何時の間にか無限航路   作:QOL

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~何時の間にか無限航路・第4話、ロウズに降り立つ編~

■ロウズ編・第四章■

 デラコンダを倒した事で政権に少なからず混乱が出たらしいが、宇宙は相変わらず静かに凪いでいた、とかいうとすごくかっこいい気がする今日この頃。領主との戦闘で新造艦にムリさせた事や新造艦の船体の研究に時間をとりたいという思惑も絡んで、ロウズ港を出てからの速度は控えめにしてゆっくりと航路を進んだ。

 

 原作でも寄港せずに一定距離進むと、次に停泊した際に研究が進んだという形で、フネの策敵や機動性や装甲などなど色んなところにポイントを振り分けて強化するシステムがあったが、これもまた似たような形である。別に寄港しなくてもリアルタイムで研究が勝手に進むのが違うところと言えば違うところだろうか。

 

 ともかくロウズを出立してから、船内時間で二日かけて隣星のトトラスへと戻ってきていた。その間も稀に遭遇する元デラコンダの配下の警備部隊はジャンクパーツ的な意味で美味しく頂いた。敵さんらも大将を失い、上層部が混乱しているからか惰性で仕事をこなしていたので真面目に職務をしている人は少なく、脅したらすぐに降参してくれた。お互いに被害もなく、俺に良しお前に良しだった。

 

「もっとも、俺は暇だった訳だが…」

 

 前回の戦闘が大規模でその後処理の仕事は面倒ではあったが、まだ艦隊も組んではいない現状ではそれ程大変という訳ではない。精々消費した物資の補給目録を作成する程度なので1日もあれば終わる。ただそうなると艦長職は基本暇なのである。たびたび起こる戦闘でも俺が指示を出したのは大抵一言で「ぶっぱなせ」だの「撃ち落とせ」程度である。

 あとは船内の散策と航海日誌をつける位しかする事がない。勿論散策には船内で乗組員同士のイザコザが起こっていないかとか、使い勝手はどうか聞いて回ったりとか、次にモジュールを組むなら何を入れようとか考えるという目的もある。まぁ俺の場合は新しくなったから今後も迷わないように地図を片手に道を覚えるというのもあるが。

 

「………んで、何なんスかね?この状況」

 

 んで、もうすぐトトラスにつくという頃合い。昼飯を食べに来た筈の俺は何だか良くわからないまま食堂の片隅にある椅子に座らされた。何時もは食堂のど真ん中で乗組員たちと談笑しながら同じ釜の飯を食うという行為を実践して連帯感を育んだり、不満がないかを調べたりするのだが、今日はちょっと違うようだった。

 しかし、なんで突然食堂の片隅に追いやられるんだろう?もしかして艦長のような役職の人間が隣にいたら安心して飯が食えないからハブられたとか?泣いちゃうよ?ユーリ君泣いちゃうよ?うさぎは寂しくなると死んじゃうんだよ?そして化けて枕元に出てやるんだ。うらめしやぁ~。

 …………いや、ウチの乗組員たちは艦長とかを気にかけるとかいうような殊勝な連中じゃない。むしろ誰かれ構わず飲み会に誘い込み、酔い潰れるまで痛飲する先輩のような迷惑な連中ばかりで、俺が来た程度でひるむようなタマは乗っていないから、これには何か理由があるのだろう、多分、きっと、めいびー。

 と、とりあえず、そうあたりをつけた俺は、しばらく黙ってお冷を睨みつけていた。

 

≪コト≫

 

「ん?なんだ、料理?」

 

 しばらく無言でお冷とにらめっこしていた俺の目の前に配膳される料理の数々、どれもこれもうまそうに湯気を立てていると、書いておけばいいか?まぁ実際ウマそうであるのだが…残念ながら過去から飛んできた俺にしてみれば、目の前に並べられた料理は見た事ある様で見た事がない物ばかりが沢山きたという感じだった。

 

 いや匂いとかもこれまで嗅いだ事がないエキゾチックな感じがして食欲はそそられますよ?ただ何時も食っている飯は過去の地球でも食べたようなサンドイッチ(パン以外中身は見知らぬ食材)や丼もの(何であるかは不明)だったから、ある意味で未来料理を突然並べられた俺は茫然としていた。

 

 そして何よりも―――

 

「チェルシー、これは?」

 

「ええと、ユーリ食事まだだったよね?」

 

―――それを配膳しているのが我が妹君と来れば、なおさらであろう。何してんのチミィ?

