「帰ってくる必要はないわ」
四月二十七日、午後一時を少し回った頃。
フェイト・テスタロッサが帰還のために、自らの拠点である時の庭園へ通信を送ったその時、開口一番で告げられたのは、帰還を取り止めよ、という命令であった。
隣にいるアルフと二人、驚いてすぐさま聞き質す。
「あの……でも、ジュエルシードを渡さなきゃ」
「ええ。でもまだたった四個しか手に入れていない」
「う……」
「その点に対しては、あなたを責めなければならないわね。たった四個では、私の願いを叶えられない」
通信先の冷淡な一言に、フェイトは頭を垂れて落胆する。
彼女にしてみれば、全力で当たった結果なのだ。一日たりとて休まずに、魔力を消費し探索を行い。
そして時に、白い服の女の子と戦った。
最初は空に浮くのが精一杯であった彼女。それを制すのは容易かった。がしかし、戦えば戦うごとに実力を伸ばしていく。
攻撃魔法も砲撃一辺倒だけでなく、誘導射撃弾を使いだして、更には高度の収束系拘束魔法まで使いこなしている。
お供の少年も防御が固く、練達しているのか術式の展開と制御がとても上手い。攻撃力こそ皆無に等しいが、純粋な魔法の出来については、恐らくフェイトより上であろう。
そんな、厄介この上ない二人の少年少女と戦って、しかしフェイトは負けずに。
二週間ほどの短期間で、遺失遺産、ロストロギアの一つであるジュエルシードを四個も集めたのだ。
褒められこそすれど、叱られることはない――と、前日アルフが語っていた。
フェイトも口に出さないとは言え、同じ思いであったのだ。今度こそ褒めてくれると思っていた、それなのに。
「ごめんなさい」
だが、フェイトが述べるのは謝りの一言だけだった。
それだけしか言えない。言う必要はないし、言う権利もないのだ。
「……ええ、あなたは悪い子よ、フェイト」
それに対して、モニタの前の女性はただただ無表情だ。怒りも悲しみも表していない。
だがしかし、その瞳は永久凍土の氷のように冷たく、暗くて。
フェイトはそれに怯える。わざとらしく怒りを爆発させられたり、悲しまれたりするよりも、ずっとずっと怖くて恐ろしい空虚な瞳である。
「でもね」
しかし、彼女がそこに、たった一言付け加えた時。
フェイトは見た。
彼女の――自分の母親であるプレシア・テスタロッサの瞳に、ほんの微かな、火が灯っているのを。
「あなたはそれ以上の成果を上げた。素晴らしいわ、フェイト。よくやってくれたわね」
暗く沈んでいたフェイトの顔が、その火を照らして明るく光る。
側に居たアルフが抱きついて、頬ずりしながらこう言った。
「やったねえフェイト!」
こくん、こくんこくんと何度も首を振る。
母さんに褒められるなんて、何時ぶりだろうか。リニスと一緒に魔法の訓練を始めてからは、褒め言葉なんて一度も聞いたことがなかった。
いつも叱られたり、厳しいことを言われたり。
そんな母さんを、アルフは鬼ババア、なんて言ってたけど。
ほら見て。
やっぱり母さんは、私の優しい母さんなんだ。褒めてくれて、私のことを認めてくれるんだ。
「あ、ありがとう……ございます、母さん」
「礼には及ばないわ」
そういう喜びを込めて伝えた感謝の言葉を、プレシアは極あっさりと返すが。
口調もなんだか柔らかい、思い出の中の優しい母さんに戻っていると、フェイトには聞こえてしまうのだ。
「……あ、で、でもさ。いいかい、プレシア?」
喜びの場に差し出口を挟むのが申し訳ないのか、少し縮こまりながらアルフがプレシアに問いかける。
「どうしたの?」
「え。えーと……今言ってた成果って、ジュエルシードのことじゃない、んだよね?」
「……ええ」
「じゃあ、一体なんだっていうんだい? アタシたち、プレシアに頼まれたジュエルシード集め以外には、何もしてないよ?」
