再び意識が戻った時、束はラボに居て、かつてユーノを拘束監禁して解析していたベッドの上に寝ていた。
「束ちゃん!」
真っ先に聞こえたのは、悲痛に満ちた友達の声。仰向けの束を上から見つめながら、真っ赤になった瞳からぽろりぽろりと涙を流している。
そのまま周囲を見渡せば、地面に座ってぐったりと眠りについている助手の姿も見えた。どうやら限界近くまで治療魔法を掛けてくれたようで、ボロボロに傷ついた右腕の傷が既に塞がれていた。
現状を確認し終えた束は、なのはに向かって応答しようとするが。
脳内へ走る知識とひらめきの電流に呑まれ、何も喋れずにいた。
シールドエネルギーシステム。絶対防御。ハイパー・センサー。
本来この世界の技術レベルでは百年以上待たねば実現不可能であるそれらの理論と具体的な実現法。その全てが、束の脳髄に焼き付けられているのだ。
ジュエルシードを利用した、身体、とりわけ脳髄の一時的な活性化。それにより自分の限界以上の知力と発想を引き出して、その全てを脳に記録させる。そんな束の作戦は、見事に成功した。
これならば、今作っているあれをすぐにでも完成させられる。37%を一気に100%へ出来る。
束は賭けに勝ったのだ。
だがその代償は、中々に大きいようだった。
まず、右手の大怪我。事前の計算通り、ユーノの治療魔法で粗方傷口は塞がれているようだが、少し指を動かしただけでずきずき、と痛みが走る。暫くは養生する必要があるだろう。
それから、身体全体に魔力を流した反動が来ている。節々に関節痛があって、体力がほぼ無くなっているのか起きることすら気だるい。肝心要の頭も、こめかみが疼き、頭を鉄の輪で締め付けられているような感覚がある。集中しなければ、意識を失ってしまうくらいだ。
だが、そんな肉体的損傷よりも、何よりも。
束は、なのはを泣かせてしまった。
覚悟の上ではあったのだ。例え成功したとしても肉体的ダメージは半端でないと分かっていて、傷つく束の姿を見たら、なのははきっと悲しむだろうと、予想は出来た。
だが、事実その通りになってみると。これがどうにも見ていて辛い。自分の心まで悲しんできてしまうのだった。
「なの、ちゃん……」
「束ちゃん! 良かった、目が覚めて……」
「ラボまで、運んでくれたんだね、ありがとう」
口腔まで気だるいのを動かして、やっとのことで話した束の前で、なのはは再び涙を流していた。
「本当に、無事でよかったよ……束ちゃんに何かあったら、わたし……」
そうしているなのはは本当に悲しそうで、そうさせてしまった自分への自責の念なんてものも生まれてしまうが。
それを覆い隠し、束はあえて皮肉めいた笑みを浮かべた。
「なんだいなのちゃん。別に……死んだわけじゃないんだよ」
「分かってるよ! でもきれいな腕がめちゃめちゃになって、血が出て……そんなの見て心配にならないわけ、ないよ!」
それはそうだ。束だって、なのはが今の自分と同じくらいにダメージを受けていたら心配になって何も手に付かない。友達というのはそういうものだ。
だが、自分自身が無茶をする時、それを友達がどう思うかというのは中々考えつかないものらしい。いや、考えた所で軽く無視してしまう、というべきか。
不思議なものだと、束は慨嘆した。友達って、まだまだ全然奥が深い。
「……とにかく、ありがとう、なのちゃん。だから泣かないで。束さんはこんなの、全然へいきだから」
「そんなの、信じられないよ……どう見たって無茶だよ、そんなのしないでよ」
束の軽口を聞いたなのはが、憮然とした顔をして首を横に振る。
その様子がなんとも可愛らしく思えてしまって、くすっ、と笑った束は更に言い返す。
「無茶はお互い様じゃんか」
「……?」
「なのちゃんだって頑張り過ぎだよ。毎日毎日ジュエルシード集めしながら魔法の特訓なんて」
