何時の間にか無限航路   作:QOL

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~何時の間にか無限航路・第2話、ロウズに降り立つ編~

■ロウズ編第ニ章■

「誰がモヤシだってっ?誰がッ!?」

「スイマセンでした!マジで生意気言ってゴメンなさい!!」

「いいや許さん!殴るね!」

「おぐぅ!?それ足!踏みつけっ?!」

 足元には強制土下座をしているぽっちゃり系太めの男子がいる。その太めな彼の名前はトーロという。なんで俺が名前知ってるかっていうと、それはコイツがゲーム序盤で数少ない仲間(強制)になる野郎だからだ。ちなみに何でこうなったのかを少し時間を遡って見てみよう。

●およそ10分前●

「本物のエピタフか…おい兄ちゃん、怪我したくなかったらソレこっちに寄越しな?」

 目の前に微妙に錆びたナイフをちらつかせるピザ体型な不良君。でも俺は彼の名前を知っていた。コイツの名前はトーロ・アダ。序盤で仲間になり実質終盤まで居続けるクルーの一人である。ちょっと唐突だったが、これは二番目の原作キャラとの遭遇である。

その為、俺の心の中は――――

「(トーロ来たぁーーーー!!)」

―――って感じだった。舞い上がってた。

「―――っおい!聞いてんのかよ!」

んで思わずぼけーっと眺めていたらしびれを切らしたのか怒鳴るトーロ。

「……あーはいはい、何スか?」

「だから、そのエピタフよこせって言ってるんだ!」

「え?これはエピタフじゃないですよ?」

 一応とぼけてみた。酒の席での話をうのみにするのはいただけないという感じで。

 だがそんな俺の態度を見て逆にトーロはカチンと来てしまったらしい。

「はぁ?ふざけんじゃねぇ!さっき自分で言ってたじゃねぇか!」

「俺自身は一言も言ってねぇよ?言ったのはトスカさん」

「お、ケンカかい?良いぞやっちまいな子坊」

「自分は高みの見物ッスか?……まぁいいけどさ」

 チラッと視線をトスカ姐さんに向けるが…我、関せずと普通に酒飲んでら。どうでも良いけど、俺ケンカとかした事あんまりないんだけどなぁ。前の世界の友人曰く酒に酔った時に一度だけ不良とケンカしたことあるらしい。だけど俺にその時の記憶はない。結構呑んでたからなぁ。

 さてこの状況、どうすればいいだろう?

「テメェコラ俺様を無視してんじゃねぇッ!!渡すのか渡さねぇのかハッキリしやがれッ!!!」

 ダンッ!と近くのテーブルを殴るトーロ、おお怖ッ。

「いや、すこし冷静に行こうよ?大体、もしこれが本物だったら素直に渡すと思う?」

「そりゃ渡さねぇだろう……つまりはそういう事か?」

「HAHAHA!アンタが5万程用意してくれるってんなら話は別だが…用意出来るとは思えないしねぇ」

 第一コレを渡したらフネが建造出来ないじゃなイカ。金で買ってくれる線はまずあり得ないだろうしね。身なり結構汚いし、第一買うならケンカ腰じゃこない。

「別に金なんて必要ないぜ?――――力づくで奪えばいいんだからなぁ?」

 ほれきた。ニンマリという感じに口角を歪めてらっしゃる。

「うわぁ何というヤクザ…暴力反対~!!第一疲れるから嫌――」

「うるせぇッ!ケンカする度胸もねぇモヤシ野郎がッ!!」

「……あ、トスカさん、コレ持っててください」

「え?あ、ああ」

―――だれにだっていっていいこととわるいことがある(キリッ)

 向こうが言い放った俺にとって聞き逃せない台詞を吐いた。途端頭に血が上った俺は隠すように持っていたエピタフをトスカ姐さんに向け投げ渡していた。ちなみに後で聞いた話だと、この時の俺はかなりヤバい笑みをしていたらしい。あまりの豹変ぶりに若干ビビったとトスカ姐さんから聞きました。

 いや実はね?俺は小学生の頃、背は高いが痩せていた所為で、周りからモヤシと言われ、苛められた経験があるんだ。一応大学生になるまでに必死にジムに通い身体を鍛えたが、筋肉が付きづらい体質だったらしく か な り 苦労した。

 今でこそある程度筋肉が付いてくれたので、まわりからモヤシとか言われる事は無くなったが、いたいけな小学生のころに受けた傷は根深い。その所為か俺をモヤシと呼ぶ奴に対しては攻撃のスイッチが入ってしまうのだ。

「…………」

「なに睨んでんだモヤ「その口を閉じろ豚が…」なッ!?」

「さぁ教育してやろう。豚の様な悲鳴を上げろ…」

「お、おい!イスを振り回すんじゃねぇ!!ってギャァァァ……―――」

 俺は近くにあった酒場のイスを手にトーロに殴りかかる。とりあえず不埒な野郎はこうして肉体言語で判らせるのである。一度キレてしまうと、人間タガが外れちゃうんだよねぇ~。ナイフ?んなもんイスのリーチに比べれば只の金属片ですよ。

 怒りで我を忘れ戦闘色に塗れた俺に、怖いものなどあんまりないっ!相手をビビらせる時にあの旦那を肖ればこういう時役に立つぜ。俺のあまりの豹変ぶりに戸惑う相手を尻目に言葉を続けた。

「君が!泣くまで!殴るのを!止めない!」(#^ω^)ピキピキ

「ゴメンなさい!マジすいませんでした!!」

「はぁ?何、聞こえないよ?もっと大きな声で…さぁハリー…ハリーハリーハリー!!」

「ヤベェよマジでやるつもりだよこの人」

「……んで誰がもやしだって?誰がッ」

「スイマセンでした!マジ生言ってゴメンなさい!!」

 そして相手が必死になって謝ったので寛大な俺は許してあげた。

 何か粛清中に若干違う人物も混じってた気がするが気にするな。

――――こうして冒頭部分に戻るのだ。

「さて、これに懲りたら人に対して嫌な事を言わない様に気を付けるッス」

「へ?許してくれるのか?」

「ううん、許さないッスよ?でも、謝ってくれたから俺は気にしない事にするッス」

 とりあえず今位で勘弁してやる事にした、周りの野次馬の目もある。これにて一件落着。これ以上さわぎを大きくし過ぎると警察とか来ちゃう。そそくさと立ち去るトーロの背中を見送りつつ、俺はトスカ姐さんの元に戻った。

「戻りました、預けたモノ返してッス」

「はいよ……しっかしあんた随分と強かったんだねぇ?」

「いんやぁ、無我夢中だっただけッスよ」

「そうかい?随分と余裕だったじゃないか?刃物を前にして良く怯まなかったしね。案外修羅場を潜った事が――ってどうした?」

「刃物?………………おうはあッ」

「子坊!?」

 冷静に考えが及んだとたん青ざめる俺、怒ってた所為で全然怖くなかった。トーロ、ナイフ持ってたんだっけ…危なかったのね俺。腰が抜けそうになるのを何とか食い止めたモノの小刻みに手が震えている。あひゃひゃ…これからもっと凄い事をしなきゃならねぇのに情けねぇな。

「あんたは……しっかりしてるのか抜けてるのかわかんない奴だねぇ」

「面目無いッス」

 これは仕方がないことだろう。俺はこれまでステゴロのケンカはやった事あっても刃物はナッシングだった。NGワードでキレて理性を飛ばしていたお陰でさっきまでは大丈夫だったけど思いだしたら…やっぱり怖いもんは怖いわ!

「ふぅ、仕方ない。上に戻るよ?あんたに渡すもんがある」

「え?ちょっ!トスカさん置いてかないで!!」

 いきなりそんな事を言って酒場を後にするトスカさん。渡すモノって何だろうか?―――そう思いつつ、彼女の後を追い軌道エレベーターに乗り込んだ。

―――――デイジーリップ号を停泊してあるドックに着いた。

 停泊していたデイジーリップもすでに外装の修理は終わっており内装も新品同様に直され、あとは乗組員によるチェックを行う必要こそあるが、それでもすぐに飛びたてる状態である。

言われるがままホイホイとトスカ姐さんについてきた俺は、彼女の私室の前で待たされる事になった。別に入ってもいいとは言われたが、そこは紳士の対応である。待っている間閉じられたドアの向こうからガシャンやらドシャンやらあるぇ~とか聞こえたが、大丈夫だ、問題無い。

「ほいコレ、あたしのお古だけどその服よりかはましだろう」

「これは確か…空間服ってヤツッスか?」

 すこしして部屋から出てきたトスカ姐さん…背後の光景はちょっと妙齢の女性の部屋とは思えない惨劇となっていたが…彼女から手渡されたのは原作で主人公が着ていたピッチピチの空間服であった。

 この空間服というのは、言わば宇宙開拓者の作業着のようなモノであり、丈夫で耐衝撃や耐熱など色んな機能がある服である。何でこんなん渡すんだって顔してる俺を見たトスカ姐さんは説明する。