聞かれた途端、再び険しい目に戻るプレシア。
その目線を浴びたアルフは、あっという間に縮こまり、人間形態でも目立つ獣の耳を畳んで尻尾を垂れ下げた。
「あ、ご、ごめんよ! 知る必要が無いんならそれでいい、だから怒らないで……」
「……そうね」
プレシアはちら、とフェイトに目を向ける。険しいままの視線に思わず背筋を正すフェイトであったが、その目の奥にちらつく火は変わらず、だから叱られないと安心できた。
「あなた達には教えなければならないわね。それを連れてくるために一仕事してもらうのだから」
「連れてくる……?」
フェイトの問に答えとして用意されたのは、もう一つ展開されたモニタであった。
そこに流れているのは、バルディッシュからフェイトたちの拠点、時の庭園へと定期的に転送される記録映像、その最新映像だ。
つまり、先日夜のジュエルシードを巡っての戦いである。
視点はフェイトの目線とほぼ同じ。浮遊する青白く光る宝石へと真っすぐ飛んで、すると同じく飛んできた白い服の少女とぶつかり合い。
そして閃光。吹き飛ばされてもんどり打った衝撃でカメラもブレにブレ、まともに視界が回復した時には、眩い破滅の光を放つジュエルシードが見えていた。
それから、フェイトがそれを抑えようと近づいたので、必然的に宝石へ寄り。しかしその目前に現れ立ち塞がったのは。
うさみみを付けた女の子。かつてフェイトにジュエルシードを渡してなおも戦い、地に落とされた彼女であった。
「あ……」
フェイトは思い出す。そうだ、あの時。傷ついた自分を抱いたアルフが直ぐに撤退したから、あまり覚えていなかったけど。
あの少女は何をした?
魔導師でもない、ただの少女が。ジュエルシードをその手に掴み。
デバイスを使わず、ミッドチルダ式でもない、奇妙な呪文を唱えて。
そして――一時的とはいえ――あのジュエルシードを、完全に制御していた。
「そうよ、フェイト。興味深いと思わない?」
映像はちょうど、少女が青い光に身を包みながら宝石を掴み取って握るシーンへ移っていた。
「あの少女。かつてあなたに突っかかったところを見て、不思議な子だと思っていた。それがこれで、確信に変わったの」
その時フェイトは、母親の瞳の中の火が、決して自分に向けられたものではないと気がついてしまった。
彼女は自分を見ていない。
あのうさみみの、少女を見ている。
「ねえ、フェイト、お願いがあるの」
だから、プレシアがフェイトにそう語った時、フェイトの喜びは既に萎えて、いつもの物言わぬ人形のような、切なく真剣な顔つきへと戻っていた。
「束、入るよ」
篠ノ之神社地下のラボ、そこに繋がる扉のロックを解除して中に入ったユーノが見たのは、恐ろしい速度でコンソールに何かを打ち込み続けている束と。
その操作に連動して動き、ぎゅぃぃぃん、きぃぃ、と耳に響く金属加工の音を立てている、全長4mほどの工作機械であった。
「束ー! たーばーねー!」
甲高く煩い音にかき消えそうな声を振り絞って叫ぶ。
すると、椅子に座った女の子のうさみみがぴくん、と震えて。
「ん、どうしたのかい我が助手よ」
瞬間、ピタリと止まった工作機械とその音が齎す静寂に、篠ノ之束の声が甘く、凛と響いた。
その表情や体には、疲れと消耗の跡など些かも見当たらない。どうやら昨夜はぐっすり熟睡して、それで回復できたようだ。
ユーノは安堵する自分に気づき、それを少し不思議に感じた。
安心する必要などないだろう。この無茶振りと強引ばかりなワガママ極まる少女に向かっては。
むしろ、ばたんきゅー、と倒れた所を無視してやってもいいくらいにはこき使われているのではないだろうか。
とはいえ、しかし、それでも。
結局この子のために色々と駆け回っている自分は、例えばなのはと似た者同士のお人好しでドの付くほどのお節介焼き、なのだろうか?
