■ラッツィオ編・第七章■
「うー、トーロトーロ」
ラッツィオにある軍基地に行くまで暇なので、暇つぶしにトーロくんを探している僕は、宇宙戦艦の艦長をしている普通の男の子。しいて違うところをあげるとするなら、宇宙開拓に興味があるってところかなー。名前はユーリ。
「あ、ミューズさんちょうど良いところに出会ったス。トーロどこに行ったか知らないッスか?」
「彼ならトレーニングルームにいるわ…」
「そうか、失礼したッス」
「あ、艦長――――行っちゃった。今ソコには入らない方が良いのに…」
そんなわけで艦内のトレーニングルームにやってきたのだ。
ふと部屋をのぞくと、中でぽっちゃり系の少年が床に大の字で寝っ転がっていた。
うほ、いいお腹。
「(ダイエットを)やらないか?」
「んー?誰かいるのか?」
いっけね☆肥え出したから、もとい声出したから見つかっちまった。
「やぁ、トーロくん暇だから来たっ――ぬがッ!?」
「ん?ユーリじゃねぇか。って、どうした?床に張りついちまってよ?」
そしておもむろにトレーニングルームに入った俺はつなぎのホックを…いや、室内に入ったとたん曙に乗られたような感覚と共に床とディープキスを交わしたのだ。
「うぐぐ、暇つぶしを兼ねて来た結果がこれっスか」
「それは解ったけどよ?何で立ち上がらねぇんだ?」
「…立てねぇんだよ!!重力もうチョイ落とせこのバカ!!」
***
「わりぃわりぃ、鍛錬してる時は誰も来ないからよ?」
「とりあえず早いとこ通常重力に戻してくれ…ミが出そうなんス」
「うげ!?解ったちょい待ってろ!よし、解除した」
重力のON・OFFが簡単に出来るようにしてあるのか、トーロがスイッチを押すと重圧が消えた。ゲホゲホ、いたたたた。身体中が痛ぇ。後少し遅かったら、さっき食ったモノと奇妙な再開をするところだったぜ。
もしくは部屋で溺死ってとこか…ゲロに溺れてとか最悪な死に方だな、おい。でも艦長なのにコレじゃあ示しが付かないな。俺も少し訓練入れるか。
「全く、確かに鍛えろって言ったけど、限度ってものがあるッス」
「自分でも何でココまで耐えられるか不思議でならねぇけどな」
「……まぁ良いッス」
呆れてものが言えん。
とりあえず、もうすぐラッツィオ軍基地に着く事を伝えると、トーロは気のない返事を返してきた。どうやらトレーニングに忙しいらしい。この筋トレ馬鹿め。
「全く…アイタタ…」
床と熱烈なキスを交わしたところを撫でながらそう呟く。何で自分のフネん中で怪我してるんだろう?予期せぬ怪我は日常の中に潜んでいるというが、予期できぬにも程がある気がしてならない。いや、これは人災だ。トーロの給料減らしとこう、そうしよう。
「戻ろう…俺の居場所(ブリッジ)に…」
幸い大したことは無かったので医務室にも行かずブリッジに向かおうとした。
その時である。
≪ガガガガ…ギュィーン…ギッコンバッコン!ニュイ~ンモッハジ!!≫
「なんだ?この奇妙な音?」
何故か工事現場で聞くような金属を削る音が通路の向こうから響いて来た。というか最後の音は何だ?ん~、すでにフネの修理は終わっている筈なんだが…はて?気になった俺は、音のする方へと足を向けることにした。
…………………
……………
………
歩くこと数分、気がつけば俺は倉庫区画に来ていた。
そしてもっとも音がうるさい扉を見つけ立ち止まった。
音の元凶はどうもここから聞こえてくるらしい。
「あれー?確かココは…」
小首を傾げながら倉庫扉脇の表札を眺める。そこには無限航路で使われる公用語でマッドネス・ネストという文字が書かれている。直訳するとマッドの巣、まんまである。たしかこの倉庫は、ケセイヤが“こんな事もあろうかと”と言って作り上げた色んなヤバいモノの保管庫だった筈だ。
ちなみにこの間使用された件のガトリング大砲もココにある。秘密裏に経費を勝手に横領していた事は下手すると生身で宇宙に放り出されかねない事態で見過ごせないが、それを許しちゃうのもユーリクオリティ、まぁ実際いい仕事はしていたからな。浪漫は大事だよ。
この先も横領されちゃかなわんから鹵獲品や廃品の幾つかを融通して、整備班全体の予算を少し上げる代わりに、整備班所属人員の御給料を半額以下に設定した。少数の整備員から苦情が来たが、ならなんで班長を止めなかったんだと質問を返して黙らせた。連帯責任はどこの社会にもあるのである。
