何時の間にか無限航路   作:QOL

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次の投稿は数か月後かと思ったが、あれは嘘だ。


~何時の間にか無限航路・第27 話、カルバライヤ編~

■カルバライヤ編・第二十七章■

 

 

 それは唐突だった。なぜにボカぁ縛られてるんでしょうか? しかも簀巻き。

 

「くすくすくす……おめざめかしら?」

「ちょっ! チェルシー!? 何でメーザーブラスター持ってんの?」

 

 声がした方を見ると、我が義妹が実に恐ろしい嗤いを浮かべてこちらにゆっくりと近寄ってくるではないか。しかも彼女の手にはとても黒くて太くて硬そうで御立派なメーザーブラスターが握られている。確かライフルとしても使用可能なタイプだっけ?

 

「ユーリィ、海に行ったんだって? しかも、女の子と一緒に、ケセイヤさん血の涙流してたよぉ?」

「そ、そんなにくやしかったんかいあのおっさん」

「ユーリは女の子とキャッキャうふふなことをしてたって聞いたんだよぉ? おかしいなぁ、どうして私は呼んでもらえなかったのかな? かな?」

 

 うわはーい。映画でよく聞く銃のジャキって音がすごく近くで聞こえるー。メーザーブラスターもやっぱり銃なんだなぁ。俺の額に冷たいモノが当たってなければカッコいいですませられrって待てゐ! 何故俺が銃を向けられねばならんのだ!?

 

「ま、まってチェルシー、俺はただ彼女たちに泳ぎを習っただけ何スよ」

「あの娘たちは柔らかかった?」

「そりゃもう、やーらかくていい匂いが…………あ」

 

 あまりにナチュラルに聞かれたので、ナチュラルに返しちまったぁぁぁぁ!!

 ひぃぃぃぃぃ! 眼が笑って無いのに笑みが深くなってくぅぅぅぅぅ!!

 

「くすくすくす――――ぎるてぃ、だよ♪」

「う、うわぁーーーーー!!」

 

 銃声が一発、鳴り響いた。撃たれた瞬間に俺は完全に気絶した。

 

「これでユーリはわたしのもの―――くすくすくす」

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

「ぶはぁっ!!??―――――あ~夢?」

 

 何かにうなされて俺はベッドから飛び起きた。寝ている内に搔いた汗が服をべっちゃりと下着まで濡らしていて気持ちが悪ぃ。相当な悪夢だった。まるで誰かの怨念が俺に悪夢を見せようとしているかの様な感じだったぜ。

 

「夢、か……つーか、なんて夢見てんだ……」

 

 そして罪悪感を覚える。幾ら黒化したチェルシーでもあそこまで怖くねぇよ。疲れてるのかなぁと思いつつ、部屋のシャワーを浴びにベッドを立った。俺の枕の横に、小さく焦げた黒い穴が空いていた事には気が付かずに……。

 

 

***

 

 

『艦長、惑星ムーレアに到着しました。ブリッジにお越しください』

「了解、すぐ向かうッス」

 

 ゾロスを出発して二日目。部屋でフリータイムを楽しんでいるとミドリさんから内線が鳴った。フネが目的地に到着したらしい。俺は今まで呼んでいた『ドキ☆子猫だらけの写真集』なる子猫中心の動物写真集を棚に戻した。いいよねヌコは。本のタイトルがアレなのは残念だけど。

 

 そんなこんなで鼻歌でいつか聞いたアニメの主題歌を歌いながら部屋から出ようとすると何時の間に来たのだろうか? 何故かそわそわした感じのユピがドアのすぐ横に立っていた。

 

「ありゃ?ユピどうしたんスか?」

「え、えっと……い、いっしょにブリッジまで行こうかと思いまして」

「ふ~ん、じゃ行きますか」

 

