~何時の間にか無限航路・第5話、ラッツィオ放浪編~
■ラッツィオ編・第五章■
ついに念願かなって辺境宙域から飛び立つぞー!
ころしてでも つれもどす (某禿
げー、でらこんだ!?
―――以上、前回のあらすじを三行でお送りしました。
無限航路の世界にて主人公に憑依してしまった俺は、本物の宇宙というやつを見て回りたいという浪漫に突き動かされ、おっぱおなお姉さんであるトスカ姐さんの協力の下でフネを建造、さらには弩級宇宙戦艦まで造り上げて、俺たちの道を遮る辺境星系の領主をフルボッコにしたあげく、ボイドゲートと呼ばれる十数kmはありそうな空間直結門を使った人生初のワープを体験した。
SFと言えばワープ、ワープと言えばSFである。ワープはSFにおける醍醐味と言ってもいい。原作ゲームでは詳しい描写がなかった為、きっとゲート通過中は某宇宙戦艦みたく女性スケスケワープになるかもしれないと内心ワクテカな思いでトスカ姐さんの方を見ていた。
だが―――
「ボイドゲート抜けました。エルメッツァ・ラッツィオに入ります」
―――ゲート通過時間…体感だと一秒にも満たないなんて…ショックだ。orz
「ユーリ、なに打ちひしがれてんだい?」
艦長席のすぐわきで土下座みたいな格好をしている俺を訝しんだトスカ姐さんが、まぁ~た変な事してるといった具合に声を掛けてきたが此方はそれ所ではなかった。女性の裸云々は冗談だったとしても、こっちにしてみりゃ初めてのワープみたいなもんだったのに、実感がわかないほど短いとくれば泣きたくもなるってもんさぁ。
まぁ何時までも落ち込んでるとうざい事この上ないので、泣きたい心を押し隠しながらも何でもありませんと普通の顔をする。ユーリくんのポーカーフェイスだぜ。
うう、でも心の中では浪漫何処へ行ったぁ!と叫ぶぜ。ちくしょうめー。
「なんでもないッス。それよりも各班異常は無いスか?」
「全部署、異常はありません」
ふむ、全部署異常無しとは重畳よ。
もっともゲートに限って言えばここ数百年事故は発生していないらしいから別に気にする必要はない。ないんだが、こちとら貧乏性なのでついつい心配しちゃうのがユーリクオリティである。
とにかくココから一番近い星に向かって情報収集をして金稼ぎと洒落こむ事にしよう。もうそろそろ今の単艦特攻(ぶっこみ仕様、四炉死苦みたいな?)状態を解除して、僚艦二隻を加えた三隻艦隊を組みたい。前衛中衛後衛、それが無理でもせめて前衛と後衛に分けて役割分担出来れば、敵に不用意に突っ込む必要は無くなる筈。
まぁ、その前に進路を決めなきゃな。
「えーと、この近辺で一番近い星は何処っスかね?」
「そうだねぇ、順当な航路で行けば二つ。ラッツィオかポポスだね。近さでいくならポポスが一番近いかな?」
「そこはなにか珍しいモンあるッスか?」
「ないね。しいて言うならモジュール設計会社が置かれてる位か」
それ以外はロウズとどっこいどっこいなド田舎とはトスカさんの談。でもゲートからの距離を考えるならばポポスが一番近いそうな。よしポポスに行こう。京都に行こう的なノリで。
こっから宙図上だと結構近いし…そう思い指示を出そうとした矢先、俺の視界を内線の空間モニターが遮った。
『こちら厨房!大変です艦長!チェルシーさんが倒れました!』
モニターに大画面で映る厨房責任者のタムラさんがひどく慌てた様子で連絡を入れてきた。チェルシーがいきなり倒れた?新しい宙域に来た矢先に?え?なにそれ怖い。
***
「艦長、目的地はどうしますか?」
「う~ん、そうッスねぇ…」
現在、惑星ポポスから少し離れた位置にある航路上に俺達は来ていた。補給も終えて情報も仕入れたので、今は交易品をコンテナに積み込んでどの星に行こうかとブリッジのメインモニターに航路図を映して、それを見ながら相談の真っ最中である。いやーホント宇宙は広いね。片道何日掛かることやら…。
気になるのはチェルシーの事だ。彼女は倒れたとはいえ、別に身体には何ともなかったみたいだ。医療班からは精神的な過労と診断されて、そのまま自室で眠っていらっしゃる。原作関連の設定によると、彼女や俺は通常の人間と違いボイドゲートを通過する際に精神への負荷が増大するらしい。
つまり彼女が倒れたのは所謂イベントというやつであり既定事項である…とはいえ、幾ら原作のイベントといえども、一応仲間である美少女が倒れてしまうほどの影響が出ているのを見過ごすのは紳士としてはありえない事だろう。美女・美少女こそ護るべき宝である。
それにこれらに関して既定とは言ったものの、実のところそれも怪しいものである。最大の理由は俺自身だ。本当なら俺にも多少なりともゲート通過時に影響が出ている筈なんだが、憑依の影響なのか頭痛のズの字も感じなかった。
原作ではこの時点で主人公君も軽い頭痛を覚えた描写があったのに俺にはそれがない。バカだから何も感じなかっただけかしらん?それともユーリという人格ではない俺こと“大和田 明夫”の人格が混じった事でボイドゲート通過時の精神干渉を撥ね退けているだけなのか…。後者はともかく、前者だったりしたら何か嫌だな。
この件に関しては艦長室のベッドの上で寝る前に20分ほど考えてみたが、哲学的なある様でないが存在するといったような形而上学的な思考なんぞに俺のおつむが耐えられるはずも無くぐっすり眠れたのは言うまでもない。その為、無駄に元気になってしまった俺は仕事を終らせた後、いつもどおりのテンションで義妹殿と面会した。
ちなみに倒れた妹をすぐに見舞いに行かなかったのは、新星系に突入した事で唯単に忙しかったからである。補充品以外に必要な物資の目録や次のステーションに提出する船籍書類の原稿作成など、艦長といえども割かし忙しい時期と重なっていたのだからしょうがない。しょうがないからしょうがない。大事な事なので三度言いました。別に命の心配は無いんだから面倒くさかったとかそんな理由では断じてない。
それはともかくとして面会してみたはいいものの…予想したとおり原作設定の影響からか、ばっちり俺への依存度がハネ上がっていたのには辟易した。ゲートを越える前から予想はしていたし覚悟もしてたが、実際眼にするとなんともはや…。看護師(女)さんと会話するだけでぷくーと頬を膨らませるとかなんなのこの可愛い生き物?
