてる音がココまで聞こえてくる。

 

 

「そこのぼうず、なに見てるんだい?私は見世物じゃないよ」

 

 おお、なんという姉御声だ。

 それ以上にさりげなく手に握られている銃が超怖…じゃなくて。

 勇気を出せ俺、ここで言葉を出さねば一生修理工暮らしだぞ!

「あ、あの打ち上げ屋さんですか?」

「そうだけど、あんたは?」

「良かった。依頼した大……ユーリです。俺をゲートの向こうに連れて行って下せぇ!!」

 あ、あぶねぇ…つい憑依前の自分の名前言っちまうとこだった。多分ユーリは自分の名で連絡入れてるだろうから下手な事言えなぇわ。でもアレだな、トスカさんは姐さんオーラってヤツでも出しているんだろうか?なんか俺の喋り方が妙に舎弟っぽくなるんだが?しかも戻せないし…。

 俺の戸惑いとは無縁とばかりに下から上に舐める様に見やるトスカ姐さん。

 イヤンっ。そんな熱い目で見ちゃらめェ…。

「金は?」

「ええと、コレッス」

 

 そうですよねー、お金がないと仕事してくれないですよねー。でもさっき一瞬すごく冷たい眼をしていた様な…気の所為かしらん?それはそうと金だ。恐らくはそうであろうカードを財布から取り出し姐さんに渡す。というか唯一の所持品である財布の中にはコレしかなかったから、このカードじゃなかったら俺ァ泣くぞ?

 

 彼女はカードを受け取ると、懐から出した携帯端末の様なものにカードを差し込んだ。

 ミーっと何かを読みこんでいるかの様な電子音が静かに響く。

「うん、1000ちょうどだね。よし良いだろう。あたしがあんたをゲートの向こうまで連れてってやるよ」

 おお!それはありがたい!これで念願の宇宙の旅に逝ける!

 小躍りしたい気分だったが、流石に初対面の人(しかも美女)の前でそんな事するのは恥ずかしいと思い自重したのだが。

「といっても、肝心の船がこれじゃなぁ…」

 そう言って自分の船を見上げる姐さん。どうにも、そう簡単には問屋が卸さないようで…。確かに船体の大部分の火災は鎮火したが火が噴き出していた個所はまっ黒こげだし、火災の影響で所々損傷したのかバチバチとショートしてる。

 

 それこそ、まさに壊れてまーす全開である。しかも主翼みたいな部分の根元が45度位上向きに曲がってしまっている。アレは知識がない素人目で見てもドック入りなのは間違いないだろう…ってちょい待ち!この船が使えないじゃ宇宙に出られネェぞ?!おい、なんとかならねぇのか?!デカぱい姐さ――――

「あ゛あん?」

――――とても綺麗なお姉さま、どうにかならないでしょうか?

 何でか知らんがスゲェ睨まれたので、今の俺は蛇に睨まれた蛙状態である。あれだね。人間って睨まれるだけでも多分死ねるね。そんくらい怖いって事さ。というか心でも読めるんですか貴女は…?

 

 ともかく原作だったらユーリがその場でチョチョイと直してたデイジーリップ号であるが。流石にココまで破壊されてたらこの場で直すのはちょいとムリだ。それに中身は日本人の大学生である俺は、元々修理工だったという本来のユーリと違って、こんな超未来の宇宙船の直し方なんてぜんぜん判らん。

 

 くそぉ、宇宙に出てみたいだけなのに、いきなり最初から頓挫しやがった。コンチキショーめ!仕方ないのでどうにか出来ないか考えたところピンと来た。こういう時、大抵の場合は憑依先に何かしらの知識が残されている…筈だ。確証出来ないのはこんな経験した事がないからである。兎にも角にも、何か知識でてこーいと脳内で思考を巡らせたところ、意外とすんなりと普通に知識が浮かび上がってきた。

 

 マジであったよ。ご都合主義万歳である。さて、このご都合主義乙な脳内データバンクによると、この近くにかつて廃棄された施設があるそうな。それも開拓時代の一通り設備がそろっているっていう、まさにいま必要とされているようなヤツがおあつらえ向きに。

 

 こうしちゃいらんねぇ。善は急げだ。

「えーと、打ち上げ屋のお姉さん?」

「トスカだ、トスカ・ジッタリンダ」

「トスカさん、この近くに廃棄された大規模入植時代のコロニーがあります。廃棄されて長いですが一応まだ中の機構は生きてるらしいです。だからソコのドックで修理した方が良いんじゃないッスか?」

 ユーリ本人が持っていた知識である。信憑性は高いと思う。どうやらユーリは事前にかなり予備学習されていたらしい。さりげなく脳内を探ってみれば出るわ出るわ。最低限の操船知識から航宙技術にEVA技能、それに船の整備に至るまでかなりの知識を持ってやがった。

 

 おまけに思考も早い。俺という外部要因がいるので頭が良いかは主観となるが多分頭も良い。さすがはこの世界の主人公は色々チートやね。顔も良くて頭の方もとかどんだけやねん。リア充爆発しろ!……ってそのリア充は今俺だから爆発はやっぱり無しの方向で。

 宇宙船を間近で見て少しばかり興奮し変な妄想をしている俺を横目に、トスカ姐さんは俺からの情報を吟味しているようで考える仕草のまま動かなかった。後で聞いた話じゃ雇い主を観察していたらしいが、その時の俺は只の馬鹿に見えていたんだってさ。ヒデェ。

「成程ねぇ。まっ、確かに一利あるね。良し案内しな“子坊”」

「あ、俺の事は親しみを込めてユーリって呼んでくださいッス!」

「初対面なのに結構図太い子だねぇ…ま、子坊がもっといい男に成ったらそう呼んでやってもいいさ」

 そう言うと彼女は流し眼でウィンクをしながらこちらを見た後歩き出した。

 やべぇ、カッコ良いッス!惚れてまうやろぉぉぉ!!

