何時の間にか無限航路   作:QOL

37 / 44
連投その2です


~何時の間にか無限航路・第35話 ネージリンスinゼーペンスト編

■ネージリンス編・第35章■

 

 

 さて、無人とはいえ駆逐艦10隻ロストという予想外な損害と、ついでに多くの捕虜を得たが、それは一度放置し、急ぎ足で首都惑星ゼーペンストへと俺達はやってきていた。

 

 すでに自治領の守備艦隊は全て出撃していると、虜囚となったヴルゴ将軍から軽く聞き出していたので、衛星軌道上に近付いても迎撃ミサイル一つなく、とても静かなもんである。襲撃の心配はほぼ無いので、悠々と惑星のステーションへと航行していた。

 

「いやぁ、時間食ったときはどうなるかと思ったけど、案外何とかなったッスね」

 

「意外と粘ったからね。でもこれで本国艦隊は壊滅状態。すこしは楽に進められるさ」

 

「イネス。お前さんのお陰ッス。ありがとう」

 

「あ、ああ……、まぁ計画通りって言っておこうか」

 

「おいこら、褒めた途端に頬を赤らめるな気持ち悪い」

 

「あげて落とすとか、もうすこし労わってほしくて!」

 

 律儀に反応してくれるイネスが面白くて、ついやっちゃうんだ~☆

 

 そんな阿呆な事をしている間にもフネは進み、自治領の全域が見える距離まで近付いていた。そろそろ艦載機を展開すべきかと思考していると、となりにいたトスカ姐さんが外部モニターを指差して俺の方を叩いた。

 

「お、見てみなユーリ。ここにもデッドゲートがあるよ」

 

「そう言えばアルビナさんの説が正しいと――」

 

「そう、エピタフ遺跡の近くにデッドゲートはよくあるってことだネ」

 

「む! その特徴的な語尾わ! ……って、教授じゃないッスか、なんか用スか?」

 

 見れば何時の間にかトスカ姐さんとは反対側、ユピの横にジェロウ教授が立たれているではないか。というか俺に気配を悟らせないなんて―――教授、恐ろしい人!(○影先生調)

 

 俺が白眼でフフフと笑っているのを軽くスルーする教授。流石に慣れてきてしまったようだ。く、悔しい、でも感じち(ry

 

 まぁふざけんのはそれくらいにしてっと。お話しを聞きますか。

 

「で、結局何しに?」

 

「なに、散歩だヨ。戦闘中は開発が出来ないから、微妙にヒマなんだヨ。ソレはさて置きさっきのはなしだけどネ。アルピナくんが最近この宙域でヒッグス粒子の検出回数が上がっていると言っていただろう? あれ、ヴァランタインがこの宙域にいた為ではないかナ?」

 

「ヴァランタインがッスか? なんで――」

 

「彼もエピタフを良く狙うらしい。ということはエピタフも当然幾つか入手しているだろう。フフ、どうやら彼女の自説は裏付けられてきたようだ。オモチロクなってきたネ」

 

 そう教授は言い残すと、エレベーターの方に向かいブリッジから去っていった。自分の弟子の説が証明されるってのが嬉しいのかもな。教授は変な人ではあるが、一応人間の感情って言うもんを持っている。嬉しい事は嬉しいって言えるのは、ある意味良い性格だよな。

 

……………………………

……………………

……………

 

 

 惑星に降りる為にステーションへと入ろうとしていると、通信が入ってきた。

 相手はバウンゼイのギリアスから、はて、なんか用だろうか?

 

 

『おい、ユーリ、聞いてやがるか?』

 

「どうかしたッスか、ギリアス? お腹すいたッス?」

 

『大丈夫だ。ちゃんと食って力は入ってる。って、そうじゃねぇ! まぁいい、とにかくな? さっきの戦闘で一部のミサイルを食らったんだが、そいつがどうも良い感じにセンサーの幾つかをもぎ取ってくれたらしくて調子が悪い』

 

 そうギリアスが言うと、通信画面にバウンゼィの概略図と、損傷を受けた部位のクローズアップが画面右下に表示された。副官さんが気を利かせて表示してくれているようだ。ギリアス? こいつがそんな細かい芸当するかよ。

 

『幸いセンサー本体は無事だが、アンテナを含めた外部パーツが特注でな? 管理局に問い合わせたんだが、この宙域では扱ってない部品なんだ。悪いんだがここらへんでお別れだ。まぁテメェなら問題ないだろ』

 

「あーなら仕方ないッス。いやココまで手伝って貰えただけでもありがたいッスよ」

 

『すまねぇな。最後まで手伝えなくてよ……。またいつか会おうぜ! それじゃあな!』

 

 ギリアスからの通信が切れ、彼の乗艦バウンゼイはインフラトン粒子を靡かせて宙域から離れていく。この時、彼も残っていてくれればあの事態は回避……出来なかっただろうなぁ。

 

 

 

 

 

 それはともかくとして、ゼーペンスト艦隊を罠に嵌めたので敵がいない首都惑星に降り立った俺らは、市街地は無視して一直線にバハシュール城を目指した。

 個人的には宇宙艦隊で地上爆撃を行い焼き払いたいところだが、宇宙用の兵器は地上で使うと環境への被害が半端ではないし、なによりバハシュール以外の人々は基本的に無実である。

 

 何より0Gドッグが従うべき最低限のルール。アンリトゥンルールが地上の民への攻撃を禁じている。アウトロー気取ってるけど、流石に超えちゃいけない線ってのは存在するんだよな。何よりこれ破っちゃうとこれまでの功績や名声が水の泡、これ0Gドッグの辛いところね。

 

 まぁそんな訳で地道に地上を侵攻するしかない。艦載機も海賊拠点ならともかく、一般人がいる領内での使用は地上攻撃とみなされるので出来ないと見ていいだろう。

 精々が上空からの偵察くらいか。傭兵のトランプ隊の出番無くなってザマァ(笑)とか言ったら、歴戦の彼等に反乱起こされるかもしれないのでいえない、ヒント俺チキン。

 

「こけーこっこー!」

 

「艦長?」

 

「ほうっときなユピ。ユーリも男だから時々叫びたくなるんだろうさ」

 

「はいトスカさん」

 

 すんません、奇行をとってる自覚はあるんで憐れまないで。逆に辛い。

 

 まぁなんで行き成り叫んだかといえば、市街地が圧倒的に暇ッだったからだ。自治領の中心地なだけあって、たぶん普段は守備艦隊に護られているから、迎撃施設のような無骨な設備がまったくないのよね。

 

 街中も美術館なり博物館なり歌劇座なり、文化的な施設ばかりが目立つ。これがシビライゼーション的なゲームなら文化勝利狙ってるとかなんだろうが、あいにくゲームが違う。ありえるのは文化の中心地だから景観の悪くなる物は置かないんだろうかね?

