何時の間にか無限航路   作:QOL

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※2021年2月 コメントで指摘された矛盾点を変更。


~何時の間にか無限航路・第22話、カルバライヤ編~

■カルバライヤ編・第二十二章■

 

 

―――惑星ブラッサム・宙域保安局―――

 

 前回、海賊の基地【くもの巣】を見逃してやり、リアという女性を仲間に加えたりして八面六臂の活躍をした白鯨艦隊。さー、今日は何をしようかな?

 

 …………ごめんなさい、前半は嘘です。見逃したんじゃなく、戦うのを一時諦めて撤退しますた。だって勢力大きすぎなんだもん。シカタナイネ。

 

 

 

 さて、そんなこんなで再びやってまいりましたとカルバライヤ宙域保安局。数日前に啖呵切って出てからそんなに時間は経過していないのに、もう遥か昔のことのようである。その理由は、一人で出来るもん!と出てきたのに、結局力を貸してーと戻ってくる破目になったのが気分的に俺の脚を重くしていたからだ。

 

 まぁ、ウチの連中に被害をなるべく出さないようにするなら、名声が下がろうが頭位下げるのはやぶさかではないし、むしろやったると意気込めるのであるが、それでも、俺にも羞恥心くらいあるんだお。

 

「……だれか、えっ!?とか言わなかったッス?」

「バカ言ってないで早いところいくよ」

 

 へい姐さん。すぐいきまっす。トスカ姐さんと部下を引き連れ、再度保安局の扉を潜る俺。すると何故だか受付がすぐに済まされて、気が付けば俺はシーバット宙佐と対面していた。なにこれ早い。超スピード? 

 おそらく宙域保安局側はこうなると予想して待ち構えていたんだろうなぁ。なんせ宙佐の横に立つ凸凹コンビのウィンネル宙尉は、やはりという顔をしているし、バリオ宙尉に至ってはニヤニヤと笑みを浮かべているのだ。

 

 失敗して、ねぇどんな気分?NDK、NDK?

 

 バリオさんの顔にはこんなことが書いてあるように見えてくる。なんだコノヤロウ、俺達が失敗したのがそんなにうれしいってのかコノヤロウ。

 

「どうかしたのかね?」

「……いえなんでもないッス」

 

 いけね。思わずガン飛ばしていた。流石に俺の気分の悪さが伝わったのか、バツの悪い顔をバリオさんが浮かべているし、俺も自重しておこう。そうすると再びバリオさんと眼が合う。――すまんな。――構わんよ。そんなアイコンタクトが交わされた気がしたぜ。

 

「それで、どうだったかね? 自力でムーレアまで行けそうかね」

 

 そんな俺達をさて置いて、シーバット宙佐以前聞いたことをまた聞いてきた。案外意地が悪いな。俺達がここにまた来た理由くらい解るだろう。それでもあえて聞いてくるのが宙域保安局流のジョークなのかね。笑えねぇけどな。

 

「偵察して来たんですが、あれは無いッスね。一体どれだけ放置すれば、あれだけの勢力になるんだか」

「ソレを言われると耳が痛い。それにしても偵察して帰って来れたのか。我々の偵察隊は殆ど帰還出来なかったというのに」

「運が良かっただけッスよ。交戦はしていません」

 

 軽いジャブを返しつつ偵察してから帰ってきたと伝えると驚かれた。おいおい、どれだけ海賊に追い込まれていたんだこいつらと思わず呆れてしまう。

 そうはいうものの、実際のところ白鯨艦隊は敵の本格的な警戒ラインよりも一日分遠いところ、アウトレンジから偵察機を飛ばして情報を得たに過ぎない。本隊は常にステルスモードを展開していたし、偵察にしても電子的には見えない電子戦装備の機体だ。必然的にセンサーに頼りたくなる宇宙では電子的ステルスは実に効果がある。

 

「だが、見て来たならば話は早い。君達にはアレの危険性が理解出来たことだろう」

「そりゃもう。正面から戦ったらギリギリ勝てるとはいえ、此方の損害がバカにならないッスよ」

「……ギリギリ勝てるのか」

「やっぱり……」「ウチにもあんだけの戦力がありゃあなぁ」

 

 何か宙佐達に暗い影が下りる。まぁ組織じゃなくて個人でコレだもの。

 自分達が頑張って戦力をかき集めたのはなんだったのかとか思うよな。

 

「とにかく恥も外聞もなく撤退した訳で……ジェロウ教授という賓客の安全の為にも必要だったんスよ」

「悲観することはない。敵の規模を鑑みて引き返せるのは正しい指揮官のなせる業だ。只の頭でっかちや猪武者ならば無駄に兵の命を散らすものだ。そういう意味ではユーリくんのとった決断を私は賞賛する」

「ウチの分析では、もう少し戦力があればどうにかなりそうだったんスよ。だから」

 

 だから戦力を貸してください、この通りです。そう頭を下げかけた時、肩に手が置かれて止められた。見れば宙佐が真っ直ぐと俺の目を見ている。な、なんだ? ゲイじゃねぇよ俺?

 

「仮にも艦隊を率いる男が軽々しく頭を下げるのは良くない。ユーリくんが正しく判断し動いたのなら胸を張り堂々としているべきだ」

「宙佐の言う通りだ。僕らはキミたちに何も思うところなんてない。ユーリくんに頭を下げられる理由なんてない。そうだなバリオ」

「そうだぞ。男なら簡単に弱みを見せるなんて言語道断。指揮官なら猶更強気で踏ん張っているべきだ。それが男ってもんだ。少なくともカルバライヤではな」

「そう。頭を下げるよりも行動で示すほうが生産的だろう。君たちが我々を必要としてくれたように我々にも君たちの力が必要だと分かった。恐縮だが我々の計画に協力してくれないだろうか? かなり荒療治になるだろうがグアッシュの連中に対抗する計画があるのだ」

 

 そういって熱く燃える眼で宙佐に肩を強く掴まれた。な、なんか凄く暑苦しく諭されたんですけど? おまけに思っていたよりも宙域保安局の参戦がスムーズに進みそうで呆気にとられる。というか作戦? 前も少し漏らしていたが、何かあるんだろうかね?  

 多分原作であったことなのはうっすらと覚えてはいるんだが、原作を最後にやってから結構な月日が流れているので、大まかな流れは兎も角、細かいイベントなんて雲の彼方である。でもまぁ、ちゃんと聞いておけば、なるようになるか?

 ふむ、ここで話に乗っておけば、スムーズに進むだろうな。ちらりと背後に控えるトスカ姐さんに眼をやると、彼女は若干不機嫌そうだが頷いてくれた。まぁトスカ姐さんは軍とか政府とか、あんまり好きじゃないからな。態度に現れるのだろう。

 

 そんな訳で、一番の理解者で副長である姐さんが頷いたので、この話に乗っかることにした。

 

「おお、渡りにフネッス。そんな計画があるなら是非によろしくッス」

「では詳しくはバリオ宙尉から聞いてくれたまえ。打ち合わせの場所はそうだな」

「一杯ひっかけながらでいいでしょ。この建物内で出来る話でもなし」

「む、ソレもそうか。ではそうしようか」

「あの、宙佐。宙佐はまだ仕事が残っています」

「なんと。仕方ない私はそれを片付けてからにしよう」

 

 それにしても、なんだろう。カルバライヤの国民性は暑苦しいとか聞いていたけどマジだな。バリオさんが提案した酒場で一杯引っかけながら相談するというそれに、上司が普通に行こうとしているよ。

 普通は部下に任せて自分は出ないだろうに、責任者自らってのは、やっぱりこちらに配慮しての行動なのかな。仕事あるからウィンネルさんに止められてるけどさ。

 それにしても相変わらず相談事は酒場で、という公式が成り立つことが実証されたな。あそこは騒がしいから盗聴とかの危険はほぼない。ある意味でセオリー通りなのかもしれない。