ついでに親の敵の如く睨みつけたりとかしそうになったから誤魔化すのに苦労したわい。それだけ強い精神操作が入ってしまった事に悲しみを覚えつつ、長くチェルシーの近くに居たら余計なトラブルに発展しそうな気配を感じた俺は、生存本能の赴くままにその場は一度後ろに向かって全速前進、戦略的撤退を行ったのはいうまでもない。
ともかく現状としては可愛い子に懐かれるようになったのは悪い気はしないけど、そうなるように精神操作されてヤンデレ度合いが上がったのはいただけないという事だ。こればっかりは彼女の精神が成長して、ボイドゲートからの操作を受け付けなくなるのを祈るしかないので、しょうがないのでしばらく直接会うのを控える事にしたのだった。
もっとも、彼女がいる部署は厨房と食堂。どうやっても他人と接しなければならない場所である。如何に頑なな依存があっても他者との触れ合いが日常であれば、良くも悪くも変わるもんだと俺は信じている。特に戦闘部署と違い、厨房は毎日が闘いだ。数百名の胃袋を預かる場所だから、日常生活の中で一番忙しい部署でもある。俺に依存しようにも忙しさで次第に忘れるだろう。多分、きっと……めいびー。
とりあえず、この妹君が倒れた事件以外は特に問題も起きなかった。若干チェルシーの性格が変化した事を訝しまれたものの、初めての航海に出た新人が起こすはしかみたいなモンだと判断され実質受け入れられた。船乗りは大海原を往くので細かい事は気にしない性質なのかもしれない。
そんな訳でアバリスは無事に惑星ポポスの軌道上にある空間通商管理局が管理するオービタルステーションに入港した。人口77億人程の中堅規模を誇る惑星のポポスはトスカ姐さんの言った通りモジュール設計社以外にこれといった特徴はなかった。
それにしても77億で中規模とか前の世界での総人口と変わんねぇって事じゃん。宇宙規模ってマジパネェ。
それはともかくステーションにフネを係留した後は船乗りのテンプレに従い陸、この場合はポポスに降りる事だが、ポポスのオービタルステーションに付属する軌道エレベーターで地上へと降りた。でも特徴の無いのが特徴のこの惑星で行く場所なんぞ一箇所しかない。
言わずもがな0Gドッグ御用達の酒場である。このポポスにも通商管理局が運営する0Gドッグ御用達の酒場が設置されているので、そこに寄って近隣星系の情報を幾つか教えてもらった。やっぱりね、ごり押しだけじゃ限界があるからね。時代は情報戦ですよ………ごり押ししてこっち来た人間の言う事じゃねぇな。あはは。
とにかくそうやって仕入れた情報の中で目に着いたのは、この宙域の海賊被害の多さだった。辺境ロウズと違いこの宙域、エルメッツァ・ラッツィオはゲート一つ越えたところに中央政府のあるエルメッツァ中央がある中央と各辺境宙域を繋ぐ中継点のような位置にある。それらを狙う海賊もまた多く出没するのだろう。
富があれば群がろうとするのは盗賊の理なりとは誰が言ったか。そういった事からポポスの宇宙港では海賊被害の注意が促されており、警備も結構きつめになっていた。それだけ海賊被害が大きいという事なんだろう。
そして二日後、大体の周辺情報を仕入れ終わり、俺達は再び星の海を渡る為に航路へと復帰すると、お次はどの星に行こうか相談していた。
―――そんな矢先、いきなり大きな衝撃がフネを襲った。
「な?!ウアッ!ぐえッ!」
驚くべき事に重力井戸の力で慣性制御がきっちり為されている筈のアバリスが立っていられない程の衝撃である。その時の俺は不幸な事に進路決定の為の航路図を良く見ようとして身を艦長席から乗り出して半ば中腰の体勢だったので、その衝撃で頭を艦長席のコンソールに強か打ちつけていた。
「ミドリ!損害報告をっ!それからレーダー!エコーッ!アンタ一体なにを見てたんだい!」
「ダメージレポート。右舷側に被弾、損傷軽微なれど損害不明。APFシールドが減衰していない事からミサイルか実体弾と思われます」
『こちら整備班室!どうしたブリッジ!何があった!』
超イテェと頭を押さえる暇もなく、副長のトスカ姐さんがすぐに態勢を立て直してオペレーターに怒声の如き大声を発する。そんな中、艦長席の周りには整備班を筆頭にして各部署から問い合わせの通信ウィンドウが次々と殺到し、艦長席のコンソールに投影されて視界が埋め尽くされる。
普段から上位職と部下との垣根を軽減する目的で、ある程度回線の設定をルーズにしていた事が禍した。
『ちょっ!艦長怪我してるぞ!?』
「「「え!?」」」
「なにぃ!?ユーリ!」
通信ウィンドウが開かれ、相互間の内線が開いてしまった事で、俺が怪我を負ったところを各部署に知られてしまったのである。ケセイヤが叫ぶ声はスピーカーを通じてブリッジの中に響いてしまい、それがまた混乱を誘発してしまった。
図らずとも、クルー達にフネのトップが怪我を負ったという不安感を煽ってしまったのだ。このままじゃ指揮どころの話じゃない。不安が伝達したまま放置すれば、最悪普段のような挙動を取る事が出来ず瀕死の狸となってしまう。
そんな中、俺の身体は半ば無意識に動き、コンソールに喰らいつくようにして前のめりになる。
「……スゥゥゥぅ――」
そんな俺の挙動に周りが心配そうに叫んだが、それを無視してジクジク痛む頭を押さえながら息を思いっきり吸い込んでいた。限界まで鼻と口で一気に空気をチャージした俺は、自分の持てる最大級の腹筋を使い、空気をせき止めていた咽の関を解放する。
「――全員、落ち付けええええいっ!!」
怒号にも匹敵する俺の大声はブリッジ内に響き渡るだけでなく、内線ウィンドウを通じて心配そうに見ていた各部署の者たちをも黙らせる。それまでの大騒ぎがうその様に静まり返った現状を前になにこれ気持ちいぃ!と内心ふざける余裕があるあたり、俺も暢気なもんである。
だが時間は止まってはくれない。状況は常に推移している。それを知っている俺はブリッジクルーが沈黙し、混乱が収まったこの隙に行動を起こす。彼らが我に帰る前に次々と矢継ぎ早に指示を送った。そうやって彼らに口を開かせるような事はさせなかった。再び混乱が舞い戻るのを恐れたのである。
「ミドリさんはちゃんとした損害を調べいッ!ケセイヤさんはその情報を元にダメコン班を!エコーさんは目を皿にして策敵!その他は何時も通りに戦闘待機せよ!急がないと次が来るッス!全艦戦闘配備ッス!」
混乱こそしていたがクルー達は腐っても船乗りである、俺の下した指示に了解を示すと、すぐに各々自分の仕事を開始した。各部署のウィンドウがドンドン閉じて最後のが閉じた時、俺はどっと疲れを感じて、ふひーと息を吐いていた。
こっちとしてもこういう事にはまだ慣れてないから冷や汗もんである。大声あげた所為で逆に混乱が加速したら、寿命がマッハでピンチだったぜ。
「サナダ!外板センサーのログを洗え!命中した時の角度でどこから攻撃されたかを調べるんだ!」
一方トスカ姐さんも混乱からいち早く復帰すると、すぐに俺の指示の後に続いてフォローをいれてくれた。確かに攻撃された時の角度が判れば撃ってきたヤツの大体の位置は特定出来る。大体の目星が付いたらそのあたりをレーダーとセンサーで徹底的にスキャンすれば隠れていてもすぐに発見できるだろう。
そうなりゃ、現段階では火力チートなこっちが勝つる!よっしゃ、早く解析をお願いします!