「空間服は耐衝撃性に優れているだけじゃなくて対弾性や耐刃性もあるんだよ」

「つまりは防弾チョッキの代わりになるって事ッスね?」

「そういうこった、丈夫だしあんたみたいに猪突猛進型にはお誂え向きだろう?それと―――」

 彼女は更に何か棒の様なものを投げて来た。おっとっとと危なげもなくキャッチした俺はその棒を観察してみる。見た目は赤い手紐が付いた黒く艶のない鞘に入った刀に見えるソレ。どうやらこの棒は鞘に入っている刀剣の類らしいね。でもここは無限航路の世界だし只の刀剣な訳がない。

 てことは、コイツは――――

「スークリフブレードだ。刃物相手の自衛にはもってこいだろう?」

「うわぁスゲェ、マジもんの剣なんて始めて見た」

 スークリフブレード!コレがそうなのか!主人公が持ってた日本刀みたいな剣!スークリフブレードとは、簡単に言うと0Gドックが持つ白兵戦用の武器である。なんかすごい処理をして皮膜を刀身に張り、どんな物でも融断してしまうらしい。

 要するに人間版ヒートソードって訳だ。ザコとは違うのだよ、ザコとは。

「ありがとうございますトスカさん!大事にしますね!」

「うむ、ぜひそうしてくれ……で、これからどうする子坊。私としてはアンタを宇宙に連れていくのが契約だから、その為の手助けも料金の内なんだが」

 貰った剣を物珍しそうに眺めていると、トスカ姐さんが今後の方針を聞いてきた。彼女は打ち上げ屋として金を貰った手前、俺を宇宙に連れて行く義務がある。既にロウズからは脱したが、ここはまだ領主デラコンダの支配する星系。本当の意味での宇宙では無い。

 だからこそ彼女はこう聞いてきたのだろう。一見軽い人に見えるけど、実は芯が一本ある凄い人なんだ。でないとこんな事言わないよね。てな訳で俺も考える事にしよう。

 ………とりあえず金を稼ぎ、フネを強化したりした方が良いかな?

「そうッスね。とりあえずはお金を貯めたいです」

「金を?」

「この星系出るにしても今のままじゃムリですし、フネの強化は必須です」

「うーん、別に大部隊で無ければデイジーリップでも出しぬけるとは思うが…理解してるのかい?ココに留まる時間が長いほど危険だよ?」

 危険かぁ…でも早く金集めないとデラコンダ何すっかわかんねぇしなぁ…ゲームの中じゃ確かユーリの身内のチェルシーが人質に取られちまうだよなぁ確か?それまでに拾ったバゼルナイツの設計図を使って戦艦を作れたらいいんだけど。

 幸い造船ドックの規格はどこも同じらしいから、造船ドックはこの惑星のお隣のトトラスに行けば問題無い筈だ。でもまずは先立つモノが無いとね。

「危険がない程度に金になりそうな話って何か無いッスか?トスカさん」

「そうだねぇ、てっとり早いのは航路上のフネを襲って金にする方法。勿論危険は大きいけど金にはなる…が、初めの内はリスクが高いしね。簡単に稼ぎたいならそこらにあるデブリを回収したり資源小惑星を発見したり、あとは別の星に貨物を運ぶだけでも金にはなるさ」

 ふむ、確かにそれならデイジーリップ号でもいけるか…もともと貨物船なんだし、ペイロードはそれなりにあるらしいし。

「じゃあ俺のフネを作る為にお手伝いお願いします。トスカさん!」

「あいよ、コレも打ち上げ屋の仕事さ、きっちりボイドゲートを越えるまで手伝ってやるよ」

―――こうして、俺はバッジョを後にし、金稼ぎの為に宇宙に飛びだした。

「あ、とりあえずあんたのフネ作るから、あのエピタフかしてくれないかい?」

「エピタフをですか?良いですよ」

 エピタフを渡した俺、きっとコレで駆逐艦クラスなら買える金になるんだろうなぁ。

 なるほどデイジーリップは使わないで、あくまでも俺のフネを作って仕事するのね。

 まぁ彼女にとって最後の砦である自分のフネをブッ壊されたくはないか。

 とにかく、死なない程度に頑張りましょうかね。

 さて、バッジョを飛び出してから一週間ちかくが経過した―――

 何か時間が凄く飛んだ気がするが気にするな、俺は気にしない。とにかく現在順調に金を稼ぎ、何とか3万Gに届く程に貯まっている。意外と貯まっているだろう?これもエピタフを質屋に入れた金を元手にアルク級駆逐艦というフネを建造したからである。

 一応設定上はおやじの形見なのにトスカ姐さんったら躊躇なく金に換えたのよね。

 ああん、ひどぅい。でも目的の為だから仕方ないね。

 さて冗談は置いておき、このアルク級は序盤のロウズで買える唯一の艦船設計図の一つである。実は買える設計図はもう一つあるんだが、もう片方はジュノー級といい民間の輸送船を改造したものだった。

 単純に金を稼ぐという意味でなら、ジュノー級の方が最初は楽だった。何故なら船体後部がメインノズルを除き分離式の大型コンテナとなっていたからである。駆逐艦というよりかは輸送船を過剰武装したような感じだろう。

 当然安全な輸送で金稼ぎを考えるならペイロード的にジュノー級の方が上である。トスカ姐さん曰く貨物を多く載せられる分稼げると言っていた。だが幾ら改造してあってもジュノー級の設計は低スペックな輸送船準拠な為、その耐久度は如何ともし難く水雷艇を持つ警備隊と戦闘になる事を考えるとコイツはパスである。

 消去法的に残った方のがアルク級である。こっちもまたジュノー級と同じ輸送艦の設計図をイジった物だが、ジュノー級と比べればより戦闘向きにカスタマイズが加えられ戦闘能力が高かった。

 運動性や機動性等の性能はジュノー級とどっこいどっこいなのだが、ジュノー級を更に改造して後部コンテナブロックを完全撤去。弱点だった耐久性を補う為に船体にモノコック構造を取り入れる事で耐久性の低さをクリアーしているのである。

 おまけに武装もロウズ領の隣国エルメッツァの宇宙軍標準装備を採用している。つまり正規軍も使用している駆逐艦レベルの性能を持つのがアルク級なのだ。戦闘を考慮した場合、民間と軍用なら軍用の方が扱いやすいだろう。

 まぁここまでやってようやく軍用の駆逐艦の最低基準を満たしたに過ぎない上、両者の性能はやっぱり雀の涙程しかないんだが、その差が命運を分けるかも知れないと考えると馬鹿には出来ない。この世界では初心者なので初心者は初心者らしくちゃんと装備は固めた方がいいのである。

―――そういう訳で俺はアルク級を買う事にした。

 積載量的にはジュノー級には若干劣るけど、元が輸送船だったからかエンジンパワーも含めて余力がそれなりにある。それでも輸送量は最低レベルなんだけど……改造された小型輸送船がベースのディジーリップ号よりかは多いヨ。

 こんな感じで金をある程度集めてから、さらにそれを元手にクルーを雇った。それまでは俺とトスカ姐さんだけだったが、やはりそれなりに大きな駆逐艦ともなると二人だけじゃ手が足りない。

 こうして集まったクルーは選考基準として第一に宇宙に出たがる人間を採用した。同じ志があれば纏まりやすいし、お互い気を煩わされる事もない。航宙禁止の所為で鬱憤が溜まっていた宇宙開拓者の0Gドック達は、快く俺に協力してくれた。

 そして彼らの協力を得た俺達の当面の目標はロウズのボイドゲートを突破する事とした。ボイドゲートさえ超えてしまえば隣国となるので、如何に領主デラコンダであっても手出しは出来ないからである。

 でもまだゲートの警備を突破できるようなレベルは民間の俺達には無い。だからそこらを警備の名目で遊覧している警備艇を相手に金銭稼ぎがてら何度も戦闘を挑み、事実上の訓練を沢山やった。

 最近の主な稼ぎはもっぱらその戦闘訓練の標的となって撃沈したデラコンダ配下の警備艇のジャンク品である。このジャンクを金に変え、装備を整えるというサイクルを繰り返していた。やってる事がまるで海賊だな…とか思ったり思わなかったりしたが反省はしていないぜ。

 でも不思議な事に結構警備艇を食ったのに俺達は手配されなかった。その理由は実は結構単純で、ここの警備の連中は閉ざされた領主領の中だけで飼殺されており、錬度が恐ろしいほど低下していた。要するにサボって報告とかせずに自由に動き回る連中が多かったんだなぁ。

 幾らなんでも無能、あまりにも無能過ぎる。警備隊ェ。

―――しかし、それはさて置いて何で未だにロウズ自治領に留まっているのか?

 第一の理由にはまだ錬度やら諸々が足りないという事。幾ら相手があまり組織的に機能していないといえど警備隊は警備隊である。一応の戦闘訓練を受けた人間である事だし、第一数は向こうの方が多いからな。対してこちらは一隻…流石に単艦で突っ込むのは、ねぇ?

