カルバライヤ製のフネに使われる装甲材にディゴマ鉱追加。
■カルバライヤ編・第二十一章■
「艦長、惑星ブラッサムに到着しました」
「うす、報告ご苦労さんッス。ミドリさん」
「宙域保安局……政府の組織のところにいくのかい?あんまり乗り気はしないねェ」
「でもこれがきっかけになれば、教授の行きたい星に行けるかもしれないッスからね」
お礼について欲しいモノについてはここまでの航海中に考えてあった。即ち、封鎖されている惑星ムーレアがある宙域への進入許可である。
いや、本当のところはお金だとか貴重鉱石だとかみたいな即物的な意見が一番多く意見として挙がっていたんだが、俺のところにやって来たジェロウ教授が、この件を利用すればムーレアに行けるネ! 今から研究が楽しみだヨ! と興奮気味に催促してきてくれやがりまして。
今回の旅はジェロウ教授をムーレアに送り届けるのも勘定に入れてあるので、何時か行く気ではあった。教授はムーレアの古代異星人遺跡に興味津々らしく、既に行く気になっていらっしゃいます。
正確にはどうしようと逡巡した途端、まさか行かないなんて事はないだろうネ?とダークサイドに染まったような視線で貫かれまして……はい、その睨みに負けました次第です。
「ユピはどうするッス? 今回は惑星に降りないでお留守番する?」
「いえ社会見学として艦長にくっ付いていこうかなァ。なんて思ってます、はい」
「お? ユピも来るのかい? それじゃあヘルガもだけどキチンとした歓迎会をしなきゃね。是非しよう。そうしよう」
とりあえず今回俺と宙域保安局に行くメンバーを決めている最中、ユピに話題をふってみたのであるが、何故かトスカ姐さんが歓迎会をしようと提案してきていた。
「歓迎会ッスか? 良いッスねぇ」
歓迎会か。一応彼女等の顔合わせを兼ねた歓迎会はフネの中でやった。
ただやはり陸と比べると艦内で行う歓迎会はやや違うので正式な歓迎会は陸についてからという意見が出ていたっけ。
今回はユピとヘルガが加わった訳だし、惑星に降りる訳だしな。丁度良いかも知れない。
「それじゃフネん中じゃ味わえない程豪勢に、酒場の一室を貸し切りにするくらいの派手な宴会としゃれこうもうじゃないか!―――ほんじゃユピ」
「はい、トスカさん。なんでしょうか?」
「ブロッサムの一番デカイ酒場の予約、取っといてくれる?」
「わっかりましたー!」
そして俺は昭和のコントばりにイスからずり落ちた。
おいおい、歓迎会の主賓が予約する歓迎会って何さ?
「さぁて、楽しくなりそうだね」
「酒場行く前に仕事済ませてからッスよ?」
「わかってるさ!――ふふ、お酒お酒」
もしもーし、口から銀色の粘液が溢れてますよー? タダ酒が絡むと途端元気になるんだからしょうがないなぁトスカ姐さんは。彼女の嬉しそうな様子に苦笑しつつも、接舷準備を進める俺たちだった。
………………………………
…………………………
……………………
―――惑星ブラッサム・宙域保安局門前―――
さてさて、教授やユピやその他大勢を引き連れて、やってまいりました宙域保安局。彼らはこの宙域を取り締まる警察と軍を足して割ったみたいな組織である。
保安局の門前に着いたのは良いが、目つきの鋭いいかにも軍人って感じの怖いオジさん達が目を光らせて見張っていらっしゃるので、俺はちょいと及び腰。
「ほらユーリ。自分から行くって言ったんだろ?はやく行け」
「んな事言ったって、なんか怖いんス~」
思わずトスカ姐さんの背後に回ってしまうのは、シカタナイネー。
「だからって女性であるトスカさんの後ろに隠れるのはどうかとボクはおもうよ?男なら女の人より前に出ようよ」
「おんやぁ? ならアンタは後ろだね?」
「ボクは男ですトスカさん! それに艦長、キミすご~く目立ってるよ?」
「だってイネス。あの軍人さんを見てみるッス」
「うん?」
「あんなに肩をいからせて……凄い筋肉ッス……負けた……」
「いや肩パッドみたいなもんだろ」
「世紀末ひゃっはー?」
「意味が解らないけど、とりあえず艦長が想像してるのとは全然違うとおもうよ」
んー、イネスも俺の扱いが上手くなったもんだ。トスカ姐さんとケセイヤ達のたくらみで女体化した時と、その後の取り乱しっぷりが嘘のようである。
たしかに女性を盾にするなんて紳士である俺らしくない行動だった。自分の行動に反省しつつクルー達よりも前に出ようと一歩を踏み出し――
「誰かあっちで口論してるね」
―――踏み出そうとしたら門前の近くのフェンス付近で口論中の人達がいた。がーんだな、出鼻を挫かれた。別に前に出たとたん門兵さんから見つめられたのが怖かったからではない、断じてない。
「おんやぁ?あいつは、この間私をナンパしてきたバリオとかいう軍人じゃないか?」
「何を話してるんスかね?」
バリオさんは此方には気がついておらず、もう一人の保安局の制服とは少し違う制服を纏った人物と口論を繰り広げている。その声は此方にまで聞こえてくるほどだった。
「いいじゃねぇか。もうそんなこたぁ言ってられない状況だろうが!」
「海賊退治はお前たちの領分だろう。我々が勝手に手を出す訳にはいかん!」
「だ~か~ら~! ちょっと回してくれりゃいいんだって。良いじゃねぇか減るもんじゃなしに」
「減るんだよ! 確実に! 戦力が! ……たく、もうお前とは話してられん。もう行くぞ」
「けっ、だからバハロスの連中はいやなんだ。勝手にしやがれ! コンチクショー!」
そういってプリプリ怒りながら建物へと戻って行くバリオさん。
なんだったんだろうかねぇ? 今の口論は?
「なんだったんスかね?」
「さ~てね。色々あるんだよ、色々」
ま、多分だが近々海賊狩りの作戦でもあるんだろうさ。その為の戦力が欲しいんだろう。グアッシュ海賊団は本当に雲蚊の如く大軍だったからね。戦力はいくらあっても良いだろうから、他の部署の人間とまで掛け合っていた。そう見るのが妥当かな?
