これでも転生者でトレーナーで『弟』です。   作:白野蒼

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今更ながらアニポケBWにハマッた結果です。
ついこの間まで書いていた「転生者でトレーナーで『弟』です」のストーリー構成を見直し、書き直したものです。
至らない点は多々あるかと思いますが生温い目で見守っていただければ幸いです。
よろしくお願いします。


一番に「ただいま」を

真っ黒な雨雲が空を覆い隠し、大粒の雨粒を途切れさせる事なく地上へと降らせていた。

勢いを増していくばかりの雨煙はそこら中に咲き誇っている薄紅色の桜の花を霞ませ、なかなかに幻想的な雰囲気を生み出している。

赤に変わったばかりの信号にタイミング悪いな、と一人ごちて手に持っていた傘の柄を何気なく持ち直した次の瞬間、視界の隅で黒い何かが交差点に飛び込んだのが見えた。

 

「…………え?」

 

「――!! ノア!!」

 

自分の呟きと重なって背後から聞こえたのは少女の焦りに満ちた悲鳴だった。

慌てて視線を何かが飛び込んだ交差点に向け、目を見開いた。

 

びゅんびゅんと通り抜けていく車達の向こう、交差点のど真ん中に小さな黒猫がいた。

 

「……っ、嘘だろ!」

 

ここの交差点は交通量がただでさえ多く、それゆえか交通事故もしょっちゅう起こっている。

さらに、今日は雨で視界も悪い上に運悪く信号待ちしていたのは俺、一人だった。

 

「――――っ!! くそっ!!」

 

そこから先の事は端的にしか覚えていない。

 

手に持っていた傘も真新しい学生鞄も放り出し、力の限りアスファルトを蹴った。

耳をピンッと立て、交差点の中央でぴくりとも動けなくなっている黒猫を抱き込んで。

 

――そして。

 

最後に覚えている光景は、耳を劈く激しいクラクションと真っすぐにこちらへ突っ込んでくるトラックだった。

 

――――ああ。

 

「…………ごめん。」

 

それが、何に。『誰』に向けての言葉かも分からずに、口から零れ落ちた言葉が自らの耳を打つのを聞きながら、腕の中にいる温かな存在を強く抱きしめた。

 

 

 

――それが、この世界に生まれた時からずっと俺の中にあるただ一つの『前世』の記憶。

 

そして、それに付随してもう一つだけ覚えている事がある。

 

 

 

俺――空野紬生(そらのつむぎ)がかつていた世界には「ポケットモンスター」はその名前すら、影も形も存在していなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

<<次は――でございます。お出口は右側です。>>

 

ゴオオオオ、という微かな音と一定で揺れる振動に加え暖かでそれなりに静かな地下鉄の車両内という眠るには絶好の環境の中。

ここに至るまでの疲れから座席に座った瞬間に見事夢の国に旅立っていた俺は、降車駅の二つ前にそろそろ到着するという車内アナウンスにふっと意識を覚醒させた。

 

「……あと二つ。」

 

くあ、と小さく欠伸をし軽く伸びをすれば凝り固まっていた体がぱきぱきと音を立てる。

 

あ、そうだと呟き隣に座っている『彼』へと目を向ければ、青い三角の耳と体、膝から下と手首から先、そして目元を鋼に覆われ、前に突き出たマズルが特徴的な犬系の獣人のようなポケモン――はがねタイプとかくとうタイプを併せ持つはどうポケモン・ルカリオが腕組みをし、頭を少しだけ俯かせた体勢で転寝している姿に小さく笑みが溢れた。

 

「後半かなりハードだったから、仕方ないよね。」

 

でも――。

 

膝の上に置いたリュックサックに視線を落とし、俺はふ、と小さく息を吐き出した。

 

小卒大人法によって正式にポケモントレーナーになったのが四ヶ月前。

 

郷里であるライモンシティを飛び出しイッシュ地方のジム戦巡りの旅に出たのが二ヶ月前の事。

道中色々あったものの、三日前にやっと三ヶ月先に開催されるイッシュリーグの参加資格である八つのバッジを集める事ができたのだ。

 

「……褒めて、くれるかな。」

 

二ヶ月前、イッシュリーグに参加するために旅に出る事を伝えに行った時の事が脳裏に蘇る。

随分急な話に『彼ら』とその部下達に驚かれながらも頑張れよ、応援してるぞと優しく背や肩を叩かれ決意を新たにしているとポスン、ポスンと頭に重さが加わった。

 

