何時の間にか無限航路   作:QOL

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~何時の間にか無限航路・第6話、ラッツィオ放浪編~

■ラッツィオ編・第六章■

 トーロがブリッジを去って、しばらくするとブリッジメンバーが帰ってきたので、新たな仲間のコントロールユニットの管制AIであるアバリスを紹介する事にした。俺がAIアバリスを呼びだして自己紹介を促し、とりあえずブリッジクルー全員にお目通しさせた。

 当然、皆唖然しつつ困惑と懐疑の目を俺に向けた。どうも俺が皆を謀っていると思われてしまったらしい。俺はネタに走るけど皆をだましたりはしないのにと内心で少し落ち込んだが、いつもの事なのでユーリさんはクールにしておくぜ。目から流れ落ちるのは心の汗なのぜ。

 

 それはともかく、コントロールユニットに人工知能が搭載されていると言う話は、どうやら殆どメンバーの認知外の事だったようで、かなり驚いた顔をされた。流石のトスカさんとかも知らなかったらしい。唯一の例外は、機械いじりが趣味でソレ方面の知識に明るい整備班ケセイヤさんと科学班のブレーンであるサナダさんは流石に知っていた。

 でも、普通は人工知能の機能ってオミットするんだって。なんでかって言うと、人工知能には機能の高効率化を図る為に、学習機能が付いてるらしいんだけど、育て方を間違うと変な癖や性格になってしまうんだそうだ。有名な話では、0Gドックで商業もやっているヘイロ・アルタン氏のデルカント号がそうらしい。

 サナダさんが語ってくれたそのデルカント号は、シャンクヤード級と呼ばれる巡洋艦クラスを改装した戦闘貨物船であった。そのデルカント号の人件費を安く使用と考えたアルタン氏はフネに件の人工知能搭載型CUを搭載したらしい。だが気が付けばAIの口調がべランめぇ調に変ってしまい、勝手に義理人情に目覚めたんだとか。

 なんでもAIを任されたオペレーターが、大昔の映画を集めるのが趣味だったらしく、個人のフォルダに収まりきらなかった貴重な映像データを有ろうことかフネの共有データバンクの中に保管していたんだそうだ。ソレをAI が見て学習してしまい、世にも珍しいべランめぇ口調のAIがいるフネが出来あがったらしい。

 それ以上に、このサイバネティクス極限期を終えた時代に、太古の映画が残っていると事にビックリだ。前世の皆さん、遠い未来の宇宙でも日本の文化は現存している様です。どんな時代に置いても娯楽とメディアってのは廃れる事が無いし、20世紀あたりなら記録媒体も沢山あるから残ってたんだろうなぁ。流石は文化大国日本(別名・オタクの国)ってか?

 尚、余談であるがそのフネ、デルカント号のAIは、何と自分の気にいらない仕事を絶対にやらない上、実に喧嘩っ早いらしい。貨物を狙って襲って来た海賊船相手に操縦士のコントロールを勝手に奪って敵に体当りを仕掛けたのだそうだ。突然の事で慣性制御が追い付かなかったものだから、中の人間はたまったモンじゃ無い。

 そう考えるとAI搭載型のC(コントロール)U(ユニット)も問題有りそうだな。育て方を誤ると、クルーの事を考えない実に恐ろしい人格が出来そうなので通常のコントロールユニットAIに人格搭載型は殆どいないってのもうなずける。間違えてドS仕様なAIに仕上がってしまったら……大抵の奴は胃袋が持たないだろう。

 ちなみにうちのオペレーターのミドリさんはというと誰に対しても礼儀正しく、常に冷静を心がけるオペレーターの鏡みたいなクールビューティーである。彼女が特殊な趣味をもっているとかいう話は聞かないから、デラカント号みたいにはならないとは思う……多分ね。

 さぁ新たなる仲間を得た俺達が何をするか。それは―――

 

「―――敵前衛艦2隻大破、後衛艦は航行不能に陥った模様」

「EVA要員は、ジャンクの回収に当たるッス。アバリス、アームのサポートお願い」

【了解しましたです艦長】

―――今日もいつものように宇宙ゴミ清掃、海賊退治と来たもんだ。

 

 コレが結構ボロイ商売になるんだから止められませんがな。

 敵を倒してジャンク品を回収、それを仕分けして倉庫にしまっちゃおうねー。

「おつかれユーリ、なんか飲むかい?」

「あ、トスカさんおつかれッス、じゃあ水を頼むッス」

「あいよ…しかしあんたも頑張るねぇ」

 渡されたボトルのキャップをひねり、中の水に口を付けた時、トスカ姐さんがそう呟いたのを聞いた俺は何がと疑問符を浮かべた。

「いやさ?普通の0Gドックだったら、自分のフネを持っただけで満足しちまうのが多いんだ。アンタみたいに0Gになってからでもがむしゃらに頑張るってのは何かよっぽどの目的があるのかと思っちまうよ」

【艦長みたいに頑張る人は珍しいのですか?】

「まぁ端的に言えばそうだね。それも若さかねぇ」

「トスカさん……それ、おばはんみた――すいません。口が過ぎましたお許しください美しいお姉さま」

「一度死ねばいいと思うよ?」

「あおん」

 ギロヌ、美女の視線が突き刺さる。あいては死ぬ。

「スタンダップ!」

「いえっさー!」

 そして二秒後に復活する。目線の被害は主に俺です。

【あのう、何をしてらっしゃるんですか?】

「ん?タダのスキンシップだよ。なぁユーリ」

「え、ええ……(あの眼、マジで殺られるかと思ったZE)」

 女性に年齢関係の話題はタブーなのは未来も変わらないようである。

「それにしても、よもやあの時の青白い坊やが戦艦の艦長になるなんてねぇ」

「あー、それは自分でもビックリしてるッス」

「長い事打ち上げ屋をしてたが、アンタみたいなケースは…まぁ見たことないね。でも大抵は打ち上げの仕事を終えたらすぐに別れるから、そいつらの行く末を見た訳じゃないけど」