「んじゃ、ま。気を取り直して、とりあえず中に入るッスかね」
「そだね」
ちょっと引っかかったが、あまり深く考えずに俺は皆を引き連れて建物へと入った。怖い顔をして門兵さんであったが、こちらが0Gドッグであることを証明する身分証を見せると、案外すんなりと中に通してくれた。怖いのは顔だけだったらしい。
んで、受付にいくと、すぐに局内の一室に行くように指示された。言われたとおりにその部屋へ向かうとそこにはウィンネル宙尉達とその他が俺達を待っていた。
「ユーリくん、よく来てくれたね」
「ドでかいフネが大きな艦隊を組んで入港してくるって連絡があったから、もしやと思ってたが――やっぱりお前等だったんだな」
出迎えてくれたウィンネルさんとバリオさんは歓迎の意を述べる。こちらも適当に相槌を打ちながら、彼らと共に佇むもう一人の男性へと視線を這わせた。
その人物は此方が部屋に入った時からそれとなく観察するような眼を俺達に向けてきている人物であり、隙の無い佇まいから彼もまた生粋の軍人である事がうかがえる。 年齢は40代後半か50代、年季の入った皺が刻まれた顔に少しばかり疲れの色を浮かばせて……ああ苦労人の面だなこりゃあ。
互いにチロチロと視線を交わしていると、こちらの視線に気がついたウィンネルさんが、ああと言いながらその人物のほうを腕で指し示しながら口を開いた。
「この方は我々の上司にあたる―――」
「シーバット・イグ・ノーズニ等宙佐だ。よろしくおねがいする。部下たちへの救援に関し、私からも感謝の言葉を送らせてほしい」
ウィンネルさんの言葉を引き継ぐ形で自己紹介してきたその人物。シーバットさんはあの凸凹コンビの直属の上司にあたる人物だった。真面目そうな声色で宙佐は俺達に謝辞を述べた。
「いえ偶々通りかかっただけですよ」
「だからこそだ。今時の航海者は真っ向から海賊に立ち向かわない。正直度胸ある連中はめっきり減った。君達のように通りすがりに助けてくれる人間なんてまず殆どいないんだ。誇っていい」
「はは、買い被り過ぎですよ」
はは、真面目な話。打算で助けた所があるからすこーしだけ胸が痛い。でも打算で助けると決めた以上は最後まで打算を通させてもらおう。
「実は、折り入ってお願いがあるのです」
「ほう何だね?」
「ムーレアへの通行を許可して欲しいんだヨ。わしの研究のためにナ」
「ムーレアに?……あ、貴方は!?」
本題を切りだそうとした時、俺の言葉にかぶさって先に後ろから声が上がった。話を切って登場した第三者の声の方を見るシーバット宙佐だが、すぐにその顔に驚愕の色が浮かぶ。
俺の背後から他の人を押しのけ、愛用の赤い杖を突いて現れたのは、元祖マッドサイエンティストで各分野で功績を残す偉人ジェロウであった。
「――あ、貴方はジェロウ・ガン教授!? なぜこのようなところに!?」
「彼らはわしの水先案内人なんだヨ。だから彼らと行動をともにしておル。宙佐、学術調査の為にも、宙域封鎖なんぞいう意地悪などせんと、何とか通過させてくれないものなのカネ?」
「それはッ――失礼しました。教授の名声はかねがね。私は保安局にてこの分室を任されている二等宙佐のシーバットです」
「うむ、ヨロシク。それで先ほどの話なのだがネ」
「はい教授、出来るなら名高き研究者たる貴方に我々も協力したいのです。決して意地悪などではありません。そうもいかない、のっぴきならない事情がありまして……」
なにやら俺を無視して話が進んでいるが、要するに宙佐がいうには、あの封鎖している宙域の奥には航路を跨ぐようにして【くもの巣】なるグアッシュ海賊団の根城があるのだそうだ。
航路を脅かす海賊達、その砦となれば何度か排除しようとしたモノの、相手の方が勢力が大きく駆除しきれていない現状。
おまけに保安局も就労者現象のあおりで人手不足なのがたたり、今では少数の艦隊で近くの宙域を封鎖するので精いっぱいだったのだそうだ。
これ以上被害を出さない為にも、その宙域の航行は認められないということらしい。
俺抜きで話を進める教授は、その宙域の先にムーレアの航路があるのだから、どちらにしても引き下がれないと議論は水平線になるかに見えた。
ところで、俺さっきから会話に参加できないし帰っていい?
「良いじゃないですか、宙佐。丁度良いから彼らに協力を頼みましょうよ」
「彼らに?まさか例の計画にか?」
「ええ、彼らの戦力は強大です。ザクロワの連中にもツラは割れて無いですしね」
「何を言ってるんだバリオ。0Gドッグとはいえ彼は一応民間人だぞ。彼らを巻き込むなんて無茶だ」
「しょうがねぇだろう? バハロスの国防軍の連中も当てにならねぇんだ。もうそんなに時間も無い。それにこいつらの力はあの時に間近で見たじゃないか。力ある者に協力を頼んでみて何が悪いのか言ってみな」
「う……む」
俺抜きで話が盛り上がっているところ恐縮なんですが、途轍もなく厄介ごとの予感がするんで頼まれても御断りさせてもらえないでしょうか。
あと、そこで引き下がるなよウィンネルさん。何こっち見て思案顔してるんスかッ? そんな時折呟くように『彼らの戦力なら』とか『0Gドッグは傭兵も兼ねることも…』とか不吉なこと言わないでくださいよ! いい加減泣くよホントに!!