「アンノウン、攻撃第二波が接近~!」
「飛来数6、形状からしてミサイルと思われます。到達まであと60秒」
再び敵の攻撃が迫ってきた。不意打ちの時と違いクルー達の目は覚めている。
「急速降下しつつ面舵一杯!ミサイルに対しECM出力最大!回避しつつ敵の攻撃地点を割り出すんス!」
「バウスラスター出力一杯!噴射10秒!」
この指示によりアバリスは回避運動に入った。艦首付近に敷設されている140以上のアポジモーターが唸りを上げ、核パルスの炎と共に生み出された強大なキック力が1000mクラスの巨体を持つアバリスの慣性軌道を瞬時に降下させていく。同時にバウスラスターが炎を吐き出して右へと軌道が変わった。
急激な軌道変更に思わずイスの肘掛を掴んで踏ん張った。重力井戸のお陰で俺達がGで潰れる事はないが、それでも身体にかかる力を感じると俺達が宇宙船に乗っている事を嫌でも実感できる。ハイ・マニューバと強力な軍用ジャミングにより、命中コースだったミサイルの誘導力が大幅に低下、4発の回避に成功した。流石はアバリス、戦艦の癖に素早いヤツである。
「おくれて2発、命中コース、避け切れません」
「総員耐ショック。衝撃に備えろッス」
遅れて残り2発が船体中央部胴体に命中。本数が初撃よりすくないからか震動は若干軽いが、それでも身体の芯に重く響くような衝撃がブリッジまで届く。謎の敵さん、どうやらミサイルに結構強力な弾頭を積んでいるらしい。
「右舷胴体部、第一装甲板に着弾、装甲に亀裂発生。ですが航行に支障はありません」
「ふむ、先程と今の攻撃が命中した角度から考えるとあのデブリの密集した辺りかもしれん。連中は機関を最低限にまで絞っているから此方のセンサーじゃ気付けなかったんだ」
宇宙のゴミ、デブリ。何処からか流されてきた宇宙船や人工衛星の残骸、岩質の小天体等が集まったそこは雑多過ぎてレーダーやセンサーが効き辛い。
ならば、と俺は砲雷班長に顔を向けた。
「ぶっ放せストール!デブリに隠れてるバカやろう共を引き摺り出せッス!」
「合点だっ!主砲照準!てーぃ!」
アバリス上甲板のレーザー砲が起動し、グルンとフレキシブルに稼働すると、その砲門をデブリ帯に向けてレーザーを照射した。高エネルギーの塊は岩塊をものともせず突き進み、そのままデブリを吹き飛ばしていく。
「レーザー連続発射!邪魔なデブリを吹き飛ばせッス!」
連射、連射、連射。凝集光の嵐が邪魔なゴミを吹き飛ばしていく。強力な出力を持つアバリスの砲撃を前にデブリが耐えられる訳も無く、物の数秒でデブリが砲撃で消えさった。
「敵影を感知ー!数は4隻!水雷艇の他駆逐艦が一隻ーっ!」
「艦首識別は…ガラーナ級駆逐艦1、ジャンゴ級2、フランコ級1…データ照合、スカーバレル海賊団です」
レーザーがデブリというデブリを蒸発させ、此方のジェネレーターが殆ど空になるまで撃ち続けた後、拓けた空間に現れたのは極小規模な艦隊だった。ロウズ警備艦隊でおなじみの水雷艇レベッカ級の同型艦でミサイル装備に換装してあるフランコ級。その改良艦で少し口径がUPした軸線対艦レーザー砲をニ門装備しているジャンゴ級。
その水雷艇達の倍の大きさを誇る、今回初めて遭遇する駆逐艦のガラーナ級であった。ガラーナ級はラッツィオ方面で活動する海賊団、ポポスで警告が出ていたスカーバレル海賊団が独自に改造を加えたカスタム駆逐艦で、武装は小型連装レーザー砲をニ基上甲板に装備し、艦首部にミサイル及びレーザー砲を搭載出来るフネらしい。
すでに何度も民間のフネを襲撃しているらしく、貰ったデータには結構詳細が記録されていたので間違いないだろう。 敵は、海賊だ。カモがキター!
「総員対艦隊戦用意っ!リーフッ!艦首を敵に向けるッス!」
「アイサー、ピッチ角度修正、30度回頭!」
敵艦を発見した俺はすぐに艦首を敵の方向へと向けさせた。アバリスの兵装は主砲である稼働式の小型・中型レーザー砲を除くと、基本的には前方にしか攻撃出来ないからである。アバリスの兵装であるリフレクションレーザーカノンと軸線大型レーザー砲を最大限に生かすには、敵の方へ正面を向けなければならない。
「砲身冷却完了、次弾いけます」
「全砲門、敵前衛艦に照準ッ!発射ッス!」
「はいさ、ぽちってな!」
再び敵艦に照準し、レーザーを発射する。だが相手はデブリの様に動かないモノではなく、こちらと同じく艦隊機動すなわちTACマニューバを使える宇宙船である。一斉射しただけの弾幕では命中せず、レーザーはむなしく霧散した。だがこれで良い。
「エネルギーブレッド消滅、敵マニューバパターンのデータ集積中」
「データは常時解析、それを元に各砲自由斉射っス」
もとより一撃で命中とか贅沢は言わない。だって当たんないし。特に回避運動をお互いに取るから長丁場になるのは良くある事なのだ。それでも火器管制が俺の時代と比べれば恐ろしく優秀だから当てられなくはない。
「エネルギーブレッド敵前衛艦に命中。ジャンゴ級とフランゴ級、各一隻ずつ大破。残り2隻です」
「ガラーナ級ー、艦隊を引き連れて離脱を計っているみたいー」
「よし!それなら…「逃がすな!あたし達に攻撃を仕掛けた事を思い知らせてやれッ!」ちょっトスカさん!?」
撃ち逃げなんぞ許゛さ゛ん゛!と思い、撃沈しろを声を張り上げようとしたのだが、何故か先に声を張り上げたトスカ姐さんの号令が被ってしまった。俺が言おうとしたのにと抗議しかけたその時である。
「良しっポチっとな!」
「ちょっ!ストール?!」
コンソールを押しちゃった砲術班班長がそこに居た。艦長以外が命令してもノリがよければ聞いちゃうのが我が艦隊クオリティである。それはともかく逃げる敵艦に艦首が向けられた。艦首にあるのは勿論大型軸線砲……ニ度ネタは禁止だよな?とにかく全ての兵装が発射され、ガラーナ級駆逐艦も轟沈したのだった。
「インフラトン反応、感知出来ず、辺りに敵反応無し」
「レーダーにも~反応無しだよ~」
「ふぅ、やれやれだ」
いやはや最初はびっくりしたが、返り打ちにしてやった。
流石はアバリス、何ともないぜ!あとは散らばった残骸を集めて売りに行くべ。
「ところでユーリ、あんた医務室行ってきな?」
「へ?何でッスか?」
「額から血がダラダラだよ。一度止血して洗った方が良い」
「え?……うわ、ホントだ。頭血がすげぇ」
「そういうところは見た目よりも派手に吹き出るからねぇ」
額に手をやってから掌を見ると真っ赤っか。結構強く打った所為で額が切れてしまっていたようだ。こりゃスプラッタだわ…そう思うと少し眩暈がしてくる気がする。
「ま、いない間は任せときな」
「んじゃ任せましたッス。トスカさん」
つーかこんだけダラダラ流しながら指揮してたのかよ。そりゃ周りの人間も驚くわ。先頭になった事で興奮状態になりアドレナリンとかの脳内麻薬がでまくりだったのかもしれん。今になってなんか痛くなってきた気がする。
