天才少女リリカルたばね   作:凍結する人

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第十二話:掴むは夢と憧れと

 人の気配が消え、静まりかえったビル群を、青白く照らす宝石。それを巡って、魔法少女とそのお供たちは今日も衝突する。

 黒い防護服をまとった少女が金色の刃の鎌を振りかざして、白い防護服の少女へと突貫すれば、その直線状に割って入り妨害するのはのは緑色の魔力を身に宿した少年。一方白い服の少女は、傍らで機を伺っていた橙色の狼へ、牽制するように魔力弾を打ち込む。

 回避した狼は、黒い服の少女の側に合流し。次いで少年も、白い服の少女の側へ戻った。

 三人と一匹、共に僅かながら、息を乱している。すでに十数分ほど、激戦を繰り広げているのだ。

 魔導師の少年、ユーノが、白い服の少女、なのはの前に出て、敵の一人と一匹に問いかける。

 

「なんで君たちはジュエルシードを集める! アレは危険なものなんだ!」

「ごちゃごちゃうるさい! 邪魔を……するな!」

 

 返答としてもたらされたのは、狼からの罵声と突撃。

 回避のために散開する二人の内、ユーノに追いすがってきたのは狼のアルフ、そしてなのはを追撃するのは――黒い服の少女、フェイトであった。

 なのはは即座に射撃魔法を展開。物凄い速さで接近してくるフェイトに向けた杖先、その周囲に四つの桜色の塊を形成した。

 

《Divine Shooter》

「てぇぇぇいっ!」

 

 掛け声とともに打ち出されるそれらは、ただ直線的に発射されるシュート・バレットではない。戦う内に新しく習得した、誘導型の魔法弾である。

 故に、一度回避されても曲線的な挙動でフェイトの機動を妨害し、なのはへの接近を阻む。

 これまでの戦いでは近づかれっぱなしのやられっぱなしだったなのはが、知恵と戦術を振り絞り用意した牽制手段であった。

 だが、ここでフェイトは飛行コースをなのはへの一直線からずらして変える。すると、まだ誘導の甘い魔法弾は容易に交わされ続け、やがて魔力を失い大気中に掻き消えた。

 回避に専念されれば、こうもあっさり対処されてしまうのが、なのはの魔法の限界点であった。

 

《Photon lancer Get set》

 

 そして、反撃の魔法弾がなのはに襲い来る。

 こちらはなのはの誘導弾と違って直線的であり避けやすいが、その分弾速が早く威力も割合高いため、油断は出来ない。なのはは両足に展開している飛行魔法、ファイヤーフィンの翼を操作し回避するが、フェイトの槍弾は次から次へと放たれていく。

 一つ一つ丁寧に、大振りな動きでかわしていくなのは。しかしその間、得意の砲撃魔法のチャージも、先程放った誘導弾の射出準備も出来ていなかった。今のところノータイムで撃てるシュートバレットでは、フェイトの機動を掴みきれない。

 中距離の弾幕戦においても、依然なのははフェイトに届いていない。

 ここまで実戦をこなしてきて、未だに圧倒的な練度不足という現状の露呈。

 そして、この戦いは決して、一対一の戦いではないのだ。

 

「……来る!」

 

 なのははそう無意識につぶやくと、橙色の光を纏い吠えながら突っ込む狼の魔力反応を感じ、それが背中にぶつかる寸前で右に機動をずらし、回避した。

 

「ちっ、よくかわしたね……でも!」

 

 突進の速度を殺さぬまま、なのはの眼前に現れた狼は、己に内包した魔力を弾けさせ――耳だけにその名残を残し、逞しくも豊満な青年女性の姿へ変化する。

 そして、握りしめた右拳を振りかぶり、魔力を充満させて再び突撃を敢行した。

 間合いは近く、アルフの速度はかなり早い。回避は不可能であり、なのはは自分の前方に防護魔法、ラウンドシールドを展開して狼女の拳を受け止めた。

 

「フェイトの邪魔をするな!」

「邪魔したくはない! 話を聞きたいだけ!」

「ぬかせ! 優しくしてくれる人たちの所で、ぬくぬく育ってるようなガキんちょに何が分かる……!!」

 

 何かとてつもなく淀んだ、執念のようなものが滲み出ているアルフの叫び。それに呼応するかのように、彼女の右拳からあふれる魔力が、なのはの防御にヒビを入れていく。

 