 なんやろう? なんかゾロスの海水浴場行ってからユピが少しおかしい。仕事中は意識切り替えてるのかそういうのは感じないが、こういうプライベートな時とかに変な風なリアクションを取るようになった。何かしらの成長をしたとは思うのだが……ふむ。

 

「なぁユピ。この間ゾロス行ってから体調おかしくは無いッスか?」

「はい? ナノマシンの自動調整機能は100%働いていますので、特に変化はありません」

「そう何スか。いやなんかゾロス行ってから、ユピの様子がおかしかったから心配で、何か悩み事でもあるんスか?」

 

 フネに対して悩み事ってのもおかしな話だが、ここまで人間っぽいと時たま彼女がフネの統合統括AIだってことを忘れちまう。いい子だし何か悩みがあるなら聞いてやるのも艦長の仕事っしょ。

 

「その、実は海水浴に行ってから、その――」

「その?」

「やっぱり何でもないです」

「そうスか。ま、男の俺にゃ相談できない事もあるッスよね。ユピは女の子なんだし」

 

 ちーとばっかしデリカシーに掛ける質問やったな。失敬失敬。ま、女性特有の問題的なモノならホラ、トスカ姐さんとかも居るからな。そういう人達に聞いた方が良いだろうさ。何せまだ0歳なんだしな。

 

「そう、ですね……(やっぱり、女性としては見られていないのでしょうか……)」

「なんか言ったッスか?」

「何でもないです! 早く行きましょう!」

「あう?? 了解です??」

 

 

――何でか急に機嫌悪くなったんだが。むむ、女性の事は解らんのう。

 

 

 ブリッジに着いたので、さっそく自分の定位置である艦長席へとすわる。コンソールに手を置き、指紋認証と網膜スキャンと声紋認証を行う。古典的な認証方式だが一応これで艦長席の機能が解除されるのだ。ぶっちゃけユピに頼めば解除可能だけどさ。そこはほら? 様式美ってヤツ? 何事にも形って言うのは重要なんだぜぇ。

 

「惑星ムーレアか」

 

 ピッピッと適当にホロモニター表示されるデータをスクロールしつつ情報を流し読みした。

 ふむん、なんというか、この星は……。

 

「何も無い星?」

「住人がいない星じゃからネ。多分、星外から訪ねた人間も、ここ10年で、わしらくらいだろうて」

 

 気が付くと、俺の後ろにジェロウ教授が後手に手を組んで立っていた。何時の間にブリッジに来てたんだろう。そんなにも遺跡探索が待ちきれないかこのいやしんぼめ。

 

「あ、教授。あざーす。ようやく着いたッスね」

「うん、君達のお陰でようやく来れたネ。とりあえず早くステーションに行って惑星に降りよう」

「うーむ、じゃあ惑星をスキャンして降りられそうなところを――」

「何を言っているんだネ? 空間通商管理局のステーションを使えばいい」

「……え? 無人惑星なのに機能してるステーションあるんスか?」

 

 教授が頷いた。ホント空間通商管理局の手は広いな。誰もいない無人惑星にまでステーションを置いておくなんて……まぁ遺跡が発見されたから置かれたんだろう。十年以上経つけど未だに調査が終わってないし、第一ステーションみたいな数十㎞ある巨大構造物を解体するのはだいぶ手間だしな。

 

 ある意味ちょうどいいので利用させてもらおう。そうこう行っている内にムーレアの惑星の影から無人ステーションが姿を見せたのでそこへと向かう。無人とはいえ機能はちゃんとしているらしく、此方からの寄港要請に応じて誘導ビームを出してくれた。ステーションの管理はローカルエージェントやドロイドが請け負っているんだろうな。

 

 それにしても惑星の静止衛星軌道上に、軌道エレベーター付きのステーションおっ立ててるとかどんだけぇ~って感じだよな。

 

「接舷完了、エアロック接続、ドッグ内気圧0.8」

「降りて調査に行きますかねぇ。各部署に半舷休息を指示。科学班と希望者は教授の調査に同行を許可する。あと保安部は念のために護衛として教授について行く人選を行え。一時間後に出発する」

 

 

 降りるのは科学班の人員が半分くらいと、その護衛の保安部員が数名。それと遺跡というロマンワードに興味を持った物好きな連中といったところ。

 無論俺も降りる。聞けば遺跡は人類ではなく異人類が起源とされる異星人遺跡というではないか。異星人の遺跡とかスター○イトとか、火星極冠遺跡のように心を擽るワードを聞いたら我慢できませーん! 俺、いきます!