とりあえず一時的に指揮をトスカ姐さんに任せてブリッジを後にしたのだった。
***
さて、本艦の船医であるサド先生に額の傷を治療してもらった俺は、ブリッジに戻る為に通路を歩いていた。しっかしアノ先生も豪快な治療するよ…まさか傷口に酒をぶっかけられるとは思わなかった。正確には酔っ払って姿勢を崩した拍子に飛んだ酒瓶の中身が俺にぶっかかったのだ。
当然の事ながら文句を言ったのだが、本人は特に気負う事もなくタダのアルコール消毒だから大丈夫だとのたまう始末。いやさぁ、ウチの採用基準を考えたら佐渡先生も腕は確かだからいいんだけどさ。説明くらいしてからやってほしいってもんよ。
で、少しお酒の匂いを漂わせながら通路を歩いていたんだけど―――
「おろ?トーロ?」
「ん?ユーリか…って酒クセェな。おまけに包帯なんかしてどうした?頭の病気か?」
「お前さんが俺に対してどう思っているのか片鱗を感じるンスが、まぁいいッス。お察しの通り、さっきの戦闘でちょっと怪我しちゃって」
医務室から帰る途中~、トーロ君に~出会った~…とまぁ、ネタに走るには程々にして、ロウズを出るときに駆け込み乗車してアバリスに乗り込んだ少年、トーロ・アダ君。非常に強引かつマイウェイな厚かましい奴なのだが、今日はなんだかそのガッツが感じられない。何と言うか、仕事に疲れたサラリーマンみたいな雰囲気を纏っている。それでも元気なフリをしているのかこちらに笑って見せるものの、なんか空元気感がバリバリである。
ふーむ、どうやら彼は悩みがある様子。一応ブリッジに戻る予定なのだが、すぐに戻らないといけないと言う訳でもないし、さっき戦闘したばかりだから暫くは時間がある。艦長として仲間の元気がないのならば、その原因を尋ねるのも仕事の内。なので俺は声を掛けてみる事にした。
「というかトーロもこんなところで何をしてんスか?元気もなさそうだし」
「見てわかんねぇか?やることなくてブラブラしてたんだよ」
「部署を色々回ったんじゃないッスか?」
「それがなぁ、どうにもしっくりこなくてなぁ…このままじゃ前の職場と同じく倉庫で荷降ろしの作業員とかになりそうだぜ。折角の機会なのにそれじゃあなあ」
そうやってトーロは小さいながらも溜息を吐いて見せた。この雰囲気は前世で大学の先輩が卒業する前に何度も何度も面接受けたのに職が決まらなかった時の雰囲気と似ている気がする。大学を終えた後の新しい自分の居場所を得たいのに得られないという焦りの感情と今のトーロ君は似ているのだ。要するに彼。自分が入れそうな部署が見つけられずに焦っているって事なのね。
うーん、今のところ俺の艦隊の新人クルーはもっとも合う部署の適正を見るために、最初の間は色んなところを巡って自分の合いそうな部署を探す方法を用いているのだが、今回はそれの所為で選択肢が多かったって事なのかな?
これが別に普通のクルーなら問題ないのだが、彼は原作においても立ち絵が設定されているキャラだ。序盤から仲間になる上、最初からプレイの場合比較的白兵戦や砲術が高く設定されており、その部署に入れるとそれなりに活躍できる奴だった。参入が序盤なので後々はかなり強くなるってのもポイント高かったな。
「ああ、確かに、ソイツはもったいない気もするッスね」
原作の事を思い浮かべ、俺は思わずそう呟いた。小さく言ったつもりだったのだが、どうもトーロの耳には聞こえていたらしく、少し俯き気味だった頭が大きく振り上がった。
「だろう!やっぱりユーリは判ってくれるか!」
「まぁ、クルーの悩み聞くのも仕事の内ッスからね」
「おー!こころのともよー!」
「くんなよるな近づくな抱きつこうとするな阿呆!」
「あぎゃ!?何故にパンチ!?」
「俺にそんな趣味は一切ないッス!」
こころのともってテメェは某ガキ大将か!こんどやったら宇宙に放り出すぞクソ野郎?
それはさて置き、そう言えばこっち来てから色々あって、トーロの所属の事はすっかり忘れていた。だってむさい男より、可愛い妹君の方が大事だったし……。
「追い討ちに背負い投げするのはどうかと思うぜ?」
「ゼェ…ゼェ…、だったら少しは真面目にやれ。それはいいとしてお前最初は戦闘系を志望してたんじゃ無かったッスか?」
「うーん、いやそこも見学したんだけど、なんかちげぇんだよ。大砲で撃ちあうよりも、もっとこう直接というかな」
「ぶん殴り系?」
「そうそれ!俺は腕っ節程度しか自信ないしな!」
「えばれる事じゃないッス……でも、そう言えばそうッスね」
そう言えば、最初に出会った時は街の酒場でチンピラまがいだっけ。てことはやっぱりトーロはそれなりに腕っ節が強い?うーん、腕っ節が強いヤツが活躍できそうなフネの部署なんて治安維持を担当する保安部くらいしかねーかな?
でもまだ正式な保安部は編成すらして無いんだよね。うーん。そうや!
「じゃあ、トーロ。保安部の部長でもやるッスか?」
「え?!いいのか?」
「冗談は言って無いッスよ、ただ…」
人員がまだ居ないッス。と言おうとしたんだが…
「よっしゃ!俺もようやく認められたって事だな!」
「あ~まぁ、そう考えても良いッス…(説明すんのもメンドイし)」
えらくヤル気をだしたトーロを見て、なんか説明するのが面倒くさくなり、適当に返していた。まぁ人員はおいおい入れてけばいいから、とりあえず名目上で保安部でもでっち上げとくかな。
「じゃ俺頑張るぜ!ソレで俺はどこに行けばいい?」
「あ、まだ保安部の待機場所になる警備室のモジュール積んで無いんで、適当にブラブラしておいてくれッス」
「ええ~期待させといて元鞘とか何だよそりゃ」
「まぁまぁ、次の寄港地でドックがあったら積んでやるから気を落とさんとね」
保安部の部長になるかとは聞いたが、今すぐにしてやるとは言っていない(キリ
「じゃ、俺はブリッジに行くッス」
「仕方ねぇ、自主鍛錬でもしてるかなぁ」
「空いてる部屋の重力調整を、重力井戸担当のミューズさんに頼めば通常の何倍かの重力で鍛えられるッスよ?」
「お、鍛錬らしくていいな。じゃさっそく頼んでみるぜ」
普通は重力井戸を使って鍛錬するなんて制御が難しいからしないんだけど、ミューズさんは何故か出来るからなぁ。ちなみに“とりあえず5倍の重力でいくか”とか言っていたトーロの言葉を俺は聞かなかったことにした。
そして後日、余談であるが誰かが骨を折って医務室に運ばれたらしい。くわばらくわばら。
***
奇襲を退けたその後、通常航路に復帰した俺達は再び活動を再開する。仕返しも兼ねたそれはロウズでもやった敵の艦隊を狩ることに専念した一週間であった。別に奇襲で怪我をさせられた事を恨んだ訳じゃない。海賊という存在がいるから稼げると踏んだからだ。違うったら違うんだからネ?ボクは怒っていませんヨ?