「あれ?そうなんスか?てっきりそれなりに長く居るものかと」

「そりも合わなきゃ好き勝手させてくれないヤツと仕事以外で長く居たいと思わないさ。中には少し優しくしてやったら勘違いしたバカが襲い掛かってくる事もあったしね」

「うわぁ、そいつらの末路が絵を見るように明らかっス」

「とうぜん。身ぐるみ剥いでドッカの星に放置してやったよ」

「身ぐるみとか、丸儲けッスね」

「全裸で何処まで生きられるかな」

「……怖ッ」

 まったく、0Gドッグの女性は逞しいったらありゃしない。

 でも、もしあの時トスカ姐さんのフネであるデイジーリップ号が、それ程酷く壊れていなかったら…ましてや応急修理もいらなくて資材を漁りに行かなかったら…俺は多分、バゼルナイツ級戦艦であるアバリスの設計図に出会うことはなかっただろう。

 

 妹君のチェルシーも助けられず、駆逐艦一隻で精一杯の艦隊を組んでデラコンダと玉砕し、まだ見ぬ宇宙を夢想しながら、崩壊するブリッジの中で炎に包まれて己の無力を嘆いていたかもしれない…やだ、ちょっとカッコいいじゃない。

 まぁ死にたくはないから実施はしないけど、とにかく全ては運とアバリス性能のお陰かな?ああ、あと個性的で愛すべきクルー達とのね。閉鎖されたロウズという環境に囚われ、その優秀な技能を埋没させていくしかなかった彼らと、ただ一隻で領主軍とやり合おうとした俺。命知らずここに極まれりって感じだな。

 

 だが俺と彼らの望みは一つ、宇宙に出たいという事だった。同じ望みがあるからそこに仲間意識が芽生えたんだ。もう手放せないし手放す気もないぜ。

「これからも変わらずに仲良くしてきましょう」

「ああ、そうだね」

 てな訳で、ホイ握手っと。

 そしてそれを見ていたクルー達が急にヒソヒソとし始める。

「おいおい、艦長…まさか副長にまで手を伸ばす気か?」

「妹だけじゃ飽き足らない。そこには痺れも無いし、あこがれも無い…かな」

「若いのう」

「なんとも、見ていて飽きないものだ」

「でもでも~、アレは無いと思う~」

「それには同意しますね。別に誰と付き合おうが関係は有りませんが、場所を考えて欲しいものです」

【うーん、人間って複雑ですね。あ、ジャンク回収が終了したのでEVA班を収容しました】

 何とも辛口コメントのようです。友情の確認にそこまで言われなアカンのやろうか。

「し、仕事に戻るッス!」

「そ、そうだな」

 なんとなくこっ恥ずかしくなったから、とりあえず仕事に逃げよう。こういったのは下手にうろたえると格好の標的にされる。Bekoolだ…あれ?BeCoolだっけ?ま、どっちでもいいぜ。トスカ姐さんもそう思ったらしく、そそくさと副長席で外のEVA班と連絡を取り合っている。うーん、なんか可愛いぞ。

 

 でもそれを口に出したら、きっとさっきみたいに人が殺せそうな程睨まれそうだから言わない。宇宙を生き延びるには先の先を読む事が必要なのだ!……とにかく俺も仕事しよう。さぼっちゃいけないよ。うん。

「ん?艦長、レーダーに感あり~」

 で、俺もコンソールを動かそうとしたその時であった。レーダーに反応があった。

 宇宙空間では隕石というか漂流する岩石とかデブリってのは珍しくはない。ないのであるが。

「ふむ…リーフ、ちょい針路変更、取舵30度ッス」

「アイアイサー」

 ちょいと動きを見れば、まぁ大体判る。操舵手のリーフに指示を送り、アバリスの進行方向を少しだけ変えて相手の軌道が変化するかを観察した。ただの漂流物なら特に変化は見られない筈であるが…。

「―――アンノウンも進行方向が変わります。人為的な物体の移動及び人工物の可能性あり」

「反応あり、スか……エコーさん、向かってくるヤツの大きさは?」

「レーダー最大レンジで測定ー、一番小さいのが120m~、最大450m~」

「センサーがインフラトン機関の反応を探知した。向かって来てるのはフネだぞ艦長」

「航宙識別シグナルは?」

「反応ありません。切っていると思われます」

「航路上での航宙識別を切る…完全な敵対行為…――トスカさん」

「ああ――全艦第ニ級戦闘配備!命令が出るまで自分の部署で待機してな!」

 敵かは不明…いや十中八九敵だろうけど…アンノウンの接近にあわただしくなるブリッジ。トスカ姐さんの方を向くと俺の意図を理解した彼女が即座に艦内に戦闘配備を敷いてくれた。機関出力が上がり、センサーの出力がさらに上がる中、戦闘システムの立ち上げがAIアバリスの補助を受けて数秒で完了する。

 

 航法システム・全周囲監視システム・インフラトン機関出力・火器管制・重力慣性制御・APFS、すべてオールグリーン。思わず花まるが空間ウィンドウに表示されるほどにパーフェクト――まさかの花の戦艦ネタをヤルとは、ハラショーだAIアバリスよ。