なのはの身体が毎日の捜索・特訓・そしてフェイトとの戦闘で疲れ果てていることを束は知っていた。そして、そのことをおくびにも出さず毎日ユーノとともに夜遅くまで外出し、朝は早起きして鍛えているなのはのことを、何よりも尊く輝かしいとまでに思う。
「無茶? 違うよ、そんなの全然」
「事情を知らないあの凡人二人にまで気づかれてたよ? それで無茶じゃないなんて、よくも言えたものだ」
「で、でもっ……」
頑張って言い返そうとして。でも言い争う相手くらいの語彙を持たないから答えに詰まって悩むなのは。ああ、何と愛おしいものであるか。例えどう言われても、自分が頑張ることは止めないのだろう。
だから束は、なのはを責めるのを止めて、少し切り口を変えてみることにした。
「ねえ、なんで? どうしてそんなに頑張るの? なのちゃんがそんなに頑張らなくてもいいんだよ?」
「え!? 束ちゃん、そんなことはない……」
「街の平和を守るっていうなら、あの金髪もこっちに迷惑かけないように頑張るだろうし。今回起こった極大魔力の発現は、恐らく次元の遠くでも確認できて、そしたら例の組織だって動き出す」
例の組織。ユーノからの事情聴取で聞いたその組織が彼の言葉通りの規模を持つならば、今回の異変を探知して動き出していても良い頃だろう。
そして向こうは組織なのだ。こちらに到着すればジュエルシードに関する事件として捜査を始め、必然的に音頭を握ることとなる。
その時、なのはは間違いなく彼らに行動を差止められる。一民間人として日常に戻れとか言われるだろう。彼らにとって、なのはは高い魔力の持ち主ではあるものの、あくまで管理外世界の民間人であるのだから。
だが、それでもなのはは止めないだろう。関わり合うなとどんなに言われても、レイジングハートを片手に飛び出してしまうはずだ。
でも、その理由が、束には皆目分からない。
「つまり、なのちゃんがそこまで頑張る必要はないんだよ。ただ街が危ない時に、魔法を使うだけでいい。それ以上に頑張るのは、どうしてかな?」
「それは……あの、黒い服の女の子。フェイトちゃんの事情を聞きたいからで」
「んん? そうかな?」
なのはの反論は、確かになのはらしいものであったが、しかし束はそれを聞いても納得できなかった。その裏の裏に何かがあるような気がした。
生まれて初めて、自分のためと嘯いて、他人のために身体を張った、今の篠ノ之束のように。
「ねえ、本当に、それだけかな?」
「それだけ。それで十分だよ、頑張る理由には」
「本当かなー? なのちゃん。助手は寝てるし、私しか聞いてないんだよ。本当のこと、話してよ」
なのはが口籠る。肩をすくめ、椅子に座って膝に置いている手をぎゅっと握りしめている。
「……」
「言えないの?」
「だっ、て……」
「束さんの前だから?」
束が語ったのは、単なる思いつきであったが。それはなのはの何処か芯のようなものを突いたらしく、絶句して震える瞳で束を見つめていた。
「……」
「もしかして、本当は戦いなんて怖くて、友達に内緒で頑張るのも辛いし寂しくて。でも束さんの前だからかっこつけてるとか?」
「違うよ! 今まで言ったことは、全部本当、心からの気持ち! でも……」
「でも?」
「……もう一つだけ、理由があって……それは……」
迷うなのはを、束はベッドに寝ながら只見ているだけに留める。無理に聞こうとはしない。それでは意味が無いのではないかと考えたからだ。
ただし一言だけ、軽くドアを叩くように語った。
「なのちゃん。束さんは、何があっても、どうなってもなのちゃんの友達でいるよ。そのつもりだから」
それが、なのはの心を開いたようだった。
「私……束ちゃんと友達でありたいから」
一瞬、束はジュエルシードで得た技術も知識も全部棚に上げて、なのはの言葉を処理しようとしたが、出来なかった。
友達でありたいから? だから無茶をする?
