何時の間にか無限航路   作:QOL

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~何時の間にか無限航路・第3話、ロウズに降り立つ編~

■ロウズ編第三章■

 とりあえず憑依先の妹であるチェルシーを助ける為に、罠だとは知りつつも戦艦アバリスの進路を一時惑星ロウズに向けた。ある意味で俺のプライベートな事態と言える事件だが、この事をウチのクルー達に話したら普通に救出に賛同して協力してくれるという。

 これまで一星系に閉じ込められてきた鬱憤と、妹さんを助けるという人助けの大義名分でデラコンダ相手に大立ち回りが出来るとくれば、協力しない手はないそうな。もうちょっと反対意見の一つでも出るかと思っていたんだがこれは予想外。

 

 流石のトスカ姐さんもこの事態は予期して無かったらしく、俺の顔見ながら、あんたの仁徳のなせるワザかねぇ~と呟いていらっしゃったけど…俺って仁徳あるのかな?正直、自分のまわりさえ楽しければ、後はどうなっても良いっていう快楽主義者なんだぜ。

 でも、その事をトスカ姐さんに言ったら何故か溜息をつかれた。自分を卑下しすぎだってさ。う~ん、そんなつもりはなかったんだがな。実際好き勝手やってるんだし、嘘ではないのだ。クルー達も巻き込んでるしね。

 

「――艦長、そろそろ惑星ロウズの宙域に入ります」

 

「ん、了解…あ、そろそろ警戒レベルあげといてくれるッスか」

 

「アイサー」

 

 今回はきっと大規模戦闘になるだろう。戦死者出ちゃうかも知れないなぁ…。

 

「どうしたんだ。艦長が戦闘前に溜息なんて吐くんじゃないよ」

 

「トスカさん…」

 

「仮にも艦長なんて重たい看板背負ってんだ。そんなヤツが不安そうにしてたら士気が下がるだろう?前にも言ったじゃないか」

 

「こういう時は不敵にしてろって事ッスね。いや、俺が溜息ついたのはソレだけじゃないんスよ。圧倒的に人員不足だなぁと」

 

「仕方ないだろう。慣らし運転もそこそこにここまで来たんだ。途中でステーションによる暇なんて無かったよ」

 

「お陰で乗員の殆どがドロイド……」

 

「ま、自律行動が殆ど取れないドロイドだけど、命令さえ下しとけば殆ど間違いなく実行してくれるよ。まだ慣れてない内はむしろそっちの方がいいんじゃないかい?それに最終的な判断はユーリ、アンタが下すんだ。生きるも死ぬもアンタの判断の速さにかかってるって事、忘れんじゃないよ」

 

 そう、アバリスは性能こそピカイチだが、その実クルーの大半は航法ドロイドだったりする。いや本当は人間を雇いたかったけど、やはりロウズ自治領じゃデラコンダの信者が多くて駆逐艦を動かせる程度の人数を集めるので精いっぱいだったんだよねコレが。

 それでもまだ募集とかかけてみたけど基本的に公に出来ない募集なので集まりが悪い。幾らアビオニクスが発展していても人が動かすフネなので200数余名では運行に支障が出てしまうのもしょうがない事なのだ。

 

 だからアバリスに旗艦を変えた時に増えた運用最低人数の補充分は全部ロボット…航法ドロイドなのである。一応は通商空間管理局が提供してくれるサービスで借りられる高性能AIドロイドなので実質フネの運行自体で問題はそうは無い。

 けれど、やっぱり人間の方が臨機応変に自体に対処できる上に成長というファクターが加わる分、そっちの方が断然良いのである。

 

 ちなみにAIドロイドはこれまた原作OPムービーでフネの操艦を担当していた黒いド○ネーターみたいな無機質なロボの事である。俺のフネにおいてはブリッジには居ないんだけど、機関室とかそういった重要だけど危険な所に集中して配備してある。

 どうしてか?あいつ等の声って機械音すぎて俺には聞き取れないんだわ。オマケに空間投影型コンソールパネルを操作する時の指の動きが、明らかに人間超える動きをするから気持ち悪いってのもある。

 

「艦長レーダーになんか沢山の浮遊物の影があるわ~、多分領主側の探査衛星~」

 

「ジャミングは?」

 

「数が多すぎて、正直のぞみ薄~」

 

 それはさて置き、敵側の探査衛星を見つけた。どうやら領主デラコンダは思っていたよりも慎重な手合いの様だ。手元のコンソールに送ってもらったレーダーには、探査衛星のモノと思われるグリッドがウジャウジャ…。

 さすがの軍用電子機器でも単艦のではこれだけの数を誤魔化すのは無理ぽ。

 

「エネルギーの無駄だし、ジャミングは切っといてくれッス」

 

「了~解~」

 

「艦長、デラコンダからの長距離通信が来ていますが…」

 

「うん?解った、別のモニターに出してくれッス」

 

「アイサー、3Dホログラムモニターに投影します」

 

 ふむ、まだレーダー範囲に入ったばっかりなのにすぐに通信か。

 普通ならすぐにでも攻撃してくるのがセオリーなのによっぽど自信があるんだろう。自分の領内で警備隊相手に大立ち回りした俺達なんて海賊と同レベルに思うだろうにわざわざ通信を入れてくる位に…。

 すこししてブリッジの真ん前にある長距離通信用ホログラムモニターが光りを放ち、ブリッジ内部にて一つの形となる。それは人の形をしており、それによって映し出されたのは―――

 

 メタボでアブラギッシュな…スキンヘッドのジジイ…。

 うわぁ写真で見たヤツよりも実物の方が断然キモイ!広報に載ってた写真って加工してあったのかよっ!

 

『貴様がユーリとかいう、我が領内法を破り我が物顔で我が領内を混乱させた0Gドッグか…まだ青臭い小僧ではないか』

 

 当然といえば当然なのだが、通信の相手は友好的という感じではない。あっちにしてみれば俺はテロリストとかに見えているんだろう。だが、自治領を持っている領主は領内のゴタゴタは自力で解決すべしという法律がある。そのお陰で俺は例えここであの領主を消滅させても、領主の力不足という事でロウズ星系以外では罪に問われない。

 覚悟は決めた。ならソレを押し通すのみ。

 

『だがお陰で末端の警備がサボっているという事実も判った。ついでに貴様らが無用な殺戮をする様な輩でも無い甘ちゃんだという事もな。巨大なフネまで造りあげたようだがそんな暴挙もここまでだ……領主デラコンダが命じる。武装を解除し、投降せよ。さすれば命だけは助けてやろう』

 

「命だけはッスか…だが罪には問われると?」

 

『むろん。我が領内の平穏を脅かしたのだ。そうだな、今ならロウズ星系のスワンプ星でのレアアース採掘10年間でいいだろう。稼いだ分は税金で差し引いた分以外貴様らにくれてやる。悪い話ではあるまい?ん?』

 

 どうだとばかりに笑みを浮かべているデラコンダ。

 しかしスワンプ星といったら沼地だらけっていうか沼地しかない湿度100%の湿地惑星で、通常の航路図にすら載ってないような辺境中の辺境だろ?確かにレアアース採掘はそれなりに良い稼ぎらしいけど、こういう場合そういうのは体のいい島流しって言うんだよおっさん。

 大体、宇宙見て回りたい俺が、そんな事了承する筈も無いさね。

 

「そいつはどうも。だけど俺達はそんなカビ臭いところに移住する気は毛頭ないッス」

 

『それは残念だ。優秀ならば部下にと思ったのだが』

 

「冗談、辺境に幽閉されて一生終わるのがオチッス。第一0Gドッグは自由の宇宙航海者ッス。そんな事も忘れちまったッスか?苔生したお地蔵さん」

 

『…………どうやらダークマターになりたいようだな。若き者よ?』

 

 ミシリと、ホログラムに映るデラコンダの額に太い血管が浮かぶ。こ、怖い。

 

「あ、いや…手加減して欲しいなぁなんて…ダメッスか?」

 

『フッ、0Gドッグを名乗るもの、これくらいで怖じ気づいてどうする?だがまぁ、最後の警告だ。黙って戻るなら今の内―――』

 

「だが断る!」

 

 ズギャーン、命令すれば思い通りになると思っているヤツにNOと言ってやる!