「機関出力上昇、エネルギー充填率100%」

「距離を一定に保つッス。両舷全速。それと主砲への回路を開け、砲雷撃戦用意!」

「主砲の全自動射撃用意良し!軸線砲への閉鎖弁オープン!」

【各砲、各センサーと連動、修正誤差入力開始します】

「敵艦のインフラトン反応増大、高エネルギー探知」

【オートディフェンス作動、APFシールド出力アップ】

 そしてこちらが機関出力を上げた途端、アンノウンから凝集光のビームが発射された。

≪―――ズズーンッ≫

「「「ぐわっ!」」」

「「きゃっ!」」

【後部第3スラスター近辺、装甲板にレーザー砲撃が命中しました】

「APFシールドが正常作動したので損害は有りません…ですが、先ほどの揺れで、食器が割れたと、タムラさんから苦情が来てます」

 ソレはどうでも良いッス。

「敵艦の位置は変わらず~!本艦より後方の~500の辺りにいます~!」

「敵艦を光学映像で捕えました。モニターに投影します」

「コイツは…」

 モニターに映し出されたのは、今までの艦船に比べたら100mは大きなフネ。エネルギー量から考えて巡洋艦クラスのフネであった。そのフネは艦首に片刃の剣のような形をしたセンサーブレードを装備し、海上船のような中央船体からまるで蛇が鎌首をもたげているように設置された艦橋をそなえていた。

 

 そして、その中央船体をサンドイッチするかのように、両舷に六角形の盾の様な形状をしたバルジがせり出しており、その楯状のバルジには前方に向けられた対艦砲と思わしき注射器のような形状をした軸線砲が装備されていた。楯状構造物は船体を挟んでいるので合わせて一対の大砲というかんじである。

 射程から考えると、どうやらこの巡洋艦がこちらを狙って攻撃してきたと見ていいだろう。

「艦種識別中………出ました。エルメッツァを中心に活動しているスカーバレル海賊団専用巡洋艦、オル・ドーネ級巡洋艦です」

「たしかオル・ドーネ級の基本設計はエルメッツァ政府軍から流出したサウザーン級巡洋艦からの流用だ。

 装甲と機動力に優れており接舷しての白兵戦が得意な戦法らしいよ」

「マジっすかトスカさん……。なるほど設計思想がさいしょから海賊船ってワケだ」

「ま、接舷して制圧した方が無傷でフネを奪える可能性が高いからね」

【敵艦の速力上昇、接近してきます】

「ふむ…艦長、どうやら敵艦は幾らか改造をしてあるようだ」

「そうなんスか?サナダさん」

「ああ、と言っても機動力と通信機能の強化を施してある程度みたいだがな。それでもここいらのレベルで考えれば大分早いフネのようだ」

 そう…なのか?手元のサブモニターに映っている原型と殆ど変らないんだけど?つーか、なんで見ただけで解るんだろう?マッドの血筋?そんな事を考えながらも速度を上げて迫るオル・ドーネ級を前に、俺は各部署に迎撃指示を下そうとした。

 

「――……艦長、敵艦が交信を求めています」

「え?それって目の前のアレからッスか?」

「はい、敵艦からのコールです。どうしますか?」

 だがその時、何故か敵から通信が来た……あれ?デジャブを感じるお(^ω^;)

「解った。回線つないでくれッス」

「解りました。回線をつなぎます。――アバリス、信号出力の調整お願い」

【了解です】

 ぶっ放して来ておいて、一体なんの為に通信を入れてきたのか理由を知りたかった俺は、恐らくスカーバレル海賊団のフネからと思われる通信を受ける事にした。少しだけジャミング出力がされていたので、回線をつなぐ時にしばらくモニターにはノイズが映っていたが、ジャミングを止めた事で徐々に映像が形になっていく。

 映ったのは、大体50歳くらいの男性だった……何だ男か。

『よう、俺はスカーバレル海賊団のディゴだ』

「こちらはユーリ率いる楽しい仲間たちだ」

「「「おいコラまて艦長」」」

「なんスか。通信中なんスけど?」

「気が抜けるから変な紹介をするな!」

「あたっ!殴ることないじゃないっスか!大体俺たちの通り名なんて決まってたか?」

「あんた絶対いま適当に浮かんだ名前で答えただろ?」

「名は体を表すっていうじゃない?」

【ある意味とっても似合っている気もしますが…】

『――――………話し、続けてもいいか?』

「「「「あ、どうぞどうぞ」」」」

 こちらのリアクションに遅れを取ったディゴさんは、すこしだけ及び腰になっていたが、とりあえず仕切りなおしとばかりにワザとらしくせきをして見せる。

『―――ま、とにかくだ。さいしょテメェラを見た時は、ただの大型輸送船(カモ)かと思ったんだが、そのフネの性能と艦種を見るに、テメェラはココ最近ウチのシマを荒らして部下のフネを沈めて…いや強奪して回ってるっていう噂の大型戦艦か?』

「強奪とはまたずいぶんと物騒な……ん、噂?」

『海賊と見るやいなや見境なしに襲い掛かって戦利品はおろかフネごと、それこそ尻の毛まで引っこ抜いて行くという大型戦艦を持った連中がいるっていう噂だ。おかげでこっちの台所状態は火の車で降格の嵐、幹部もずいぶんと減っちまった』