 

「場所は軌道エレベーターにある0Gの所で良いッスか?」

「ああ、そこなら人が絶えることは無いから、相談事にはうってつけだ。じゃ、俺たちゃ一足先にやってます。ウィンネル、行こうぜ」

「解った」

「では宙佐、我々も失礼します」

「うむ、それではな」

 

 どんな話が聞けるのやら。まぁ楽しみだ。

 

 

***

 

 

「まずは一杯ひっかけて、のんびりしろよ」

「「「うぃ~す」」」

「って、君は未成年じゃないか!」

「あれ? 俺がいたロウズだと俺成年になってたっスよねトスカさん」

「ああ、宇宙島によってそこらへんはあいまいなんだよ。私が立ち寄ったところだと、子供でも飲めるところもあったよ。まぁ水が普通に飲めない星だったんだけどね」

「ああ、水代わりにアルコール低めの酒を飲むんですね解ります。てな訳で飲んでもOKウィンネルさん?」

「いや、やはり未成年からの飲酒は体に良くないよ。だから遠慮してもらいたい」

 

 酒場に着くと、さっそくバリオさんとウィンネルさんを見つけたので、彼らの元に来た俺だが、いざ飲もうとしたらウィンネルさんが慌てて無粋なことを言ったので、結局トスカ姐さん以外はのめない事になってしまった。

 一応彼は法律を守らせる宙域保安局の官憲さんのいうことを無視するわけにはいかないのである。おのれウィンネルめ。まぁ別に酒だけが飲み物じゃない。酒と交互に呑めるようにソフトドリンクなども充実しているのが酒場というものだ。

 

「さぁさ呑みましょう呑みましょうや。綺麗な姉さん」

「呑むのはいいが急いでるんでね。さっさと本題に入って欲しいね」

「おお、怖。綺麗な姉さん、んなこと言わないでさ?まずは仲良くなってからって事で――」

「あれを握りつぶして欲しいのかい?」

「「「「サーセンした!!」」」」

 

 

 トスカ姐さんがぽつりと言った言葉に、この場の男子はほぼ全員がある部分を抑えて土下座した。すんませんトスカ姐さん、アンタがソレ言うとマジで洒落になりませんぜ。

 だが、そのお蔭か男同士の連帯感で場が和んだので、ソレはそれで―――

 

 

 さて、誰と話すか―――

 

・バリオ   ←OK?

・ウィンネル 

 

――――おし、バリオさんに話しかけよう。なんとなくだ。

 

 

 俺はバリオさんから本題を聞き出す為に、彼に話しかける事にした。

 

「さて、本題に行きますか」

「グアッシュ海賊団についてどれだけ知っている?」

 

 そういわれたので携帯端末からフネのコンピューターに繋ぎ、偵察機が持ち帰った敵の基地【くもの巣】をHD画質でバッチリはっきりクッキリ映したのをホロモニターに投影して見せてやった。

 

「え?なに?これ?」

「光学映像装置で捉えた敵さんの基地」

 

 事実を伝えた途端、凸凹コンビが崩れた。曰く、俺たちは光学装置で観測できる距離まで近寄ることも出来なかったのにと。ははは、ご愁傷様。

 

「ええと、他にもこれまで聞いた噂とかもいうべきッス?」

「たのむ」

「実は頭のグアッシュはとっくの昔に捕まってるとか。サマラという海賊と対立してるとか。アホみたいに戦力が沢山ある……のは見ての通りとか」

「ああ、それだけ知っててくれりゃ十分だ。あと、この画像とか他の観測データ譲って。戦力分析室に回したいから」

「いくらで?」

「ここの飲み代こっち持ち」

「乗った」

「気前がいいねぇ。それじゃあ本気だすよ」

「え?綺麗な姉さんなんでジャグごと酒を……って飲み干したぁー!?」

「トスカ姐さんザルなんスよ。いやぁー助かる助かる」

「……ねぇ今からでも割り「男に二言はないんスよねぇ?」……ええい、さよなら俺のボーナス貯金!ちょっと後で銀行行ってくらぁ!」

 

 ははは、知らなかったとはいえ飲み代を持ってくれるなんていい人だ。となりで見ていたウィンネルさんが引きつった顔してるけど、アンタは払わないからいいじゃん。

 

「さて、男泣き中のバリオのことはそっとしておくとして、問題はトップが捕まったにも関わらずグアッシュ海賊団の勢いは全く衰えていないことだ。この、偵察写真を見ても分かるとおりにね」

「たしかに少なくても200隻近いフネがいるんスよね。しかも見えている分だけでそのくらいいるみたいだし、下手したらさらに3倍くらいいるかもしれねぇッスよ?」

「200隻?! もうそんなに増えてたのかッ!!」

「ほい、さっきの偵察写真をさらに詳しく解析した画像とそのデータ」

 

 俺が持っていた携帯端末のホログラム投影装置が再び像を結び、空中に浮かぶホロモニターに偵察した【くもの巣】の映像を拡大しつつ、各所防衛兵器まで解析したデータを先のバリオさんの約束通り二人に見せてやった。

 

「まぁウチとしては戦艦とかが一見するといなかったのが幸いだったッスねぇ」

「……恥ずかしながら、もう我々保安局の手には負えなくなっている状況だ」

「ぶっちゃけましたね。ところで国防軍は動かせないんスか?」

「バハロスに国防軍の駐屯地があるが、あの連中はダメだ。海賊は保安局(こっち)の管轄だって話で終わっちまったよ。まぁ連中の元々の仕事は、ネージリンスとの国境防衛だからな」

 

 ココでもう一度、カルバライヤ星団連合とネージリンス星系共和国と呼ばれる二つの国について説明しておこう。

 

 バリオさんやウィンネルさんが所属するカルバライヤ星団連合は、いわば一攫千金を狙う労働者達がエルメッツァ星間国家連合から独立したような連中。地球でいうところの独立戦争時代を終えたアメリカのような国である。ハングリー精神に富んだ開拓者たちが集まって出来た国だ。

 豊富な鉱物資源はあるが反比例するかのごとく食糧生産可能な星が自領に少なく、食糧自給率23%の過酷な風土ゆえ、民の性情はまさに質実剛健。血縁の結びつきを重んじ、理路整然とした合理性よりも情緒で動く気質がある国である。要するに情に厚い熱血系が多く集まる国と考えていい。

 もっとも外交や謀略においては冷徹かつ酷薄な行為を平然と行うという二面性を持っていたりもする。その為、カルバライヤ人は個人として付き合うのと国家として付き合うのは別物だと思った方がいいと言われている。

 

 一方のネージリンス星系共和国は、もともと小マゼランの人間では無く宇宙を隔てる大流マゼラニックストリーム。そこを越えた先にある大マゼラン星雲に存在するネージリッドと呼ばれる国家に居た人々の末裔である。

ある時起きた超新星爆発から逃れる為、小マゼラン星雲まで流れて来た難民たちが、定着した宙域で組織した国家なのだ。

 勢力的には、人口はカルバライヤの3分の1程度しか無く、勢力圏も資源すら持たない小さな国だが、生来の合理性と論理性を重んじる性情を生かした金融業に精を出し、大マゼランから逃れる際に持ち込んだ技術分野を元に、技術面で特化することで国を成り立たせる経済国家である。尚、総合的な技術力トップはネージリンスである。

 彼らは大マゼランを放浪し、道中で多くの同胞を失いつつもようやく小マゼランで安住の地を得たという歴史的背景から、その安寧の地である国を維持するためなら、どんな手でも用いる覚悟がある国だとも言われている。