 

 ―――いや一度言ってみたかったんだよねコレ。

 だが俺のモノ言いが癪に障ったのか、さらに頭部の血管が太くなるデラコンダ。あーうん、俺が言うべき事じゃないけど、頭の血管切れないか?それ。勝敗が脳内出血による不戦勝とか小気味が悪いからお断りだぞっと」

 

『ふ、ふざけおって!絶対に沈めてくれるわ!全艦体攻撃準備!』

 

「ありゃ?口に出してたっスか?」

 

「頭の血管切れないか?のあたりから普通に口に出してたね」

 

「マジッすかトスカさん」

 

「まじまじ」

 

『その舐め腐った態度…二度と吐けぬようにタンホイザに叩き込んでくれるっ』

 

「あ!その前に妹の……チェルシーは無事なんスか?」

 

『チェルシー?……ああ貴様の身内だったか。ふん、ワシとて元は0Gドック、地上の者に危害を加える事は無い。ちゃんと空間通商管理局に監禁してあ――』

 

「でも誘拐して監禁した時点で危害加えてるんじゃないッスか?そこんとこどうなんスか?」

 

『………………≪ブツ≫』

 

「――通信、一方的に切られました」

 

((((逃げたなアレは…))))

 図らずとも俺とブリッジクルー全員の心がシンクロした瞬間だった。

「ロウズ軌道上に敵艦~!数は……4、6…計8艦隊~!」

 

「解析中――周囲4艦隊は水雷艇クラス、直掩艦隊は巡洋艦クラスのグロリアス級、艦隊の中央に一際大きなインフラトン反応を確認、エネルギー総量から考えて敵旗艦グロリアス・デラコンダ級の様です。モニターに投影します」

 

 惑星ロウズを背景に上下ひし形布陣で展開しているデラコンダ艦隊。巡洋艦クラスの大きさがあるデラコンダ艦が艦隊中央に布陣し、他の艦は当然ながら中央の旗艦を守る布陣である。前から見ればひし形だが上や真横では三角に見えるあたり立体的な布陣であると言える。

 

 俺はコンソールでデータを手元のサブモニターに呼び出す。この敵の旗艦、グロリアス・デラコンダ級は元0Gドッグで現エルメッツァ辺境宙区領主デラコンダ・パラコンダが独自に設計し建造した軽巡洋艦であり、そのもっとも大きな特徴は左舷に取り付けられた本体の倍の大きさはあろうかという巨大レーザー砲である。

 右舷側にはカウンターウェイトを兼ねた三本の大型エネルギータンクが束ねられており、それを中央船体のウィングブロックで固定している。その上には主機関部と艦橋が置かれ、船体最下部には標準的なインフラトン機関が補機で備えられている。ある意味で三段空母ならぬ三段軽巡洋大砲艦という見た目であった。艦種混ぜ過ぎだろう…。

 もっとも、左舷側の大型レーザー砲以外に兵装は見当たらず、どれだけその大型砲に自信を持っているかが窺える。恐らく生半可な威力ではなく並の船なら掠っただけでも一撃必殺の威力があるであろう。そうでなければ直接通信できる距離までこちらを近づけさせなかった事だろう。アレだけの大砲だ。射程もきっと長いに違いない。俺ならアウトレンジからどーんするけどね。

 

 対するこちらも大型砲はあるにはあるが、連射性を考えてなのか威力はほどほどである。武装系は高性能ではあるがチートレベルな性能では無い。お陰で策もほぼ無しに敵陣深く突っ込まないといけない。数が違うのだから電撃戦をしかけないとジリ貧となるからだ。

 

「敵艦距離そのまま。本艦の有効射程まであと6000」

 

「戦速そのまま!全艦砲撃戦用意!全砲門開口!照準、敵前衛艦隊!アバリスのマニューバと発射のタイミングを合わせろっス!中央突破して電撃戦で旗艦を落とす!」

 

「すでにこっちは相手に見つかってんだ!堂々と正面からくらいくよ!弾の出し惜しみするんじゃないよ!相手をタンホイザーに叩きこんでやれッ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

―――今回とる作戦はただ一つ、正面から押し切る、コレに尽きる。

 もうチョイ他にフネがあれば前衛後衛なり艦隊を組めばよかったんだけど、瞬間速度はともかく巡航速度で劣るアルク級じゃアバリスについていけないから後方に下げてしまっている。

 元より敵の数が予想していたよりずっと多いから通常駆逐艦と変わらないアルク級のクルクスでは役者不足だ。硬い装甲がある訳じゃないし、露払い出来る程の数もいない駆逐艦を前に出したところで意味なんて無い。

 エネルギーと物資の無駄になるし、あれでもほんの少し前に建造した一番最初の乗艦なのだからブッ壊すのも忍びないというのもある。要するに勿体無いの精神が働いたという訳だ。

 一応、敵艦隊の前衛は今まで戦って来た警備艦隊が使っている水雷艇と種類が変わらないからなんとかなるだろう。計算上では連中のレーザー砲は此方のAPFシールドを貫ける程の出力は出せないと踏んだ上での作戦とも呼べないお粗末なぶっこみ。参謀か軍師が欲しいところである。

 まぁそれにただ闇雲に考え無しで突っ込む訳ではない。グロリアス・デラコンダ艦が持つ巨大レーザー砲が直撃すればいかな大マゼラン製の戦艦でも損害は免れない事だろう。だが科学班のサナダ班長の解析報告によると、あの大砲は次弾までのチャージにかなり時間が掛かるそうだ。

 当然こちらだってロックオンされているのだし回避は難しい。それでもあちらさんが発射しようとすればエネルギーの集中を探知できる筈。それを元に各部核パルスモーターを使用したT(タクティカル).A(アドバンスト).C(コンバット)マニューバを全開にした回避運動を取れば、発射されてもギリギリで回避可能だ。

 あとは、ウチの操縦士の腕を信じる他ない。ちなみに俺は信じている。

 クルーを、仲間を信じないで何が艦長かと(ry

 

「第一、第二各砲塔照準完了、発射準備完了だ!」

 

「敵レベッカ級加速開始、急速接近中です~。でも何か艦の挙動がおかしいわ~」

 

「あれま…なんか戸惑ってるって感じッスね」

 

「まぁレーダーで見るのと実物を近くで見るのじゃ違いもあるもんだよ。ユーリ」

 

 トスカ姐さんの言葉に頷いておく。やっぱ奴さんらは驚いてるんだろうなぁ。何せこの間まではウチは只の駆逐艦一隻だった。デラコンダもだからこそ俺達を放置していたんだろう。主力を出せばすぐに捻りつぶせると思っていたから。

 なのに戦力揃えて迎えてみれば来たのはこんな辺境に現れるとは思えないような大型戦艦だった。それなんてプロアクションリ○レイ?チートコード使ったの?とか言われても文句も言えない。

 それでも大きさで判るかと思っていたが、そう言えば小マゼランにはビヤット級という全長1200mはある大型の輸送船があるから、もしかしたらアバリスをその輸送船を改造したか何かの張りぼてだと考えたのかもしれない。

 だがふたを開けてみれば現れたのはこの近辺じゃお目にかかれない戦艦、それなんて無理ゲー?デラコンダ本人は虚勢なのか、それとも本当に大丈夫だと思っているのか、さっきの通信であまり動揺はしていなかったけど、末端の兵士までは動揺を抑えられないみたいだ。

 

 コイツはチャンスだぜ。

 前の駆逐艦だったらあの戦力相手にも苦戦しただろうけど、この船なら…。

 

「艦長、敵艦から一応降伏勧告来てますけど、どうします?」

 

 敵の部下さんも大変だ。命令された以上命令を実行しなきゃならない。

 まぁココはあの方を肖り、あの有名なセリフを言ってやることにするかね。

 

「バカめ…と返信してやれ」

「アイサー。――こちら戦艦アバリス“バカめ”以上――」

 

