*あなたの足元に《鎮守府の権利書》が転がってきた。 作:秋乃落葉
暁の頃、ノースティリスに向かう商船の中であなたは目を覚ました。隣で鼾を立てて眠る水夫の傍らに転がるビアの瓶を拾い上げ、すぐに投げ捨てた。床に薄く残った染みを恨めしそうに見やって、寝床を這い出した。
この船の船長は酷く守銭奴であった。密航のために貯めたなけなしの金の額がお気に召さなかったようで、あなたは食事もろくに回されず、時に食料を盗み食い、時に船倉に巣食う鼠の生肉を貪って、空腹を満たしていたというよりも生きながらえていた。
あなたが甲板に上がると、僅かに白み始めた水平線が目の前に広がった。まだノースティリスは見当たらない。がっくりと肩を落として甲板上を見渡した。とにかく水が欲しい。右を見渡し、左を見渡し、最後に空を仰いだ。
まだ暗い天頂に、一筋の星が流れていた。
あなたは意味もなく、流星に願い事を唱えた。何もおきない。当然だ。願いは、願いの杖を手に入れるか、泉を飲み干して初めて意味のあるものだと相場が決まっている。ゆっくりと流れる流星は、まるでこちらを嘲笑っているかのようだ。・・・ゆっくりと?
「砲撃だ!こっちに飛んできてるぞ!!」
誰かが叫んだ。最早思考を巡らせるだけの時間はなかった。どこの誰が放ったかもわからぬ砲撃によって、あなたの乗る商船は破壊され、あなたは海へと投げ出された。商船は炎上している。程なく沈むだろう。
薄れる意識の中で、あなたは世界へ吐き捨てる遺言を考えた。
◆ ◆ ◆
あなたは波打ち際で目を覚ました。頭痛が酷い。無理矢理に体を起こすと、胃の内容物がこみ上げてきて、そのまま砂浜にぶちまけた。しかし『物』といえるものはほぼなく、海水を吐き出しているのと同じことだった。
体力の消耗が激しい。空腹ももう限界だ。だがあなたは生き残った。その幸運を、幸運の女神エヘカトルに感謝した。霞むほどの遠くだが、海岸沿いに街があるのが見える。これでも冒険者を志すものとして、目には自信がある。
ああ、やっと宿で美味しい食事を取り、暖かいベッドで眠ることができる。もう一頑張りだ。あなたは決意とともに腰の短剣を引き抜こうとした。しかし右手は空を切った。頭上の疑問符と共に腰に視線を送る。ベルトに下がっていたはずの短剣がない。いや、それどころか雀の涙ほどの財産を仕舞い込んでいた雑嚢も空っぽだ。
あなたは抱きかけた神への信仰心をかなぐり捨てた。金も、武器もない。売って金になるような物は何一つ手元に残っていない。思い当たる限りの罵詈雑言を口にして、やがてそれも思い浮かばなくなると、仕方なしに街を目指してトボトボと歩き始める。
金があれば、一夜は凌げるはずであった。短剣があれば、冒険者として簡単な仕事程度はこなすことが出来たはずであった。今はどちらもない。街へついたら、乞食でもするか。もしくは、自分を売るか。それがどんな意味合いであれ。
まとまらない思考を巡らせたあなたは何かに躓いた。疲労と空腹からか、ろくに受け身も取れずに砂浜に倒れ込んだ。地面が石かレンガだったら、あなたの額は割れていたことだろう。最早恨めしい視線を向ける気力もなく、うつろな目で足を引っ掛けたモノを見た。
あなたの胸が、高鳴った。
それは、ミンチになった肉塊だ。無意識に喉がなる。肉塊へと飛びつき、しゃぶりつこうとした。・・・肉塊に混じって、この肉塊がまだ生き物だった時の持ち物であろうものが転がっている。ああ、どう見ても人間の持ち物だろう。この肉塊の正体は人肉か。
あなたは肉塊を口に運んだ。やはりこれは人肉だ!
◆ ◆ ◆
あなたは肉塊を食べ終えた。少し物足りない・・・。だが鼠に比べれば十分な量だった。
さて、腹も満たされたところで彼の、あるいは彼女の遺品を物色させて貰おう。
ブロンズ製の短剣。これは助かる。多少の防具。冒険者だったのだろうか?ありがたく頂戴しておく。アイテムポーチのようなものをひっくり返す。はらりと一枚の紙が落ちる。
あなたの足元に《鎮守府の権利書》が転がってきた。
これは・・・権利書か?
権利書。その名の通り土地の所有権を示した権利書だ。使用すれば神の御業か、その土地に、権利書に対応した建造物がたちまちに建設されるアイテム。当然駆け出しの冒険者風情が簡単に手に入れられるものではない。商店に持ち込めば、いいように買い叩かれたとしてもいい値になる。あなたは失いかけた信仰心を取り戻したような気がした。
しかし。・・・何らかの手違いか、はたまたエヘカトルの気まぐれか。それは誤作動を起こした。
『提督が鎮守府に着任しました!これより、艦隊の指揮を取ります!』
何が起きたのかも理解できぬまま、あなたは辺り一帯を覆うまばゆい光に晒された。とてもではないが目を開けてはいられない。あなたが再び目を開けた時、その目に飛び込んできたのは、巨大な港のような施設と、その中に佇む一人の少女。
「初めまして、提督。僕は『白露型駆逐艦二番艦《時雨》』・・・これから、よろしくね」
(初めに現れたのが時雨なのは私の完全な趣味なのでなぜ初期艦勢ではないのかという疑問については答えられ)ないです。