要は追い詰めると何するかわからん国だともいえる。ある意味怖い。

 

 そして、そんな二つの国は今たがいに緊張状態にあった。発端はネージリンスが難民として移住してきた際にネージリンスが定住した宙域が、実はかなり以前からカルバライヤが入植しようと進出を狙っていた宙域であったからだ。

 そこに後からやってきたネージリンスのご先祖共が、何を考えたか先回りするようにして移住してしまい、さっさと国家を立ち上げてしまったのだから、さぁ大変。両国間にただならぬ緊張が走ることになるのは必然である。

 誰だって狙っていたもの取られて冷静でいられるわけがない。例えそれが早い者勝ちの世界だとしても横取りされれば悪感情を抱くのは世の常であろう。

 カルバライヤの感情的に動く気質と合理性を重んじるネージリンスとは相性が悪いことも手伝い、両者共々に嫌悪の感情が色濃く残ることになる。

 

 実際、この問題が元で過去に幾度も小競り合いがおき戦争もしているらしい。なまじ仲が悪い上、カルバライヤとネージリンスとでは国民の数からして違うので、片や余所者を追い出せ、片や同胞に手を出した者を許すなという方向に国民意識が流れやすいのである。そりゃあ戦いが続くわけですわ。負のスパイラル状態だもの。

 

 ちなみに先ほどバリオさんが言っていたバハロスの連中とは、惑星バハロスに駐屯しているカルバライヤ国防軍のことを指す。技術力を背景に高い軍事力をもつネージリンスからの侵略を防ぐ名目で組織されている軍隊だ。

 宙域保安局が国内の治安維持用の軍隊なら、国防軍はまんま国外からの侵略を防ぐ軍隊で、当然その軍事ドクトリンの違いから規模が段違い。お隣さんと仲が悪いのでどちらの規模が大きいかなどはお察しのとおりである。

 ネージリンスとのにらみ合いに忙しいから、バリオさんたち宙域保安局が頼んでも国内の治安維持に人手を割けないらしい。国が滅べば国防もクソもないが、害意に睨みを利かせなければ国を守れない。二律背反とはこのことさねぇ。

 

 ところで、ここで少し話がそれるが、海賊団が何故アレだけの規模で活動しているにも関わらず宙域保安局との全面的な衝突を起していないのか疑問に思うだろう。

 海賊団の癖して総戦力は地方軍規模に達しているのに、どうしてグアッシュ海賊団が仕事の邪魔であろう宙域保安局を潰そうとしないのか? 理由は単純な話。海賊のおまんまの種が無くなってしまうからである。

 

 もしも宙域保安局を潰した場合。おそらく非常事態宣言の元、完璧に各惑星間の渡航が制限されてしまう事態になる。海賊は基本的に航路に網を張って民間船を襲うので、渡航制限がされてしまうとおまんまの食い上げになってしまうのだ。

 宙域保安局を叩けば次はカルバライヤ国防軍が動くことになる。小賢しいことに海賊はそのことを理解しているのである。規模は大きくても基本はスタンドプレー上等な集団と、仮想敵国を想定して高い練度を積んだ連携を行える正規軍。どちらが強いかなど比べるだけ無駄である。

 だから海賊たちは珍しいことに自分達を律し、必要以上に宙域保安局とやりあわない様に現状を維持している。やり過ぎなければ少なくても国防の観点からカルバライヤ国防軍は動かないし、獲物である民間船の運航も止まることも無いからだ。

 長い閑話休題。

 

「そんな訳で、政府レベルの指示でも無い限り、勝手には動けないだろうさ。だから、我々としては毒を持って毒を制するしかないって結論に達した訳だ。なに、実に簡単な話でさ。グアッシュと対立中の勢力がもう一つあるだろう?」

「もしかしてサマラ・ク・スィーのことッスか? 酒場のマスターが噂で言っていた」

「あたりー、良い勘してるじゃない」

 

 聞いた事があった。カルバライヤで現在グアッシュと並び有名な大海賊の首領の名前である。“無慈悲な夜の女王”の異名を持ち、その異名は常に口元に冷笑を湛え、己の前に立つ塞がる者は何人たるもの叩き潰すところから畏敬の念を込めてつけられたという。

 ぶっちゃけエメ○ル○スみたいな感じ。乗艦も似ている。黒髪ロングで部下がたくさんいるのが違うけどな。

 

「サマラ・ク・スィーと協力してグアッシュに対抗するって訳だ」

「保安局が海賊と取引すんのかい?」

「ソレってかなり不味いんじゃないッスか?」

「ああ、マズイね。ヤバ過ぎだね」

「だがそうも言っていられない。このままだとカルバライヤの要。このジャンクションの海運が壊滅しちまう」

 

 成程、確かに毒をもって毒を制すだ。それだけに随分と危険な賭けに打って出るもんだ。通常、政府機関がならず者と取引なんてしない。それれでもトスカ姐さんが言った指摘をすんなりと認めるあたり、危険性は十分承知だが、もはやそうもいっていられないと言う事か。

 

「結局俺達は何をすればいいんスか?」

「サマラと交渉して作戦への協力を約束させて欲しい。俺達は保安局側の人間だから、いくら会おうとしても逃げられるか返り討ちになる。だが一介の0Gドッグなら話を聞いてくれるかも知れないからな」

 

 何気に問題発言をサラリと言ってくれましたよこの人。え? なに? 俺達がグアッシュと同程度の戦力を持つサマラと会って、あまつさえ仲間に引き入れろと? 常識的に考えたら、すさまじく無謀すぎる。

 

「――引き入れる条件は? 何か見返りがないと取引にならないッスよ」

「こちらが提示できるカードは、カルバライヤにおける指名手配の停止。それと過去3年以前の犯罪データ2万件の消去だ」

「そんな条件で、名の通った海賊がウンと言うかねぇ?」

「うんと言ってもらうしか無いんだぜ綺麗な姉さん。まさか保安局が表だって海賊に報奨金を払う訳にも行かないし、これでも最大限の譲歩なんだぜ? これの為の裏工作がメンドイの何のって」

 

 あー、まぁ過去2万件近い犯罪データの消去なんて、すさまじく工作が面倒臭そうだよな。裏取引だから絶対に公には出来ないし……普通はタブーだよな。

 しかし、タブーを犯さないといけなけりゃならんほど追い詰められているのか。はたして海賊が大きくなるのを止められなかった保安局が悪いのか、それともありえない程急激に膨れ上がった海賊がヤバいのか、なんともはや。

 

「ところで行く行かないの問題の前にサマラに出会う方法なんてあるんスか?」

 

 居場所が解らんと接触もクソもないぜ?