とにかく、クルーが海賊の相手に慣れるくらいまでやったところ、海賊被害の規模が大きかったからか名声値が大いに上がり、現在の0Gランキングがそれなりに上昇。現在やっとこさ60位って所である。ランキングが上がると、それなりに便利なモジュールが貰えるのが地味に嬉しい。
ちなみにランキング60位までに貰えた艦船モジュールは、司令艦橋や航海艦橋や保安局、医務室にレーダー哨戒室に機関室に整備室にショップなど使える物から使わない物まで多岐にわたるので詳細は省く事にする。というか余程の事が無い限りモジュールを組み換えたくなかった。船内ルートが変わって迷うんだもん。
それはともかく、やっぱり戦艦は強いと感じる日々を送っている。特にここら辺の敵には苦労しないのが良いね!今日辺り頑張れば恐らくランキング50位に入れると思う。そういう訳で今日も宇宙のお掃除を兼ねた海賊狩りの真っ最中だったりする。
「敵、インフラトン反応拡散中、撃沈です」
「コレで通算、約800隻って所かい?」
ちなみに今回は捕獲を目的としていないので、結構敵さんが修理されて戻ってくる。
何か復讐に燃える海賊とか出てきそうだが、敵の乗組員を皆殺しにして全滅させたら名声が手に入らんから今はコレで良いのだ。有名になればなるほど強い装備を得られるが、その分敵も増えますよっと。世知辛いねぇ。
「アバリスをモジュールで強化したから、かなり強くはなってるッスね」
「設置費用が高額だったけど、その分性能は折り紙つきか」
『お~い艦長』
「あれ?アコーさん、どうしたッスか?」
そんな時、内線のウィンドウから女性の声が聞こえてきた。ウィンドウには生活班を束ねている妙齢の女性、アコーさんの姿が映っている。
『いやね、そろそろ物資の補充の為に寄港した方が良いと思ってね?』
「ありゃ、もうッスか?」
アコーさんの報告に首を傾げてみせる。まぁそろそろ長旅が限界なのは解ってたけどね。長く航海すれば疲労も貯まるし、いい加減近場の星に寄港してクルー達に休暇とらせた方がいいと思ってたところだ。物資補充の為の寄港はある意味でちょうどいいといえた。
『平常運航なら水も食糧も数日は持つが、ウチは…ほら宴会好きが多いからすぐに色々と足ん無くなるんだよね。いっぱい乗ってるしね』
「解ったッス。てな訳でミドリさん?」
「はい艦長。この宙域から一番近いのは、惑星ラッツィオです」
「そう言えばまだ行った事が無い惑星ッスね?トスカさん」
「ああ、今まではポポス周辺を巡ってたからね。ここら辺は初めてだ」
「じゃあちょうど良いッス。休暇も兼ねてラッツィオに寄港する事にするッス」
「了解ユーリ。―――リーフっ!」
「聞こえてぜ。もう航路の割り出しは終わったよ」
航海長であるリーフはそう言うとメインパネルに航路を表示する。
仕事速いねぇリーフさんは。
「それじゃ、アコーさん。そういう感じで…」
『了解だ艦長。物資搬入の準備だけしてまっとくよ。それじゃあな』
「はいはい」
アコーさんとの通信を終えた後、それぞれの部署に半舷休息を言い渡した後。アバリスは一路惑星ラッツィオに進路を向けた。道中は稀に海賊が出るくらいで、事故などの突発的な問題が起こる等といった事無く進み、その日の内に惑星ラッツィオの軌道上に到達したのであった。
惑星ラッツィオに着いた僕たちは休暇を兼ねて惑星に降りて行く。久々の陸ということもあり、上陸希望者が大量に出たがその全てに上陸を許可した。アバリスの方は空間通商管理局のAIドロイド達に任せておける為、無人にしても大丈夫だからである。
それに多分しばらく航海には出られないと思うしな。一週間近くも海賊との遭遇戦を繰り返していたアバリスはその性能差で目に見えて損害を受けた事はなかったが、多少は損害を受けた事もあった。
それに機械は使えば使うほど磨耗していく。例え敵の攻撃での損害が少なくても一度は本格的な整備を行う必要があり、その提案が上陸ついでに行おうという話が整備班からあがっていたのだ。なので上陸希望者とは別の居残り組の多くがケセイヤさんを筆頭とする整備班達であり、機械に対する愛情は凄まじいモノがある。その彼らが居残るついでに整備も全て監督するらしい。
俺を含めた上陸組が艦を降りた後、アバリスは整備を兼ねてモジュールブロックごとに分解されちゃうだろう。しかも整備班の連中、秘密裏に回収した敵艦を破壊した時に出た廃材の少し利用して、なにやらゴソゴソと趣味で色々な発明品や機械類を造っているらしく、もしかしたら分解整備がてらアバリスに変な改造とか施しちゃうかも知れない。
アバリスさえ壊さなきゃ俺は気にしないし、むしろ性能が上がるならドンドンやってくれとは伝えてあるものの、整備班連中は絶対に遠慮しないだろう。むしろ許可した直後から遠慮という単語が彼らの辞書から落丁しているに違いない。好きな事が出来るなら命以外差し出しそうな奴等だからなァ。帰ってきた時にもしもアバリスの面影が無くなってたら、ケセイヤは減俸の上で拷問にかけておくかな?拷問だ!とにかく拷問だ!
それにしても1000m級でも分解整備が出来るドックって地味にスゲェよな。惑星軌道上に小惑星くらいの大きさがあるステーションを浮かべておいても大丈夫とは、流石は重力制御が出来る世界。前世の世界に居た俺の常識からは想像もできない事をやってのける。そこに痺れるあこがれるぅ!
そういう訳で(どんな訳で?)、俺は上陸組のクルーと共に惑星ラッツィオへと降り立った。同行者にはチェルシー、それにトーロを連れてきている。チェルシーは気分転換…というか俺に対する依存を持つ彼女と最近は成る丈会わないようにしていた所為か、鬱憤みたいなのが溜まりに溜まっていたようでちょっと元気がなさそうだったから声を掛けた。なので今は随分と嬉しそうに俺の右手を占領している。何?この可愛い生き物?