もっとも、元々フネから殆ど降りない上、機械弄りが趣味な連中ばかりなので給料の使い道なんてそれほどないし、第一フネに乗っている間は必要な衣食住は保障されているから、趣味の機械弄りだけできれば不満も封殺できるんだが…。
「ま、まさか…またなのか?」
それはさて置き、音の元凶が響いてくる扉の向こうに嫌な予感を感じてたまらない。あれだけ絞めたのに、まだ何かやらかすのではないか?さすがの俺も黙って船内で何かされるというのは気持ちがいいモンじゃない。
こうなれば、俺も一つ噛ませてもらおうか。そう思い倉庫の扉を手動でそっと開け、中をのぞいてみる事にした。
「はんちょ~、このシャフトどうするんか?」
「お?そいつはレールガンのレール部分に代用が効くヤツだな。6番に保管しとけ」
「班長、一応応力デバイスの調整が終わりましたけど、流石に陽電子砲はまずいんじゃ」
「別にタキオン粒子使う大砲作れって言うんじゃねぇんだ。ソレ位大丈夫だって」
「でも基本、廃品ですよ?破壊した船舶から集めたヤツだし。爆発したら数宇宙kmが蒸発しちゃうんじゃないかなぁ」
「ちゃんとスキャンして、強度の方は問題無いって出てるだろうが!」
「この廃品のコンデンサーが、コレだけの大出力に耐えきれますかね?」
「そこら辺は大丈夫だ。コイツはフネの心臓部たるエンジン部分に使われていたヤツだからな」
「しかし、何だかなぁ~」
「何ぶつくさ言ってんだ?このキャミーちゃん3世が信用できんとでも?」
「陽電子砲に、変な名前付けないでください」
カラカラ笑うケセイヤさんと、ソレを見てもはや諦めの境地にたどりついた副班長。
いや止めろよと俺の理性的な部分が騒ぐが、あいにく浪漫が好きな俺は良いぞもっとやれとうるさい。どうやらケセイヤさんとその他整備員達が倉庫の整理と海賊船を破壊した際に出た廃品の幾つかを使って何かの開発をしてたようだ。
広いフネだから、俺も全部把握してる訳じゃないけど、こんなことしてたとはね。
「そういや班長?」
「なんだ?」
「このついつい調子に乗って作ってしまった機動兵器の図案、どうします?」
「まぁ半分冗談で作ったヤツだからなぁ…。とりあえず隅っこに投げとけ」
「了~解~、ついでに作った人型機動兵器だけど、予算ねぇもんな」
うん?いまとっても浪漫ハーツに引っかかるキーワードが聞こえたぞ!
コレは俺も話しに混ざらねばなる巻いて!
「話は聞かせてもらった、ッス!」
「げぇ!艦長!」
ジャンジャンジャーン!って関羽かよっ。
「そんなことよりもっスね、おうおうおうケセイヤさんよぉ」(♯^ω^)ビキビキ
「な、なんだよ。言っとくが使った経費は返さねぇからな!」
「班長、返さないじゃなくて使っちゃったから返せないだけだ」
「だって廃材流用だけじゃたりなかったんだもん!」
「いい年こいたオッサンがモンとか付けんじゃねぇよ!気持ち悪い」
「なんだと副班長の癖にィ!」
「自重しろ浪漫中年!」
なんかケセイヤと副班長の人が喧嘩しそうだけど、まぁいつものことだ。
この二人、根っこの部分で同類だからなぁ、すぐに元に戻るんだよね。
でも話が進まんから、ちょっと二人の間にわりこむぜ。
「んなことはいいんス。俺が怒ってんのはなあ……どうして機動兵器なんて浪漫兵器を作るのに、俺に…艦長さまに一声くれなかったって事なんスか!」
「お、おう!?」
「艦長ェ…」
心からのシャウト。だって、俺だって、男の子だもん。
機動兵器とか、それが人型とか、もうね。浪漫ですよね。
俺の剣幕に若干腰が引けているケセイヤとか呆れの視線を送る副班長君は無視無視。
「艦長…。おめぇも話がわかる口か!」
「俺に申請してくれれば、艦長権限で秘密裏に予算を組んであげてもいいっス。だって男の子じゃないッスか。俺たち」
「「「さすが我らが艦長だぁ!」」」
歓声を上げる整備の連中。いっきに男くさい空気が部屋に満ちる。古今東西、男の子が浪漫に費やす情熱は変わらないのだ。微妙に常識人臭い副班長は溜息を吐きつつも嬉しそうである。やっぱり同類じゃないか、はは、こやつめ。
そういう訳で俺はケセイヤたちの為にパトロンとなって予算を組む事を了承した。普通の経費では予算オーバーになるので、俺からも一部ポケットマネーで出しているが、パトロンを得たこいつ等の暴走が起きないか怖い。