 

 しかし市街地を抜けたところで、俺達の進撃は一度停止してしまう。地上を護る衛兵だと思われるのだが、それらが市街地で待ち構えていた。

 彼等は統率が非常に取れており、城に繋がるルート上の各所に展開。車やトラックといった車輌で即席のバリケードを作り、軌道エレベーターから降りた俺達の進撃を妨害してきたのである。

 

 市街地の無抵抗感とは対照的に、待ち構えていた彼等の抵抗は苛烈であった。特に敵の中に対メーザーブラスター対策の携帯フォースフィールドを張る敵兵がおり、こちらの白兵戦武器が効果的に働かないという事態に……。

 あれ凄く高いんだけど、腐っても自治領本星の警備兵ってことなのかね? それにしても、この宇宙開拓時代で互いに剣を使って斬り合いをするとはね……、人は、過ちを繰り返す。

 

 もっとも、この敵兵たちがとった戦法は、ヘルガが素手で吶喊した所為で、早々に瓦解してしまったのには、こちらとしても驚いたけどな。

 

「じゃよー」

 

 見た目は美女であるヘルガが、陸上選手もビックリな速さで走ってゆき、バリケードを容易く突破。スークリフブレードを持った近接衛兵を達人の如き動きで翻弄し、その白魚のような華奢な手足で千切っては投げ千切っては投げの無双状態……。

 

「これが邪魔臭いんじゃよー」

 

 そのついでにフォースフィールド発生器を破壊。フォースフィールドが消えた事でエナジー系の武器が使用可能となったのだが、彼女は止めとばかりに両方の掌からプラズマエネルギーを拡散放射しつつ飛び回り、さらには眼から出力を弱めた水晶体レーザーで生き残りの意識を完全に絶っていった。

 

 なんていうローリン○バスターラ○フル。宴会の時にその熱気に当てられた彼女が、良くかましている宴会芸なので、俺達にとっては見慣れたもんなんだが、まぁあちらさんが知る訳ねぇわな。

 それに素手とはいうが、電子知性妖精のプロトタイプ素体で作られたヘルガは、マッドなケセイヤの趣味により、素手に見えてもこれ全身武器の塊である。彼女に触ると火傷するぜ(消し炭になります)

 

 そんなヘルガのお陰で、人間って十メートルくらい飛ぶんだとか思いながらも、戦闘はこちらの優勢で進められた。この無双はヘルガが飽きるまで彼女の続いたのはいうまでもない。相手になった敵兵さん、南無。

 

「へぇ、なかなかの打撃力だ。どれ、私も………あーれま、たったの一発であの様かい?」

 

「トスカさん、何時の間にバズを」

 

「いやー、意外とスカッとするもんだね。コレ」

 

 トスカ姐さんェ。

 俺の隣で俺のよりデカい、冷却機から水蒸気を吐きだしているエネルギー式バズーカを抱えているトスカ姐さんが呟いた言葉に思わず突っ込む。いやスカってするってあーた。

 

「連射が出来ないのが難点だけど攻撃力は中々じゃないか。敵も派手に吹き飛ぶし、いいねいいね。気にいったよ」

 

「「「……(渡しちゃいけない人に渡しちゃいけないのが渡っちゃった)」」」

 

「さぁ、次の連中をブッ倒しにいこうか!」

 

「ヘルガも頑張るんじゃよー、ぶっこんでいくんじゃよー」

 

 ヘルガ、格闘戦に嵌る。トスカ姐さん、バズに嵌る。

 とりあえず、敵さん南無。

 

「さてと、バリケードも突破したし、このまま城まで一直線に―――」

 

「艦長。バリケードにいた人が持っていた端末調べたら、周辺に展開している部隊の情報が出てきました。どうしますか?」

 

「………後顧の憂いとなるものは排除しとくべきッスかね? ユピ、一番敵が多いのは?」

 

「はい、この地点ですね。ちょうど目的地との中間にあります。ここに集結して地上を進むこちらへ対処するつもりだったようです」

 

「どらどら? ふーん、ここに集結、ねぇ?」

 

 ユピが空間投影しているホロモニター、そこに映る地図に記された敵の集結地点。比較的大きく、そして頑強な構造物があるところ。

 

「収容施設。まんまのネーミングッスね」

 

「もしかしたらいるんじゃないかい? ご依頼のお嬢様がさ」

 

「行ってみれば解るッス。行けば解るさ」

 

 そんな訳で、とりあえず敵の集結地点を強襲することになった。

 時間は大体30分。え?なんの時間かって……、そりゃ制圧が終る時間である。原因はバズの魅力に嵌った姐さんと、ヘルガ。あとは言わんでもわかるだろう。

 

「なんか、えらく人が沢山収容されてるッスね」

 

「犯罪者……、じゃねぇな。記録によれば殆どが政治犯や思想犯、体制に歯向かう連中を閉じ込めていたようだ」

 

「あれ? バリオさんいたの?」

 

「…………、地上に降りてからずっといたが?」

 

 さーせん。

 

 まぁそれはともかく、どうも専制君主たるバハシュールに反感を持つ人間は意外と多かった様だ。支配者に逆らう人間は、すべからく犯罪者って訳ね。

 

「それにしても、ホント沢山ッスね」

 

「余程小心者の専制君主なんだろうな」

 

「もしかしたらさらわれたキャロ嬢もここにいる可能性もあるッスね」

 

「それじゃ俺はデータを当ってくる。ユピくんを借りてもいいか?」

 

「いいんじゃないッスか? 機械関係なら詳しいし、ついでにヘルガもつけるッス?」

 

「そうしてくれると「ヘルガは行かない、じゃよーっと」……理由を聞いても?」

 

「一つ、PC相手ならユピのどくだんじょーだから、二つ、ヘルガは自由に動いていいと許可を得ているから、三つ、艦長の傍を離れたらつまらんから」

 

「………、なんとも自由なこって。ユピくんはいいかい?」

 

「あっはい。大丈夫ですよ。お手伝いします」

 

「がんばっといでねー」

 

 バリオさんがユピを連れて去っていくのを手を振って見送った。

 

「ところで、付いて行かないほんとうの理由は?」

 

「あやつ。まだ新米だった頃にヘルプGの予約入れておいてすっぽかしたんじゃよー、悪い子は苦労すればいいんじゃよーっと」

 

「あー、なるほど」

 

 ヘルプGであったヘルガからすれば、教えを聞かない奴は嫌な奴って感じなんだろう。俺は教えてもらえる知識が面白かったのもあるが、なによりゲーム画面でしか見れなかった光景を生で見れるからかなり意欲的に授業は受けた方だぜ。

 

「そういうわけじゃから、キチンと聞いてくれていた艦長はいい子なんじゃよー」

 

「おう? おう~」

 

 ヘルガの撫でる攻撃。俺はなんだか気持ちよくなった。

 

「………、ユーリ。ナデナデしてもらえて良かったねぇ。とりあえず仕事しろ人垂らし」

 