 よし、艦長になったら言ってみたい台詞を一応言えたぞ!全然シチュエーションは違うが関係ない!言えたんだから満足じゃ!でも敵さんのエネルギーレベルが上昇っと…やっぱり屈辱なのかね? あ、そうだ老婆心だけどコイツも言っておこう―――

 

「あ、ミドリさん。進路妨害しなければ見逃すってついでに言っておいてくれッス」

「アイサー、そのままの言葉を通信で送ります」

 

―――こうして、デラコンダ艦隊との戦闘が始まった、ロウズ上空戦である。

 

 

***

「さて…砲雷班長ストール!」

 

「はいよ艦長ユーリ!」

 

「砲撃開始ッス!敵を蹂躙せよッス!」

 

「はいさー!ポチっとな!」

 

 打てば鳴る様な掛け合いで命令を下す。それに合わせ砲雷班の班長ストールが、自分の席のコンソールの発射スイッチを押した。強制冷却機の音が艦内に響き、上甲板の一番とニ番砲塔から、本船から見てやや右舷側上角の敵艦へとレーザーが発射される。

 

「艦首軸線大型レーザーとリフレクションレーザーは前方を塞ぐ艦を狙え!――撃ぇ!」

 

「はいよ……照準よろし、ポチっとな」

 

 ちなみに何故ストールがポチっとなと言ったかというと、前のフネを購入したての頃の事。俺が何となくであるが、良く『ポチっとな☆』と言ってスイッチ類を押していたのを聞いていたらしく、何と無くフレーズを気にいってしまったストールもスイッチやコンソールのエンターキーを押すときに言う様になってしまったらしい。

 いやまぁ、イイ感じに緊張がほぐれて良いんだけどなんかしまらないような気がしなくも無い。でも言いだしっぺが訂正させるのもおかしいので今のところ放置、飽きてくれるの待つしかない。閑話休題。

 

「第一射、敵第一防衛ライン前衛艦を撃沈。軸線砲およびRレーザー砲、障害となる艦に命中、敵艦中破。敵の後続艦に離脱艦が出た模様、混乱してます」

 

「よし、続けて第二射――「直庵艦隊とデラコンダ艦のインフラトン反応が急速に増大中、発射の予行かと」ちぃッ!回避運動っ!!」

 

 第二射を発射しようとしたところ、ミドリさんが後方にいるデラコンダ艦隊の砲撃準備を感知したと冷静に報告してきた。それを聞いた航海班のリーフが舵を切りTACM回避運動をアバリスに行わせた直後、かなりの出力のレーザーの群がアバリスのすぐ脇を通り抜ける。

 回避運動が間に合い直撃どころか運よく掠りもしなかったが、通り過ぎた瞬間に1000mあるフネがかなり揺れた。そして艦橋のモニターが一瞬であるが焼き付きを起す程のパワー…凄まじいの一言だった。

 

「エネルギー量を計測………概算だが直撃を3発受ければヤバいな」

 

 その攻撃を分析していた科学班の班長サナダさんが機器をから目を逸らさずに報告してくる。ちなみにこの場合の直撃っていうのはAPFシールドが防ぎきれなかった余剰エネルギーが装甲にまで達する事、ゲームにおけるクリティカルヒットの事を指す。

 そりゃあ太いを通り越してデブいレーザーが直撃したらアバリスでも流石にヤバいだろう。それにシールドが張られているといっても、シールドジェネレーターの許容量には限りがある。何度も攻撃を直接受けていたら、やがてジェネレーターのエネルギー供給が追いつかなくなり、敵のレーザーの直撃を食らう羽目になるのだ。装甲厚があるとはいえ、絶対に大丈夫だとは言い切れないので、躱せる攻撃は極力躱すように指示を下した。

 そして直後、今度は別の衝撃がフネを揺らす。敵の前衛水雷艇はまだ残っており、その攻撃がアバリスを揺らしたのだ。揺らしただけでは目立った被害はないが、それでも相手の方が数が多い事に変わりはない。囲まれて集中砲火、もしくは水雷艇の運動性に翻弄されたりすれば、デラコンダ砲の餌食となる。

 

 向こうもそれを望んでいるだろうが、それを叶えてやる義理はない。

 

「敵の次弾が来る前に状況を打破する!アバリス両舷全速ッス!!」

 

「アイサー艦長!――トクガワさん!」

 

「了解。機関出力全開、推進機に出力を回しますぞ」

 

 機関長のトクガワさんの絶妙な操作により、大型戦艦用大出力インフラトンエンジンが唸りを上げ、アバリスはインフラトン粒子の青い雲を吐き出し一気に加速する。これぞまさに熟練の技、まだ慣れていない戦艦のエンジンをこうも操れるのは素直に凄い。

 そして流石は戦艦クラスのアバリスだ。この力強さは凄く頼もしく感じる。それに、この速度ならすぐにデラコンダの懐に飛び込める!ヒャッハー!禿げおやじから妹助けてついでにジャンクにしてやるぜい!

 駄菓子菓子…では無く、だがしかし――――――

「敵艦、針路上に侵入~!本艦の進路と交差してます~ッ!」

 

「ちょっ!?敵さん何考えてんスか!?」

 

「完全に衝突コースです。激突まで約20秒」

―――飛び出すな、戦艦急には止まれない。

 敵と進路が完全に重なり回避不能となった時、脳内にその昔どっかで聞いた標語のようなモノが浮かんだ。驚いた事にアバリスの進路とかち合うようにして敵艦の何隻かが飛びこんできたのだ。逃げだす奴もいたが忠誠心を持つ人間もいたという事だろう。

 戦艦はデカイ分、速度を上げると質量的に急制動や回避がうまく出来ない。大型トラックが急ブレーキをかけてもすぐには止まれないのと同じだ。それ以上にまさか身を呈して守ろうとするとは、彼らこそまさに護衛艦の鏡だ!

 だけど敵を称賛する前に、こっちも早く指示をださないとヤベェって!!

 

「リーフ!回避してくれッス!!」

 

「ムリだ!もう衝突コースに入ってるんだぞッ!」

 

「ストール!撃ち落とせッス!」

 

「別のフネ狙ってたから砲塔を旋回させて照準とか間に合わんよ」

 

――ええい、だったら!最後の手段じゃ!

 

「総員耐ショックっス!」

 

「しょうがないね全く――ミューズ!」

 

「……了解、重力井戸のリミッターを一時解放、慣性制御を最大に……」

 

「シ、シートベルト!シートベルトは何処だ!?」

 

「ああ?!ねぇよンなもん!頭でも押さえてろ!」

 

 もう諦めて衝撃に備えるしかないだろう。

 とはいえ何もしないのも癪なのか、ストールがギリギリで砲塔を動かし、ほぼ真っ直ぐ突っ込んでくる敵艦に対して一応迎撃を試みてみた。しかしお互いの相対速度が速すぎて敵に当たらない。こちらの砲塔の照準が合わさるよりも先に近づいてくる上に向こうも最後の抵抗とばかりにTACマニューバを全開にしている。

 この死力を尽した火事場の馬鹿力のような芸当を発揮した敵を前に、此方の攻撃はことごとく外れてしまった。あまりにも攻撃が当たらないのでイライラとしたストールがコンソールを思わず叩きつけてしまった。そんな事をすればコンソールが誤作動を起こすのは明白で、微妙に明後日の方向へとビームが発射されてしまう。

 しかし、偶然であるが、このコンソールを叩いた時に誤作動で発射されたビームの一つが上手い事射線に乗ってしまった敵に命中してしまった。ある意味で火器管制が優秀だったお陰で激突ギリギリで迎撃に成功したと言えるんだろうか?あとストール、運で当ってしまったからって泣くなよ。

 

 それはともかく何とか正面衝突寸前に敵艦を破壊したは良いが、安全に回避できる距離を大幅にオーバーランしている事により、大量のデブリ片がアバリスに襲い掛かる結果となった。APFシールド装置は機関出力さえあれば、大抵の高出力指向性ビームの固有周波数に干渉し、減衰及び無効化が可能となる反面、実弾などの物理的な攻撃に対する防御力は一切ない。

 物理攻撃防御用のシールドも存在するが、基本装備のAPFシールドとは違い、フネにモジュールを導入しなければならず、当然序盤でモジュールが少ないので本艦には搭載されていなかった。