 マジ惚れそうッス姐さん!!姐さんになら掘られても(ry

「なにボーっと突っ立ってんだい?さっさと行くよ?」

「ヘイッ!姐さん!」

「あ、姐さん?!よしてくれよ、トスカでいい。」

「解りましたトスカさん!こっちッス!」

「………はぁ、なーんか調子狂うね、ホント」

 さて、憑依先の知識だったので無事に目的地にたどり着けるかどうか結構心配だったのだが、殆ど人が来ないからか荒れ放題の獣道のような場所を進み藪を抜けたところ、大きなドーム状の建物を発見した。どうやらコレがユーリの記憶にある施設の様だった。

 

 俺にしてみれば眼の前に佇むドームは、まさに近未来建築って感じなので思わず目をきらきらさせてしまった。開拓時代というテラフォーミング時代の建物ってのは、無駄な装飾が一切なくて機能的な分、どこか宇宙基地とか未来博物館とか…とにかく浪漫を臭わせるそれに感動を覚えた。隣でトスカ姐さんは変な目で俺を見ていたが、男の子には時に周囲の目があっても引けない時があんだよ!

 

 それはさて置いて、遠くからこのドーム状の建築物を見た時からある種のデジャブを感じたが近付いてその姿をはっきりと見た事で、感じていたデジャブの正体もあっさり氷塊した。それもその筈でぶっちゃけて言うとゲームのOPアニメで見た建造物そのものだったからである。

 

 でもまぁ、それがどうしたといわれればそれまでなんだが…てな訳で道中何かある訳でもなく、俺達は普通に入り口に辿り着く事が出来たのであった。

「入口は…まぁ締まってるよねぇ」

「普通はそうッスね。あ、こっちッス。ひび割れから入れるッス」

「表は硬くても横は脆かったか…ま、長年放置されりゃこんなもんか」

 無人となったドームの入口は厳重に封印されていた。だがしかし、場所が曰く付きな場所なだけに長い事放置されており、整備が滞っている状態だった。そのお陰で本来だったら厳しい艦橋から居住者を護るべき外壁には罅割れが縦横に走り、その罅割れの中に入り込んだツタ等の植物がこれでもかと繁殖してしまった所為で、一部非常にもろくなったのか崩れてしまっていた。実質侵入し放題だった。これでは封印した意味がまるで意味が無い。

 

 とはいっても、このドームにある設備をこっそりと使いたい俺達にとっては、進入できる経路が多い事はむしろありがたい。とりあえず俺達はそれなりに大きい、大人一人が通れそうなひび割れから施設内に侵入した。中は当然ながら真っ暗であり、足元すら見えるかどうか解らないくらい、暗黒に支配されていた。

 

 もっともこちらには懐中電灯なる文明の利器があるので明かりには事欠かない。外壁の状態から考えて、中も結構ひどい事になっているかなと思ったのだが、幸いな事に隔壁一枚越えたあたりを見た限り、どうやら内部の方はツタや植物が生えなかったお陰で比較的無事であり、精々が埃が積もっている程度であった。

 

 また非常用の補助電源がまだ生きているらしく、足元限定であるが薄っすらと明かりも点ける事ができた。開拓時代のって言うくらいだから丈夫に出来ているのかもしれない。

「お、この端末まだ電気が通ってるみたいっスね」

「使えそうかい?」

「少々おまちを…えーと(ユーリの知識さんカモ~ン…おk、この型の端末はパネル外して配線いじればすぐだぜ!)」

 とりあえず補助電源が通っている事で生きている施設備え付けの端末をチェックしてみた。配線いじって起動とか車かとか思ったが、未来の技術なのでそういうもんだと納得しておく。別世界にはハッキング(物理)を行えるエンジニアがタイタンあたりにいるらしいからな。

 

 とにかく情報端末から得た情報によるとこの施設内の整備ドックのある区画は中心部に近い位置にあるらしい。いま居る外周部に近いこの位置に設置されていた端末がちゃんと動作するので、恐らく中心部も使える状態であると判断する事にした。

 

 ちなみに予断であるが、このドームが廃棄された原因もユーリの知識の中にあった。実は最近まで使用されていたが、なんでもバイオハザードが起きたんだとか…ゾンビはでねぇぞ?伝染病ってだけだ。あと最近と言っても発生からすでに30年も経過しているので安全なのだ…多分。

「ほいだば、目的の場所はわかったし、とっとと行きますか?」

「そうだね。設備が動くかも調べないといけないし、早く見に行ってみよう」

 

 とりあえず中心区画に近いドックに向かい、自分達の目で施設が動くかどうかを確認した。トスカ姐さん曰くかなり旧式の施設だが使えなくはないとの事。それは重畳と思いながら、俺達は応急修理に必要なモノをそろえて一度デイジーリップの所に一度戻った。

 

 戻ってみるとデイジーリップ号は俺達がドームに行く前と変わらぬ姿でそこに鎮座していた。改めて見上げるデイジーリップ号はやっぱり損傷が激しい。動くのかと疑問に思ってしまうが、歪んでしまった船体はともかくとして、最低限フネに搭載された反重力ユニットさえ修理出来れば、とりあえず動かせると彼女は言っていた。

 夢の重力操作技術、元の時代にあったなら革新的技術なんだろうなぁ。そんな風に思考が

逸れたが、テキパキと携帯コンソールを操作してハッチを開けて中に入っていくトスカ姐さんに俺は慌てて後ろに着いて中に入った。

 

 

「補機のジェネレーターからコネクタつなぎます。どうッスか?」

「ん――――ランプが灯った。O,K、動き出したよ」

 一応フネに関する知識は一通り記憶としてあったので俺も修理をお手伝いした。トスカ姐さんは遠慮したけど、これから世話になるんだからと押し通した。だってこれから乗せてもらうのに横でただ見てるだけとか・・・中の人は日本人なオイラにはムリである。もっとも手伝いはしたが役に立っていたかは微妙だった。

 やっぱり難しかったというのもある。なにせ憑依先の知識を引き出しながらの修理である。中の人的にはパッと見ただけで判るほどのエンジニアではないので、修理の手伝いをしている最初の内は少しずつ記憶から必要な情報を検索して引っ張り出すという作業を挟むことが必要な為、ちょっと仕事が遅かったのだ。

 だがエッチラオッチラと作業している内に、無意識に憑依先の知識を“思い出せる”ようになっている事に気が付いた。どうやら徐々にユーリのもっていた知識が俺の意識と融合を始めたらしい。ご都合主義バンザイだが、下手すると憑依先さんの意識をトレースして別人に変わる可能性もある。あるにはあるが、ある意味で命綱となるこの知識がないとこの先確実に詰むので、この現象は歓迎すべき事だろう。これでいろいろと不自由しない程度に色々できるように・・・っと話がズレた。