「なんスカ不機嫌そうに……、ああトスカ姐さんも撫でてもらえばいいじゃないッスか」

 

「いや何でそうな「おうおう、2代前のワシがおぼえちょる。嬢ちゃんもいい子じゃッ他なー、ヘルガが撫でチャル、じゃよー」おいやめっ! というか嘘だろそれ! 髪が乱れるってば……、もう」

 

「口ではそういいつつも振りほどかないのでしたっと。それはともかく収容所の人間から使えそうな奴を見つくろっておいてほしいッスよ、トスカ姐さん」

 

「アンタあとで覚えてな。―――まぁいい。成程、確かにバハシュールに反感を持つ人間なら仲間に引き入れやすいだろうしねぇ。よし、まかせときな」

 

「なでなでするじょー」

 

「ああもう、後にしておくれよ」

 

 なんだかんだでイヤではないのだろう。ヘルガのナデナデをやんわりと外し、姐さんはこの場から出て行った。いや実際気持ちいいのよね。わちし、逆ナデポしちゃいそう。

 

「んじゃ、また艦長に、じゃよーっと」

 

「Oh……、おう?! おう~~」

 

 

 

 

 この後は適当に収容所の中を調べて回っていた。ヘルガ? まだ付いて来てますがなにか? 彼女に自由行動していいって許可与えてからホント自由に動き回る。どんな精神マトリクスを組み上げているのか、とにかく最近の行動基準がわからん。

 

 まぁそれよりも今は捜索を続けよう。そう思い、バリオさんたちの情報の洗い出しが終るのを、適当に幾つかの部屋を覗いて回って待っていたのだが――――

 

「……あら?彼女は―――」

 

「これはまたべっぴんさんじゃよーっと」

 

 収容施設の一室に金髪の少女がポツネンと一人座っている。どうみても政治犯には見えないし、正直この環境のなかでは非常に異質だ。コイツはもしかすると―――

 

「艦長、ファルネリの嬢ちゃんに聞いてみればいいとヘルガは思うんじゃよー」

 

「確かにそうッスね。んじゃ取り出したるは携帯端末、ファルネリさんにピポパっと―――。あーもしもしファルネリさん、ちょっと確認して欲しい事があるんスが?」

 

『何ですか? 私は今お嬢様の探索にいそがしいんです』

 

「それは解るんス。なのでとりあえずこの映像をご覧ください」

 

『――お嬢様!』

 

 ビンゴ。この反応、どうやらやっぱりこの独房の少女がキャロ・ランバースらしい。携帯端末の空間投影一杯にファルネリさんが顔をドアップにしている。正直怖ッ。

 

「場所は4階のDブロック何スけど……」

 

『わかりました今行きまぁぁぁぁ……――――……すっ!只今到着!」

 

「はや!?」

 

「彼女、センサーでは2階にいたんだけど、じゃよー?」

 

「お嬢様への忠誠心のなせる業です!」

 

 ………そうなのかー。

 

 まぁいい、とにかくキャロ嬢の居る部屋のロックを解除しよう。ファルネリさんが早く開けろとうるさいので、ヘルガに頼んで自動ドアの解錠(物理)をお願いする。結構凄い音と共に自動ドアが外れ中に入れるようになった。

 

 中を覗きこむと、赤いベレー帽をかぶり、同じ色のどこか懐古めいた……、強いて言うなら俺がいたころの地球的なデザインの服を着た、金髪青眼の少女が佇んでいた。この突然の事態に少し戸惑った顔をしていた少女に、俺は―――

 

 

「―――問おう……貴女がセグェン氏の孫娘か?」

 

 

 なんとなくフェイ○風にやっちゃったんだー☆

 だって金髪青眼の少女だったんだもん。反省はしていない。お陰で生身の身体で時を止めてやった! ふふ、周りの視線が痛いぜ!

 

「そ、そうよ?貴方は?」

 

「俺? 俺は「おじょうさまぁぁぁぁぁ!!! ごぶじでしたかぁぁぁぁぁ!!!」ちぇりーぶろっさむ!?」

 

「え!? ファルネリ!?」

 

「おー、まるで新聞紙でたたきつけたGのような、じゃよーっと」

 

 俺が自己紹介をしようとすると、ファルネリさんが俺を押しのけて部屋に突撃してきた。その為俺は壁にビタンと張り付くように叩きつけられた。おのれファルネリ。それとヘルガ、状況分析してるくらいならタスケテ。

 

「貴女も助けに来てくれていたのね?」

 

「ええ、ええ!本当に良かったわ……、よくぞ、ご無事で……う、うぅ、うわぁー」

 

「ちょっ?! 泣かないでファルネリ!」

 

「だっで、だっで~! 無事でぇ~~」

 

「あーもう! 感動とかふきとんじゃうじゃないのよー!」

 

 あー、感動?の再会は良いんだけど、俺壁の滲みになっちゃいそうなんだけど? だれか気付いてくだしゃあ。

 

「ほいっと、世話がやけるんじゃよーっと」

 

「けほっけほっ……、お、お嬢さん、怪我は無いッスか?」

 

「あ、貴方の方こそ大丈夫なの?」

 

「大丈夫、鍛えてるから」

 

「鼻から血がどくどく流れてるけど?」

 

「ああ、大丈夫。こんなのすぐに止まるッス―――ほら止まった」

 

「え!? 早いよ! ていうかもう治ったの?!」

 

「なれてるッスから」

 

「じゃよー(ホントは暗殺防止用の医療ナノマシン仕込まれてるだけなんじゃけど、言わぬが花ってもんじゃよーっと)」

 

 慣れてる慣れてないの問題じゃないと思うけど……、と冷や汗を流すキャロ嬢。いやホントある意味慣れてるんだよな。自室の重力弄って、自分の身体を鍛え始めたのはいいけど、最初のころは重力に逆らえなくてよく転んだからねぇ。俺の鼻の骨は何回も折れています。医療リジェネレーション技術とナノテクノロジーに乾杯。

 

「ふぅ、まぁソレはさて置き貴方ユーリって言ったわね?」

 

「おぜうさま~」

 

「ああ、そうっスよ」

 

「………白馬の王子さまにしては安っぽい感じ。でもまぁいいわ、私、信じてたの。お爺様がきっと私を助け出してくれるって」

 

「はぁ……」

 

「おぜうさま~」

 

「ご苦労だったわ。あとで私からもご褒美を上げる」

 

「ほう、そいつは楽しみッスね」

 

「おぜうさま~」

 

「さ、すぐにおじい様の所に連れて行ってちょうだい」

 

「おぜうさま~」

 

「ああもう! 少し静かにしててファルネリ! 抱きついててもいいから!」

 

 さっきからずっとファルネリさんのキャラ大崩壊しております。つーかファルネリさんや。さっきからスルーしてたけど、幾らお嬢様が見つかったからってキャラ壊れ過ぎ。

 

「お爺様のところッスか。うーん、ちと難しいッスかね」

 

「どうして? 私はすぐに帰りたいのよ? お風呂だって入りたいし、着替えもしたいの。こんな埃臭いところで気も滅入ったからお買い物だってしたいしね」

 

 うん、女の子だからそういうの気になるよね。

 し、静まれ俺の紳士魂、クンカクンカとかしたら変態紳士になっちまうぞ?!

