~何時の間にか無限航路・第32話、ネージリンスinゼーペンスト編~
■ネージリンス編・第32章■
「先日は御免なさいね。子ども扱いしちゃって。まさかあなたが本当に自分の艦を持っているなんて思わなかったから……」
「いやまぁ、実際若いのは承知してますんで」
「そう言ってくれると助かるわ。……おかし、食べる?」
「いらんわ! という舌の根も渇かないうちにそれかよっ!?」
「それじゃあティッシュあげちゃう。ほんのお詫びよ」
「……はぁ……なんか一日で随分と馴染んだッスね」
「昨日の飲み会のお蔭で十二分にここの流儀を学んだわ。ああ、そうそう艦長。思い出したんだけどトゥキタからの伝言で惑星リリエに向かってほしいそうよ。何でもネージリンス航宙軍のワレンプス大佐に会ってほしんですって。アポは取ってあるから向かえばいいわよ」
歓迎会から一夜明け、ゼーペンスト宙域へと向かっていた矢先。いきなりやってきたファルネリさんにそんなことを言われた。なぜもっと早く言わなかったとも思ったが考えてみれば彼女が話す前にいきなり歓迎会にもつれ込んだのはこっちである。そりゃいうタイミングが無いわな。
しかしトゥキタ氏がすでにアポイントを入れているのなら、これを無視するというのも色々と後に響きそうだ。幸い航路はまだそれほど進んでいないので、航路を変更すれば目的のある惑星リリエに向かうことが出来る。ホント、もっと早く思い出してくれよ。ブツブツ。
それはさて置き、惑星ポフィーラから出港して一日の座標から針路を変更し、ちょっと巡航速度を上げて本来二日以上かかる行程を半分に短縮させた。惑星リリエに到着してからは、俺はすぐに地上へと降りた。緑いっぱいの惑星であるが、このリリエに見れるものはあまりないしその時間もなかった。
それもその筈で、この星にはネージリンス航宙軍傘下の国境守備隊が駐屯する軍事施設がある。ある意味この星事体が軍の基地みたいなものなので民間人が来ても面白い物はなかった。唯一の利点といえば軍人が多いので、治安を乱すヤツがほぼいないということだろう。
おかげで俺も特に仲間を連れてこなくても問題なく動いて回れる。実際はゼーペンストとの戦いに備えて皆忙しいから、今回の寄り道で比較的暇な俺と付き合える人間がいなかっただけなんだけどな。クソ寂しいじゃねぇけ。
それはさて置き、一人黙々と歩きやってまいりましたは守備隊駐屯地。近づいたところ、そこかしこでうごめく軍人たちからの鋭い視線がこちらに突き刺さってきた。それもこれもカルバライヤとのいざこざで緊縛した状態だからだろうが、ギスギスし過ぎだろうと思う。尻の……もとい肩の力抜けよ。
そう思いつつ駐屯地正面のゲートに回ると目的の人物がいた。地上に降りる際、軌道ステーションから到着の旨を伝えておいたが、まさか会うべき本人が出迎えてくれるとは思わなんだ。相手も此方を見つけたのか被っていたキャプテンハットを外し脇に抱え、こちらに歩み寄ってきた。
「君がそうか……、トゥキタ氏から聞いたよ。ゼーペンストに行くらしいな? おっと失礼。わたしはネージリンス航宙軍統合部所属のワレンプス・パルパトール大佐だ。よろしくたのむ」
そういって大佐は握手を求めてきた。こちらもそれに答え、差し出された手を握って返す。軍人だと聞いていたのでもう少しエラそうなのかと思ったが、なんというか思っていたよりも穏やかで礼儀正しい。比較対象がエルメッツァの某野心家なので何とも言えないが……っと。
「はじめまして、白鯨艦隊の長を務めさせていただいておりますユーリです。どうぞよろしく」
「ああご丁寧に、よろしく」
お互いに礼をする。なんだか意外と腰が低いので久しぶりに日本人を相手にしているような気分になる。まぁ外国人どこか異世界プラス異星人になる訳だが。
「しかし、こういっては失礼かもしれないが、随分と若いな。いや若いのが悪い訳ではない。だが若者はあまりこういった件にかかわろうとしないと思っていた」
「はは、トゥキタ氏にアレだけ頭下げられてしまうと断れませんでしたよ。ついでに、戦争が起こると(将来の戦力的な意味で)困りますので」
「ふむ、わたしは軍人だがそれについては同意するよ」
「大佐は戦争がお嫌いで?」
「ふふん、ドンパチが始まるとホモ野郎が増えるからな。だがいつの世にも戦争を望む阿呆共はいる。だからといってそれを座視ていたのでは終わりがない」
そういうと大佐は如何にも軍人らしいジョークを交え答えた。なるほど、穏やかで礼儀正しいが、それでいて軍人でもある。なんとも軍人らしくていいじゃないか。
「それに我々とカルバライヤは長い間、憎み合い過ぎたよ。知っていたかね? ネージリンスの多くのフネにAIが搭載され自動化されている部分が多いことを……」
「公式では技術力の賜物と発表してました、よね?」
「カルバライヤとやっていくために少ない人員をさらに割いた結果だ。これでドンパチしようものなら、やがてネージリンスの国民は全部ロボットになるかもしれないな、はは」
いや笑ってるけど笑える話じゃねぇよ。そりゃ戦争回避したいと思うわ。
「軍ってのは、実は戦争を回避するために存在する。好きで蜂に刺されようとしたり、毒入りの物を口にしようとする者はいないだろう?」
「あー、抑止力の倫理ですね? わかります」
「おお知っていたか。その通り、手出しをすれば命取りだと相手に思わせる。実際に戦えば両者共にタダでは済まないが、少なくとも互いに大いに痛手になる。そう思わせることで平和が保たれることもあるんだ」
「まぁ現状は相手もそれを見て戦力を増強するから、こっちもさらに戦力を増やしてのいたちごっこッスかねぇ?」
「耳の痛い話だがね。実際、わたしは平和を守りたい一心で軍へと入隊したのだ。フフフ、矛盾していると思わないかね?」
「されど軍が無ければ平和はなく。難儀なもんッスねぇ」
俺がかつて生きていた日本でも叫ばれた問題だ。結局のところ深い部分で人間ってのは進歩していないから、欲しい物は欲しいと素直に暴力に訴えちゃうアホなのよね。それに対処するのが目には目をなのか非暴力なのか……どれを選んでも人の業は深いってもんだ。
妙に他人事に考えているのは実際根無しの俺達にしたら他人事だから。0Gドッグの考え方は非常に単純だ。やられたらやり返せ。これだけである。ただし方法は一つじゃないと付くけどな。ドンパチにドンパチで返すか、ドンパチに交渉で返すかは自由なのだ。
自由で気侭、それが0Gドッグである。そして今の俺は自由ではない。だがまぁ、こういうのも一つの経験なので問題ない。多分な。
「そうだ忘れるところだった。ここの宇宙港にある艦載機設計社への紹介状だ。売っているのはエルメッツァの再設計機だが、ゼーペンスト領でも“同じ設計の機体”を卸している。直接動けなくて悪いが、支援出来ないかわりに役立ててくれ」
「これは、ありがとうございます?」
「うむ、それでは失礼する」
「あ、はい。さようなら」
うーん、実のところ独自に機体を開発して何故か元ネタがあるVF-0とかVB-0とかプロトタイプエステバリスやら、それらの派生機まで運用している現状。既存の航宙機に魅力があるかと言われれば微妙だ。あるとするなら既存機ゆえの入手しやすさと量産性と整備性くらいだろう。
とはいえ、それは運用する面での話であり、ワレンプス大佐が言葉に込めた意味を考えると、この紹介状は別の意味を帯びてくる。
「―――あ、ユピ? 俺だ俺、ユーリッスけど、ちょっと手空きの技術屋ども俺のところ合流させて。うん、できれば航宙機関連に詳しいヤツがいい。頼んだ」
さっそく携帯端末でユピに連絡を入れ、俺はリリエの航宙機設計社に足を運んだ。軍の御膝元の設計社なので大佐の紹介状を見せただけで奥まで通して貰えた。ここで手に入った艦載機の設計図は大まかに二機。設計元がエルメッツァ製の対艦攻撃機LG-0014ディミラと空間戦闘機LF-F-035フィオリアであった。
「さーて、必要なデータは入手したッスね。んじゃゼーペンストにのりこめー」
「「わーい^^」」
時間も惜しいので、設計図を入手後は済やかにフネに戻り、ゼーペンスト宙域を目指して出港した。惑星リリエの滞在時間、ざっと3時間である。そのまま巡航速度を来たときと同じく早めにし、大体2日で元いた座標まで戻ってきた後、すぐさま近くのゼーペンスト行きのボイドゲート【ネージリンス・ジャンクションδ】に飛び込んだのだった。
おお忙しい忙しい。
***
―――首都惑星ゼーペンスト
バハシュールの領地の首都星であり、領主の住む館……というか、現領主バハシュールの趣味全開で、宮殿の様にゴテゴテとした装飾が為された悪趣味な城がある星である。それでも主であるバハシュールにとっては御殿であるので、現領主はいつものように自分で選び抜いた美女たちを侍らせ享楽に溺れるような暮らしをしていた。
今日は何をしようか……彼の頭の中はこれで一杯である。
彼の考えを覗き見れば―――
美女たちと遊ぶ、Non!
