天才少女リリカルたばね   作:凍結する人

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第三話:ユーノ・スクライアの受難

「あはははははは! こんばんはなのちゃん! そしてフェレットに似た何かの生命体!」

「はぁっ!?」

「た、束ちゃん……え、えと、こんばんは」

 

 魔法少女となったなのはの前に飛び出した束は、まさにテンションハイ、それどころかマックス、いや、それすら通り越してクライマックスだった。

 そんな彼女にフェレットもどきの小動物は明らかに気圧されていて、なのはも困惑しているようだが、それでもぺこり、と挨拶を返した。

 

「ちょ、君、そんなことやってる場合じゃ――」

 

 フェレットもどきがのんきな反応に警告したその時、変身の魔力に勢いを封じられていた化け物が、枷を解かれて再び活動し始めた。

 ぐるおぉおお、と映画に出てくる怪獣のような雄叫びを上げ、魔力を持つ者に、つまりはなのはとフェレットもどきめがけて襲いかかる。

 そしてその直線上に、ちょうど束が存在した。

 

「危ない、逃げて!」

 

 フェレットもどきが束に向けて叫ぶ。だが、それは遅きに失していた。既に化け物は地を抉る程に打って飛び、束の背中めがけて真っ直ぐ飛びかかり、あとコンマ数秒もせずにぶつかるか。

 しかし。

 

 

「邪魔だよ」

 

 ぱぁん。

 乾いた音が小気味よく響き。吹き飛んだのは束ではなく、化け物の方だった。十数メートル吹き飛んで電柱にぶつかると、柱のほうが根本からぽきっと折れて地面に倒れた。それほどの衝撃であった。

 束は180度反転して、右腕を前に突き出していた。その手は開かれている。掌底だ。

 

「ったく、人が歓喜に浸ってる途端にこれだからなぁもう。どうも理性ってのが無いみたいだね。手応えもだいぶおかしいし……っと、そんなことより」

 

 束は激突の衝撃で熱された己の掌にふぅ、と息を掛けると、呆然と佇むなのはに向けて、

 

「ありがとう、なのちゃん。約束、叶えてくれて」

 

 と、さっきまでの狂った笑いでなく、満月のように優しく丸く艶やかな笑みを見せた。

 

「な、なんだかわからないけど……その、どういたしまして」

「えへへ、いいんだよ。ずっと信じてたもん、なのちゃんがやってくれるって。まさかこんな形だとは思わなかったけどさ」

「そ、そうなの……?」

「待って待って! 今そういうやり取りしてる場合じゃないよね!?」

 

 束の微笑みに釣られたのか、さっきまでの緊張を投げ捨てているなのは。

 フェレットもどきがそれに突っ込む。

 

「んぅ~? なんだちみは。よくわかんないケダモノの分際で言葉を喋るなよ」

「ケダモノ!?」

「そうだよ、君はフェレットじゃない。見かけは似てるけど構造は明らかに違う。大体フェレットの舌で人語は喋れないからね」

「え、君、どうして僕の――」

 

 驚くユーノを無視して、束は語りかける。

 

「それも『魔法』なんだね? 今なのちゃんがやってるような。そして、私が吹き飛ばした黒いゴム鞠もまた、『魔法』なんだよね?」

「え、と……そうです、けど」

「なるほどぉー、道理で君を拾ったときに『バラせなかった』わけだ」

「ば、バラす……?」

 

 不穏な言葉であった。フェレットもどきは小動物の顔でどうやるのか、冷や汗をダラダラ流して震え上がっている。

 

「ん、束さんの得意技。でも、君には通じなくってさ。まぁ魔法だと分かってしまえば、後もう数回みっちり『解析』すればイケるだろうけど」

「イカないでください!」

 

 喚く小動物に向けられた束の目は、まるで実験用のラットを見るかのような冷酷さと好奇心に満ちていたが、

 

「はんっ、束さんに命令するつもりかな? 一千万光年早い」

「あの、それはだめだよ、束ちゃん」

「あああそうだねなのちゃん! 冗談だよ冗談! こんなあどけない小動物をバラすなんて鬼畜外道の所業だよね!」

 

 なのはに諭されたら、即座にいいこちゃんぶって退いた。

 とはいえその鬼畜外道の所業とやらを述べるときに、なんとも悪辣、偽りの欠片もない笑顔をみせていたのも束であるのだが。

 