 

 それに、いまから引き返すのは到底無理だ。なぜなら既に敵の本丸に手をかけている状態だからである。自治領に侵攻し、経済流通を掻き乱し、挙句の果てに守備艦隊を壊滅させている。ここまでやっといてキャロ嬢……、というか収容所にいる人間連れて引き返せば、確実に情報が拡散する。

 

 要は――

 

 キャロ嬢とかのネージリンスVIPが連れ出した人間の中にいる → 第三国経由でその情報が拡散 → 白鯨め、ネージリンスサイドに墜ちたな…… → 白鯨は罪のない自治領を襲った犯罪者だ!(ネージリンスの味方なら敵)とカルバライヤ世論から睨まれ宇宙犯罪者に → 白鯨艦隊の中立性がアボン、よそ様での活動に支障発生 → ネージリンスの仕業? よろしいならば戦争だ。  

 

――と、こうなる。

 

 最終的に戦争待ったなしなのは既定事項であるが、それでも戦争の引き金を引く役回りなど貰いたくない。銀河の歴史にまた一ページってレベルじゃねぇぞ。

 

 そんな感じで面倒くさい事になりえるので、金髪令嬢の言うとおりにするわけにゃいかんのだ。せめてバハシュールを捕縛し、自治領との戦いを制したと宣伝して自治領への挑戦者としての正当性を確保しないといけないのである。

 

 一応、この収容所の人間をキャロ嬢以外全員を始末すれば情報の拡散はほぼ起こらないと思うが、ここで引き返せば不自然だし、なにより勝てたのにワザと引き返して自治領の平和を悪戯に騒がした悪党という名声が付いて回るようになる。他の宇宙島における通常企業との補給品やり取りに支障が出てくるのは、少々いただけない。

 

 アー、本当に面倒。

 

「あー、それじゃあ元保安局員のバリオさんが来てるから、バリオさんの艦で帰って欲しいッス」

 

「いやよ! 私は貴方のフネで帰りたいの! さぁ早く案内しなさい! いえ、疲れているからおんぶがいいわ!」

 

「無理ッスよ! こっちはバハシュールを探し出して倒さなきゃ将来を見据えると帰れないッス! つーかなんでおんぶ?!」

 

「なんですって! 私の命令が聞けないって言うの! 大体このキャロ様に触れられるだけでも名誉なことなのよ! それに、あんたみたいなヒョロヒョロがおんぶ以外で担げるとでも!?」

 

 あ、カチンときたぞ。

 

「ヒョロヒョロ?…………くくっ、くくく」

 

「い、いきなり嗤い出してなに?」

 

「俺は、確かに見た目はヒョロい。それは認めよう」 

 

「あ、認めるんだ」

 

「ついでに背も引くいんじゃよーっと」

 

「顔も童顔ですわね」

 

「……キャロ嬢はともかくヘルガとファルネリさん! シャラップ! とにかく、見た目だけで人を判断するのはいただけない。これをみよ!」

 

 キャロ嬢の一言でカチンと来た俺は、先ほどヘルガが解錠(物理)を行い外された自動ドアの前に立つ。一見普通のドアだが全金属製、ついでに言えば収容所用なので実は暴徒が暴れたくらいじゃビクともしない程度には頑丈かつ重たい。

 

 みせてやろうではないか、艦長の実力ってやつを……、ふんぬ!

 

「あ、よっこいしょっと」

 

「なによ、ドアを持ち上げただけ―――」

 

「そのドア、3桁ちかい重さがあるんじゃよーっと」

 

「―――え? ええ?! うそ、ホント?!」

 

 驚く少女を尻目に、俺はドアを少し乱暴に降ろす。全金属製のドアは重たい響きをあげた。まるで歪んだ銅鑼を鳴らしたような音が鳴り、この場に沈黙が降りる。

 

「あー、手な訳で、ヒョロヒョロじゃないことはわかってもらえたッス?」

 

「えぇ、変態ってことはわかったわ」

 

「へ、変態!? なぜにッス!?」

 

「だって見た目完全に細いのにおかしいじゃない! ……下手すると私よりウエストとか……」

 

「え? なんか言った「艦長そういうのは流すのがエチケットじゃよーっと」そうなんス?」

 

 それもそうか。確かにそれ系の話題はデリカシーが……、俺に今更デリカシーを求めるというのもどうなんだろうか?

 

「まぁいいわ。兎に角連れ出してね。“貴方”のフネに」

 

「……うわっ、さりげなく会話に織り交ぜてこっち乗り込む気まんまんッスね」

 

「チッ。そこは引っかかりなさいよ」

 

 いやー、ネタ的には引っかかりたいんだけどさ。なにぶん乗組員の諸々を背負ってるんでね。残念だったな。違うところであれば、かなっていただろうに……。

 

 それにしても、打てば叩くとはこの事だろうか? この短い間に俺は彼女との会話にそこはかとない楽しさを感じている。ふとキャロ嬢を一瞥すると、彼女も俺のほうを見ていた。

 

―――ふっ、なるほど。

 

 俺達は無言で眼の前に進み出る。そして極自然に、そうする事が当たり前であるかのごとく、互いに手を差し出して握手をした。そう、俺の中のゴーストが囁くのだ。

 

「「いいセンスだ」ね」

 

「な、なんでお嬢様とユーリ艦長が互いに頷きあうんですか!?」

 

「おお、これがビビっと来たっていう奴なんじゃな。記憶しとくんじゃよーっと」

 

「そういうものなの……? でも、なんか羨ましい……、そして妬ましいわ」

 

 はっはっは! なんかファルネリさんからパルパルとした妬みを感じるが、だってショウガナイじょのいこ。こうも言葉は要らないと思える人間に会えたのは初めてだったんだもの。

 

 そう、いうなれば彼女は―――

 

「まるで、コメディアンの相方」

 

「そこはせめて生涯の友とか相棒にしなさいよ!」

 

「あうちっ!?」

 

 何故か殴られた。理不尽である。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ本題に戻して、キャロ嬢はバリオ元宙尉のほうにいって貰うっス!応えは聞いていない! ってなわけでバリオさんカモーン!」

 

 なんだか無限航路ならぬ無限ループに入り込みかけたので、俺は強制的に決めてしまうことにした。というか最初からこうしてりゃよかったぜ。キャロ嬢が、あーズルイー!と叫ぶが、ふはは、怨むなら君の祖父を呪うがいい!……君の肩書きは俺のポケットには大き過ぎらぁ。

 

 そんな訳でピポパっと携帯端末を操作し、バリオさんに連絡を取った。その間もキャロ嬢はムムムとした眼で俺を見つめて不満気だったが、ファルネリさんに諭されて押し黙った。