どうして?
束さんはなのちゃんと友達なのに。 それは何がどうなろうと、地球が砕けようが宇宙が滅びようが絶対に変わることのない完全無欠の真実であるというのに――?
呆然とする束の表情は、しかしなのはの瞳には映っていないようだった。
「束ちゃん、あの時言ってたよね。このつまらない世界を面白くしてくれるの? って」
「あの出会いの時だね。うん、万象一字一句残さず記憶しているよ」
「で、私も、探すの手伝うって言ったよね?」
「確かにそうだ」
「……それだよ、私が頑張る理由」
絞り出すように喋るなのはの姿は、まるで神に己の罪を懺悔する聖職者のようだった。
「束ちゃんは、私がいるから世界をつまらないって思わない。面白いのかどうかは分からないけどね。で、それは私が私だから。とてもおせっかいで、一生懸命で、誰かと分かり合おうとしている……あの時束ちゃんに見せた私は、それでしょ?」
「……」
束は何も言わず、ただなのはの言葉に首を振るだけだ。
だって、事実そうなのだ。そういうなのはを好ましいと思い、美しいと感じる心は確かにあるのだ。
「だから……私は束ちゃんと友達になれた。頭が良くて、それだけじゃなくてとても頑張りやさんで、ちょっとひねくれてるけど中身はすごく暖かくて優しい。そんな子が、私に頑張れって言ってくれる。背中を押してくれる。だから、私は頑張るの」
「なのちゃん、それって」
「うん。だってそうしないと……束ちゃん、私と友達で
束は愕然とした。
そうか、そういうことだったのか。
なのはにとって、篠ノ之束が高町なのはと友達でいる理由とは、高町なのはが誰かのために頑張るお節介焼きの女の子であるからで。そうでないなのはに意味など無いと。
そう思っているのか。
「私は束ちゃんと友達でいたい。遠い遠い、眩しく光って、とても届かない星を前に、届くなんて考えられないけど。せめて胸を張れる自分でいたい。だから私は魔法少女を頑張るの。痛いのもつらいのも、その為ならなんだって――」
「……なのちゃん……!」
束は笑っていた。 まるで一流の喜劇を鑑賞した時のように馬鹿馬鹿しく、しかし心から感動して笑っていた。
ああ、これを笑わずにいられようか? 寝ながら腹を抱え、無様に歪んでしまう顔を抑えて隠す。
それでも奥底から止めどとなく湧き出てくる笑いを抑えかねない。ああ、面白い、そして実に嬉しい。
この嬉しさはそう、あれだ。分からないものが分かった時のものだ。
ちょっと前にもそれを感じた。今の私には思いつけないはずの技術をジュエルシードの力によって発想した時の喜び。自分の望むものを手に入れて、野心と欲望を満たせる時の喜び。
――だが、そんなもの、今の歓喜を前にしては、塵も同じだ。
「束ちゃん……!?」
「ね、ねえ、なのちゃん。私が気絶する前に、何を言ったか、覚えてる?」
突然笑いだした束を見て呆然としたなのはが問いかけると、束はますます愛しくなった友へ己の気持ちを話した。
「何って――」
「夢中だったし、必死だったから覚えてないよね。でも私は覚えてる……なのちゃんがいるから。なのちゃんに近づきたいから。なのちゃんみたいになりたいから天才になると、そう言った。これがどういうことか、分かる?」
「そんなの……わかんないよ」
「じゃあ、もう一つ付け加えてみようか。私が天才になる理由は……
その宣言を聞いたなのはは、驚きすぎてもはや言葉も紡げないのか、口をぱく、ぱくと動かしていた。
「だって、なのちゃんみたいな素晴らしい、天使みたいな女の子に。私の予想なんてすぐ飛び抜けちゃう夢の中にいるような魔法少女に。私は到底及ばないから。だって私は、やること為すこといちいち俗っぽくて全然素直になれない、ただ頭が良いだけの、馬鹿で愚かな小娘なんだよ」