 

「料理長さんに頼んで、厨房を貸して貰ったの。あったかい内に食べて」

 

「ううん?んー、まぁそこまで言うならいただきます」

 

 厨房は本来厨房関係者しか入れないよー、とか、関係者以前に君はアバリスの乗組員ですらないよー、とかいう言葉は無意味な気がした。何せ食堂の他の席からこっちを窺っている視線を感じる……というか堂々と覗き見をしてらっしゃるブリッジクルーの面々が居るとくれば、一体だれがこんな事を考えて実行したのかは予想がつく。

 

 しかし、だ。

 確かにチェルシーの言う通り、目の前で湯気を上げている料理を無視してしまうのも勿体無い気がする。温かい内に食べてという事は、やはりあったかい間が一番うまい料理なのだろう。仕方がない。俺は溜息を内心こぼしながら手元に置かれた食器に手を伸ばした。

「ねぇユーリ、美味しい?」

 

「うん、うまい。こらぁウマい」

 

 食い始めて十数分、妹君に言われて口から飛び出したのは素直な感想だった。いやマジでウマい。見た事も食べた事もない食べ物だったが妙に舌になじむ味なのだ。それもそのはずで、この料理は憑依先の好物として彼女が良く作っていたと記憶している。身体がウマいと感じているのだから、その中にいる俺もウマいと感じるって訳だ。

 

 そんな訳でがつがつとそれなりに量があった料理を平らげていく、その様子を何処か嬉しそうに見つめるチェルシーは時折口直しに飲むドリンクを継ぎ足したりと俺が言うのもアレだが甲斐甲斐しく傍で色々としてくれている。その姿が健気過ぎて涙が出そうだぜ。そしてそれを遠くから生温かい眼で見守るクルーの姿の所為で色々と台無しだけどな!

 

 まったく、何時の間にクルーを仲間にしてるんだか…チェルシー恐ろしい子。白目を出して戦慄してたりするが、実際はなんて事はなく純粋な彼女はただ素直に色々周囲に聞いて回っており、それが兄の傍に居たいけど兄の気持ちも判りどうすべきか悩むという健気さに見えただけなのだ。そんな事は露ほども判らない俺はただ黙々と料理を平らげた。

 

「はぁ、もう食えねえッス、ごっそさん」

 

「お粗末さまです」

 

「……さて、本題に移ろうっか?チェルシー」

 

「……うん」

 

 食事を終えてまったりとしたい気分だったが、はっきりさせねばならない事だろうと思い俺は若干の威圧感を持ってチェルシーの方を向く。なんとなくだがこれは彼女が考えた俺に対してこの間の答えを打ち明ける為の場だと何と無く気が付いていた。最近なったばかりとはいえコレでもフネの頭張ってる艦長だ。それくらいは判る。

 

 みょうに回りくどい気もしないわけでもなかったが、まぁ彼女はどちらかと言えば内気な性格をしているので、自分から打ち明けるには舞台設定も必要だったのかも。それに関しては別に言うべき事はない。彼女の真意も知りたいしね。

 

「お願いです。私をこのフネ。ユーリのフネに乗せてください」

 

「理由を聞いても良いッスか?」

 

 やや事務的な感じもするが重要な事だ。何せこのフネに乗るって事は必然的に0Gドッグになるという事であり、最悪戦闘で死ぬ事もあるのだ。一応この世界の元がゲームなので目の前の彼女が結構最後の方まで居る事は知っている。だが正直なところゲームの話し通り進むか微妙だ。既に逸脱してるし下手したらどっかで沈むかも知んない。

 

 そんなフネに彼女を乗せてもいいのだろうか俺には解らんのだ。ま、どっちにしても乗るだろうけどね。彼女はそういう風に“創られて”いるんだから。まぁそれは置いておこう。チェルシーは俺からの問いに目を逸らさずにきちんと覚悟を決めたようだ。

 そして話し始める、己が選んだであろう道を…とか言ってみたり。

 

「私は最初、ユーリには地上で静かに暮らしてほしいって思ってたの」

 

 曰く、安全な地上で安穏と暮らしましょう。

 宇宙は0Gドッグとか海賊などのアウトローの所為で命の危険が伴うような自由世界だが、一転して地上すなわち惑星の方は比較的平和であったりする。ちゃんと政府が管理しているというのもあるし、0Gドッグも海賊も地上の民は狙わないのが暗黙のルールとして存在しているからである。

 

 カタギに手を出すのは素人のするこっちゃいという事だろう…何処のヤクザ者だ?ともあれ、その暗黙のルール、アンリトゥンルールのお陰で宇宙から地上を攻撃するようなヤツは宇宙航海者にはあまりない。そういった地上を火の海にしちゃうような行為自体が唾棄すべきモノだとされているからだ。