それはほぼ毎日している。
遊びに出掛ける、Non!
自分の自治領は全て廻ったし、領主が自治領を放り出して他の星に遊びに行くのはプロブレムだよ!
ではよりよく自治領を発展させるために職務を……それこそNon!
疲れることはストレスになるし、ストレスは健康に悪い、領主はボクしかいないんだから体は大事にしないとNe!
―――と、実にくだらない思考が見えてくるはずである。
要するに引き籠って遊ぶ以外には何もしていない。そんなので自治領の運営ができるのかだが、先代が残した優秀な官僚たちにより問題なくまわされており、バハシュールのすべきことは実際ほぼなかった。
また気分屋で移り気で多動なバハシュールが混じった方が仕事に集中できず効率の低下を招く。むしろこうして美女や享楽を餌に城に引き籠っていてもらった方が幾分も仕事が楽であった。ただ享楽に費やす予算が年々増え、財政を圧迫しているのが問題ではあったが……。
多くの者はどうしてこのような凡愚が先代領主の後釜だったのかと悩む。後継者を指名する際、先代は何故このような人間を選んだのか理解に苦しんだ。それでも先代に多大な恩と忠義を誓った者たちは先代が決めたことを律儀に守った。
もしかしたら愚図の後継の長子も、いつか先代の如く聡明で人を導ける人物に成長する鳳雛なのかも……そんな淡い期待が常にバハシュールに向けられていたが、本人はどこ吹く風で遊びほうけていた。実際自分より優秀な人間が多く、自分は必要とされない。必要にもされず遊んでいてもいいと放置されれば確実に堕落する。ある意味で怠惰の犠牲者はそんなボンクラ2世領主バハシュール自身だったのかもしれない。
さて、そんなバハシュールの部屋に一人の来訪者があった。有事の際に自治領を守護する守備隊。その軍事を治める将軍ヴルゴ・べズンは美女に囲まれたバハシュールの部屋に入るや否や、すぐさま鋭い目で室内を見回した。筋骨隆々で軍人である将軍が放つ威圧感に、バハシュールに媚を売っていたお気に入りの美女たちは不満げにヴルゴを睨み付ける。
だが、男が腰の後ろに身に着けている柳葉刀に似た大型のスークリフブレードの柄に手を置いた途端、しぼんだようにして目をそむけて次々に退室していった。今日何するか考えるのに夢中の2世ボンクラ領主はそのことに気が付かない。
「ゴホン。バハシュール様、ご報告したいことがございます」
「Nn-、大食い大会ってのも、いや一人じゃ―――Nn?ヴルゴじゃないかよく来たね! ってアレ? 可愛い娘ちゃんたちは?」
「彼女らは気を利かせてくれたのでしょう。退室しましたぞ」
そうだったけ? と首を傾げているバハシュールのボンクラ具合に内心溜息を吐きつつも、この自治領の実質的な運営者であるヴルゴは先ほど挙がってきたことを彼に報告した。
「Aa-Ha-? 領内に侵入してきた艦隊がいるって? Nn-?なにか問題でも?」
「現在我が自治領は領主館に進入した賊のことを鑑みて、警備の強化および自治領内への他星系航海者の入領を制限しております。あなたの指示でそうしている筈ですが?」
「そうだったかな? でも、だったらとっとと所属国家に抗議すれば良いじゃないか、ヴルゴ将軍?」
自分で最優先だとドヤ顔で下した命令を忘れている領主に、ヴルゴは一瞬眉を顰めるがバハシュールの見せるふまじめなその態度には特に何も見せず報告を続行する。この領主が普段からコレなのは既に慣れてしまっていた。
もっとも垂れた頬とメタボ気味の体系以外の顔立ちはさすが血族だけあ実に先代に似ている為、もしかしたらという期待の感情が彼が怒髪天を突くことを阻害していた。仮にヴルゴが激怒すれば、ただのボンクラになった目の前の凡愚など、身体から出せる全ての液体をまき散らしながら腰を抜かすだろうに、先代の栄光はそこまで彼の眼を曇らせていた。
「それが、その侵入者は所属国家のない0Gドッグ、つまり民間人のようなのです。ですから警戒の為、本国艦隊の出動許可を頂きたいのですが?」
「HA-Nn? そんなことしたらココの警備が手薄になるじゃないかぁ」
「しかし―――」
言っても馬耳東風なので普段は淡々として終わるいつもの報告と違い、今日のヴルゴはすこし粘ってみせた。ネージリンスに続くボイドゲートを通り、国境警備の為に展開していた少数の警戒艦隊が鎧袖一触で撃破された。その報告を受けた時、先代の頃からこの領の守備隊の前身である艦隊を率いて戦い続けた彼は身体に震えが起きたのを感じた。
今回の不法侵入してきた艦隊に対して、何か運命めいたモノを感じたのだ。
彼が感じた感覚は、いわばただの勘である。だが歴戦の勇士でもあるヴルゴは勘といってもバカにできないことを知っていた。それで危機を回避したことも幾度となく経験している。
此度、進入してきた所属不明の艦隊は海賊などといった有象無象とはわけが違う、それこそこれまでバハシュール自治領が経験したことがない、全てを飲み干す大いなる災いが迫っている。そんな予感がしてならなかった。
しかし、そんなヴルゴの心配をよそに、実戦経験どころか一人で宇宙船すら運転したことがない2世領主バハシュールは適当に合いの手を返していた。
「わかったわかった。とりあえず警備の艦隊には気をつけるように指示をだしておくよ。ささ行った、行った」
はやく享楽の生活に戻りたいからか、シッシッとまるで犬猫を追い払うような仕草を取る領主にさすがのヴルゴも少し苛ついた。だが、これも耐えるべきことと自分をコントロールして静かに引き下がることにした。
この時、バハシュールが少しでも思考を美女と享楽から外し、普段と違う粘りを見せた将軍の態度の違いに気が付いていれば、もしくはヴルゴがより自身を開放し、ここで更なる上申を続けていたならば、あるいは彼らの運命も変わっていただろう。
「は……。ではこれにて失礼いたします」
だが現実は優しくはない。相変わらずの凡愚であるバハシュールにも、そんな2世領主に慣れてしまっていたヴルゴ将軍にも、女神がほほ笑むことなどありはしなかった。
再び快楽と享楽に興じる自分の領主。ヴルゴはその姿に何処かあきらめにも似た光りを眼にともしつつ、その場を後にした。一体どこで教育を間違えてしまったのだろうかと思うのは今更か。溜息を吐きつつも彼はもしや来るかもしれない自治領の脅威を考えずにはいられなかった。