 第二にちょっとした原作イベントというのがある。原作には俺の憑依先であるユーリに妹が居るという設定があるのだ。ある程度ロウズ星系で戦っているとその妹さんが敵に捕まってしまう原作イベントが発生する。というかゲームではこのイベントが起きないと先に進めないのだ。

 ゲームとは違い俺にとって現実なのだしスルー推奨しても問題無いとも思えるが、敵さんにしてみれば俺の家族を人質に取ったと思っている訳で、それを見捨てて逃げるような真似をすれば妹さんがどんな目にあわされることか…。

 流石にそうなると見越しているのに知らん顔で見捨てるのもどうかとも思うし、とりあえず助けられるなら助けて安全な星系にでも送っておこうと思い、そう言う通信が来るのを待っていたのである。

 しかしながら、今だチェルシー嬢が捕まったという通信は来る気配はない。どうやら領主のデラコンダに見つかっていないらしく、此方の意図とは別にして時間稼ぎになってしまっている。考えてみれば今ロウズ宙域で暴れ回っている俺達は顔とかは見られていないのだし、領民データから洗いあげるのに時間がかかっていたのかも知れない。

 まぁこれもある意味でちょうど良いことだ。戦力が小さい内は幾らでも時間は欲しい。これ幸いにと俺はこの有限な時間を利用してさらに金を稼ぐ事にした。金は天下の回りもの、あるとないではあるの方がいいのだぁ。

 しかし原作ゲームだと最短で20分も経たない内に捕まってた彼女だけど、実際はかなり時間掛かっていたのねぇ。そのお陰で俺は戦艦を作る為の金稼ぎが出来るからある意味とってもありがたいんだよなぁ。

 そういう訳で今日も今日とて俺は艦長として色々やらねばならない仕事を部屋で黙々と処理していた。艦長職も楽な仕事じゃない…最初のころはそれこそ初めての体験で興奮したがのど元過ぎればなんとやら、童貞卒業したらこんなもんかみたいな感覚だ。何せやっている事が運営委員や管理職に近いのだからそう言う感じにもなる。

 とてもじゃないが本来の艦長職は人生経験が無い小僧に務まるような仕事じゃないのだろう。俺の場合は打ち上げ屋として全面的に支援をしてくれるトスカ姐さんがブレーンを買って出てくれたお陰でなんとかやっていられるのである。彼女には感謝しきれない。いやホントありがてぇ、ありがてぇ。

 さて、コンソールの前で恩人を拝んでいると、突然ブリッジから通信が入った。

『艦長、敵艦隊を発見しました。規模はレベッカ級が2隻、哨戒部隊だと思われます。ブリッジにおこしください』

「解った、今行く」

 オペレーターのミドリさんから通信が入る。敵が来て戦闘指揮を取らないといけないからブリッジへ~ってな。とりあえずブリッジに急ごう。

 関係ない話であるが何故金がある癖にエピタフを買い戻さないのかと言うと、前回言った通り質屋に入れた次の日に泥棒に襲われて全部奪われちまったそうな。何でも小型の輸送船で倉庫ごと運んでいったらしい。豪快なモンだ。

 その時はなんかあまりに唐突過ぎてちょっと呆然としてたんだだけど、ソレを見たトスカさんが俺がショックを受けていると勘違いして、俺のフネのクルーになってくれる事になったのは良かったけどね。

…………………………………

……………………

…………

 さて、さらに一週間ほど経過した。俺のフネのメンツも結構強くなってきたので最近は危なげなく戦闘は終わる。一応慣熟訓練って形でやってる事だから、これくらい成長してくれなきゃ泣くぞ。

 そして現在トトラスのステーションに来て、敵さんの残骸を金に変えて貰っているところだ。

「――えーと、今回はかなり船体が残っているのが2隻で、残りはジャンクですね」

「はい、そうです」

「それじゃあ、清算しますので、しばらくお待ちください」

 ローカルエージェントに曳航してきた敵艦を買い取って貰う。原作ゲームじゃ自分で建造した艦以外の買い取りはなかったから新鮮な驚きだった。

 やっぱりジャンクよりかは捕獲したフネの方が高く売れる。中古なら傷が少ない方がよく売れるのと同じ原理だ。

「ユーリさま、大体これぐらいのお値段になりますがよろしいですか?」

「たのんます、あとこの中から消耗品の幾つかの代金、引いといて下さいな」

「解りました。ではお金の方は口座にいれておきますね」

「りょーかい」

 ではではと言ってローカルエージェントは去って行った。しかしなぁ、消耗品が結構高いなぁ…まさかココまでかかるなんてなぁ。食料品とかの生きるのに必要な消耗品は、タダで補充して貰える。

 だけど、所謂嗜好品だとか化粧品とかいうような個人の消耗品はお金を出さないと補給して貰えないんだよな。ソレがまた結構な額で、これさえ無かったら3日で戦艦買えたくらいだ。

 でもコレが無いと船員の士気は駄々下がるし、下手したら反乱おこされちゃう。なお嗜好品購入費用の中で割かし上位に食い込んでいるのはトスカ姐さんの酒代だ。どんだけ酒好きなんだよ!大体この星系で手に入りにくい酒を飲みたいからの一存でダース購入するかなぁ!?

 でも他のクルー巻き込んでるから文句も言えない、ビクンビクン。

 ホント、福祉厚生の待遇はフネの生命線だわ、全く。―――閑話休題。

「さてと、今回でどれくらい貯まったのかなぁ~と?」

 携帯端末から自分の口座にアクセス。

 ぴっぽっぱっ、預金残高を見て見ると―――

「えーと前回のも合わせて……42900G」

 真面目に働けば?こんくらい貯まるもんである。いやまぁ、警備艇という警備艇を襲って鹵獲して売りさばいたヤツがいう事じゃないけど、金は金だ。

 やったねユーリ!戦艦が増えるよ!オイバカやめr―――

「結構貯まったモンだねぇ?」

「ウオッ!?ト、トスカさん!?何時の間に来たんスか?!」

「んー?ローカルエージェントと交渉してるあたりから」

「結構最初からいたんスね。いたなら声かけてくださいよ」

「だって預金残高を見ながらニヤニヤしてるヤツに話しかけたくないだろう?」

「ですよねー」

「というか慣熟訓練だったのに、何時の間にかコレだけ稼ぐなんて……子坊は運もあるんかねぇ?」

「トスカさん、いい加減“子坊”は勘弁してくれッス…」

 結構その呼び名は恥ずかしいんですよ。この間もオペレーターの人達に聞かれて笑われちゃったしさ。きっと“子坊?あの歳で?”とか内心笑われたんだきっと……オペレーターが男なら許さないとこだったな。オペレーターが女性ってのは俺のジャスティス。

「まぁ良いじゃないか、あたしとあんたの仲なんだしさ」

「別に良いッスけどね。嫌じゃないし…ところで何か用があったのでは?」

「特に無いけどそろそろ昼飯時だからさ。一緒にどうかと思ってね」

「おお、美女からのお誘いだなんて光栄ッス!ぜひご一緒するッス!」

「あんたの奢りで」

「あ、やっぱり?」

 何だか俺財布扱いされてねぇ?まぁ美人と食事出来る事は賛成だけどね。

「じゃあ俺もう少ししたら上がるんで、ちょっと待ってて欲しいッス」

「あいよ、酒場で待ってるさ」

 彼女の後ろ姿を眺めつつ、俺は造船所の方に連絡を入れた。

―――トスカ姐さんに散々いじられ酒に絡まれ奢らされた後、彼女と別れた。

 気が付けばすでに深夜0時を過ぎており、本来なら自分のフネに戻って明日の船出の準備をするべき何だろうが、俺には今からやるべき事がある。俺は帰りのその足でステーションに設けられた造船区画に赴いていた。俺にしてみれば夜時間にあたるが、ステーション自体は24時間稼働なので喧騒具合は昼間とあまり変わらない。

 とりあえず受付で0GドッグのIDとかを提示して造船ドックの使用許可をもらった後、俺は10番造船ドックのコントロールルームにむかった。何しに来たかというと、お金が貯まったのでフネを造りに来たのである。

 造船なんて大仕事を一人で出来るのかとか聞かれそうだがそこら辺はぬかりない。何故ならこの時代では一般的に造船で人間の手は使われないのだ。以前デイジーリップを修理した時のように、全ての工程がオートメーション化されているからである。

「さぁて、まずはデータチップを入れてデータを反映させて」

 コンソールに記憶媒体を差し込み比較的データが無事な設計図をインストール。そのデータを元にして完成予想図を画面に映し出すように操作する。すると画面上で粒子のような点が渦巻き、瞬時にCGによる完成予想図が構築された。

 画面に現れたのはあの廃棄された施設で手に入れたバゼルナイツ級戦艦である。手に入れた設計図の中で唯一使えるのがこれしか無かったので、この戦艦を造船する事を目安にこれまで頑張ってきたが、本当に時間がかかったもんだ。