 

 第一惑星を攻めるなら海上封鎖ならぬ宙域封鎖しちゃった方が安上がりで安全なのである。惑星の開拓度合いにもよるらしいが、航路さえ押さえれば人口が多い星ほど干上がるのが早いんだそうな。コレ艦長になってからやっている通信講座で覚えた内容ね?―――さて、そろそろ話しを戻そうか。

 

「――最初フネに乗って驚いたわ。初めて乗る宇宙船で私はただ一人の部外者、それなのに妙に気さくに接してくる人達ばっかりで戸惑う事が多かったわ。だけどこのフネに乗っていて解ったの。皆が笑ってたの。楽しそうに前を見ているのが」

 

 バカ騒ぎは大好きな連中だからねぇ~。お陰で酒代が馬鹿にならねぇ…鬱だ。

 

「私もその輪の中に加わりたいって思えたんだ。ユーリの近くにいたいって思えたの。勝手なことかもしれない、だけど私はユーリの隣に居たいの……臆病な私だけどお願いします。私を、このフネに乗せてください!」

 

 そう言ってガクンって音が出そうなほど素早く頭を下げたチェルシーに俺は慌てた。今居る場所は食堂であり、当然一般クルーの眼があって、俺の前では少女が頭を下げていて……クソっ、やられた!ここで断ったら俺がわるもんじゃねぇか!?

 

「そこいらでいいだろう?ユーリ」

 

「トスカさん…何時の間に来てたんスか?」

 

「ついさっきさ。いたいけな少女を公共の場で辱めている鬼畜な艦長さん」

 

「ちょっ!人聞き悪いッス!俺はただ彼女に答えを出してくれと――」

 

「それなら、別に問題無いねぇ。この娘はちゃ~んと自分で乗りたいって言ったんだ。第一アンタが自分で決めろってこの娘に言ったんだろう?なら男ならそれを守らなくてどうすんだい?」

 

 うぐ…、そりゃまぁ確かに…。

 

「お願いします!」

 

 思わぬトスカ姐さんの乱入に腰が引けた俺。さらにチェルシーはたたみかける様にお願い攻撃を繰り出してくる。やめて!俺の(公共の視線に対する)MPはもうゼロよ!

 

「ああもう!判ったッス!判ったから顔をあげるッス!チェルシー」

 

「ユーリ、了解してくれるの?」

 

「俺は最初に言ったッス、このフネに乗るか乗らないか決めるのはチェルシーだって。だから俺は、チェルシーが自分で決めたっていうなら文句は言わないッスよ」

 

 まったく、こんな人眼がある場所でお願いするとか彼女の人見知り的設定は何処に行った?お陰で一般クルーの好奇の目にさらされて俺の精神がマッハでピンチッスよ。多分ないと思うけど、もしこれを意図的にやったんだとしたら……チェルシー、恐ろしい子!

 

「アンタ、なに白目剥いてんだい?」

 

「月○先生リスペクトッス」

 

「「………(だれ?それ?)」」

 

 あ、姐さんも妹君も疑問符浮かべてら、この世界の人は知らんわな。こりゃ失敬。

 

「はぁ…ま、人手不足だしだけどその代わり、きちんと働いてもらうよ?とりあえずは厨房で手伝いをして貰う事にしようかな?」

 

「あ、ありが…」

 

「礼は言わない、このフネに乗ると決めたのはチェルシー自身なんスからね。俺ァ来る者拒まずが基本だから、使える人材をフネに雇い入れるのは当然ッス。ま、とにかくだ―――」

 

 改めて居住まいを正し、チェルシーの方を向いて真面目な顔を作る俺。

 ちゃんと言った通り自分で考えて出した答えだ。俺もちゃんと対応しなければなるまいて。

 

「―――ちゃんとついて来いよ?じゃないと置いていくからね?」

 

「大丈夫、ちゃんとユーリについて行く」

 

 

 そして、あとで寝る時に思い出してぎっぷりゃと言いたくなる台詞を吐いたのだった。

 ああ、周囲の目がなんか奇怪な物を見る眼だったのも地味に胸が痛いなぁ。

―――こうして、生活力高めの主要クルー、チェルシーを仲間にしたのであった。

「あ、ちゃんとお給料も出すッスよ」

 

「え、別に私ここにいられるなら無給でもいいよ?」

 

「阿呆。雇う以上お金を払うのは普通なの!……大体女の子なんスから色々といるっしょ」

 

「そういうものなんですか?」

 