「うぉ、浮いてるぜ…スゴ」

 そんなことを考えている内にデイジーリップ号はふわりと浮かびあがり宙へ浮いていた。小さいと言っても100mもあるフネが音もなく空中で静止しているのは、なんというか…スゲェ。

 でも思わず声に出したらトスカ姐さんに怪訝な目でみられた。

「いまどき反重力なんて車にも使われてるだろうに、変なヤツ」

「あ、いえ…その、こういった大きなフネで使われてるのを見るんは初めてでして…」

「あん?この程度大きいに入らないよ。アンタは知らないだろうけど宇宙にはもっと大きなフネなんてゴロゴロしてるんだからね」

「へ、へぇー!それは見るのが楽しみッス!」

 ちょっと棒読みに近かったが、トスカ姐さんはそこら辺には気付かず俺の返事に気をよくして作業に戻った。恐らくこの時の俺は、頭から冷や汗ダラダラだった事だろう。だって21世紀在住だった俺が反重力車なんて知る訳ないじゃない。ありがたい事にトスカ姐さんはあまり追及しないでくれけど、この後はドッグにつくまで終始無言だったのが辛かったな!!

さて廃棄されたドームのドッグに到着すると、まずは船体の固定作業を行った。

 作業は半ばオートメーション化されている為、こっちはコンソールに指示を飛ばすだけなんだけどね。ぶっちゃけデイジーリップに関しては、アレはトスカ姐さんのカスタム船らしいので、俺は本格的な修理作業は手伝う事が出来ないのである。仕方ないので、何か使える物資は無いかと色々と散策して廻る事にした。

 フネ用のドックが付いていた程の規模がある施設だ。しかも突然のバイオハザードで取る物とらずに廃棄されたからいろいろ有る筈。そう考えた俺は色んな場所を見て回り、結果としてデータとしてだがモジュールと呼ばれるフネ用内装品の設計図を幾つか入手。ソレと真空パック状態の物資コンテナを幾つか発見した。

 幸先がいい。俺って結構運が良いねぇ。

「う~ん、流石にコレ以上はないかぁ」

 モジュールデータを発見した部屋で、端末を弄くっていた俺はそう呟いた。まぁ幾ら突然廃棄されたとはいえ引き上げる時には重要データだとか大事なデータは消すか何かしているだろうしな。第一30年前に廃棄されたコロニードームで、そんないいモノが残っている訳もないか。

「俺だったらHDDの中身を消去してから逃げるしな……HDDの、中身?」

―――いま、俺はとても重要な案件に気が付いた。

―――俺、前の世界の、HDDの中身、消去して無い……。

―――めのまえが まっくらに なった―――

「――残念、ユーリの冒険はココで終わってしまった…って流石にソレはメンタル弱すぎるわい」

 戻れるかわからんけど多分戻れないから別に大丈夫だし――ホントだぜ?目から熱い水が流れて止まらないけど大丈夫なんだぜ?……ああどうかあちらの世界に居らっしゃる方々。どうかPCの中は見ずに何も言わずにHDDを破棄してくだしぁ。

「はぁ……――ん?何ぞコレ?」

 陰鬱な影を背にもう一度だけ端末の中を洗っていたら、なんか変なファイルを発見した。いやまぁ、社会的に重要そうな機密ファイルとかは全部消去済みだったんだけど、そのファイルは個人のフォルダの中に入っていて自動消去システムから免れたデータっぽかった。

―――勿論個人ファイルだからパスワードを入力しないと開けない。

「ん~、どうしよっかな~」

 端末を開いて整備ドックにアクセスしてみる。デイジーリップ号の損傷度合いが大きい上、設備が古いので今しばらく修理に時間がかかりそうだ。その間が暇すぎるなと判断した俺はヒマつぶしにこのファイルを開いて見る事にした。

 そん時は、只のあそびのつもりやったんや。

 

 まさかあんなモンが入ってるなんてわかるかーい。

………………………………………

……………………………

…………………

「こ、これは?!」

 俺の持てる全スキルを持って解読にあたり何とか4時間くらいでロックを解除出来た。ニョホホ!俺の事は今度からスゴ腕ハッカーと呼んでくれ・・・いや、冗談なので本当に呼ばないでね?ただの軽い冗句さ。だって本当の事をいうと実は全く解けなかったのだ。俺ハッカーとかじゃないし、プログラム引き出して解析とかなんてムリ。

 だから正攻法で頭に思いつくパスワードをつらつら撃ち込んだダケである。そこら辺の知識も仕入れといてくれよ、憑依先さんェ・・・とりあえず俺の灰色の脳みそに思いつく単語や数字の組み合わせとか、この世界、無限航路に出てきそうな単語は思いつく限り殆ど入力したけど全然ファイルは開かなかった。

 そりゃまぁ、それで開いたら苦労はないだろうね。

 俺が持ってたPCみたく適当に決めた英数字の組み合わせとかだったら俺にはお手上げじゃ。

 だがあまりにもロックが解けないのでイライラしてた俺は、ケッと言いながら机に足を乗せようとして―――

「あら~!?」

≪ビターン≫

―――勢い余ってイスから墜ちた。これは痛かった。痛かったぞー!

 頭は打たなかったけど、イライラが溜まっていた事もあり怒りは加速する。

「お、おのれ…俺は怒ったぞォ!!」

【ア タ マ ニ キ タ】

―――カタカタと冗談半分で打ち込んだ。すると突然端末から電子音が響いた。

 最初はエラー音か何かだと思っていたんだけど、よく画面を見てみると偶然にもロックが外れていた。

 ありのままに起こった事を・・・とかいうレベルじゃ断じてねぇ。とにかく目を点にして俺はただマジかよと呟いて茫然とする事しか出来なかった。まさかの適当に打ったパスワードがドンピシャリだった訳だ。一応開けた訳だし、そのファイルの中を確認した俺は、この時点では有り得ないモノを発見した。

 調べてみた隠しファイルの中には、恐らく設計図と思わしき大量のデータが存在していたのだ。

「ネビュラス級戦艦にバゼルナイツ級戦艦。マハムント級巡洋艦にバゥズ級巡洋艦にバクゥ級巡洋艦。駆逐艦に至っては旧式艦とはいえバーゼル級だなんて・・・どうやって手に入れたんだ?」