「あー、なんか身に覚えがあり過ぎるっス」

 強奪だなんて、ただたんにデブリにしちゃうのが勿体ないから丸ごと再利用してるだけなのにな。

「基本的に海賊とかの敵が持っていたものって倒した船乗りのものだしねぇ」

「酒のコンテナを運んでいたやつのどてっ腹に大穴を空けたときはキレーだったよな」

「でも戦利品はなくなるし災難じゃったと聞いたがのう」

「尻の毛って…そんなもん引っこ抜いてもなぁ」

「………せいぜいが、捕虜にした海賊員たちの「私物」を掻っ攫っただけ」

「あ、それ俺もやった」

「こっちはそんなことしてないぞ……まぁケセイヤたちと組んで海賊船の使えそうな部品は全部もらったが…」

 ホラ、うちの乗組員もそう言ってる。

『お前らは鬼か!――つーか噂は本当だったのか…ならば部下の敵討ちを兼ねて今度はお前が身ぐるみ剥がされる番だZE!≪ブツ≫』

「通信、一方的に切られました」

 なんか取りつく島も無く通信切られたような。

 というか……

「身ぐるみ剥ぐね。海賊は海賊って事か…つーか海賊に強奪云々言われたくないんだけど。それと通信入れて置いて、こっちの話聞かないのはどう何スかね」

「ユーリ、あと90秒で向こうと戦闘に入るよ」

「わかってるッス…これより戦闘に入るっス!第一級戦闘配備!」

「聞いたねお前ら?艦首を敵艦に向けろ!」

「アイサー、方位転換、艦首を敵艦に向けます」

「EA・EP作動開始、レーダー撹乱波発信!」

 フネの両舷に設置されたスラスターが稼働してフネの針路を変更する。

 敵さんの居る方向に向きを合わせてフネを停止させた。

「微速前進ッス」

「微速前進、ヨーソロ」

「敵、出力上昇を確認。コレは……全砲一斉射の予兆です」

「回避っス、TACマニューバ・パターンはBの3で」

 敵艦隊からの全砲射撃を前に、アバリスは1300mの巨体が軋むのを無視して、限界機動で攻撃を回避した。回避運動を取るごとに発生する強烈なGを、重力井戸(グラビティ・ウェル)のAIアバリスのサポートによる調整を使い中和する事で、船内の人間がギリギリ耐えきれるくらいのGにまで落している。

 

 尚、もしも重力井戸の恩恵が無ければ潰れたトマトより酷い事になっていただろう。……想像したら気持ち悪くなった、オエ。

≪ズシューン…≫

「回避成功、次の攻撃までの予測インターバル、約120秒」

【前面装甲板に被弾、APFS作動により損害無し。APFS減衰率12%。センサーに問題無し】

「こちらも反撃するッス!」

「ポチっとな!」

 艦首大型軸線レーザー砲、及び上部甲板の小型レーザー砲と中型レーザー砲が稼働し、ロックオンした標的に向けて光の粒子を発射した。

 反撃の光弾は宙域を横断して敵艦隊に迫り―――

「エネルギーブレッド、大型と中型は回避されました」

―――まだ距離があったからなのか、命中弾はなかった。にゃろメ!

「射撃諸元を再入力ッス。次は当てる」

「艦長~!大変っ!」

「どうしたッス?!」

「本艦の右舷と左舷方向に回り込んだ敵艦が急速接近~!!」

「なぬぅ!?」

「数はジャンゴ4、ゼラーナ2!」

「挟撃されたね。旗艦を囮にするとはなかなか肝が据わっている」

 どうやら、目の前の旗艦と思わしき巡洋艦は囮だったらしい。このフネの兵装だとターレットを持っている小型と中型のレーザー砲しか横の敵に攻撃が出来ない。最大限の弾幕を張るにはどっちかに回頭するしかないが、片方に向いている間にもう片方が襲い掛かってくることは明白だった。

 

 ケツを掘られる覚悟があるならどっちかに向けばいいんだが、あいにくアバリスのケツはまだ純潔でね。壊したくないのだ。あーそれにしても艦隊を組んでおくんだった。そうすりゃ肉壁…もとい背後の盾になってくれて安心なのにな。そう思ったが後悔先に立たずである。そして敵艦はすでにレーザーの発射体制に入っていた。

【敵艦のエンジン出力が上昇しています】

「敵艦にロックオンされました。攻撃まであと10秒」

「スラスター全力噴射!緊急回避っス!」

≪ゴガガガン!!≫

「「「ぐわっ!」」」

「「うッ」」

「―――敵弾の着弾を確認。左舷第2空間ソナーと右舷第5シールドジェネレーターがエネルギー過負荷によってスクラム、ダメコン班を向かわせました」

【APFSにより攻撃は減衰、しかしシールド出力70%にまで低下、展開率が20%下がります】

 バカスカと数に物を言わせ攻撃される。こちとら戦艦なので耐久力には定評があるが、どこぞの宇宙戦艦よろしく次のコマに全回復とかしないので、攻撃されればされるほど壊れて修理に手間を食う事になる。クソ、とにかく反撃しなければ!

 そう思った途端、再びアバリスが揺れた。

≪ズズーンッ!≫

「うわったっ!?」

【上甲板第一第二主砲塔に損傷―――あ!今のでターレットをやられて動きません】

「「「なぬぃっ!?」」」

「なんてこったい\(^0^)/」

 運悪く、連続した敵の攻撃によりAPFSが減衰したその一瞬を突いて飛びこんできたレーザーがAPFSを貫通、そして小型中型レーザー主砲塔に損害を出した。レーザー砲自体は無事であったが基部のターレット部分に高エネルギーが当たった事で電子制御的な問題が発生し、ブリッジからの操作を受け付けない状態になった。

 ちょっとした油断が命とりぃとはこのことか。それともコレは狙ってやった事なのか?どちらにしても装甲その他にそれほど被害は出ていないのに反撃手段が破壊されてしまった。FCSにもバグが発生したらしく、ストールが動け、動けよぉ!と声を上げている。撃ちたくても撃てないというのはもどかしいらしい。 

「後ろに向かって全速前進DA!」

「はぁ?!」

「全速後退しろッス!艦内の事は気にしなくて良いから思いっきりぶん回せ!」

「ちょっ艦長!そんなことすれば死人が出るぞ!?」

「Gで怪我するのと砲撃で消し炭にされるのと、どっちが良いッスか?…大丈夫、うちの重力制御担当は優秀っスから」

 俺は重力井戸を管制しているミューズさんに目をやると、少しだけ嘆息を吐きつつ。

「…………善処はするわ」

「ほらな?彼女に任せときゃ大丈夫っス。アバリスもサポートよろしく」

「ぐ、了解!」

【は、はい!】

 これで多少無茶しても大丈夫だ。少なくてもミンチにはならないだろう。この信頼はどこから来るのかといえばただ単に勘である。だが、この手の勘は外れないというお約束があるので大丈夫だ!………あっと!そういえば優秀なAIが仲間についたんだ。ついでに聞いてみるか。