そんな問を心に抱いて苦笑したユーノは、束に向かい左手に持ったポリ袋を差し出した。
「はいこれ、なのはからの差し入れ。翠屋のシュークリームだって」
「マジ!? なーのーちゃーん!!!」
束は椅子に座ったままの姿勢からノーモーションでジャンブし、まるで目の前になのはがいるかのように素早くそして強引な飛び込みが、ユーノを襲った。
そして、慌てて後ずさるユーノの目の前で、しゅたっと軽やかに着地し手にある袋を奪い去り、中にある紙のボックスから、翠屋特製のシュークリームを取り出し、一口で一気に半分ほど食べた。
「んんんん~っ! 糖分! 取らずにはいられないッ! ぱくぱくもぐもぐっ」
そして叫ぶ。理由は美味故か、言葉通りの糖分摂取の喜びか、それともなのはからのプレゼントを食すという幸福感か。
多分どれも正解で、だからこんなに叫んでるんだろうとユーノは思った。
「なのはが言ってたよ。これくらいしか出来ないけど、束ちゃんのこと、助けてあげられてたら凄く嬉しい……って」
「そりゃもうめちゃ助かってるよ! 甘さと愛情でパワー解放、全開だから! 束さんだって、なのちゃんを助けるために超頑張っちゃう!」
意気揚々ともう一口で全部食べきって、それからもう二個ほど入っているケースを冷蔵庫(いつの間に作られたのだろう)へと仕舞い、束は再びコンソールに向かって作業を始めた。
そうしている様子を見ると、ユーノは不思議と毒気を抜かれてしまう。
出会った時は傍若無人で強引で、とてもなのはの友達とは思えない少女だった。
だが、曲がりなりにも助手として何回か手伝わされたり、魔法やジュエルシードについて話し合っていると。
また違った篠ノ之束が見えてくる。
なのはについて語る時など、特に顕著だ。
ユーノが見る限り、束はなのはを好んでおり。しかしそれだけでなく尊敬していて、彼女の行動を例外なく肯定し。その度合はもはや崇拝の域にも値しているようにも見える。
どうしてそうなったのか、ユーノには良くわからないが。なのはについて語る束はとても楽しそうな笑顔をしているのは事実だ。
今も端末にかじりつき、必死に何かのプログラムを組み上げていきながら、まるでスキップでもしているかのようにるんるんと、リズムに乗って体を動かしている。うさみみは何も聞かずともぴょこっと跳ねて、再び稼働した工作機械が轟音を発する直前には、小さい鼻歌まで聞こえてきた。
そういう様子を見ると、ユーノはほっと一安心してしまうのだ。
なぜならば。
そうしていない篠ノ之束は、きっと寂しくて寂しくてたまらなくなってしまうだろうと思うから。
「ねえ、束。忙しいところ悪いんだけど、一つだけ、いいかな」
「ん~? なんだい?」
ユーノは既に、なのはと束が仲良くなったきっかけと、それ以前の束の有様について知っていた。昨日の夜、フェレット姿になって高町家へと帰った時、なのはが話してくれたのだ。
小学生になったばかりの束は、無言で煌めくナイフのような女の子だったようだ。
ずば抜けた頭脳と身体を持ち、触れるもの皆傷つけて馬鹿にして、大人ですらも翻弄する。そうして、周りは皆気味悪がったり無視をして、一人ぼっちになっていたという。
ひとりぼっち。
ユーノにだって、それがどれだけ辛いことか、少しだけ分かる。
彼もまた、スクライア族の中で親も弟も妹も無い、天涯孤独の身だったから。
そして、なのはも実は、小さい頃はちょっとだけひとりぼっちだった、らしい。
束と出会う前、なのはが五歳の時父親の士郎が仕事――喫茶店のマスターではなく、その時一緒にやっていたボディガードの仕事――で大怪我を追った。
それが折り悪く翠屋が開業したばかりの時期で今ほど人気も無く、母も兄も皆そちらにかかりきりとなってしまい、姉は父親の看病に向かって。
なのはは一人きりで家に居ることが多かった、そうだ。
だからこそ、束が寂しさを抱えていることに気づけたかもしれない――と、付け加えながら。
ユーノ、なのは、そして束。
三人共に、昔はひとりぼっちの寂しさを抱えていて。でも今は違う。
ユーノには部族の優しい人達や、魔導学院の同級生とか、この地球で出会い、フェレットとしてだけど、それでも触れ合った人たちがいて。
なのはには勿論、無事に戻った父親を始めとした家族に、アリサやすずかといった親友。そして、篠ノ之束という一番の大親友がいる。
ならば、束には――?