「っ……!」

「このまま、ぶち抜くっ!」

 

 拳が桃色の膜を切り裂き、徐々に徐々にとその裂け目を広げながら迫ってくる。

 それを見て焦りながら、しかしなのははそのまま持ちこたえ続け、己の相方に一つ、念話を送った。

 返答は是。どうやら予定しているよりも早く準備を終えていたようだ。

 その幸運と、ユーノの努力に感謝しながら、あと少しで砕けてしまいそうな防御魔法を必死に保ちつつなのはは呼んだ。

 

「いいよ、ユーノ君!」

「よし! 任せて!」

 

 突然、アルフの周囲、四方八方から緑色の鎖が伸び、彼女の四肢を捕らえて縛った。

 

「な……っ、設置型のバインド!?」

「追い込んだと思っただろ? 追い込まれたのはそっちだ!」

 

 近くのビルの屋上で魔法陣を展開し、この複雑な束縛術式を制御しているユーノ。なのはは彼と協力し、戦闘の最初からこの状況を狙っていたのだ。

 未だ実力の及ばぬ二人が、せめて一矢届かせんと懸命に考えたコンビネーション・プレイである。

 

「流石ユーノ君!」

「なのは、今だ!」

 

 なのはは万一の妨害を考え、ユーノの元へと後退しながら砲撃魔法のチャージを終える。アルフは必死にバインドを外そうともがいているが、拘束魔法を得意とするユーノの術式は、簡単に外れることはなく。

 そして、拘束されている目標を狙うのならば、外すこともなく、そして防がれることもない。

 

《Divine》

「バスターっ!」

 

 まずは、使い魔を落とす。そうした後に、二対一でフェイトを相手取れば、いくら相手が上だとしてもやりようはある。

 そういう論理の元で組み上げられた、なのはとユーノの戦術、詰めの一手が桜色の砲撃となってアルフに降り注いだ。

 が、しかし。

 

《Defenser》

 

 寸前、金色の光の筋がアルフの前に飛び込んで。なのはの砲撃を、片手と防御魔法とで押さえ込んだ。

 

「フェイト!」

「大丈夫、これくらいならまだ防げる……!」

 

 魔力の波濤をかき分けるように立ちはだかるフェイトの魔力は、おそらくかなりの消耗を強いられていることだろう。なのはの全力砲撃には、それくらいの威力がある。

 だが、都合六、七秒ほど続いた照射時間が終わっても、フェイトは多少息を荒げるだけで怯まずに、デバイスである斧を構えていた。

 

「……強い、強いね。フェイトちゃんって、とっても強いんだね」

 

 なのははその有様に心を震わせ、敵でありながらある種の感嘆すら覚えた。

 だから、油断なく杖を構えたまま、彼女との対話を試みる。こんなに頑張っている女の子が、例えばジュエルシードを悪用して邪悪な願いを叶えるというような悪人には、どうしても見えなかった。

 

「目的があるなら、ぶつかり合ったり競い合うのは仕方ないかもしれない。でも、何も知らないままじゃ嫌なんだ」

「……」

「私がジュエルシードを集めているのは、ユーノ君の捜し物だから。私はそのお手伝いで……」

 

 だが、それはきっかけでしかないと、なのはは更に付け加える。

 

「今は、自分の意志でジュエルシードを集めてる。自分が暮らしてる町の人や、自分の周りの人たちに、危険が降りかかるのは嫌だから……それが、私の理由だよ」

 

 まっすぐに、目を見て、堂々と。

 父親から教わった、話をする時の作法を思い出しながら、なのはは語り、そして終えた。

 それを受けて、フェイトの黒雲のように濁った瞳の中で……パチリ、と何かが奔ったようだった。

 

「わた、しは……」

「言わなくていい、フェイト!」

 

 だが、フェイトの小さくか細い声を、アルフの叫びが遮る。

 

「ジュエルシードを持って帰るんだろ!? 必要なんだろ!? なら、言うな!」

「っ……アルフさん!」

「こんなアマちゃんの言うことなんか聞くんじゃない! あたしに構わず……ジュエルシードを確保するんだっ!」

 