 ゲームと違いここら辺で大金を得るには、一度近隣のステーションに行ってジャンクを売るか鹵獲したフネを売りさばくしか方法が無いんだからしょうがないんだけど、なんだかなぁ…。

 ともかく今回造らせていただくバゼルナイツ級は、今いるロウズ宙域から眼ん玉飛び出るくらい遠くにあるお隣の大マゼラン銀河にある国家、アイルラーゼンという国で設計された戦艦なのだが、その国が長い間主力艦として採用し続けている戦艦である。

 バトルプルーフを繰り返したことで、能力的には特記すべきところの無い汎用戦艦だが、逆に言えば全てが高い標準で纏められているフネである。この戦艦は各ブロックが独立して機能する為、火力と耐久力に優れており沈みにくいし、何より長年主力艦として君臨していたという事もあり、その設計の信頼性はかなり高いといえよう。

 また小マゼランでは珍しい事に、このバゼルナイツ級戦艦には固定兵装が装備されている。その名もリフレクションレーザーカノン、反射ビットを用いた収束レーザーで機関直結の固定兵装なために換装が効かないのが欠点だが命中率が高いのが特徴だ。

 パッとしない性能の中で唯一の個性と言っていい艤装であろう。それでも性能は凡庸だけど……まぁ小マゼランなら全体的に高レベルチートなので問題無い。どれくらいチートかというとFF序盤でディフェンダー装備?…スマン、俺にもどう言えばいいかわからん。

「ではでは、さっそくモジュールデータを組み立てに反映」

 話を戻そう。今度は戦艦内部に導入すべきモジュール…拡張区画を設定する。無限航路に出てくるモジュールは艦橋、火器管制、レーダー、機関、格納庫、倉庫、居住、医療、会議、訓練、研究、管理、娯楽、特殊という14種類に分けられるが実は艦橋と居住と機関のモジュールさえ入れれば最低限フネは動く。

 アビオニクスが発達しており、実質艦橋があれば全ての区画に指示を飛ばし最悪一人で運行出来る程の物が組み込まれているからだ。この三つのモジュール以外は言わば航海生活を楽しくする為の装飾と考えてくれればいい。

 ちなみに規模や機能こそ違うが、このモジュール設置の際にコンソール上で表示されるモジュール設置MAP画面が原作ゲームの時のとほぼ同じような配置画面になるから驚きだ。ただしこっちはス○ホのようなタッチパネル方式、直観的な操作感がグッドです。 

 まぁモジュールは後から改装できるが、事前に入力する事で手間を省くのだ。もっとも今のところ戦艦造船が精いっぱいで資金が足り無い為、とりあえずブリッジ周りと機関部と居住分だけを揃えて、後は徐々に入れて行く事にする。

 でも貨物室はいれる。これさえあれば惑星間を往復しただけで金になるからな。積載量の関係で微々たる物だが……塵も積もれば山となるの精神でいこう。

「えーとブリッジの大きさから考えると…4×4のSサイズ貨物室だから…よしこれで良い。とりあえずシンプルでいこう。複雑にすると迷うだろうし…」

 モジュールを設置しながら、最初の頃フネの中で道に迷った事を思い出す。いやね?色々資金が増えて、少しだけモジュールを組み換えたりしたら、船内の通路という通路が今までと違ったんだ。携帯端末のマップで何とかなったけど、船内で遭難するかと思って冷や汗かいた。

 あれ以来、俺はあまりフネのモジュールはいじらない事にしている。艦長が自分のフネで迷うなんて何か恥ずかしいからな。それにマジで迷って怖かった。自分のフネなのに自分のフネじゃない様な感じがして…モジュール組み立ては便利だけど、こういうデメリットもあるってのも大いに思い知った。

≪―――造船を開始します。設定はコレで良いですか―――≫

 おっとと、気が付けば設定が済んでいたか…。

 思い出に浸るのもほどほどに、俺は軽やかにコンソールを操作して作業を終え、出来あがった設計図の出来栄えを見る。

「んー☆」

 外装は素晴らしいな外装は…中は見事にスッカスカである。スッカスカなのは入れるべきモジュールが無いからなのだし仕方がない。俺は悪くねぇ…全部モジュールの種類が無い序盤が悪いのだ。組み立てようにもこの辺境で手に入るモジュールが無いのが悪いのだ。

「おk、ポチっとな」

 設定が完了したのでタッチパネルにGoサインを出す。

 するとドックの方からゴウンという音が響いてきた。工作機械が動き始めたのだ。

 さて造船の様子はというと、それはそれは実に未来的というべきだった。

 先ずドック内の空間に重力制御されたエネルギーキューブという特殊な力場が形成される。この四角い力場内にフネの骨格となる部分が形成されるのだが、その形成の仕方が実に凄いのだ。

 四方八方の工作機械からレーザーのような光を力場内に向けて照射される。すると照射された部分にまるで創造されたかの様にフネの骨格が出来あがっているのだ。その昔、前の世界で見た番組で溶液に目掛けてレーザーを交差させると、溶液が熱で固まって物体が形作られるのを見た事がある。

 この光景はそれを更に壮大にした様な光景だ。一応、ユーリの知識によると、造船ドック内を重力井戸により空間固定された重粒子を充満させ、重粒子同士に外部から負荷エネルギーを加えることで励起させ結合させるとか何とか……とっても難しい現象がそこでは起こっている。

 だが正直な話、俺にはちんぷんかんぷんである…あるが、こまけぇこたぁいいんだよ。ココまで頑張ってきた苦労を思えば、その感慨だけで細かい事なんぞ吹き飛ぶ。とくに福祉厚生…嗜好品の値段の高さ…トスカ姐さんの酒代、クルーも便乗した所為で地味にキツカッタデス。

 さて、こうしてフネの背骨となる部分が出来あがると各モジュールが運び込まれる。骨格といってもがっしりとした竜骨とかではなく、その間隔にはかなり隙間があるので普通にモジュールは入るのだ。

 なにせ基本的にこの世界の宇宙船の造船はブロック工法で行われる。中心となる背骨部分を先に作り、そこに出来あがった部品を肉付けするって感じだ。耐久性は昆虫と同じく外骨格、すなわち装甲部分で支える方式らしい。

 だから余程規格外の宇宙船でなければ、最短2時間弱で造船が完了してしまう事もあるんだそうだ。今回は頑張って資金を貯めて造り上げる全長1300mクラスの大型戦艦。実際にかかる時間は夜中一杯だろうが、それでも前の世界の造船に比べれば格段に速い。

 ジェバンニが一晩でやってくれました…とか、そういうレベル超えてるぜ。

≪内骨格形成、モジュール装丁、完了――兵装スロット装丁開始≫

 しっかし無重力ドックでの造船は何度見ても飽きないモノがあるねぇ。何かこう大規模工作にかける男のロマンがうずくって言うのかな?宇宙戦艦こそ少年のころから…いやさ、大人になっても男の浪漫だろう。それこそ、わくわくがとまらない!ドキがムネムネェ~って感じだぞ!

「何か科学者が『こんなこともあろうかと!』をやりたい気持ちが解った気がする」

 ふんふんと鼻歌交じりにポッピポッピポと指を滑らす。ウーフフ、これは機械いじりが好きなら癖になりそうですなぁ…『こんなこともあろうかと』って言うの。さてさて、装甲形成の最終工程が完了するまでは暇なので俺も部屋に戻る事にした。

 明日、この艦を見たクルーの連中の驚く顔が目に浮かぶぜ…くくく。

―――そして夜が開け翌日の朝(の時間帯)。

「艦長~いきなり造船所のドックに来いってどういう事~?」

「しかもクルー全員じゃないですか、一体なにがあったんですか?」

「つーか何でドックを見る為のシールドが閉じてるんだ?」

「……ねむい」

 俺は集合令を出し、造船ドックへ駆逐艦の乗組員たちを全員集合させていた。久しぶりの陸を満喫しようとした初日に呼び寄せられた彼らは、何故集められたのかを教えられていない。

 口ぐちに眠たいだの用事があったのにだの文句を垂れている。だが俺は皆を驚かせたかったので、今だ本当の事は言っていなかった。やがてクルー全員がドック横の部屋に集まったのを見て、俺はマイクを手に取った。

『さて、久しぶりの陸でリフレッシュしようとしていたところ悪いんスが、今日集まって貰ったのはクルーである君達に驚き(サプライズ)をプレゼントしたいからなんス』

 ざわめきが起こる、サプライズとは一体何なのか?