「違う! 束ちゃんは天才だよ!? 私なんて全然」
「ちがーう! なのちゃんは天使だ! 私なんて全然!……ま、ということなのさ」
あはは、と明るい笑い声が、しんと静まるラボの中に響いた。
「だ、だって、だってだって!」
「ストップ。なのちゃんちょっと落ち着こう。要するに、互いに自分を過小評価してるか、互いに互いを過大評価しているか。そのどっちもあるかもしれないけど。もっと単純に言えば」
――私たち、互いのことが好きすぎるんだよ。好きすぎて、自分を嫌いになっちゃってる。
「え……」
「あの日あの時、私はなのちゃんを綺麗だと思った。でもなのちゃんの方は、私の事を良くは感じてないはずだと思った。だってそうでしょ? いきなりキレて、首根っこ掴んで苦しめて。そういう子を好きになんてなれないのは当然だ」
「束ちゃん、何を……!」
「きっとお情けで付き合ってくれてるんだ。言うならば、あの二人との付き合いこそが本当の友情ってものだよ。でも私はそうじゃない。そうなる資格自分にないって思って、それをいつまでも引きずってた。本当の友達同士だって確かに信じてたけど、根っこにはそういうのがあって、だから色々引きずり回したりしちゃってた……のさ」
それは、束自身の弱い心。天才にはあるまじき、自虐と嫉妬心。
なのはと知り合えた嬉しさの中に紛れて生まれた、生意気で自意識過剰で愚かな自分への劣等感。それを二年間、気づかぬままに引き摺っていたと束は気づいたのだ。
「なに言ってるの、束ちゃん!?」
それを聞いてぽかん、と沈黙していたなのはが、慌てて言い返す。
「それは違うよ、私の方こそ……いきなりつっかかって偉そうなことばかり言ってるくせに、答えは分からないから一緒に探そうだなんて……後で思い返したら、私すっごく馬鹿なこと言ってるから……」
「それで?」
「連れて行ってあげるって言ったけど、その時の私には出来なくて、だからいつか、きっといつか連れてくだなんて……そんなの、何も出来ませんってことを隠す言い訳だよ。ただの嘘だよ。でも束ちゃんは、そんな私を受け入れてくれた。私の未来に期待してくれた。だから私、束ちゃんがこの世界を面白いと、私を面白いと思ってくれるためなら、なんだってやろうと思ってるんだよ」
束は再び、腹を抱えて笑いだした。
「ふふっ、ふふふふっ」
「な、何がおかしいの!?」
本心をぶちまけたのを笑われて、流石にムッと来たのか大声で問いただすなのはへ、束は核心を告げた。
「似た者同士だね、私たち。互いに相手が好きだから、自分のことを卑下しちゃう」
「あ……」
それでようやく、なのはも気づいたようだった。
そう、なのはは束が大好きで、束もなのはが大好きだ。
それ故に。相手を高い高いもの、自分の天に輝く星と、憧れであると見ているせいで。
自分のことを嫌いになってしまう。大好きな友達に並び立てていないと思い込み、勝手に自分を追い込んでしまう。
だから無茶をするし、だから過剰にスキンシップを取ろうとする。
不安だから。目を離したらどこかへ行ってしまうかもしれないと思えるから。
「……でも、それはね。相手のことを真に信じていないということ、なのかもしれないと思ってさ」
「どういうこと……?」
「私もなのちゃんも、互いに好きだと言い合ってたよね? でも、ひょっとすると嫌いなのかもしれないと疑っちゃう。その理由を相手でなく自分に求める。だから自分を嫌いになる、とそういうことさ」
「……でも」