 

「すでに調べはついている。海賊の被害届とその調査データによれば、彼女は資源惑星ザザンの周辺宙域によく出没する傾向がある。あの辺りは資源採掘船を狙ってグアッシュ海賊団の幹部クラスが活動しているからな。それを更にサマラが狙っていると言う訳だ」

「ピラミッド構造ってワケか。まるで食物連鎖ッスね」

「言いえて妙だな。ま、ソレ位しか情報は無いから後は自力で頼む」

「はい、わかり……待て待て、まだウチはやるとは言ってないッスよ?!」

「ちぇっ!ノリでウンって行ってくれるかと思ったんだが」

「「「何やってんだアンタは!」」」

 

 ペロっと舌を出してふざけたバリオさんを、俺、トスカ姐さん、ウィンネルさんが怒突き、テーブルに撃沈した。まったく油断も隙もありゃしない。

 

「いつつ、軽いカルバライヤジョークなのに」

「お前はどうしてそうやって話をややこしくしたがるかなぁ」

 

 疲れて煤けた感じのウィンネルさんに同情した。それでも凸凹コンビを解消しないあたり、ホント親友なんだなと改めて思う。ある意味で羨ましいな、そこまで気が置けない仲間がいるってのは。

 

 まぁとりあえず、この後なんだかんだ協議した結果。俺はこの話を受けることにした。 何せ今のところ俺達だけでは手詰まりなのだ。損害無視すれば、それこそ捨て身で行けば突破は出来るが、そんなことしたらこれまでの苦労が水泡に帰す。

 だがサマラ・ク・スィーを協力関係にできれば、これは凄まじい戦力増強といえる。彼女は0Gドッグランキングの上位ランカーなのだ。当然実力は半端無い。グアッシュを叩くのもやりやすくなることだろう。

 それに、都合が良い事に、ウチにはサマラさんとお知り合いがいるしね。

 

「―――ん?何か用かいユーリ?」

「うんにゃ。ただ、この先大変だなぁって思って」

「そうかい?まぁ、そうだろうねぇ」

 

 そう、彼女は過去、サマラとつながりがあるのを俺は原作をやって知っている。こういうのをご都合主義というのだろうが、そういうのは物語だったのだからしょうがないことである。ご都合主義と笑いたければ笑えということだ。

 

 まぁ、原作でも上手くいったのだし、どうにかなるだろうさと俺は楽観的に考えることにし、この会合での飲み代を全てバリオさんに押し付けてこの場を後にする。動くならすぐに動かねばならない。海賊稼業をしているサマラがいつまでも同じ狩場に居るとは限らないからだ。l

 会計ゴチになりまーすと言われて、マジかと呟いてから、会計表を見て青くなりさよならボーナスと男泣きして叫んでいる馬鹿を尻目にフネへと急いだのだった。

 

………………………

 

…………………

 

……………

 

 

 さて、あれから1週間――

 

 やって参りましたは、資源惑星ザザンの周辺宙域である。道中いくつか海賊船と接触したが、全てグアッシュ海賊団だったのでこれを撃沈および拿捕。換金した後、ここら辺で大海賊サマラ・ク・スィーが率いる海賊船が現れるという航路を進んでいた。

 

「艦長。早期警戒機(AEW)が本艦隊の進路上、0,7天文単位の位置に戦闘レベルのインフラトン反応を検知、交戦中の様です」

「戦闘――サマラのフネッスかね? 全艦減速、あちらさんのレーダー範囲の傍で様子を見るッスよ」

「AEWからの映像をモニターに映します」

 

 ホロモニターにAEWが撮影した映像をK級が中継した画像が投影された。モニターには紅黒く全体的に細長く尖った万年筆みたいな戦艦が映っている。まるで飛行船のように細長いロケット型の艦がトラクタービームで鳥みたいな形状の小さ目の艦を牽引しているらしい。

 ああ、この飛行船型の戦艦。間違いなくサマラ・ク・スィーの乗艦であるエリエロンド級一番艦エリエロンドだ。宇宙船なのにゴンドラを牽引するような独特のシルエットを良く覚えている。ぶっちゃけ尖ったクィー○エ○ラ○ダス号。

 実はエリエロンド級の設計図は持ってるんだよなぁ。何故か0Gドッグランキングの30位になったときの報酬で貰えたのよ。性能は……ぶっちゃけ微妙。種別は戦艦なんだけど機動性とか攻撃速度を考えると実質高性能な巡洋艦みたいだった。

 でも多分、これは意図的にダウングレードされていると俺は見ている。だって明らかに今モニターに映るエリエロンド級が発揮するエネルギー量とか攻防回避力とかと、設計図から推察される性能データとかが釣り合わないんだもん。それどころか同じ外見しているのにモニターに映る貫禄すら違うように見える。不思議。

 

 まぁそもそも準主役級が駆るカスタム艦なのに、たかだか設計図だけで同じ艦が手に入るのはおかしいわな。多分あの設計図も外見だけ同じ別物が手に入いるって感じなんだろう。もしかすると旗艦ユピテルのズィガーゴ級もそうなのかもしれんな。

 

 

 それは兎も角、そんな大海賊と対峙するのは、まさかの軽巡洋艦である。

 

 基本黒色に紅色を加えたフネで全長もエリエロンドの半分程度。大体600m前後で葉巻型の船体に連邦軍の盾みたいな六角形の菱形なパーツが随所に設けられている。V字翼のようなバルジが艦体後部から両舷に延びていたりと、あまり見ない設計であった。

 

 シルエットやフネの特徴からデータ照合すると小マゼラン系でヒットはなし。そうなるとおそらく大マゼラン製ということになる。

 基本的に個人で設計したのではない限り、小マゼランのフネはエルメッツァ・ネージリンス・カルバライヤの三国の何れかが設計しているのしかないので、消去法でお隣の銀河の大マゼラン製……ダークホースで異銀河製ということになる。

 

 そして照合すればあの軽巡はズバリ大マゼラン製であった。以前も言った通り大マゼラン製と小マゼラン製では基本性能が段違いであり、こと天下三分の計の如く安定している小マゼランよりもいまだ群雄割拠の大マゼラン製の方が高性能と言われている。

 

 あの軽巡もおそらく純正ではない。エリエロンド級が放つ苛烈な攻撃を前に左舷側の横っ腹を晒して攻撃に耐えつつ反撃までしているのだ。

 側舷を晒すと砲塔を持つフネの場合、前後部の主砲が全て使えるので攻撃力が上がる利点はあるが、被弾面積が正面戦闘とは比較にならない程に跳ね上がるので、いくら高性能な大マゼラン製でも駆逐艦よりちょっと装甲があるだけの軽巡ではありえない戦い方である。

 それなのに普通に戦艦の砲撃に耐えている。おまけに軽巡のクセにそこいらの駆逐艦よりも軽い挙動。ただでさえ高性能な大マゼラン製の艦をさらに魔改造を施して戦闘特化にしてあると見ていいだろう。

 

 これが相手がエルメッツァ製戦艦のグロスター級だったなら、軽巡のクセに戦艦以上の火力を発揮しているあのフネなら軽く潰せたことだろうが。軽巡が相手にしているのは小マゼランにて名をとどろかせる大海賊のサマラ・ク・スィーの乗艦エリエロンドである。

 ぶっちゃけ相手が悪すぎだろう。集団戦法のグアッシュと違いサマラは単艦で活動している海賊団で、当然エリエロンドもその設計思想で造られている。ランキング報酬で手に入る設計とは次元が違うカスタムがされているので性能は大マゼラン製に負けず劣らずに非常に高い。多分あっちの戦艦並み。

 

 つまり性能では計らずとも大マゼラン製のフネ同士の戦いに近いって訳で。片や巡洋艦なみに機動性がある戦艦。片や戦艦なみの火力を持つ軽巡。似ているが当然後者の方が素の性能が違う分が悪いのは明白であった。

 実際モニターの向こうでも横っ腹を晒す軽巡は劣勢に見えた。強力かつ苛烈なエリエロンドの攻撃に反撃しようとがむしゃらに艦を揺さぶっている。あんな動かし方をしたらフネに負担もかかるし無駄にエネルギーも食うだろう。滲み出る若さが動きを見るだけで解る。

 

 一方のサマラは余裕そのもの。反撃で飛んでくる戦艦並みの攻撃を最小の動きでエリエロンドを動かし回避しているのだ。それは完全にフネの特性を把握した熟練の動きである。どう考えても踏んだ場数が違います。本当にありがとうございました。

 

 普通そんなの見せられたら、降伏とか逃げたりするもんだが、なかなかどうして無謀にも軽巡は損傷しながらも戦い続けていた。

 それを見て俺はあァ……と息を吐いた。こんな戦艦相手にカスタムされているとはいえ、軽巡洋艦一隻で立ち向かうヤツなんざ原作では一人しかいない。あの紅黒いフネを見て記憶が揺さぶられて思い出してきたぜ。