 

 まぁ、思っていたよりも粘らなかったあたり、彼女も自分の立場を理解していたって事なのかね? そうであるなら非常に助かる。

 

「ではランバース嬢、こちらへ」

 

「ええ、よしなにお願いいたしますわ」

 

 しばらくして、ユピと共にバリオ元宙尉が彼女を迎えに来た。バリオ元宙尉が来ると、彼女はこれまでとは打って変わって急に態度が清楚なお嬢様風になった。風といったのは、それまでの彼女の行動を見ていたから。多分あの快活な方が素だろう。

 

 なんだかんだでキャロ嬢はSG社重鎮の親族。当然社交界といった世界にも顔があるはず。こういった二面性を操れないといけない世界で生きてきたと、そんな世界の事を理解できない筈の俺にも感じさせた。

 

 しかし、この時、実はキャロ嬢は含んだ笑みを浮かべていたようだ。何で人伝風なのかというと、俺は既にこの場をバリオ元宙尉に任せて、一足先にバハシュール城へと向かっていたからだ。

 

 思えば原作にもあった事なのに、迂闊であったなぁ……。

 

 

***

 

 

「おおー、美女軍団ッス。眼福。眼福」

 

 さて、キャロ嬢を任せた後にバハシュール城へと向かった俺達を待っていたのは、僅かな数の警備の兵と、恐らくバハシュールが侍らせていた美女達であった。綺麗形から可愛い系まで幅広く揃っているあたり、ボンクラ二代目の美人への審美眼は優れていたことがうかがえる。

 

 つーか、こんな美女達がこれまた奴の趣味か薄手のドレスでハーレム状態とか、なんだかとってもド畜生ー!

 

「ええい、古今東西の持てない男達の怨念よ、我に力を与えたまえッ!……ッス」

 

「か、艦長? どこからその草で編んだ人形をとりだしたんです? え? 何で釘を持って?! 壁に人形ごと打ちつけた!?」

 

「これはウシのコク参りじゃったか? ヘルガのデータベースにも殆ど情報がないけど、太古の呪いの儀式って奴を艦長は知っていたのか、じゃよーっと」

 

 なにやら後ろで驚愕した声を上げているが、俺は今呪詛を送るのに忙しい。後に聞いた話では同時刻にとある男性が行き成り胸を押さえて苦しがったとかなんとか……。呪詛って宇宙開拓時代でもあるんだな。俺とか怨まれてそうだし、今度どこかで御祓いしておこうかな?

 

 ちなみのこの奇行の所為で美女軍団から数奇の眼を向けられたのは言うまでも無い。しかし、この漂う色香を前にすると、そんな眼で見られてもご褒美のように感じてしまうのは気のせいだろうか。うへへ。

 

「むぅ、艦長! 鼻の下を伸ばしたらみっともないです!」

 

「しかしユピ、コレは男として当然の……」

 

「不潔ですー! ダメですー! いけない事ですー! エッチなのはいけないと思います」

 

「な!? ユピ! 何処でその台詞を?!」

 

「知らないです。ふ~んだ!」

 

 視界に納めた美女達をじっくり眺めて堪能していると突然ユピが声を上げた。何故ユピが頬を膨らませて拗ねてるんだ? つーか他の連中! なんで“またか”みたいな目で俺を見る!? どういうことなんだ教えてくれ!

 

「と、とにかくこの人たちから事情を聞くッス!」

 

「「「へーい」」」

 

 なんだか周囲の目を認識して急に居た堪れなくなり声を張り上げた。心なしかやる気が無い返事にくそ~と思いつつも、腹いせに捕まえた警備兵は男性クルーに、美女達への情報収集は主に女性のクルー達を呼び寄せ優しく聞いてもらった。講義の声が上がったが無視。だって何か気に食わんもん。

 

 ちなみに美女達の相手が“主に”女性クルーなのかといえば、一部の美女達はイケ面な男性クルーを所望したからだ。こちとら自治領に挑戦してきたある意味侵略者なのに、こんな要求してくるあたり、なるほどボンクラに囲われるには強かさも必要なんだな。

 

 尚、俺を含めイケ面所望を聞いた多くのクルーが、なんだかとってもドチクショー! と叫びたくなったのは言うまでも無い。顔か、世の中顔なのか?

 

 

 そんなこんなで情報をくれた美女達。彼女等の情報によると――

 

“バハシュールは東の砂漠に逃げた”

“その砂漠には、エピタフ遺跡がある”

 

―――との事だった。

 

 

 東の砂漠というのはバハシュール城から見て、さらに奥地に向かった地点にあるそれなりの広さがある砂漠地帯だそうだ。その砂漠にはエピタフに関連される古代遺跡が眠っているらしい。ジェロウ教授の教え子アルピナさんが観測して予見したとおり、ゼーペンスト宙域にはエピタフの遺跡があったのだ。

 

 その遺跡は数年前に起きた大規模な砂嵐の後、大量の砂が嵐で動いた事で、砂に埋もれていた遺跡が露出したので発見されたそうだ。もっともバハシュールは古代の浪漫よりも刹那的快楽が好みであり、この異星考古学的には大発見な遺跡の調査を命じる事無く放置していたらしい。

 

 さらに有益な情報というか、バハシュールが砂漠に逃げた目的は遺跡が目当てらしい。何故急にバハシュールが遺跡に向かったのか解らなかったが、美女が偶々逃げる直前の彼が呟いていた事を聞いていたらしく、その内容を教えてくれた。

 

 曰く―――

 

 エピタフは願いを叶えてくれるんだ。ヴルゴのバカも部下達も使えないし、僕が遺跡に行ってエピタフを探して、もっといい世界にしてもらうんだ。

 

―――ということらしい。

 

 うん、つまりは神頼みならぬ願望器頼みというわけだ。一応エピタフ関連の遺跡である事は簡易調査か何かで知っていて、頭の隅に覚えていたんだろう。

 

 だけど、どうするんだろうかね? いや遺跡に向かう理由はわかったけど、真面目に発掘調査もしてなくて放置されていた上、エピタフが願いをかなえるとはいうが、どうやって願いを叶えてくれるのかとか解るのかと………、まさか七つ集めれば願いかかなう玉の様に、願えば叶えてくれるとか思ってるんだろうかね?