真面目過ぎて懐柔されつつある青年士官に若干ジト眼を送りつけようとした矢先。シーバット宙佐がこちらの方に向き直ると口を開いたので、ジト眼を向けるのは諦めた。むむむ、出鼻をくじかれた気分である。
「一つ聞きたい」
「はい、なんでスかシーバット宙佐?」
「現在グアッシュ海賊団の戦力はバカに出来ないモノとなっている。この状況で通行を許可したとして、君たちは自力でムーレアまでいけるのかね?」
宙佐はジッとこちらを見つめてきた。どうやら試されているな。
「元よりそのつもりです。これまでも海賊相手なら食い荒らしてきましたから」
なので、俺は獰猛な笑みを浮かべてそう答えた。ぶっちゃけハッタリである。なんか試されているのだから、ここで出来るというのが男というものである。別名バカ。
もっとも事実上、俺達の活動資金の内7割は、海賊団の皆様が持参してくれる装備一式を売り払った金で賄われている。ホント大食いなんだよね、白鯨なだけあってさ。
「そうか、それならばよかろう。私から封鎖線を通れるように許可を出しておく」
「宙佐、いいんスかそれで!?」
「仕方あるまいバリオ君。進んで我々に協力してくれるなら兎も角、今の彼らにそのつもりはないようだ。私は民間人を巻き込むのは好かんよ」
どうやら通行許可が出る方でまとまるようだ。上司に言い竦められてバリオさんも小さくなっている。ふむ、まぁ保安局と争わずに済むなら良しとしよう。
「ユーリ君だったかな?気をつけて行きたまえ。あとくれぐれも無茶しない様に」
「了解です。感謝します宙佐殿」
それだけ言うと俺たちはさっさとこの場を後にした。それにしてもバリオさんが言っていた計画か、何なのかがちょっち気になるなぁ。キナ臭い感じもしないでもないけどさ。
まぁ、とりあえずムーレアへの通行許可は貰えたので後は休息のお時間だ。そんな訳で歓迎会に参加するまでをダイジェストで表してみよう。
「うー酒場酒場ァ」
いま保安局を後にした俺は、0Gドッグをしているごく普通の男の子。強いて違うところがあるとするなら、何故かこの小マゼランでは手に入らない超戦艦を持っているってことかなー。名前はユーリ。
そんな訳でトスカ姐さんが提案していた、ユピとヘルガの歓迎会の為に予約した酒場へとやってきたのだ。
ふと見ると酒場の前に沢山の男たちがたむろしていた。ウホッ、全員部下……そう思っていると、部下たちは俺が見ている前でいきなり胸元を開き財布を取り出し始めたではないか。
「「「(歓迎会を)やらないか?」」」
そういえばクルー達は皆宴会飲み会大好きな飲兵衛だ。楽しいことに弱い俺もホイホイっと財布を徴収し、酒場の中についていっちゃったのだ。こいつらは宴会も飲み会もやりなれているらしく酒場に入るなり俺に会計を押し付けていた。
「いいのかい? ホイホイ来てしまって? 俺たちは関係なく大騒ぎする人間なんだぜ?」
「はぁ? お客様とりあえず先に会計おねがいしまーす」
うぐ、そうか。このネタをこの世界の人がしるわけねぇわな。
俺はイソイソと会計をすませて歓迎会をしている酒場の奥の方へとむかった。
まぁそんな感じだ。何がと言われても困るが。
そんで、なんだかんだで暇なヤツはほとんど歓迎会に集合していた。流石に数が多いので複数の部屋に分かれての半分宴会と言った感じだ。それでもすでに呑めや歌えの大さわぎがここまで聞こえてくるほど活気がある。良いことである。活気があるフネは良いフネなのだ。
ちなみに主賓であるユピとヘルガが居る部屋に参加するのは俺や何時もの主要メンバーは当然なのだが、他のクルーたちにとっては大変だったらしい。
なんでもクルー達は何時の間にか歓迎会への参加チケットを刷っていたのだ。特に主賓と一緒になれるチケットは人気が高く、他のとは別格に高額で取引されていたくらいである。
しかし当然ながらチケットの数は有限で、主賓部屋に参加できない者たちが出てくる。その所為か主賓部屋に参加したいからか、チケットが元でクルー同士のケンカが起きかけたので艦内レクリエーションを兼ねてチケット争奪戦が勃発。生活班、戦闘班、整備班問わず様々な人間が参加し、チケットを巡っての闘いが行われていたそうだ。
尚、俺がその事を知ったのは、宙域保安局を出てからであり、つまり俺達がいない、経ったの僅かな間に起こった出来ごとだったのだ。まったくバカと言うか何と言うか。愛すべき素晴らしくもアホなクルー達だよホント。
そんな訳でここに参加している連中は全員チケット争奪戦を勝ち抜いた猛者たちである。凄いのは、それだけの争奪戦だった癖に、男女半々の班員も均等に参加という、ある意味奇跡に近い数字となっている事だろう。
まぁ、それはともかく、会計を終えた俺も参加させてもらおうじゃないか!
「おお!艦長のご到着だぜ。部屋はこっちですぜ! さぁ行きましょう!お~い、みんな!」
「「「先におっ始めてま~す!」」」
「「「ゆっくりしていってね!」」」
クル-の一人が俺を見つけて貸し切りにした酒場の一室へと案内してくれた。既に歓迎会と言う名の宴会が始まっている。みんなお祭り騒ぎは大好きだモンな。下手に堅っ苦しくない俺達流の歓迎会って感じだろう。
艦隊で一番偉い俺は主賓席の一番近い席へと座らされ、主要クルー達もそれぞれ主賓席にほど近い場所に座っている。俺は近くのグラスを手にし、一杯煽った。
どんちゃん騒ぎなのだ。素面でいる方が失礼だるるぉ! たのしいたのしいどんちゃん騒ぎ。もうだれにもクルー達を止められないぜ。でもバケツで水をかけるのだけは簡便なッ!