――そして至近距離で爆散した敵艦は、それこそ大型の機雷よりも性質が悪いモノだった。

 恐らく、相手も意図せずの攻撃だっただろう。爆散して火球と化した敵艦の破片は高速のデブリとなり、周囲へと満遍なく振り撒かれる。音速をはるかに超える破片は一発一発が小さな核弾頭に相当するエネルギーを内包していた。

 そんなデブリの雨の中へアバリスは突っ込んだのだ。旗艦爆発で拡散したインフラトン粒子を纏った青いデブリの群は恐ろしく綺麗で、それでいて規則性の無い砲弾と同じである。

 アバリスは敵艦を破壊した衝撃波に続く第二の衝撃に襲われた。

 

「うおっと!?――損傷確認急げっ!ダメコンもッス!」

 

「艦体起こせ!進路がずれてるよ!」

 

 あまりの衝撃にたたらを踏んだがすぐに復帰して矢継ぎ早に指示を飛ばす。伊達にこれまで実戦で訓練していた訳じゃない。こういう急展開な事態にも一応慣れているのだ……いやな慣れもあったもんだぜ。クソったれ。俺が内心で毒づいている間にもダメージ確認は行われ、それをミドリさんが報告をしてきた。

 

「艦首大型対艦レーザー及び第一砲塔が破損、使用不能です。船首部分は第二装甲板まで貫通、一部剥離しています。アポジモータースラスターも一部が損壊、運動性能が14%低下――」

 

「あわわ、レーダーにノイズが~」

 

「――運悪くレーダーマストに破片が直撃しています。サブに切り変えさせます」

 

 幸い戦闘系のシステムは殆ど無事で第二主砲も多少デブリを浴びたモノの、ダメージ許容範囲内に収まっているので使用可能ではあった。だがそれよりも問題は運悪く破片の一部がレーダーやセンサーが集中しているレーダーマストを貫いていた所為で策敵性能が大幅ダウンしてしまったのが痛い。

また幾つかの破片はまるで徹甲弾の如く、装甲深くまで切り込んでいる。この欠片が後数十メートルも横にずれていたら艦橋に直撃だったと思うと、股間が縮みあがりそうだ。もっともマストと艦橋じゃ装甲厚や防御力が違い過ぎるので、多分大丈夫なんだろう。それでも至近距離に着弾して損害が出ているのは怖い事に変わりはないのである。

 

「こちらトクガワ。機関室に損害無し、航行には支障はないと思われる」

 

『ブリッジ!こちらダメコン室のケセイヤだ!デブリ片が装甲の薄い粒子ダクトを貫いたみたいだぜ!内側からブッ壊れてインフラトン粒子と空気漏れの警報が止まらねぇ!一応前部ブロックの隔壁は全部降ろしたがまだ警報が止まらんから直接見に行ってくる!』

 

 さらに上がってきた報告でエア漏れまで発生していた。宇宙における空気の重要性は今更言わなくても良いだろう。幾ら装甲厚がある戦艦でも部分的に弱い個所は幾らでも存在する。装甲があるからと言って、それ即ちイコール壊れないという事にはならないのだ。

 さっきみたいに大量のデブリ片が当たると、当りどころによっては貫通してしまう。だから通常は遠距離で破壊するんだよね、至近距離でデブリ食らうよかマシだから。

 

 それはともかくとしてケセイヤさん雨の日に『田んぼ見てくる』みたいなノリで身に行ったら死亡フラグが……いや、今はエア漏れをなんとかしないとな。

 

「任せたッス。それと戦闘中だから応急修理を急いでくれッス」

 

『任された!ちょっ早でやって来るわ!』

 

「十分で頼むッス」

 

『無茶言うなよ!?』

 

 ケセイヤさんが通信を切ったので、俺は俺で再びコンソールに目を戻した。

 コンソールにあるモニターに本艦の現状が推測値ではあるが表示されるからである。

 だがそれを見る前に、再びオペレーターのミドリさんが報告を入れてきた。

 

「艦長、敵第二防衛ラインのグロリアス級と旗艦グロリアス・デラコンダ級からインフラトン反応の増大を確認。敵特装砲の次弾発射まであと180秒です」

 

 報告無い様は、再び敵旗艦に動きあり、――こりゃやばい!

 

「トスカさん、今艦首ブロックには誰かいるんスか?」

 

「うんにゃ。元々艦首ブロックの制御はドロイドまかせだから誰もいないよ。応急班もまだ隔壁の向こうで立ち往生だ。一部システムが落ちて隔壁が開かないらしい」

 

 だれもいない、そしてこのフネの頑丈さは折り紙つき……よし!

 

「ならば応急修理は後回しッ!アバリスはこのまま直進!進路上の直掩艦は無視する!どうせ艦首は壊れてるから、とことん使ってやるッス!ジェネレーター出力をシールドと重力制御に回すッス!」

 

 ころころ指揮が変わって悪いが、こっちの方がデケェんだ!体当たりで粉砕してくれるわッ!

 

「ちょっあんた…正気かい?」

 

「正気も正気ッス、大丈夫ッスよトスカさん、この船はそう簡単には壊れないッス」

 

 姐さんが心配そうにこっちを見ている。だけど大丈夫だろう。何せアバリスの設計図は大マゼラン製の戦艦データだからな!頑丈さなら折り紙つき!小マゼラン製品よりもずっと上なのだ!

 さっき敵艦を引き殺したってのに損害軽微だし、さすがはアバリス、何ともないぜ!

 

「敵艦、再度本艦の針路上に展開します」

 

「トクガワさん機関出力一杯ッス。リーフ!遠慮しないで思いっきり突っ込め!」

 

「了解ですじゃ。機関出力、最大から一杯へ」

 

「へいへい、とんでもねぇ艦長の下についちまったぜ。まぁ!楽しそうだからいいけどなぁ!」

 

 そしてアバリスはバカの一つ覚えに加速する。1000m級を俊敏に動かせる大エンジンは伊達では無い。通常空間での戦闘の為、自動的に亜光速までしか出せないが、それでもこれ程の巨体が恐ろしい速度で突っ込んでくるのは脅威に映る筈だ。後で突撃バカとか言われそうだが、今のところそれくらいしか戦術が無いのだから、シカタナイネ。

 そして再度進路上で行く手を阻むかのように展開した直掩のグロリアス級は、デラコンダ艦程ではないが大型の2連装レーザー砲を左舷に装備していた。それを連射して阻もうとしている様だが、生憎シールド強度はこちらが上だ。

 だが4艦隊も残っている現状、全部相手取るのは危険過ぎるか……という訳で、沈んでくれ。

―――そして、撃震が走る…という程でもなく振動が走る。

「うぉっち?!――損害は?!」

 

「船首軸線砲完全に大破、ですが敵は真っ二つです。縦に」

 

 見れば確かに最早戦法でも戦術でもないタダの体当たりを食らったグロリアス級は押し切られるようにして中央の船体部分を潰され、ウィングブロックがその衝撃に耐えきれずにねじ切れた事で、左舷の大型2連装レーザーと右舷のエネルギータンクがある部分が哀れ中央船体から泣き別れとなっていた。

 

 なんか可哀そうに見えるなとか思った途端、バチバチとプラズマを発しながら消滅してしまった。

 南無。

 

「後は食堂で仕込み中だったスープ鍋が転倒したとか」

 

「なんで戦闘中に飯作ってんスか…」

 

「ごはん食べなきゃ戦は出来ません。お陰で夕飯は2時間ほど時間がずれるそうです」

 

 ミドリさん、正確な情報ありがとう。でも最後のは余計だよ。しかし大マゼラン製のフネの頑丈さや堅牢さは小マゼランのフネの比ではないな。カタログスペックをそのまま信じていた訳じゃないけど、体当たりしてもこっちは少々揺れるだけである。

 慣性制御に回している重力井戸の性能が、かなり強力である事が証明された訳だ。

 

「しかし激突させて真っ二つとか意外とエグイ戦法だよな。悪魔だ悪魔」

 

「ウチの艦長、やる事が時々酷いしな。無茶振りにも慣れたけど。ありゃ外道だ外道」

 

「あ、敵艦爆散した~、脱出する暇も与えないとか~、そこにしびれる~あこがれる~」

 

「重力制御が効いてるね………だけど、なんどもやったらこっちが危ないよ」

 

「ま、これで良いんスよ、一罰百戒っていうの?そんな感じ」

 

 コンソールに目をやれば一目瞭然。

 たった一隻を破壊しただけで敵の直掩艦隊の艦隊機動が浮足立ったかのように鈍くなっている。ラム攻撃、いやこの場合体当たりによる敵艦の撃破なんてのは、光学兵器による砲撃戦が主体となったこの世界では事故でなければあり得ないような光景だからだろう。

 

 だが、その動揺こそこっちが欲しかった物だ――!