まぁ、ある程度はお目こぼしする気ではある。こういうので仕事にさらに熱が入ってくれればという打算もある事だしな。これから手に入るジャンク品の売り上げの内、数%を予算に流す事にした。
実はアバリスには今、会計がいない。この手の事務処理は殆ど戦闘以外は艦内ステータスのチェック以外活躍の場がない俺の手で行われている。なので予算はある程度ごまかしが効くのだ。これでまたあのガトリングレーザー砲のような物品が出来るかも知れないと思えば、先行投資みたいなもんだと思える。
そんな訳で彼らの“こんなこともあろうかと”という理念もあり、事は秘密裏に進めた。もちろん詳細を知っているのは俺とケセイヤとAIアバリスである。アバリスには俺が頼んで秘密にしててね☆とお願いした。これも教育である。
そして、当然ながらパトロンとなったので、ある程度作るモノに注文をつけられる。くくくく…前世のアニメやメディアのおかげでアイディアだけはいっぱいある。前の世界じゃ技術的に無理でも、未来のこの世界なら実現できるかもしれない。そう思ったら胸が熱くなるじゃないか。くふふ。
***
―――惑星ラッツィオ・軍基地前―――
はい、やってまいりました。現場からユーリがお伝えしまーす。
てな訳で今俺はあのオムスとかいう軍人のいる基地に来ていた。
「あのう、オムスさんから来るように言われた0Gドックの者ですが」
「話は聞いています。中佐がお待ちですので迅速に移動してください」
話は伝わっていたらしく、門兵に話しかけると司令部へと通された。警備的にこんな素通りみたく通していいモンなんだろうか?それはともかくとして、司令部のある建物の中佐の執務室に通された俺たちは中佐と再会する。
んでまぁ、この中佐と再び合間見えた俺たちは当たり障りもない挨拶をした。とりあえず、ここらの話の流れはほぼ原作通りだったと言っておこう。一言で言えば、海賊退治の手伝いを依頼されたのだ。
ここいらの海賊は賢しいのか、軍の本隊が近づくと蜘蛛の子を散らすかのように逃げ出してしまうらしい。そりゃまぁ錬度も装備も違うし、民間で売れるような物資をあまり積んでいないからやりあっても旨味が少ないのだろう。ホント賢しいと思うのだが、そこで俺たちが出てくるわけだ。
俺たちはいまだ艦隊を組んでいない少数…尖鋭といえないのが悲しいが、単艦だけで行動している0Gドックである。しかもここ最近海賊のシマを荒らして回っているのだから、彼らにとっては目の上のタンコブとまでは行かなくとも、目障りな存在だと認識されているに違いない。
要するに俺たちは海賊たちには有名なのである。単艦しかいない現状なので俺達を侮って戦いを挑もうとする馬鹿も来る事が簡単に想像できる。表立って行動すれば自然と敵が群がるわけで、軍としてはソレを利用したいのだ。
表向き俺たちはオムス中佐からの協力依頼を受けて海賊退治に行くという方面で話が纏まった。したくもないけど纏まってしまったというのが正しいか…、外交能力を鍛えねばと思う反面、軍に目をつけられたくはないので、喉まで出かかった不満を飲みこんだ。胃薬がほしい。
まったく0Gドックは宇宙航海者であって、便利屋じゃないってのにな。この業界じゃ弱小だから強気になれないのもなんだかとってもチクショーっ!せめてもの意趣返しにエピタフの情報とお金を要求した。エピタフは伝説級のアーティファクト、伝説級、ここ重要。
伝説級だからそうそう情報は手に入らないだろう…何故か墓穴を掘った気がしないでもないが、それはさて置き、貰える報酬はそれなりの額を用意するように確約させた。いくら正規軍じゃないとはいえ、幾ら何でも命掛かりそうだったから、それくらいはね。
ちなみに原作ではここでもらえる報酬はフネの設計図だった。現実的に金がほしいからこちらから報酬は金がいいと伝えた結果である。基本的に手に入る設計図は民間設計会社で手に入るのとどっこいどっこいだったはずなので問題はない。
さて、そういうわけで海賊退治の第一歩としてオムス中佐からの指示により惑星ルードに向かうことになった。そこにいるスパイの男から情報貰って来いってお達しである。合言葉言ってデータチップを貰ってくればいい。ね?簡単でしょう。気分はおつかいを頼まれた小○生である。
「……インフラトン粒子濃度は正常値、機関出力も正常っと」