 ゲームをやっていた俺がわかるだけで、これだけの設計図である。どれもこれもこんな小マゼラン星雲の辺境星系で手に入るシロモノではない。手に入れるには大マゼランにまで足を延ばし、主系国家にある設計会社に行って買わねば手に入らない物である。ホント、まさかこんなところで大マゼラン方面にある軍事国家、ロンディバルドとアイルラーゼンの戦艦が拝めるとは思わなかったぜ。

 しかし、良くもまぁこれだけのデータを集められたモンだ。造船ドックに持っていけば“船体くらい”は作れる程のデータ量だ。きっとこのデータを集めた人物は、大マゼランと小マゼランを繋ぐマゼラニックストリームをも超えた猛者だったんだろう。ファイルに残された文章によれば、どうやらファイルの制作者はオリジナルの設計でフネを作る為にわざわざ参考用にこういったフネの設計図を集めていたらしい。

 ソレを見て俺は思わずニヤけて弛んでしまっていた顔を揉みほぐしていた。こんな序盤で強力なフネの設計図が手に入ったと思ったからだ。ご都合主義と笑いたきゃわらえ!これぞご都合主義よ!バンザイご都合主義!大事な事なので二回言いましたっ!何せ原作では第二ステージにあたる大マゼラン製はかなり強力なフネが多い。

 エルメッツァという大きな国家が纏めている小マゼランと違い、大マゼランはそのエルメッツァを凌ぐ星系国家が乱立しているからな。所謂群雄割拠の戦国時代みたいな場所なので、兵器関連の技術の向上が目覚ましいのもそこら辺に要因があるんだろう。それはともかく、この設計図のフネを造船出来れば、例え星間戦争に巻き込まれても死ぬ確率がぐっと減るのは確実だ。

 それに夢にまでみた大型戦艦の艦長となれるのだ。興奮を覚える。その興奮冷めやらぬ中、俺はさらに設計図を調べた。これさえ造れるなら、最早敵なし、強くてnewゲーム状態である。原作でも2周目プレイはあったけど所持金ステータス持ち越ししかなかったので、こういう序盤で強いフネの設計図というのはある意味夢だった。

だけど―――

「……あー、だめだこりゃ」

―――流石に天下のご都合主義もそこまで甘くは無いらしい。

 設計図全体のデータは割かしちゃんとしていたが問題は全体設計よりずっと細かい部分、主に兵装や内装関係のデータの殆どが欠損しており、このままでは使い物になりそうもなかった。ゲームの宇宙船はモジュール機構を採用しており、キャパが許す限り内装をいじれるのであるが、欠損していたデータはモジュールでは無く船体本体の内装系なのである。

 すなわちモジュールを接続すべき基礎と呼べる部分が無いのだからどうしようもない。流石にトイレとかキッチンとかが付いて無いような宇宙船とも呼べない箱舟に乗りこむ気はない。それ以前に電灯が点かないかもしれないフネになんて乗りたくない。宇宙暗いし。

 つーか、兵装は後付け出来るとして、データ不足で装甲穴だらけでライフラインがごっそり消えるバグった設計データってどうなんよ!?――いやもしかしたら意図的に削除してあったのかもしれない。恐らく既存のデータに何らかの改造を加える際のシミュレートとして、部分的に装置を入れ替えたらどうなるかの研究図案だった可能性がある。

「ん~」

 まぁ本当のところは当時の人に聞かないとわからないけど・・・。

 だから思わず前の世界で結構有名だった道化師さんのように唸っちゃうんだ。

 そりゃね、ココは廃棄された施設だからさ。放置されて整備もされなかったコンピュータのデータが全部無事とは思わなかったけどさ。唯一使えそうなデータがバゼルナイツ級戦艦だけだなんてひどい。今は金がないのだし、できるなら駆逐艦から巡洋艦へアップデートするように造れれば最高だったのに・・・あれだな、なんか隠しショップ見つけたけど、値段がべらぼうに高くて買えないっていうあの感じだ。

 でもコレはコレでラッキーではある。バゼルナイツ級はこの世界の通貨で32400程度で造れるし、性能もこの時期に入手できる艦船に比べれば高い。コイツを序盤の内に作れれば、この先しばらくの間はかなり優位に展開出来る筈だ。問題はそこまで金を稼げるか・・・まぁ、敵が弱いのは今の内なのだし、頑張ってみるしかないだろう。

「――とりあえず、一生借りておく事にするッス」

 戦艦を作るには大量の金が必要だ。一応目安としては序盤で買わされる事になるであろう駆逐艦のおよそ5倍の金がいる。死なない為に俺達は金稼ぎを強いられているんだ――!

―――という羽目になるという事に、この時の俺はまだ気が付いていなかった。

「おそかったね子坊、どこに行ってたんだい?」

「とりあえず使えるものが無いか探してました」

 色々やっている内にディジーリップの修理が終わっていた様だ。

 ま、今すべき事はフネ云々の前にこの星を離脱するって事だしな。

 宇宙に行けなければどちらにしてもこのデータは尻拭く紙以下の価値もない。

「フネはもう大丈夫なんスか?」

「まぁ、設備は古かったけど一応規格が同じだからなんとかなったよ」

 と言ってもココの設備と物資だと、応急修理で精いっぱい。なんとか動かせるモノの、ちゃんとしたドックでオーバーホールが必要だそうだ。となりの惑星にある空間通称管理局とかいう組織の運営する軌道ステーションに行けば、すぐに修理出来るんだそうで。

「そっちは散歩の収穫はあったのかい?」

「真空パックされた生活物資が少し、あとはモジュールのデータくらいッス」

「そうかい、それじゃ乗りこんでくれ。すぐに出発する」

「アイコピーッス」

「ところで家族とのお別れはちゃんとすましたのかい?一度宇宙に出たらそう簡単には戻れないよ?とくにロウズじゃお尋ねモノ扱いになるしね」

「ええと、大丈夫っス。(家族いねぇし)」

 俺の家族は異世界に居るしねぇ。

 憑依先のユーリくんにあの子以外に家族は居たんだっけ?