 

「トクガワっ!」

 

「主機関出力、推進装置共に問題無しですじゃ副長」

 

「ユーリ!今なら敵の旗艦の懐に突っ込めるよ!」

 

 なにせ、直掩艦隊の防衛ラインを突破すれば、あとは遮るモノ等ないのだから。

 

「本艦はこれより近接砲撃戦を行う!砲雷班は第二主砲をぶっ放せるように準備!照準、敵旗艦ッス!」

 

「おうよ!了解っ!」

 

「デラコンダ艦、レーザー砲のエネルギーチャージが完了した模様です。発射まで後5秒」

 

「面舵一杯、敵弾回避しつつ、両舷リフレクションカノンで反撃ッス!」

 

 アバリスの船体が大きく揺れ、進路方向を面舵(進行方向の右側)にきった瞬間、グロリアス・デラコンダ級の持つ大型レーザーがインフラトンの光を放ちながら発射された。凝縮されたエネルギーを帯びた光弾は最早質量を持っているに等しく、ギュゴゴゴと衝撃波を伴いながらアバリスの左舷を掠めていった。

 正直さっき体当たりした時よりもフネが揺れた。それにより咄嗟にコンソールにしがみ付いていたが、揺れが収まると同時にすぐに損害報告を促した。するとダメージの報告が出るわ出るわ。あの攻撃で左舷側の第一装甲板は殆ど剥離していた。

 

 もっとも第二は耐えきったあたりシールドが効いている。

 機関室は無事だし、上甲板の第二主砲にも被害はないと言ってもいい。

 

「左舷リフレクションビット大破。リフレクションカノンも損傷」

 

「構わないッス!右舷側だけでも撃つッス!!砲へのリミッター解除も許可するッス!残ったエネルギーを詰めてやれ!」

 

「なっ!そんな事したらすぐにぶっ壊れるよ!船体にも被害が出る!」

 

「どうせ片側ぶっ壊れてるんス!もう片方ぶっ壊れたって同じッス!ストール!やれっ!!」

 

「あいよっ!ジェネレーターのリミッター解放!エネルギー100%から120%へ!リフレクションカノンッ!発射ぁ!!!」

 

―――軽い振動、そして眩い光。

 

 右舷のリフレクションビットを犠牲にして収束・加速されたエネルギーは、先程のデラコンダ艦の砲撃と同じくらいの大きさの光弾となり、デラコンダ艦の左舷大型レーザー砲を撃ちすえた。

 いや撃ち抜いたと言ってもいい。何故なら光弾はデラコンダ砲の砲身の中へ吸い込まれる様に直撃したからだ。驚いて照準を行った砲雷班長ストールの方を見やると、何時の間に出したのだろう。直接照準用の照準器…電影クロスゲージって感じの奴をコンソールに接続してあった。

 

 つまりさっきの砲撃は艦橋からの直接照準による砲撃だったのだ。なんという神技かウチのクルーってこんなにスゴっかったのか?!思わずあんぐりと口を開けるとなんかサムズアップを返された。なんだろう、すっごくストールを殴りたい…。

 

 

「――敵旗艦、左舷大型砲をパージ、誘爆を回避するためと思われます」

 

「ふっ、勝ったな…これで相手は戦えまい」

 

「装甲板が剥離――いえ、パージしました。中から対艦装備と思わしき兵装が」

 

「へ?……なにそれズっこいッス!!」

 デラコンダはかなり執念深いというか、悪あがきが得意な人間だったようだ。某総帥を肖って勝利を確信しかけた途端、敵さんが再び戦う意思を見せた。見れば、原作じゃ大型レーザー以外装備無かったくせに、目の前のデラコンダ艦は無理矢理とっつけたような兵装が装甲板からせり出している。

 まだやるのかと思わず呆れてしまった。

 

「諦めな。あっちは最後までやる気なんだろう」

 

「う~う~」

 

「そのうーうー言うのを止めな。と言ってもあっちは主砲をパージしたみたいだから大きさは半減してるね」

 

 グロリアス・デラコンダ級は500m強の大きさがあるが、それは殆どが左舷の大出力レーザー、デラコンダ砲の大きさだ。そいつをパージした事で全長は一気に半分の250mほどにまで縮んでしまった。

 

 小型の駆逐艦とほぼ同程度の大きさである。

 これにより一撃必殺は無くなったと見ていいだろう。

 

 

「こっちの残っている兵装は?」

 

「ほぼ無改造だからね。もう上甲板の主砲くらいしか残ってないよ。後は体当たりくらいじゃないかい?」

 

「……片や主兵装無し、片や満身創痍って感じッスかね」

 

「流石に敵の大型レーザーは効いたからねぇ。ロールアウト直後の無改造じゃ仕方ないさ。むしろ戦艦に乗り変えたからここまで8艦隊相手にド派手な電撃でキメられたんだ。たいしたもんだよ」

 

 まぁ、駆逐艦なら相手にならないしねこのフネ。

 

「敵艦にエネルギー反応、本艦をロックオンしています」

 

「うーんと、エネルギー量ってドンくらいスか?」

 

「おおよそ駆逐艦クラスです。メイン動力を殆ど大型砲に費やしていたからと思われます」

 

「ウチのシールドは?」

 

「若干出力低下していますが健在です」

 

 だとすると、勝負にすらならないか……いや最悪を考えろユーリ。

 相手がバンザイアタックでも決めてきたら流石に被害が大きいぞ。

 

「砲雷班長、撃て」

 

「いいんですかい?」

 

「決着は早めにつけた方が良いんスよ」

 

 追い越した直掩艦隊もそろそろ正気に戻って引き返してくるだろう。そうなると前後、いやデラコンダ艦はもう悪あがきの段階だからほぼ除外して、背後をとられるのはちょいと不味いな。

 このアバリスもそうなんだが艦隊同士での撃ちあいを想定しているからか、この世界のフネって後方に砲が設置されて無いのが多い。

 敵前で回頭とかある種の浪漫だけど、実際にやったらフルボッコ確実なのでやらない。

 やらないったらやらないよ?……押すな!絶対押すなよ?!の精神じゃないからな!?

 

「第二主砲、直接照準よろし」

 

「撃ぇい!」

 

「恨むなよ。恨むなら艦長を、だ…ポチっとな」

 

 オイコラ、聞こえてッぞ。流石に数百人分の怨念は荷が重いから塩撒くかね。

 ともかく、そうして発射された主砲はデラコンダ艦を貫いた。攻撃に全てを回し、他は艦隊を組む事で補っていたであろうグロリアス・デラコンダ艦の装甲は、原作で駆逐艦相手に撃沈されてしまう程に紙だ。

 ましてや出力からして段違いな戦艦クラスの主砲の直撃を受けて耐えきれるようなものじゃない。

 

「敵旗艦、内部で連鎖的に爆発が起こっている模様」

 

 たったの一斉射、それだけで致命的なダメージを受けたデラコンダ艦は各所から火を吹いていた。むしろすぐに爆散しないのが不思議であった程だ。内部隔壁の機能は通常のフネよりも高性能だったのだろうか?しばし、敵が沈みゆくその光景を茫然と見やる。

 

「艦長、敵艦から通信です」

 

「……繋いでやれッス」

 

 そうしていたらデラコンダからの通信が来た。

 既に爆散一歩手前の状態で通信が来るとは思わなかった。

 だが最後の通信となるだろうし、俺はそれに応じた。武士の情けってヤツである。

 