***
―――ゼーペンスト領に入ってから約二日。
現在の俺達はゼーペンスト宙域のボイドゲートに最も近い惑星レイズに寄港後、ステルスを使わず悠々自適にゼーペンスト宙域の航路を進んでいた。敵の領域で惑星に立ち寄れるのかと思ったが、考えてみれば宇宙港は基本的に中立である空間通商管理局が運営している。なので寄港するのだけは容易であった。
ただし、寄港しても補給できるのはあくまで通商管理局が認めた無償補給の範囲内まで。その他嗜好品、専用機器の部品等は地上企業体との取引が必要である為に不可能であった。金にうるさい地上企業も流石に領主裏切るような真似はしないらしい。大量に専用部品や材料を積みこんできて正解であったと言える。
余談であるが惑星レイズに降りた際、地上で何やら病気が蔓延していたらしく、それを聞いた医務室のサド先生が酒飲んでる場合じゃねェとか言いつつも酒瓶片手に地上の医療官と連絡と勝手に取り、医薬品を分けてしまったので500Gほどの金が飛んでしまった。
標的は領主であるバハシュールと行く手を阻む者だけなので、地上の民に危害を加える気はない。とはいえ、せめて医薬品を勝手に分け与えるのはやめてほしかった。俺が艦長でなければサド先生の首が物理的に飛んでいてもおかしくなかったんだぞ。病気で苦しんでいる人達が助けを求めていたと先に言ってくれれば俺だって考えもするってのよ。
こういった面で許してしまうあたり、俺は他の現実主義で利己的な0Gドッグに比べると甘いとトスカ姐さんやイネス等から言われてしまった。でも人助けは悪いことじゃねぇよな。こういう気まぐれもまた俺であるので致し方ないのだ。そんな訳で予定外に医薬品を消耗したが、あくまで病気用の医薬品なので多分戦闘においては支障ないだろう。多分。
「艦長~、レーダーのロングレンジに感あり~、巡洋艦クラス3~」
「向こう気づいてるッス?」
「こっちの方がレーダーレンジ広いし、反応がないからまだみたいー。というかこっちが向こうの艦隊の後ろ取ってる感じよ~。進路もほぼ同じー」
「哨戒の帰りか何かだろうね。エコー、一応見つけた敵艦隊をマークしておきな。向こうが気づけば先制攻撃かましてドンパチだ。これでいいんだよなユーリ?」
「OKッス。徐々に外堀から潰しましょうってね」
さて、どうやら近くを敵艦隊が通過しているらしい。現在、敵戦力を釣り出す為に、あえてステルスモードを切って航行している。電子戦闘(EC)も今日のところはお役御免で休憩中。後でぞんぶんに使うだろうが、今は敵の戦力がどれくらいの練度があるのか知る為、あえてこうしていた。
「リーフ、敵艦隊と距離を詰めてくれッス。ストールは何時でも砲撃できるように。ユピも他の艦の操作頼むッスよ」
「「「アイアイサー」」」
「さて、どれくらいで気が付くかね。どう思うユーリ?」
「隠れ蓑はしてないから、しっかり訓練しているならすぐにでも気が付くッスよ。反転して攻撃してくるなら守備隊、そのまま逃げればよく訓練された守備隊ッス」
「ああ。気が付いてすぐに逃げれば、敵さんは自分らの力量を知っているってことになる。そういうのは手強いよ」
そう呟くトスカ姐さんに俺も同意した。さて、どれくらいで気が付くかな?
「―――……ぬ! 敵艦が増速しました~!」
「ミドリさん。敵さんの索敵範囲は?」
「およそ16000、当艦の基本索敵範囲の7割程度です艦長」
ふむ、小マゼランの巡洋艦の索敵範囲標準が12000~13000位であるところを見ると1000も大きい。いい索敵装置を積んでいるな。そういえば事前情報でバハシュール領の艦船や装備はネージリンス製が多いと聞いた。ネージリンスの特色として艦載機を運用する為、艦隊の対艦性能を補うべくいいレーダーを積んでいるのが多いらしい。なるほど、ピケットや哨戒には最適って訳だ。
「逃げたね。練度は高いみたいだ」
「こりゃ手強いッスね」
「―――ん~?あら~?これって~~あーやっぱりそうだ~~。艦長~ここからかなり遠いけど誰かが戦闘しているわ~。さっきの艦隊もそこに向かってるわぁー」
「……あれ? 敵さんが増速したのって」
「こっちを見つけた訳じゃなかったのかもしれないね。どうする?」
トスカ姐さんが聞いてくる。ここでのどうするは戦力調査を続けるか否かだ。うーむ、今のままでは敵さんがこっちを発見したからかどうなのか判断がつかないな。
「うーん、判断が付かないし、このまま前進ッス」
「ドンパチになるけどいいのかい?」
「まぁもとよりドンパチは予想されてたし、それよりも今はどれだけの索敵範囲か、それと戦闘の練度も知れるいいチャンスだと思うことにしたッス」
「だそうだ。各員警戒態勢だ。進路このまま。進むよ」
「「「アイアイサー」」」
まだ調査が足りないと踏んだ為、このままの速度で進行する。敵さんの練度および索敵能力が解れば、その分ステルスモード使用時の効果も上がるってもんだ。上手くいけば敵の警戒網を掻い潜り、本星にダイレクトでスニークアタックかけることも可能になるかもしれない。そうなれば楽なもんだ。基本的に領主どうにかすれば何とかなるからな。
「そういえば、誰がこの先で戦闘してんスかね?」
「ううん~、センサーの感からして、かなり大きいの~」
遠いから何処の誰だかは解らないけど~、とはエコーの談。大きい反応ってことは大型艦か、戦艦を持った海賊か何かだろうか? もしそうなら、そいつらも撃滅しておく必要がある。このまま対応を守備隊に任せて通り過ぎてもいいが、万が一海賊が残った場合、背後から撃たれたらかなわん。
「
「了解。命令を伝達します」
偶々自治領に迷い込んだ海賊の可能性もあるが、まぁ近づけば解る。そう考えた俺はセンサーで精密探査できる距離に艦隊を近寄らせた。まだ大分遠いがウチのセンサーならまだアウトレンジで探査可能であったからである。んで、近づいて見えてきたのは。
「この反応―――艦長~、先の敵艦隊の反応が戦闘宙域に入った途端いっぺんで消滅~」
間延びしたエコーの言葉だが消滅とは穏やかでない。3隻とはいえ巡洋艦クラス3隻を瞬時に破壊するとはかなり強大な何かがいるという事になる。どうやらこの先の戦闘はかなり大事のようだ。こりゃ調査とか言ってる場合じゃないか? いったい何が起きているんだ?