「束は……さ」
それを確認するため、ユーノは問いかけた。
「今の世界って、楽しい?」
ぎぃぎぃ、がちゃがちゃ。
少年の声を阻む作業音が再び響くが、それでも束の耳へ、胸元へ、問いはちゃんと聞こえていたようだ。
束は椅子のキャスターを回し、くるりと振り向いて。
「ま……そこそこかな」
と、答えたので、ユーノは深く安堵した。と同時に、不思議にも思った。
何故だろう。なんでこんな女の子のことが、そんなに気になって……変なことを聞いたり、それに対するいかにもあやふやな答えを聞いて、それで満足するんだろう。
あの温泉で出会った彼女の父親と、話をしたから? 自分と同じく、ひとりぼっちであったと知ったから?
どれも弱い。それだけじゃないように思えてしまう。
ならば、明確な理由というのはなんだろう。
考え込みながらも、なのはと合流するためにラボから出ようとしたユーノの目の前で、扉の横にあるインターホンらしきものからベルが鳴る。
「束、ちょっと」
振り向き声をかけたが、うさみみ少女は今度こそ発明品制作に没頭しきっているらしい。
ここは、助手として取り次ぐしかないかと判断したユーノは、インターホンのスイッチを押して、近くにあったマイクを手に取る。すると聞こえてくるのは、篠ノ之家婦人、沙耶の声であった。
「束? あなたにお客様が来ているのだけど……束?」
「あ。あの、すいません」
「……束じゃないわね? あなたは?」
「あ、僕はその、束の助……えー、友達、みたいなもので。あの子、今手が放せないようなので、僕が」
応答してきた少年の声を聞いて、沙耶は数秒ほど沈黙し、その後素っ頓狂な声を上げた。
「あら……あらあら、束が自分の部屋に男の子を連れてくるなんて……!」
「あー! いやあの、別にそういう訳でもなんてもありませんから! 断じて!」
何か変な誤解をされそうなので釘を刺すユーノ。
ドアホンの向こうに居る沙耶も、話がいきなりブレていることに気づいて、おほん、と咳払いをした後に要件を話し始めた。
「束にお客様が来ているの。今、母屋の方でお茶とお菓子を出して待ってもらってるわ」
「はぁ……あの、失礼ですがその子は……なのは、ですか?」
「いえ、違うけれど。あなた、なのはちゃんともお知り合いなの?」
「はい、一応は……じゃなくて。なら、誰なんですか? 束相手にお客だなんて」
「そうねえ、私も初めて見る子で……おとなしくて、でも礼儀正しくて。きっと育ちがいいんでしょうね」
そこまで話した時、ユーノの周りで鳴り響いていた、機械の駆動音が再び消えた。
ちら、と後ろを振り向けば、コンソールから手を話して、何やらほくそ笑む束の姿が見える。
何かあったのだろうかと心配しながら、とにかく今はこの応答を続けなければならず、ユーノはインターホンと向き合って、来訪者について聞いた。
「その子……名前って、分かります?」
その問いに、沙耶はごく平然と答えた。
「ええ、聞いてるわ……フェイト・テスタロッサですって」
瞬間。ユーノは驚きすくみ、呼吸を乱した。
フェイト・テスタロッサ?
あの、金色の髪をした女の子。魔導師として僕らの前に立ち塞がっている、フェイト……なのか?
