天才少女リリカルたばね   作:凍結する人

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急にUA増えたと思ったら日刊載ってた!
ヒャア!がまんできねぇ(書き溜め放出)だ!


第十一話-A:空飛ぶ理由

 放課後。なのはは一人通学路を歩きながら、レイジングハートを利用した空戦シミュレートを行っていた。

 家に帰ってユーノを拾い、ジュエルシード探しを始めるまでの、もはや日課と化している訓練法である。

 リンカーコアを利用して自分の意識とレイジングハートのCPUを同期させ、そこに魔法による空戦訓練プログラムを展開する。要するに、擬似的な明晰夢の中で訓練を行うのである。

 通常、そんなことをすれば意識はそちらだけに向かって、歩くことすら出来ずに立ち止まってしまうはずなのだが。なのはの足は迷いなく、いつも歩いている道路をまっすぐ歩んでいる。赤信号に気づかず飛び出ることもない。

 それは、マルチタスクという思考法によるものだった。

 複数の思考行動・魔法処理を並列で行うというこのマルチタスク処理は、魔法の実践利用や高速化において欠かせない要素である。ユーノによってこれを教えられたなのはは、やはり驚くべき速さでそのコツを飲み込み、今や日常的に使えるまでに習熟していた。とはいえ完璧にマスターしたわけではなく、アリサやすずかなどの感の鋭い友人、そして魔導師でもないのに素で似たようなことを日常的に行っている束には、「心ここにあらず」な様子を見抜かれてしまっているようだったが。

 

「…………」

 

 無言でとぼとぼ、一人きりで歩くなのは。アリサもすずかも習い事があり、今日は束もなぜだか居ないので、自然、一人の歩き道である。

 その為、アリサにぼーっとしているとツッコまれなかったりして訓練に集中できるのは、ありがたいのだが。

 むしろ一人だからこそ、無闇にシミュレーションに没頭しているのかもしれなかった。

 

『なのは』

 

 そんななのはの脳内に、語りかける念話。

 しかしあまりにも集中しすぎているからか、男の子の声は空っぽの脳内に反響するように響くだけで、なのはの意識には届いていなかった。

 

『なーのーは!』

 

 より大声、そしてかつ少し余計に魔力を込めた念話によって、なのははようやく気づいた。

 

『あ、ゆ、ユーノ君』

『やっと気づいてくれた……集中するのはいいことだけど、やりすぎると後で頭痛とか来るから気をつけて』

『うん、分かった』

 

 訓練に集中しすぎて、いざ実際に戦うとき頭痛でダウンなんてことになったら洒落にならない。

 なのはは一旦訓練魔法を解除し、その分の意識を念話に向けつつ家路を急ぐことにした。

 

『ユーノ君、そっちはどう?』

『んー。美由希さんが帰ってきてる時は、一人で外に出れないかな。途中で気づかれちゃうんだ……』

『あー……お姉ちゃんユーノ君のこと、すごい気に入ってるから』

『一応こっそり隠れてはいるつもりだけど、それでも何故か見つかっちゃって……そういうことでなのは、今日もお迎えお願い』

『りょーかい!』

 

 高町家に居るときのユーノは、なのはが拾ったフェレットとして扱われている。だから飼い主であるなのは抜きに勝手に出てしまっては、脱走扱いになって大騒ぎになるのだ。

 それが理由で帰宅を急かすユーノのために、なのはは小走りで急ごうとして――ずきずき、と痛みだす四肢に気がついた。

 

『っ……』

『なのは?』

 

 筋肉痛である。

 痛みでの呻きを念話で流すことなど普通はそうそう無いことであるが、なのははまだその辺りのコントロールが出来ていないらしく、ユーノに聞かれてしまった。

 

『なんでもないよ、大丈夫』

『……ううん、なのは、最近無理しすぎなのかもしれないよ』

 

 ユーノの言葉は紛れもなくなのはを気遣うものであるだろう。しかし、なのははその好意を受け入れてかつ嬉しく思いながら、それでもやはり甘えずに、頑張ることを選択する。

 

『大丈夫。今までだって毎日休まず、ジュエルシード探してたでしょ?』

『それはそうだけど。その毎日の疲れが今、なのはの身体に溜まってるのかもしれない。束の探索データも最近は当てにならなくなって、もうずっと歩きっぱなしだし』

『しょうが無いよ、細かい所は魔法でしか調べられなくて、束ちゃんだって忙しいんだから。それに』

 

 自分の親友もきっと、いや、間違いなく何かを頑張っているのだから。

 そうでないと、彼女に合わせる顔がないし。そうしている自分を、彼女は望んでいる。

 それに、もう一つ。脳裏に浮かんでくるのは、いつも戦っている金色の髪の女の子。

 

『あの子と、また戦わなきゃいけないし』

『フェイトって子のことだね』

『うん。空を飛ぶのがすごく上手で、いつも敵わなくて……』

 

 フェイトと呼ばれている女の子。黒い斧を携えてなのはたちと戦う彼女は強い。

 少しは成長したといえども、まだまだ初心者のなのはから見れば、とてつもなく、と形容できるほど強い。

 彼女と戦うなのはは常に翻弄されて届かない。彼女の居る場所に届くほど、高く早く飛べないのだ。

 