「周囲索敵~、反応はありません~」
ラッツィオのオービタル・ステーションから発進して航路に乗った。今回はとっとと済ませたいので機関出力は最初から全開。速力も航路に出てから最大に上げ、なるべく敵と遭遇しないようにEPを作動させている。
なおEPとはElectronic Protectionの頭文字であり、俗に言うECMやECCMといった軍用の電子妨害装置の事だ。アバリスは元々軍用に設計されているので、これも標準装備されている装備の一つである。コレを使えば視認できる距離か、高性能レーダーでも持っていない限り遭遇率を抑えられるというある種のチート装置である。
別に海賊とかに襲われたら身包み剥いで…もとい返り討ちにすれば事足りるが、おつかいを頼まれていてソレをとっとと終わらせたいので今回は最大で稼動させるというわけである。
「しっかし、艦長。何で俺達が軍の使いっ走り何ぞしないとダメなんだ?」
んで、それのおかげで安全というか暇な旅路になりそうだなとか考えていたところ、星図のチャートを確認しながら操舵席に座っていたリーフがそんな事を口にした。ふむ、まぁ確かにクルーからも疑問の声が上がるよな。
「リーフ、お前さん海賊で食っていく自信あるッスか?」
「へ?そりゃ必要ならソレ位しますがね」
これだよ。こういう強かさがこの世界の人間の強みだよなぁ。
まぁソレはいいとして。
「俺にはそんな自信は無いッスよ。これでも俺はアバリスに乗りこんでる全員の命預かってるッス。とてもじゃないけど政府に逆らって指名手配されて狙われながら生きて行く事なんて出来ないッス」
毎日警備艇や警備艦隊に追っかけられるような、神経が擦り切れる生活なんて送りたくねェ。というか、そんな事する為に宇宙に出た訳じゃねぇからな。
「そんなもんか?」
「もちろん、こっちにとって不利益にしかならない不条理な命令だったら、絶対に言う事なんて聞く訳無いッス。それどころかそんな命令したヤツをダークマターにでも変えてやるッス。だけど、今回はまだ良心的な依頼ッスからね。出来るだけ政府の人間には協力の姿勢を見せといた方が、後々厄介事が起こらないモノッスよ」
「はは成程、尻尾振っているフリをするって訳だ」
「わんわんって感じッスかね?」
「艦長~犬のモノマネ上手~。かくし芸~?」
「いや、かくし芸じゃ無いッスけど…」
エコーさんのどこかズレた発言に、ブリッジの空気がのんびりとしたものに変った。こういう雰囲気変え方が凄く上手いんだよなぁ、しかも天然でやっているから、エコー…恐ろしい子…!!(月○先生っぽく)
そんなバカな事考えていると、トスカ姐さんがどこかいつもと違う表情をしている。どうしたのだろうか?具合でも悪いのかな?まさか女性のアレ……。
「何か変な事考えなかったかい?ユーリ」
「イイエ、ナンニモ考エテマセンヨ?」
あぶねぇ、墓穴掘るとこだったぜ。つーか相変わらず勘は鋭いんですね?分かります。馬鹿なこと考えて百面相している俺を尻目に、トスカ姐さんはどこか胡乱な視線を俺に向けると、なぜか大仰にため息を吐いた。
「まぁ、あんたの事だから?そうそう利用されるなんて事は無さそうだね?」
「軍相手の事ッスか?うわははは、利用してくるならコッチも利用してやれば問題ないッスよ」
「ちゃっかりしていると言うか、しっかりしていると言うか」
「いやぁ照れるッス」
「褒めてないよ」
さいで。
「ん?もうすぐ到着みたいだな」
「早いッスねぇ。ラッツィオの軍基地を出てからまだ1時間も経って無いのに」
「一応軍用だからな。電子妨害を最大レベルにして、逃げるときに機関出力いっぱいにすれば、一般の船舶なんてめじゃねぇさ」
「ふむふむ、やっぱり良いフネッス」
なぜか自慢げに胸を張るリーフに俺も素直に賛同した。流石軍用、戦闘無しで最大戦速だと、ものすごく速い。そのまま一気に惑星ルードのステーションにある宇宙港へ入港した。
***
ステーションから惑星に降りて、向かったのは0Gドック御用達の酒場。面倒くさいおつかいにふて腐れてヤケ酒としゃれ込むというのも魅力的であるが、別にそういうわけじゃない。というか指定された受け渡し場所がここだっただけである。
んで酒場に入ったわけだが中は結構閑散としていた。海賊団が横行しているこの宙域で活動している0Gドッグは少ないのだろう。他宙域から人が来ないのだから、酒場も自然と人も少なくなる。居るのは海賊を怖がってソラに上がれず屯っている連中だけ。