「代わりに新たな感あり~、解析はミドリにまかせるわぁ~」
「データ解析……艦長、エリエロンドに挑戦していた、あの軽巡洋艦です」
「あー、サマラさんに無謀にも一隻で突っ込んで玉砕したアレか」
「ユーリ、玉砕していたらここにはいないよ?」
いやだって、考えも無しに突っ込む馬鹿の乗艦が確か大マゼラン製の軽巡洋艦で艦種はラーヴィチェ級というヤツだったし。それにしてもヤツは一体なにと戦っているんだろう? サマラ海賊団は現在活動を一時停止しているから、エリエロンドも巧妙に隠されている筈で、おまけにこの宙域にはいない筈。
「もう片方は―――データ照合完了、艦種……ッ!?」
「報告はしっかりしな。アンタらしくもないミスだよミドリ。どうしたんだ?」
「す、すみません。艦種識別終了。グランヘイム級です」
「「「「え?」」」」
ミドリの報告に、ブリッジの空気が凍りつく。
「え? ちょっ? マジッスか?」
「まちがいありません。この距離でエネルギー探知機の計器を振り切る出力を出せるフネは、グランヘイム級しかありえません」
「なんてこったい/(^0^)\」
思わず頭を抱えた俺は悪くない。というか、異口同音で皆の心が一つになった。何故皆で頭を抱えたかといえば、ソレは目の前で交戦している内の片割れがヤバいヤツだったからだ。
大海賊ヴァランタイン。サマラ様と同じく大海賊だが、その恐怖の名声はサマラ様の比ではないマゼラン銀河で恐れられている男だ。その恐ろしさときたら、悪い子に悪戯が過ぎるとヴァランタインが来て攫ってしまうと脅し文句に使われるくらいメジャーな悪の総領として銀河規模に有名な海賊なのである。
俺も原作ゲームで知っていた敵ではあるが、こっちに来てから更にヤバいヤツだと思うようになった。暇な時間に色々とこの世界での情報を集め読んでいたが、原作以上にヴァランタインは立ちふさがる者に容赦がない。
どういった経緯があったのかは不明だが、彼は乗艦であるグランヘイム級というオリジナルの戦艦一隻で、いくつもの軍を壊滅させ、いくつもの星々を砲火の中に消し去ったという生けるレジェンドとして有名であったのだ。
特にその行動倫理が謎とされ、いくつもの考察掲示板が建てられる程であるようだ。彼が銀河をあっちこっち巡って周り、何かをしていることしか判明していない。それを邪魔するものは強大な力でもって薙ぎ払う為、常にランキングの頂点に君臨している。
とにもかくにもマゼラン銀河におけるナマハゲのような存在であり、出会ったら最後抵抗は無意味だから絶対反抗するなといわれている。だからかブリッジクルー達の士気が目に見えて低下しているのが解る。俺も各種逸話をこの世界に来て知ったからか、彼らほどではないがヤル気がドンドン低下していた。これは仮に、万が一、万に一つでも、砂粒の欠片並みの確率で、戦闘に入ったら苦労するだろうな。
そんなバケモノ相手に、何を血迷うたか件の軽巡洋艦。なんと針路を塞ぐように横っ腹をヴァランタインの乗艦グランヘイムに晒しているではありませんか。艦隊戦でいうならT字戦というやつだろう。無論Tの一が軽巡で、lがグランヘイムである。その全長の4倍はあろうかというグランヘイム級を相手取るのは、軽巡では些かどころか荷が重すぎだろう。
「……あれは自殺志願者なんスかね?」
俺が無意識で溢したことに誰も返事はしなかったが、心の内は同じらしく首をウンウンと振っていた。タダでさえ銀河最高のフネと名高い戦艦にカスタム艦とはいえ軽巡洋艦が一隻で勝てる訳がねぇ。
第一グランヘイム級の火力が違いすぎる。グランヘイム級はかつての弩級戦艦を彷彿とさせる形状をしており、前に真っ直ぐ長い艦首と、その軸線の円環に対角線上に四角くなるよう配置された4基のサブエンジンがある後尾が箒のように若干膨れて見える以外は流れるような形状をしている。
武装も見える範囲で凶悪で、艦体中央部に軸線の円環に沿って、上甲板を頂点にする三角形になるよう配置された三連装砲が虚空を睨み、そのすぐ斜め後ろにも同じような配置で計4基の副砲と思わしき単装砲が配置されいる。
それらの背後にはまるでドラゴンの面のようなブリッジタワーが聳え、タワーがある艦体を挟むようにあるサブエンジンの上には、単装砲ではあるが主砲と同口径と思わしき砲が4基、これまた軸線の円環に沿って四角く配置されていた。
これだけでも砲門数だけで15門の砲門があるが、それに加え多数の対空クラスターやミサイル発射管も見え、それこそ剣山の如き武装の山である。だがグランヘイムを更に凶悪かつ、宇宙最高の攻撃力があると言わしめる武装が艦首に存在する。
艦首軸線砲、すなわち波○砲のように配置された特別な大口径砲。データが正しいなら、それは反重力を用いた軸線反重力砲『ハイストリーム・ブラスター』と呼ばれる、必殺の超兵器が搭載されているのだ。もうこれだけで主人公のフネとか言っても納得できそうな装備具合である。俺なら尻尾巻いて逃げるぞマジで。
あ、とか言ってる間に、軽巡が後部単装主砲×4と前部三連装主砲×3の一斉射撃喰らってら。副砲と思わしき砲は速射砲らしく、主砲が冷却かチャージしている間バカスカ連射してる。一人無敵艦隊とでも呼ばれそうな弾幕でレーザーの砲弾が次々と軽巡を“掠め”て木端のようにフネを揺らしていた。
「あれでよく沈まねぇな」
「大海賊が戯れているんだろう」
「戯れで轟沈の危機って――あ、軽巡の攻撃がまぐれ当たりッス」
やけくそ気味にも見える反撃一撃が軽巡から放たれたが、グランヘイムはそれを避けようとせずに悠々と待ち構えていた。レーザー砲弾がグランヘイムの装甲板に命中するがしかし、まるで砂でも撒いたかのように細かな粒子となって霧散してしまった。
あとには無傷のグランヘイムが堂々たる姿で君臨している。やけくそとはいえ、命中した攻撃が全く効いていないのを見せつけられた、あの軽巡の乗組員の心境はいかほどだろう。少なくとも俺が軽巡の艦長なら心が圧し折れるな。
「ふーむ、今の攻撃を観測してグランヘイム級の装甲強度を計算してみたが、科学班からしてみて凄まじいの一言に尽きるな。どう思うケセイヤ?」
『技術屋としては一度でいいから分解してみたいね。逆にこっちがダークマターまで分解されるだろうけどよ。なはは』
そしてウチのマッド共はぶれない。怖いもんないんかい。
「どうするよユーリ?助けるかい?」
「いや、助けるって……言われてもねぇ?」
下手すれば三つ巴でグランヘイム残して全滅だろう。このまま静観すべきか、いや海賊は消毒だーっ!と色々かなぐり捨てて立ち向かうか。
―――どうしたもんかと俺が考えを巡らせようとしたその時であった。
「グランヘイムの主砲に高エネルギー反応。第二射の兆候を捉え――っ! 艦長。グランヘイムの主砲に動きあり、上甲板の三連装主砲の一基がこちらに向いています」
「ふひぃっ!?」
ミドリさんの報告に思わず飛び上がる。それってつまり大海賊にロックオンされているってことじゃねぇか! こちとら見ていただけなのに何でだぁぁぁっ! あれか? 目についたからとりあえず撃ってみようってか?! そういうのやめてよッ!
「TACマニューバ、緊急ランダム回避いそげッ! ユピッ! リーフッ!」
「はいっ!」
「がってんだ!!」
大慌てで艦と艦隊の運行を司る二人を見た。二人とも頷いて返事をするとユピが無人艦を退避させるべく、リーフがユピテルに回避運動を取らせるべく、それぞれに動いた。
全周囲索敵の為に俺達の艦隊は輪形陣を取っていたのだが、ユピの指令を受け無人艦たちが寸分違わぬ動作で回避行動に入る。駆逐艦や巡洋艦達は戦艦に比べ挙動が軽いのですぐに艦同士の間が開いて行った。
しかし、問題は巡洋艦たちに比べて鈍足のユピテルだ。彼女も全身に装備された核パルスモーターを限界まで回して射線から逃れようとしていたが、通常よりも大型ゆえに他の艦に比べて初動が鈍かった。ズィガーゴ級ユピテルは他の艦よりも全幅と全高が長い。その所為か中々グランヘイムの主砲の射線から逃れることが出来なかった。
ズゴゴゴゴッと艦体の軋む音とフネを揺らす振動が増す、リーフが核パルスモーターをオーバーロードさせたのだろう。後で修理が必要になるぞ、コンニャロめ!
