天才少女リリカルたばね   作:凍結する人

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これだけちょっと短めなので、夜にもう一話投稿します。


第八話-A:篠ノ之家

 現在日本国内は、全国的に連休。行楽シーズン真っ只中。

 そこで、普段から仲のいい娘たちにより繋がっている、高町家とバニングス家と篠ノ之家。それと同時に高町家とは半ば縁戚関係でもある月村家を交えて、二泊三日の温泉旅行が行われることとなった。

 目指す場所は海鳴温泉。海鳴市郊外に位置する温泉街で、天然温泉は成分その他、中々に効能があると有名な保養地である。

 出発時刻は朝八時。三台の車にはそれぞれ、高町、月村、篠ノ之の一家が乗り込む。

 まず一台目には、なのはの父、高町士郎と母の桃子、姉の美由希。後部座席に、なのは、アリサ、すずか。それから高町家のペット扱いなユーノも一緒だ。

 二台目にはすずかの姉である月村忍と、なのはの兄の高町恭也。そこに、月村家のメイドであるノエル・K・エーアリヒカイトとファリン・K・エーアリヒカイト。

 

 そして、三台目には、篠ノ之家父の柳韻、そして母の沙耶。それから満一歳の赤ん坊、箒と。

 

「…………」

 

 この世全てに呪いを掛けんばかりに負の感情ダダ漏れの顔で、しかもブツブツと小声で本当に呪言を紡いでいる束がいた。

 

「ね、ねえ束。そんなに落ち込まなくてもいいじゃない。後30分もすれば温泉について、お友達とも一緒になれるんだから」

「30分!? この束さんに30分も我慢しろというの!? なのちゃんと狭い座席の中でくんずほぐれつクンカクンカハスハスにゃーにゃーできる30分を!!」

 

 母親の言葉を聞いて、思い切り反発し喚く束は、無論最後まで抵抗していた。事前の計画で席数を割り振ると、こうなることはすでに分かっていたのだ。

 だから今朝も長々と文句を垂れて、根負けしたすずかが乗り換えるという話まで持ち上がったのだが。それ幸いと乗り込む前に柳韻の手で半ば強引に席へ押し込まれ、それでもなおも逃げようとして。終いにはなのはにより、

 

「じゃあ、朝早く起きて温泉入ろうよ。二人きりで」

 

 という交換条件で説得されて、不承不承出発を認めたのだった。

 しかし、どうやらそれでも煮えくり返る気持ちは収まらないようだ。

 

「ううぅぅ……ちくしょー! 今頃なのちゃんはあの凡人二人とキャッキャウフフしてんだろうな! そこにあのフェレットもどきまで! メチャ許せんんん!!」

「ええい、いい加減に黙らんか!」

 

 子供故の高い声、その喧しさに絶えきれなかったのか、運転席で車を走らせている柳韻が怒鳴りつけた。

 

「天才だと名乗っている癖に、後30分も我慢できんのか!?」

「かーっ! そういう問題じゃないやいハゲ親父!」

「誰がハゲ親父だ、誰が!」

「お前に決まってるだろー? まだ50にもなってないのにツルッツルは見てると笑えるからね!」

「ぐっ、親に向かって……!」

 

 苦虫を噛み潰すような表情をする柳韻。その様子をフロントミラーからちらと見た束は益々煽り抜こうと決める。

 

「そりゃ産んでくれたのには感謝するけど? この身体は束さんのものですからねー」

「誰が金を出して私学校に行かせてやってると!」

「金? あぁ、金ならちゃんと熨斗つけて、ざっと10億単位までなら返せるよ? この前散財したから即金だと数千万しか渡せないけど」

「戯言を言うな!」

「ちがーう。違うんだなー。これでも発明の特許料とか元手にして、あとは市場を『予測』してガッポガッポなのだよ」

「っ……!」

 

 女子小学生の言う言葉としては、まるで下手な漫画みたいにいい加減で突拍子もなく馬鹿げている主張を、柳韻は否定したいのだろう。

 しかし、恐らく誰も、否定できない。

 それくらい、篠ノ之束はどうしようもなく、常人から並外れている。それくらいのことはするだろうし、出来てしまうのだ。

 

「あー? もしかして。子供がそんなことするんじゃない、って思ってるでしょー?」

 