 その時、なのはとユーノ、それからフェイトの耳目が一点に集中する。

 激闘の最中、ジュエルシードは放置されたまま、二人、そして一人と一匹の間に浮遊している。

 若干なのはとユーノ側に近い位置ではあるものの、フェイトの飛行速度は二人よりも段違いに早い。

 

「……っ!!」

「なのは!」

「分かってる!」

 

 縛られたままのアルフから離れて、ジュエルシードへ一直線に突っ込むフェイト。それからコンマ数秒ほど遅れてなのはも飛んで向かう。

 青色の誘蛾灯、そこに向かってまっすぐに飛ぶ、白と黒、二匹の蝶。

 互いに魔杖を振りかざし、絶対に譲らないという強い気持ちを魔力に換えて。

 その杖先が、宝石を挟んで交わった、その時。

 

 キィィィィィィィィンンッ!!!!

 

「……っ!?」

「ぁ……!?」

 

 青から白に、眩く変わりゆく光が二人を包み込み、その全身を押し出して宝石から弾き飛ばした。

 なのはの体は空中を転がり地面に激突しかけたが、ビルの屋上から降りてきたユーノにキャッチされる。一方フェイトも、ユーノが術式を解除したことにより自由となったアルフに受け止められ、体制を立て直した。

 

「これは……あの子の魔力となのはの魔力の衝突? いや、それだけじゃない……まさか!」

 

 痛みに耐えながら目を開いたなのはの目線の先で、ユーノが冷や汗を流している。

 

「ユーノ君、何があったの!?」

「ジュエルシードの暴走……不味いことになった……」

「ねえ、ユーノ君!?」

「次元震……! でもまだ小規模だ、今止めれば間に合う。僕が止めなきゃ……!!」

 

 なのはを地面に横たわらせて、ユーノはジュエルシードへとひた走る。追いすがろうとしたなのははしかし、自分の左手に持つ愛杖の姿を見て愕然とした。

 どれだけ魔力を注ぎ込もうと破損しなかった頑丈なデバイス、レイジングハートの全体に無数のヒビが刻まれている。

 これでは、あのジュエルシードに封印魔法を打ち込むことは出来ない。ならば、直接手で触れて、封印するしかないのだが。

 

「危ないよ、ユーノ君っ!」

 

 それがどう考えても危険な行為であるということは、なのはにも分かっていた。

 だが、ユーノは止まらず空を飛ぶ。

 そして更に遠くを見れば、フェイトも傷ついたバルディッシュを納め、ジュエルシードを直接その手に掴まんと駆け抜けている。

 ならば、自分も行かなければ。何が出来るかは分からないが、とにかく。

 

 そして、ダメージを受けた体に活を入れ、立ち上がってよろよろと走り出そうとした、その時――

 

「いいいぃぃぃぃぃぃぃいやっはあああああああああああ!」

 

 ジェットパックを装着しながら、まっすぐジュエルシードに向けて垂直落下する束の姿が、なのはの瞳に映った。

 四者揃って唖然としながら、くるくるくると何回も前宙して勢いを殺しつつ垂直降下しアスファルトの地面に降り立つうさみみ少女の姿を眺めていた。

 

「た、束……!?」

 

 その中で、いち早く再起動したのはユーノだった。右手を近づけ追い払おうとする。一体何を企んでいるのか知らないが、とにかく魔法の使えない少女がジュエルシードの側にいるのは危険である。

 それから数瞬程遅れてフェイトも正気を取り戻したようであり、同じく彼女の行く道を遮らんとするが。

 

「邪魔だよ君たち、どいて」

 

 束はそれを意にもせず、前へと歩み、今や不安定になりかけて鼓動し、魔力の波動を周囲に放つ青白い宝石へと身を踊らせた。

 

「束ッ!」

「なあに、大丈夫大丈夫。助手は万が一のために封印魔法を準備しといて?」

「何をする気なんだ!?」

 

 ユーノのその問いに束は答えず、ただ口元をひたすらに歪ませ、勝ち気な瞳で目の前の宝石を睨みつける。そして、右腕に嵌め込んでいる白い金属の腕輪に手を当て、目を閉じて。

 

「……起動。右腕部限定展開」

 

 と唱え、右腕を真横に突き出した。すると腕輪から光が広がって、束の右腕を包み込み、おぼろげな像を形作る。それはまるで、肘から下の全体を包むような装甲。そして、猛禽を思わせるような形の爪部を持つ大きな手のようであり――