「トーロさん!乾杯のおんどおねがいしま~す!」
「え!ったくしゃ~ねぇ~な。おいマイク貸せ!」
「ほいどうぞ!」
「あ~、俺は難しいことは言わねぇ!今日は歓迎会だ!大いに騒いで新しい仲間が加わった事を祝おうじゃねぇか!!ヘルガ!ユピ!ようこそ我らが白鯨艦隊に!!カンパ~イ!!」
「「「「「「「「「かんぱ~~~~~~~~~いっ!!!!!!!!」」」」」」」」」
そして大合唱の如く、部屋の中で乾杯の声が上がったのだった。
その後はみんな思い思いに呑み始め、仲間内が良いのか適度に同じ系統のグループを形成していた。俺は俺で、適当に少し飲んだ後、それぞれのグループを回る事にしたのだった。
***
―――マッドグループ―――
さて、最初に来たのはサナダ、ミユ、ケセイヤのマッド三人衆+ジェロウのマッドのグループのところだ。四人もいるんだから、もうマッド四天王でいいんじゃないかなぁとか思ったりしている。
とりあえず、なんとなく近かったから先にこっちに来た。特に他意は無い。
でもどうやら何かについて話し合っているようなので、すこし聞き耳を立ててみた。
「つまりはシェキナみたいなHLとかのエネルギー系の火器だけじゃ不安だと?」
「そう言う事だネ。この先もしかしたらAPFSが非常に強力なフネも出るかも知れない」
「成程、一理あるな。ミサイルも数えるほどしか積んでいない訳だし。ふむ、なぁケセイヤよ」
「なんだよサナダ?」
「ユピテルかアバリスに大型のレールキャノンを搭載出来ないか?」
「う~ん、着けるとなれば徹底的な大改造が必要になるぜ?あと問題もあるよなミユさん?」
「ええ、レールガン系は距離が開くとどうしても命中率が下がってしまう。それに実体弾だから弾切れも起こるし、砲身の冷却機能がキチンと作動しないと、砲身ごと融解する事もありうる」
「資料で見させてもらったVBクラスの小型キャノンならともかく戦艦用の大型キャノンだと、命中率の問題が出てくるのがネックだネ。だけど、一考する価値はあると、わしは思うヨ」
「ふむ、とりあえず科学班は設計をしてみよう。教授も手伝ってもらえませんか?」
「いいよ。わしが言いだしっぺだからネ。たまには息抜きがてら考えるのも一興だヨ」
「それじゃ、設計はサナダにまかせっとしてだ。ミユさん、新しく入った素材関連の情報なんだが――」
「「「「ケンケンガクガクウマウマシカシカ」」」」
は?斥力場を?……エネルギー縮退?……相転移理論? 何のことか全然解らん。
ダメダこりゃ、素人は会話の中の入れないぞ。しばらく放置するしか無いな。別に学が無いわけじゃないんだが、流石に専門的過ぎて連中の会話についていけねぇよ。
つか酒の席で話す内容じゃねぇ。仕方なしに、この場を後にするしか無かった。
―――生活班グループ―――
さて、こちらは白鯨艦隊の屋台骨を支える生活班の人が集まっているグループ。
さっきのマッド連中と違い、その会話の内容は、比較的ホンワカとしたのんびりとした内容のモノが多い。戦闘とは直接関係が無い部署だからかもしれないな。
もっとも、戦闘中でも彼らは雑務を止めることが無いから、日常こそが戦場何だろうけど。あ、ウチの義妹さまもここの所属ですよっと。
「ん~、やっぱり発泡酒系には、腸詰が合うねぇ」
「お姉ちゃん、おじさん臭いよ~。そんなんじゃ貰い手がいなくなるよ~?」
「生意気言うはこの口かい~?ほれビヨ~ンと」
「いらい!いらいよ~!」
エコーさんとアコーさんが仲睦まじくしてるねぇ。でもエコーさんはレーダー班だからグループ的には違うはずなんだけど……まぁ二人は姉妹だし、一緒に居てもなんらおかしいところはないな。
「ほら、もっと呑みなよエコー」
「お姉ちゃ~ん、私そんなに飲めないよー」
「あ゛あ゛?あたしの酒が飲めないってか?」
「ひーん、のみますー」
どうやらアコーさんは酔い始めているらしい。普段の温厚さはどこへやら。肉親の妹相手にアルハラの真っ最中。
ここは不用意に近づかないのがグッドだ。巻き込まれたらどうなるか解らんからな。俺は音を立てずに静かにその場を後にする。後ろから“もうむり~らめぇ”と聞えたけど、キニシナイコトニシタ。
大丈夫、最近の薬は二日酔いに超効果ありだから、サド先生に処方してもらえばいいよ。
さて、この後も色んな所を回る。機関室系や整備班、砲雷班のとこも見て回った。
それにしても機関長いつのまにSYOUGIなんてゲーム持ちこんだんだろう? あれって将棋のことだろ? この時代から見れば古代の代物がよく存在していたもんだ。
何時の間にかSYOUGIの対戦で勝ち負けを当てるトトカルチョが成立している。親の総取りみたいだったけど、親のトスカ姐さんスゲェ儲けだろうなぁ。
「か、艦長!」
「ん?あ~ユピッスか。どう?楽しんでるッス?」
最近宴会で恒例となっている、クルーのイケ面連中の裸踊りを見て爆笑していると、本日の主賓の一人であるユピから声を掛けられた。どうやら彼女もそれなりに呑んでいるらしい。顔にほのかに朱がさしている。
となり良いですかと言われ、良いと答えたので彼女がとなりに座った。今日は彼女の歓迎会でもあるので、俺が酌をしてやると恐縮されてしまったぜ。
まぁ一応この艦隊のトップでAI上位命令系統のトップでもあるもんなぁ俺。
そんな相手からお酌されれば、そりゃ恐縮位するか。
「はいはい、いまは宴会、無礼講ッス。スマイルスマイル!」
「え!?は、はい!スマイルですね!に、にぱ」
「いやいや、笑顔作れって訳じゃないんスけど。まま一杯」
「こ、これはどうも」
まぁ無礼講と言ったって、すぐには難しいだろうなぁ。向うで何人もの酒飲みを沈めているルーべと対決中のヘルガと違って。機械の面が強いヘルガ相手だと生身のユーベには少々キツイかな?
「ユピ。身体を持って酒を飲んで騒ぐという体験は面白いッスか?」
「はい、ソレはもう。今まで解らなかった経験が、ドンドン詰まれていきます」
「ふんふん、成程。それも良い勉強スね」
「それと、なんかお酒を飲むとフラフラするんですね。皆さんが飲みたがるのも解ります。この感覚はなかなか気持ちのいいモノがありますし」
ケセイヤ、どんだけ凄いの作ってんだ? 酒に酔えるロボなんて、それどこのドラえ○ん? それともアナ○イザー?
「ま、ほどほどにッスね。飲み過ぎると、二日酔いという恐ろしい病気が待っているッス」
「二日酔いですか?」
「ユピが掛かるかは微妙ッスがね。人間だとマジでヤバい。思考が定まらなくなるッス。そして頭痛も地味に辛い。まぁ簡単に言えば仕事能力の低下ってとこッスかね」
「それは怖いです。気をつけます」
「それにフネが二日酔いとか洒落になんねっスからね」
「くすくす、なんですか?それ」
ユピは笑っているが俺としては二日酔いは冗談じゃない話だ。艦長の判断能力の低下、それ程恐ろしいもんはない。俺なんて絶対に二日酔いになるまで呑まない。
お陰でちょいと詰らないのだが、まぁ致し方なし。
「それじゃ、新しい仲間に」
「乾杯」
グラスを傾け新たな仲間を祝して乾杯したのであった。
「あ、あそこで二人だけで飲んでるんじゃよー、と」
「「「「「何だと!?」」」」」
「行くぞお前らじゃよー、と!」
「「「「「おうよ!!」」」」」
≪どどどどどどどどどどどどどどど!!!≫
「ちょっ!お前らくんな!やめい!」
「そ、そのてにもったジョッキはなんですかー!!!」
ブリッジクルーは元より、その他のグループからも沢山人が押し寄せる。
その姿に遠慮は見えない。絆によってつながれた家族であり仲間。ソレが俺達だ。
だけど―――
「「「「もっと呑めや艦長―――!!」」」」
「もうむりじゃーーーーー!!!」
―――無理やり酒を飲ますのは勘弁して欲しいぜい!