「な、何かものすごく信用ならない……って、それよりも!」

 

 フェレットもどきが叫ぶ。束がちらと後ろを振り向くと、黒い化け物はダウン状態から回復したのか、再びおどろおどろしい叫び声とともに向かってきた。

 

「おおっと危ない! なのちゃんごめんね!」

「にゃっ!?」

 

 束は即座になのはを抱きかかえて、ついでに肩へと乗っかってきたフェレットもどきと共にジャンプする。そして、半壊した動物病院の屋根の上へと飛び乗った。それから、息せき切って問いかける。

 

「はいケダモノくん! 目の前のあれはなに!」

「え、あ、あれはジュエルシードの思念体です、魔力が暴走して形作られた」

「ジュエルシードって何!」

「ね、願いを叶えるように作られた宝石で、魔力の結晶みたいなものですが」

「どうすればいいの!」

「え、ええー! と、とにかくレイジングハートで封印しないと」

「だいたいわかった!」

 

 フェレットもどきの説明をことごとく最後まで聞かずに、束はお姫様抱っこで抱えているなのはに語りかけた。

 

「そういうことでなのちゃん、はい頑張って!」

「え、ええええっ!?」

「大丈夫だなのちゃんならきっとできる! はい下ろすよ!」

「ムリムリムリ! 何が何だか全然わかんないよー!」

 

 しゅたっと地面に降り立った束が腕から下ろしても、なのはは訳がわからない、という様子で喚いていた。

 

「だいじょーぶ! ここまで、束さんの見たところによると! 魔法って、不思議系の神秘パワーじゃなくって、高等数学に基づいたある種のプログラムみたいなもんだから!」

「え……」

「つまり、なのちゃんの頭がソフトウェア! んで、魔法っていうプログラムに基づいて魔力っていうハードウェアを動かして、力を行使するんだよ!」

 

 束のこの例えを聞いたなのはは、数秒間眉をしかめて。

 

「わ、分かった……気がするかも」

 

 と、不安げな表情ながらしっかりと首肯した。

 

「き、君! 魔法のない世界の人間が、どうしてそんな的確に説明でき」

「黙れケダモノ」

「な、ひどいっ」

 

 容赦のない罵詈雑言がフェレットもどきを襲ったその時、思念体は既になのはたちの目の前までにじり寄り。そして勢い良く飛びかかる。

 

「え、えーと、こ、こうだ!」

《Protection》

 

 しかし。なのはに黒い身体がぶち当たるその直前。掲げられた杖の先端から桃色の光が膜となって前方を包み、思念体の体当たりを受け止め、そして跳ね返した。

 

「や、やった!」

「うん、簡単なものは無意識でも発動できるみたいだね」

「そうなんです、でも」

「だぁ、うるさい! それなら封印とか難しい魔法には、呪文が必要だってことはもう『分かっている』んだ!」

 

 束の鋭利な頭脳は、既にそこまで読み切っていた。僅かな情報さえあれば、二手三手先の答えなど、簡単に判ってしまうのだ。

 

「そういうわけで、なのちゃん! 思考を落ち着かせてクールに考えよう! あの化け物を封印するにはどうすればいいかって! そしたら、答えはきっと……」

「うん!」

 

 だが、束が結論を言い終わる前に、今度はなのはが答えを出した。

 

「答えは、この胸の中にある! そうだよね、束ちゃん!」

「……あははは! そうだよなのちゃん、いけーっ! ぶっ飛ばせー!」

 

 なのはが目を閉じて集中すると同時に、手に持つ魔杖――レイジングハート――の姿が変わる。柄が伸びて、三枚の桃色の翼が現れ、全開起動の形態へと変わる。

 

《Sealing mode》

「リリカル・マジカル!」

 

 杖の先端から再び桃色の光が疾走り、今度は思念体目掛けてまっすぐに突き刺さった。苦悶するような声を上げる黒い化け物の額に、浮かび上がるは「ⅩⅩⅠ」の文字。

 

「ジュエルシード・シリアル21! 封印!」

 