 事実、そう形成された。

 光が実体化して質量を持ち、鉄と機械で構成された無骨な腕部となったのだ。

 

「な……?!」

 

 ユーノが驚く、その理由はなのはにも理解できた。同じなのだ。今なのはがもって、握りしめているデバイスや、身に纏っている防護服。その形成法と全く、同じ風に見えたのだ。

 束は魔力を持っていないはずなのに。見れば、自分たちと同じくフェイトとアルフも驚いてその場から動けないようだった。

 宝石を睨み続けていた束が、ちら、とユーノへ振り向けばその驚愕に気づいたようで、呵呵と嘲笑いながら説明を始める。

 

「……あぁ、こいつは魔法じゃないよ。まぁ、デバイスやバリアジャケットの構築メカニズムを応用して、物質を量子格納したのをコアメモリに保存して再構成する。格納と保存まではうまくいってたんだけど、如何せん再構成が難儀でね。そこに魔力素を利用した物質構築法でしょ? ぴったんこだったよ、ホント」

 

 なのはには何がなんだか分からぬ長広舌であったが、ユーノは少しながら理解できたらしく、驚き顔の目をさらに見開き、口をぽかんと開けている。どうもまた、相当に常識外れなことをやらかしているらしい。

 

「さて、という訳で」

 

 束はそんなユーノを一瞥するだけで、再び青い宝石へと向かい合い。

 鋼鉄の右腕部を前に伸ばし、機械の五指を思い切り開いて――ジュエルシードをその手に握った。

 

 瞬間、魔力の暴風が吹き荒れる。なのはとフェイトがデバイスをぶつけ合った時と同じか。いや、更に強く、激しい光と風の暴虐が、束の周囲を舞い包んでいる。

 ユーノとフェイト、どちらも吹き飛ばされかけながら必死に立っている。束本人も風に煽られ僅かに揺らいだが、しかしたたらを踏んでしっかりと持ちこたえていた。

 

「束ちゃんっ!」

 

 当然、なのはは走り出す。身体が軋むのなど関係なしに。友人のあの状態が危険と隣合わせであることなど、考えるまでもなく理解できるのだ。

 だがしかし、ジュエルシードが発する魔力は、暴風どころか超絶的な圧力となって、なのはの前進を阻み出す。見ると、ユーノもフェイトもその熱と圧に耐えきれず、束とジュエルシードから離れてしまっていた。

 

「束……君は!」

 

 信じられない、という声色でユーノが絶叫する。

 

「君は何をしているんだ! そんなことをしたら、次元震が起きる! 小規模でも辺り一帯が消し飛ぶよ!?」

「なあに、大丈夫、すぐ収めるから」

「何を根拠にそんなこと!」

「こいつのメカニズムはもう知ってるんだよ。なのちゃんが手に入れてくれたものと、後は――自前で手に入れたあの(・・)一個を参考にしてね」

 

 そう言って、束はフェイトの方を振り向く。彼女は――それが何か、見当が付いているようで――なのはたちと同じように、驚き立ちすくんでいた。

 

「知ってるって……!」

「膨大な魔力を願望実現の手段にするというコンセプトはさほど間違っていなかった。でも問題は、こいつを作った世界に優秀な魔導技術者が存在しなかったこと。プログラムが欠陥品どころの問題じゃない。いい加減であやふやで、未完成で。こんなんで世に出した奴らの正気を疑うよ」

 

 その時、なのはがちらとだけ覗けた、束の表情は。

 いつもの浮ついた笑顔のまま、微かな怒りで眉を潜ませているように見えた。

 

「だから、何もせずとも近くの人間や生物の願望に反応して思念体になる。動物が拾えば、その願望に反応してそいつを強化したり、大きくさせたりする。じゃあ人間が使えばどうなる? 動物よりも大きい脳味噌で考える強い願望に反応して、危険に暴走してしまう」

「だ、だから封印しなきゃいけないんじゃないか! それを……どうして、敢えて発動させるような真似を!?」

「さて、何故人間が手にしたら暴走してしまうのか? それは『手綱を握れていない』からなんだ。思念体として弱く発現させるでもなし。しかしてプログラムを制御し魔力の手綱を握れるほど強くもない。そんな中途半端さが、願いなど無視した暴走を引き出してしまう」