もう一人の同行者のトーロが空気が甘い!と叫んでいたがなんの事やら、妹に手なんてださんよ。ちなみにトーロは俺が声を掛けるまで、閉鎖空間での運動不足解消様に設置していたスポーツドームのモジュールに入り浸っていたので首根っこ掴んで引き摺ってきた。つーか引き篭ってるのは別にいいが、そのまんまだと整備の時に邪魔になるから連れ出してくれと言われ引きづり出して連れて来たのだ。
まったく、まだ人員が居なくて役職だけの部署なのに張りきっちゃってまぁ。取らぬ狸の皮算用にならなきゃ良いんだがねぇ…。あ、部署をつくるの俺か。可愛そうだし後で改装の時に入れて置くようにケセイヤに指示しとこ。
さて、とりあえず俺達が足を向けたのは……言わずもがな0Gドック御用達の酒場であった。基本的な岩石質の1G下の惑星はガス系惑星に比べれば小さいが、それでも地球と同じくらいの大きさはある。とうぜんそれだけ大きければ色んなショップやレジャー施設などが多々あるのであるが、実のところ私物の買い物とかでも無い限り、惑星で屯っていられるのは酒場だけだ。
一応遊園地みたいなレジャーランドはあるにはあるんだが、下界のレジャーランドだと宇宙で働いている俺らにゃ緩すぎる。温泉やら女性クルーの味方のエステとかもそれなりに満足できるレベルのが全~部軌道エレベーターのタワーの中に収まっちまってて、余程の事がないかぎりお外に出る必要性を感じないのだ。
例外は私物の買出しとかだろうか?特に女性クルーの殆どにとって必須な化粧品などは置いて無いのですぐに町に消えていったくらいである。男性クルーも…その、なんだ。ちょんがー故の必需品というかな?大人のおもちゃというか…言わせんな恥ずかしい。
とにかくそういった具合で、一部を除き結局のところ暇な連中は結局酒場に来るって訳なんさ。
「女将さん!とりあえずおすすめを頼むッス!あ、こっちの子にはジュースで」
「あいよ」
仲間引き連れ酒場に行く。ロープレだと仲間集めのチャンスだよな。そんな事考えつつ適当に注文を入れて空いている席にすわった。俺が頼んだのは勿論アルコール、法律が違うから『お酒は二十歳になってから』が存在し無いから良いのである。それで体を壊してもあくまでも自己管理能力が無かったっていうシビアな世界だしな。
もっとも再生治療、リジェネレーション治療が発達しているから、即死とか脳みそが破損とかしない限りは大抵の傷病が治療可能なのが恐ろしい限りである。それはいいとして、俺にカモのヒナの様にくっ付いてきた我が妹君にはまだ飲ませない。いや正確には彼女が酒を飲みたがらないだけだが…味覚的に苦手なんだとさ。アルコール。美味しいのに…。
「ティータや、この皿を八番テーブルにはこんどくれ」
「はい、お母さん」
適当に酒を傾けながらくつろいでいると、視界の端に俺達と同年代の女の子が手伝っているのが見えた。どうやらここを切り盛りしている女将さんの娘らしく、この酒場は母親と娘の二人で運営しているらしい。
ふーむ、それは良いとして、はて?彼女を見た時に脳裏に何かを思い出しそうな…何だったけかな?
「―――ティータ?もしかして隣に住んでいた、ティータ・アグリノスか?」
「え、何であなた私の名前知ってるの?」
「おいおい俺の事忘れたのか?トーロだよトーロ。良く一緒に遊んだじゃねぇか!」
「あ、ああーっ!アンタはトーロっ!?」
そんな中、何やら店娘を凝視していたトーロが声をかけた。どうやら彼女とトーロと知り合いだったらしい。昔話に花を咲かせたいだろうから、しばらくそうっとしといてやるかな。
「おい、見ろよ…トーロの奴あんなカワイイコちゃんを引っかけやがった」
「何だって?―――まじ…かよ…。クッ!トーロの癖に!」
「あの野郎、アレはアレか?見せつけてやがんのか?」
「――〆サバ丸はどこにしまったっけ?」
でも、とりあえず物騒な目をしているクルー連中は連れていかないといけないな。
コレ艦長の業務ちゃうんやけど…まぁサービスだ。昔の友達との時間を楽しみたまえトーロ君。
***
■その後のユーリin0Gドッグ酒場(隅っこ)■
「艦長どいて……アイツ殺せない」
「そういう訳にもいかないなぁ……てか人の頭をかち割れそうなほど大きなそのジョッキを置けッス」
「〆サバ丸……ククク」
「刃物は洒落にならんからやめい!」
「退いてくれ艦長、俺達は殺んなきゃなんねぇ…俺達と同じ彼女無し達(ミナシゴ)の為にッ!」
「だから、昔馴染みに会ってるだけじゃないスか、そんなに目くじら立てんでも」
「艦長には彼女が居るからわからねぇんだ!俺達みたいに出会いが少ないチョンガーの悲しみが!俺達の心が解るかッ!!」
「「「そうだそうだ」」チェルシーさんをよこせー!」
「でもねぇ?―――というか彼女って誰の事ッスか?あとチェルシーは大事な妹やぞ!よこせとか言わんと自力でアタックせんか!」
「あ!トーロの奴おなごを連れてどっか行くぞ!?」
「なぬッ!?艦長ソコどけい!こんの“モヤシ”やろう」
「「「アッ!?」」」
「―――、………ククククッ」
「あ…ああ…ヤベ」
「あーそうかそうか………」
「バカ!お前なに禁句言ってんだ?!」
「貴様らは死んだ方がマシな口かな?かな?」
「おいオメェ!早く艦長に謝るんだッ!」
「か、艦長ごめ「小便は済ませたか?神さまへのお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする準備はOK?」――まいがっ!ちきしょー!」
「「「「俺らまで巻き込――ぎゃーー!!!」」」」
この後、数名がフネの医務室送りとなった。
何かお酒が入ってたからついやっちゃったんだ。てへ。
***
酒場から引き揚げてエレベーターにて二泊し、それなりに休暇を満喫した俺達はまた軌道上へ上がり、ステーション内のアバリスの置いてあるドックに戻ってきていた。この数日で整備も終わり、補給物資の搬入も終えたアバリスは発進を待つばかりとなっていた。
後は俺達以外の地上に降りた連中が全員帰ってくれば、そのまま発進可能な状態である。俺は艦長だから誰よりも先に休暇を切り上げて艦に戻り、発進準備の為に艦長席で色々とチェック項目を消化していた。
まぁ急ぎじゃないからのんびりとデータスクリーンをスクロールしてたんだが…。
『おーい!ユーリ!居るか?』
「ん?どうかしたんスか?トーロ」
そんな時、トーロが携帯端末を使って俺に直接通信をつないできた。背景から察するに地上のほうから連絡を入れてきたようだが、なんの様だろう?