 そして、篠ノ之束は心を読む。まるで胸底まで手で鷲掴みにされ、引っ張り上げられているかのように正鵠を突く。

 だから反論されない。不幸にも彼女の回りにいる常人、彼らにとっては心を読まれるのも、良いように抉られるのも嫌だから。

 束から干渉してこない限り、居ないものとして無視をする。

 だが。

「大丈夫大丈夫。束さんは天才だから。心配して貰わなくともご迷惑はかけませんよーだ。ちゃーんと管理して、適切に使って……」

「……お前はッ!! いつもそんなことばかり言う!」

 篠ノ之柳韻はそれに当てはまらない。束の売り言葉に、買い言葉で返してくる。

「それ以外に言いようがあるのかな? それが真実だよ? 私には出来る。能力的にも人格的にも。それを認識出来ないのかな? 所謂馬鹿かな? 脳味噌が真空管で出来てるのかな?」

「馬鹿なのはお前だ、束! 九歳の子供が、金の重さもろくに知らない子供が何を言うか!」

「はぁ!? それは偏見じゃないか! 束さんは別に犯罪なんて、一回もやっちゃいないよ。発明品の特許料も、市場取引だって、方法はどうあれ自分で稼いだお金だ! あくせく労働するだけが金の稼ぎ方じゃないし、失敗しなかったら覚えない訳でもないんだよこの昭和真空管ハゲオヤジ!」

「っ……!!」

 しかし、柳韻では、束に口喧嘩で勝てない。頭の出来が致命的なまでに違うのだ。だから、単純に語彙で劣るし、罵倒の発想でも遅れを取る。

 そんなわけで、彼の最後の文句は決まって、

「このバカ娘! そんなにここに居るのが嫌ならさっさと出て行け!」

 

 となるのだが。

 

「ああいいよ、出ていきますよーだ。ふんだ」

 

 何分束の方も、出ていけるだけの実行力を持っているのだから問題になる。

 神社の隣りにある、あのラボのように。

 

「ち、ちょっと束、何をするの」

「何って、出て行けって言われたから出ていくだけですけど」

 

 束は走行中の車の窓を開いて、その隙間から飛び出そうとする。まるでちょっと散歩でもしようかというような気軽さだ。

 

「止めなさい、危ないわよ!?」

「大丈夫大丈夫、今から上手いことやってなのちゃんの車の上乗っかって、窓を開いて乗り込ませて貰うから。最悪凡人二人の上に乗っかってもいいかなーと考え直したのだ」

「怪我したらどうするのよ!」

「心配いらない。失敗の確率は0.02%程度だし、仮にそれで地面とキスしても束さんにはかすり傷程度さ」

 

 沙耶は助手席から身を乗り出して束を羽交い締めにし、必死になって止めているが、やはり彼女の怪力には敵わず押し返される。こうなれば束の方は、今にも車内から出ていきそうな勢いだ。

 困り果てて追い込まれたのだろう。沙耶は元凶である柳韻に怒り、収めろと告げる。

 

「あ、あなた! あなたがあんなこと言うから!」

「っ……しかしだな、幾らなんでも調子に乗りすぎておるし」

「でも、だからってこんな所であんなことさせたら」

「分かっているが、だからといってあいつを」

 

 押し問答が続く中、いい加減苛立ちの限界を迎えた束もまた怒鳴る。

 

「ああ、もううるっさいなぁこの愚鈍な親どもが! もう怒った! さっさと出ていってやる!」

「束、待ちなさい!」

「やだもんねー!!」

「ええい、親の言うことを聞けこの馬鹿娘!」

「子供に干渉するな馬鹿親父!」

 

 彼らの言い合いと怒りが車内に渦となってざわめき、それが頂点に達したその時。

 

 束の座る後席の左に設置されていたチャイルドシートから、甲高い泣き声が聞こえ始めた。

 

「っ……」

「箒ちゃん!」

 

 篠ノ之箒である。まだ一歳になったばかりで、おむつも取れていない赤ん坊は、この場の空気に耐えることなど当然出来ずに、雷のごとく唐突かつ大音量で泣き始めたのだ。

「あ……ほ、箒ちゃんごめんね、ごめんなさい」

「むぅ……」

 沙耶はすぐさま箒をあやそうと声をかけ、柳韻も怒気を吐き出して口を閉じる。

 そして、束は。

 

「二人共、折角の旅行なんだから……こんな時だけでも仲良くして欲しいの、箒のためにも」

「……ちっ」

 思いっきり舌打ちを打ちながらも車から出ていくことは諦めて、窓を閉め、自分の席でふんぞり返っていた。

 そういった訳で、篠ノ之家一行の雰囲気は旅館にたどり着いた後も険悪だった。流石に表向き取り繕えないほど壊れては居なかったが、束はすぐになのはと合流して色々と引っ張り回し、柳韻と沙耶も箒にばかりかまって、束には近づこうともしない。

 束など娘でないと扱っていた二年前よりは改善しているものの、この不協和音こそが、現時点の篠ノ之家の実像であった。

 




次回は6/2の19:00投稿です。
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