 

「ユピ。俺達の艦隊の位置は?」

 

「現在、軌道上を封鎖しつつ、非常時に即時対応可能なように地上の私達をトレースしています」

 

「じゃあ旗艦に連絡。キーファーをまわして貰ってくれ」

 

「了解です。すぐにそのように」

 

 兎にも角にもバハシュールを捕まえない事には話が進まない。その為には追跡の足がいる。俺はユピテルに搭載されている強襲揚陸艇であるVB-0AS『キーファー』を呼び出すことにした。

 

 この機体は、重攻撃機のVB-0モンスターから派生した機体であり、本来は敵艦に突入して、人員を送り込み中から制圧する為の機体である。が、地上でも使えるので兵員輸送にも使えるのである。

 

 とはいえ、大気圏外にいるキーファーが地上に降りて来るまで少し時間が掛かるので、その間に上空の艦隊が持つ索敵能力を使い、バハシュールが逃げたとされる砂漠の方面を解析させることにした。宇宙を精査できるセンサーを積んでいるのだ。惑星のごく一部のスキャンなんてお茶の子さいさいである。

 

「艦長、ミドリさんから連絡です。エコーさんが砂漠を横断する車を発見したそうです」

 

 そして案の定、エピタフ遺跡へと向かうヴィークルの反応を艦隊はキャッチした。時間的、そして他に遺跡に向かう反応が無いこと、美女達から得た情報を照らし合わせれば、十中八九バハシュールの奴であろう。

 

 見つけられたなら後は早い。降下中のキーファーへと連絡を取り、降下中の一機を遺跡に向かっているバハシュールの元へと向かわせた。そのキーファーには戦闘訓練を受けた保安部員が十数名乗っている。たった一人で逃げ出したバハシュールを捕縛するのには十分な数であろう。

   

『あー、あー、こちらジェロウじゃ。ユーリくん、聞こえるかネ? 遺跡が見つかったとのことなので、ワシも第二陣のキーファーですぐにそっちに向かうことにしたゾ』

 

「あー、はい。どうぞキーファーの一機はご自由にお使いくださいッス」

 

『それは助かるヨ。探査機材はタクサン持ち込みたいからネ。それじゃああとでネ』

 

 迎えのキーファー隊が俺達と合流するために向かってくるのを待っていると、唐突にジェロウ教授からの通信が俺の元にきた。断る理由もないし、彼が乗ってきた目的はこれなので遺跡の調査許可を与えておいた。

 

 いやまぁ、本当はまだ二代目領主捕縛していないので、今は忙しいから後でと言いたいのだが、通信に映る教授の狂気にも似た、好奇心を押さえきれない顔を見たら、断る気が起きなかった。というか断ったら後が怖い気がしてならない。食事中の犬から飯を取り上げるようなものである。それは恐ろしいだろう、マジで。

 

…………………………………

………………………

……………

 

「艦長。バハシュールを捕縛したと報告が来ましたよ」

 

「お、はやいッスねユピ」

 

「これも艦長の指揮のお陰ですね」

 

「いや、まぁ、皆のお陰って返しとくッスよ」

 

「ふふ、変な艦長」

 

 保安部の仕事は的確だ。指示してから20分後きっかりで、逃亡中のバハシュールを捕まえたのだ。これで大儀は果たした。セグェン氏の要望どおり孫娘は助けたし、領主を手中に収めた今、俺達は自治領征服を為したというわけだ。周辺各国から世を騒がせた大悪人の汚名を受けずに済みそうである。良かったよ本当に。

 

 さて、バハシュール。どうしてくれようか。捕まえてしまったので、行き成り処刑とかはちょっと野蛮な気がする。放って置くとバハシュールに上司殺されたバリオ元宙尉が復讐しそうだな。

 

 それはそれで復讐を遂げられるからいいんだろうけど、ただ殺すというのはちょっと勿体無い。色々と見てきたが、気に食わない人間の投獄に追放、自治領のまつりごとを放棄して豪遊三昧、あげく遊び半分で使者を殺すなどしている。

 

 無論、相手は自治領の領主なのだし、好き勝手にする権利はあるだろう。それを断罪してやる、とかいう暑苦しい正義感は持ち合わせていない。好き勝手しているのは俺も同じ、そういう意味では裁く権利など無いのだろう。

 

 だが昔の偉い人は言ったそうだ。物事の最大の悲劇、それは悪人の残酷さではなく、善人の沈黙であると……、たしかマルティン・ルーサー・キングJrだったか。

 

 つまり、悪い事が起きているのを見てみぬふりをする奴は悪い奴と同罪であるという格言だ。俺が善人かはともかく、悪行をしていた輩を放置してしまうのは不味い。最悪元鞘に収まる可能性が出てくるので、第二第三のシーバット宙佐を出さない為に、それらを防ぐためにも、俺はあえて悪にならねばならない。清濁併せ持たねば、人は生きられない。これ、指導者の辛いところね。

 

 まぁそんな青少年の善悪への考察みたいな事を考えている間に、バハシュールは俺の元へと来ていたわけだが……。

 

「……どうも、バハシュール、サン。ユーリです」

 

「ひぃぃぃぃ!!」

 

 アイサツを返さないのはスゴイ失礼!……じゃなく、連れてこられた前領主は俺を見るなり悲鳴を上げた。無理も無い、俺は彼にしてみれば平穏をぶち壊し、さらには災厄をもたらす男。武人としての心得もなく指導者としての矜持もない。惰性で生きている男が、この場で堂々としてみせたら、そいつは大物か或いは莫迦だろう。

 

 まぁ実際、勝者だから俺も余裕でいられるが、俺が奴だったら同じように取り乱すかもなぁ……、一応元一般人、そして今は逸般人。常識から結構逸脱してますぜ。

 

「な、なんで、なんでだよぉ! 俺に何のうらみがあるってんだ、おまえら」

 

「えーと、まずカルバライヤ方面でお前さんがパトロンやっていた海賊に襲われて、その所為でウチのクルーが危険にさらされたッス」

 

 そう、エルメッツァ・ラッツィオで、スカーバレル海賊団にイネスが攫われ掛けた話だ。スカーバレルはコイツが支援していたグアッシュ海賊団の兄弟みたいな奴等で、コイツが梃入れした煽りでスカーバレルも強大な勢力になったのは簡単に想像が付く。

 

 まぁ、あの時は俺達も酒盛りで前後不覚、さらにイネスは心はともかく身体はケセイヤの発明品で女に代わり、美少女になっていて、海賊どもからすればカモ葱に見えたのもあるが……。

 

 あ、そうだいいこと考えた。ユピ、ちょっち耳貸して。かくかくしかじか。

 

「そ、それだけで俺の楽園ぶっ壊したのかよぉー!」

 

「いやいやいや、まだあるッスよ。んじゃユピ。言ったとおりお願いね」

 

「はい、艦長」

 

 ちょっとある事を思いついたので、準備をユピに頼んでいると、前領主くんが叫ぶ。無視したのは悪かったが、色々忙しいんだよ。主にお前への罰でな。

 

「さてアンタ要人を誘拐した挙句、人身売買してたッスよね? その交渉に来た人物を手に掛けたッスね」

 

「シ、シーバット宙佐のことか?あ、あいつは保安局の癖に、自治領に侵入したんだぞ?! だから! だから殺ッただけじゃないか! ソレが宇宙の掟だろ!!」

 