 

 で。あるならば。

 

「……もっと強い、常人より遥かに強く純粋で、しかも雑念なしの単一の意思を打ち込んだなら……どうなると思う?」

「な……そ、そんなことが出来るわけ」

「出来るッ!!」

 

 ユーノの言葉を、束が叫んで否定した。

 

「私は天才だ! ぜっったいに出来る! 出来る! そう信じる! 信じて信じて信じ抜く、それがジュエルシードの操縦法さ!」

 

 そこで、なのはは漸く気づいた。

 篠ノ之束は、自分が天才であると信じている。そして、そんな自分に不可能など何もないという事も固く、固く固く信じきっている。

 そんな束の意思はきっと、ジュエルシードの暴走を許してしまう常人のそれよりも澄み切っていて純粋で。不屈で堅固で頑迷で、まるで狂っているような。いや、きっと狂っている。

 ああ、常人から見たら、篠ノ之束は狂いきっているのだ。

 自分は何でも出来る、全てを知っている、万象全て己の手の中。そんな妄想はそれこそ小学校低学年くらいで切り捨てられる幼い想いだ。

 だが。だがそれでも、彼女は信じる。信じ抜く、そのずば抜けた頭脳と神様に整えられたかのような身体の全てを使って、自分は天才であると証明しようとする。

 だからこそ、篠ノ之束は挫けない。例えどんなことがあったとしても、どれほど打ちのめされたとしても、自分は天才であるからきっと出来る、夢を叶えられると信じて信じて邁進する。

 正に不屈の心(レイジング・ハート)

 だから、その願いは他の何より熱く激しく、青い宝石に届き――

 

621130533053306b98583046(我ここに願う)

 

 束の口から、歪みきって聞き取れぬ奇妙な祝詞が流れたその瞬間。

 なのはの目が映し出す世界、その像がボヤケて、ぐらりと揺れた。

 身体に揺れは感じない。しかし、世界が揺れ動いている。

 莫大、などという言葉では説明しきれないほどに凝縮し密集した魔力が、結界内の空間そのものを不安定にしているのだ。

 

「これは……僕達のもの(ミッドチルダ)とは別の魔法式……!?」

4e8c53414e00306e805677f330883001 (二十一の聖石よ、)5931308f308c305765e74e16754c306e6b2072473001 (失われし旧世界の欠片、)305d306e529b3092985573fe305b305730813088(その力を顕現せしめよ)

 

 もはや、誰にも手出しはできない。フェイトもアルフもユーノですらも、呆然としながら見守るだけだ。

 

「次元震……いや、違う……あんな無秩序で破壊的な波動じゃない。制御されている……まさか、そんな……」

「そう、これがジュエルシードの正常な発動形態。おおよそ魔力というエネルギーを使って叶えられる願いなら、何でも叶えられる奇跡の宝石。まぁ、出来損ないではあったけど……そこはそれ、束さんの天才的頭脳でプログラムをフォローしつつ、強靭な意思の力でこう……ねっ!」

 

 瞬間。束の周囲に渦巻く魔力が、全て雲散霧消した。同時に光輝く、束の全身。リンカーコアを持ち魔力を感じることが出来るなのはには、束の肌を境界線にしてまるで反転したかのように、外の空間から束の中へ魔力が移っていると把握できた。

 そして、ジュエルシードからも更に魔力が放たれる。今度は外側には逃げず、握った手から全て束へと注ぎ込まれているようで――

 

305d306e70ba306b6211306f3001(その為に我は、) 771f 646f306b30573066 (真摯にして)7d147c8b306a308b9858 30443092(純粋なる願いを)30533053306b636730523093(ここに捧げん)

 

 同時に、束の右腕部にある鋼鉄の篭手がバラバラに砕けた。

 束は剥き出しになった素手で尚ジュエルシードを掴むがしかし、膨大な魔力の波が、束の身体を内側から傷つけているのか。

 右腕の肌に赤い亀裂が幾重にも走り、鮮血が吹き出した。

 

「ぐ、あぁああっ!!」

 

 苦悶の声。恐らく『分解』まで使って、必死に魔力を制御しているのだろう。切り刻まれた下腕部の表皮から、流れ出す血は、魔力の高温によって気化していくのか、赤黒い霧となって漂う。