***
「あ゛ぁぁぁぁ――――あたまイテェ」
「調子にのってのみ過ぎだよユーリ。ホレ薬」
「いや、のまされたって感じなんスが。あんがとっス」
さて、歓迎会が終わった後日、俺達はガゼオン経由の航路へと戻り、一路ムーレアを目指してブラッサムを後にしていた。若干頭が痛いが、二日酔いの薬のお陰ですぐに収まることだろう。
そして、航路を進み、現在宙域封鎖が為されていた航路を進んでいるのである。すでにメインホロモニターには、宙域を繋ぐ航路を塞ぐように展開する上下二列前後二列の複縦横陣を組んだ艦隊が投影されていた。
こいつらがここを封鎖しているお蔭で獲物は逃がすし、色々と遠回りしなければならなかったので、ちょっと恨みがあったりするがそれはそれ。彼らも軍人らしく憎まれ役をしているのだから、文句言おうにも言えねェや。
「艦長、宙域封鎖されている座標に到達しました」
「さ~て……あの宙佐が約束を守るのか見物だね」
「守るんじゃないッスか? じゃなかったら強行突破するだけッス」
「うん? アンタまだ酒が抜けて無いね。政府連中と争うと後が面倒だよ?」
「ありゃ? あれま速いとこアルコール抜けて欲しいッス」
俺より遥かに飲みまくったトスカ姐さんに指摘されて頭を振る。というか、なんで姐さん平然としてるんです? 俺の倍以上飲んでましたよねこの蟒蛇というかザルめ。
でもそんなことを口にしたら明日の朝日……宇宙だから朝日はないか、明日の太陽が拝めなくなっちまうので心の内だけで呟くだけにとどめておく。俺だって命が惜しい。
なお、宴会で俺と共に結構飲んだはずのユピも影響は出ていない。やっぱりナノマシンの集合体だけあって薬物耐性は高いらしく平然とした顔で俺の後ろに控えている。うらやましい限りである。どうにも生理現象だとしても二日酔いは勘弁してほしい。
「宙域保安局の艦隊から入電“ハナシハ キイテイル ソノママ トオラレタシ”以上です」
「通信じゃなくて電文ねぇ?以前の警告は通信だった癖に、古風と言うかなんて言うか」
「まぁ様式美みたいなもんでしょうけど、とりあえずお言葉に甘えるッスね」
「封鎖宙域を通過します。警戒態勢は続行」
此方が加速を始めると、宙域保安局の艦隊もそれに呼応してか、上下に別れて移動し航路を開けた。規模的には数十隻程度の艦隊の間を26隻の艦隊で通過する。しっかし考えてみると、これだけ数があっても海賊の流出を防ぎきれていないってワケ何だよな。
この先、少しは警戒した方が良いかもしれないな。ココからは、普段のカルバライヤ航路よりも敵が出るだろう。俺は警戒を厳にすることを指示し、そのまま艦を進ませたのだった。
……………………………
………………………
…………………
宙域封鎖された座標を通過後、しばらくは何もなかった。予想されていた海賊艦隊の襲撃もなく、宇宙は静かに凪いでいて、そこをただ通過するだけだった。
てっきり丸出しの駆逐艦艦隊を狙って、宙域封鎖されたあたりを通過したら通常の十倍くらい敵との遭遇があるかと思っていたが、どうやら海賊も宙域封鎖している宙域保安局の戦力に近寄りたくはないらしい。
おかげで順調な進みを見せているが……ぶっちゃけヒマである。そんな時、ブリッジ内に航路上で何かを発見した時の警報が鳴り、俺はようやく出番が来たかと、戦闘指揮を行うために居住まいを正してコンソールに眼を向けた。
艦隊を先行する早期警戒機(AEW)型のVFから齎された情報は、駆逐艦艦隊を経由して旗艦にもたらされる。後はそれを解析し、オペレーターのミドリさんが報告するのを待つだけだ。
さぁどんな敵が来たのかなー? 海賊本拠地に近いんだから、それなりの数がまとまって来てくれれば金になるのだが……。そう思っていた俺に来た報告は、ちょっと当てが外れたものだった。
「艦長、早期警戒機が救助信号を探知しました。現在艦種特定中」
「救助信号? 海賊のテリトリーの中なのに?」
「艦種特定、カルバライヤのククル級型の民間船です。発信源は針路上ですが、いかがしましょう?」
上がってきたのは民間船発見の報告、それも救助が必要なヤツだった。
ククル級か、確かカルバライヤでは要人送迎にも使われる豪華客船だったな。全高がやや厚めのスプーン型船首構造を持ち、全体的にはもっさりした片手持ちスコップのような形状をしている。スコップと持ち手の中間にあたる部分から二つのウィング型スタビライザーブレードが船体真下に向けて伸びているのが特徴的だ。
このフネはカルバライヤ系のどのフネにも言えることだが装甲が厚く耐久性があるからか、狙う労力の割に割に合わないと海賊に襲われにくいと聞いたことがある。
だが流石にグアッシュ海賊団みたいに集団で来たら為す術も無かったようだ。周囲には護衛のフネらしき残骸が浮かび、ククル級自体も酷く損傷して機能を停止しているようにも見える。救難信号を発せられるあたり内部に損傷は少ないのだろうか?