 いやまぁ、シーバット宙佐はお気の毒なんだけど、それよりもテメェがしでかした所業の所為で胸糞は悪くなるわ、オマケにキャロ嬢救出のお鉢がこっちに回ってきて、色々と断れなかったから出張らないといけなくなるわ……、出費は酷いわ……、まぁ今更なので何も言わんがな。

 

「宇宙の掟? なら、宇宙開拓法第11条も掟ッスよね?」

 

「宇宙開拓法第11条? な、なんだよソレ」

 

「“自治領領主はその宙域の防衛に関し、すべての責任を負う”だったかな?」

 

「ひっ!? そ、そんなの―――」

 

「ま、アンタは権力に胡坐をかいて自分では動こうとせず、自治領を護れなかった無能領主って訳ッス。聞いた話じゃ碌に確認もしないで全部部下に丸投げしてたんスよね? それが許されるのは、万が一任せた部下が失敗した時にその責任を取れる人間だけなんだぜい?」

 

「だって、俺がやっても何にも出来ないし……」

 

「まぁ、そこら辺を考えるのは俺達が消えた後でな。それにこれまでやらかしてきた悪行は消えない。今まで好き勝手したんだろう? 因果応報ッス」

 

 インガオホー。年貢の納め時だぜってな。そういって指で銃を撃つ真似をしてやると、面白いくらいに顔色が悪くなった。リアル土気色とはこの事だろうか?

 

「ま、ままままっまてまてまて! そんなの無理! ナイッシングだってぇぇぇぇ! 何でもやる! この宙域も譲るから許して! なんなら女達もあげるからさぁぁぁ!!」

 

「あ、勘違いしないでくれッス。別に殺すわけじゃないから」

 

「へ? oh、そうなのかい?」

 

「……まぁ、ある意味殺されたほうがマシかもだけど」

 

「ぼそりと怖い事いわないでYO! 聞こえてるYO!」

 

 はっはっは、何を言ってるバハシュール。

 聞こえてるんじゃなくて聞こえるように呟いたんだ。

 

「艦長。準備が出来ました」

 

「……うぇ? 早くない? 数分と経ってないッスよ?」

 

「ケセイヤさん達が“こんなこともあろうかとー!”と叫んでました」

 

「あうち。マジかー。まぁいいか」

 

 時間も押してるし、まいていこうー。

 

***

 

 俺達の強さの一つに、マッドサイエンティストな科学班および整備班が造る、半ば狂気染みた混沌とした技術というのがある。それは例えばレアメタルの焼入れがされた装甲板であったり、大小様々なレーザーを組み合わせたキメラ砲だったりと、一部は非常に有用なシロモノだ。

 

 しかし、忘れてはならないのは、これらを造り上げている技術屋共の9割以上が、多かれ少なかれマッドな思考を持っているという事だろう。彼らは実に自由だ。時に新型メカの開発で研究室を爆破し、時に新素材の研究で融合反応を起こし研究室を爆破し、時に新薬の研究で研究室を爆破する。

 

 そして爆破してから決まってこういうのだ。ちょっと失敗してしまった。次はもっと上手くやると。自重しない、好きな事をする。例え禁忌であっても興味が湧いたらな研究する。反省という言葉は彼らの辞書から落丁しているに違いない。

 

 そんな彼らが作るモノは限り無く有用だが、同時に多くの危険物も生み出してしまう。今回バハシュールに対して使用“した”ものも、かつて忌まわしき記憶と共に封印されたシロモノであった。

 

 ある意味、人の禁忌に抵触するシステム。そんなものを片手間に造り上げるうちの阿呆共(マッドサイエンティスト)は、きっと悪魔が宿っているに違いない。いや、どちらかと言えば悪魔に魂を売り渡した方か……、科学という悪魔にな。

 

「やめろー! しにたくなーい! しにたくなーい!!」

 

「ええい死にはしないから早く入れうっとおしい!」

 

 あ、バハシュールのケツをケセイヤが蹴り上げた。封印されしメカの前で踏ん張っていたボンクラだが、常に整備の最前線で働く男の力にかなうわけも無い。声にならない悲鳴をあげながらメカの中へと放り込まれる。

 

「おまえらー! 準備OKかー!」

 

「生命維持システムオンライン。リジェネレーション変換機構のテスト動作も問題ないぜ」

 

「い、遺伝子変換プログラムも問題ないんだな」

 

「それじゃあ、スイッチおーん!」

 

 バハシュールをメカに放り込むのを尻目に、ケセイヤが勢い良くスイッチを押すと、旗艦の保管庫から持ち出したそれは甲高い笛の音にも似た吸気音を上げて動き出した。ところで、そこはポチッとな、じゃないのか? 

 

「あばばば! あれで! あれで僕はボクにぃぃ!?!?」

 

 そして、これを見ていた約一名がトラウマを刺激されているが、なら何で見に来たんだろうかね。確かにトスカ姐さんを筆頭に各班のリーダーが勢ぞろいしているけど、嫌なら見に来なければいいのに……。

 

 まぁ多分怖いもの見たさなんだろう。それか第三者の目で見たらあれがどう動くのかというのに知的好奇心を刺激されたのか。0Gドッグって度し難いよなぁ。

 

 あと一部の女性陣。この装置の解禁はこの時だけだから、もう使わないからそんな眼でイネスを見てやるな。え? 一度ある事は三度ある?……一理あるな。

 

「納得するなよ艦長!」

 

 うるせぇイネス。もう一度放り込むぞ……、すまん嘘だから空ろな眼で俺を見るな。ハイライトが消えてるから、なんだか怖いっての。

 

 そんなこんなで約一名のSAN値を多大に浪費しながらも、メカは特に問題も無く稼動し、ものの十分で全ての工程が終了する。全ての工程が終了したことを告げる電子音が鳴るが、まるで電子レンジのチーンというアレにそっくりであった。

 

 そんな遊び心満載の狂気のメカの口が開き、中にいたバハシュールは――目を回して気絶していた。中に放り込まれた時点で特殊な電磁波で催眠状態に移行し、更に副作用の無い麻酔も打たれるから、別に気絶というわけではないが……。

 

「ふにゃ~~」

 

 そんな事を“甲高い”声色で呟いてるのを見れば、気絶しているようにも見えるというものだ。相変らずケセイヤ達の造り上げるシロモノは、狂気染みていい仕事をする。

 

 そう、勘が良い人ならお分かりだろうが、俺はバハシュールに対して封印せし性転換メカを使用したのである。その結果がコレだ。

 

「流石俺の発明品っ! 男が女に女が男に! うひひひひ!」

 

「「「ふぉぉぉぉおおおおおーーーーーっ!! 美女キタコレっ!!!」」」

 

「「「………、元が男性とは思えないわ……」」」

 

「おー、元があの顎がタプタプしてたエセDJ風とは思えない美女っぷりッス」

 

「前髪で片目隠れてるのも良い仕事してるよ。男のトレードマークが女になった途端チャームポイントに早変わりって感じ。イネスもウカウカしてられないね」

 