 なのはには、何も出来なかった。それがただただ、悔しかった。

 そして、傷つきながらも真っ直ぐに、ジュエルシードへ向かう束の姿を――美しい、とも感じた。

 

「束っ!!」

「束ちゃん!」

 

 二人の叫びは、どうにか束の耳朶には届いたようで。束は両者に、にこ、と儚げな笑みを返してから、自分の腕を切り刻む青い宝石へ、最後の思念を叫び送った。

 

「さあ、ジュエルシード! お前が本当に、願いを叶える宝石だと言うならば! この束さんの! 熱い熱い想いを受け取れッ! これが私の想いだ! 私は――天才になるッ!! 遍く全てに『翼』を授ける! そのために――!!」

 

 束の叫びに答えて、その手の中にある宝石が、どくん、と鳴動した。

 それで、全てが終わった。先程まで荒れ狂うほどに放出されていた魔力はぴたりと止まって、束の肉体を破裂させてしまうように見えた大魔力も、幻であったかのように薄れていた。

 

「………ぅっ」

 

 ばたん、と生身の倒れる音。束だ。

 なのははすぐさま駆け寄って座り、仰向けに倒れた彼女の頭を膝に乗っけた。

 

「束ちゃんっ! 束ちゃんっ!」

「ぁ……なの、ちゃん……ぅっ、ぐぅぅ」

 

 なのはの顔を見た束は、安堵したように微笑み、その直後に頭を抑えて苦しみだした。鼻血が吹き出ている。

 遅れてユーノも束に近づき、ボロボロの右腕に治療魔法を掛けながら、ひきつった声で叫ぶ。

 

「束……!! なんて無茶を……!」

「だい、じょーぶ……成功したから……予測した数式(ジュエルシードの世界の魔法式)もぴったんこ、ばっちりかっきり大成功……」

「何が成功なんだ! そんなに傷ついて!」

 

 その問いに、束はニンマリ笑みを浮かべて。

 

「思いつくんだよ……ついさっきまで、考えも出来なかったアイデアが、いくつもいくつも……」

「え……?」

「魔力での頭脳活性化……いいねぇ、最高の気分だ。あぁぁ、そうだよ。そうすればいいんだ。分かる。道筋が浮かんでくる。あぁ、こうしちゃ、いられないなぁ。ねえ助手、私をラボに運んでよ。早速形にしなきゃだよ。頑張らなきゃね。あぁぁ、そう、そうだよ。今は自分のためだけじゃないんだ。あの無力で無能な二人のためにも。ふふん、いいねぇ、おまけ程度ではあるけど、ちょっぴり嬉しさ増強だよ……」

 

「だめぇぇっ!!」

 

 なのはは泣き叫んだ。泣き叫んで、大粒の涙を束の顔面に落としながら、金切り声で喚いた。

 

「どうしてそんな無茶するのっ!? 何も知らないし、理解できないけど、でも分かるよっ! 一歩間違えてたら、束ちゃん大変なことに――!」

「泣か、ないでよ、失敗しても死にはしなかったんだから。最悪……まぁ、全治数ヶ月程度だし。私がダメでも、助手とほら、今逃げてった金髪ロリが」

「そういうことじゃ、ないっ!!」

 

 既に崩れ落ちつつ有る結界の中へ、なのはの悲痛な叫びが響く。

 

「どうして!? どうしてそんなになるまでするの!? 痛いんでしょ!? 辛いんでしょ!? 私は嫌だよ、傷ついてる束ちゃんを……友達を見るのなんて! だから、教えて!? どうしてそんなに……!!」

「なのちゃん」

 

 束の答えは、なのはへの呼びかけにあらず。それが、答えそのものだった。

 

「え……」

「なのちゃんが居るから。なのちゃんに近づきたいから。なのちゃんみたいになりたいから。だから私は――天才になりたい、のさ――」

 

 その、呻きに似た声を絞り出したのを最後に、なのはの腕の中で、束は目を閉じ脱力した。




束「厨二詠唱、はじめました」

というわけで如何でしたでしょうか、オリジナル詠唱。
本当はどこかの神話とか参考にしようと思ったんですが、参考書的なものが見つからんのでオリジナルに。
次回は2017年06月09日(金) 18:00投稿です。
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