―――でも目的の人間は人が多かろうが関係なさそうだ。
(…なんでスパイなのに普通に正規軍の軍服着てんの?おしえてエロい人)
何せ目的の人物は政府軍の軍服を身につけているのだ。
この近辺は海賊の縄張りなんだから形だけでも偽装すればいいのに、正直な男なんかね。
「ひそひそ(トスカさん、もしかして…)」
「ひそひそ(ああ、どう見てもアイツがそうだねぇ)」
「ひそひそ(でもここら辺、海賊の活動圏なのに、偽装しなくても良いんスかね?)」
「ひそひそ(いや、あいつは多分仲介みたいなもんだろう。スパイは別にいるんだよ)」
「ひそひそ(そうなんすか、じゃあとりあえず接触してみますか?)」
「ひそひそ(その方が無難だろうねぇ)」
とりあえず、エロい人と相談した所、接触するのが吉と出た。
俺は軍服の男の元へと進んで行き隣に座った。
「時化た顔してどうしたんですか?“ボトル三本奢ります”よ?」
オムス中佐に事前に伝えられていた合言葉をその男に言ってみた。すると男はこちらを目だけで一瞥し、顔を向けることなく手だけをスッと差し出した。ん、なんぞ?手に何かのってるのう。
「…マイクロチップ?」
コイツは届けろって事かい?俺はそう視線を送る。
するとスパイの男は少しだけ首を縦に振ってみせた。
「OK、任せな」
どうやら口を開く気は無いらしい。
それならそれで良い、面倒臭い事になりにくいからな。
「さて、これでもうココに用は「兄…さん?」…は?」
おや?ティータ嬢も来ていたのか、というか今兄お兄さんって。
「このヒト、ティータのお兄さん何スか?」
「ねぇ兄さんなんでしょ?どうして今まで連絡の一つもくれなかったの!?」
ティータの兄(仮)は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに無表情に戻った。しかし、その反応だけで彼らが赤の他人でない事は周囲にはバレバレである。というか俺、この二人に華麗にスルーされてちょっと涙目。
「どうして黙っているの兄さん!ねぇ何か言ってよ!!」
この空気に居たたまれなくなったのか、彼は足早に酒場を後にした。残ったのは、実の兄に拒絶された事にショックを受けている少女だけ。こういう時に効く薬は…。
「トーロ、出番ッス」
「幼馴染なんだろう?相談くらい聞いてやんな?」
トスカ姐さんと一緒に近くでジョッキを傾けていたトーロの背中を押してやる。こんな時は最終兵器(リーサルウェポン)、最上の薬『幼馴染』を投入するに限る。最もこの場合は、ていの良い生贄という側面も含んでるんだけどな。
そして、そこら辺は嫉妬深いクルーも理解しているらしい。トーロがティータを慰めに行く際、彼に対しちょっかいを出そうとするヤツはいなかった。と言うよりかは、頑張ってこいという感じの視線の方が多い。皆女の子スキー!だけど、厄介事はイヤン!って感じらしい。
全く普段の馬鹿騒ぎ好きで、お調子者のコイツらはどこに行ったんだか。まぁ、そんなこと言いつつもトーロを見送った俺が言う事じゃないけどな!俺も苦手なんだよ。女の子の泣き顔とか苦しんでるとこって。
「世も末だなぁ」
酒場から出る時、あの兄妹を見てそう呟いたのは、俺だけの秘密。
***
「ああ艦長、ちょっといいか?」
「ん?何スかサナダさん」
さて、データチップは受け取ったので一度フネに戻り、ラッツィオ軍基地へ向かおうとした矢先。科学班のサナダさんに、話しかけられた。
「この間海賊に襲われただろう?そこでだ、空間ソナーを少し改良して、連中のフネのエンジンが出す特定のインフラトンエネルギーパターンを感知出来る様にしておいた」
「連中から奇襲を受けることは、ほぼなくなったって事ッスか?」
「あの海賊たちがインフラトン機関の出力設定を、ほぼ全く同じにしていたのが幸いだったよ。恐らく同じ整備士たちが調整していたんだろう」
成程、それなら確かに探知できる。
「わかったッス。それじゃ」
「ああ、ソレと中型レーザーの方も、“我々”科学班が改造を施しておいた。出力は前と比にならないくらい強力なモノとなったぞ?」
なんか若干“我々”が強調されているんだが、サナダさんケセイヤに【こんな事もあろうかと】を取られたのが、そんなに悔しかったのか?