「グランヘイムのエネルギー量、さらに増大。予測される次弾発射まで5、4、―――」
元々、主砲の発射態勢だったグランヘイム。それに対してこちらは緊急回避する以外に打つ手がない。発射までの秒読みがまるで死神の鎌のようである。その秒読みの最中に突如として体が横に引っ張られる感じを受けた。
爆発寸前までオーバーロードさせた核パルスモーターの力で、緊急回避による加速が艦内の慣性制御機構の許容限界を超えたのだ。俺を含めブリッジクルー全員が自分の席のアームレストを強く握りしめる。そうしないと振り落とされてしまいそうだった。
「―――3、2、1 攻撃、来ます」
次の瞬間、銀河で一番強いとされる大海賊の戦艦から、極光が瞬いた。
「グおっ!?」
地震もかくやの激震が俺達に襲いかかった! グランヘイムの三連装主砲から三条の光線が放たれ、白鯨艦隊の中央を突き抜けて行く。ユピテルの右舷側を通過したエネルギー弾から粒子爆発にも似た衝撃波が起こり、APFシールドごと艦を揺らしていった。
こ、こんな攻撃をあの軽巡は受けていたというのか!? アームレストを握りしめて踏ん張っていなければイスから投げ出されていたぞ?!。
「くそったれ、損害報告ッ!」
「至近弾、右舷側APFシールド展開率が若干低下しましたが機能は正常です」
「艦長、先の攻撃の影響でS級駆逐艦の6番の航法システム、およびKS級巡洋艦の2番のスラスター制御システムに異常発生しました。自動修理機構が作動していますが、運動性能が極度に低下。後退させ一時戦列を離れさせますよ?」
「Ou……」
掠っただけでこれかい……さすが宇宙最強は伊達じゃないってか?
「エコー、グランヘイムは?」
「えーとぉ……グランヘイム、後退していきますー」
「うっとおしくなっただけだろうが、なんにせよ助かった」
「見逃してもらえたってことッスか」
思わず強く握りしめていたままのアームレストを離した俺は、そのまま自分の席に倒れ込んだ。なんという迷惑な連中だ。気まぐれでフネ壊されたらたまったもんじゃ無い。かといってケンカ売る必要もないし、というかケンカしたくないのが本音だ。
巷に流れるヴァランタイン評判によると、あれは立ちふさがる者に容赦ない上に、一方的に戯れる気質があるのは先程の軽巡との戦闘を見れば一目でわかる。万が一戦いになれば、こちらの手札を全部ぶっち切る羽目になるのは御免だ。全てを失う覚悟がある者こそ真の強者よ、と言うが……俺はまだそんな覚悟ありませーん、ってね。
「……おや? まーた軽巡洋艦から通信スか?」
あいつ初遭遇の時もこっちに連絡してきたが……でたくねぇな。
「無視しちゃだめッスかね?」
「それが通信回線に強引に割り込もうと先ほどから猛烈なコールが続いています。正直うざったいので出てください艦長」
「あ、はい」
あー、これは多分“一言”もの申したいんだろうな。でもいつも冷静沈着なミドリさんの額に怒りマークを造らせるとはやりおる。ま、割り込むつもりなど毛頭なかったが、結果的に軽巡のバウンティの邪魔したことになるわけだし……。通信を無視してもいいが、どうも血の気が多そうだし変に仕掛けてこられても面倒だ。仕方ない通信に出よう。
さて、ケセイヤ製の耳栓を準備しましてっと……さーこい。
『オイィィィイイイッ!! テメェら何を邪魔してくれてんだっっっ!!!!! ―――ってまたお前たちか!!』
おうふ……耳栓を用意してたのに耳がイテェ。
『あん?人が話してる時に何うずくまってやがる?』
「何でも無い。こちら白鯨艦隊のユーリだ」
顔をあげホロモニターに眼をやると、そこには腰まである紅い鉢巻を巻いた青年が映っていた。不敵そうな面をした若者である。パッと見の印象は怖いもの知らずかな。
「それにしても随分とヤラれたみたいだな。軽巡一隻でとかむちゃくちゃだ」
『ぬぁんだとぉ!? わかった様な口きいてくれるじゃねぇかっ!! お前にヤツと戦ったことがあるとでも言うのかよ!』
「手を出すも出さないも、さっき飛んできた流れ弾だけで、こちらが勝てないと思わされたよ」
ホントは流れ弾じゃなく微妙に狙っていたようだが、説明が面倒なのであえて言わないでおく。ヴァランタインの思惑が解らんし憶測でモノを言っても意味がない。第一流れ弾ってのもあながち間違いじゃないしな。
『―――チッ、次は俺の邪魔≪ドーン!≫――なっ!?どうした?』
あやや? なんか決め台詞の途中、通信回線の向うで爆発音が聞こえたんだが?
『若! 不味いです! さっきの戦闘でかなりやられてしまって!!』
『あん? だったらすぐ修理すればいいじゃねぇか!最近だらしねぇな』
「どうかしたのか? なんかトラブルっぽいが?」
『テメェにゃ関係――『あ!そこの方!おねがいです助けてくださいっっっ!』――あ、こんにゃろ!! なに勝手なことしてんだ! 命令違反で宇宙に放り出すぞ!!』
俺に悪態を突こうとした青年艦長を押しのけて、副官らしき男が割り込んできた。 かなり切羽詰っていたようだったので俺は頷いて見せ続きを促す。青年艦長が力づくで画面端に抑えようとしているのを押し返しながら、副官(?)と思わしき人物は一気に安堵の表情を浮かべた。
『よ、よかったぁ~、実は先の戦闘でオキシジェン・ジェネレーターが破壊されまして酸素がピンチでしてね。それと装甲板の修理素材も底を付いていまして……そのう、できれば融通できませんか?』
『な! テメェ! この間ちゃんと補給しとけって言ったじゃねぇか!』
『その補給量を上回る形で戦闘ばっかりしたのは誰ですか! さっきだって向うが後退してくれなかったらどうなっていたか!』
『チゲェぞ? 後退していったじゃなくて後退させたんだ。流石は俺、最強の宇宙の男だぜ』
『若ァ………』
「………ワオ」
青年艦長の主張に俺は開いた口が閉じられなくなりそうだった。あれ? 何でだろう? 凄く眼がしらまで熱くなってきたぞ? なんかアホの子が目の前に居るよ? 青年の主張にとなりの副官さんが煤けてるぜ。
「あー、まぁモノによっては無料とまではいかないが応急修理くらいなら」
『施しは――『本当ですか!? あ、ありがたい!』―――っっっ! だから、テメェは回線に割り込むな!』
「イヤまぁ、とりあえず君は自分のフネをよく見てから考えた方がいいと思うッスよ。殻が向かれたエビみたいになってるッス」
正直、聞く耳持ってないので遠慮なくボヤイてみせた。案の定俺のボヤキは聞かれていなかったらしく、青年艦長殿は今、副官を締め上げるのに忙しい。
実際、彼のフネは何で撃沈されて無いのか不思議なくらいの状態で航行していた。装甲板は到る所がそげ落ち、内部機構が露出している個所も見受けられる。殻が向かれたエビと称したが、どちらかといえばスケルトンの方があっているかしらん。