しかし、海賊のテリトリーに入って一日。俺達はまだ海賊に遭遇していないが、目の前のククル級は罠の可能性であることも考慮しないといけない。なにせここに来るまでの航路は封鎖されていたのだ。封鎖されていたにも関わらず居る客船とか怪しすぎるだろう。
だが、もしかしたらどこぞの航路から流されてきた可能性も捨てがたい。航路ってのはそこしか通れないって訳じゃなく、あくまでも障害物や重力干渉が少ない空間の隙間を指す。通常の宙図に表示される航路はあくまで公海上の航路でしかない。
だから外様には知られていない支流みたいな航路も幾つか存在しているのだ。たまに海賊とかも掟破りの地元走りみたいに支流に逃げることもあるからな。どこかの支流に入り込んでここまで流されてきた可能性も……ない事はないな。うん。警戒はしよう。
「一応、警戒しつつ前衛のK級を救援に向かわせるッス。あー、それとミドリさん、ルーインさんに連絡いれといて。もしかしたらEVA(船外活動)いるかもしれないッスからね」
「はい艦長」
「それとストールは砲撃準備。リーフとイネスは最悪の場合の回避ルートの設定。トクガワ機関長はエンジンを最高の状態に。ユピは、無人艦を含めた各部署の調整を頼むッス。ほいだば皆さんお仕事ッスよー」
「「「アイアイサー」」」
各所に指示を下し、あとは結果をご覧じろである。少しして再び先を進む駆逐艦艦隊から連絡が入る。表示をしてあるホロモニターを見るとガラーナK級突撃駆逐艦を示す光点が救助信号を発しているフネを光学映像でとらえられる位置まで接近するところだった。
接近した駆逐艦から送られてくるデータがこちらのモニターにも届く。ユピが気を利かしてか、メインホロモニターに拡大投影して状態を映してくれた。信号を発していたフネは、やはり戦闘によって大破させられたらしく、各部損傷していた。
外面は殆どがボロボロになるくらいに破損しており、特に推進機まわりの損傷が激しいことから、エンジン回りを狙い撃ちにされて航行を停止してしまったのだろう。
こんな状態でも救難信号を出せるのはさすがはカルバライヤ製、無駄に頑丈な造りをしているフネばかり作る御国なだけはあるな。
「エコーさん、周辺に反応は?」
「今の所~、3次元レーダーにもー、空間ソナーにもー、全く反応が無いわ~」
「やはり自力でココまで流れて来たのか? だとしたら、なんて言う幸運なフネだろうねぇ」
「うーん、海賊に襲われた時点で幸運じゃないと思うッスけど」
「揚げ足とるんじゃないよ」
「アイテッ!? つねらないでッスー!」
まぁそれにしても、念のため調べておくことにした。まずは安全の為に輪形陣を組む。ピケット艦代わりに駆逐艦たちを球状に配置してゆき、さらには全艦から艦載機を発進させさらに警戒を厳にさせた。
その後、護衛の艦載機と共にEVA班とVE-0《ラバーキン》を発進させる。作業用のラバーキンには装甲溶断用のレーザーカッターや素粒子放射機が装備されている。恐らく攻撃で歪んでしまった外壁のハッチは開かないので、これでこじ開けるのである。
ラバーキンがククル級の外壁に取り付き、ハッチをこじ開けてEVA班と保安部員たちがククル級内部に入っていく。後は探索待ちであり、敵さんが来なければ、あるいはトラップでも仕掛けられていなければ特に筆舌すべきことはない。
強いていうなれば、内部も結構ボロボロであったという報告が来たことか。救難信号が送られてくるから内部は無事かとも思ったが、どうやらバイタルパートの一部を残してほぼ無酸素状態になっているらしい。宇宙服を着ていないと生存は絶望的であろう。
その後、少しして中に突入したルーイン達から連絡が届いた。曰く生存者がいた、との事。その生存者は主電源が落ちた事で薄暗く、また重力井戸も停止して無重力となった通信室のコンソールにしがみ付く様に倒れていたらしい。一見死体かと思っていたら近づいた途端に動いたらしく、若いEVA員の一人が漏らしかけたとかなんとか。
若い野郎が漏らしたかどうかなんてのは正直どうでもいい。続報では生存者は長時間オキシジェンジェネレーターがほとんど停止し、淀んだ空気が漂う部屋に放置されていた為に大変衰弱しており、現在応急処置をされながら至急医務室へと搬送される運びとなったそうだ。
あれま、本当に生存者がいたよ。表には出さないが内心驚いていた。同時に、安全の為とか言って遠距離から砲撃処分とか命令しなくてよかったと思った。
まぁ俺達が調べなければいずれは補助電源もダウンして完全にオキシジェンジェネレーターも停止するだろうから、近いうちに窒息するか、あるいはAPFシールドの停止に伴う宇宙線の被ばくか、もしくはデブリの衝突などにより生身で宇宙に放り出されるか。
いずれにしても、俺達が見捨てていれば、あまり良い死に方はしなかっただろう。そう言った意味では運がいい生存者である。
その後も、トラップの可能性がないかを内部スキャンなどを使って調べ上げた。結果はシロ、この客船は本当に海賊にやられたものだと判明した。同時に、生存者は先ほど見つけた人以外は見つけられなかった。海賊め、ヒデェことしやがる。
「さて、少し時間を取られたけど【くもの巣】まで後どれくらいっスか?イネス」
「作業中、こちらも少し流されたからな。宙域保安局の出している航路情報と犠牲者のフネとの相対速度を元に計算すると、現在の座標からあと1日もしない距離だろう」
「ふーむ……念のために早期警戒機(AEW)を出しておいた方が良いかも知れないッスね」
「まずは情報ってかい? 何だか女々しいねぇ」
「石橋は、叩いてナンボッス」
トスカ姐さんが両手を上げて呆れる仕草を見せるが本気ではないだろう。白鯨艦隊の戦力なら、どんな敵にだって負けないと俺は信じている。だが所詮は力も使い方如何でどうにでもなってしまう。慢心一つするだけで全滅の憂いにあうのは古今東西繰り返されてきた。
とまァ、ご立派な御託を並べてみたが結局のところ俺が臆病なだけである。宙域管理局に啖呵切ったのに臆病なのかって? それは、そのう、その場のノリというのに流されまして……。
とにかく、これから戦闘は確実に起こるのだから、それに対する準備は必要なのである。そういう事にしといてつかぁさい。
「ミドリさん、ケセイヤに言って電子戦仕様の偵察機に増速ブースターを準備させといてくれッス」
「アイサー艦長」
とりあえずケセイヤさんに頼んで偵察機を出撃させる事にした。念のため機種は電子的ステルスが可能なRVF-0にするように指示しておく。RVFはVFの背中に電子戦が可能な装備を取り付けただけの代物である。姿としてはVFの背中に可変式のレドーム、映画なんかで電子戦機とかが背負ってる回る皿みたいな奴を積んでいる。
こいつは運動性が通常機よりも若干悪く、武装もレドームが邪魔になって通常装備しか装備出来ない制限があるが、エンジン回りを強化する事で機動性は高く、また万が一見つかっても今回取り付ける増速ブースターで逃げ帰れるだろう。
「偵察機、発艦します」
「出来れば良い報告を期待するッス。……出来ればね」
さて、偵察機が帰ってくるまではあまり派手に動かない方が良いだろう。俺は旗艦ユピテルを中心に範囲広めの球状輪形陣を取るように指示をだし、同時に各員交代で監視を行うようにした。後は偵察機が戻るのを待つだけだ。さて、どうなるかな。
…………………………
……………………
………………
―――33時間後―――
一日どころか一日半以上かかって、ようやく偵察に出した機体が艦隊の元に帰還した。
電子戦装備のお蔭か、かなり近づいたにも関わらず、敵に気がつかれることなく偵察を達成できたことに安堵したが、偵察機が持ち帰った情報には素直には喜ぶ事が出来なかった。
「ふ~む、この画像を見る限り、巡洋艦クラスのバクゥ級が40隻以上、駆逐艦クラスのタタワ級が100隻以上、おまけに幹部用の通常と異なる艦が数十隻以上。さらにはくもの巣に配置された各種両用砲の数プライスレス。こりゃあ、まさに要塞ッスね」
「解析の結果なのだが、殆どの艦がカスタマイズを施されたアッパーバージョンに相当する事が判明した。さらに、これを見て欲しい」
解析を行ってくれたサナダさんがコンソールを操作すると別の画像がホロモニターに投影された。モニターに映ったのは先ほど【くもの巣】を映した時に見えた幹部用と思わしき艦船である。
これは知っている。バゥズ級だ。
データによれば原型はカルバライヤ軍が開発し運用している重巡洋艦で全長630m、全幅190m、全高90mある大型艦。戦艦並みの火力と艦載機搭載能力を持ち、カルバライヤ宙域で採掘されるディゴマ鉱という特殊鉱石を混ぜて生成される、ディゴマ装甲も合わさって比較的高い防御能力を持つ。
そのバランスの良さから、軍では輸送船の護衛から周辺宙域の巡視まで幅広く使われている。外見はカルバライヤ製駆逐艦のタタワ級の発展型。もしくは首を伸ばした翼のないワイバーンといった感じだろうか。
んで、このフネの何を注視すればいいのかね?