その答えは、ユーノの真後ろから齎された。
「くく、くはははは、あぁ、なるほどなるほど。そう来たか。そういうことだったんだね」
束である。
先程までの穏やかさをかなぐり捨てた、凶悪で狂人めいた攻撃的な笑い。
それを思いっきり顔面に浮かべて、ラボの扉を開く。
「束!」
「心配しないで、罠じゃあないよ」
止めようと声をかけるユーノへ、右手でしっ、しっ、と退けるように動かす束。
その立ち振舞には何かを確信したような自信と喜びが感じられる。もしかしたら、今のやり取りだけでフェイトに関する何かを『予測』したのかもしれない。
だが。
ユーノとしては、ここで行かせてはならないと思うのだ。
「ダメだ! 罠じゃないにしても危険すぎる! なのはと、それから僕と一緒に!」
「それだと向こうが門を閉じちゃうよ。お客さんは私一人だ。そうに決まってる。だから、私一人で行くよ」
「そんな……束、考え直して!」
「やだ。こんな面白いことがまたとあるか」
必死に止めるユーノ。だが同時に、自分が止めた程度で行動を撤回したりはしないだろうとも分かっていた。
だから、せめて一つだけ、言い聞かせる。
「……じゃあ、無事で帰ってきて。そうしないと、なのはが悲しむよ」
「はんっ、当たり前だよ。どうせこの場では何もしないし、出来ないだろうからね。……あと、それよりも」
シェルターのように分厚いドアを開きながら、束はラボに幾つもあるモニターの内、一つをびしっと指差した。
ユーノがそこへ目を向けると、どうやらそれは街中にある観測機のカメラと繋がっているらしく、海鳴市の湾岸付近にある倉庫地帯が映っていた。
そして、カメラがフォーカスしているのは……なのは、アリサ、すずかの三人、そして。
黒いバリアジャケットとデバイスを持つ、藍色の髪の少年の姿だった。
「あれって……まさか、時空管理局……!?」
「いやー、偶然ってのも凄いねえ。ほら、助手よ。お前はそっちに行くべきなんじゃないの?」
「そ、そうだけど、でも」
「あーほら、アリちゃんがつっかかってる。どうにもあの魔導師カタブツらしいねえ。そこが癪に障ったんだよきっと」
束の言うとおり、モニタをよく見ていると何やら言い争いが起きているようだった。
その原因はおそらく、なのはの腕にかかったバインドだろう。
アリサがそれを指差してしきりに怒鳴っていて、すずかはそれを止めようとしているようだ。
魔導師の少年は多少苛ついているのか、頑なな表情でアリサに向かい何か話していて、当のなのは本人はなんとも言いようのない微妙な顔でそれを傍観している。
このままいけば、間違いなく話し合いが拗れてしまうだろう。魔法世界に詳しいユーノが居なければ。
しかし、すぐにでも転送して向かいたいところだというのに。
ユーノは動けなかった。束を心配して、ただ見つめるだけしかできなかった。
「ああもう、さっさと行けって! おらっ! 助手! 命令だぞ!」
そんなユーノに業を煮やしたのか、束はユーノの額にごつん、とデコピンを打つ。
加減はしているだろうが、天才の腕力で放たれるそれはとても痛く。
うっ、と呻いて額を抑えたその僅かな瞬間に、束はラボから出ていってしまった。
「あ、待って、束……」
「じゃーね♪ 数時間くらいしたら帰ってこれると思うから! なのちゃんによろしく!」
鋼鉄製の地下室扉ががちゃり、と閉じられ、外側からロックされる。すぐさまロック解除のパスワードを入れるが、どんな方法を使ったのか、ユーノの知る番号から変えられて開かない。
つまり、転送魔法を使わなければここからは出られず。どうせ使うなら向こうに行けということだろう。
(なんだよ……それ)
ユーノのその思いは、あくまで秘密にしたがる束への反発か。それとも。
自分よりなのはの方が大事だろうからそっちに行け、と言われたことへの、忸怩たる思いであったのか。
転送魔法を起動し、なのはたちの居る場所へと向かうユーノ本人にも、分からぬことであった。