 

「間違いないね。サマラ・ク・スィーのエリエロンドだ。相変わらず無慈悲な攻撃だね。それでサマラに噛みついている軽巡は大マゼラン製で優秀みたいだが……さて、あの軽巡何時まで持つことか」

「エリエロンドから小型の飛翔体の射出を確認しました。エリエロンドの前方にて停止、ミサイルではありません。ですが重力子の波長を検出、反重力レンズ実体化します」

 

 ミドリさんの報告に目をモニターに移す。エリエロンド級の下部ゴンドラ艦がこれまで後ろに向けていた翼上ユニットを可変させて前進翼のように前方に稼働させると、そこから5つの物体が射出された。

 射出されたそれは自立稼働してエリエロンドの前方空間に統制がとれた動きで展開され、内4つは艦首からみて放射状になるように布陣し停止した。機動端末であるらしく停止するや否やカメラの三脚代のように開かれ支柱が三方向へと展開する。

 支柱が伸びるとその近くの空間が歪んだのをセンサーが捉えた。光が歪んで見えるそれは重力子反応から察するに強い反重力レンズである。完全に湾曲したそれは傘のようにも見えた。

 

 反重力レンズ端末が展開を終えると、これまで各個に自由射撃を行っていたエリエロンドの武装が沈黙。上部牽引艦の固定式大型レーザー砲の砲口が輝き始め、エネルギーが急激に集中していくのをセンサーが感知した。砲撃の前兆であろう。

 

 さすがに何かをしようとしているのが解るのか軽巡が焦ったように火力を集中するが、エリエロンドはこれまでのように優雅とも思えるTACマニューバで一撃も掠らなずに避けている。

 

 そして遂にエリエロンド級から4本、上下左右の同軸主砲からレーザーが放たれた。レーザーは浮かぶ5つの反重力レンズ端末の内、主砲の射線上に浮かぶ4つの端末へと、それぞれに照射され、反重力レンズ効果で湾曲し反射した光線は4つのレンズよりやや後方にあった中央反重力レンズ端末へと集中する。

 中央の反重力レンズ端末にレーザーが当たると、それぞれのレーザーが収束圧縮された強大な出力のレーザーが反射され、それが前方に上下左右の同軸主砲射線上に環状布陣していた、最初にレーザーを反射した端末の中央を通過する時、さらに収束加速が加わり標的へと照射された。

 

 恐らく同軸主砲射線上に展開された4つの端末の中央の空間にも収束加速用の重力レンズが形成されているのだろう。なおこれらの行程、反重力レンズ端末展開から反射レーザー照射までは十数秒と掛かっていないのだから恐ろしい兵器である。

 この収束した太いレーザービームは軽巡洋艦に命中、シールドの干渉が雷光のようにほとばしった。軽巡はレーザー命中のエネルギー干渉で機能不全を起こしたらしく、攻撃の衝撃で左舷側に傾く様にロールしながら慣性で漂っていた。

 

 あの規模の大レーザーなら下手すると轟沈なんだが、フネが高性能な大マゼラン製で、かつ運よく装甲が厚い部分に当たっ、た?……いやアレはワザと照準を甘くしていたのだろう。中々どうして大海賊サマラさまは意地が悪い。

 普通、あんな明らかに大技と言える攻撃は、事前に相手の機関部を攻撃するなどして避けられないようにした時に、止めとして使用するものだ。アレだけハッキリと“今からスゴイの撃つよ”みたいな動きされたら誰だって回避運動を取るからな。

 それなのに牽制射撃もなく、そのまま反射レーザーを撃った。アレはあきらかに軽巡をもてあそんでいるのだ。事実は解らないがきゃんきゃん吠えて噛みつこうとする小型犬を笑いながらいなしているようにも見える。俺ならそれを理解した瞬間に心が折れるわ。

 

 さて、その反射レーザー攻撃を見たウチの連中は色んな反応を見せた。

 

 砲雷班長席で中腰に立ち上がったストールなんかは、反射レーザー攻撃を見て眼を輝かせ“あれはいいものだ”と呟いているし、サナダさんなんかも“なるほど重力レンズではなく反重力レンズにすれば反射ができるのか”と呟いている。

 他の連中も大概驚きの声を上げていた(ミドリさん以外)。内線がつながったままだからよく聞こえた。とくにリーフの隣の航路担当席に座るイネスなんかは宇宙って広いと再認識したように口を半開きにして驚いているのが、内線のモニターで絶賛公開中。普段クールキャラで通している少年の貴重な驚き顔とでもいえばいいのかね?

 

「今の攻撃はなんですか? 見たことが無い」

「おやイネスは知らないのかい? あれはリフレクションショット……エリエロンドに搭載されている最強の兵装だ」

 

 イネスが漏らした疑問にトスカ姐さんが優しく解説してやっていた。イネスはそれを真剣に聞いており、大海賊ともなるとフネも違うんだなぁと感心していた。まことに同意だ。ウチも荒稼ぎしていた方だが、あれだけのフネを独自に設計するとなるとすんごい金がかかるから相当の財力を有しているのは確実だ。

 

 それはさておき、遊ばれているあの軽巡。なんと一歩も後退しようとしなかった。リフレクションショットが命中し損傷して煙を吐いているにも関わらず、機能不全からすぐに復帰して、さらに残った砲が狂ったように後先考えない砲撃を行っているのだ。 馬鹿なの?死ぬの? と思わずにはいられない。

 

「ホレ言わんこっちゃない」

 

 トスカ姐さんも思わず肩をすくめる。ホント不屈の心って聞こえはいいけど、それっていわゆる超頑固な根性だもんなぁ。宇宙は根性論だけじゃやってけないのですよ。

 

 それにしてもエリエロンドのあの攻撃、凄まじい物があった。ユピテルのホーミングレーザーを収束した次くらいの威力はありそうだ。原理も近いしな。こっちはデフレクター展開機能の応用で空間に直接重力レンズの回廊を創るのが違うけど。

 戦闘工廠艦アバリスの固定装備であるリフレクションレーザーカノンとかも名前が似たような感じではあるが、アレはエリエロンドのように主砲クラスの威力を持たない。アレは重力レンズで収束加速した命中率の高いレーザーを放つ機構だから名前は似ていても別モンだろうな。

 

「で、アレに接触ッスか」

「戦闘の直後だから、日を改めた方がいいと私思います」

 

 俺もそうしたいぜユピよ。だが、ココで逃したらチャンスが無いかも知れん。というかこれ以上放置すると無駄に吠える軽巡に怒ったエリエロンドが遊びではなくて本気になる。これから交渉したいのに向こうの機嫌が悪いと色々とマズイのだ。

 

「しかたない。ユピ、前衛駆逐艦艦隊を加速させて相手のレーダー範囲にいれるッス。出来るだけ派手に、あの軽巡とエリエロンドの間に割り込むくらいね。ミドリさんはAEWを経由してエリエロンドの通信回線に接続を試みてくれッス」

「「「了解」」」

 

 だからしょうがないので、この戦闘に介入させていただく。いままで様子見ということで、レーダー範囲と思われるギリギリの位置で待機していたところから、一気に駆逐艦たちが猛加速し、あちらさんのセンサー範囲にワザと引っ掛かりこちらの存在をアピールした。

 すると唐突にエリエロンドの攻撃が止まった。軽巡は相変わらず吠えているが、サマラはこちらを確認したのだろう。攻撃の手を止めたのは警戒しているのか、その間にミドリさんが通信接続を試みるが、残念なことにこちらの存在には反応した相手だが通信に反応することはなかった。

 

「エリエロンド、反転180度、インフラトン機関出力上昇。現宙域から離脱していきます」

「あれま、ガン無視ッスか。やな感じッスね」

「いい女ってのは追いかけられると逃げるもんさ」

「そりゃいい男もそうだ……じゃなくて、最初の接触は失敗ッスかねぇ」

 

 ま、何度でも追いかけますがな。ストーカーなみに。くけけ。

 

「艦長、エリエロンドを軽巡が追跡を始めました。それと軽巡から通信が来ています」

「うえ? なんだろう? 繋いでくれッス」

 

 犯罪チックなことを考えていたところ、俺達の存在を見つけて呆けていた状態から復帰した軽巡が動き出していた。しかし歩みは残念ながら最初見た時ほどの精細は見られない。

 艦の各所が被弾しているのもあるが、アレはおそらく後先考えない全力の攻撃でクルーの疲労値が限界にきているのだろう。ペース配分だよペース配分。長距離走るならそれなりの力で加減しないとだめなんだお?