「このフネはカルバライヤ軍で使用されている重巡洋艦であるバゥズ級と呼ばれるフネだと判明した。問題はこのフネに装備されている武装なのだが、ちょっと解り辛いだろうが、よく見て欲しい。こいつをどう思う?」
サナダはそう言うと、コンソールを操作して画像をアップにした。あんれま、装甲板に大きな穴が開いていて、その下をぶち抜いて柱みたいなのが飛び出してるよ。
場所的にはミサイル発射管がある部分で公式のバゥズ級ではVLSか小型対艦ミサイル発射口って事になっているが、あれ明らかに小型じゃないんだけど?
「すごく……大きいです」
「その通り、それも不釣り合いに大きい。これは元々の設計にはない状態だ」
あれま、思わずネタに走ったのに普通に返されたわ。じゃなくて、海賊のバゥズ級の装備についてだ。ホロモニターに投影されたそれは、通常のVLSやミサイル発射管よりも数倍は大きい穴、おそらくはVLS用の発射口だろう。
それが片舷に3門。両舷合わせて6門の巨大発射口がある。船底突き破っているあの柱みたいな奴はミサイルの発射筒だったのか。これはまた随分と無茶な改造だ。VLS発射筒と思わしき円筒が船体を貫いて露出している。
これレーザーがAPFシールドを貫通したり、実体弾の直撃を受けたら誘爆しちゃうじゃん。最大の武器が最大の弱点じゃないかコレ?
「この機動性を捨てたバゥズ級はおそらく【くもの巣】を守る守備艦だろうと推測される。見て解るとおり元の設計にはない大型ミサイルを無理やり搭載したらしい。これは弾頭にもよるが例え通常弾であってもかなりの攻撃力があると科学班はみている」
うわぁ、どうしよう。俺の中で損得勘定がグルグル回ってるぜ。なんせ見える限りで200隻もいるんだぞ。小惑星をパイプで繋げて文字通り蜘蛛の巣みたいなところだから、格納ドッグも沢山あるだろう。見えるだけが全戦力な訳がない。
おまけにあの大型ミサイル搭載の重巡。見えているだけで数十隻いるのだ。2百~3百発以上の大型ミサイルの雨とか悪夢だろ。そんなの喰らったら蜂の巣どころか剣山にされちまうよ。デフレクター使っても破られてアボンってなもんだ。
こりゃあ悔しいが今回は戦う前に引くしかなさそうだな。流石の空間通商管理局も失ったフネは補填してくれないし、戦力が足りないのに突っ込むのは得策じゃないだろう。
そりゃあ、シーバット宙佐やバリオさんらに啖呵切っといて引くのはシャクではあるが、やはり安全に勝てないのなら挑むべきじゃねぇ。命を懸ける場面はこんな海賊風情相手に使っていいわけじゃないしな。
それに保安局側も色々と俺を試している節がある。俺が頭下げるだけで少ないとはいえ戦力を貸してもらえるのなら、土下座でもなんでもしてやるさ。あ、焼き土下座だけは簡便な。
「仕方ないッス。今回は一度引くッスよ」
「ま、しょうがないね」
「良い判断だと思います艦長」
「数十隻くらいだったら、無傷で撃破してやるんだがなぁ」
「1000隻はいかねぇだろうけど、あの分じゃ数百隻はいそうだしな」
「急がばまわれでしたかな? 引くことも勇気ですじゃ」
他のブリッジメンバーの呟きは、おおむね引くことに賛同のようだ。流石に敵さんの規模を考えて皆も考えてくれているのだ。彼らに心の内で感謝しつつも、俺は現状把握の為にこの場に来て頂いて、ずっと黙ったままだったジェロウ教授に向き直り、頭を下げた。
「教授。悪いんスが、もう少しムーレア行きは我慢して欲しいッス」
「仕方ないネ。幾ら研究がしたくても死んでしまっては意味が無いヨ。なに、まだ時間はあるから、何か別の方法を考えることとしよう」
「貴方が合理的に、物事を考える方でよかったッス」
「わしとて人間。研究が終わる前に死にたくも無いしネ。待つのは得意なほうじゃヨ」
こうして敵の戦力分析の結果、一度撤退することとなった。後ろに向かって全速前進である。各員がそれぞれの仕事を再開するのを見ながら、俺も反転180度、帰還の途につく指示を出そうとしていた。
その時、ミドリさんから呼出が掛かった。なんだろう?
「艦長、医務室から連絡です。リアさんが話したいとの事です」
「リアさん? 誰ッスか?」
「艦内時間で34時間前に大破したククル級から救助され、現在医務室に収容されていうる女性です」
どうやら救助した人が目を覚ましたらしい。医務室にいたリアと言う人が、俺と話したいのだという。感謝の言葉でも言われるのかな?
