これでも転生者でトレーナーで『弟』です。   作:白野蒼

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閲覧ありがとう御座います。
気が付いたら二ヶ月ぶりの更新です。
しかもやはり展開が亀並みに鈍いです、本当すみませんorz

では今回も少しでも楽しんで頂ければ幸いです。



ライモン中央駅とギアステーション③

「……ノボリさん、クダリさん。」

 

両肩に置かれた二人の手からじわじわと伝わってくるそのよく知っている体温に、知らず知らず強張っていた肩からほっと少しだけ力が抜ける。

勿論それは俺だけではないようでさっきまでこの場を支配していた緊張感がほんの少し和らぎ、クラウドさんが俺達に背を向けたまま口を開く。

 

「何や、随分遅かったやないか、黒ボス、白ボス。来てくれへんのかと思っとったわ。」

 

「本当ダヨ。二人ノ事ダカラ、スグニ来テクレルト思ッテタノニ!」

 

「ええ、結構危なかったんですからね。」

 

それに便乗するかのようにキャメロンさんとトトメスさんもまたクラウドさん同様、どこか笑みを含んだ声でノボリさん達を詰る。

そう言いながらも鉄道員さん達三人の雰囲気が変わったのは明白で、それを分かっているノボリさんとクダリさんもまた口元を綻ばせた。

 

「申し訳御座いません。しかし、これでも最特急で御座います。」

 

「うん。マルチトレインのお客様をギアステーションまで送り届けて、シンゲン達から話を聞いてここまで来るのに五分もかかってないんだから。でも、まさかツムギまでいるとは思わなかったけどね。一体いつ帰ってきたのさ。」

 

「ついさっきライモンシティに着いたばっかだよ。それで、誰かさん達に帰ってきたら一度顔出すように言われてたから、ギアステーションに行く途中でクラウドさん達が走ってくるのが見えて、それで。」

 

「ツムギガピチューヲ助ケテクレタンダヨ。ネッ、ピチュー」

 

「ピッチュ!!」

 

「そういうこっちゃ。ツムギがおってくれて助かったわ。俺らだけやったら追いつけんかったかもしれへんからな。」

 

二人を見上げたまま答えた俺にキャメロンさんとクラウドさんが補足してさらにピチューが大きく頷いた。

 

「そっか。ツムギ、ありがとうね。」

 

「そうだったのですね。ツムギ、ピチューを助けて頂きありがとうございました。」

 

「う、うん。」

 

二人の言葉に少しだけひっかかりを覚えて首を傾げる。

 

――――あ、もしかして。

 

「あのさ、ノボリさん、クダリさん。――ッわっ!?」

 

「クダリ、ツムギとピチューを頼みます。」

 

ハタ、と気が付いて確認しようとした瞬間、俺の肩をぐいっと引き俺とクダリさんを背に庇うように一歩前に踏み出したノボリさんに遮られる。

 

って、また!?

 

「え、あ、待ってノボリさん!!」

 

「ツムギ、ここにいて。」

 

慌ててノボリさんの背中に駆け寄ろうとするけど背後から両肩にがしっと手を置かれて思わずクダリさんを振り返った。

 

「っ、クダリさん!」

 

「大丈夫。ここはノボリ兄さんに任せよう。」

 

うん。そうなんだけど、そうじゃなくて!

 

「あの、あのさ、さっきから遮られてばかりなんだけど、ピチューってさ……」

 

「お客様。大変申し訳御座いませんがあのピチューはギアステーションで保護してるポケモンで御座います。ゲットはご遠慮願いま」

 

「ねぇ、クダリさん! ピチューって保護してるって事は野生じゃないよね? それで、もしかしたらだけど! ピチューのモンスターボール、ノボリさんかクダリさんが持ってるんじゃない!?」

 

このままじゃいつまで話が平行線なまま気がして思わずノボリさんの言葉を遮って散々遮られた言葉をクダリさんに伝えると、白い彼が驚いたように瞳を瞬かせて頷いた。

 

「うん。初めはイッシュに野生のピチューはいないからトレーナーとはぐれたんだろう思っていたんだけど、一度ピチューがモンスターボールでゲットされかけた事があったんだ。それで、少なくてもピチューが誰かの手持ちじゃないって事が分かったんだけど、ピチュー自身に僕らの手持ちになるつもりがないみたいだったからジョーイさんに事情を説明して保護用のモンスターボールを貰ったんだ。そのモンスターボールはノボリ兄さんが持ってるよ。それにしてもツムギ、よく分かったね。」

 

「うん。クラウドさんが『人のものを取ったら泥棒』って言ってたし、さっきの二人の『ありがとう』が『手持ちを助けてくれて』ありがとうっていう意味なら、辻褄が合うなって思って。何よりノボリさんとクダリさんが、そんないつ誰にゲットされるか分からないような不安定な環境でピチューを保護しないと思ったから!」

 

「――そっか。うん。例え保護だとしても『サブウェイマスター(僕達)の手持ち』って事にしておけば、手を出してくるトレーナーなんていないと思ったからね。」

 

俺の肩に置いていた手を頭に移動させ、そのまま俺の頭を撫でながらクダリさんがあんぐりと口を開けて俺達のやり取りを聞いていた男へとすぃっと瞳を細めた。

 

「……さ、サブウェイマスターの、手持ちっ!? そんな……!」

 

「成る程、そう言うことで御座いましたか。」

 

男の様子に事情を把握したノボリさんがス、と姿勢を正した。

 

「お客様、先程のわたくしの発言は認識の齟齬を生じさせてしまうもので御座いました。申し訳御座いません。改めて、訂正させて頂きます。あのピチューは、仮では御座いますがわたくし達、サブウェイマスターの手持ちで御座います。ゲットはご遠慮願います。」