「ああ、今は分かってるよ。私、なのちゃんに本当の本気で好かれてるし愛されてる。ここまで運んでもらって、泣きながら心配してもらって、それでようやく分かるんだから私もヤキが回ってるね。いや、人の本心なんてものは、そこまでのことをしないと総じて理解できないのかな……?」
でも、と束は付け加え、ベッドから上体を起こして立ち上がり。
椅子に座っていたなのはへ屈み込んで、ぎゅっと強く抱きしめた。
「いいかいなのちゃん。なのちゃんにはこれを分かって欲しいんだ。私はなのちゃんが好きだ。愛してる。好きって想いのスピードが、止まらなくって溢れてく。嘘じゃない。信じて、お願い。私は嘘つきの小心者な兎だけど、これだけは……これだけは……本当だから!」
「束ちゃん……!!」
抱きしめ返してくる手はとても熱かった。
「私もそうだよ! 束ちゃんのことが好き! 愛してる! 本当の本気で、全力全開で好きだよ!! 嘘なんかじゃない! 永遠なんてこの世になくて、何もかもは変わっていくけど! でもこの気持ちだけは……きっと、変わりはしないから!」
束は、無意識の内に涙を流していた自分に気づいた。
高町なのはと篠ノ之束、その格好も性格も頭脳も肉体も魔法の有無も、やること為すこと全部が全部違うけど。
あの時出会って、触れ合って。その時きっと、何か一つ大事なものを分け合って、胸に抱いたんだ。
そのことを誇らしく思う。そうでないと自分はきっと、今の自分とは似ても似つかぬナニカに育ってただろうから。
そしてそれは、たぶん――なのちゃんだって同じことだ。
「……ねえ、なのちゃん。束さんがどうしてこれに気づけたのか、聞かせてあげようか?」
「うん、教えて」
「温泉に行った時にね、親と気持ちをぶつけ合ったんだ。で、そういうの意外と悪くないって分かってさ。アリちゃんとすーちゃんともそうして、それも結構、楽しかった」
「アリちゃん? すーちゃん?」
「アリサ・バニングスと月村すずかのことさ」
一旦互いに抱いた手を離して、椅子を取り出し座って向かいあう。
今まで渾名など付けず、凡人という僭称すら平然と使っていた二人に対し、ごく平然となまえをよんだ束は、尚語り続ける。
「そしたら、そういえばなのちゃんとそうしたことはあったっけ、ってなって。まあ似たようなことは結構あったかもしれないけど、こう、真芯にぶつけるような会話は覚えがなくて。じゃあ、いつかぶつけるとして、自分の本心というのはなんじゃろな、と考えてたら、気づいたの」
それは、束が変わったということである。
なのはが魔法と出会ってから、束は様々なことをやってきた。
ユーノ・スクライアと出会って助手にした。フェイト・アルフと戦い叩き落されリベンジを決意した。親と大喧嘩したあと周りの人間に諭されてぶつかり合った。アリサとすずかという、他人の望みを初めて汲んで行動した。
それはすべて、なのはが魔法少女となったのがきっかけであり、そして理由でもある。
魔法少女となったなのはに。自分の知らない力を使って、誰かのために飛んでいく彼女に追いつきたいから、こうも揺れ動き、そして一つ大きく成長した。有り体に言うなら、大人になった。
見知らぬ男の子に近づいた。敵わぬものがあると身体で思い知った。親が自分を愛していると思いだした。自分だけでなく、誰かのためにも頑張ろうと決意した。
それはすべて、篠ノ之束という子どもの天才が、もっと大きい何かになるための脱皮であったのだ。
「そっか……束ちゃんって、すごいね、やっぱり私なんて」
「だぁー! そういうの止めにしようって言ってるの!」
「あ……ふ、ふふ」
「あはははは……」
束は、再びネガティブになろうとしているなのはを咎めながらも、自分の思考だって「まだ全然届いていないし」という後ろ向きなものになりかけているのに気が付き、苦笑した。