 

 そんな全力全壊な相手からの通信がホロモニターに投影された。

 

『おい! そっちのフネ! 聞えてるか!? 何で邪魔しやがる! もうちょっとでサマラとかいう海賊を仕留められたってのによぉぉぉ!!!』

「声デケェ」

 

 思わず耳を塞ぎたくなるような腹から出している大声がスピーカーから流される。 通信機には音量調節機構が付いてるのに、どうやってんだ?

 

「こちらは白鯨艦隊旗艦ユピテ―――『やかましい!テメェら見てぇな低ランクの連中にかまっている時間は無いからな!次は邪魔すんなよ!いいな!』――騒がしいヤツ」

「通信、キレました」

 

 いやまぁ、なんて言うか。嵐みたいな感じだったぜ。言いたい事だけ言ってさっさと通信切りやがった。というかランクだけなら俺たぶんテメェより上なんだけど?

 

「事実上助けられたのが気に食わなかったのかね? 何だったんだろう」

「さぁー? 大方賞金稼ぎを生業にしているヴァカじゃないッスかー?」

「おや? さっきのにイラッと来たのかい?」

「いいえー、べつにー」

 

 イラッとは来てないッスよ? ムカってきたけど……って同じか。

 

「で、どうすんだい?」

「サマラ・ク・スィーに交渉しようにも、まずは話を聞いてもらわないと何もできないッスから、ここら辺で網張りましょう。どこまでも追いかけてしつこくね」

「しつこい男は嫌われるよ? でも諦めないのは大事さ」

「ストーカーとしてサマラ・ク・スィーに訴えられたらどうしよ?」

「安心しなユーリ。ちゃんと面会には行ってあげる」

「捕まるの確定?! やべーちゃんと交渉成功させないと」

「そゆこと。んじゃ頑張りな」

 

 そんな訳でこの宙域で網を張る事にした。エリエロンドにインフラトン粒子反応の波長を観測されているであろう駆逐艦群は、邂逅座標を定めて一度遠くへとこの宙域から離れてもらう。

 残るはステルスモードが使えるKS級汎用巡洋艦と戦闘工廠艦アバリス、旗艦ユピテルの6隻のみ。駆逐艦群も残せれば安心だったが、主にコストの問題で未だK級S級ともステルスモードの搭載に至ってはいないので今回は巡洋艦と戦艦だけの変則艦隊で潜むのだ。ぶくぶく。

 

 ああ、あと出せるだけのAEWや偵察仕様のVFは周辺宙域に放っておく。サマラ・ク・スィーは海賊であるから必ずどこかで戦う筈だ。探査領域を広げておけば戦いの痕跡を見つけやすい。

 問題はグアッシュ海賊団もいるので戦闘反応は複数出てしまうのだが、まぁ連中は複数の艦で艦隊を組むので、そこらへんの反応を除外すれば案外解りやすいとは思う。

 

 

 さて、こうして指示を出した後は、探査にエリエロンドが引っ掛かるまではヒマである。その為、必要のない人間に休息の許可を出した。休息という名の自由時間である。休むもよし気晴らしに遊ぶもよし、休息の形は人それぞれである。

 

 無論、俺もずっと艦長席に座っているのも苦痛……報告が上がるまでヒマなので、艦内を見て回り暇を潰すことにした。トップの俺が率先して休息するもんだから、ブリッジメンバーも右に倣え。オペレーターのミドリさん以外誰も残っていない。軍隊なら突っ込まれるだろうが、ウチはこれで良いのだ。

 

 さて、そんな訳で艦内を徘徊していた。

 

 保安部がある区画で過重力下鍛練中のトーロと一緒に汗を流したり、機関部でこのフネの鼓動を堪能したり、格納庫でトランプ隊と駄弁り、食堂で最近調理の一部を任されるようになった義妹が造るB級グルメの数々に舌鼓を打ち、偶々イネスと通路でばったり出会ったりした。

 なおしばらくイネスと艦長とは何ぞやというある種の哲学を問われて冗談を交えつつ互いに笑い合っていたところ、唐突に表れた女性たちの手によってイネスが連れ攫われた。なお女性陣は皆イネスTSとか女装姿に涎を垂らす腐人たちであり、俺は涙ながらに生きて帰れとドナドナして見送った。

 

 その後はマッドの巣に立ち寄った。最近、客分なのに研究室のトップに君臨し始めているジェロウ教授と素敵な狂科学者たちが、またもやナニカ研究に没頭していた。何でもエリエロンドの性能やリフレクションショットを見せられ開発意欲を増進させたらしい。

 

 その中でも、ミユさんはエリエロンドに使われている装甲素材に注目していた。エリエロンドの装甲を形成しているのは分析によると通称「ブラック・ラピュラス」と呼ばれる黒体鉱物であり、すさまじいステルス性を持っているらしい。 

 俺に『真面目に潜宙艦を作ってみないかね?』と、実にロマンを刺激するコメントを言ってくれたが、今の財源で新たな艦は難しいと泣く泣く諦めてもらう。いや俺は諦めたけど、向こうは諦めず迫って来たので逃げるので大変だった。

 

 

――そうして、この宙域に潜み続けること、70時間。

 

 

「―――艦長、接近する艦あり、反応1、インフラトンパターン、エリエロンド級と確認。エリエロンドです」

「こんどこそおはなし聞いてもらうッス! エコー! もしも逃げたとしてもトレースを忘れない様に! さぁお前たち! やぁ~っておしまい!」

「「「あらほらさっさー!」」」

 

 やはり犯人は現場に戻ってくる(?) 現れたエリエロンドをセンサーでトレースして逃げられても追えるようにしてから、艦隊ごとステルスモードを解除し、エリエロンドの前に姿を見せた。

 なお、ステルスモード解除後、すぐに航海灯を煌々と灯して、こちらに攻撃の意思はないことをアッピルする。いきなり現れたこちらに、あちらさんすぐさまエネルギー量が跳ね上がって戦闘態勢になったからな。航海灯を灯さなかったら先手を取られていただろう。

 でも瞬時に攻撃準備を終えたり、すぐに点灯した航海灯を見て攻撃を中断したり、海賊とは思えない程に手慣れたそれに、やはり有象無象の海賊とは格が違うと否応にも思わされる。

 まぁ、こちらは撃たれても我慢して根気よく口説くつもりだが、戦わなくて済むなら戦いたくはない。白い悪魔式のOHANASIは多分割に合わないしな。僕らに戦うつもりはないんだー! お話きいてー! 

 

 

 そして願いが通じたのか、攻撃はしてこないエリエロンド。だけど通信を送っても反応が一切ない。完全ににらみ合いの膠着状態となってしまった。まぁ正体不明の艦隊がいきなり目の前に現れて通信したいと言ってきたら、何かあるのではと勘繰るわな。

 

 でも大丈夫。こうなることを俺は望んでいた! なぜならこちらには切り札様がいらっしゃるからだ! では姐さん! お願いします!