「それじゃ乗り込みな。ようこそデイジーリップへ」

「はい!お世話になります!」

 そして俺は彼女のフネに乗った。まだ見ぬ星の海を目指して―――

――――ガントリーに引っ張られたデイジーリップ号がレールカタパルトへ乗る。

「主機臨界稼働、反重力ユニットコネクト、離陸モードでロック」

「――えーと・・・レールカタパルト遠隔操作、システム問題無しッス。出力最大で設定、カタパルトエネルギーチャージ完了まで20秒」

「OK,隔壁解放っと――進路オールグリーン、システムもオールグリーン・・・よし、いい子だ」

 本当は自力で大気圏脱出が可能なのだが落っこちた衝撃で若干出力が低下して初速が安定しないらしい。なので施設のレールカタパルトを動かすハメとなった。ちなみに何故かサブパイロット席に座らされた俺もコンソールに表示される計器を読み上げる役をやらされている。いやまぁ、タダで乗せてもらえるとは思ってませんので良いんだけどね。未来の言語が読めてマジで助かった瞬間である。

 そしてドックの隔壁が開きゆっくりと前進するデイジーリップ号。射出位置に着くとレールカタパルトのトンネル内に照明が点き、オレンジ色の光に包まれたデイジーリップが重力制御装置により固定された。

「ほんじゃま、いきますか―――星の海へね!」

 そうトスカ姐さんが呟くのと同時に俺がカタパルトを起動させる。するとガクンという衝撃と共にデイジーリップ号がするすると動きだした。反重力により空間に浮いているから動きだした衝撃以外に特に振動は感じない。おお流石は未来技術だ。俺が未来の技術に再び感動しているのを横目に、トスカ姐さんが操縦席の真横にあるスロットルレバーのようなモノを思いっきり下げた。

 途端大音響と共に宇宙に飛び出したデイジーリップ号。

 その中で俺は……大気圏脱出のGで気絶した。

―――星の海すらまともに見てねぇやん。ダメじゃん。

…………………………………

………………………

……………

―――気絶から覚めるとソコはすでに惑星軌道上だった。

 後ろには青い惑星……地球は青かった……ってあそこは地球じゃなくてロウズか。

「おお、星の海だ」

 窓・・・というか液晶パネルだが、外の映像は入ってくる。良くテレビでやっていた、国際宇宙ステーションの船外作業の映像に似てるかも知んない。うおん、ここはまるでプラネタリウムか。思わずジーっとショーウィンドウを眺める子供のように外の映像を見ていると、声をかけられた。

「おや子坊。目が覚めたかい?」

「うぃ、気絶してた事に今気付いたとこッス」

 操縦席から離れたトスカ姐さんが目が覚めた俺に気が付いて声をかけてきた。操縦しなくていいのかって感じもするけど、考えてみたら俺の時代よか何千世代も後な訳だし自動操縦くらいあるわな。ちなみに無限航路は現代の時間軸から見てスゲェ未来の宇宙。マゼラン銀河圏が舞台でゴンス。超未来でSF・・・胸が熱くなるな。

「さて、どうだい?初めて星から出た感想は?」

「すごく…大きいです…」

「はぁ?なにが?」

 ちぇっ、アヴェさんネタは通じないか。

「いや自分の居た星って結構大きいなって…」

「そうかい。つーか全く言いたい事はちゃんと声にだしな」

「フヒヒwwwサーセンwwww」

「・・・・・・なんかムカつくねぇ、なんだいその言語?ロウズ独特の相槌かい?」

「あ、いやホントスゲェって思ってて正直テンパってますハイ!!」

 ぐぅ、2chネタとか通じねぇよ。テンパってるのは事実なんだけど反応がないと詰まらん。

「まぁそれはさて置き、これからどうする?」

「ええと、そうですね・・・≪ヴィー!ヴィー!≫っ!なんだ?!」

「チッ!もう来たのかい!!子坊、死にたくなければ手伝いな!!」

 艦内に鳴り響いた警報、ソレはロウズ警備隊が接近してくる警報だった。すぐさまトスカ姐さんはコンソールに手を置いて機器を操作し敵艦を映し出した。液晶パネルに映し出されたのは、2隻のレベッカ級と呼ばれる三角形に近いシンプルな形状をした警備艇である。おお、小さいながらもちゃんと武装してやがる。

―――とか考えていたら俺もあてがわれた席に座らされた。

「操船はあたしがやる!子坊は砲手をやってくれ!このまま突っ切るよ!!」

「わ、解ったッス!」

 ちょっと慌てているトスカ姐さんの剣幕に、俺もつられてコンソールを操作して火器管制を開いていた。これもまた知識があってよかった瞬間だ。無かったら一から操作を聞かなけりゃならんもんね。

「えーと・・・GCSリンク、回路コネクトでっと・・・大砲にエネルギーを回してくださいっス」

「ジェネレーターからは50%以上回せないからエネルギーの残量に注意しな!」

「アイコピー!」

 ジェネレーターから出力が来たので、俺は憑依先のユーリの記憶に従い、火器管制を待機モードから戦闘モードに移行させる。ジェネレーターからエネルギーを得られた事で火器管制のコンソールが開いた。なのでそのままデイジーリップ号に備え付けられている小型レーザー砲とミサイルのファイアロックを解除する。

 そういえばロウズで胴体着陸してたんだよな、このフネ・・・。主翼も曲がる程の衝撃を受けていたんだし、主武装はなんと主翼部分にあるのだ。・・・念の為に手動で砲塔を少し動かしとこう。そう思いコンソールで手動モードを開き、少しテストしてみる。このデイジーリップ号の小型レーザー砲は乗る前に聞いた話じゃ元はデブリ破砕用であり反応性は元々良くない方らしい。

 だが結構砲塔周りが改造してあるらしく、素早い警備艇を問題無く追尾出来るようだ。もっともこれがメインの武装なのだから動かなきゃ話にならん。確認がてらコンソールのパネルを操作し、小型ミサイルのレーダーとの同期回路を接続。レーザー砲も同じ様にレーダーと同期できるようにコンピューター制御の自動追尾回路を開いた。

 手動でも動かせるがいきなり実戦で動かしてる俺が手動照準でやっても、レーダー上で見てやっても素早い警備艇に当てるのは難しいだろう。初戦で手動攻撃命中はヤマトに肖って実にロマンだが、命と等価交換出来ないならしない方がいい。てな訳で、未来のオートメイションに期待しよう。ローク、機械を使え。

 データさえあれば後はフネのコンピューターがはじき出した相手の予想マニューバを元に照準する。そうすれば砲門は自動的に敵が来ると予想される位置へと向けられるのである。あとはトリガーを引くだけで良い。オートメーション化がかなり進んでますよコレ。簡単な操作さえ教われば、多分小さな子供でも扱えるんじゃないかな。

 まぁ、細かい制御なんかはやっぱり人の手じゃ無いとダメみたいだけど……。

「まだかいっ!」

「――攻撃準備完了ッス!」

「よぉし!子坊ベルト締めな!一気に行くよっ!!」

≪ドォウンッ!!≫

 小型船故の爆発的な加速力。腰に響くGのショック。若干船体強度に不安があるけどココで撃墜されるよりかは遥かにマシだろう。一方の敵さんは突然加速したこちらの動きに何故か慌てている。なかなか撃ってこない。こいつはチャ~ンス!