 突き刺さる光を導線にして、なのはの身体から多大な魔力が思念体へと叩き込まれた。

 黒い身体はまるで霧が晴れるように消失し、その中心に唯一残ったのは、掌に乗っかる小ささの、青い宝石。

 しばらく三人の目の前で浮かんでいたが、やがて魔力を封じられたからか、ひび割れたアスファルトにころん、と転がった。

 束が兎のように飛んで、宝石の目の前で着地し手を伸ばそうとする。

 

「ふむ、これがジュエルシードねぇ。どれ、ちょっと拝見」

「わーっ! 駄目です危ないです! 君! レイジングハートで触れて!」

「え、は、はい! 束ちゃんちょっとどいてて!」

「ええー! なんだよぅ、いいじゃないかちょっとぐらい」

 

 フェレットもどきが絶叫し、なのはに助けを求めたので、束は不承不承ぶーたれながら身体を退けた。

 そして、なのはが恐る恐る杖を振りかざして石にくっつけると、青い石は杖に飲み込まれるように消えていき。

 同時に杖も、防護服も消えてなくなった。

 

「あ……終わったん、だね」

「はい、なんとか」

 

 フェレットもどきに確認したなのはは、緊張が解けたのか、ため息を吐いてペタンと座り込む。だがやがて、周囲を見渡しながらだんだんと顔を青くしていき、

 

「あの、これって……ものすごく、不味いことなのでは……?」

 

 と声を震わせた。

 さもあるかな。思念体の暴走具合は半端なく、動物病院は半壊。周囲の道路や壁も粉々に砕けたり、ひび割れたりで、と悲惨な有様であった。

 ただ、ぽっきり折れた電柱だけは、束の一撃によるものであるのも明白である。

 

「……これは」

「と、とりあえず、ごめんなさいということで……」

「スタコラサッサだね!」

 

 束は再びなのはとフェレットもどきを抱きかかえ、正に脱兎のごとく、その場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 それから十数分後。篠ノ之神社の秘密ラボ上層にて、束による詰問が始まった。

 

「……さて、キリキリ吐いてもらおうか、この太くて長くていやらしーいケダモノくん」

「なんかその言い方おかしいですっ! それに僕には、ユーノ・スクライアってきちんとした名前があるんですから! ケダモノなんて」

「うっさい、お前なんかケダモノでいいんだよ!」

 

 フェレットもどき――ユーノの反論を軽く一蹴した束は、

 

「さあ、君の来た世界について、魔法について、それからジュエルシードについて、全部ゲロってもらうよ! なお、束さんの言うことを聞かない場合は、物理的にゲロってもらったりグロってもらったりするからそのつもりで!」

「わあああっ、言います、言いますから離して、苦しい! 握り潰されるぅぅ!」

 

 長細いフェレットなユーノの胴を、子供離れどころか大人すら凌ぐ握力でぐいぐいぐい、と万力のように締め付けながら問いただす。

 しかしその時、何故か存在する電気ポット――ちなみに超小型の核融合燃料炉で駆動している――を使って、二人分しかない湯呑みにお茶を注いでやってきたなのはが、

 

「あ、束ちゃんだめだよ!」

 

 と注意すれば、束はその手から瞬時に力を抜いてユーノを取り落とした。

 なんの救いもなく地面にぽとりと落っこちた彼はかなり参っていたらしく、そのまま床に寝そべってしまったところを、なのはの手に拾われた。

 

「あ、ありがとう……死ぬかと思ったよ、結構本気で。止めてくれたんだね」

「うん。あ、でも束ちゃんに悪気はないし、潰そうともしてないんだよ。ちょっとテンション上がっちゃってるだけだからね」

「え……そ、そう……いや、それは無いと思うよ!」

 

 ユーノはツッコミを入れた後、大きくため息を吐いてから、自分のこと、魔法のこと、それから世界のことについて話し始めた。

 

「まず、僕はこの世界とは別の世界から」

「それはもう知ってる。わかってる。どんな所なのかを聞きたいんだよ!!」

「え……わ、分かりましたから、落ち着いてください!」

 

 このようにして束が目を爛々と輝かせながら、一々茶々を挟んで来るものだから、ユーノの説明は長々と伸びていく。

 ユーノは「ミッドチルダ」と呼ばれる、魔法が存在している世界から来たこと。

 ミッドチルダと地球とは、次元の海によって遠く分かたれている「次元世界」の一部であり、ミッドチルダにはそれを繋ぐための次元移動技術が存在すること。

 そして、その技術を利用して様々な世界を旅し、遺跡の捜索・探掘を生業とするスクライア族が、ユーノの属する氏族であり。

 