 

「ふーん。砂だらけの星だから、あんまり面白そうなとこは無さそうだねぇ」

「なんなら残ります?フネに」

「じょーだん、私はユーリの副官だ。何処までも付いて行くさ」

「じゃあトスカさんも降下メンバーに追加~っと。まぁフネに関しては、ユピ」

「あ、はい。なんでしょうか?」

「フネについては任せるッス。俺達の家、守ってくれよ?」

「はい! 頑張ります!」

 

 うん、いい気合いだ。もっともこの辺境に来て態々襲ってくる物好きも少なかろうから、無駄に気炎上げても疲れるぜユピよ。

 

 それはともかく。ムーレアに降りる人選はどんどん決まっていった。ジェロウ教授を筆頭にケセイヤやサナダさんに加え、保安部長のトーロも護衛の人員とともに一緒に降りる。他は希望者を募ったがヘルガが立候補した程度で案外少なかった。せいぜいが学術に興味があるイネスくらいか。

 

 他の皆は遺跡と聞いて古臭い物というイメージが湧いたらしく、刺激的な物が好きな0Gドッグの興味対象外となったようだ。もったいない。こういうところにこそ古代のロマンというものがあるじゃろうにと、教授と一緒に愚痴ったのはいうまでもない。

 

 でも遺跡はあまり広くないらしいから大人数過ぎても入れそうもないので、ある意味ちょうどいいのかもしれなかった。こうして人員も決まり、必要機材とかも軌道エレベーターの昇降トラムに乗せられ、俺たちはムーレアに降りた。

 

 地上の印象は、まさしく砂漠って感じだった。どこまでもどこまでも地平線までずっと細かい砂が敷き詰められ、風によっていたるところに風紋が生まれている光景が広がっていた。なんというかサハラ砂漠の砂エリアと同じような感じである。

 

 砂丘が所々形成され、一応軌道エレベーター周辺は管理ドロイドによって守られているが、放置されたら僅かな間に砂の下に埋もれてしまうだろう。

 

「で、教授。遺跡ってのはどこに?」

「うむ、そこじゃ」

「あんがい近いんスね」

 

 ジェロウ教授が指差したのは、なんと軌道エレベーターがある場所から300mも離れていない場所だった。よく見れば石で出来ているアーチや柱の様な建造物が砂に埋没しているのが見て取れる。

 

「なんでこんな近い場所に……」

「わしもしらないヨ」

「大方、遺跡が発掘されたから、その近くにエレベーターを置くように要請したんじゃないか?」

「いやイネス君、エレベーターが建設されたのは遺跡より先だヨ。というかエレベーターの基部工事の時に偶然発見されたのが遺跡だネ」

 

 ふーむ、基部を作る工事の時に、か。なんか偶然にしては出来過ぎな気もしないでもない。でもまぁ近いならいいか。

 

「科学班は予定通り教授と共に調査開始。各グループ機材搬入を急がせろっス」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 ひとまず調査ベース設営は部下に任せ、俺らは一足先に既に入れる遺跡を見て回ることにした。砂に半ば埋もれているが各所に人工物と思わしき岩が露出しており、その内の一つは人ひとり通るのがやっとの穴がぽっかりと開いている。その穴は地下へと伸びる階段が続いていた。

 

「ここじゃ!まさしくここが、エピタフが眠っていた遺跡!ほれほれ何をしておるさっさと入るぞ!」

 

いや、そうは言いますがね教授?