「解ったッス。ユピ、通信開いてくれッス」
「アイサー、医務室とつなぎます」
ユピがフッと目をつぶりフネのシステムにアクセスした。相変わらず彼女のナノマシンが輝く文様は綺麗なもんだ。ユピはフネと直結した電子知性妖精だからこんなことが出来るんだよな。
そんな風にユピのどこか幽玄なる姿に一瞬見惚れていると、俺の目の前にホロモニターが出現する。医務室に繋がる内線のモニターだろう。ホロモニターに映し出されたのはベリーショートヘアーで前髪を黄色いカチューシャでとめた女性だった。
まだ衰弱しているらしく、医務官に肩を支えられながらも、その女性は俺に向かってまずは感謝の言葉を述べてきた。
『あなたが艦長のユーリさん? 私はリア・サーチェスです。まずは助けてくれた事に感謝します』
「ああ、いんや。偶然発見出来ただけッスよ」
『実は折り入って、ユーリさん。あなたに相談したいのですが……ウッ』
モニターの向こうで彼女の顔が歪んだ。まだ完全には回復しきっていないのだろう。苦しそうに胸元を押える彼女を支えていた医務官が介抱する。流石にこんな状態では相談も何もないな。
「リアさん、とりあえず身体治してからの方が良いッスよ」
『ごめん、なさい。でも、もう私にはこれしかないと思って……相談を、聞いてもらえるのかしら?』
彼女は思いつめたような顔をして、呟くような声量で苦しげにそういった。もう絵に描いたように何か事情があるのがビンビンに伝わってくる。
厄介ごとの匂いを感じるが、なんかここで彼女の話を聞いてあげないのは鬼畜の所業のような気がしてきたお。俺は紳士(笑)だから、女性の頼みはなるべくきくお。
「良いッスよ別に(話を聞くだけならね)。とにかく今は体を休めて。次の星で詳しく聞くことにするッスよ」
「あ、ありがとうござい、ます」
「ホイ、お大事に」
そういってホロモニターを切った。それにしても嫌な予感がしなくもないのだが、軍とかの言外の無茶振りに比べたら軽いモンだ。
とりあえず、リアさんとの話は暫くお預けとなったので、俺は気を取り直して帰還命令を下し、再び一日ほど時間を掛けて、一路帰還の途についたのだった。
***
――惑星ガゼオン――
さて、ムーレアへ続く航路を一度引き返し、そこから最も近い惑星のガゼオンに来た俺達はそのままステーションに停泊した。なんにせよすでに3日以上が経過している上、警戒態勢で移動していたこともあり普段よりもクルーに疲労の色が見えた事もあり、ここで小休止を取る必要があった。
簡単な補給も行われるので少しばかり時間が出来た俺は、さっそくリアさんの話を聞く為に酒場に行く事になった。この世界の医療技術はかなり進んでおり、一日安静にしていたリアさんはほぼ回復している。さりげなく眼球再生治療とかできるくらいだもんな。凄い世界である。
そんな訳で俺は酒場に来たのだ。どうにもこの世界では相談事は酒場で行う風潮がある。まぁ、個室で二人っきりみたいな感じだと色々と困るし、酒場なら気楽に話せるから良いけどさ。
あ、ちなみに他のクルーも一緒に来ている。リアさんの相談は個人的な相談とのことなので別に話に参加したりはしないが、まぁ半分護衛を兼ねているそうだ。
一応、医務室で看病されている間も、さりげなく女性保安部員が監視していたのだ。これはリアさんは生存者だが部外者であり、念のためにと保安部が仕事した結果である。そして今も数人、保安部員の見たことある顔が酒場にさりげなく集結していた。
なんだかんだで俺はフネのトップなので、一般人などに紛れて護衛してくれるつもりなのだ。なおどういう訳かヘルガがついてきている。テメェら、全身兵器なヘルガ呼んできてどうすんだ? 有事の際は全部灰にでもする気なのか?
まぁいい、とりあえず適当な席に座り、飲み物を注文してから彼女に話しかけてみよう。
「さて話ってな何スか?」
「実は人を探しているんです」
長くなったので要訳すると、彼女は行方不明になった恋人を探すために、他の星へと向かうククル級に乗り込んでいたらしい。問題の恋人は優秀な射撃管制システムの開発者だったらしく、監獄惑星ザクロウの自動迎撃装置、オールト・インターセプト・システムを完成させた後、行方不明になってしまったのだそうだ。
尚、ココまでかなり簡素化して書いているが、実際はこの話に行きつくまでに3倍近い長さのノロケ話を聞かされているので正直ぐったりである。まったく恋する人間ってのはどうしてこうも面倒くさいのだろうか。邪険にするのも戸惑われたので一々聞いていた俺のSAN値は底辺を爆走中だ。だれか阿片チンキ持ってない?
そんで本題の彼女の相談とは、白鯨艦隊に乗り込ませてくれないかというものだった。まさかの泣き落とし付き売り込みとはと戦慄したが、そうではなくてリアさんは恋人探しの為に、かつて輸送船の通信士をしていた時に溜めた資金をほとんど使ってしまい、最後の金でククル級に乗り込んだ、つまり無一文なのだそうだ。
ククル級に乗り込んだは良いが無一文 → 次の星で働いて資金溜めるわ → ククル級海賊に襲われる → 死ぬかと思ったら白鯨に救助される → 凄いフネ、これに乗れば安全に色んな星に逝ける? → よし売り込むわ!
てな感じらしい。まぁ彼女は0Gドッグとして登録し、輸送船の通信士をしていたらしい。調べたら事実だったし、話を聞いていれば純粋に恋人探ししている人だと感じたこともあり、ウチに迎え入れるのは特に問題はなかったんだ。
なのに彼女、せっぱつまっていたのか“身体で、身体で返すから!”とか叫びやがってさ。ええ労働力的な意味ですよ? 彼氏いるのに体を他の男に許すわけないじゃない。だけど酒場なんだよ? 俺すっごい白い眼で他の女性系冒険者とか0Gドッグに睨まれたんですよ。まったく。
そんな訳でリア・サーチェスが仲間になりました。ああもう、疲れた。
「それじゃあ、詳しい契約とかは後でするとして。歓迎しよう盛大にな」
「ありがとうユーリさん……いえ、艦長!」
「まぁ問題の彼氏、カルバライヤに居るって言うなら、案外すぐに見つかるんじゃないッスか?」
「だと良いんですけどね」