 

「トスカさ~ん。通信送ってー」

「あいよー」

 

 めんどくさいわー、そんな感情が滲み出る表情を浮かべてはいるが、すなおに自分の席に向かうトスカ姐さん。

 姐さんは自席で通信モニターを開くと、右手にヘッドセットのマイクを持ち、スーッと息を大きく吸いこんだ。 

 

「おいコラサマラぁー!! 無視してんじゃないよー! 返事くらいしなこのトーヘンボク!! じゃないとアンタの恥ずかしい秘密ばらすよー!!」

 

 姐さんのトーヘンボクがブリッジにこだまする。というか仮にも大海賊相手にトーヘンボクって凄い挑発だよな。下手したら跡形もなく踏みつぶされるかもしれないってのに。そんなこと考えていたら内線のホロモニターが一つぴょこんと増えた。なんだ?

 

『大海賊サマラの恥ずかしい秘密ってなんだろ?』

「おいトーロ。お前なに保安室から内線かけてきてるわけ?」

 

 なんと、いきなりトーロが内線をかけてきた。

 

『暇なんだよ。んでさっきの見てたんだ。気になるなぁ』

「大方、若き頃に男と間違えられて告られただけっしょ。推測ッスけどね」

 

 原作によれば、トスカ姐さんとサマラ・ク・スィー、いまでこそ独立している二人は若き頃はタッグを組んで仕事をしており、その時に色々あったのだそうだ。

 その中でもテキストに起こされているのが、サマラ様がトスカ姐さんを男の子と勘違いしていたという話、なんだかんだでヒロイン枠?である姐さんの過去話、しかも女傑であるサマラ様が過去にやらかしたド天然が見られるという貴重なフレーバーテキストだったのを覚えている。

 ところで、時々思うんだけどウチのクルーってフリーダムだよな。なんだよ暇だから見てたって? 

 

「でも好奇心は猫を殺すっていうんだから知らない方が良い事もあるッスよトーロ」

『へいへーい。保安部部長は大人しく退散しまーす』

「あんまりふざけてっっとティータ配置換えして四六時中幼馴染と一緒にいさせるッスからそのつもりで。部下たちから殺意の篭った嫉妬の眼で見られるがいい!」

『うげぇ、それは怖いぜ。おっと職務規定の訓練の時間だな! じゃーなー』

 

 そういって内線を切るトーロ。逃げたなあいつ……。

 ともあれ、そんな阿呆ボーイズトークをしている短い間も沈黙していたエリエロンドから通信のコールが掛かった。

 さすがに昔の知り合いからの声には応じるか、それともやっぱり昔の恥ずかしい話は暴露されたくない? そう考えるとサマラ様も意外とかわいい―――

 

『その声、その下品な喋り方。お前トスカ・ジッタリンダか?』

 

 前言撤回。通信で流れてきた音声が絶対零度だった。音声だけで俺の肝っ玉と二つの玉が縮み上がった。

 あ、これ逆らっちゃいけないヤツだ。いくら馬鹿な俺でもこれは直感する。

 ゲームのテキストでは表現しきれない現実の空気をまざまざと感じさせられた気分である。

 

 この通信を聞いていたほかのメンバーも姐さんをのぞき、おおむね凍り付いていた。多分、皆俺と同じ気持ちなんだろう。なにこれめちゃくちゃ怖い。 

 だが、そんな空気はどこ吹く風。いつもと変わらない飄々とした感じでトスカ姐さんはサマラ様へ声を発した

 

「そうさ。アンタと話がしたいのさ。サシでね」

『よかろう、そちらの艦へ行く。近寄ってこい』

「通信、切れました」

「はやっ」

 

 なんかすごく簡潔にまとまったでお( ´・ω・`)

 

 トスカ姐さんがいるってのもあるんだろう。

 それはともかく、自ら乗り込んでくるとはサマラ・ク・スィーは度胸があるな。誇り高き大海賊だから、その気になればこっちに大損害与えて逃げられる自信と実力があるんだからな。俺だったら絶対に一人で敵かもしれないヤツのフネになんか行かねぇ、だって怖すぎるもん。通信及び電文で済ませるに限るぜ。自分で言っていて情けねぇがな。

 

「にしても怖かったっスよ~。実物が噂以上ってすげぇっス」

「あんなの普通だって。いや少し不機嫌かも。アレのお気に入りだったグラス割っちまった時程度かねぇ」

 

 姐さん、それは結構激おこなのでは?

 

「ともあれ接舷っス! ユピテルをエリエロンドに接舷してくれ。他の艦はそのまま停止、ただしエネルギーはプールしたまま」

「アイサー艦長。両舷微速」

「了解、戦闘警戒のままで停止させます」

 

 まぁいい。サマラ様の転がし方は姐さんの方が得意だろう。いまはまだ知り合いですらないのだから、サマラ様は姐さんに任せてしまえ。触らぬ神に祟りなしだ。

 俺はいったん仕切り直しとばかりに手を叩き、いまだ凍っていたブリッジの空気を払拭すべく、あえて大きな声で指示を出した。そのおかげか仕事があればそちらに意識が向くのでブリッジに漂う空気も若干緩和された。

 

 ユピがKS級汎用巡洋艦の制御AIに指示を送ってその場に停止させている間にリーフがゆっくりとユピテルを進めていく。互いに一対一で向かい合ったが、エリエロンドは近くで見ると迫力があるが、それでいて美しいフネに見える。黒体物質ブラック・ラピュラス製の装甲板が、光の反射をとても滑らかにしているからだろう。

 ユピテルの白い船体もまた美しいが、エリエロンドの美しさは夕闇の儚さに似ているかもしれない。立ちふさがる敵を全て倒してきた女大海賊の培ってきたものが現れている。エリエロンドを間近で見た俺は何となくそう思った。

 

 そしてユピテルはゆっくりとその巨体を滑らせて、エリエロンドの正面から右舷側に舵を取る。左舷同士を見せ合う構図になった。

 

「間もなくエリエロンドの左舷真横に到達します」

「両舷停止。機関出力極小、相対速度合わせ、逆噴射間隔2,5秒ずつカウント」

「エリエロンドの左舷、接舷ハッチの開放を確認。接続チューブをトラクタービームで捕捉準備。――ミューズ」

「了解ミドリ……トラクタービームへの……グラビティウェル制御回路を開放」

「エリエロンドへの相対速度、等速。機関全停止、重力アンカー準備」

「了解、重力アンカー……起動。グラビティウェルに、問題はありません……」

「エリエロンド、接続チューブを稼働。同じく当艦の接続チューブも稼働。トラクタービームにて捕捉、誘導後接続します」

 

 ミドリさんやミューズさんやリーフが所定の手順で接舷作業を進めていく。そうしているとエリエロンドの接舷ハッチから接続チューブが伸びたので、こちらも同じく接続チューブを伸ばした。

宇宙船同士の接続は21世紀では危険な作業とされ非常にスローだったが、こちらでは重力波で物体を固定できるトラクタービームを使うので、まるで延長コードにコンセントを繋げるようにスムーズに接続が完了する。

 エリエロンドが接舷する様子を見た後、俺はブリッジを出て接続チューブの元に向かった。エレベーターを降りて通路を進み、遠いので船内移動用列車であるトラムに乗りこんだ。ユピテルは全長も大きいが幅もまた1㎞以上ある巨大なフネなので、左舷側に向かうのにも一苦労である。

 