『小憎らしい小僧め、よくもまぁやってくれたな。これでロウズ辺境領は平安から動乱に成るやもしれぬのに、お主らはそういう事など露ほども気にせずロウズから飛び立つだろう』

 

 忌々しい事にな。

 そう呟きながらホログラム通信に投影されたデラコンダの姿はボロボロで額から血を流していた。恐らく戦闘の衝撃か、コンソールのフィードバックで何処かにぶつけたのだろう。その生々しい姿を見ると、今まで戦いをやっていたという事を改めて思い出させてくれる。当然恨まれているからかギンと睨まれた。

 

 だが、それでいてデラコンダの口調は何処か清々しそうだった。

 

「ま、俺達は0Gドッグだから仕方ないッス。決着は宇宙で付けるモノで地上のそれは正直管轄外ッス」

 

『言ってくれる。これだから若者は始末に悪い……しかし、若者の好奇心とやらを侮っておったという事だろうな。だが、わしが敗れたのは貴様の戦術ではない。そのフネの性能だという事を夢夢忘れん事だ……完敗だ。若き者よ』

 

 うぐ、確かに最初からあり得ないような戦力で攻めたし何か罪悪感がある。

 でも俺は謝らないぞ。俺の矜持はレベルを上げて物理で殴るだからだ!…いや少しはあるけどね。つーか何か某青い巨星さんと台詞被ってッぞ?!

 

『よく覚えておけ小僧。地に根を坐した0Gドッグの末路というモノを。地上では死にきれず、さりとて自害すらも出来ぬ臆病者の姿をよく見ておけ……そして、わしの様になるなよ』

 

 俺がバカな事を考えている内に向こうは言いたい事を言い切り、通信が切られた。最後に言っていた言葉はよく聞きとれなかったが、言いたいことは何と無く判った。0Gを名乗るなら0Gとして死ね。そう言いたかったんじゃねぇかな。生憎俺は最後は布団の上で死にたい…腹上死じゃねぇぞ?それはそれでありだけど。

―――思考が逸れたが、デラコンダのフネはそのまま爆散した。

「敵旗艦…沈黙、インフラトン反応拡散…撃沈です」

 

「……案外、あっけないもんスね」

 

 領主法で俺達をこの星系に縛り付けた領主の最後に、俺は小さくそう呟いていた。時代を作るのは老人ではないと赤い人は言っていた気がするが、領主となった彼がこの星系を支えたのも事実。

 ま、道を踏み外した人間ってのは悲惨何だなと思った。

 

『こちらダメコン室、さっきの砲撃で残ってた方のリフレクションカノンが、区画ごと完全に吹っ飛んだぜ艦長』

 

 さて、敗者に対し黙祷を捧げていると、艦のダメージコントロールを請け負っている整備班のダメコンルームから通信が入る。そこの班長ケセイヤからものっそジト眼で睨まれている。ああん、そんな目で見られたら感じry――すっごい冷めた目ですね判ります。

 ま、まぁさっきの攻撃はリミッター解除してジェネレーターのエネルギーを過剰流入させたしな。リフレクションレーザーカノン自体が吹き飛んでもおかしく無い。とりあえず外部モニターで確認したところ、そりゃもう盛大に装甲板がまるで花弁を開いたかのように内側から拉げて吹き飛んでいた。人員が元より少ないのでドロイドしか回していなかった事が幸いし人的被害はない。

 

 でもこれは修理させた後に改造させてもう少し耐久度を上げた方が良いだろう。

 もっとも、今はそれよりも――

 

「とりあえず応急修理を急いでしてくれッス。後まだ戦闘は継続中ッスから気を付けて」

 

『言われるまでもねぇや』

 

 渋い顔をしながら通信が切られる。応急とはいえ百数mもぶっ壊れてるから修理するのが大変だと思っているんだろうな。整備班にしてみれば大規模土木工事みたいなもんだ。

 フネの応急修理を最優先、特に武装が壊れたままじゃ怖い。

 

「艦長、残存艦隊が撤退――いえ、何隻かが反転、こちらに向かってきます」

 

 タイミング良いなオイ。

 

「トスカさん、残りの兵装は?」

 

「現状、残りの兵装は中型レーザー砲が一門と小型のが一門だけ。応急修理ですぐ復活するらしい」

 

「…………いけると思います?」

 

「さて、まぁ大丈夫だろうさ。幸いAPFシールドはまだ展開してるからねぇ。レーザー程度ならバイタルエリアに損害はでないだろう。こっちが体当りを連発さえしなければ大丈夫じゃないかい?」

 

 あ、あれ?トスカ姐さん、なんか言い方にすこし刺があるなぁ。

 そう言えば敵艦に衝突する瞬間、何かをぶつけた様な音があった様な…………ま、まさか。

 

「若干、痛かったねぇ…」

 

 頭を摩っているトスカ姐さん、あー…どっかに打ってたのね。

 

「……あとで特別手当出すッス」

 

「ふふ、解ってるねぇユーリ」

 

「ああ!!副長だけずるいぜっ!」

 

「仲間はずれは…いけねぇ。いけねぇよな艦長?」

 

『「「「そうだそうだ~!」」」』

 

 どうやら、特別手当の事をブリッジの面々に聞かれていたらしい。序でにミドリさんが手を回したのだろう。他の部署の連中も続々と手当出せコールが………ちぇッしかたないなぁ。

 

「解ったッス、今回のこれに特別手当と地上での宴会費用を経費で落せるようにするッス」

 

『「「「流石は俺達の艦長だー!!!」」」』

 

 湧きたつ艦内…というかまだ戦闘中じゃ――――

 

「敵全艦轟沈ッと、おわったぜ艦長」

 

「え、あれ?俺なんも指示して無いよね?」

 

「まぁ手っ取り早く終わらせておいた、早いとこ宴会したいからな!」

 

「おお!ストール良い仕事だね!」

 

「もっと褒めてくれ副長!」

 

「と、とりあえずロウズの空間通商管理局のステーションに向かうッス!」

 

『お、ついに愛しの彼女とご対面か?艦長』

 

 何時の間にかダメコン室のケセイヤさんから通信が…ってちょい待てって!!

 

「ち、ちがッ!つーか誰が彼女とかデマ教えたんスかっ!?」

 

『ま、怖がらせちまったんだし?男として責任とれよ艦長~?』

 

「まって~聞いて~ケセイヤさーんっ!彼女は俺の妹ッスよ?大体なんでそんな話になってんスか?」

 

『いや、この艦の連中の殆どがそう言ってるぜ?ちなみに情報元は副長だ』

 

「あ、ケセイヤのバカ!ユーリには教えんなってアレ程!」

 

 へぇ、トスカ姐さん…そんな事してたんだ……人の不幸は蜜の味ってか?

 

「ユ、ユーリ?別に悪気があった訳じゃなくてねぇ?」

 

「…………上司侮辱した罪で強制EVA(船外活動)3時間をペナルティで入れようかなぁ~……デブリってこわいッスよね?クケケケケ―――」

 

「あたしが悪かった!謝るからそれだけは勘弁してくれ!あとその笑いを止めとくれ!めっちゃ怖い」

 

―――まぁ良いけどねぇ…クケケケケケ

 

 

***

 軌道上のステーションに到着したアバリスは、修理の為にすぐさまドック入りとあいなった。完成したばっかりで綺麗なお肌をしていたというのに、今はもう穴開きチーズも吃驚な程の穴開きで中破に近い損壊である。

 整備を一手に仕切るケセイヤさんが、港で改めてフネの全体を見た時に『俺のアバリスちゃんがキズものに~!!』とか喚いてたな。

 だが敢えて言おう。なにが俺のアバリスだッ!大体アバリスの所有者は俺じゃい!!