 

「す、砂に足を取られて、ってうわった!」

 

 長いこと宇宙暮らしだったから、砂場の感覚なんて忘れちまってるせいで、砂に足とられて動きづれぇぞおい!つーか他の連中も馴れて無くて四苦八苦してるのに、何で教授は平気なんだ!?

 

「だらしないネ!わしは先にいってるヨ!!」

「って早!?速いッスよ教授!?」

「教授って杖付いて歩いてたよな? 何で砂の上走れるんだ?」

「多分知的好奇心が、肉体のポテンシャルを底上げしとるんじゃよー、と」

「執念ってヤツかねぇ?」

 

 学者の執念は猫の執念より強し、って感じか? すこししてある程度砂場の歩き方に馴れて、歩いて遺跡に行くと既にジェロウは遺跡の狭い入口を抜けて、地下へと続く階段を下りていた。なんつーアグレッシブな。

 

「ここがエピタフ遺跡」

「なんつーか、神聖な感じが漂うって感じか?」

「おお、トーロにしては珍しくらしくない事を」

「らしくないってなんだよ?」

 

 しかしトーロの言う事ももっともだ。ココは地下にありながら、どういう訳か澄んだ空気で満たされている。壁の紋様は幾何学的で不可思議であり、意味があるようでない様な物を描いていた。

 

 しかもその紋様はどういう訳か薄く光っていたりする。う~んSFだねぇ。

 

「一体この遺跡、何で出来てるんスかね?」

「床は堅いな。レーザーナイフ程度じゃ弾かれてしまう」

「岩の様な、金属の様な見たことない物質だねぇ」

 

 たしか遺跡の材質ってエピタフと似通ってるんだっけ?だとしたら堅さだけでもダイヤモンドクラスか。エピタフの材質が4窒化珪素SI3N4に似たダイヤモンド格子って言うくらいだし。

 

「艦長、すこしこっちへきてくれんか?」

「あいあい、何スか教授?」

 

 俺は教授に呼ばれて高台へ上った。なんかジェロウ教授が指差している所を見てみる。

 そこには人工的に加工された10センチ四方のくぼみがある。

 

「どう、思うかネ?」

「立派な台ッスねぇ」

「いや、見るのはソコじゃなくてネ?」

「この形、豆腐が丁度すっぽりと――――す、すんません。学がないもんで」

 

 うわ、なんか可哀そうな目で見られた。しかもマッドサイエンティストに。く、くやしい、でも感じ(ry―――まぁ冗談はさて置き本題に入ろうじゃないか。

 

「まったく、ニブイネ。艦長はエピタフを持っていたのだろう?」

「(ぽくぽくぽくぽく、チーン!)……おお!」

「ああ、そう言えばユーリに最初に出会った時には既に持っていたよ」

 

 俺はぽんっと手を叩き、トスカ姐さんが捕捉説明を入れてくれる。確かに持ってたわ。とっくの昔に盗まれてから大分時間が立ってたから、今の今まですっかり忘れてたぜ。

 

「そういや、まるでエピタフの為に作られちまった様なくぼみッスね?」

「ウン、やっぱりそうか」

「でもくぼみの周辺から伸びるちぎれた管は何々すかねぇ? こういうののセオリーだと、大抵なにか大がかりな仕掛けが付属してそうな感じがするんスが?」

 

 某風使いの原作に登場する巨神兵を育てる黒い箱とかね。大分原作知識は飛んでっけど、ここにエピタフはめたらすごいってことは覚えてるぜ。残念ながら手元にエピタフはないんだがな。

 

「むー、わからんが……フム、随分かたいネ。少し削ってサンプルを採取していこう」

「レーザーナイフですら削れないのにどうやって?」

「その為の機材は持って来て有るんだヨ。ちょっと外へ言って取ってこようかネ」

 