『だから、少しでも強くなりたい。それから……』

『それから?』

『ちゃんと聞きたいんだ。どうしてジュエルシードを集めているのか』

 

 家の門を開いて、通学カバンを背中から降ろしながらなのはは語る。

 

『そうだね。僕たちと同じように何かしら理由がありそうだし……』

『うん。誰にも何にも、理由のない行動はない。束ちゃんもそう言ってるし』

 

 その途端、階段をひょこひょこと降りて駆けつけてきたユーノは、いつものように肩に乗ってきた。

 このまま晩御飯の時間までジュエルシードを探し続ける。それが二人の日常であった。

 

『それに……あの子の目』

『目?』

『綺麗なんだけど、でもどこか……とても寂しそうで』

 

 ユーノとの念話を続けながら、なのはの心象には初めて会った時や、戦いの最中で目線を交わした時のフェイトの顔が浮かんでくる。これもある種のマルチタスクなのかもしれない。

 その評定、どれも一つの色に染まっていた。強い意志を持っているけど、微かに悩みも秘めていて。物憂げで暗く、何かが濁って淀んでいる、寂しい寂しい灰の色。

 更にそれは、なのはの記憶に刻み込まれている、あの子の顔とも重なってくる。

 出会った時の、束の顔に。

 

『だから、私に出来ることが少しでもあるなら……助けてあげたいと思うの』

『え……?』

『いや、違うの! 別にフェイトちゃんにそのまま協力する訳じゃなくって!』

 

 きょとん、としているユーノの顔を見て、なのはは慌てて訂正した。

 

『話を聞きたい。あの子が何を考えているのか、何を悩んでいるのか分かりたい。瞳の奥にあるものを見つめたいというか……だから、私フェイトちゃんと戦う。戦うだけじゃなくて、それで事情を聞かせてもらう』

 

 それは、二年前のなのはと同じ決断である。

 あの時、なのはは束の瞳を見た。今は紅玉色に輝いている瞳だが、その時は腐り果てた林檎のように真っ黒で濁りきっていて、それを見たなのはは、もったいないな、と感じたのだ。

 

『説得、したいんだね』

『うん。それでね……凄い綺麗に空を飛ぶでしょ、フェイトちゃん。でも、あの赤い目はなんだかとても悲しそうで……それがとっても、残念だなって。もったいないなって』

 

 ああ、もったいない。そう感じた。

 二年前のあの時、束はなのはを情報としてしか知らなかったが、なのはは束のクラスメートとして、彼女を知っていた。

 天才少女。入学試験はぶっちぎりの満点で、毎日毎日授業などろくに聞かず何やら複雑な数式を相手にしている。たまに体育に出てくると、気だるげな表情だけどクラスの誰より俊敏で力持ち。

 そんな束を、周りは気味悪がっていたのだが、なのははそう思わず、むしろ――羨ましいなと思った。

 あれくらい強い子だったら、きっと……無力で弱い自分よりも、とてもとても凄いことが出来てしまうんだろうなと、憧れたのだ。

 だから、そんな女の子がどうしようもなく濁って、夢も希望もなく淀み果てていくことが我慢できなかった。

 貴方は凄いんだよ、と。

 なのはの周りの大人達がそうであるように、束だって、自分も誰かも喜ばせていけるような、明るく楽しいことがきっと出来るんだよと言ってあげたかった。

 頭脳も肉体も遥かに劣るなのはがそう言うのは、根拠もなくあやふやでいい加減な出任せなのかもしれないが。それでも、何も出来ずに腐り果てていくのを、見逃すのは嫌だったのだ。

 今の行動原理は、多分その時と一緒なのだろう。

 フェイトちゃんは凄いと思うけど、何かに迷っているようだから、それを晴らしたい。その為に事情を聞いて、話をする。

 なのは自身、全く変わっていないなとひしひし感じる。

 だが、そんな自分だったから、篠ノ之束という素晴らしい天才と友達になれて。そんな自分のままだから、友達でいてくれるのだ。

 そんななのはを、ユーノはこう表現する。

 

『なのは……君は、本当に……優しい優しいおせっかい焼き、なんだね』

『おせっかいかぁ』

『そうだよ。僕が一人で頑張ろうとしてたのに割り込んできたし。いや、そうしてくれないと不味かったから、本当はおせっかいなんて、言う権利も無いんだけどさ。他に言いようがなくて』

 

 おせっかい。ああ、自分はいつもそうなのだろう。

 束に話しかけたことだって、あの時の束からすれば余計なお世話で。ユーノを手伝おうとしたことも、もしフェイトさえ居なければ一般人が無理に割り込む危険な真似だったろうし。

 そして今も、フェイトという他人の事情に入り込もうとしている。

 それは一方的なワガママなのかもしれない。本当は何もせずに、全部忘れてごくごく普通の小学三年生として生きる方が、ずっと賢く頭のいい判断なのかもしれない。

 でも。私は飛びたい。戦いたい。

 思いを伝えるそのために。

 

「――それが私だ、高町なのはだ。文句あるか」

『え?』

『あ、ううん、なんでもない。束ちゃんの真似』

 

 何があろうと前を向いて自分の意志を貫く、天才のように。

 あの強い強い、とても届かない輝きに、少しでも近いていけるように――

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