『えっとよ。酒場に女の子居ただろ?』
「ああ、トーロと話していた看板娘さんの事ッスか?」
『えっ見てたのか?』
「そりゃまぁ。あんなに堂々とナンパしてればねぇ?」
あの時のトーロの様子を思い出しながらニヤニヤと笑みを浮かべてやると、困惑と羞恥の色を浮かべる顔の頬を掻くトーロ。お前さんらのお陰で俺はお邪魔虫たちの排除をしなけりゃならんかったんだが、それなりに面白い光景だったよ。
『ナンパじゃねぇけど…そうか、じゃあ話は早ぇ、その娘フネに乗せるからとりあえず連れてくるぜ!いいよな?じゃな!』
「え?ちょっと―≪ブツッ≫―トーロ…あのバカ通信切りやがった…」
用件だけ言ってこっちの言い分を聞く前に通信を切るとか……あの野郎、いきなりなんだってんだ?絶対アイツ学校の通信簿に【人の話は良く聞きましょう】とか書かれるタイプだろ。つーか、あの娘の乗船許可、俺まだ出して無いんだけど……まぁ良いか、ちょうど生活班の方で人手が足り無かったしな。
クルーが足りないフネに貸し出されるAIドロイドもそこそこ性能は良いんだけど、やっぱ人間の方が受けが良いしね。しかしトーロとティータ。何処かで引っ掛かっていたが彼女も確か原作でクルーになる娘だった事を今思いだした。ヤバいな、ここ最近の濃い日常の所為かゲームに関する記憶が薄れるテンプレが起こってるぜ。
大筋はまだ大丈夫みたいだけど、この先どんどん忘れていきそうだ。そうなる前に外部記憶端末にでも記録しておくか?………いや、やっぱりいいや。誰かに見られたら困るし、忘れるならそれはそれで先の楽しみが増えるだろうしな。大体あのゲーム確かに沢山やったけど、詳細なイベントまで全部覚えてられっかてんだ。
それはともかくとして、女連れ込む新人クルーか……こりゃ小競り合い起こりそうだなぁ……なんか胃が痛くなりそ――いや既に痛い気がする。ううう。ストレスに備え、胃薬と頭痛薬を今度多めに買っておこうと決心した俺であった。
―――んで、一人黙々と仕事をしながら待つ事40分。しばらくして彼らはやって来た。
「オス、艦長。彼女がティータだ」
「よ、よろしくお願いします」
ティータを連れて来た彼は俺に彼女を紹介して来た。
長身でスレンダーな身体付き、霞んだ桜色に近い髪色をしたロングヘアをたなびかせ、ブルーの瞳が困惑の光を宿しながらも俺を見据えている……でっていう。いや何と無く目の前に居るティータ嬢の姿を言語で表現してみたら自分のポエム力の無さに絶望した。
それはともかく、昨日酒場で見かけた時に見た、腰に巻くエプロンとキャミソールとロングパンツ姿から察するに、どうやら仕事中にトーロに連れて来られたっぽいね。だけどトーロよ。それは下手すると誘拐になってしまうぞ?
まぁそれはあとで酒場の女将さんに連絡を入れれば別にいい。
でもさ―――――
「トーロよ。出来ればこっちに連れてくる前に、一言でいいからクルーにするかどうかの判断ってヤツを俺に仰いでおいてほしかったんスけど?」
「硬い事言うなって、俺とお前の仲じゃん?それに俺も保安部部長になるしさ」
「………あくまで保安部は設立予定であって決定じゃないから、まだトーロは保安部部長(自称)だって事、忘れた訳じゃないッスよね?ね?」
「そーなのかー!?」
「え、え!?トーロ、アンタ話が全然違うじゃない!俺が一言いえば大丈夫とか言ってたのに!」
「いやね?ティータさんとやら。「ティータでいいです」……ティータよ。こっちもトーロがちゃんと連絡入れてくれればね?こんなに文句言わないんスよ。だけどそこの阿呆は酒場の看板娘連れてくるとしか言って無いんスよね。女連れ込みたかったのか、どういうことなのかこっちも判断がつかなかったというか……」
「トーロのバカー!!」
「まて!ラリアットはやめグボッ!?」
おおう、首元を狙い澄ました見事なラリアットがトーロに決まった。
酒場の看板娘って見た目よりもカイリキー。
「うぐぐ、何故だユーリよ。俺は仲間じゃないのか?」
「仲間云々の前に、俺としては艦長の言う事を聞かないクルーの方が問題有るんだけど?」
「え、えっと!ゴメンナサイ艦長さん!このバカの所為で迷惑かけますっ」
ラリアットのダメージから数秒で回復したトーロは何故か堂々と……むしろ開き直って胸を張っている。そんなバカとは対照的に非常に申し訳なさそうに、そいで緊張気味のティータ嬢を見て俺は苦笑する。と言うかトーロが厚かまし過ぎるだけなのだ。彼女が気にする事じゃ無い。
「まぁ、なに、連れて来てしまった以上、今更帰れとは言わないッスよ」
頭を下げているティータに俺は手を振って止める様に言うと、彼らの顔に安堵の表情が浮かんだ。
「一応聞くんスけど、航路では海賊とか出るし普通に死ねる可能性があるんスけど大丈夫ッスか?」
「荒くれ者相手なら酒場で慣れてます。それにどうしても宇宙に出たいんです!」
「判った。嘘はないみたいだし、とりあえずティータは生活班の方に廻ってくれッス」
「え、そんな簡単に部署まで決めても良いんですか?」
「いや、ウチは最近ロウズから出てきたばっかりで人員が足りないんスよ。一応ウチでは自分の適性が判るまで部署を転々として貰うのがルールなんスが、それよりもティータくんはアウトローな連中が集う酒場で切り盛りしてたんスよね?なら、生活班の方が都合がいいでしょ?」
「は、はい!よろしくお願いします!!」
「あと、この携帯端末を渡しておくッス。これがこのフネに乗る際の身分証代わりッスから」
俺は彼らが来る前に用意しておいた携帯通信機をティータに渡す。コレは通信やその他機能を備え、おまけにメールやらメモ帳やらゲームまで出来、財布にもなる。しかも、耐衝撃で宇宙空間でも完璧に動くし、この通信機に個人のデータを入力する事で、このフネの乗組員の証明となる。
しかも脳波コントロールできる……は鉄仮面の方じゃないので置いておいて、この通信機のいいところは、自分の艦の見取り図も入っているという親切設計なのだ……これを作ったヤツは儲かった事だろうなぁ、メッチャ便利だし。
彼女は俺から通信機を受け取ると、再度頭を下げた後、ブリッジから退出した。んで彼女に着いて行こうとするトーロを俺は呼びとめた。待て待て、まだ俺のバトルフェイズ…もとい、お前さんとの話は終わって無いぞ?
「さてトーロ君、お前さん報告義務を怠ったから便所掃除一週間ッ!!!」
「えー!なんだよそりゃ!?」
「文句言うなッス!お前の所為で俺がどんだけ苦労する羽目になる事かッ!」
色々と他部署の折り合い付けるの大変なんだぞこの野郎ッ!今回だってティータがこっち来るまでにどこの部署が一番手が欲しいか調べたんだぞ!だれか人事部を作ってください!人事裁量権があるとはいえ色々と大変で切実デス!