 クルー達の反応に満足しつつ手元のコンソールに手を向け―――

『ソレはこれだぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!』

―――腰に手を当て、まるでダンサーのように指を天に掲げた後、スイッチオン。

 背後のシールドが解放されドック内の全貌が明らかとなる。そこにあったのは……まぁ言わなくてもわかるだろう。俺が一晩で作っちゃったバゼルナイツ級大型戦艦が鎮座していらっしゃった。

 当然クルーの皆さまは突然の事態に唖然とし静寂がこの部屋に降りる。

『我々はこれまで駆逐艦一隻でロウズ警備艦隊に挑み、苦渋を舐めてきた。だがそれも今日で終わりだ。このフネが、このフネこそが我々が待ち望んでいたヤマt…いや大型戦艦だ』

 微妙に某艦長の台詞が混じったが気にしない。

 別に苦渋も苦労もそれ程無かったけどユーリは言いたかっただけなのだぁ。

『まぁそれはとにかく、いままでキミたちは駆逐艦の乗組員だったが、今日からは戦艦に乗り込んでもらうという訳だ。どうだー?驚いたッスかー?』

……………。

 問いかけに対し返事が返って来ない。思ってたよりも反応が薄いヨー。ウワァァァン (ノД`)

 顔には出さなかったが俺は心の中でさめざめと泣いていた。だがしばらくすると少しずつざわめきが広がり始める。それこそ波紋のようにクルー達に伝達した驚愕の波紋が、大音響の声となって俺の鼓膜を殴りつけた。

 うぉっ!声でかッ!と思わず耳を塞いでしまった。そして怒涛の質問の嵐である、おいおい俺は聖徳太子じゃないんだぜ。

『あー、スペック云々は後で各自確認して貰うけど、とりあえず今はこの船の概要だけ言うから静かにしろーッス!』

 俺一応雇い主、皆クルーとしての意識があるので徐々に静かになっていく。最終的に針が落ちた音が聞こえるくらい静かになったのを見計らって口を開いた。

『よし、静かになったッスね?まぁこの船を見た事ある奴は、このメンツの中では少ないと思う』

 だって一晩で作ったし(キリッ)

 ソレはともかくコンソールを操作し、フネの概略図を空間パネルに投影させた。

『コイツは見ての通りロウズ自治領であつかっているフネじゃない。勿論小マゼランで使われているフネとも違う。この艦はアイルラーゼン…大マゼラン製の戦艦ッス。どこで手に入れたかは質問されても困るのでそれ以外なら質問を受け付けよう』

 またもやざわめきが起こる。まぁそれもしょうがない。ここに居るクルー達は全員がこのロウズで集めた地元の船乗りたちなのだ。大マゼランに行った事があるヤツなんて恐らく殆どいないだろう。

 今まで小さな駆逐艦の乗組員だったのがいきなり新品の戦艦の乗組員。しかも技術が発展している大マゼラン製戦艦が乗艦となると突然言われれば混乱も起こるのだ。その所為か ざわめきはあるが皆フネに関する質問をしてこない。

 むぅ、折角朝までかかってプレゼンの準備もしたのに…(つまりは徹夜)こうも反応が薄いと何か泣けてくる。

『おいおい、何固まってんスか?皆、嬉しくないの?こんなスゴイ船のクルーになれるんスよ?俺達はなんでココに居る?金を得る為?名誉を得る為?違うだろ?』

 だからだろう。

 徹夜明けのテンションも手伝って、俺はマイクを握っていた声をあげていた。

『もっと単純に俺達は宇宙に出たくてフネに乗った!新しい世界を見たい!空に羽ばたきたいと願った!違うのか?! この艦を見て驚いただろう?だけど…心の中で乗りたいと思わなかったか? これに乗って航海に出えたいと思わなかったかっ? 』

 段々ヒートアップしてきた俺の言葉を、クルー達は黙って聞いている。普段使っている~ッスという特徴的な言葉遣いも興奮のあまり吹き飛んでしまった。俺はそのままのテンションで言葉を続けた。

『俺はこの狭い宙域から飛び立つ!このフネに乗って、小マゼランを巡る航海に出るつもりだ!その為にもお前たちのようなクルーが必要だッ! 領主法に真っ向からケンカを売れるようなガッツのある連中がっ! 諦めんなよ!宇宙を飛び回る事を諦めんなよっ!頑張れ頑張れ出来る出来る絶対出来る!もっとやれるって気持ちの問題だ!』

 だけど興奮のあまり、ちょっと熱血妖精さんが混ざった。その所為で皆ポカンとしてたが俺は気にしない。熱意が伝わればそれでよい。

『と、とにかく全員が生き残れるように、俺はこのフネを建造した。絶対に後悔はさせないぜ!!』

 ここまで言いきったあたりでようやくクルー達が現実へ戻ってきた。俺の背後に何もなければ彼らもトチ狂った俺のホラであると考え勝手に解散と決め込んだ事だろう。だが俺の背後にはまごうことなき戦艦の雄姿がそこにあった。

―――つまり、艦長はホラ吹きじゃない。真実は何時も一つ!

「解ったよー艦長!俺は乗るぜー!!」

 誰が言ったのだろう。大勢いるクルー達からそんな声があがる。

「俺もだ!」 「僕も!」 「私も!」 「面白そうだぜ艦長―!!」

「「「むしろ早く乗せてくれぇぇ!!中見たいんだぁぁ!!」」」

 そしてそれが伝染し、乗せろ乗せろの大合唱が俺へと向けられた。良くも悪くも俺が用意したこのフネは辺境星系のロウズでは生涯てんでお目にかかれないようなシロモノだ。また0Gである彼らは総じて好奇心も強い。それが大合唱が起こった理由である。

『おまえら……よぉしっ!中はまだシートのビニールすら破って無い新品だ!艦長から通達!全員乗りこめぇぇぇぇ!!』

 そして俺は皆の声にありたっけの声を出して乗船許可を出す。

 俺のその言葉にみんな子供みたいに顔をキラキラさせながら部屋を出ていった。ここにいる全員が船乗りだ。大きくて力強いフネに憧れを抱かない筈がない。

 そうして我先にとフネに入る為の連絡橋を走っていった。恐らく内部を見学しにいくという事だろう…しかし、あれほど混雑してる癖にドミノ倒しとか怪我人の一人も出ないのは逆にすごいよな。

「お疲れさん子坊」

「あ、トスカさん…あれ?見に行かないんスか?」

「慌てなくても存分に見れるからね、急がなくてもいいのさ…というかがめつい位に金を貯めてたのはこの為だったんだね?」

 どたばたとクルーが過ぎ去って閑散とした部屋。

 そこに残ったトスカ姐さんが俺に声をかけて来た。

「そうッスね、戦艦の艦長をやるっていうのも夢の一つでしたから……ってがめついって酷いッス!商才豊かとか言って欲しいッス!」

「本当に商才豊かなら、博打の0Gなんかしないよ」

「うぐ、じゃあ強運な男と…」

「自分で言うかこのこの」

「ぐりぐりしちゃらめぇ~!いたいーッスー!」

 頭をぐりぐりとされ、恥ずかしいやら痛いやら。おまけに皆いなくなって興奮が冷めたお陰か、言葉使いまでも普段通りの~ッスに戻っている。どうもこういう喋り方が滲みついちゃったみたいで中々治らない。

 以前はもっと普通に喋っていたのだけれど、これも環境が変わったからかな。とくに姐御オーラ全開なこの方の前だとその傾向が顕著だ。あれか?本能的にこの人には勝てない的な何かを感じ取っているとかそういうオチか?

「しっかし随分前からこそこそと隠しているとは思ってたが、まさか1000mはある戦艦を用意するなんてねぇ。流石のトスカさんもびっくりだよ」

「スンごいサプライズでしょう?俺もあれの設計図を見つけた時は驚いたもんス」

「まぁアンタはエピタフなんて珍奇なモン持ってたんだから、あの設計図もそういう類のシロモノなんだろうねぇ。でも興味本位で聞くけど、あんなもん何処で手に入れたんだい?マゼラン銀河辺境のロウズで買うのはまず不可能…何かしらの手段で買えば相当な値段だと思うんだけど」

「あーはは…アレ見つけたの実はロウズの封鎖されたあのコロニーなんスよ。アソコのデータ端末の中で、ロックされていたファイルがあって運よくロック解除が出来たんです」

「ロウズのコロニーって…アソコかい!?」

 流石のトスカ姐さんも驚いたようだ。そりゃまぁ、あんな廃墟にこんなお宝があれば誰だって驚くよな。技術的にレベルが低い小マゼランでは、例え穴開き設計図データでもお宝です。

「ウス、どうもあのコロニーには大マゼランまで渡った人間が居たらしいんス。んで偶然ファイルを開いてデータを手に入れられたって訳なんスよ。他にも色んなフネの設計図があったんスが、ああ、このフネの設計図もそこから拝借したッス。まぁ実際は殆どのデータが壊れててコイツしか作れなかったんスが…」

「それが本当だとしたらアンタはおっそろしく強運の持ち主だね。普通はあり得ない事だよ。偶々修理で立ち寄った廃棄施設から資材を手に入れるのは良くある事だけど、こんな辺境でお宝を見つけるのはエピタフを手に入れるくらい大変な事だ」