「まぁそう言うもんだねぇ。ようこそチェルシー、改めて歓迎するよ(これで賭けはアタシの総取りだねぇ、くふふテコ入れした甲斐があるってもんさ)」

 でも何でだろう?トスカ姐さんが悪い顔しているような気がするお( ^ω^)

***

 さて、チェルシーが正式に仲間になったとかのイベント以外は特に何事もなく、無事にトトラスで物資を補充できた俺達は、そのままアバリスの針路をボイドゲートへと向ける前に、ちょいと一週間ほど寄り道をすることにした。目的は何と言ってもお金である。なに簡単な話、ゲートをくぐる前にお金をためるただそれだけ。

 

 つまり、しぶとく領内を徘徊しているであろうデラコンダの部下のフネを拿捕するのである。先のデラコンダ戦に置いてアバリスが結構無茶が効く事が解ったのと、連中の装備品ではこの艦のAFPS(えーぴーえふ・しーるど)は貫けない。なら精密射撃で武器だけ破壊し、降伏を呼び掛けてやれば、フネだけが手に入ると言う訳だ。

 ちなみにジャンクとしてフネを売るのと中古として下取りするのとでは後者の方が高く買い取ってもらえる。今は領主が居なくなって混乱しているから、そいつらを狩ればお金はたまる一方な上、倒した事になるので名声値も上がると一石二鳥で美味しいことだらけである。コレを逃す手は無い。

 え?鬼?鬼畜?悪魔?なんのことだか ゆーりわかんない、てへぺろ

 

「艦長~、新しい敵の団体さんの影を捕えたよ~、どうする?」

 

「敵さんの艦種は?」

 

「全てレベッカ級です。どうしますか?」

 

「それなら答えは決まってるッス、鹵獲するッスよ。儲け儲け」

 

 またカモを見つけたぜ!こうなれば稼げるだけ稼ごうでは無いか!ヒャッハー! 

 目標はランキング100位に入るくらいまで!!

 

「さっすがはユーリ。戸惑わないね。そこにしびれないしあこがれないが…」

 

「トスカさん、あの艦隊が何に見えるッス?」

 

「札束だね」

 

「問題無いッスね?」

 

「ああ、問題無いね」

 

「ほいじゃ、ミドリさん」

 

「ハイ艦長、戦闘態勢に移行ですね?」

 

「艦内放送頼むッス」

 

「アイサー」

 

 お仕事お仕事ってな。

 こうして俺達は、残党狩りを行う事で資金をドンドン増やしていった。

 なるべく抵抗しなければ破壊はしなかった。買い取りの値段が安くなっちゃうので。

―――そして戦闘シーンは全カット!カットカットカットォ!…どうせ作業ゲーだし。

『こちらEVA班、敵さんのフネをトラクタービームで固定しておきました』

 

「御苦労さまッス。戻ってもらっても良いッスよ?」

 

『ありがてぇ、そろそろ肺一杯に空気を吸いたかったところだ。それじゃあ一度戻ります』

 

 一見すると宇宙服を着こんだ中間管理職にしか見えないおっさんが通信を切る。彼の名はルーインさんと言い我が艦における貴重な船外活動員である。EVAとはextra-vehicular activityの頭文字をとった言葉で意味はまんま宇宙遊泳とか船外活動というもの。決して人型決戦兵器という人造人間の事ではない。とにかくEVA班はフネの外に出て真空の宇宙で作業をする人達の事だ。

 

 シールドや装甲で守られている宇宙船内部とは異なり、特殊素材製の宇宙服だけしか身を守る物がない場所なので、ある意味EVA班は凄い猛者達である。なにせ鹵獲したフネの牽引とか大型or超小型のデブリ回収には彼らが居ないとなんも出来ないからな。ある意味生活基盤の大黒柱と言ってもいいかもしれない。

 

「警備班室、そっちは?」

 

『捕虜の方は駆逐艦クルクスの方に詰め終わりました』

 

「まぁ恐らく奪取される事は無いと思うッスけど…気を付けて戻って来てくれ」

 

『了解』

 

 本日の戦果は水雷艇レベッカ級3隻がまるまるもりもりと、降伏しなかったので止むを得ず破壊したフネのジャンクパーツが幾つかである。それと敵さんが積んでいた食料品もそのままこちらの倉庫行きとなった。宇宙では使えるモノは全て回収するのである。特に宇宙船は豚さんの様に無駄になる部位が無いのだ。

 

 あと、丸ごと捕まえたはいいが当然捕虜がでる訳で、彼らはとりあえずアバリスの後を自動追尾するよう設定したアルク級駆逐艦クルクスに詰め込んだ。多少手狭だろうが倉庫部分を改装して、敵の捕虜を詰め込めるスペースを作っただけなので、捕虜たちの疲労は溜まるだろうが別に住む訳じゃないしそれで良いだろう。