 そういや、何故かスークリフブレード(俺のじゃなくて、フネの備品)が持ち込んであったな。謎のコードとか色々付いてたゴテゴテ仕様のヤツ……まさか、な。

 

「壁画みたいなのもあるんスね」

 

 とりあえず、教授がしたい様にさせておこう。マッドのやることを邪魔したら気が付けば自分が実験台にされているかもしれないからな。ワザと危険な実験されてフネ壊されてもヤダし。俺は近くの壁に寄り、そこに描かれた酷くが数の多い言語らしき紋様を眺める。

 

「こいつは、言語ッスかね?」

「フム、規則性が感じられるが、画数がおおくて酷く原始的な言語体系だネ。まぁ一応書き写しておこう」

「そうッスか。じゃ、カメラでも使ってぱぱっとやっちゃうッス……所で教授、何時の間に戻って来たんスか?」

「艦長が壁画を見て“こいつは”と言っている当たりだヨ。もう高台のサンプルも取ったネ」

「早ッ!? 速いッスよ!?」

「研究の為なら仕方ないネ」

「ですよねー」

 

 むぅ、何故だ? ジェロウ教授なら仕方ないって思えて来たぞ? とか考えていると、突然外からドドドドドと言う音が聞こえ始め、遺跡が振動し始めた。 パラパラと埃が舞い落ちて来ている。何や何があったんや!?

 

「心配ないネ艦長。これもわしの指示じゃヨ。外にある機材で地中探査用のポッドがあるからそれを打ちこんだだけネ」

「それにしてはスゲェ振動ッスね。遺跡壊れないッスか?」

「大丈夫だろう。何せこの遺跡はレーザーナイフでも壊せないほど頑強だからネ」

「まぁ確かにそれなら壊れないッスよね。でも何か地震が起きてるみたいで良い気分じゃないッス」

 

 ゴゴゴと揺れる足場とソレで舞い上がる埃で視界が若干悪くなった。息はできるし、振動もすぐに収まったから特に問題は無い。ただ驚いただけだ。一瞬机を探したのは昔の記憶の所為だろう。

 こうしてしばらくの間、教授が満足してくれるまで遺跡の調査が続くのだった。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

「これで一通りサンプルは入手したって感じッスね」

「ウン、しかもエピタフがこの遺跡と関わりがあるって事も解ったし、やはりデッドゲート付近にはエピタフがあるという事例も確認できたネ。あとは、リム・ターナー天文台にサンプルを持ち込んで、検査をして貰う事にしよう」

 

 発掘された遺跡からの出土品や遺跡自体の構成材のサンプル、及び遺跡内壁や外壁に残された文字を書き写したモノ等、調べられるだけ調べた上のサンプルを前にしてホクホク顔をしているジェロウ・ガン教授は嬉々としてそう述べた……ま、嬉しい事も人それぞれだわな。

 

「リム・ターナー天文台ッスか? どこにあるんスかソレ?」

「ウン、ネージリンス国、惑星ティロアの首都にある研究施設だネ。少し捕捉すると、小マゼラン最高の研究施設でもある。序でにそこにわしの教え子がいるんだヨ」

 

 成程、教授が次に行ってほしいところはネージリンス国か……なんだか俺達って教授専門のタクシーみたいだねぇ。色んなとこに行くのが俺達の行動理念だから何の問題もないけどな。

 

 それにしてもネージリンスね。あの国は今いるカルバライヤと冷戦状態の国なんだよな。詳しい事は前にもしたと思う(第22章)ので説明は省くが、要するにカルバライヤとネージリンスは仲が悪いのだ。

 

 だが教授クラスの著名人となると国境とか関係なしに知り合いや生徒がいるんだろうな。どちらにしろ今更ジェロウ教授の研究手伝いをほっぽり出す気はないから、ネージリンスに行くというのなら向かおう。

 