「アバリス!敵の射線を予想できるッスか?」

【へ?あ、ちょっとお待ちください……可能です。レーダー上に表示します】

「リーフさんや?その射線にかぶらない様にフネを動かしてくれッス」

「ええい!どうなってもしらねぇからな!自慢じゃないが俺の操縦は荒っぽいぜ?」

 コレで少しは時間が稼げるはずだ!少しばかり揺れ動いて大変だが、この間に整備班がダメコンを終わらせてくれることを祈ろう。

 コンソール上に表示されるモニターに再び目をやる。ふむ、どうやらこっちが予期せぬハプニングに対処している間に敵海賊艦隊は配置を完了したようだ。左右は駆逐艦隊、正面は巡洋艦からの弾幕という三方向からの攻撃を受けている。

「ターレットは動かせないだけッスか?なら全砲を発射で対処!」

「おいおい艦長、ターレットがまわせないんだから敵をねらえないぞ」

「別に沈めなくて良いッス。相手に撃たせない様にするッス。整備班の修理が終わり次第反撃!オッケー?」

「了解した艦長…リーフ、すこし手を貸してくれ」

「すでに手一杯なんだが…まぁいい、やってやるぜ!」

 別にそれほどピンチってわけじゃない。まぁ装甲をじわじわ削られているからジリ貧ではあるけど、こうやる気を出してやってくれている姿を見ると実に頼もしい連中である。

 そしてアバリスはさらに揺れる。照準できないならフネごと照準すればいいじゃないの精神の元、ただでさえアースシェイク状態だったアバリスにさらに微妙な動きが混じり始めた。なんていうか……乗り物酔いを持つ人にはつらいかも知んない動きだった。

「反撃だ!各砲座無差別照準!撃ぇーっス!」

「了解、ぽちっと―――ん?」

「……………………ちょっと、発射命令出したんだから発射してくれっス」

「いや、なんかFCSがおかしいというか―――」

 おいおい、そんな訳…ってホントだ。

 こっち(艦長席)からでも確認できる。

「アバリス、どうなってるッス?」

【ちょっとお待ちを……走査完了。火器管制の一部に謎のバイパスが出来ています。しかもごく最近作られたものです。バイパス先は――】

 その時だった。いきなりガコンという音が、艦内に響いたのは。

「い、今の音は?」

「か、艦長!あれッ!」

「何ス―――なんだぁ?!」

 思わずメガテン…もとい目が点になった。主砲がエネルギーが切れたかのようにして起動を停止しているかと思えば、アバリスの上部甲板の大エアロックが開き、中から何かがせりあがってのだ。何なんだいったい!?

【……バイパス先は、第一大倉庫、一部を整備班が独占していた場所です】

 そうアバリスが小さく言った事に気が付かなかった。

 と言うか、誰だ戦闘中にこんなことをしでかしてくれたのは……一人しかいないな。

『ふっふっふ…』

 そして内線に怪しげな声が響く――なぜかモニターにはサウンドオンリーと手書きで書かれた黒いダンボールがドアップで写っている。正体はいったい誰だろうかというのは愚問だろう。なんだか突っ込んだら負けのような気がして…。

【戦闘中です。通信は後にしてくださいケセイヤさん】

『あっ!こら人がせっかく演出してるって言うのに!』

 だが優秀なアバリスくんが、生まれたてほやほやのAI特権であるKYを発動し、正体をばらしてくれた。そこに痺れry。正体を明かされた事でサウンドオンリーと書かれた黒いダンボールは投げ捨てられた。いや、ホントなんで手書きなんだ……それはおいておこう。

「何やってるケセイヤ!今は戦闘中なんだよ!?」

「と言うか、ケセイヤさん。ダメコンは?」

『ああ、副班長に任せてあるから大丈夫だ』

 いや班長が戦闘中に抜け出たらアカンやろ?そう内心つぶやいてブリッジ一同とともに彼にジト目を送るがそんなものはどこ吹く風とばかりにケセイヤさんは堂々と腰に手を当ててそうのたまった。テメェ、あとで減給してやるからな。

 ともあれ改めてケセイヤさんを見てみると、反射材でできたバイザー付の気密ヘルメットを被りすこし野暮ったい宇宙服を着込んでいるあたり、彼は今空気が無い所に居るらしい。背後には金属の壁が写っているので船外という訳でもない。

 

 ま、まさか――――

『ふっふっふ、メイン兵装が使えなくなった時、こんな事もあろうかとぉッ!今まで倒した敵船から拝借した兵器でぇぇ!、旋廻式キャノン砲っ!ガトリングレーザー砲を作って置いたズェイ!!』

「くッ!“こんなこともあろうかと”はオレの台詞だ…」

「いやいやサナダさん、何対抗意識燃やしてるんだよ」

「技術者ならば当然の事だ。恥ずかしがる事など何もないっ」

「うわっ、言い切った!開き直ったよこの人―――つーかケセイヤさん」

『あん?なんだ?』

「あの配線がむき出しの、廃材みたいなアレがそうなんスか?」

 アバリスの上部甲板…小型レーザー砲と中型レーザー砲の間にある部分…にせり上がってきて鎮座しているその物体Z。その姿はまさに、廃棄物だった。いやどっちかっていったらパイプとか車の部品とかを組み合わせた前衛芸術の作品といった感じが合いそうな感じである。