 むしろ海賊みたいにいらない人間を外に放り出さないだけ優しい方である。外って宇宙空間の事ね?生身で放りだしたら凍るか焦げるか…とにかく碌な死に方じゃないだろうな。尚、内部は隔壁で閉められているから重要区画には入れないし、何より操舵はAIドロイドだ。武装も機関も最低限だし、例え乗っ取られても相手は何もできないだろう。

 

 一応レーションのコンテナを置いてあるから餓死する事もないだろうし、水も節度を持って使えば制限無しだしな。元が日本人なので敵とはいえ捕虜相手にあまり非人道的な事はしないのだ(キリッ……いやまあ、捕虜にしてる時点でダメなんだろうけど、コレがこの世界の流儀と言いましょうか。

 

 あー、うん。とりあえずその話しはもういいから、鹵獲船を次の寄港地である惑星べゼルのステーションで売り払おう。しっかし、随分倒したなぁ~コレで累計何隻目だっけ?ふと気になったから、トスカ姐さんに聞いてみよう。

 

「トスカさん、今回ので累計何隻目でしたっけ?」

 

「ん?ちょい待ちな―――おおよそ200隻ってとこだね。ちなみに破壊したのを除いて殆どが鹵獲済みだ」

 

「結構捕まえましたねぇ。でも確かエルメッツァ・ロウズの戦力って数百隻も無かったなッスよね?」

 

「ああ、おおよそ200隻だね」

 

 んで、さっき累計200隻突破……あれ?

 

「つまり敵はもう出ない?」

 

「あたし等が捕まえた人数だけで、エルメッツァの戦力を大半捕獲したって事になるねぇ」

 

「うっわ、領地丸裸じゃん。少々やり過ぎた?」

 

 うむむ、ゲームだと無限に敵が湧いて出て来てたけどやっぱりこっちじゃ有限だよな。それに俺らの場合は敵を倒したら残骸はジャンクに、無抵抗なら鹵獲して売り払ったから放置後味方が回収の修理された敵がまた参戦のループが無かったのだ。運が良かったのか稼げない意味で不幸なのか判らんがしばらくこの宙域では敵は出ないだろう。

 …………海賊は除いて。

 

「うっわうっわ、この領主星系海賊に荒らされてアボンッスか?」

 

「アボン?いや大丈夫だと思うよ。基本海賊は航している船舶しか襲わない。第一宇宙に出ている人間の9割かたは0Gドッグなんだ。民間施設がある惑星に地上攻撃なんぞしたらすぐに噂が広まるよ。そしたらソイツは宇宙に居られなくなるだろうね」

 

「ならいいんスけどねぇ」

 

「心配しなくても領主が死んだんだ。後継者がいないんだし近い内に隣国に吸収合併でもされるだろう。ま、あたしらにゃ関係ない事だけどね」

 

 ま、そりゃ確かに。

 後々の事を考えてここの敵からは搾り取れるだけ搾り取ったし、あとの始末はここに引っ込んで住み続けるであろうデラコンダの家臣団に任せる事にしよう。領主を倒したらそこは俺達の物という戦略ゲー的な要素が無いのが悔やまれる。まあ戦艦一隻で領主星系をどうするのかと問われれば、ノープランという他ないので諦めもつく。

 

 しっかしそれなりに敵となった連中を狩り続けた訳だが、0Gドッグのランキングは水雷艇200隻程度じゃ雀の涙ほどしか名声が入らないのでまだまだランク外だ。早くランクを上げたいもんだね。今後の命綱的な意味で。

 

「ふむ、それじゃあ…ボイドゲートを越えますかね。お金も随分貯まったみたいッスから」

 

「いいんじゃないかい?ちなみに私らの所持金は30万Gに達してるよ」

 

「随分貯まったッスねー」

 

「こりゃ宴会開き放題だね」

 

「まてうわばみ姐さん、それ以上はいけないッス」

 

 貴女が飲むとかなりのペースで金が消えるので自重してください。いやホントマジで。

 まあ、そんな感じで補給の為に立ち寄った惑星で部下の疲労度を下げる名目でお疲れさん会という名の宴会を毎回開いたりしてるから、それなりに散財してる。レベッカ級は元から結構安い値段だしなぁ、おまけに古いから下取りの値段も安いしな。

 

 それでもここまで貯められたのは、俺や一部真面目な方々の頑張りによるところが大きい。頑張った。オレ超頑張った。癖とアクが強い部下を叱咤してここまで良くやれたと思う。

 

「じゃあ針路はべゼル。今回の鹵獲船を売り払ったらその足でボイドゲートを越えるッス」

 

「アイサー」

さてさて、今度こそ新世界へってね。

***

 さて、現在我がフネは航路上、惑星べゼルとボイドゲートとの中間地点を通過中である。なにか忘れている気もするんだが、何だったか思い出せないので、仕事してたんだけど…。

 

『艦長、不審船が接近中です、此方に対してコンタクトを取ろうとしてますが…』

 

「ん?解ったブリッジに行く」

 

 はて?こんなイベントあったかねぇ?