 幸い0Gドッグは中立扱いになるから戦争でも起きてない限りボイドゲートの行き来は制限されない筈。カラバイヤ側からのゲートから出てくるから、少しは警戒されるだろうけどな。なんか臨検されそうになったら交易しに来たとでも言っておくかねェ。

 

「んじゃ、戦利品をコンテナに詰めて撤収~。ゴミは残すなよ~。持ってきた物はキチンと持って帰るのがマナーッス~」

「「「「「アイアイサー」」」」」

 

 そんな訳で、機材を回収した後、それらサンプルとかをパッケージしたコンテナを、ユピテルから呼んだ複数の作業用機体に運ばせた。

使ったのはVE-0《ラバーキン》やレールカノンを取っ払った変わりにペイロードが強化されているVB-0AS《キーファー》である。前者は速度は出ないが精密機械を運ぶのに適し、後者は大量の物資を運ぶのに適していた。

 

 サンプルを沢山収容し、そのまま特に問題もなく、この星を後にした。

 

 

***

 

 

 さて、地上から再び宇宙に戻った後、この砂だらけの惑星を離れて俺達は一路、惑星シドゥへと針路を決めた。惑星シドゥはエルメッツァ方面から繋がるボイドゲートの玄関口であると同時に、ネージリンスに繋がるボイドゲートへと続く航路へジャンクションする星でもあったからである。

 教授の知的好奇心をある程度満足させたことで、急かされなくなったのもあり、あまり急がないでムーレアから出発した。巡航速度を維持すること約2日。デッドゲート、ゾロスを通過して、くもの巣があった宙域にまで戻ってきた。

 

 くもの巣。見た時は海賊の拠点とは思えない程の大規模な基地で、パイプとチューブで繋がれた小型小惑星が名前通り蜘蛛の巣に見えていた場所であったが、今は海賊も逃げ出し、宙域保安局も引き上げた為、ひどく閑散とした宙域となっていた。

 精々が元くもの巣であった残骸が見えるだけ。その残骸も小惑星基地『コクーン』の衝突と、グアッシュ海賊団の主力艦隊が押しつぶされて爆散した結果。殆どの構造物が広範囲に拡散して、元のくもの巣とは似ても似つかぬ、いうなれば千切れたくもの巣と成り果ててしまっている。

 でも、くもの巣を破壊してから一週間近く経過している筈だが、まだスカベンジャーは来ていないらしい。これ幸いと俺達は残骸を調べ、使えそうな物資を解体して収容。大体500G程度の儲けを得た。これはゲームではなかったので美味しい。

 

 その後、4日かけて惑星ガゼオンを経由し、カルバライヤ宙域保安局がある惑星ブラッサムまで戻ってきた。道中、グアッシュ海賊団の残党と思わしき一団と遭遇したが、巡洋艦と駆逐艦だけという、最盛期から見ればお粗末な状態だったので艦載機だけで撃破してやった。

 

 ブラッサムまで来た時、そういえばバリオ宙尉に今回の海賊退治のお礼をと言われていたことを思いだした。結構活躍したし、お礼をくれるというのならば貰わない手はない。そう考えて宙域保安局に再びやってきた。

 相変わらず怖い顔した警備員が門を守っていたが、すでに顔を知られていたので睨まれることなく中に入る。受付で名前を明かすとすぐに作戦室に通されてしまった。どうやら大分好感度が上がっているらしい。

 

 だが、通された作戦室にはウィンネル宙尉しかいなかった。

 

「あれ? バリオさんとシーバット宙佐はいずこ?」

「やぁユーリ君。ちょっと二人とも査問会の呼出を受けてしまってね」

 

 他の二名は膝に矢、じゃなく査問会に呼ばれて今はいないらしい。

 

 ザクロウへの強行突入は、かなり強引な手段だったので、各方面から文句が上がっているという。それにしてはウィンネル宙尉の対応が少し『ああ、そんなとこかな』とおざなりなところがあり、ああこれは裏で何かあるなと感じたので追求は控えた。下手に尋ねてまた手伝えとかはちょっとね。