「そうして、僕がジュエルシードを発掘したから……こんなことになったんです」

 

 深刻ぶった口調で、重々しく告げるユーノ。なのははまっすぐ目を向けて、真剣そうな表情を見せるが。

 

「ふぅん……」

 

 束だけは、急に面倒な話が来た、と心底どうでもいいような相槌を打った。さっきまでミッドチルダや次元世界に関する話題にはきゃぴきゃぴるんるん、と喜色たっぷりに聞いていたというのに。

 

「あの、何か……?」

「続けて」

「は、はい! ジュエルシードを発掘した後、調査団に依頼して、保管して貰ったんですが、……輸送していた時空間船が事故か、何らかの人為的災害にあって、それでこの世界に」

「ストーップ。ちょっと、君今なんて言った?」

 

 束の表情はますます曇っていく。ユーノの主張に、どうしても頷けない。

 

「え、なにって……船が事故にあって、それでこの世界にジュエルシードが落ちたんですけど」

「……お前さ、ちょっと傲慢すぎるんだよ」

「え、ええっ!?」

「束ちゃん、どういうこと?」

 

 唐突な束の指摘に、ユーノだけでなくなのはもびっくりしたようで聞きただしてきた。

 束にとっては極常識的な価値観で、物を言っただけだというのに。

 

「ねえ、お前は掘り出しただけなんだろ? それで相応の処置をして、ちゃんとした所に預けたわけだ」

「それは……そうですが」

「だったらお前には、何の義務も責任もないわけじゃん。面倒見るべきなのは掘り出すという工程だけであって、それはもう終わって、問題は事故だか事件にあって落っこちた船の話じゃないか」

「で、でも! 僕が掘り出したんだから、少なからず責任はあって、あるべき場所にちゃんと戻さなきゃいけなくて……!」

「だぁからそんなの考える必要は無いって言っているでしょ!? ああもう、束さんは、そういうの見ていると虫唾が走るな! 理解できない! どうしてそう、義務でもなんでもない厄介ごとを背負って、それが当然だって顔をしてるの!? ちゃんちゃらおかしい! あり得ない!」

「な……」

 

 それは、束にとってかなり苛立つ考え方であった。

 傲慢、という言葉遣いには些か語弊があるというか、むしろ言いすぎかもしれないのだが。自分が抱え込むだけの責任というものがあって、しかしそれ以外のものまで無理に背負おうとするのは理屈に合わない。どう考えてもやりすぎだ。

 そういうのが許されるのは、それこそ――

 

「で、でも束ちゃん? 私、そういう考えも……なんとなく、なんとなくだけど、分かっちゃうかな。真面目なんだよね」

「あ、はい……ありがとうございます」

「……なのちゃんまでー!」

 

 ユーノに助け舟を出したなのはの一言に悶えながらも、束はやはり、ユーノの考え方にどうしても頷けなかった。

 

「ま、まぁそれはとにかく! ええと……なのはさんに、束さん、二人はまだ、時間は大丈夫なんですか? もう大分夜も更けてきたと思うけれど」

「え……あーっ! そういえば、家族の皆に何も言わないで出てきたんだった!」

 

 ユーノの指摘を聞いたなのはは、素っ頓狂な声を出して慌てふためく。

 しかし束は、そのようなことなどとうに予想済みだったので、

 

「ああ、そういうことなら大丈夫。束さんが呼んで、それでこのラボまで行ったって言えばいいよ」

 

 と何の気なしに語った。なのはは申し訳なさそうな顔をして、首を横に振る。

 

「え、でも……それ、束ちゃんに悪いよ」

「いいのいいの。私の大人どもからの信頼度なんて、とっくに底値を割ってるし。大体、なのちゃんはわがままな夜更かし夜遊びじゃなくって、このフェレットもどきを助ける為に駆けつけたんでしょ?」

 

 ユーノ君だよ。ユーノです。と二人が呟くのは無視して、束は続ける。

 

「それでなのちゃんが叱られるのなんて、束さんが納得行かないから。まぁ、あのハゲ親父が何を言おうが、私はへいきへっちゃら、ちぃちぃぱっぱなのだ!」

「束ちゃん……わ、分かったよ、そこまで言うなら……」

 