 

「ミドリさん、状況は?」

 

「現在我が艦の後方400の位置に不審船が一隻、艦種はボイエン級です」

 

 ブリッジに着いた俺は既に拡大スクリーンに投影された不審船。ボイエン級輸送艦を見やった。このボイエン級ってのは、確かカラバイアってとこの技術を使用したやや小さめの輸送船だったな。それなりに積載量が優秀だから、各国に輸入されているフネであり、輸送屋家業をやるヤツにはそれなりに馴染みのあるフネだ。

 

「輸送船じゃないか…で、相手は何だって?」

 

「それが先程から『俺だ、トーロだ、乗せてくれ』と言ってきています。艦長、トーロって人物に知り合いでも?」

 

 あーなりほど、思い出した。トーロの奴か…。

 あったねぇ原作でもこんな風に航路の途中で乗せろって通信が来るの。

 ……もしかして随分前からここで待ちぼうけしてたんだろうか?

 

「どうする艦長、撃沈しちゃう?」

 

「ストール、過激過ぎッス」

 

 そこぉ、キラキラした目で撃つ?撃つ?って顔しない。トリガーハッピーかお前わ。

 

「あとミドリさん、俺が話すから回線つないでくれ」

 

「はいはい……いいですよ艦長」

 

 よし、久しぶりに艦長らしくやりますかね。俺は顔を引き締め、俺が考えうるもっとも真面目な人間のイメージを己に投影し反映させる。真面目男の仮面を被るのだ。そして息を吐き…普段の抜けた声とは違う余所行き用の威厳のある声を出した。

 俺だってやろうと思えばこれくらい出来るのだ。普段疲れるからしないが。

 

「こちら戦艦アバリス、当艦に接近中の不審船、何か用か?」

 

『……こちらトーロ、よう久しぶりだな?ユーリよ。さっきから通信で呼びかけてるのに出てくれないとは随分と―――』

 

「久しぶりと言われても困る、ソレと貴様に呼び捨てにされる様な関係では無い筈だが?」

 

『堅ぇ事言うなって!俺とお前の仲だろう?』

 

 どんな仲だよ?お前との関係なんて酒場でのケンカ相手じゃないか。

 

「とにかく要件を言え、一応警告するがこちらに危害を加える場合は撃沈する。進路を妨害しても同様だ。返答は如何?」

 

『だ か ら !さっきから通信入れてるだろう?俺をそっちのフネに乗せてくれってよ!』

 

「………ご自分のフネをお持ちのようだが?」

 

『コレはダチのフネに乗せてもらってるだけだ』

 

「なら俺の所に来る必要はないだろう。そこが君の出立点だ。精々頑張りたまえ」

 

『この仕事止めたからもう行き場所がねぇんだ!このフネに乗ってるのも今までの温情みたいなもんなんだ!なぁ頼む後悔させネェから乗せてくれ!この通りだ!』

 

 画面の向こうで頭を下げるトーロ、ちょい図々しいな。

 しかし、今はこんなヤツだけど原作キャラだし…鍛えれば形になる…かな?

 

「一応聞くが、航海の最中に死ぬ程度の覚悟はあるんだよな?」

 

『え?…あ、ああ勿論!』

 

「それなら問題無いな、ウチのフネも人員不足だったからちょうど良いし…」

 

『マジか?よしゃぁぁッ!』

 

「とりあえず接舷してやるから乗って来い、以上だ」

 

 そう言って通信と切った。

 ふと艦橋内を見ると、みんな固まっている…なんだ?