「射程距離まで、あと500!」

「砲門開口!ミサイルセット!」

 目標は!―――――相手の機関部!

「今だッ!」

「撃つッス!!」

 コンソールパネルに表示された攻撃のスイッチをポチっとなする。

 すると艦内に砲身冷却とミサイルが射出された振動が響き渡った。(レーザーは音がでません)

 そして小型砲塔から放たれたレーザーブレットが相手の艦の装甲板に突き刺さった。だがエネルギー兵器に対する処理が進んでいるらしく、レーザーは貫通せずに船体表面を滑るようにして拡散した。敵艦の船体に何かしらの防御処置かシールドがあるようだ。その所為で先のレーザーは拡散されて弱まり、一瞬の隙と敵の装甲を薄く削っただけに留まった。

 しかし、元よりそれだけで十分。

 たかだか違法改造した程度のデブリ粉砕用小型レーザーで、戦闘が想定された敵警備艇を破壊できるとは思ってない。

「ミサイル、命中まで3秒ッス!」

 本命は、時間差で発射しておいたランチャーの対艦ミサイルなのだ。目くらましのレーザーが当たった事で動きが一瞬鈍ったレベッカ級に、優秀なコンピュータがはじき出した照準により理想的なタイミングで発射されている。そして時間差で小型対艦ミサイルが装甲板に突き刺さり警備艇を食い破る。

―――直後、船体内部から爆散!レベッカ級はインフラトンの蒼い火球に包まれた。

「やった!敵2番艦、命中、爆散したッス!」

「次を撃ちなッ!もたもたしてるとこっちが食われるよッ!!」

 俺が初めての火器管制で敵を倒し、その手で初めて人間を殺した事にすら気が付かず、撃沈の高揚感の余韻に浸る暇もなくトスカ姐さんから叱責が飛ぶ。見ればレーダーにもう一隻が背後に回りこもうとしているのが映っていた。トスカ姐さんの声に反応した俺は、すぐさま照準を敵1番艦へと向けた。流石に敵さんも先ほどとは違い、攻撃準備が整ったので、慌てふためく様な事はしていない。

『レーダーロック・アラート』

「攻撃が来る。しっかり捕まってなッ……今!」

≪ズシュウウッ!≫

 アラートが鳴り響くと同時にトスカ姐さんが船体を思いっきり傾ける。慣性制御装置が相殺しても感じるほどの急激な横G。それに耐えている俺の目に敵の攻撃が船体を掠り、デイジーリップが張っているAPFシールドと呼ばれる防御フィールドを揺らすのを外部を映すモニターで見た。デイジーリップ自体は一応まだ大丈夫みたいだけど、すでにボロボロな状態のデイジーリップ号じゃあ何発も直撃受けたら危険だっ!

 俺は早く敵を落とさなきゃと火器管制コンソールにしがみ付いていた。手から汗が吹き出し自然と肩に力も入っている。こちとらもう必死である。ちょっとだけ股が冷たい程に・・・。

「敵標準固定!発射準備完了ッス!」

「よしっ!ぶっ放しなッ!!」

「ホレ来たポチっとな!」

 魔改造デブリ破砕レーザー砲から発射されたレーザーは、遮るモノがほぼ無い空間を直進し、敵艦のブリッジ部分に吸い込まれる様にして命中する。出力が弱いからかブリッジを貫通しなかった。だがエネルギーの奔流が直撃したことで電装系をやられたらしく迷走するレベッカ。

 そこへ発射した止めのミサイルでレベッカ級は哀れ吹き飛ばされ火球となった。

 俺は砲手用の三次元レーダーを見つつ、報告を続ける。

「敵1番艦の沈黙を確認、インフラトン反応拡散、勝ったッス!」

「よぉーし、敵さんから使える物取ったらすぐに撤退するよ!」

「了解!」

 こうして俺の初めての艦隊戦はつつがなく終了した。くぅッ!やっぱ良いねぇこういった雰囲気!コレコレ、こういうの結構大好きだよ俺!絶対この後フネをもったら“砲雷撃戦用意!”とか“第一級戦闘配備”とか言ってやるぜ!そんな浮かれた事を考えつつ、トスカ姐さんに船外作業用のアームの操作を教えてもらい、俺は敵さんの船から売れそうなモノを剥ぎ取った。

 接触が悪かったのかアームで船体をちょいぶつけちゃったのは秘密である。

――――そして取るモノとって、俺達はその場をすぐさま後にした。

 売れる物を回収し、すぐさま一番近い星バッジョへと降り立った。降り立ったと言っても原則として緊急時でも無い限り、フネは軌道上のステーションに停泊させるのがルールだとトスカ姐さんは言っていた。その為、今居るのは軌道エレベーターがあるステーションの中である。俺にとっては初めての宇宙港なので他にもフネが居るかなぁとワクワクしていたのだが・・・。

 初めての宇宙港は伽藍として閑散としているという印象しかなかった。数百mもある大きなゲートなのに、見えるのは小さなタグボート位しかなく、それもここ数年は使われていないのか隅っこでホコリを被っているように見うけられる。これもこの星系の領主が作った領主法の弊害だろう。なんだか、さみしいな。

―――とりあえず、軌道ステーションには降り立てた。

 これからどうするのかトスカ姐さんに尋ねたところ、先の戦闘で拾ったジャンクを、ステーションのローカルエージェントに売り払い金にするという。基本ジャンク品だけど、100%リサイクルが可能な世界なので結構お金になるらしい。こういったジャンクだけを集める連中の事を、別称でジャンク屋と呼んだりするらしい。そういう人たちも、みんな0Gドッグだから案外同じ穴のむじなだけどね。

 ゲームで戦闘後に何でお金が手に入るのか解らなかったけど、こうやって金にしてたのかぁ、と一人納得。尚、ローカルエージェントってのは空間通商管理局って組織が各宇宙港に配置しているアンドロイド達の事だ。俺達宇宙航海者…通称0Gドッグのサポートの為に、空間通商管理局のステーションには必ず彼等がいる。