「本当に随分と急な話では御座いますが。頑張って下さいまし。貴方ならきっと大丈夫で御座います。」

「うん。君なら絶対大丈夫。応援してるよ。だから。頑張れ、ツムギ。」

 

優しく頭を撫でる手は初めて会った時から変わらない温かさで。

そう言ってくれた温かな光を宿した銀灰色の瞳を思い出し瞳を伏せると口の中で呟いた。

 

――うん、皆が。二人がそう言ってくれたから頑張れたよ、『兄さん』。

 

 

 

 

それはまだポケモントレーナーになるなんて考えてすらいなかった頃。

何の因果か名字こそ違うもののこの世界でも「ツムギ」と名付けられた俺は、今思えば『前世の記憶』と呼んでいいのかも分からない程曖昧な、それでも自分の中にこびりついた記憶とこの世界のずれに振り回されながら日々を生きていた。

見知らぬ世界に訳もわからずポンッと投げ出された戸惑い。

『ここは俺の場所じゃない』というどんなにこの世界の両親に愛情を注がれても拭いきれない疎外感。

何より自分が一度死んだと言うことをうまく消化出来ずにいた俺は、すぐ目の前の現実であり、かつていた世界とこの世界の最大の相違点であるポケットモンスターを拒絶した。

 

だって『知らない』のだ。

ポケモンなんていう生き物を俺は『知らない』。

 

――シラナイモノハトテモコワイ。

ドウ接スレバ良イノカ分カラナイ。

 

俺の身勝手なその気持ちの被害を一番被っていたのは父さんの相棒であるがんこうポケモン・レントラーと母さんの相棒だったかんじょうポケモン・キルリアだろう。

 

お陰でその二体には今でも全く頭が上がらない。

 

そして、世界を拒絶し自分の内に閉じこもっていた俺を変えたのが。

変えてくれた(,,,,,,)のが『彼ら』だったのだ。

 

 

 

 

<<次は、ライモン中央駅。ライモン中央駅でございます。お出口は左側です。>>

 

再び耳朶を打つ車内放送に我に返ると未だ眠ったままのルカリオの肩を軽く揺さぶった。

 

「ルカリオ、次ライモン中央駅だって。降りるよ。」

 

うっすらと開いた赤い瞳におはよう、と声をかければ「……ワウ。」とまだ眠そうな声で返事を返される。

 

ちなみにルカリオは、『彼ら』と出会う少し前に、父さんから『土産』と称され渡されたポケモンのたまごから生まれた俺にとって初めての手持ちポケモンだった。

もちろんその時はリオルで、俺自身もまだトレーナーじゃなかったから一応父さんのポケモンって事になってたけど、出会った時からずっと一緒で、兄弟みたいに育った。

 

そして今はいつも隣にいてくれる大切で何よりも信頼出来る相棒だ。

 

「これで今日からお前が正式にこいつのトレーナーだ。……やっとこの日が来たな。おめでとう、ツムギ。」

 

俺が正式にルカリオのトレーナーになった時。

ルカリオのモンスターボールを手渡してわしゃわしゃと髪をかき混ぜてきた父さんの瞳がほんの少しだけ潤んでいた事に気付いていた事は秘密の話である。

 

そんなことを考えていると怪訝そうな顔をしたルカリオの赤い瞳にどうかしたのか、と問いかけられた。

笑いながら何でもないと首を振ったタイミングでさらに車内放送が入る。

 

<<まもなく、ライモン中央駅。ライモン中央駅でございます。左側の扉が開きます。降りる際は足元にご注意下さい。>>

 

「あ、そろそろ着くね。降りる準備しよう。」

 

「ワウ。」

 

そのまま立ち上がると膝の上に置いていたリュックを背負い直す。

二ヶ月と言うそれなりの日数の旅だったため、旅立つ前よりか重量を増しているがこれくらいなら問題はない。

 

それよりも。

 

先ほどから車内アナウンスを聞くたびにじわじわと強まっていく高揚感に自らの服の胸元をぎゅっと握り締める。

 

ああ。俺、自分で思っていた以上に『彼ら』に会うの楽しみなんだ。

 

そう自覚してしまえばその思いはさらに強くなる一方で。

 

車窓へ視線を向ければそれまでただ暗闇を映していた外の光景が一変する。

どうやらライモン中央駅に着いたようだ。

 

「――二か月振りのライモンシティだね。とりあえず、『ただいま』言いに行こうか。」

 

「ワウ。」

 

油断すればにやけそうになる頬を力を込める事で抑えながら提案したツムギの、抑えきれない高揚感でキラキラと輝いているその良く晴れた日の空の色の瞳を見つめるとルカリオが同意するように頷いた。

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