 

「どうしたんスか皆?」

 

「あ、良かった~。いつもの艦長だ~」

 

「いつものぼけーっとしたアホな印象とは全然雰囲気違うから誰かと思ったぜ」

 

「俺なんてびっくりして思わず主砲撃っちまうとこだった」

 

「………ぼそぼそ」

 

「ミューズ、言いたいことがあるならちゃんと声に出しましょう。まぁ私もその意見には同意ですが」

 

「ユーリは時々、こっちが吃驚するほど性格が変わるからねぇ。トトラスでもそうだったし、アンタ実は2重人格とかじゃないのかい?」

 

「なんか皆の俺に対する認識が解る言葉ッスね」

 

 そりゃ普段抜けた様な感じ出してるけどさぁ…その方が楽だし。

 某有名な宇宙海賊の船長も言っている“フネは我が家だ、自分家の中で緊張するバカがどこに居る?”ってな。

 

「でも艦長、勝手に乗せちゃっていいんですか?」

 

「まぁ、町のチンピラしてたヤツだったから、暴れても鎮圧出来るだろうけどねぇ」

 

腰に吊り下げたメーザーブラスターをさりげなく撫でるトスカ姐さん。

ト、トスカ姐さん怖いッスよ…まぁ良いけど。

***

 意気揚々とアバリスに乗り込み、さらにはブリッジにまで上がって来たトーロ。これがただの船員採用だったならば、艦長の所にわざわざ来る必要はない。こっちがコンソールで辞令出してあとは丸投げである。

 ただ今回は押しかけというか飛び込み参加という異例のケースだ。その為、面倒臭いが直に挨拶に来させたと言う訳だ。

 

「アバリスにようこそトーロ・アダ…歓迎しよう」

 

 俺はワザと重圧感のある雰囲気を漂わせトーロに接した。

 何の為?―――ただの悪戯である。

 見ろ、トーロがまるで子豚の様に震えておるわい。

 

「よ、よろしく頼む!」

 

 歓迎とは言ったがあくまで社交辞令。そんな事に露ほども気が付かず、微妙に緊張しているトーロはなんかシャチほこばった返事を返してきた。彼と最初に出会った時、俺はただのヒョロイ坊主でした。それが今では戦艦の艦長、トーロに見せつけるのは勿論艦長としての威厳(笑)。何故なら彼も特別な存在だからです。

 

 意味が判らない冗句はさて置き、実際俺とトーロではこの短い期間の間で経験した場数が違う。トーロが雲泥のような運輸業に浸っていた頃、こっちは駆逐艦一隻で水雷艇艦隊と渡り合い、ついには戦艦を建造して領主にまで盾突いた人間だ。そんな人間にコンタクトを取ろうとする人間を少しは疑っても普通だよな?

 

「――――……まぁ、堅いのはココまでッスね」

 

「へ?」

 

 纏っている威厳(笑)な雰囲気を解除。再び激変した雰囲気に戸惑うトーロ。面白れぇ

 

「それでお前さんクルーとして何が出来るッス?生活か?医療か?整備か?機関士?それとも警備?まさか戦闘系は……ムリだよな。どう考えてもチンピラだし」

 

「え?ブリッジクルーじゃねぇのか?」

 

「はぁ?言ってるッスか?いきなりブリッジクルーになれる訳無いっスよ?」

 

 ブリッジクルーってのは各部署の総括、簡単に言えば幹部である。

 そこに新参の小僧をいきなり入れられる訳無いだろうが!人間関係の摩擦は勘弁じゃ!

 それ以前に―――

 

「まだトーロの適正がわかんないッス」

 

「適正?俺が前の職場で何してたか経歴送ったじゃねぇか」

 

「いや、それでいいんならそれで良いんスがね?一応ウチ独特の決まりというか」

 

 なんと説明したものやら困っているとトスカ姐さんが助け舟を出した。

 

 

「ウチでは新参は様々な部署に一度は付いて貰う。もしかしたら埋もれた才能があるかもしれないし、前の職場と違う新しい何かを得られる機会でもある」

 

「だから適当にフネの中うろついてみて、気になった部署で自分が出来そうな仕事をすればいいッス。そこから正式に部署を決める…まぁ様子見の期間ッスね」

 

「ま、要するに新人研修みたいなもんさ。小僧も頑張りなよ」

 

 各部署にはすでにそう通達してあるッスと彼に告げておいた。チェルシーの場合は、もともと生活力高めで彼女自信人に食わせられる程度の料理が出来たから、すぐに厨房の方に入って貰ったけどね。

 実際トーロは最初の頃はレベルが低いから、どこに入れても変わんないと思うし…。

 

「ちぇっ、砲雷班か戦闘機科が良かったなぁ」

 

 とはいえ、少し不満だったのか、ぼやくトーロ。

 

「今のところ砲雷班は、そこに居るストールがやってるッスよ?やりたいなら彼を蹴落とさないとね。ソレと戦闘機科は、現在戦闘機を搭載していない本艦には無いッスから」

 

 ソレを聞いたトーロはガックシと肩を落としていた。

 まぁ君の適正が解るまでの辛抱だ、我慢してくれい。

 