 彼等はフネの整備、消耗品の補充、欠けた人材の補充までやってくれるスーパー便利屋さん何だそうだ。しかも、人間相手のお仕事な為、アンドロイドだと言ってもかなり表情豊かである。20世紀人間にとっては、もう驚きで開いた口がふさがらんかと思ったですよ。ちなみに0Gドッグというのは簡単に言うと宇宙の冒険者みたいなもんだ。

 自前のフネを持って無法者の討伐やデブリとかが少ない航路の発見、宇宙資源が埋蔵されている小惑星や惑星の発見等々、様々な仕事がある職業である。一応誰でもなれるが原則として宇宙船の乗組員である事が最低条件だ。当然俺も空間通商管理局のサービスが欲しい人なので、ローカルエージェントに頼んで0Gドッグとして登録した。

 これで空間通商管理局所有の施設ならほぼ無料で利用可能となるってトスカ姐さんが言ってた。ありがてぇありがてぇ。

「子坊の0Gのランキングは・・・まぁ当然だけど最下位だね。先は長いけど若いんだしこれから頑張りな子坊」

「ランキング?」

 続いてトスカ姐さんが指さしたパネルには、ズラリと沢山の人の名前が表示されており、それ全てが0Gドッグであるという。どうやらこの名簿が原作ゲームにあった0Gドッグの名声値ランキングというものらしい。原作ゲームではこの名声値を溜めると、フネの性能を上げる設備の設計図がアンロックされたり、普通は売ってもらえないフネの設計図を融通してもらえたりという特典があった。

 この世界ではどうなのかわからないが、恐らく同じようなものなのだろう。ちなみにランキングで登録されているランキングは4000まであり、欄外の俺が上位に食い込むには、最低でも4000人は蹴落とさないといけないんだろうね。名声値はどういう仕組みか知らないが敵対した勢力を倒せば倒す程あがる。例えそれが同じ0Gドッグでも、航路上で戦ったなら問題なく名声値が加算される。

 港じゃともかく一歩外洋に出れば敵でありライバル。うーんアウトローだねぇ。

「――――さて、フネの修理はすぐに終わるらしいし、あたしは一度下に降りるが、あんたはどうする?」

「行くとこ無いんで、ひな鳥みたいにどっこまっでも着いてきまーす」

「まぁ下に降りたとしても、0Gドッグが行く場所なんて一つしかないけどね」

「えう?・・・どこに行くんスか?」

 俺がそう訪ねるとエレベーターに向かう通路を歩きながら彼女は答えた。

「酒場さ」

「酒場・・・ですか?」

「そう、酒場。だけど只の酒場じゃ無い。噂から革新のある情報まで様々な話しを聞く場所でもあるし、あたしら0Gドッグへの仕事の斡旋もしているのさ」

「へぇーハローワークみたい」

「あん?ハローワークってな何だい?」

「あ、いえコッチの話です」

 なんと、この時代にはハローワークは存在しないのか?!

 世の自宅警備員の方々はどうすれば・・・あ、でもネットとかが前時代より進化してて案外大丈夫なのかも・・・裏山もというらやましいなオイ。

「時たま変な事口に出すね子坊は?ロウズのことわざみたいなものなのかい?」

「イヤァー俺が勝手に言っているだけでスよ」

「・・・本当にへんなヤツだねぇあんたは」

「ぐはッ!何気ない一言が刃物のように俺のハートに突き刺さる!」

「置いてくよー」

「リアクションスルーっスか?!」

 な、なんという高等テクを・・・トスカ姐さん、かなり強いッスね。いや俺が勝手にバカやっているだけんだが、その後もこんな感じで雑談をしながら、地上へと降りて言った。

 そして降り立った酒場の中は、なんて言うか・・・アメリカの西部?な、なんでココまで来る時は普通の合金の床だったのに、ココに来た途端木製になるの?それこそまるで酒場自体がマカロニウェスタンに登場しそうなアウトローが集いますって感じじゃねぇか・・・どうなってんの?

「ねぇトスカさん?何でこの酒場って、どこもこんなレトロな感じ何スか?」

「ん?さぁねぇ、酒場は私が0Gドックになる前からあったし、ココは空間通商管理局がスポンサーを兼ねてるから案外上からの指示かも知れないねぇ」

 へぇそうなん?

「いや、コレはきっと上からの指示に見せかけた孔明の罠だ。きっとこの酒場のマスターの懐古趣味に違いない」

「子坊、あんた人の話聞いて無いね?」

「いや聞いてましたよ?只なんとなくやりたかっただけッス、後悔はしていない」

 でも何気に孔明の罠のくだりから、酒場のマスターがピクンって動いたから、あながち間違いではないと思うんだ、ウン。ところで孔明の罠って言葉まだ有るんだろうか?

「とりあえず何か飲むかい?」

「あ、はい飲みます」

 ま、一息入れてから考えますかね。

……………………………

………………………

…………………

――――しばらく酒場の喧騒をBGMに、片隅で美女とふたり向かい合う形で飲んでいた。

 言葉だけ聞くとロマンチックな匂いが漂いそうだが、俺はこの時代の酒の銘柄がわかんないから普通にソフトドリンクなため締まらないことこの上ない。お互い口を閉じちびちび黙って飲んでいると、ふとトスカ姐さんが口を開いた。

「そういえば子坊、あんたなんで0Gドックになりたかったんだい?」

「えと、それは・・・」

 突然の質問に少し考え込む。やっべー、それらしい理由とか考えて無かった。

 はて?ユーリ君はなんて思ってたんでしたっけ?

「それは・・・きっと・・・どうしても宇宙に出たかったからッス」

 妙に漠然としているがコレしかない。というかコレは俺の当面の目的でもある。

 せっかく来た未来の世界なんだ。もっと色々見て見たいんだよね。

 まぁ死亡フラグ乱立で超怖いけど。

「だけど、この宙域の外に出る為のボイドゲートは、すでに押さえられてるはずさ」

「そう言えばトスカさんはロウズ宙域にどうやって来たんスか?」

 原作でもソレが気になっていたんだよね。だってボイドゲート封鎖してるなら入ってこれないじゃん。ボイドゲートっていうのは、宙域と宙域とを結ぶ橋の様なものだ。長距離をタイムロス無しで移動できるから転移門みたいなモノだと思う。宇宙を旅する連中はたいていこのゲートを活用している。スゴイ距離を移動できる上に利用料タダだしね。エネルギーと物資節約の為にも、ボイドゲートは今や欠かせない施設なのだ。

 またこのゲートは空間通商管理局が管理している施設である。基本的にゲートに対しての攻撃とかの手出しは許されないし禁じられている。その昔ゲートを巡って戦争が起きたので、なんだかんだあって航宙法が制定され、それによりボイドゲートはどの勢力相手でも中立、すなわち公海という位置となった。

―――では何故この星系の領主はゲートを封鎖出来るのか?