また、武装という武装は破壊されるかひんまがっており、とてもじゃないが継戦は不可能だろう。海賊のフネ、あるいはこの宙域の警備隊に遭遇すればなすすべもあるまい。それに一番拙いのは、外から見て解るくらいに空気漏れが発生していることだ。EVAと思わしき人間がパテを片手に穴を塞ぐ作業を行っているが損傷個所が多すぎて追いついていない。
先の通信ではオキシジェン・ジェネレーターという宇宙船の空気を生成する生命維持の根幹システムが破壊されていると副官が言っていた。あそこまで激しく空気漏れを起こしていると、クルーの人数にもよるが長くは持たないだろう。流石にそれを理解していて見捨てるのは目覚めが悪くなるぜ。
実際、俺たちも主機関が珪素生命によってスクラムした時、偶然通りかかったフネに乗り合わせていたルーベに助けられたしな。ま、これも縁だし船乗りとして助け合いの精神は大事だろう。情けは人の為ならず、周り巡って何か縁があればよし。無くても救援したという満足感があれば、まあ悪いもんじゃないしな。
「それと航海者の最低限のマナーとして船乗り同士で助け合うのは当然のことだぞ。現にヤバいだろう? ココから一番近い惑星までは飛ばしてもおよそ1日掛かる。見た所エンジンも損傷しているそちらのフネが辿りつけるのか?」
『……グッ』
「解っては貰えたみたいだな。すぐに艦を寄せるぞ?」
『あ、ありがとうございます! 本当に助かります!』
『ケッ! ケェーッッ! かってにしろい!』
「安心しろ、その予定だ」
まったく、ここまで突っ張られるとむしろ清々しいな。副官さんはもう首が取れそうなくらいにブンブンと頭下げてるし……苦労してそうだなぁ。
「―――ってな訳で見ていた通りッス。勝手に決めて申し訳ないが流石に見捨てるのもどうかと」
「みなまで言わなくてもいいよ。皆、船乗りで0Gドッグだからね。さーて皆は聞いてたね? アバリスの工廠艦としての力を存分に振るうことになるだろうから準備しな」
『こちら格納庫、ケセイヤ了解だ。手透きの整備班は全部向かわせる。俺が行き次第アバリスのクレーンアームを作動させるぜ』
「科学班からも人員を出そう。序に調査してもよろしいか?」
「許可するッス。あらいざらい全部ッス。意味は解るッスね?」
「ああ、“あくまでも”損傷具合の調査だからな。“詳しく調べないと”どれくらいの応急修理がいるか解らないからな」
サナダさんはそういってニヒルに笑って見せる。むろん俺も同じ笑みをしていることだろう。
「ほう、損傷具合の調査ついでにグランヘイムの持つ艤装がどれだけ威力があるのか調査するのかい? えげつないことで」
「んふふ、応急修理にデータが必要なのは事実ッスよ? その結果、偶然グランヘイムの力の一端を知るだけッス。こんなことをする男は嫌いですか?」
そうトスカ姐さんに尋ねる。
すると彼女は口角を釣り上げて笑みになり、こう言った。
「むしろ惚れ惚れするね。流石の艦長殿」
…………………………
……………………
……………
こうして、色んな思惑を孕みつつも、とりあえず俺達はギリアスと名乗った青年艦長のフネを救援する為に動き出すことになった。
まずはかのフネを取り囲むように艦隊を動かし、空間輪形陣、あるいは球状輪形陣と呼ばれる三次元の宇宙空間ならではの陣形に移行させた。これらの陣形は周囲索敵を容易にするものである。俺達はこの宙域では既に警備の艦隊を敵に回しており、それらの早期発見を可能とする陣形を取るのは当たり前だった。
またグランヘイムが去ったと思われる方向にも無人のAEWを飛ばしており、万が一に備えた早期警戒も行わせた。何かの気紛れで戻ってこられたら作業中は動けないので的にしかならない。早めに見つけられれば最悪ギリアスのフネを見捨てて逃げられるようにしておくのだ。酷いようだが、これもまた厳しい宇宙で生き延びる方法だった。
周辺索敵を強化する指示を出したおかげで、索敵班を統括するエコーなどが休めなーいと悲鳴を挙げていたが知らんがな。これも仕事だと諦めてくれい。
さて、グランヘイム相手に命を懸けて奮闘し、それによって傷ついたラーヴィチェG級改装型、軽巡洋艦『バウンゼィ』。そのフネの持ち主で艦長である青年のギリアスは非常にプライドが高いらしかった。彼は救援されるのを快く思わなかったようで、ある意味強引に救援を行うことを決めてから更にヘソを曲げたらしく、必要な連絡事項の確認の間も終始不機嫌であった。
一応こちらは救援する立場である為、そんな彼の態度は少々腹に据えかねるものがあった。とはいえ救援すると決めたのを、その程度のことで放り出すのも、これまた大人げない。
幸い、ギリアスの副官さんが心底丁寧であり、礼節を損なわない対応をしてくれていた。こちらとしてもそういう方が望ましい為、重要でない事項は副官を通すようにしたことで色々とスムーズに進むようになった。無論ギリアスの眉間に更に皺が寄ったのは言うまでもない。
細かなやり取りの後、まずは工廠戦艦アバリスがバウンゼィに接舷した。アバリスには彼女の全長の半分はあるクレーンアームが存在し、補修などの作業で活躍する。アームが伸ばされるのと同時に作業用重機であるVE-0ラバーキン達が彼女の腹の中から発進していった。様々な作業用大型工具を装備したラバーキン達は、バウンゼィに取り付いて、それぞれが様々な作業を行っていった。
各部損傷個所の確認の後、攻撃を受け穴が開いた装甲板を切り離し、切り離した装甲板に合わせたサイズの鋼板を取り付け溶接した。これにより一番の問題であった空気漏れが一先ず落ち着きを取り戻した。少なくとも穴の開いた風船から、湯気が少し噴出した鍋程度におさまった。
また切り離す必要はないがそれでも細かな穴が開いた箇所には、瞬間凝固する特殊なパテを吹き付けて、とりあえず穴を塞いで対処していった。軽巡洋艦とはいえ一々この程度の損傷で装甲板を張り替えて行ったら時間も資材も足りない。応急処置ならこの程度で十分であった。
そして、この間ラバーキンおよび救援で貸し出した修理ドロイド達の記録装置は最大で稼働していた。後でデータ解析に回すためである。バウンゼィの性能は勿論、そのバウンゼィを攻撃したグランヘイムの兵装がどれほどのものなのか、ある意味値千金の価値がある生の情報が手に入るとあって、サナダさん率いる科学班は大賑わいであった。
「艦長、あのフネの副官さんからの補給して欲しいモノのリストが届きました。序に有償でも必要な物に関しては前金としてクレジットを渡すそうです」
「ん、あんがとユピ」
ホロモニターの新たなウィンドウが開き、艦長席の傍に浮遊する。それに目を通しながら俺は成る程と思った。グランヘイムの攻撃は例え向こうが戯れであったとしても凄まじい物があり、バイタルパートからは慣れてはいたが直撃を受けた部分の内部機構は破壊されてしまっていた。
その際、近辺に置かれていた物品の多くは、漏れ出した高エネルギー状態のインフラトン過粒子により多くが燃やされ灰となり、フネに開いた穴から虚空の宇宙空間へと排出されてしまっている。空気も吸い出された為、火災が広がらなかったのは僥倖だったのだろう。