 

ノボリさんの言葉にがくりと項垂れた男に全員が小さく息を付いた。

 

「と言うか、それ伝えてなかったんだ。」

 

「ええ、すみません。」

 

「それを言う間もなく、ピチュー抱えて逃げられてしもうたんや。――まあ、これで誤解は解けたみたいやけど、一応駅員室には来てもらわんとな。≪どくどく≫の件もあるさかい。」

 

「ソウダネ。」

 

肩越しに振り返ってクダリさんに応えるてつどういんさん達の隣でノボリさんもまた肩から力を抜き、自らのパートナーであるシャンデラへと視線を向けていた。

 

「――では、参りましょうか。その前に、シャンデラ。ミルホッグの≪サイコキネシス≫を解いて下さいまし。」

 

「シャン。」

 

「――――ワウ!!」

 

『駄目だ!!』

 

シャンデラがノボリさんに応え、≪サイコキネシス≫を解こうとした刹那、それまで黙って男を見ていたルカリオが鋭く叫んだ。

その『声』に弾かれるように男を見遣る。

 

まさかっ!!

 

「…………サブウェイマスターの手持ち、だって。そんなの、()()()()()()()()!!」

 

瞬間、男の目にぎらりと剣呑な光が走ったのが見え咄嗟に叫んだ。

 

「ッ!! ノボリ兄さんっ、シャンデラ!! 駄目だ!! ≪サイコキネシス≫、解かないで!!」

 

「ツムギ!?」

 

「シャラッ!?」

 

その声にノボリ兄さんとシャンデラが振り返った一瞬の隙を付き、男が叫ぶ。

 

「ミルホッグ!≪フラッシュ≫だ!」

 

「ミルホッグ!!」

 

男に応えたミルホッグが≪フラッシュ≫を発動させる。

 

カッと目を焼く閃光に咄嗟に背を向け、ピチューをしっかりと胸元に抱え込み≪フラッシュ≫から庇うと同時に俺もまた、ぐいっと腰を引き寄せられ彼の胸元にしっかりと顔を埋める形で抱き締められた。

 

「ッ……クダリ兄さん!」

 

彼ら御用達のコロンの香りと一瞬見えた白いコートの腕に、それが誰かなんて考える必要すらなくて名前を呼べば、俺を抱きしめる腕に力が篭った。

 

 

 

 

 

やがて≪フラッシュ≫が収まると男とミルホッグの姿はすでにどこにもなかった。

 

「――どうやら逃げられてしまったようで御座いますね。皆様お怪我は御座いませんか。」

 

「ああ、大丈夫や」

 

「大丈夫です。」

 

「ウン、チョット目ガシパシパスルケド、大丈夫ダヨ。」

 

「ワウ」

 

「うん、大丈夫。でも何でだろう。それ程駅員室に行くのが嫌だったのかな。 あ、ツムギ、ピチュー、大丈夫?」

 

「ピチュッ!」

 

「…………うん。クダリ兄さんが庇ってくれたから、大丈夫。」

 

皆のやり取りを聞きながら、俺を抱きしめる手の力を緩めたクダリ兄さんに少しだけ唇を尖らして答えれば、クダリ兄さんは少しだけ困ったように眉を下げて笑いながら俺の頬を軽くつつく。

 

「ツムギ、凄い顔してるよ?」

 

「…………だって、俺、こういうのやめてって、前から言ってるのに……。」

 

そう、これはそれこそ二人と出会った当初からなんだけど、何かあるたびにノボリ兄さんもクダリ兄さんもまず俺を庇うのだ。

 

そりゃ二人からしてみれば俺はまだまだヒヨッコだし、庇護対象なのかもしれないけどさ。

 

――――でも。

 

脳裏に自分の最期が過る。

 

…………あの時、自分がした事に後悔なんてしてないけど。

 

でも、俺は知ってる。

誰かを庇った事で、庇った相手が危険になる事だってある事を知ってる。

 

だからとは言わないけど、俺はこういう風に庇われたり守られる事が少し苦手だった。

 

むしろ誰かを庇ったり守ったりしてる方が性に合ってる。

 

……前世でもそうしてたし。

 

そんな事を考えているとクダリ兄さんが俺の頬をむにっと摘まんだ。

 

「……クダリ兄さん?」

 

「本当意固地だよね、ツムギは。それでも出会った当初に比べたら甘えてくれるようにはなったけどさ。」

 

そのままムニムニと頬を揉まれていると、ぽすりと微かな音を立ててノボリ兄さんが俺の頭に手を置いた。

 

「……ノボリ兄さん。」

 

「そうで御座いますね。わたくし達からしてみればまだまだ足りないものですが。……ところで、貴方にそう呼ばれるのは久しぶりで御座いますね、ツムギ。」

 

「――――え?」

 

意図が分からずきょとんとすれば、ノボリ兄さんとクダリ兄さんがその温かな光を宿した銀灰色の瞳を細めた。

 

「そうだよね。トレーナーになってから、ツムギ、『これからはトレーナーで挑戦者だから』とか言って僕らの事そう呼んでくれなくなっちゃったし、久しぶりだよね。」

 

「ええ。本当に久しぶりで御座います、貴方に『兄』と呼ばれるのは。」

 

「…………あっ!」

 

ノボリ兄さんの言葉に素でそう呼んでいた事に気が付き、ハッと口を掌で覆った。

 

ちなみに『兄さん』と言っても俺とノボリさんクダリさんに血縁関係はない。

ないけど、俺にとってノボリさんとクダリさんは大切で大好きな『兄さん』なんだ。

 

それこそ、トレーナーになるなんて考えてすらいなかったあの日から、ずっと。

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