 まぁ何事にも抜け道はあり、ゲート自体は手出しできないが、ゲートから少し離れた宙域は封鎖出来るって訳で。出たり入ったりするヤツを待ち構えて監視すれば良いから楽なモンだな。―――っと、話を元に戻そう。

「ああ、あたしのフネは元が貨物船だろ?偽造した通行証で貨物を運んでる運送屋に仕立てたのさ」

「それでロウズに降りようとしたら、警備隊に見つかったってとこッスか?」

「まぁそんなもんだ。すでにあたしのフネは連中に見られて手配されているだろう。あたしのフネじゃ流石に連中全員とやり合うのは無理だ」

「確かに、あのフネの装備だと集中砲火でも喰らったら最後ッポイッスね?」

「ちがいない。ロウズを脱出した時の戦闘が小火に見える位の戦闘だって起こるかもしれないよ・・・それで子坊、あんたはそれでも飛び立ちたいのかい?」

 その質問には速攻でYesだ。

 そりゃ勿論ッス!そうじゃ無けりゃトスカ姐さんの前に出てこないッス!!

「どうしてもゲートの向こうに行きたいです!」

「じゃあ、作るしかないねぇ?あんたのフネをさ?」

「俺のフネ・・・ッスか?」

「そうI3(アイキューブ)・エクシードエンジン、ブリッジ・エフェクトの効果により光速の200倍程度の速力を誇る・・・フネさ」

 ええと解らん人の為に解説入れとくけど―――

 アイキューブ・エクシード航法っていうのは、I3(インフラトン・インデュース・インヴァイター)を主機として巡航時に用いられる推進手段の事で、我々が住む宇宙に下位従属する子宇宙を形成し、そこを通り抜けることで相対論的時間(ウラシマ効果)のギャップを調整する事が出来るそうな。

 これは複数の子宇宙を縦断する「アインシュタイン・ローゼンの橋」を架け、その上を通り抜けるという意味で「架橋効果」、または「ブリッジ・エフェクト」と呼ばれている。この時代における宇宙船の大半はこの推進機関が備えられており、コレにより宇宙が狭くなったと言っても良い……だそうです。

―――正直俺にも訳わかんないので飛ばしても結構。要はメッチャ早いってことだ。

「まぁ、かなりお金が居るけどね」

「はぁ金かぁ…」

 地獄の沙汰も金次第。人の世は何処に行くにも金が憑き纏うってか。

 ・・・・・・・そう言えばエピタフって高く売れるんだっけ?

「ねぇトスカさん、俺こんなの持ってんですけど?」

 俺は懐から一応ユーリの親父の形見とかいう設定のエピタフを取り出して見せた。原作だとコレを質に入れて10000Gにして駆逐艦を手に入れた。質に入れてそれなら売ったらもっと良い金になる。――そう思って見せたんだが、思えばエピタフの価値を考えておけばよかった。

「エ、エピタフぅぅ~~?!」

「ちょっ!トスカさん声デカイッス!!」

 見せた途端叫ぶように大声を上げたトスカ姐さんにこっちも慌ててしまう。

 周りを見れば、エピタフの言葉に反応した人たちがこちらをジロジロと…。

「あぁ・・・あはは何でもないですよぉ~!コイツ、エピタフが欲しいなって・・・」

「・・・無理やりッスね≪ゴチンッ!≫――イッテェッ!!!」

 慌てて取り繕ったので まわりの連中は興味が失せた様だ。大方酒に酔っておおごとな話をしていたと思われたのだろう、不本意だけど。徐々に周りからの視線が弱まり精々チラホラと見てくる視線に落ち着いたあたりでトスカ姐さんに再び殴られた。叫んだのは彼女だというのに理不尽である。

「うっさい・・・・・・大体何でそんなモン子坊が持ってるんだい?ありえないだろ」

「いや、コレ一応親父の形見なんスよ。(設定上は)」

 まぁ、この身体の持ち主であるユーリくんにはもうチョイ複雑な理由がある。とりあえず、このエピタフっていう手のひらサイズの真四角の箱は、各宇宙島に点在する古代異星人の物と思われる遺跡から出土するモノである。正直エピタフ自体が何の為の物だかイマイチよくわからない。

 だからかエピタフは色んな憶測を呼んだらしく、一生分の富を得られるだとか、力を解放すれば宇宙の支配者になれるとかいう噂がある。一時期熱心なコレクターや冒険家が血眼になって収集していた上、現在でも噂があるからか売買価格は結構高い。要するにかなり高く売れる・・・でも正直、只の四角い箱にしか見えないお。

 さて、話を戻そう。

 俺はトスカ姐さんにエピタフを見せて、コイツを売って金にしてくれと言おうとしたんだが。

「はは~ん、つまり宇宙に出たいのは、それの秘密を探りたいからかい?」

「いやまぁ・・・」

 俺とエピタフを見比べてどこか納得したような顔をしたかと思えば、姐さんは自己完結してくださった。まぁ見た目華奢でも俺は男の子。浪漫にあこがれて若さゆえにというのは想像に難くない話しではあるが・・・ええと、なんと答えるべきかねココは?だが宇宙に出たくて宇宙船に乗りたいというロマンだけで飛び出したというのも嘘じゃないしなぁ。

 それよりもエピタフ、一応コレは物語の核心に迫るアーティファクトだし、売り払っちゃって良い物なのか・・いや、でもコレ紆余曲折あって結局に手元には戻って来ない筈。よろしい、ならば売却だ。コレは後腐れもなく売ってしまおう。あくまで俺の目的は宇宙戦艦を作る事なんだからな!

――――そういう訳で俺が“コレ売ってフネ作りたい”と応えようとしたその時。

「本物のエピタフか・・・おい兄ちゃん、怪我したくなかったらソレこっちに寄越しな?」

 そんな事いうデブが、後ろに立っていた。

 えーと、どなたさまでしょうか?


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