「他にもフネの方の強化もやっておいた。多少費用はかかったが、問題は無いだろう」
「…ちなみに、お幾らぐらい?」
「3000Gくらいだ」
艦長に相談せずにか…普通なら怒るところだがさすがのユーリさんは格が違った!
いや、実のところ整備班たちの悪乗りを助長させてるので、科学班の暴走に口を挟むのが戸惑われるといいますか、まぁウチ全体の利益になれば問題ない。
「今回は良いッスけど、次からは報告してくださいよ?」
「ああ、解っている。ケセイヤなどに負けてられんからな」
若干会話がかみ合っていない気もするが、まぁこの人ならそれ程無茶はしないだろう。もともと3000Gは、科学班全体に回してた予算だし、足りない分は追加を入れれば良いからな。この程度の出費で、フネの性能がUPするなら安いモンだ。
「ま、頑張ってくださいッス」
「ああ、解った。任せてくれ」
真顔でそう言うサナダさんに、俺はちょっとだけ悪戯をしたくなった。
なので――――
「あ、もしかしたら近い内に、新しいフネに変わるかも知んないッスけどね」
「今なんて…艦長!?」
ふっはっはっはっはっ!さらばだアケチ君!
呆けた様な顔をしたサナダさんを見た俺は満足する。
そして、その場にサナダさんを放置して怪人笑いをしながら彼の前から走って消えた。ソレを見ていた一般クルーの目が痛かったが、ゆーりくんはきにしない。
……………………
………………
…………
さて、一日がんばって艦長の仕事を終えた。最近はアバリスが手伝ってくれるので終わるのが速いのう。とにかく航路に乗ったので、命令はいのちをだいじにに設定し、レーダーでの監視レベルを強化しろと指示を出したあと、俺はブリッジを後にした。
まぁ普通ならこの後は、メシ食って部屋戻って風呂入って寝るだけであるが、俺は違う。ふんふ~んと鼻歌を軽くやりながらブラブラとのんびり艦内を徘徊するのである。徘徊艦長とか、なんか響きがアレだが、例え特にやる事が無くても、ぶらぶらと散歩してクルーの様子を見るのも艦長のお仕事である!と言う風に、理論武装を施し、只単に遊んでいたりする。
今日も整備班の連中とメカ浪漫で熱い論議(鉄拳付き)をしたりと有意義であった。ちなみに俺のフネのアバリスが1000m以上ある戦艦であるのはご存知であろう。1000メートルというと軽く1km、当然ただ歩くだけでも大変広い。
その為、艦内では通路の殆どが稼働式の動く歩道みたくなっていたりする。未来少年コ○ン(古いなオイ)のイン○ストリアにある動く歩道と同じようなモンだ。もしくは宇宙戦艦○マトの通路かな?
この動く歩道、フネを隅々まで見て回る時に非常に便利である。やっぱね、自分の足で歩くとなると、総踏破距離がトンでも無い事になるんだわ。フネの中央には小さいけど列車みたいなのもあるといえば大変さが伝わるだろうか?