「ふ、副長!? 嫌な冗談はやめてください!!」

 

 ふ、相変らず俺達は混沌としているぜ。

 女性になったバハシュールはそれだけ男の時と比べてギャップがあった。領主館からあまり外に出なかった所為で雪の様に白い肌。遺伝なのか淡い紫色のヘアカラーは、何故かフワフワなカールになった頭髪に良く似合っている。

 

 顔立ちも腫れぼったく垂れていた顎が、メカにより整形か矯正がなされ、すっきりとした小顔になり、男の時はどこかチグハグな印象を受けた目元口元鼻といった顔パーツ全てが、今ではバランス良く配置され整っている。特徴的なのが目元でパッチリ釣り眼気味であり、前髪で片方が隠されている所為か、どこか妖艶な雰囲気をかもし出していた。

 

 その身体つきもまさしく理想的。ふくよか過ぎず、されどやせ過ぎず、背も高過ぎず低過ぎず、黄金比とも言うべき肉体美は、野暮ったい男物の衣服により隠されている。が、それでも垣間見えるマロンとした柔らかさを感じさせる肉付きは、男女問わず魅了するであろう。

 

 何が言いたいかといえば、今のバハシュールはまさしく美女って言っても過言じゃなかった。いやぁ、指示しておいてアレだが、俺もすごいビックリです。

 

「ケセイヤ、あのメカあれから何か改良したッス?」

 

「いや封印処置されて触れなかっただろ。ありゃ多分、あんの二代目の親類か先祖に相当の美人がいたんだろうなぁ」

 

 あのメカを造ったケセイヤ曰く、入れられた人間の遺伝子情報を読み取り美形へと変更するプログラムがあるらしい。なるほど、ご先祖や親類に美形が居ても美形になれるとは限らないということか、むしろ醜男の遺伝子が集結しちゃった系かな。だとしたら哀れな奴である。

 

 そういえば醜男って言葉には、文字通りの意味の“ぶおとこ”と、強く逞しい男って意味もあるらしいが、二代目は完全に前者のほうだな。感じで書くと“しこお”も“ぶおとこ”も醜男って書くのにねぇ。

 

 なにはともあれ、これで仕置きの完了だ。そう一人納得して、有ったモノが無くなり、無いモノがあるという状況に混乱している元バハシュールを見やる。今は絶望の顔をしながら胸元の膨らみを手に持ち、『気持ち良ぃ……けど、なんかちがう……』と呟いている。うん、末期だね。

 

「ユーリ、あれでどうして仕置きになるんだい?」

 

 そうトスカ姐さんが聞いてきた。ふふふ、何故と問われたならば答えてあげようじゃないか。

 

「トスカさん、なんのスキルも無い上に戸籍も存在しない女性が、この宇宙で生き延びられる可能性って、どれだけだと思うッス?」

 

 俺がそういうと、姐さんは『あ……(察し)』という顔になり、さらにはえげつないものを見る眼を俺に向けてきた。よせやい、照れるじゃないか。

 

 まあ、つまりはそういうことだ。これまでの様に丸投げした仕事をやってくれる部下はもう居ない。二代目の男性領主だったバハシュールは消え去り、この場にいるのは唯の女性バハシュールだけだからだ。

 

 ある意味、生まれたてホヤホヤな彼女には後ろ盾も権力も何一つない。戸籍すらない彼女は生まれたまま放り出される赤子と同じである。自堕落に生きてきた彼女が、着の身着のままであまり経済がよろしくない元自領に放り出されれば、それはある意味死ぬよりも苦しいだろう。

 

 だれも彼女を知らず、だれも彼女を助けない。自分を救えるのは自分自身だ。これで何かしら有用な特技とか一芸とか、それで食べていけるスキルを持っているなら、今回の仕置きはかなりイージーモードになるだろうが、そんなの持っているようには到底思えないしな。DJ風だったし精々ディスコダンスくらいか? どちらにせよ恐らく自分で最後を決める覚悟すらない彼女には、今の状態はまさに生き地獄となりえる。

 

 ただ殺すのは、この場合ただの慈悲でしかない。相手に与えられる最大の苦行とは、力を奪われ、尊厳を奪われ、そして存在を否定されることにある。男だろうが女だろうが関係ない。この場合重要なのは以前の存在を消しさり、誰も知らない存在に切り替えるというところにある。俺は殺さないという、ある意味もっとも残酷な手段でバハシュールに仕置きをしたのだ。

 

 ちなみにバハシュールが元から女性だったなら、逆に男にしてやっただろう。それはそれで存在を誰も知らないオネエ言葉のおっさんの出現になるわけだから、余程運がよくない限り、繁華街のゲイバーなりお釜バーで生きていくくらいしか出来ないので、正常な精神なら発狂もんだろうしなぁ。

 

「まぁそんな訳で、頑張ってねー」

 

「しどい! こんなのってないよ!」

 

「あ、最後の慈悲で屋敷内にあるだろう財産の持ち出しは許可するッスよー。侍らせてた女性たちの衣服なら今のアンタにはちょうど似合うんじゃないッスかー?」

 

「Oh! NO!」

 

「あ、最後に一つ。通帳とか自分の名義が解るシロモノは持ち出さないほうが懸命ッス。今のアンタは俺達以外誰も知らない。それなのに以前とはいえ領主の持ち物を持っていたら、最悪犯罪者として捕まるので気をつけてねー」

 

「ワッツ!?」

 

「大丈夫、性転換した事は誰にも言わないから。それと通常と違って特殊な転換だから多分よそじゃ元に戻せないのでホント頑張っていってね!」

 

「NOOOOOOOーーーー!!!」

 

 そして、俺達は絶望に叫ぶバハシュールを尻目に、この場を後にした。これで彼は……いや彼女は生き地獄の中で生きていく。よしんば地獄に落ちたカンダタの如く、蜘蛛の糸のような救いが訪れるかもしれないが、そうなる可能性はほぼ0だろう。

 

 たとえそうなってもあのお話のように、救いの糸は途中で切れるに決まっている。これならシーバット宙佐や、これまで甚振られて死んでいった人々も浮かばれるだろう。そう思いたい。

 

「―――てな感じにしちゃったんスけど、バリオさんはどうするッス? さらに追い討ちかけるッス?」

 

「いや確かに一泡吹かせたいとか言ってたけど、流石にこれ以上は死人に鞭打ちだろう」

 

 バハシュールに怨念返しをする為に同行していた彼も、この仕置きで納得してくれた。いや納得というかドン引きされたんだけど、なんでだ?

 

「というかユーリくん、君って結構外道なのな」

 

「失敬な」

 

 出来る範疇で最大の苦行を出しただけだというのに、まったく。

 




投稿が遅れまして申し訳ない。
いやぁ、現実が忙しかったり、背中の爆弾が破裂したりで大変でした。
一日中立ちっ放しの仕事もあり、中々かけませんでしたがどうにかかけてよかったです。

あ、遺跡は次回からです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。