 

 とにかく、礼はちゃんともらえるそうだ。宙佐がちゃんと残ったウィンネルに預けてくれていたらしい。お礼の中身は、バハロス級高速巡洋艦とシドゥ級高速駆逐艦の設計図。さらには海賊退治の懸賞金5000Gを丸々渡してくれた。これは美味しい。

 もっともバハロス級はパトランプみたいな警告レーザー灯はカッコいいものの、性能的には他の巡洋艦とそう変わらない上、シドゥ級もほぼ同じ。むしろ性能的にはガラーナと似たり寄ったりでいまいち報酬としての価値は低いが、貰える物はありがたく頂戴しておこう。何がどう役に立つか解らないしな。

 

 その後はウィンネル宙尉と適当に雑談していた。その雑談の中でこの前の戦いの時、近くにいた保安局艦に丸投げしたドエスバンはどうなったのかを聞いてみた。アレだけ色々と犯罪に手を染めていたヤツがどんなことを吐いたのか、なんとなく気になったのである。

 

「ああ、ヤツの人身売買ルートが解ったよ」

 

 聞くところによると、どうやら海賊に攫わせた人間や、ザクロウに収監されていた健康かつ若い囚人の多くをバハシュールなる人物の下へ届けていたそうだ。ザクロウで捕獲されたドエスバン配下の艦船の航海艦橋にあるコンピュータに記録されていたフェノメナ・ログとも一致したので間違いないらしい。

 

「バハシュール……って誰?」

「聞いたことがある。確かゼーペンスト自治領の領主だった筈だ」

「げ、マジっスかイネス。領主って碌なヤツいないなぁ」

 

 領主と聞いて俺は思わず顔を顰めた。

 

 思い出すのは始まりの惑星ロウズ。このロウズを中心としたロウズ自治領を治めていたデラコンダ・パラコンダという領主のことだった。この人物は、油でテカついた完全なるマルッパゲであり、かつては冒険心溢れる優秀な0Gドッグでロウズ宙域を発見した人物だ。

 彼は自らが発見したロウズ宙域をエルメッツァに連なる自治領として制定し、自ら領主と名乗った。この世界の法律では0Gドッグが自ら開拓した未発見宙域を自治領として認めているのでまさしく彼はロウズ自治領の領主であった。

 

 正直、そこまでいける0Gドッグはいない。星の数ほど0Gはいるが、そこまで登り詰められるのは両手の指の数よりも少ないのだ。それだけだったなら、素直に尊敬に値する人物だったのだが、デラコンダは年齢を重ね能力が鈍り始めると冒険の心を失ってしまい、ついには航宙禁止法なるものまで制定してしまったのである。

 航宙禁止法とは自分が許可した者、例えば自治領の警備隊といった領地から出ない者たち以外は宇宙を渡ることを許さないというロウズ自治領独自の法律であった。これにより0Gドッグにより行われていた流通は滞り、元々辺境で経済的によろしくなかったところに留めを刺した悪法である。

 

 そりゃ自分が得た自治領を守りたい一心であったのは解るが、だからといって他者まで巻き込んで閉じ込めるのは良くない。当時ロウズで燻っていた今の古参メンバーを集めた俺は、エピタフを質に入れた金で輸送船を改装したアルク級駆逐艦を駆り、金を貯めて戦艦を買って圧倒的な戦闘力を持って打倒したのだ。

 この戦艦を手に入れるまでが大変で、最初は金がないので流通が滞っているロウズ領内で輸出入で儲け、法律破りの俺達を追いかけてくる警備隊とドンパチしてクルーに実戦経験を積ませた。初代旗艦を悪く言う訳じゃないが、なにぶん元々が輸送船だったので直撃を数発喰らうだけで沈みかけるようなフネだったのには辟易した。

 