「ふ~む、今日はどこに行こうかな?」
また食堂にでも行ってチェルシーとお喋りでもするかなー? でもあんまし彼女のとこに入り浸ると、周囲の誤解がまたものすごい事になりそうだしなぁ。かと言って放置するわけにもいかないしなぁ。あの子一応義理の妹だしさ。
「おや艦長、道の真ん中で立ち止まってどうしましたかな?」
俺がこれからの行動に頭を抱えていると誰かに声をかけられた。
「ム?このどこか人を安心させる人生の貫禄を感じさせる声はトクガワ機関長ッスね!」
「安心させる声ですかな?まぁ長年に生きた年の功と言うヤツですわい」
見れば機関長のトクガワさんが、長距離移動用カートに乗ったまま、俺を見上げている。このトクガワさんはロウズで乗り込んだクルーの一人で、ブリッジクルー最年長である。ロウズではエンジンの生き字引と呼ばれ、凄いベテラン機関長として通っていた人だ。
何気にこのヒトには逸話が多く、曰く戦艦に乗っていたとか、星間戦争で英雄の乗るフネの機関長であったとか言う噂もある。何でそんなすごい人が、ウチのフネに乗っているか?単純にデラコンダの所為で乗れるフネがなくなったっていうのが主な理由だ。
それでこれほどの人材が手に入るとは、逆に今は亡きデラコンダに感謝の念をささげたいほどである。三秒で忘れるが。だが何よりも、このヒトの話は為になる事が多いので、他の乗組員からも信頼されている人だ。いるのといないのでは安心感がダンチだぜい。
「しかし本当に艦長は何故この区画に?この先には機関室しかありませんぞ?」
「いやー、やる事が無いのでフラフラしていただけッスよ」
機械技術の進歩の盲点ってヤツだ。
優秀なAI様のおかげで艦長がちょーヒマになる。
「まぁ、艦長がヒマなのはいい事ですわい」
「そうスかねぇ?」
「そうですとも、艦長がヒマと言う事は、艦内に異常が無いって事ですからな」
なるほど、一理ある。艦長の仕事は戦闘指揮もあるからな。
あと船内におけるゴタゴタの解決だとか、裁判官の真似ごとだとか色々と。
「ヒマでしたら、機関室でもご覧になりますかな?」
「(そう言えば機関室はまだ自分の目では見て無いね…)見学しても良いんスか?」
「構いませんとも、艦長はこのフネの責任者ですぞ?何を遠慮なさる事があるんですかな?」
そりゃそうだ。
「それじゃ、見学させてもらうッス!」
「わかりました。それでは参りましょうか?カートに乗って下さい」
俺はトクガワさんの隣に乗り、機関室に案内して貰う事にした。
……………………
………………
…………
「ココがフネの心臓部である機関室です」
「ココが…ッスか?」
カートに揺られ、しばらくして機関室にやって来た。
目の前に広がるのはオレンジ色の室内灯に照らされた、太いパイプラインと巨大なフライホイールがゴウンゴウン音を立てる強大なエンジン…。
等では無く―――――
「へぇー案外あっさりしたインテリアッスね?」
「艦長がどういったのを想像したかは解らんですが、大体機関室はこざっぱりしとるんですわ」
普通にモニターとコンソールが置いてある部屋だった。逆に言えば、それ以外なんもない。太いパイプだとか配管とか配線がある訳でもなく、オレンジ色の明かりがある訳でも無い。言われなければ、ココが機関室とは解らない様な部屋だった。
「もうちょっとこう、“フライホイール”的なモノを想像してたんスけどね」
「はっは、艦長は博識ですな。そういった部品をむき出しにしていたのは、30世代は前ですわい」
げ、そんなに前なのか?で、精錬されたのがコレって訳?
「現在の機関は殆どがモジュール化しておりますからな。無駄なスペースが殆ど省かれた所為で、そういったのは全部壁の向こう側ですわい」
そう言って、コンコンと壁を叩いて見せるトクガワ機関長。
「故障した場合はどうするんスか?」
「機関室専用のマイクロドロイドがおります。ソレらが機関室の整備点検、修理を行っとるんです。実質この部屋は、ソレらドロイドの監視や監督を行う部屋でもあります。もっとも、ブリッジの機関長席で操作可能ですがな」
ほへぇー、自動化の波がこんな所にまで…。そりゃそうだよな、現実世界のロケットだって、機関部には入れない訳だし。
「しかし、最新型のインフラトン・インヴァーダーは凄いですな」
「そうなんスか?」
機関長は、壁のメンテナンスパネルを外して、中を見ながらそう漏らす。
確かランキングが上がったから、ラッツィオで新しい機関部と変えたんだっけ?
「それはもう…この規模で同サイズのエンジンより、40%ほど出力が向上しとります」
「それはスゲェッスね」
わぁお、あのエンジンそんなに出力があったんだ。
入れ替える時全然説明見てなかったぞ。
「でも、そんな最新鋭のエンジンですら、己の手足のように機嫌をとって扱えるトクガワさんは凄いッスね」
「はは、長い事機関長を務めた年長者の勘ってヤツですわい。他の人間でも頑張れば出来るでしょうよ」
いやいや、ご謙遜を…。今の機関部員なら30年はやらんと無理だよ。
「それでも、そのレベルに到達するのが凄いんスよ。大抵はそこそこで満足しちゃうッスから」
「はは、そこまで褒められるのは、なんとも恥ずかしいものですなぁ」
「正当な評価を正当に褒めるのは決して悪い事じゃ無いッス」
「ふむ、一理ありますな」
コロコロとした笑みを湛えつつ、髭を撫でるトクガワさん。ああ、いいなぁ。コレだよコレ。長い年月を生きた人間だけが出せる悟りオーラ。こういうオーラ出せる人って、集団の中だと本当に貴重だわ。なんて言うかドシンとした安定感?ついつい喋りたくなっちゃう感じ。
お父さんというかおじいちゃんってゆうタイプかなぁ?