 束にここまで言われてもまだ申し訳なく感じるのか、おずおずと頭を下げて礼を言うなのは。そこで束は、これ幸いとばかりに付け加えた。

 

「まあ、そんなに罪の意識に苛まれるのだったら、じゃあ一つ私の為にやって欲しいことがあるんだ。ほんの些細なことだけど」

「え!? わ、分かったよ束ちゃん! 何でも言う事聞いちゃうから!」

 

 その言葉を聞いてにぃ、と笑った束は、

 

「じゃ、今夜一晩、このフェレットもどきをここに置いててくれない? なのちゃんが飼うことになってるのは知ってたけど、色々確かめたくってさ」

 

と、にっこり獰猛肉食獣な笑みを浮かべて提案した。

 当然と言うべきか、それを聞いたユーノは震え上がって縮こまった。

 

「いやいやいやいや待って! それはちょっとご勘弁願いたいんだけど!」

「何を言ってるのかなぁフェレットもどきのケダモノくん? 束さんはただちょっと君がどんな魔法でそんな姿になってるのかとか、魔法っていうのは具体的にどんなメカニズムで発動するのかとか、異世界人と地球人に肉体的差異がどの程度存在するのかとか、がっつりばっちり調べたいだけだから!」

「それが怖いって言ってるんだよぉ!」

 

 ユーノはなのはに視線を向けた。獣の瞳が何故か、悲しみでウルウルしているように見える。

 

「な、なのはさん……」

 

 弱々しい呟き。その言葉尻にはきっと、助けてくださいお願いしますと付け加えることが出来るだろう。

 しかし、なのはは、ユーノへ言い聞かせるように、

 

「大丈夫。束ちゃんはちょっとエキセントリックなだけで、全然悪い子じゃないから。大丈夫だよユーノくん!」

「どこが!? ねえ教えてよどこが大丈夫なの!?」

 

 本人としてはただ本心をありのままに語っただけなのだろう。しかし、それは誰がどう見ても絶望の宣告であった。

 

「ふふっふー、ご安心あれ! ついでにお前の怪我とか全部治してあげちゃうぞ!」

「何の!? ねえ何の!? 一体何のついでなの!? そこぼやかさないでよ!?」

「じゃあ、そろそろ帰らないといけないから。束ちゃん、さようなら」

「んー、なのちゃんさよならー!」

「あああああっ!? ち、ちょっとなのはさん、なのはさーん!?」

 

 

 絶叫するユーノ。しかしその声は、建付けの悪いドアの錆が奏でた、ぎぃぃい、ばたん、という金属音にかき消され。

 

「ぐひ、ぐひひひひひ」

 

 後には未知の欠片を目の前にほくそ笑む、狡猾な羊が一匹。

 

「あ、あ………や、だめ、ちょっとやめて……」

「だぁーめ。束さんは強欲で傲慢で剛腹なんだよ? だからお前がメインディッシュの前の前菜だとしても、ここで我慢は出来ないな!」

 

 ユーノを再びぐわしっと鷲掴みにして、認証を済ませて地下へ潜る。最先端のテクノロジーが集まった小さな殿堂の中央には、既に分析の為の多種多様な器具が設置されていた。

 何桁ものアナログ数字を表示している電算機。マットレスタイプのベッドと、その真上の天井から伸びる何本ものロボットアーム。きゅぃぃぃ、と耳障りな回転音を立てるドリルのようなもの。

 

「きゅ、きゅー! きゅー!!」

「今更フェレットの真似をしても無駄だぞー、おとなしく束さんの知識の糧となるがいいさ!」

 

 もはや悶絶しているユーノを、束はマットレスに置いて、ベルトで無理やり固定する。そして、

 

「まずは、これから♪」

 

 と取り出したのは、プラスとマイナスの電極だった。

 

「そ、それをどうするの!? 僕に一体どうするの!?」

「…………」

「無言!? ちゃんと説明して!? 僕生きて帰れるの!? 僕以外のナニカになったりしない!? せめて教えて覚悟を決めさせ」

 

「レッツ解析懐石!」

 

「いやあああああああああああああああああああっ!!!」

 

 その夜、二人きりのラボは悲鳴に包まれた。

 




次回投稿は5/30の21:00です。
訂正:12:00にしてみます。お昼更新だと見られやすいとかなんとか。
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