どうも意識したところで、この性根は中々治せないものらしい。
そこで、束はあることを宣言した。
「なのちゃん。これからも私は無茶とか怪我とか、いっぱいする」
「うん……あんまり賛成したくはないけど……もっともっと頑張らなきゃって思うんだよね。私もそうだもの……それで、頑張りすぎちゃうんだよね」
「だから、さ」
すっ、と右手をなのはに差し出す。まだ節々に薄い傷が残っていて、だがそれは、なのはの前で胸を張れる自分になることが出来た名誉の勲章であった。
「そうした時、なのちゃんが私を助けて。もし私一人で不可能なことがあるなら、それを手伝ってほしい。成し遂げる力を貰いたい」
「束ちゃん……!」
「その代わりに……なのちゃんが無茶しなきゃいけない時は、私がきっと助けてあげる。背中を押すだけじゃなくて、その背中を守ってあげる」
自分に気持ちを打ち明けたなのはを、束は改めて、美しいと思った。愛しいと感じた。
だから、今度はその歩む道を全力で守り抜く。まっすぐ上を向き、前を見て進むなのはの足元に落とし穴があれば、それを自分の力で埋めて支えてあげよう。
そして自分も、なのはに守られるのだ。そうすれば、もうあのフェイトとの戦いみたいに一人きりで、誰にも知らせず無茶をする必要はない。
「それが友達ってものでしょ?」
なまえをよんでから、二年近く経って。友達という絆のなんたるかを、束はようやく知ることが出来たのだ。
「束ちゃん……うん、そうだね、きっとそうだ」
「なのちゃんも私も、互いを特別視しすぎてたんだよ。だから見せたくない所とか生まれてさ」
「それで、この事件が始まってから……あんまりお話も出来てなかった。会うことだって少なくなった」
「前まではべったりすぎたけど、これはちょっと、別行動しすぎてたよね、うん」
なのはと束、二人顔を向け笑い合う。
その手は両方共、硬く熱く強く握られている。
「束ちゃんは、きっと天才になれるよ。分からなかったら私も一緒に考えてあげる。私バカだから、どこまで頼りになるか分からないけど」
「なのちゃんはどこまでも飛べるよ。邪魔をするやつはこの束さんがぶっ飛ばしてあげる。まぁ、束さんはどっちかといえば頭脳派だし、大したことは出来ないけどね」
そして、どちらの利き手も傷ついていることに気づいた。束は無論、ジュエルシードを掴んだ右手、そしてなのはは左手だ。きっとレイジングハートが壊れた時の衝撃で怪我をしてしまったのだろう。
「ねえ、なのちゃん。ここから出て、母屋の方に行こうか」
「え? お家に行くの?」
「そうさ。あの母親からさ、怪我したら帰ってこいって言われてさ。まぁ別に必要ないんだけど、言われたからには帰るのさ。ついでになのちゃんのも手当してもらおうぜ!」
なのはを引っ張るように後ろ向きに進み出て、束はラボ深部から上層へ。
そしてドアを開けて外に出ればと、満点の春の星空が二人を待ち受けていた。
「綺麗だね、なのちゃん」
「うん、とっても……」
篠ノ之神社自慢の桜も、その開花時期からとっくに外れて、寂しい枝葉を晒していたが。
両手繋いでルンルンと、歩む二人の顔面には、とてもきれいな花が咲いていた。
RH『……』
ユーノ『そう、静かに、しーっとしてて……ここで割り込んだら無粋ってレベルじゃないよ』
RH『
なんだか色々回り道しすぎてしまったような感がありますがまぁ今更ですね。
書いていると段々プロットからずれてきてうあーってなるのはもうどうしようもないな!
次回から第四部。管理局とプレシアが出てきますぜー。
次回は2017年06月10日(土) 15:00投稿です。