「俺もそう思うッス。でも小さな領主領とはいえボイドゲート警備隊を突破するにはそんな些細な事は気にしないッス」

 そう、この宙域で一番敵戦力が集結しているであろうゲート付近で戦うためには、駆逐艦一隻では戦力的にも心もとない。かと言って金を貯めて駆逐艦を増やし数をそろえようにも、只でさえ辺境のロウズで領主法に逆らってまで宇宙に出たがるガッツのある人材はほとんど残っていないのが現状だ。

 普通はそんな法律が出た段階で伝手でも使って違う星系に逃げるもんな。

「今は前だけ向いて突っ走る事しか出来ないし、利用できるもんは何でも使って状況を打破するのは至極当然ッスよね――でも、ご都合主義バンザイ(ボソッ)」

「…ん?なんか言ったかい?」

「いいえ何も」

「ふーん、それじゃあこれまで懸命に金を集めてたのは、もしかして」

「大艦巨砲は男の浪漫ッスよ!」

「あきれた…普通そこは艦隊を造ろうとか考えるだろう?」

「根本的にまだ複数のフネに指示を飛ばせる程、熟達してないッス」

「根本的にフネが大きくなると、その分飛ばす指示の量も増えると思うんだが?」

「…………………あっ、そうだったぁぁぁぁ!!!」

 浪漫を断言した事でトスカ姐さんは呆れたように米神に手をやっていた。男の子は何時までも男の子ぉ!浪漫なくして宇宙を渡れるかってんだ!…だけど確かに手間も増えるね。やったねユーリ、仕事が増えるよ!オイバカやめろ。

 それはさて置き俺の中では駆逐艦より戦艦強しがジャスティス。そこだけは後悔していない、

「あ、あはは……まぁ本当のところはロウズから出るのが精いっぱいで、こんなの作るのはもっと大分先の事だと思ってたんスけどね。ところで――――」

 俺は悪戯っ子の様な笑みを浮かべトスカ姐さんに問う。

「―――驚きました?」

「驚き過ぎて心臓が止まるかと思っちまったよ」

「ソレは大変だ、是非とも医務室に行かなければならないですねぇ?トスカさん」

「ああ、そうだね。それじゃ医務室に行くとするかね?あのフネのね」

 そう言ってニヤリと笑うと、彼女は案内たのんだよ『ユーリ』と言って部屋から出ていった。そん時の俺は唐突に名前を呼ばれた事に一瞬驚愕したが、どうやら子坊から名前で読んでもらえる程度には認めて貰えたらしい。

 同じ釜の飯を食い苦楽を共にすれば仲間意識くらい芽生えるものだが、それ以上にトスカ姐さんは良くも悪くも義理堅くて情に深く、それでいて面倒見のいい良い女なのだ。

 それでもこれまで名前では呼んで貰えなかったのに名前を呼んで貰えた。嬉しくない訳がない。いい女に名前で呼んで貰える事に喜びを感じないのは男じゃねぇ。俺は顔を綻ばしながら彼女の後を追った。

「案内頼むって俺より先に行ったら案内出来ないッスー!まぁいいや、ぜひ行きましょう。俺達のフネ、アバリスに」

 うん、フネの名前は最初から決めてあったんだ。昨夜造船所を出た後、名前を考えるのに時間かけたから少し寝不足になっちまったけどいい名前だと俺は思っている。

―――かくして俺達の新しい家、アバリス号がここに誕生したのであった。

 さて、アレから丸一日経った…――――

 戦艦アバリス、その速力、運動性、装甲、火力…今までと比べ全てが最高だ。

 俺はまだ尻になじんでいない艦長席のシートの上で身をよじりながら、ブリッジの中を見渡した。

「……と言っても、まだ発進してすらいないんだけどね」

 そう、この宙域では信じられない高性能を誇るバゼルナイツ級戦艦アバリスは、いまだもやいを解かれずに10番ドックに繋留されていた。何故か?理由はごくごく単純。必要物資の積み込み作業と駆逐艦からの引っ越しが終わって無いからである。

 いやー戦艦作ったのは良かったんだけど、それに浮かれちゃって物資補充すんの忘れてたんだわ。ユーリくんったら超うっかり。そのこと話したら、クルーの連中に呆れられちったい。ああ俺艦長なのに、その俺を呆れた目で見やがって、悔しい!でも感じち(ry

 ちなみに先程の速力やら火力うんぬんは全部脳内シュミレーションに基づくものであり、実際の物とは差異があります。要するに暇なので妄想してました。いいよネ妄想!みんなもレッツ妄想!……俺は一体だれに言っているんだ?

「――……アコーさん、作業の進行状況はどう?」

 でも流石に何時までも妄想してたら部下に変な眼で見られそうなので、そろそろ仕事することにした。艦長席のコンソールは便利なもので、これ一つでフネを動かす事が一応可能である。もっとも選択肢はあっても人間は指10本と腕2つしかないのであくまで動かせるの範疇でしかないが。

 そんな訳で万能コンソールを使い、俺は物資を搬入している貨物室へと連絡を取った。呼び出し画面がしばらく続き、少しして画面に作業着を纏ったワインレッド色という以前の地球で見たら絶対染めてるやろーと叫びたくなるような髪色をした女性が投影された。

 彼女はアコー、このロウズで姉妹ともども雇った乗組員の一人であり、今では生活班の班長を任せている女性である。ウチの募集に来た人間は元船乗りが多いのだが、彼女はそうではなく元は一般の会社の人間だったらしい。

 だが上司のセクハラを受けその上司を殴りクビになり、ロウズの経済事情に再就職も難しくたまたま見つけた俺のクルー募集に来たのだそうな。元が一般の会社の人間という事で船乗りの技能はほぼ0に等しいが、それ以外で活躍できる人間も欲しかったので生活班という日常を支える仕事に就いて貰っている。

 ……ちなみにこの人も酒好きでうわばみでトスカ姐さんと同類。後は判るな?

『ん?ああ、艦長かい?見てのとおりさ、とりあえず物資コンテナの搬入は終わったよ。後は人間が乗るだけさ』

「ん、ご苦労さん――おっ、予定より15%も早いッスね。これは後で給料に色付けとくッスよ」

『そいつはありがたいね――コラそこぉっ!ガントリーレーンを使えってさっき言っただろうがー!――おっとごめんよ。こっちも飾り付け作業もあるし忙しいから作業に戻るよ』

「はいはい、そんじゃねー」

 さて、生活班のチーフとの通信を終え、発進前のチェック項目に物資搬入に終了マークを入れる。クルーと馴れ馴れしいのではないかと言われそうだが良いんだ。別にウチは軍隊じゃない。艦長とクルーという最低限のラインは守ってくれるし、戦闘時にはこちらの指示は聞いてれるから問題無しだよ、うん。

――――さて、そうこうしている内に準備が整いつつあるようだ。

『こちら機関室のトクガワ、準備完了じゃ』

『こちら生活班室のアコー、全ての物資搬入および人員の確認は終了した、いつでもいけるよ。後、格納庫の飾り付けも終わったよ~』

『こちらレーダー班室のエコー、艦長ーこの艦のレーダー凄くレンジ幅広いですね~。

使うのが楽しみです~』

『こちら砲雷班室のストール、問題ねぇ』

『こちら厨房のタムラ、艦長!処女航海用のシャンパン冷やしてますよ!』

『こちら医務室のサド、怪我人も病人も今日は来とらんよ』

『こちら重力井戸制御室のミューズ…臨界まで動かしたけど…問題無い』

『こちら整備班室のケセイヤ、第一装甲板から第4まで全く異常は無いぜ?隔壁のロックも確認した』

 次々と寄せられる、各部署チーフ達からの報告、まぁ出来たての艦なのに問題あったら困るわ。というかその場合、空間通商管理局に文句つけちゃう。まぁ設計図が悪いとか言われたら尻すぼみになるけど…。

 ちなみに本当は発進の準備はブリッジで全部操作出来る。だけど、みんな気分出したいらしくて、わざわざ自分の担当する部署に行っているんだよね。俺も相当浪漫大好きな男だけど、クルー達はクルー達で大概だZE☆

「艦長、全区画オールグリーン、管制から発進許可出ました。準備完了です」

「うむ!全艦出力最大!戦艦アバリス発進するッス!」

「おし、機関出力臨界にまで上げろ!戦艦アバリス、これより処女航海に出るよ!」

「「「アイアイサー!」」」

 機関に火が灯り、船体を固定していたアームのロックが解除され、アームが収納される。

 そしてドックの隔壁が開き、誘導灯が点灯した。

「インフラトン機関、主機・補機共に出力臨界へ到達」

「補機稼働開始、微速前進」

「微速前進、ヨーソロ」

 アバリスはその船体を揺らしながら、誘導灯に導かれゆっくりとドックからその姿をあらわにした。

 この宙域には無い1000m級戦艦はその巨体を、ステーションの発進口に向けている。

「管制からGOサインです。ソレと通信で“貴艦の安全を祈る”だそうです」

「AIの癖に洒落てるよなぁ、管理局って…」

 ブリッジの誰かがそんな事を言った。うん、ホントそう思うわ。

 あいつ等普段は全然感情無いくせに、時折こうやって感情っぽい事するからおもろい。

「艦長、重力カタパルトに乗りました。ご命令を」

「よし、飛べ」

 即座に命令さ!仕事も飯も早い方が良いからな!!