 まぁそれは良いとして次の航海もある事だし、アバリスには隅々まで修理して貰う事にしよう。

 さて、今回の目的である我が妹様である件のチェルシーだが、調べたところ空間通商管理局の軌道ステーションにある生活区画、デラコンダが借りたという一室に監禁されていた。

 監禁はしたが別に手錠をかけたりとかはせず、牢屋じゃない場所に人質を置いておいたあたり、デラコンダも流石に少女に手を出すような外道ではなかったらしい。

 トスカ姐さんやクルー達に肉親が迎えに行かないでどうすんだと背中を押され、直接俺も出向いたのだが、入口にはデラコンダが雇ったと思われるSPらしき人間が入口を守っていた。こりゃデラコンダの部下とひと悶着あるかなって思った。

 だが結局、とくに何も起きる事はなかった。こんな事もあろうかと、戦闘があるかと思って完全武装したフネの連中を背後に待機させて、敵意を感じさせない様にニコニコ笑いながらどいてくれと頼んだだけなんだが。

 完全におびえた目でヒッと悲鳴に近い声を上げながら、顔をひきつらせてどうぞどうぞと叫んで逃げる様に消えていったのは最早憐れみしか掛けられんな。

 

「ここに…チェルシーがいるのか――ふむ…(しまった。何て声をかけるか考えてねぇや…)」

 

「カッコつけてるとこ申し訳ないけど、早く出してあげたらどうだい?」

 

「トスカさんのイジワル (ええい!ままよ!男ならドーンと逝けドーンと!)」

 

 デラコンダの部下から一生借りた(奪ったとも言う)ドアの電子キーを使いロックを外した。プシューという何とも未来的な音を立ててロックが解除され、扉が目の前で開いていく。俺は戦々恐々としながらもスッと一歩を踏み出した。

 

「ユ、ユーリ…なの?」

 

「こんにち…は――あれ?考えたら今って朝昼夜のどれ何スかね?」

 

 そんなアホな事を考えちゃうのがユーリクオリティ。目を皿のように見開いて如何にも驚いていますという表情で出迎えてくれた翠の髪をした少女。この世界の遺伝子は多様性に溢れているから色んな髪色があるのは知っていたが、ヒスイの様に鮮やかな翠色をした髪と瞳というのは実際に見ると凄いって感想しか出ないな。

 だが綺麗だ。似合っている。うん。とりあえず脳内データベースと照合したところ、憑依先の写真のように正確な記憶と一致する容姿であることから、彼女が間違いなく我が妹チェルシーである事は判った。

 

 しかし、どうでもいいが兄妹設定にしては容姿似てねぇな俺ら。

 俺は白髪だし、彼女は見事な翠髪……遺伝子の多様性ってスゲェな。

 

「ゆーりぃッ!」

 

「オワッ!ど、どうしたんスか?!チェルシー」

 

「ゆーりぃッ!ゆーりぃ!!わーん!」

 

 いきなり抱きつかれた?!俺の心臓バックバク?!というかチェルシー泣きだしてしまった。そんなに怖かったんだろうかとか思ったが、冷静に考えたら怖いわなぁ。いきなり訳もわからず捕まったんだし――というか後ろのギャラリー!微笑ましそうにニヤニヤ見てんじゃねぇ!仕事しろ仕事!

 とにかく野次馬連中にシッシとジェスチャーを送り、下がらせた。気が付けばチェルシーはそのまま気絶している。第一印象として結構繊細に見えた彼女の事だ。これまで無意識であるが張っていた緊張の糸が、助けられた事で切れてしまったのだろう。

 

 流石にこんな所に寝かせておくという訳にもいかないので、とりあえずアバリスに連れて行く事にした。もちろん、万が一に備えて用意した医療班の担架に乗せてな。お姫様だっこなんてしない。疲れるし。

***

 

 チェルシーを回収したものの、俺達はすぐには出立せずにそのままロウズの軌道エレベーターステーションに係留していた。エア漏れが起きた程の損傷具合からして、このまますぐに出港するのは流石に無理があったし、装甲板の張り変えをするなら設備があるドックの方が楽だったからだ。

 そう言った理由から、破損部分の修理と並行して各種補給や修理、整備班とその他の部署の人間も総動員して自分たちの部署の修理や点検にあたらせている。俺は俺で、ステーションでの手続きや各種消耗品などの書類の整理。各部署からあがってくる報告を処理する為に艦橋に籠りっぱなしとなっていた。

 

『――――……てな訳で、アバリスの修理は明朝に終わるらしい』

 

「そうスか、報告御苦労さまッス」

 

『でもよう艦長、幾ら戦闘が激しいとはいえ次からはもうちょい優しく扱ってくれや?キールに歪みが出ちまったら幾らステーションのドックでも直せネェんだぜ?』

 

「うっ…善処するッス」

 

『そうしてくれ。フネも人間も健康が一番ってな。それじゃ仕事に戻る』

 

 整備班を統括するケセイヤ整備班長からの報告は以上である。送られてきた報告データを見るに、デラコンダ砲が掠った左舷側の装甲板やアポジモーターにセンサー、それに武装系は総取っ換えとなるらしい。科学班から破損部位も含めて装甲材質を研究し、より強固な構造に変えられないかと試行錯誤している様だが、まだ時間がかかりそうだ。

 各部署から上がってくる報告に目を通して処理しながら軽く溜息を吐く。艦長の仕事って航海している時よりも港に居る時の方が忙しい。一度フネだしたら後は事務的なチェックオンリーで基本戦闘があるまで暇だしさ。ツラツラと浮かぶそんな考えを頭を振って追い払いながら仕事してたら医務室からコールが来た。なんだろうか?

 

『艦長、医務室です。例の娘さんが眼をさましました』

 

 どうやら気を失った妹君が目を覚ましたらしい。流石に顔を出して色々と話をしないと不味いだろう。そう考えた俺はすぐ行くと返事を返し、手元のチェックボードの電源を切ってブリッジを後にした。

 やれやれ、忙しいったらありゃしない。

 

 

 ●戦艦アバリス・医務室●

 フネにモジュールを組み込むというのは、無限航路の世界の艦船における醍醐味であると言える。完璧にブロック化された各種モジュールユニット、それらを搭載出来る構造の宇宙船。全て同じ規格で成り立っているからこそ出来る芸当だ。この方法考えたヤツって天才だなホント。

 ちなみにモジュールシステムは内装の組み換えという側面もあるが、元よりある設備の強化という側面もある。どんなフネもモジュールを乗せ無くても最低限の医療設備は装備されており、モジュールはソレらの機能増幅を行う装飾のような役割を担う事になる。

 

 まぁ流石に宇宙に出るフネに医療設備が標準でないのは無理ゲーだしな。そんな訳で、空間通商管理局の共通規格のドックで製造されたこの艦にも医務室は常備されている。医務室のモジュールを導入していないので、必要最低限の機能を備えたものでしか無い。設備の都合上、何時間もかかる様な大手術なんぞ出来ないし、出来る事と言えば薬を出すかリジェネレーションポッドによる軽傷の処置程度の物である。   

 だが、それでもあるのと無いのでは雲泥の差があると言える。特に軽い怪我ならさほど時間をかけずに再生治療してしまうリジェネレーションポッドは応急処置を行うのに、随分と助かるという事が解った。もっとも元々軍用に設計された艦なので、標準で小マゼラン製とはry―――ともかく強力なのがあるという事だ。

 

―――さて、とりあえず話を進める。俺は今、件の医務室に訪問していた。

 あの少女チェルシーは憑依先の妹さんであり、そして俺とデラコンダとの戦いに巻き込まれた少女。いや、俺がこの星系に居座り続けた事で巻き込んだ被害者な訳だし、色々と心配だったのだ。

 ちなみにその事をブリッジの面々に話したら、色々からかうような事言ってきたので、鬼となり黒ユーリを降臨させようか悩んだのだが……。

 閑話休題。

 

 医務室の扉を潜ると、中の空気は通路側と比べると幾分か清浄な空気の様に感じられる。

 まぁ医務室だけあって空調が少し特別だからだろう。宇宙船での病気ってのは下手すると全滅フラグである。とりあえず先の戦闘での負傷者はもう全員退院しているので、ココに居るのは俺とチェルシーと医療スタッフだけだ。

 

「ちわっす!ウチの妹の見舞いに来ました!」

 

「艦長、ココは医務室じゃから静かにな?」

 

「さーせん」

 