だが、どうやら補給してほしいリストを見る限り、これは先の攻撃だけで消耗したのではないことがわかる。恐らくここまであまり宇宙島に立ち寄らず、補給をすることなく進んできたのだろう。バウンゼィの生活班が優秀なのか、運が良かったのか、本当にどれだけ戦闘を重ねればコレだけ消耗するのかってくらいの量を請求してきていた。
こんな些細なことでも、あちらさんの性格やフネの状態が大よそ読み取れてくる。特に眼を引いたのは医薬品の量だ。病気云々は殆どないが、多くが外傷薬といった部類の代物で他にも医療器具なりなんなりがレンタル可能かまで書かれている。
「ふむん。ユピ、ちょっといい?」
「はい艦長。なんですか?」
「向うに通信入れて?」
「了解です。ハイ、つながりました」
「ありがと」
ちょいと聞きたいことが出来たので、俺はバウンゼィに通信を繋げた。無論あの青年艦長に聞くのは恐らく時間の無駄なので、庶務を統括していそうな人物にまずは通信する。その人物は相変わらずオドオドとした感じで通信に出た。
『あ、はぁ、なんでしょう?』
「補給品のリストに眼を通したのだが――」
『ああ!やはり要求が多すぎましたか!?』
「いや、ウチのフネは過分に持ち歩いていたんで問題はない」
幾らなんでもオドオドし過ぎだろう。流石にこっちも引くぞ? そう思わざるを得ない程にかのフネの副官さんは気をまわしすぎであった。もう少しフランクにいこうぜ兄弟。
「それよりもこの医療物資に請求量。もしかしてかなりの怪我人が出ているので?」
『――ッ! お察しの通りです。若……もとい艦長に口止めされていたのですが、先の戦闘でかなりのクルーがやられました。死んだ者は少ないのが幸いですが、艦を動かすのには心もとないのが実状です』
「ふむ、なら我が艦の医療班も派遣しよう。助けておいて途中で力尽きて漂流されても後味が悪いので」
『それは―――いえ、かさねがさね申し訳ありません』
そう言って副官さんは俺にペコリと頭を下げた。何か言いたげであったが、ここまでしている以上、何か言うのは文句を言うようで気が引けたと見るべきか。まぁこっちとしてはグランヘイムの攻撃により、内部の傷病人がどんな具合かデータが取れるのである意味とってもゲスイ真似してるんですけどね。
「自由奔放艦長と真面目な副官か……。うん、胃薬をリストに加えておいてやろう」
この通信の後、事体は特に何も起こらず順調に進んだ。予想されていたゼーペンストの守備隊も出現せず、またグランヘイムも戻る気配はなく作業開始からおよそ4時間で大よその応急修理と補給が終わった。厳戒態勢を引いていた為ある意味拍子抜けであるが、こまけぇこたぁいいんだよ。
とりあえず、これでバウンゼィは動かすことができるだろう。もっとも時間を掛けない応急修理なので、これで戦闘になれば確実に沈むこと請け合いであるが、まぁ流石の青年艦長ギリアスもそこまで馬鹿ではあるまい。乗組員と自分の命が掛かっているんだからな。
「艦長。応急修理の全行程が終了しました。バウンゼィの副官さんから謝礼を申し上げたいと面会の希望が来ております」
「あー、頂けるものは頂いておく。ってことでミドリさんや、彼らを……そうっスね。食堂にでも案内したしてあげて」
「わかりました。そのように」
おやおや、ようやく現宙域から離脱できると思ったら、謝礼何てべつに言わなくてもいいのに(面倒くさいしな)。まぁ一応礼儀は礼儀だし、ここで断るのも変だしな。俺はこの場をオペレーターのミドリさんに任せ、食堂の方へと向かった。
***
「リス、す、スカンク、く、く……クマ、マリ、リス――あ、お手付きか」
さて、食堂で待っている間、暇であった俺はしりとりをしながら、副官と青年艦長が到着するのをノンビリと待っていた。一人しりとりってやってみたけど意外とつまらん。というかやっていて寂しくなるので、二度とやらねェ。
ソレはさて置き食堂の扉が開く音が聞えた。どうやら到着したようだな。結構待たされたが、まぁ最寄りのエアロックからここまで少し距離があることを考えれば早い方だろう。眼をやれば青年艦長と副官さんが食堂の入り口に立ち尽くしている。お客さんも来た訳だし、俺はお出迎えをする事にした。
だけど、この時つい自重というロックが外れちまったんだ。
「やぁようこそ我がユピテルの食堂へ、このバーボンはサービスだから安心して欲しい」
「「はぁ?」」
ただ木枯らしが吹く音だけが響いた気がした。おうふ、やっぱりだけど、この手のネタが全然通じないのって何か悲しいんだぜ。
「ようこそユピテルへ、本艦の艦長兼艦隊司令を務めるユーリだ」
「お前がこのフネの?」
「ど、どうもユーリ艦長殿! このたびは救援していただいた事をまことに―――」
「ああ、あまり恐縮しなくても結構。自分の事はユーリでかまいません。ソレはそうと立ったままも疲れるだろう。ここに座ってくれ」
副官さんの挨拶が長くなりそうだった為、少し悪いが俺は副官さんの挨拶を途中で遮らせてもらった。俺は向かいにあるイスを指さしながら、二人に着席するように促す。 青年艦長は微妙に警戒している様な感じだったが、ゲストとして来ているからか、ホスト側にあたる俺の指示には従ってくれた。相変わらず青年艦長君はふてぶてしい態度のままだったけどな。
しっかし、向かい合わせだと近いからお互い顔が良く見える訳だが、青年艦長ギリアスくん全っ然怪我してませんねェ。ブリッジ付近に攻撃を受けていなかったのは修理の際に確認済みだが、かなりグランヘイムの砲撃で揉まれた筈なんだが……。
「ふむ、あれだけフネがやられていたのに怪我ひとつ無いとは凄いな」
「――ッ! おう! その辺の連中とは鍛え方が違うからな! ヴァランタインだってさっきは逃げちまったが居場所はわかってんだ! 次は絶対ブッ潰してやるぜいッ!!」
おうっと!……ギリアスの大声で耳がキンキンする。
というか、何故彼は訪ねていないところまで話すんだろうか。
「ちょ、ちょっと若! さっきので懲りて無かったんですか!」
「あん? 懲りるって何がだ?」
ギリアスの言葉を聞いて副官さんが驚愕する。いやいや、普通アレだけヴァランタインのグランヘイムに翻弄されたら、普通はもう二度と相手にしないって思うもんだが。懲りてないのは大物だからか?
「いやはや、優秀な副官がいて良かったな」
「おう! コイツは優秀だぜ!」
偉そうに胸を張って答えるギリアス。つーか褒めてねぇよ。皮肉だよ。
「しっかし、ユーリ……だったか? 俺とそんなに歳も違わないのに、なかなかのもんじゃねぇか」
「だから若! 失礼ですって!」
「オメェはだーってろ。俺はギリアス。バウンゼィのギリアスだ。助けてもらったのは余計な御世話だったが……まぁ礼は言っておくゼ」
そう言うと恥ずかしそうに頬を掻くギリアスくん。うん、ナイスツンデレ!
だけどそれを野郎がやっても、ただ気色悪いって事をお忘れなく!!