 

 ―――そして戦艦アバリスは、トトラスのステーションを後にした。

「無事航路に乗った。自動操縦に切り替えるぜ」

 発進の際に滑らせるような操艦を見せてくれた操舵席にすわる男、航海班のリーフが操縦桿から手を放しながら自動操縦へと切り替えたのを皮切りに、ブリッジの空気が少し弛んだ。乗り物というのは大抵そうだが、発進と停止の時が一番神経を使う。

「駆逐艦クルクスは自動操縦にて本艦後方、距離1200の位置で固定します」

「……あっちは完全に航法ドロイド任せッスけど、大丈夫ッスかね?」

「人間が乗って無いって意味でかい?それなら大丈夫だ。戦闘以外の航法術なら下手な人間よりもドロイドの方が上だしねぇ」

「そんなもんスか」

 未来技術ってのはやっぱすごいのねぇ~。

「レーダー班室から艦長に通信です。艦長席へ転送します」

『艦長、こちらエコーです~。ねぇねぇ艦長、レーダーの早期警戒レベルはどうしますか~?』

 随分と間延びした女性の声が通信に入る。彼女はエコー、レーダー班の班長をしている女性で、生活班班長アコーとは姉妹にあたる。姉が会社をクビになった時に一緒になってアコーの後をついてきた健気な人だ。

 ソレはさて置き、レーダーの早期警戒をどうするかだったな。うーん。

「このフネならローズ自治領の警備艇程度が何隻来ても平気だろうけど、一応半舷休息入れつつレベル2にシフトしといてくれっス。あとで交代要員よこすからさ」

『わかった~』

「アイサー艦長、交代要員にはそう伝えておきます」

 このフネに搭載されている対エネルギー兵器用のAPFシールド(Anti-energy Proactive Force Shield)の出力なら、警備艇クラスの光学兵器程度屁でも無い。質量兵器用の重力防御装置のデフレクター無いから、対艦ミサイルならヤバいかも知んないけど、今んとこの警備艇にミサイル搭載艦はいないから大丈夫だろう。

 オペ子のミドリさんに指示を頼んだ後、トスカ姐さんとジャンケンして勝ち悔しがる姐さんにこの場を任せて、俺も処女航海のパーティーの為に倉庫へ向かった。何で倉庫なのかというと、大勢のクルーを一挙に入れられるスペースがある場所は今のところそこしかないからである。

 本当は大食堂のモジュールでも欲しかったんだけど、そのモジュールが手に入らなかったんだよね。お陰でクルーが入れる場所が格納庫しかなかった。まぁ飾り付けとかは、生活班と整備班が頑張ってくれるそうだから、あんまし心配していない。駆逐艦に居た時ですら、ウチのイベントスタッフ連中、スゲェいい仕事してたからなぁ。

 何であんな優秀な人達が、ロウズなんて辺境に取り残されてたんやろうかと不思議に思うばかりである。恐らくは唐突に領星間の行き来が官民問わず規制された為に領内に取り残されてしまった人達が多かったんかねぇ。

≪ヴィーヴィーッ!≫

『敵艦接近を確認、総員戦闘配備、艦長はブリッジへ』

「おろ?敵さんッスか?」

「なんだよ折角飲み始めたところなのに」

「空気読めよなぁ」

「これだから禿領主の部下はKYなんだよ」

「んなことよりもっとのもうぜぇ~ひっく」

「おえー」

「酔うのハエーよ!?だれか洗面器持ってこい!」

「……俺はブリッジ行くけど、後任せたッス」

「「「「いってら~、がんばってこいや~」」」」

 くそ、酔っ払いどもめ。俺だって飲みたいのに。

 パーティー会場となった倉庫に到着早々鳴り響く警報と御指名により、俺を含め素面の戦闘班所属の人間は皆持ち場にゆかねばならなくなった。飾り付けやらをしていた生活班などの人達は先にはじめていたらしく赤ら顔で出来あがっている人間も多いのでこの場で待機である。

 さすがに酔っ払ったヤツが戦闘を行える訳は……なんか居なくも無さそうだがない。ま、生活班の方々は戦闘中は特にやる事はない。精々食堂勤務の人達が戦闘が長引きそうな時に出前の炊き出し弁当を作る為にテンヤワンヤする程度である。彼らには存分に酔っ払っておいて貰って、とっととこっちも宴会に参加しないとな。

「――状況は?」

 急いでブリッジまで戻ってきた俺は入るやいなやOP席に座るオペ子のミドリさんに声をかける。

「こちらのレーダー範囲が大きかったので先に発見できました。敵はまだこちらに気付いてません」

 さすがは正規軍御用達の戦艦だけはあり、その策敵範囲は脅威的な程に広いらしい。

性能チェックは実戦で行う事になったが、まぁそれは問題無いだろう。

「どうするユーリ?逃げるかい?戦うかい?」

 気が付けば俺の背後に佇んで副長役をやってくれているトスカ姐さんからそう言われ少し考える。敵さんはレベッカ級2隻、まだ敵には見つかっていない。この艦になって初めての戦闘である事だし、相手としてはちょうど良いかな?むしろものたりないかもしれないな。

「戦いましょう、ちょうど良い機会ッスからね」

「そうかい、それじゃ―――全員戦闘準備!ブリッジクルーもいそいで呼び戻せ!各砲門開口、データリンク急げ!」

「アイアイサー、総員第1級戦闘配備です。ブリッジクルーの皆さんはさっさと自分の席に戻ってください。戦闘班は戦闘配置で待機してください」

 戦闘配備が出されたアバリスは途端あわただしくなる。戦闘に必要な主なブリッジクルーがブリッジに到達してからは、非常通路以外の隔壁が降ろされて通路を閉鎖し、インフラトン機関を戦闘出力まで上げる。その間にジェネレーターと各砲の連動機能を確認していく。

 各システムの戦闘モードでの立ちあげが手動で行われ、各項目のチェックも余念がない。新造艦になってからいきなりの実戦なので詰まらないミスで危機を招くのは御免なのだ。そして俺はその様子を横目に、この艦になってから初めて使える機能を使う様に指示を飛ばした。

「妨害電波はどうなってる?もう使えるッス?」

「当艦に搭載されたEA(Electronic Attack)およびEP(ElectronicProtection )両システムは正常に作動中です」

「それじゃあ妨害電波発信。おぼれさせちゃいなッス」

「アイサー」

 オペ子のミドリさんがコンソールを操作する。途端モニターしていた敵艦が急に停止した。

「敵さん通信不能で慌ててます」

「さっすが大マゼランの軍用艦。駆逐艦とは比べ物にならない程強力ッスね」

「まぁ、大本の機関出力からして違うんだしこれくらいは出来るだろう」

 トスカ姐さんの言う通り、このフネになってからエネルギーに余裕が生まれた事で各部署でもシステムが強化されている。そしてその余剰エネルギーで通信システムの妨害や観測用レーダーの妨害も以前の艦に比べて雲泥の差が生まれた。

 つまりは力任せだけど電子戦も出来る様になったという訳だ。マーべラス(素晴らしい)

「よし、先制攻撃を仕掛ける、リフレクションレーザーカノンにエネルギー廻せ!」

 この艦の両舷に供えられた艤装の命中率が高めでおまけに射程が結構長いリフレクションカノン。威力は普通だがアウトレンジからの先制攻撃で使うにはちょうどいい兵装だと言える。手元の火器管制のパネルを見れば、迎斜角がそろそろ揃いつつある。

「攻撃を仕掛ける、砲雷班!前方敵前衛艦に対し、攻撃開始!」

「了解、各砲インターバル2で連射用意良し、全砲発射」

 号令により、発射されたエネルギー弾が、警備艇に向かい突き進む。一応火器管制って俺のところからでも操作出来るんだけど、ソレすると著しく命中率が下がるし当たらないからおもしろくない。

 それはさて置き思考を巡らせている間にも状況は変化し、リフレクションビットにより収束加速された光弾が敵艦に突き刺さっていた。距離がある為ココからでは、センサーによってでしか確認が取れないが、シールドを張っていなかったみたいだし多分撃沈であろう。

「敵2番艦、インフラトン反応拡散中、撃沈です!」

「続けて第二射、敵僚艦目がけて発射しろ!油断なく撃破するッス」

「アイサー!ポチっとな!」

 第二射も敵1番艦の推進機を上手く貫き機能停止させる事に成功する。射程も照準性能も前の駆逐艦に比べ、当社比1,5倍ってところか。ロウズで買った駆逐艦の火器管制じゃこうも見事に無力化は出来ない。

 改めて自分が幸運にも手に入れてしまった兵器に惚れなおした。戦艦アバリスは素晴らしいフネだ。例えご都合主義のように手に入った戦艦であっても、これを手放そうとは思わない。

「敵艦、沈黙」

「……生きてるみたいなら降伏勧告を出してやってくれッス」

「いいのかい?あとで面倒臭いよ?」

「トスカさん、俺達は海賊じゃないッス。だから無用な殺生はしないんス」

「いや、それはいいんだけどさ。捕虜人数の把握とか必要な食糧の割り当てとか事務処理的な仕事が増えるよ?」

「………性急に、事務方がほしいです」

「募集に来る事を待つんだね」

 ただウチのフネの唯一の弱点は、事務処理が出来る人間が少ない事か。

 もう動かなくなった敵艦を眺めつつ、俺はジャンク品回収の為に近づく様指示を出した。

…………………………………………

…………………………

……………

『こちらEVA班長のルーイン、艦長~使えそうなジャンク及び部品の回収、終わったぜ?』

「了解ッス、艦外作業はもう良いので、上がってくれッス」

『アイサー艦長、テメェ等!作業終了だってよぉ!…――――』

 EVA(船外活動)の人達と、ジャンク及びパーツ、予備部品を収納する。この奪った品が、ウチのフネの活動資金に化けるのだ。何か海賊行為みたいだけど、宇宙は無法の地だから許してね?