 ああ、お静かにというのが暗黙の了解の医務室に大声あげて入った馬鹿を医療スタッフが冷めた目で見てくる、悔しい!でも感じ(ry――ってアホやってる場合じゃ無かった。

 俺はカーテンで区切られたベットに足を向ける。

 

「……………あう」

 

 カーテンに手を伸ばしたが何と無く手が止まる。なんだろう、この全身を締め付けられるような感覚は?まさか、これが恋?………いや一度言ってみたかっただけ。こりゃ多分緊張だな。なにせ、妹なんて画面の向こうにしかいなかった訳だs………なんだろう、次元を越えて冷たい目が向けられている気がする。ビクンビクン。

 

≪――シャッ≫

 

 ま、そんなのは気にせず開けるのがユーリクオリティ。

 

 

「ちわーす、三河屋で―ス」

 

「え?」

 

 目標沈黙、天使が通るよ。はい、仕切り直しですね。判りry

 

「やぁチェルシー、起きてるッスか?」

 

「あ……ユーリ」

 

 ふと思ったんだが、俺なんとなく普通にチェルシーの事を呼び捨てにしたけど、コレって問題ないんだろうか?俺の中の人は彼女の知っているユーリとは別物な訳だし。でもまぁいっか別に、ユーリ君は俺と融合している訳だし、何より今は俺がユーリだからな。

 

「デラコンダに捕まってたんだろ?酷い事はされなかったかい?」

 

「うん、大丈夫だったわ、ただ閉じ込められていただけだもの…」

 

 まぁそこら辺は、彼女が気絶していた間に調査済みではある。

 女性の医療スタッフが暴行とか所謂18歳未満お断りな精神破壊プラスアルファな行為とかされなかったかを、隅々までスキャンして調べあげたが結果はシロ。

 五体満足で本当に何にもされてなかったらしい、アア見えてあのハゲは紳士だったって事か。

 

「……………(じ~~~)」

 

「……………」

 

「……………(じ~~~~~)」

 

「……………はう」

 

 ところで何この可愛い生き物?じっと見てたらシーツで顔隠してるんですけど?

 さて萌えるのは後にしてだ、俺は彼女に聞かなければならない。今後、俺と共に来るのか、それともフネから降りて普通の生活に戻るのか…出来れば後者が良いなぁ。彼女がこのフネに居ると、俺クルー達に色々とからかわれそうだしな。

 勿論、彼女を助けた事に後悔はない。どっちかって言うとアフターケアの観点だ。

 たとえばの話、俺がこの先有名になるとする。そうすると今回のような事件がまた起こり得る訳で、そして今回の様に敵が紳士的とは限らないって訳で……さすがにこの人畜無害そうな少女が汚されるとかは精神的にムリ。紳士としては放っておけないだろう。

 だが逆に連れて行くというのも問題がある。0Gをやって改めて認識した事だがこの稼業は本当にポンポン人が死ぬ。さっきの戦闘だって相手のフネに何百人乗っていて、撃破した時に脱出する事かなわず一緒にダークマターと化した人が沢山いた事だろう。

 そうなる様に指揮した俺はまさに大量虐殺者って事になる訳だ。そんな風に簡単に死に至るかもしれない世界。そんなクソったれだけど魅力的過ぎる世界にカタギの少女として生きられる彼女を巻き込んでいいものか悩む。彼女にもこの憑依先と同じ秘密がある事を俺は知っている。

 でもだからこそ、彼女には彼女の生き方をしてほしいと思うのは悪い事だろうか? 

 

「なぁ、チェルシー」

 

「なに?ユーリ」

―――だからこそ、俺は心を鬼にするのだ。鬼だ。鬼になるのだぁ。

「まず最初に言っておくけど、俺はもうロウズには戻らないと思う」

 

「え…?」

 

 心底驚いたという表情をする彼女、俺はそれを無視し更に言葉を紡ぐ。

 

「……君には選ぶ権利が与えられている。一つはこのフネに居座る…いや乗組員となるかだ。0Gドッグとなる以上、命をかける程危険でスリルいっぱいの生活が待っている。退屈とは無縁の世界に成る事は請け合いッス」

 

「ちょ、ちょっと待ってユーリ、そんないきなり言われても、私…」

 

「もう一つは、ここで俺から離れてロウズに残り、平穏な日々を享受する事。メリットは言った通り平穏な世界。命の危険もなく、平和に暮らせるッス」

 

「………えぅぅ――」

 

 俺と別れる。その話しを出した途端唐突に感情に不安の色が増し涙目となる少女。罪悪感を刺激され、こっちの精神がびんびん削られているが、これはとっても大切なことなのだ。今の彼女は多少ユーリという存在に依存しているが、恐らくそれ程酷い訳ではない事は会って感じた。

 だからこそ、この質問は俺の艦隊がボイドゲートを通る前に決めなければならない。俺やチェルシーには主人公補正というか邪気眼設定のような精神に作用する影響力がプラスされており、それはボイドゲートと呼ばれる空間通商管理局所有の星系間を結ぶゲートを通る事でより強固なモノとなってしまう。

 要するに彼女はゲートを通ると俺についてくるという事しか頭で考えられなくなる。それは精神に作用、いやプログラムを変更するようにして書き換えられてしまうから洗脳よりも性質が悪い。でもゲートを通過する前の今の彼女ならば、ある程度は考えられるとは思う。

 もっとも、知識はともかく彼女の精神は生れたての雛鳥のようなもんであり、こういうロジックな思考は苦手かもしれないがゲートを通る前ならまだマシなのだ。勝手だとは思うが彼女に決めて貰う、それしか俺は思いつかなかった。実のところ、俺もゲートを通過するとどうなるか判らないけど、彼女よりはマシ。

 

「まぁいきなりなのは理解してるッス。だから考える時間はあげるッスよ。このフネは一度、次の宇宙島へ向かう為の物資補給の為に惑星トトラスに向かうんス。んでチェルシー、君にはそれまでにこれからどうするかを決めて置いて欲しい。こればっかりは強要する訳にはいかないッス。俺達は皆、自分の意思で宇宙に出たんだから……おk?」

 

「…………でも、私はユーリと居たいよ。平和に、過ごしたい」

 

「ま、それも魅力的なんスが、生憎もう俺は宇宙に魅せられちまってるんでムリッスね。でもだからこそチェルシーは自分で考えなきゃならないよ?俺と居たいからじゃない。自分でどうしたいかを決める。これがチェルシーくんへの宿題」

 

「宿題って…」

 

「だって、これでちゃんと答えを出せないようなら、問答無用で置いて行くから」

 

「え……そんなっ!?」

 

「だから、ちゃんと考えるッスよ~」

 

 バイならと席を立つ俺を見上げながら彼女は眼を見開いていた。なんか捨てられた子犬のビジョンが浮かびそうなほどしょんぼりしちゃって。可愛い子ねぇ~。もっとも俺の食指は動かんけどな!俺はもっと明るい娘の方が好きぬぁのだぁ~!つか周りに妹と公言してる娘に手は出せません。どうせチキンです。

 

「とりあえず、俺仕事あるから、ゆっくり休んで頂戴よ」

 

 まだまだ仕事は山積みなのだ。疲労度がMAXとなりそうだが人員不足な内は仕方ないのだ。こうして話をするのも貴重な時間を削っているのだ。だから早く戻って仕事しないとケツかっちんなのだ。泣きそう。もうユーリは泣きそうよぉ。心の汗を胸の内に留め、俺は医務室を後にしようとした。

 

「ま、まってユーリ」

 

「なんスか?あ、トイレなら出て左にすぐッス」

 

「……そんな事聞いてないよ」

 

「売店は右のエレベーターで降りれば良いッスよ」

 

「ちがうの。そうじゃなくて――」

 

「あー、残念ながらお風呂は部屋備え付けのシャワーしか今は無くて、何時かテルマエをいれちゃろうかな?どう思う?」

 

「えっと、良いんじゃないかな……もう、真面目に聞いてよ。それと、ありがとう助けてくれて」

 

 あひょひょ、サーセン。つい反応がおもろうてやっちまった。後悔はしていない。

 


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