「船乗りは助け合うのが古来からの基本だ。それに修理したとはいえ応急処置でしかない。近場の宇宙島に到着するまであなた方の航路が幸運に恵まれるように祈っている」
「お気づかい感謝いたします!」
「おう、あんがとさん≪……ググゥ≫――腹減ったぜ」
さて挨拶も終わり、これで終わりかと思いきや、唐突にギリアスくんの腹が鳴った。聞けば戦闘の後からこれまでずっと修理作業を自ら手伝い食事をとって無かったらしい。
へー、艦長席で踏ん反り返っているのかと思いきや通信にあまり出なかったのはその所為だったのか、すこし見直した。
「ふふふ」
「な、なに笑ってやがる! お前は腹が減らねェとでもいうのかよ!」
「いや、元気がいいのは良いことだと。何なら食べていく?」
「いいのか!? 助かるぜ!!」
てな訳で丁度食堂にいるってことで、飯を奢る事にした。
副官さんも怖々としながらもご相伴にあずかることにしたらしい。
ただ、まさかギリアスくんが常人の5~6倍食べるとは予想外だった。リアルでズゾゾゾゾとか音たてて飯を食うヤツを見たの初めてだぞ。お前はアレか? 燃費が悪い超戦士か何かなのか? それとも早食いのフードファイターでも目指すんかい。
「はっは、よく食べますな」
「お、おはずかしい」
料理を作ったタムラ料理長が少し満足げに呟いた言葉に、副官さんは恥ずかしそうにそう返事していた。料理人であるタムラ料理長にしてみれば、自分の料理を美味しく沢山食べてくれる人間は何よりも得難いモノなので嬉しいのだろう。もっとも副官さんとしては、恐らく遠慮もなく食べまくる上司に、羞恥している。そんなところか。
「まぁ、食材は十分にあるのでお気になさらず」
ウチの場合は艦内公園の一部を使って自家栽培もしてるしな。それにここは数千人の胃袋を支えている大食堂なんだ。フードファイターが一人現れたところで食材は尽きない。常に大目に積んでいるのは伊達ではない。
「――ぶはー! コレあと6人前!」
「「まだ食うんかい!?」」
「あん? 腹減ってるしユーリのおごりなんだからいいだろ?」
「いやー健啖でよろしい。作ってきますハイ」
確かに奢るとは言った。しかしお前は自重しろ。
「ところで以前もたしかサマラ海賊団とかと戦っていたな」
「んー? ああ、そう言えばそんな事もあったな。あのときもお前らが邪魔しなければ」
「若」
「はは、あの時は俺達も彼女に用があったからな。でも何でこんな危険な事ばかり?」
「俺は、とにかく速く名をあげなくちゃなんねぇんだよ。それに、よえーヤツと戦っても面白くねぇじゃねぇか」
ふと気になり訊ねてみれば理由は何とまぁ、そう言って嗤うギリアスの眼はギラギラとした何かで輝いていた。こりゃなんつーか筋金入りの狂犬だな。辺り構わず噛みつくってあたりがマジで狂犬である。
そして意外なことにギリアスに比べ比較的柔和だと思っていた彼の副官もまた、弱いヤツと戦っても~の下りでは首肯していた。実はああ見えてかなり武闘派だったのかもしれない。実際、こいつらの出身考えると文化が違うんだよなぁ……。
「ふーん、命あっての物種ともいうが、はてさて」
「ああん? 俺の生き様に文句あるってのか?」
いや、別に……そう答えようとした矢先。
「でも……無茶な戦いはダメだと思う……。怪我したり、死んじゃったりするのはダメ。そんなの哀しいよ」
「だれだ!?」
俺が答えるよりも早く第三者の言葉がこの場に降りる。ってかチェルシーじゃん。
「……ありゃ? チェルシー何時の間に?」
「さっき出前が終わって帰ってきたの。そうしたら話が聞こえてきて」
ああ、彼女は食堂勤務だから、成る程遭遇しても不思議じゃない。偶々聞えたギリアスくんの言葉にちょっと思うところがあったから口を挟んだのだろう。でも流石のギリアスも頭ごなしに否定されたらポリシーを貶されたとか思わんかな?
「………(ぽー)」
「ちょっと、若」
「あ? ああ、一理あるよな」
「―――ッ!? 若が人の意見に同意を示した!? 明日は宇宙乱気流が起きる!?」
「おいこらテメェ。とりあえず表でろや」
「表は宇宙ですから死にますよ?!」
「いっぺん死んで来い」
なんだァさっきの間は? チェルシーのほうを向いたまま呆けていたってことは、まさかこいつ一目ぼれしやがったか? いや冗談でなくこいつたしか原作でもチェルシーにアタックしかけてたような……大事な妹はわぁたすぁんぞぉぉ(cv若本)
「ところでユーリよ。お前たちこそ、こんなとこで何してんだ? このゼーペンストは結構ヤバいところだぜ?」
「まぁ、それなりに目的があってね」
「ほう、何やるつもりなんだ? 一応お前には借りがあるから、手伝えるなら手伝うぜ?」
「言っても良いけど多分ドン引きすると思うが覚悟はいいか?」
「は! 俺がか? んなの聞いて見てからじゃねぇと解んねぇよ」
「簡単にいえば、この自治領を潰します」
「―――はぁ!? つーことはあれか? バハシュールを殺るだってぇ!?」
驚きで大きな声を挙げるギリアス。ていうかうるせぇよ。鼓膜にダメージ与えるレベルの声挙げんな。うん? あれ? チェルシーが気絶した? つーか副官さんまで?! ギリアスの声は音響兵器かよっ!?
「「あ~う~……」」
「すまねぇ、こっちの阿呆は兎も角。まさか女がこんなに弱いとは……」
「ギリアスよ。女性は強いけどデリケート。覚えておけ」
気絶したチェルシーと副官を近くのイスを並べて作った即席ベッドに寝かせた後、俺達は再び話し始めた。しっかしギリアスくん。自分の声が原因で女性が倒れたのが少しショックだったのかチラリチラリと我が義妹を覗き見ている。
うーん青春だねェ……そう思わずニヤついてしまうのはおっさんに入りかけだからだろうか? いや憑依してからそれほど時間経ってないし、俺は実際20代の筈! いや、しかし……。
「話しを戻すがマジで自治領攻めるのか?」
「……うん? ああ本気さ。そうでなかったらこんな所まで足は運ばない」
あっぶね。俺がおっさんか否かで思考の海に入り込みかけていて返事が遅れてたぜ。
とりあえず、ゼーペンスト宙域にカチコミを掛けた理由をおおざっぱに説明したところ、さすがのギリアスも驚いて唖然とした顔を見せていた。ある意味レアな表情である。
私利私欲で自治領を制圧に来るのはよくある話だが、そうではなく全く関係ない他国の戦争を止めたいという壮大な話に繋がればそんな反応にもなる。慈善家でもやらないだろうことを平然と行おうとしているのだ。頭の病気を疑うか、あるいは誇大妄想かと取られてもしょうがないことである。
しかし、意外なことにギリアスはこちらの目的を聞いても笑い飛ばしたりせずに聞いてくれた。それどころか何だか目を瞬かせている。これはアレだ、こう猫とかが面白いモノを見つけた時、エモノとして見ている時のような……。
「おもしれぇ! 俺もいっちょ噛ませてもらおうか!」
「――はぁ?」
そして予想だにしないことを口にしたギリアス。おいおい、普通こんな話聞いたら関わらないようにするだろうが……って忘れてた。こいつは御祭り騒ぎが好きなんじゃなかったか? くそ、原作キャラの情報くらい覚えてろよ俺。
……いや、まてよ? これはある意味都合が良いかもしれないぞ?
「俺は何時だってマジで全力だぜぇ。それに一国の艦隊とやり合おうってのが気に入った!」
「ふむん……それじゃあ、じゃんじゃが手伝ってもらうッスか」
「あん? なんか話し方が変わったなオイ? そっちが地か?」
「いやなに。こんな大それたことを手伝ってくれるっていうんスよ? そんな相手に猫被るのは失礼っしょ?」
頼むぜ相棒。そう最後に付け加えたところ、ギリアスは任せとけと胸をドンッと叩いた。ちょ、ちょろい。この子ちょろすぎますわよ!? 好感度高めたら“心の友よ”とか言い出しかねないぞコイツ。
「いいねぇー、自治領とは言え小国の軍隊相手に喧嘩祭りか! 盛り上がってきそうだぜい! それで俺は何をすればいい?」
「では、お願いしちゃおうっかな~」
この時、俺はゲヘへとかなり下種な笑い方をしていたという。実際、こんなことを頼めるのは猪突猛進してくれるギリアス以外には頼めない。予想外なところで予想外の協力者を得られたともいえる。いやホント予想外デス。
その後、気絶から復帰した副官さんにも、この件について話をした。副官さんはおずおずと断りたそうにしていたが、すでに上司が採択済みで逆らえず、結局なにも言わぬまま、俺達が別れるまでそのままであった。
そして自分のフネに戻って行った彼らは、まずはフネを完全に修理するとのことで、俺達の艦隊と別れた。近場の宇宙島へと向かうバウンゼィを見送りつつ、俺達もまた俺達の目的の為に発進したのであった。
さぁーて、忙しくなるぞー。
これが今年最後の更新かも。
皆様、よいお年を。来年もよろしく。