 それに狙っているのは同宙域に偶に出る海賊か打倒すべきデラコンダの配下だから、この世界的にはセーフなのだ。流石に民間の輸送船とか狙っちゃうと、小マゼラン政府から指名手配されちゃうからやんないけど。

 とりあえずこの宙域から離脱し、アバリスの最大レーダーレンジに何も映らないような安全圏に到達するまで警戒を続ける。慎重はやり過ぎる事は無いのだ。

「周囲に敵艦及び脅威存在を認めず~、安全圏にまで来れたみたいだよ~?」

「了解エコーさん、とりあえず適当に切り上げてくれて良いッスよ」

「了解~艦長~」

 ふぅ、どうやら大丈夫みたいだな。以前もたもたしてたら、敵に囲まれた事があったからなぁ。このアバリスの性能なら多分囲まれても大丈夫だろうけど、慎重に慎重を期すのは悪い事じゃないわな。

「ミドリさん、各艦に警戒態勢の解除を通達してくれッス。隔壁も解放、通常運航に戻してもいいッスよ」

「アイサー艦長」

 とりあえず艦内の警戒レベルを下げ、戦闘巡航から通常巡航に移行させた。何時までも気を張っていたら苦しいし、敵がいないならリラックスしないと病気になっちまう。しばらくして、艦内にようやくホッとした空気が流れ始めたのを感じたので俺も自分の席を立った。

「さ~て、パーティーの続きでもするッスかね!」

「良いですねぇ~安全圏には到達したから、自動航行にしてもいいですか?」

「うむ、許可する!お祝いは皆で騒ぐから楽しいッス!」

 やりー!とわき立つブリッジクルー達。自動航行と、もしもの為のオート・ディフェンスのシステムを立ちあげて、いざ行かん!大騒ぎ確定な処女航海記念パーティーへッ!!

「ん?全周波チャンネルで通信?」

「どうしたッスか?」

―――――そして、こういう時に限って、ものがたりは進むんだよなぁ…。

 インフラトン星系間通信システムにより俺の(自称)妹チェルシーが、デラコンダに捕まったという通信が、ロウズ自治領に全域に流れていた。

■その日の艦内時間の夜■

「で、どうするんだい?ユーリ」

「んー、本当なら助けに行きたいとこッスねぇ」

 今、俺がいるのは艦長室の代わりに使っている部屋である。その部屋にはもう一人いて、今日の通信の件で副官役のトスカ姐さんに相談する為に来てもらっていた。いや、本当は艦長室欲しかったんだけど、そのモジュールまだ手に入らなくて…話がそれた。

「でもあんた、ソラに上がる時、家族はいないって言ってなかったかい?」

「(ボソ)そうなんだよなぁ……」

「えっ?何だって?」

「うん?イヤ何でもないッス。彼女はチェルシー、俺の妹で唯一の家族ッスよ」

 

 一応ユーリの記憶では、そうなってたから、トスカ姐さんにそう伝える事にした俺。でも確か彼女と俺って血は繋がって無かった?原作だとどうだったかなぁ?なんかこっちに来て色々あったから段々忘れている気がする。

「ふ~ん、でもなんでまた彼女を置いてソラに上がったんだい?」

「意見の相違ってヤツッス。彼女は地上で静かに暮らしたい、俺は宇宙に出たい…つまりはそういう事ッス」

「ああ、ケンカしちまったって訳だ?」

「まぁ…そんなとこッス」

 まぁ、女の子と男の子じゃ感じるロマンに少しばかり差異があるから?仕方ない事だよなぁとトスカ姐さんは納得してくれた。正直嘘をついた事に対する罪悪感はあったが、なるべく表情に出さないように努力する。

 だが何故かここで話が脱線し、トスカ姐さんにチェルシーの事を色々と尋ねられた。とりあえず、俺の中に残っているユーリ君の記憶から、彼女に関する記憶を引っ張り出す俺。なんか、色々と恥ずかしい記憶を話した気がしたけど…キニシナイコトニシタ。

「――――……で、結局どうすんだい?艦長さん」

「放っておくのも可哀そうだし、どうも俺の所為で捕まったみたいだし、助けに行きたいッスね。せめて安全な星系にでも送り届けないと、男じゃないッス」

「だけど、それはこれまで集めたクルーやフネを危険にさらすことになるよ?普段の警備隊がああだからそうはみえないけど、領主直属の艦隊は手ごわい筈さ。――覚悟はあるのかい?」

 クルーを失ってしまう可能性、それを考えた上でもやる価値はあるのかと、トスカ姐さんは言外にそう問うた。たしかに200名ちかい人員と大金をかけて制作した戦艦が損害をこうむるのと、たった一人の少女の命を天秤にかけるのは難しいだろう。

 だが、逆にそのかけるべき天秤はどこにある。彼女の命運を分けるのは俺の考え一つなのだ。そして俺は彼女を助ける事を望んでいる。ならば答えは一つだ。

「………そりゃ、今のフネのクルー達と身内とはいえ一人の少女だと釣り合わないッス」

「なら見捨てるのかい?」

「皆の命を考えればそれが良いのかもしれないッス。だけど、それをしたら男じゃないッス。プライドに拘るつもりは毛頭ないッスがたかが少女一人助けられない男が宇宙を巡るなんて言葉を吐いたって、少年が見る夢物語もいいところじゃないッスか。俺は本気でもっと先を目指したい……だから――覚悟くらいドーンとしてやりますよ」

 内心はもし死人出たらゴメンなさいゴメンなさいだけどな!覚悟はしても出来ればそういうのはない方がいいに決まってる。もう宇宙葬やるのは気が滅入るから嫌ですたい…。

「ま、本音は見捨てたら夢見が悪すぎるって事なんスが……ダメっすかね?」

「………はぁ、ある意味アンタらしいよ。いいだろう、艦長はあんただ。あたしはそれに従うさ。それじゃあたしはその事を他のクルーに話してくるよ」

「お願いしますトスカさん」

 彼女は手をひらひらと揺らし、そのまま部屋を出ていった。多分親類が人質に取られた俺に気を利かしてくれたんだと思う……もっとも俺的には全然平気だったりする。だって俺、チェルシーと面識ないもん、記憶はあるけどさ。

 この記憶は、言わば憑依先にくっついていた記録のようなもの。特に我が妹とされる女性が風が吹き抜ける草原でどこか寂しそうに空を見上げているセピア色の光景には、どこか哀愁漂う何かがある。だが、言ってしまえばソレだけである。

 これがユーリの記憶というにはあまりにもハッキリしすぎているし、それ以前にもっと根本的にこの記憶はおかしいのだ。なにせこの映像は空を見上げている女性を“上”から見下ろしているような光景である。アングルがどう考えてもおかしい。あれか?ユーリ君は舞空術でも使えたとでも?

 この微妙な違和感は俺がユーリ本人ではないから来る物なのだろう。何せ“言ったら恥ずかしい記憶”もデジタルリマスターよろしく脳内再生出来るんだもん。でもきっと本来の主人公くんは疑問にすら思わなかった筈だ。だってそう言うモノだって刷り込みがされているからな。

 というかこの記憶、ホント鮮明すぎて怖いわ。コレだと後から植え付けた記憶だなんてすぐに解っちまうけど…まぁやった奴ら人間じゃないから仕方がない。

「しっかし、今更って感じもするッスねぇ~」

 とりあえず、彼女の救出だけはしておこう。中身が代わったユーリに対して彼女が何か言ってきたら、その時は即効このフネから降りてもらう方向でね。ま、見捨てるのが夢見が悪すぎるから助けるだけだし心配はいらんだろう、多分。

――さて、今日のところはもう床につこう。一日色々あって疲れた俺は床に入ってすぐに眠りに付いのだった。


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