 そうやって少し時間をかけて接舷チューブの減圧室につくと、ちょうど中から人が出てくるところだった。最初に入ってきたのは男だ。浅黒い肌に白い髪、小さな丸眼鏡を掛けており、背は高いが猫背であり手足も長い。海賊らしく胸にどくろマークが描かれた空間服を纏っている。

 そして、男の手には何故か一升瓶が握られていた。まるで日本酒のようなそれには“星海伝説”の銘が筆字で書かれている。しかもそれは多少崩れているが日本語で書かれているのだ。日本人って宇宙でも大活躍やな。

 それにしてもなんで酒瓶を持ち込んでいるのだろう? この男は無類の酒好きなんだろうか? そうだとすればウチのサド先生あたりと会話が弾みそうである。

 

 それはさて置き、酒瓶をもった男はジロリと俺やクルー達を一瞥すると、スッとすぐ横に逸れた。すると背後から凄まじい美貌を持つ女性がチューブから降りてくるではないか。

 

 ああ、なるほど。あの男は念のためカシラより先に出て安全を確かめたのか。万が一、俺達が武器で脅してきても、背後に控える大事な人物だけは逃がせるようにしたのだろう。もっともこっちにそんな気は一切ないけどな。割に合わないことは浪漫汁溢れない限りしない主義だぜ俺は。

 

 さて、良き部下の後から現れた女性。長い髪を靡かせ口元に冷笑を湛え、周囲に冷たい印象を抱かせる人物。通称“無慈悲な夜の女王”こと、サマラ・ク・スィーその人が今まさに目の前にいた。

 いやぁ、目つきが怖い。まるでヤのつく自由業の方がガンを飛ばしてくるのを見てしまった時みたいだ。迫力があり過ぎて思わずジョバっともらしそうになったのは内緒だお。というか俺みたいな小物と比べると存在感が段違いすぎるんだお。もはや女王サマとお呼びしないといけない気がするんだお。

 

 彼女が放つ独特の雰囲気。歴戦の戦士が放てる波動とでも言うんだろうか? 俺は内心すごくビビッていた。だが仮にも艦隊のトップであり、俺の部下が近くにいる手前、怖がる素振りを見せることなどできない。虚勢だが俺は何も感じてませんよーとポーカーフェイスを決め込むことにした。

 

 そんな俺を一瞥した彼女は俺を無視し、すぐに俺の背後にいたトスカ姐さんに視線を向けた。ああ、こりゃ虚勢張ってるの普通にバレてる。へこむわ。

 

「まさかこんな艦のクルーになっているとはな。相変わらず驚かせてくれるよトスカ」

「ま、色々あってね。今はこのユーリの手伝いをしている所さ」

「あ、どうも。艦長をしているユーリです」

「ほう。この坊やが今の男かい? 趣味が変わったのか?」

「わぁお。おねショタとかいい趣味ッス。あれ? 俺ってショタ?」

「お、おいサマラ!」

 

 え? いまのって小粋なジョークじゃないの? なんでトスカ姐さん何動揺してるんスか? そんな反応されたらこっちだって恥ずかしくなっちまう。

 

「「えと」」

「あー、そこ。仲が良いのはわかったから、私に話しというのがあるんだろう?」

 

 なんか妙な空気になって、サマラ様が苦笑して(と言うか呆れて)声を掛けてくるまで、なんか締まらなかった。ありがとうサマラ様、お陰でおかしな雰囲気から抜け出せたぜ。

 

「それじゃ、まぁココじゃ流石に詳しく話すのは難しんで、とりあえず艦橋へどうぞ」

「ああ、案内されようじゃないか」

 

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 

「成程、ブラッサムの連中も余程焦っていると見える。だが…そんな話に、このサマラ・ク・スィーが乗るとでも?」

 

 艦橋へと移動し、カルバライヤ宙域保安局から回ってきた話を伝えたところ、にべもなく鼻で笑われた。誠意を込めて俺は“全てを”語っているのでこうなったのだ。

 

 取引としては“敵の敵は味方だし協力してアイツぶったおそうぜ。そうすりゃお前の悪事もスルーしてやんよ”って感じだが、その裏にある互いに反目している勢力同士をぶつけて摩耗を誘い、あわよくば情勢を操ろうという管理局の魂胆が見え見えであれば、おのずと協力要請に対し懐疑的にもなるだろう。

 

 そうなると根気よく管理局とサマラ海賊団の間を取り持って、互いの落としどころを探る調整をするのが交渉役たる俺達の仕事ということになるんだろう。時間もかかるし元々互いに追う追いかけるの仲である両者の交渉なんぞ、絶対に暗礁どころか陸地に乗り上げる勢いで面倒くさい。

 

 頭が回る奴なら、この交渉での見返りを部分的に暈し透かしたりするなどして、口八丁にサマラ様たちを引き入れようと画策するのだろうが、あいにくとサマラ様はトスカ姐さんの若き日に培ったご友人……腐れ縁ともいうが、とにかく知り合いであることは確かだ。そういう方を誤魔化すのは出来ない。

 

 まぁでも、たぶん大丈夫だろう。だってサマラ様はまだ断ってはいない。

 

「うん、でも考えてやらなくもない」

「お嬢! 本気ですかい!?」

「ガティ。ザクロウに入るいい機会だろう?」

「あ、な~るほど」

 

 酒瓶を決して手放さない男。サマラ様の副官ことガティ・ハドという男が驚いて声を上げたが、主人の含みのある笑みを見て勝手に納得していた。彼女らの反応に対し、ウチの連中はちんぷんかんぷんである。ザクロウという単語が出たが、今この場でその意味を知る者は一部を除いていない。

 

「油断ならないねぇ。何考えてんだい?」

「ふふ、たのしいことさ」

 

 トスカ姐さんも警戒していたがサマラ本人はいたって楽しそうであった。それもそうだろう。原作において、サマラ様はこの時期ザクロウへの潜入を考えていたからだ。俺がどっしりと構えていられるのもそのお蔭である。序にまだ大筋の流れは変わってないんだと再認識したのは言うまでもない。

 

 さて、ここでいうザクロウとは監獄惑星……すなわち、星丸々一つが監獄という、流石は銀河規模の世界と思わせる場所である。この監獄惑星ザクロウはカルバライヤが運営する監獄であり、監視システムや自動攻撃システムなどにより内外ともに外界と完全に遮断された星である。

 ここに収監される人間の罪状は多々あるが、やはりというべきか収監される人間は海賊、それもグアッシュ海賊団が多い。実を言うと少し前に酒場で得た噂では、グアッシュ海賊団率いる頭領のグアッシュはすでに捕縛されており、このザクロウに収監されているのだが、何故か収監されてからの方が勢いづいているのが現状らしい。

 

 多分、あちらさんにはグアッシュ個人に対して何か思うところがあったのだろう。一応は好敵手扱いしていたらしいからな。だから協力を拒まない。それはこちらにとっても渡りに船。利用させてもらおう。

 

「それじゃ、保安局まで来てくれるッスか?」

「ああ、そこまで同行し、そこで私を捕えて貰い監獄惑星ザクロウに送って貰う。ソレが私からの条件だ」

 

 ガティさんはそう言うと、いったんエリエロンドに戻るのか席を立った。どうやらサマラさんはこのフネに乗ってブロッサムまで行くらしい。エリエロンドごとだと、保安局に拿捕されて没収されるからだろう。抜け目ないですねぇ。

 

「それではサマラ様、このようなフネで恐縮ですけど、ブラッサムまではゲストとして歓迎いたします」

「ふむ、世話になろうか」

 

 彼女を保安局へと送ることとなった。彼女は誇り高く筋を通す女性だ。つまりいい女である。いい女ならば、歓迎しよう。盛大にな。

 

 こうして、本艦体の備蓄してある酒の8割が消えるが、それはまた別の話。

 


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