 タイトルでもつけるなら『洗練されたパイプの流れ』とでもいえばいいのか。とにかくコードむき出しのパイプむき出しの回路丸見えの、お世辞にも大砲といえないような姿に俺を含めたブリッジ一同はなんともいえない表情をしていたのはいうまでもない。というか使えるのかという疑問が頭から離れない。

 

『廃材いうなっ!まぁ仕事の合間に作ったからな!つい昨日完成したばっかりで外装まで手が回らんかったが、ちゃんと使えるぞ?』

 だが、時折バチバチと火花が出ているソレを見て、とてつもない不安が浮かぶのはしょうがないことだった。そんな中、オペレーターのミドリさんがなにやらコンソールで調べていたらしく、それが終わったのか顔を上げると口を開いた。

「―――なるほど不自然な物資や資材の行方はコレでしたか」

『ギクッ、ミ、ミドリさんや。これはロマンに賭ける情熱のための必要経費みたいなもので』

「別にそれだけならいいんですが…すこし経費も流用してますよね?」

『うげっ!?なんでただのオペレーターがそのことをっ貴様エスパーだなっっ!!??』

「カマをかけて見ただけです。それに私は唯のOP。別に資材流用とか経費流用の件についてとやかくいう部署ではありませんし……」

『ほっ』

「ですが―――艦長」

「うむ、ケセイヤさんはギルティ(減俸3ヶ月)」

『な、なぜだぁぁぁ~~!!』

 某世紀末の鉄仮面さんの如くシャウトするケセイヤさん。どうでもいいが宇宙服でくぐもって聞こえるから変な声だなぁ。

「艦長~、敵艦が撃ちながら接近してくる~!」

「こっちが攻撃しないから接舷して乗り込んでくる気のようだね。どうするよユーリ?」

「……ケセイヤさんの追及は後にするッス。本当に使えるッスか?」

『おうよ!マッドな俺らが提供する最高のロマン武器だぜ!』

「……男のロマン武器ってあたりに不安を感じるんだけどねぇ」

『かーっ、わかってねぇな副長さんよ』

「私は女だからね」

 なにやら議論が始まりそうだったが、今はそれど頃じゃないのでそれを諌める。とにかく使えるというのなら使わない手はない。テストは?そんな暇あるか!

「解ったッス。それなら、ストール!アバリス!」

「ああ、火器管制に直リンクさせてる!」

【サポートは既にしています。プログラム変算により使用可能まで、後20秒】

 流石にエネルギーバイパスを回しただけじゃ、高速で動く敵さんにあてるのは難しい。ストールさんでも長距離攻撃では機械の補助がいるし、それを使うためにはFCSの調整などいろいろ必要なのである。そして話を聞いていたストールたちは、いわれるまでもなく既にセッティングを開始していた。

「よしッ!コレで使える!」

「直ちに発射ッ!目標右舷、敵前衛一番艦!!」

「了解!発射!」

≪ギューンッ!!≫

 上部甲板からブリッジまでは大分距離があると言うのに、艦内に冷却機の音が響き渡った。未完成故に静穏装置が設置されていない所為だろうか。しかしこの無骨なほどの振動と音を聞くと、むしろこの音が頼もしく感じられる。

 異常音?いや、コレが正常音なのだ。そう感じさせてくれる何かがあった。だが正規の装備じゃないこれが敵のAFPSに対し効くのか?という一瞬感じた疑問は、次の瞬間には瓦解していた。

≪ヴォォォォォォ――――――!!!≫

 配線剥き出しの無骨でおよそ完成からは程遠い筈な砲から放たれたのは、まさに弾幕。

 凄まじい勢いで発射される大小さまざまな光弾の群れはスコールのように敵艦に降り注いだ。制動装置も調整不足で不完全なのか撃つたびに銃身がブレていたが、それが帰って射線をズラして面制圧力を高める結果を出している。

 未完成故に面での制圧力がはからずとも強化されたって感じかな。放たれた弾幕は異様に広い散布界であり、本艦から見て右舷側に展開いた敵海賊艦隊の前衛一番艦のみならず、その横に居た前衛ニ番艦にも照射される。

 しゅぼぼぼぼと大小さまざまな光線に飲み込まれる敵艦の姿は、なんかイワシの大群に突っ込んじゃったマグロみたいだった。だけど、魚の群れなんていう生易しいもんじゃなくて、レーザーという高エネルギーの塊みたいな凝集光の群れである。摩り下ろし機にかけられたよりも哀れかもしれない。

 何せ初撃は耐えたのに、そのあとはみるみるとAPFシールドが減衰していった。光線が命中するたびにプラズマにも似た光が船体表面を走るのだが、絶え間ない攻撃がその光すら削っていく。前の世界でガトリング砲がミンチ製造機なんてあだ名がある理由がわかった気がするぜ。これはひどい、いい意味でだが。

 そしてガトリングレーザー砲が稼動してからわずか数十秒で、敵艦が内部から爆発を起こして爆散した。なんでと思ったが、どうやらあまりの攻撃の量に敵のシールドジェネレーターが耐え切れずに自壊してしまったらしい。こうしてあたりに残骸が散らばった。

「す、すげぇ」

 ブリッジの誰かがそう呟く。俺もそう思う。

 敵さんも驚いて動きがとまっている様だ。

「右舷の敵2隻の撃沈を確認しました。他艦隊は進行を停止」

【火器管制に異常発生、現在オーバーライド中、復旧までおまちください】

「今のうちに全速で後退!消費したエネルギーをチャージするッス!」

「お、おう!全速後退!」

【エネルギーコンデンサーにチャージ開始、甲板臨時旋廻砲、再度使用可能まで後120秒】

 ふとエネルギーの消費を見てみたが、噴出した。たった一回の使用でエネルギーの7割が消費されている事に。ドンだけ腹減り虫なんだこのいやしんぼ!通常火器での戦闘十数回分が一発で消えるなんて、なんて非効率……だが、それがいい。ソレでこそロマン武器よ!だけど次回からは消費抑えてな!致命的だし!