 でもそんな俺達を態々警備隊は追いかけてきてくれるので、彼らを撃破したスクラップやジャンク品を売りさばき、なんとか一週間で金を貯めて、デラコンダに挑むことが出来たのである。実際大変だったので自治領の領主と聞くとあんまりいい顔は出来なかった。

 

「そう。そのバハシュールから、ドエスバンは多額の資金を得て海賊団の勢力を増強していたんだ」

「それじゃあ、バハシュールの調査……はムリっスかね」

「残念ながらアレはどことも協定を結んでいない。自治領とは本来そういうものだしね。まったく」

 

 溜息を吐くウィンネル宙尉に同情する。自治領ってのは基本的には治外法権であり、自治領がすることに対してはあまりタッチ出来ないのである。

 しかし、例外として宇宙開拓法第11条により、自治領における防衛の責はすべて領主が負うことになっているが、海賊は兎も角として国家レベルの侵略等には対処できないので、大体の自治領では小マゼランにある三つの星団国家の何れかに、上納金を支払って協定を結ぶことをよくしている。

 そして件のゼーペンスト自治領は独自の戦力を有しているので、あまり協定関連からも探りを入れられないのが現状って訳だ。精々が外交でチマチマと情報を引き出すしかないとは……大変だぞこりゃ。

 

「ところで、これからどうするのか決めているのかい?」

「しばらくジェロウ教授の望むままに付き合う予定ッス」

「そうか、君たちのような人材がカルバライヤの民になってくれると嬉しんだがな」

「はは、俺たちは根無しの0Gドッグッスよ? 暫くは国に所属とかも無理ッスね。それに次の行き先はリム・ターナー天文台ッス」

「リム・ターナー……確かネージリンスの……」

 

 ネージリンスの話題が出ると、ウィンネル宙尉の顔に影が差した。おや、どうやら真面目な男であるウィンネル宙尉だが、やはりカルバライヤ人なんだろう。ネージリンスに対してはあまり良い顔をしないようだ。

 

「一つ言っておく。ネージリンスの人間は狡猾で油断のならない連中だ。十分に気を付けるように、それだけは心に留めておいてくれ」

「それは……」

「人種で人を嫌う……恥ずべきことなのは理解しているつもりだ。しかし、彼らの今くらしている星系は本来われわれカルバライヤが発見したところなんだ。あの豊かな星系を手にしていたら、この星の人々もこれほど貧しい生活をしなくて済んでいた筈さ」

 

 彼らが移住してきた時、エルメッツァ政府はそれを認めるべきじゃなかったんだ! そうウィンネル宙尉はまるで叫ぶようにして語気を強めた為、作戦室の中が一瞬だけ静まり返ってしまった。だがそこに流れる空気はどこか肯定的で、それを感じる俺達はやはり異物なのだろうと肌で感じてしまった。

 

「……ああ、すまない。少し興奮しすぎた。とにかく気を付けて。何か困ったことがあったらいつでも来るといい」

「うぃっス。またバリオさんにおごらせてもらいに来たいので、その時はよろしくッス」

「ああ、彼に伝えておくよ。きっと涙眼だね!」

 

 ウィンネル宙尉の意外な一面を垣間見て何とも言えない気分になったが、まぁ人間だれしもそういう一面はあるモノだと納得して、宙域保安局を後にする。

 

 再び旅に戻り、ブラッサムから出港して、シドゥを経由し、およそ4日かけてネージリンスに続くボイドゲート。カルバライヤ・ジャンクションδ(デルタ)に到達した。航路チャートによれば、ここを潜れば隣国ネージリンス・ジャンクションβ(ベータ)に出るらしい。

 

 これでカルバライヤも最後だと思うと少し名残惜しいが、それよりも新たな宙域への扉を前にしたワクワクが俺達をボイドゲートに飛び込ませた。

 

―――こうして、俺たちはカルバライヤを後にした。

 




涼しいと筆が進む進む。

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