「とりあえずトーロはそこら辺をうろついて、いや徘徊して回るッス」

 

「いや何で言い直したし?つーか、徘徊とかうろつくって…まぁいいか」

 

 トーロはなんか釈然としないぜと言わんばかりに腕を組みながらそう言うと、ブリッジを後にした。

 

***

「さてミドリさん、ボイドゲートまでどん位ッスか?」

 

「ハイ、艦長。まもなく有視界でも確認できる距離に入ります。パネルに投影します」

 

 ミドリさんがコンソールを操作すると、メインモニターに拡大画像が表示される。

 そこには、エネルギーの膜のようなモノが巨大な円になった“門”が映っていた。

 

「コレがボイドゲート」

 

「あたしは何度も通ってるけどねぇ~」

 

「トスカさん、人がせっかく驚いてるのに落さないでくださいよ…」

 

「そうだぜ副長、俺達だって見るの初めてなのにさぁ」

 

「ごめんごめん」

 

 なんか緊張感の無い会話している俺達。まぁ俺も含めて、この宙域から他の宇宙島がある宙域に行った事が無いんだよなぁ。ある程度興奮もするわな。

 

《―――警告する。領主法により許可証が無い艦船の航行は禁じられている。また現在中央政府の混乱によりゲート周辺の空間は封鎖中である。接近中の艦はただちに武装を解除し、ゲート警備隊の誘導に従いつつ所定の位置にて待機せよ。繰り返す》

 

「艦長、警備艦隊から全周波数帯で警告が来てます」

 

 さてと、とうとう違う星系への第一歩か。

 

「トスカさん、準備は?」

 

「エネルギーは満タン。修理は万全。フネの研究も進んで少しだけ改造も進んだ。デラコンダの時より調子がいいんじゃないかい?」

 

「なら、面倒臭いから警備艦隊は無視して強行突破するッスよ、全艦対艦戦用意!」

 

「おいさー!全砲塔、出力臨界までジェネレーター回路解放」

 

「インフラトン機関、臨界可動開始、出力上昇中……90、100%まで行けますじゃ」

 

 艦内の照明が通常巡航から、戦闘巡航の時の非常灯に切り替わる。 

 EAやEPを作動させる必要はネェな、もう光学機器に捉えられる範囲内だろうし。

 

「敵艦隊、威嚇砲撃を開始、本艦の右舷を通過します」

 

 青色のエネルギーの塊が数本、アバリスの横を駆け抜け虚空へと霧散した。

 こういった時は問答無用で撃沈しないとダメだろ…警告無視してるんだし。

 

「―――どうもこの宙域は真空じゃなくガスがあるみたいだな。ふむ、ガスの影響で光学兵器の射線がズレたようだ。お陰でコッチは射撃諸元のデータが取れた。ストール、役立ててくれ」

 

「ほいよサナダさん、射撃諸元を微変更っと、ピッポッパ……はい完了」

 

 科学班のサナダさんの弁、なんだワザとじゃ無くて訓練不足かよ。

 

「こっちも撃ち返すかい?ユーリ」

 

「先は譲ってやったんだ。もちのロンッス――砲雷班、効力射を狙うぞ!全砲撃ち方始め!」

 

「はいよ!ポチっとな!」

 

 お返しとばかりにこっちも砲撃を開始する。

 両舷のリフレクションレーザーカノン、艦首軸線大型レーザー、そして甲板の上の主砲が青い火線を吐き出した。こちらはガスの対流データは入力済みな為、凝集光の射線が狂う事は無く標的に命中する。

 

「警備艇3隻に命中、大破1、残りは航行不能の模様」

 

「気にせず突破するッス。どうせボイドフィールドに入ったら向こうも手が出せないだろうし」

 

「了解、気にせず突破します」

 

 そして俺のフネであるバゼルナイツ級戦艦アバリスは、そのまま警備艇の間を通り過ぎた。恐らく敵さんも止める気力が無かったんだろう。ある一定距離を進んだところでレーザーの一つも撃ってこなくなり、そのまま進路を明け渡したのだ。ありがたいと俺達は隣星系、エルメッツァ・ラッツィオに向けてボイドゲートへと突入した。

 速度を緩めずにボイドゲートの空間転移境界面まで来たアバリスは、まるで豆腐に釘を打ち込むが如く、なんの抵抗も無く鏡面の様に空間が歪み蒼白く光る臨界面へ突入した。その瞬間俺は胸が躍った。新しい世界に飛び込んだという実感を得たのだから。

―――さてさて、これからどうなるんだろうねぇ


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