「緊急チャージのために、生命維持最低限を残してシステムをカットします。許可を」

「艦内放送は?――よし、やってくれっス!」

 とにかく急いでエネルギーを充填しなければならない。その為艦内の生命維持にまわしているエネルギーを一時カットしてそちらにまわした。おかげで手元が真っ暗である。お先真っ暗にならないことを祈りたいね。後退し、エネルギーが貯まり次第、このまま一気に突破しようと考えていた。

 

 だが――――――

「後方に高速で移動する物体~!これは……あ、接近する艦影が多数~!数は20ほどでサイズからすると戦艦を旗艦とする艦隊です~!」

「また海賊の増援っスか?」

「わ、解りません~!スキャン結果からすると、海賊では無いみたいですけど~」

 どこの艦隊だ?戦闘宙域に来るなんて……。

「アバリス!背後の艦隊はデーターベースに無いッスか?!」

【識別信号は…ありました。照合中、しばしお待ちください―――該当あり、ラッツィオのエルメッツァ軍駐屯基地所属のオムス艦隊です】

「ラッツィオ軍基地?まさか後ろの艦隊はエルメッツァ中央政府軍かい?!」

「げ、騒ぎを聞きつけて軍が?あちゃー、怒られるかも知れねぇっスね」

 エルメッツァ、ラッツィオのとなりの星系で小マゼランで一番でかい国があるところ。ラッツィオもエルメッツァに属してる星系だから、こんな騒ぎを航路で起こせばそこの軍隊もくるだろう。どこもおかしくはないな。

【後方の正体不明艦隊より、インフラトン反応の増大を確認】

「なッ!?まさか軍の連中、俺達ごと巻きこんで撃つ気か?!」

「エネルギー尚も増大。レーダーの照射も確認。いわゆるピンチですね」

「なんでミドリさんはそうも冷静なんスか!と、とにかく回避をッ!」

「だ、ダメだ!もう間に合わない!」

 ストールの言葉にさっきの骨がきしむような機動はどうした!?と叫びたくなったが、その前に後方の艦隊から凝集光が照射された。

 

 それはもう、画面が白くなるほどのレーザーが―――――

「うわぉ。漂白剤もびっくりっス」

「エネルギーブレット、本艦到達まであと10秒」

【再充填エネルギー、シールドジェネレーターにまわします】

 幾らこのフネのAPFシールドの強度が高くても、背後の艦隊は20隻はいるからかなりの規模だ。しかも、大半が恐らく軍用の駆逐艦クラスか巡洋艦クラス。海賊やロウズ警備隊連中のレーザー砲とは訳が違う、高出力のレーザーを装備しているだろう。喰らえば、さっき敵に起こった様にジェネレーターがオーバーロードを起して、此方がボン。

 

 

 そして着弾の直前、覚悟を決めた俺は思わず目を瞑ってしまった。

………

…………

……………

………………

…………………?

「あ、あれ?衝撃が来ない??」

「エ、エネルギーブレット、本艦を通過しました」

「な、何だって?!」

 どうなってるんだ?一体?

「エネルギーブレッド、本艦を通過して海賊たちに向かいます!」

「これは…助けられたって事…なのか?」

 それにしては、やり方が強引な気もしないでも無いんだが…。通過したエネルギーブレッドは、前方のオル・ドーネ級以外を薙ぎ払ってしまった。

 目の前の巡洋艦は、ちょうど此方の陰になっていたらしくレーザーの直撃を免れたのだ。

「前方の海賊船!撤退を開始しました!」

「流石に不利だと考えたか…海賊にしちゃ冷静な指揮官だねぇ」

「そうッスね…機関出力上げ!此方も撤退する!!」

 全速を出して逃げて行く海賊船を見ながらも、俺は後ろの艦隊から逃げる算段を考えていた。

 一応海賊を蹴散らしてくれたものの、何の警告も無くこちらゴト撃ったんだ。

 最悪の事態まで、警戒しておくに越したことは無い。

「艦長!後方のオムス艦隊から通信が来ました!」

「…………とりあえず機関出力は維持、兵装へのエネルギーはカットするッス」

「逃げる準備を怠らないように各部署に通達しておきな」

「アイサー」

 こうしてアバリスは、エルメッツァ中央政府軍との初めてのコンタクトを取ることになる。

 あ~、もうめんどくさそうな感じがするぜ。軍人とかの相手はめんどくさそうだよなぁ。

 大事なことなので二度言ったぜ。

【通信を繋げます。戦闘の影響で、映像が少しばかり歪みます】

「メインパネルに投影」

 パネルに映し出されたのは……………なんかピカソの絵みたいになった映像。

「…プッ(ちょっと、流石にコレは無いんじゃないスか?)」

「(ノイズキャンセラーを最大にしてコレなんです。もっと近づかないとコレ以上は無理です)」

『こちらはエルメッツァ政府軍所属、オムス・ウェル中佐だ』

 おっと、音声はきちんと入るのか。

 こっちもきちんと返さないと……。

「こちらは0Gドックのユーリです。先ほどは危ない所をどうも…」

 一応、結果的に助けられたんだし、お礼の一言は言っておかないとまずいだろう。

 ……あんな助けられ方は二度とゴメンだけどな。

『いや、こちらもたまたま近くを通りかかっただけだ。

 我々の仕事は本来海賊等の脅威から航路を守ることにある。君たちが気にする必要はない』

「そうですか。ですがそれでも、其方の行動によって助けられたことは事実。感謝を…」

『うむ、気持ちは受け取っておこう。ところで、何故君たちは海賊に襲われたのかね?』

「お恥ずかしながら、最近我々は海賊のフネばかりを狩っておりまして」

『ふむ、罠にはめれらたと?』

「その通りです」

 ケッ!面倒臭い。何でこんな話し方せにゃアカンのや?