俺の処罰に対しブー垂れるバカを視界から外すように努めつつ、俺は頭痛を感じる眉間を抑えて艦長席に深く座りなおした。
「はぁ、まったく。イベント盛りだくさんだなこの野郎……」
【お疲れ様です艦長】
「おお、誰だか知らないけど労いの言葉ありがとさんッス」
【いえいえ】
ん?ちょっと待て―――
「おいトーロさんや。お前さん今なんか言ったスか?」
「あーん?うんにゃ?と言うかお前誰に向かって返事返したんだ?」
「誰って……」
ちなみに、現在ブリッジには俺とトーロしかいません。
新しく整備と改造を加えたアバリスの各部署に皆顔を出しているからだ。
てことはですね。俺は一体“誰に”話しかけたんでせうか?
【あのう】≪ヴォン≫
「「わひゃっ!?」」
再び得体のしれない声がブリッジに響く。これは、まさか心霊現象!?
SF真っ盛りな世界でオカルトとかマジ勘弁ッスよ。ヤダー!
とにかく、いきなり知らない声が聞えたかと思うと、俺の背後に内線用の空間ウィンドウが展開された。どうやらそこから声がしていた様だ。びびび、ビビってたわけじゃないんだからネ!これでも艦長なんだから山のように動かないんだから勘違いしないでよね!
あれ?でも一体どこの誰だ?と言うか、このウィンドウ…何故にサウンドオンリー表示なの?微妙に怖いんだけど……。
「ええと、どなたさんッスか?」
【え、そんな……艦長が私をアバリスに乗せてくれたのに……】
Q,あなたは誰ですか?A,私のこと知らないんですか?
どうしよう、問答が成立してないよ。というかトーロ、仲間を見る様な眼でこっちみんな!俺は少なくともお前みたいに行き成りクルーを連れてフネに乗せるような事はしとらんちゅーに。
「いや、と言うかこんな声の方に心当たりないんスけど?ちなみに何時頃乗船したんスか?」
【ええと、ついさっきです。いえ、正確には6時間程前には乗せられて、つい先ほど目が覚めたと言いますか……ハイ、そんな感じです】
「ちょっ、ちょっと待った!6時間前って言ったら、ちょうど整備班がフネの分解整備が終わって、ついでにモジュールの組み替えをしていた時間ッスよ?」
【ええ、ですからその時に】
「あーうー?余計に訳が解らんス!とりあえず顔を見て話したいから、サウンドオンリー表示をやめるッス!」
【いえ、あのう…お恥ずかしい事に、私には顔が無いもので】
は?顔が無い?おいおい、そんな筈……あ、まさか。
「もしかして何スけど、あなたは人間じゃ無い?」
【ええ、その通りです艦長】
「幽霊!?マジで!?」
「トーロうっさい!……アンタ、多分スけどドロイドかロボットか何かッスか?」
【厳密には違いますけど、広義的には合っているかと思います】
「なぁ、ユーリ、結局誰なんだコイツ?不審者だったっていうなら俺がつまみだして…」
「ああ、大丈夫っス。もうおおよそ見当がついたから」
俺が指示したモジュール入れ替え中に入り、つい先ほど目覚め、しかも人間じゃない。
ふふふ、ココまでヒントが出てきたんだから、もう解ったよ。ワトソンくん。
「ねぇ?アバリス」
【はい、艦長】
「え?アバリスって、このフネとおんなじ名前じゃねえか」
「同じ名前って言うか“そのもの”なんスけどね」
【その通りです。流石は艦長です】
そう!この声の主はアバリスだったんだよ! ΩΩ Ω<ナ、ナンダッテー!!
「う~ん?そのものってなどういう事だ?俺には良くわかんねぇんだが?」
「何、簡単な答えッス。この声の主はアバリスに取り付けた新しいモジュールのコントロールユニット何スよ、トーロ君」
この声の正体は俺がモジュールを組みかえた際に新しく組み入れた新規モジュール。各所自動化を行い乗組員の人員削減…もとい必要数を減らせる便利システム。コントロールユニット、通称CUのAIであった。
そういえばモジュールを設置した時、コンソールに『自律回路のON/OFF』って表示が現れたんだっけ。その時はなんの事なのか全然意味が解らなかったから、とりあえず何かの機能だろうと思ってONにしたけど、こういう意味だったのか。
しっかしまぁ、以前ロウズの軌道ステーションで初めてローカルエージェントを見た時も流暢に受け答えするスゴイAI積んでた事に驚いたけど、まさか戦艦の管理AIにまで人工知能と人格を搭載できるなんて流石は未来だ。
しかもこれってある意味でオモ○カネじゃねぇか…胸が熱くなるな。
「ま、とにかくさっきから話しかけてきたのはコントロールユニットくんなんスよね?」
【はい艦長、私は確かにCUに搭載されている管理AIのインターフェイスです】
「あー、道理でこのフネそのモノって訳なのか」
「やっと気付いたッスかトーロ?ま、人件費が掛からない優秀なクルーが増えたと思えばいいッスよ」
「……そうだな、それじゃあこれからよろしくだぜ?アバリスさんよ」
【はいトーロ、よろしくお願いします】
ピョコンとウィンドウをトーロの前に出現させてそう答えるAIアバリス。しかし完璧な受け答えが出来るAIだね。インターフェイスが別格なんだろうか?まぁ人間サイズのアンドロイドですら結構個性豊かだったから、戦艦に乗せられるAIともなれば、それこそかなり高性能なんだろうな。きっと。
とりあえず、一人と一機の仲間が増えたし、これからも増えてくだろうなぁ。なんせ現状アバリスを動かしてるのって、人間クルーを除けば半分近くがレンタルした通商管理局謹製のAIドロイドだもん。CU入れたから、AIドロイドの数を減らせるだろうけど、それでもまだまだ足りない。
AIドロイドはメリットとして皆能力が一定で混乱とかしない完璧な水夫だけど、あくまでフネの運行に支障が無い程度の機能しかない。うーん簡単に言うと専門技能を持たない一般会社員みたいな?そうなると人間みたいに成長出来ない分、デメリットの方が目立つんだよねぇ。俺にはあいつ等の言語自体聞きとれないしな。
まぁ、まだ先は長いから?幾らでも人員を増やせばいいさ。
その内にな。
「それじゃアバリス、出港までにシステムのチェックと各部システムとの連動走査、それと……まぁ出来そうなことやっておいてくれッス」
【解りました艦長】
「うわぁ、もう使う気満々だよ。AI使いの荒い奴だな」
「トーロ無駄口叩いて無いでスポーツドームで訓練でもしてたらどうッスか?」
「へいへい。それじゃあなユーリ、アバリス」
そう言って、手をひらひらさせてトーロはブリッジを後にした。
「はぁ」
【お疲れ様です】
「うん、ありがとよアバリス」
【艦長のサポートも仕事です】
うう、AIに慰められる俺って一体?
そんな事考えつつも、出港の為の仕事に戻る俺であった。