「どうかされましたかな?艦長」
「ほへ?……あ、いや何でもないッス」
あぶねぇ、少しばかりトリップしちまってたぜい☆
「そう言えば機関長は、何で機関室に来たんスか?
確かブリッジの機関長席でも、ココの操作って出来るッスよね?」
俺がそう聞くと、やわらかい笑みを浮かべながら、トクガワさんはコンソールに詰め寄った。でも、なんかその笑みは、少しだけ後悔の念が混じっているように見える。
「確かに、機関長席でも操作は可能ですじゃ。しかし、機関の調子を知る為には偶にこうして機関室に赴き、エンジンの音や振動に異常が無いか調べる必要もあるんですな。機械だよりだと思わぬ事態を招く事もあり得ますからな」
「…Oh」
「ワシはとあるフネの機関長をしておりました。当時のワシは、機関の調子を見るというのは、全部機械に任せておりました」
トクガワ機関長は、此方に背を向けながら昔話を語り始めた。やべぇ、ものすごく絵になってやがるとか考えつつ、俺は話を黙って聞く事にする。
「当時のワシは機械を信用しておったのです。そして信用するあまり慢心を招いたのか、自ら見て回る事を怠った。 その結果、ある日フネのエンジンが止まってしまう事件が起きました」
「へぇ、エンジンが止まって……え?」
驚いた拍子に思わず変な声がでちまった。
おいおい、ソレは怖いぞ?エンジンが止まるって事は宇宙を漂流するって事じゃないか。
「ワシは驚いた。自分が信用している機械が何故突然止まったのかと言う事に…。そして機関長席から自分が信用している機械達に指示を飛ばし、原因を突き止めようと頑張った。だが結局、原因が付きとめる事が出来ない。その内にフネの予備電源も落ち、完璧に漂流する事になった」
宇宙を漂流するなんて…トクガワさんマジで凄まじい経験をしていたんだな。
「その後は本当に地獄じゃった。薄くなる酸素、水も使えない。艦内の移動も満足に出来ない。最終的には電源が完璧に落ちる前に発信しておいた救難信号を受けた救助艇のお陰で、全員助かったから良かったモノの――――救助が来る2時間。ワシらは地獄を見た」
予備電源が落ちたら、オキシジェン・ジェネレーター(酸素生成機)が使えなくなる。そうなったら最後、待っている結末は窒息死…うわぁ怖。
「それからですな。機械の調子を自分の目で見る様になったのは。機械というモノを信用するのも信頼するのも大いに結構。だが忘れてはならんのは、己が確かめてもいないのを信頼信用する事は、愚か者のする事という事…老いぼれが経験した。ただそれだけの話ですわい」
「怖いッスね。漆黒の宇宙で、エンジン停止だなんて」
「大丈夫じゃ艦長。ワシが生きておる間、フネの機関が止まる事なんぞ無い。させませんとも」
「機関長」
なんか教訓になる話を聞いたような気がするぜ。シンミリするぜ。
「ほっほ、少しばかりしんみりしてしまいましたな?」
「いいや、教訓になったスよ。己から確かめるって事は大切なこと何スね?」
「はてさて、それは艦長次第ですかな」
ヤベぇ、ヤベぇよトクガワさん。あんたマジでなんか悟ってるんじゃね?
「そう言えばさっきの話でエンジンが止まった原因って、結局何だったんスか?」
「なに、非常に些細な事でしてな?そこにある配電盤と同じモノがショートしただけでしてな?自分で機関室の非常扉から中に入って見に来ればすぐに解ったような故障だったんですな。コレが」
「やっぱり日々の点検って大事ッスね」
「全く持ってその通りですわい。機械を使うのは人、なら人がちゃんとせねば話になりませんからな」
日ごろお世話になっているフネの点検はキチンと行うという教訓でした。
「さて、異常も無いのでワシはそろそろ戻りますかな。艦長はこの後どうなさる?」
「う~ん、そうッスねぇ~?チェルシーのところにでも行ってるッス」
「はは、仲が良いのは良き事ですな?」
「そりゃ自分は彼女の兄ッスから、仲いいのは当然ッス!」
「まぁ、馬には蹴られたくは無いので、なんにも言いませんわい」
おい、ソレはどういう意味ッスか?小一時間ほど問い詰め(ry
「それでは、失礼します」
「あ、ちょっ!トクガワ機関長!?」
ほっほと笑いながら機関室を出て行ってしまった。
ああ、またあらぬ誤解が艦内で発生しているのね。オイラ涙目。