 早い所終わらせて、普段の喋り方に戻したいぜ。

「まぁ、こちらも無事でしたので、我々はこれにて…」

『いや、少しばかり事情を聞きたい』

「…は?」

『私はしばらくラッツィオ軍基地に居る。二日後に来てくれ。以上だ』

「え?ちょっ!」

「通信切られました」

 おいおい、こっちは行くとも何とも言ってねぇぞ?

 なんつーか、失礼つーか、傍若無人つーか…。

「オムス艦隊、この宙域を離脱していきます」

「………一度ラッツィオにもどるッス。コンディションはイエローを維持」

「アイサー」

とりあえず寄港の指示を出した俺は、後ろに控えるトスカ姐さんに振りかえった。

「はぁ、どうしましょうトスカさん?」

「まぁ、軍の連中との中が悪くなるのは避けたいねぇ」

てことは…やっぱいかなアカンか?

「面倒クセぇ…」

「しかたないさ、コレも艦長のお仕事お仕事…ってね」

「………交代しないッスか?トスカさん」

「今更遅いわ。覚悟決めて会いに行くんだよ」

「へ~い」

 ああもう、一応連中はここら辺の、複数の宇宙島を牛耳っている政府の人間だ。

 下手に関係をこじらせたら、一介の0Gドックでしかない俺が勝てるわきゃねぇだろ。

「一応今後の予定、ラッツィオで補給したら、そのままラッツィオ軍基地に向かうッス」

 一応誤解が無いように言っておくけど、ラッツィオ軍基地は惑星ラッツィオのお隣の星だ。

 名前もそのまんまラッツィオ軍基地って名前である…………軍人しかおらんのやろうか?

 とりあえず、アバリスは一路、惑星ラッツィオに舵を切った。

「――――それで、あんなに揺れてたんだ?」

「そうなんだよチェルシー」

 俺は昼飯を食べに、食堂に赴いていた。

 何故かちょうど休憩に入ったと言うチェルシーも隣に座っている。

「…………」

「?どうしたのユーリ」

「……うんにゃ、何でもない」

 もっとも、此方の様子をカウンターからニヤニヤ覗いているタムラさんを見れば、

 なぜチェルシーが休憩時間なのかが、すぐに理解できた。

 まぁ言わぬが花ってヤツだから何にも言わんが…。

「全く、何故にあいつらんとこ出頭せなアカンねん…俺善良な一般0Gドックだぜ?」

「んー、海賊さん達を狩っている時点で、一般とは程遠いんじゃないかな?」

「そうかな?」

「うん」

 まぁね、普通の0G達は主に輸送業中心だもんね。

「ねぇユーリ、無茶しないでね?」

「だいじょーぶ、むちゅ……」

 噛んだ。

「む、無茶はしない。うん」

「フフ、なら良し、だよ」

 わ、笑われた…恥ずかしいな、おい。

 しかし、彼女も良く笑顔を見せる様になって来たなぁ。俺的良い女ポイント10点upだわ。

 頑張って、彼女と良く会話して、仲間に溶け込めるよう配慮した甲斐があるわ

 ま、ウチのクルー連中に、嫌なヤツは居ないとだろうけどさ。

 俺自身、良くクルーと一緒に、他愛ないお喋りをする。

 そうやって、艦長自ら話しかけて、艦長とクルーっていう垣根を作らないようにしてるんだ。

「なにか飲む?」

「ああ、頼むよ」

――――――とりあえず、まだ休み中なので、兄妹水入らずでのほほんとしていた。

 若干、厨房の方から、俺も若いころはだとか、青春ねとか言う声が聞こえたけど、気にしない。

 気にしたら最後、ネタにされることが解っているからな。

 でもなぁ、一応兄妹だって言って有るのになぁ、そこら辺倫理観どうなってんだこのフネ?

「なぁチェルシー」

「なに?」

「平和って…いいよなぁ」

「そうね」

 そしてお茶をズズッと啜る俺。

 まぁお茶って言っても紅茶みたいな奴だけどね。味も似てるし。

「ところで、ズズ…、どうよ?いい加減生活には慣れたかい?」

「うん、仕事は解りやすいし、何より皆優しいの。良い人たちばかりね」

「はは(半分は僕と君をくっ付け隊の人達だけどね)」

 何気に会員が増えたらしい。清純派な恋が皆お好みなんだそうで…。

 え?どうやって調べた?ウチにはアバリス君という優秀なAI君が味方なモンでね。うん。

 プライバシーの侵害?そこはホラ、艦長権限ってヤツだからいいの。

「何よりあたたかいわ。このフネは」

「そうなるように、苦労した甲斐があったッスねぇ」

 まぁ乗組員の人間が、まさかあそこまでキャラが濃い連中とは思わなかったけど…。

 この俺ですら把握しきれない連中だもんなぁ。

「あ!そうそう、私また料理教えてもらったんだよ?」

「タムラさんに?じゃ、またいつか食べさせてもらいたいモンだねぇ、うん」

「ユーリが言ってくれれば、いつでも良いよ?」

「はは、俺の業務も忙しいからな。でも、ちゃんと食わせてくれよ?」

「うん、約束だよ」

 

 ちゃっちゃらー、チェルシーはB級グルメを覚えた・・・ってな。まぁウソだが。

「さてと、このあったかいフネを守る為に、お兄ちゃんまた頑張ろうかね」

「うん、無茶しない様に頑張ってね?」

「これはまた難しい注文だ…だが、やる価値はある。それじゃまたな」

「うん、またね」

 エセ紳士風を気取った俺は、そのまま食堂を後にした。

 そして戦艦アバリスはラッツィオでの補給を終え、ラッツィオ軍基地へと向かった。


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