*あなたの足元に《鎮守府の権利書》が転がってきた。 作:秋乃落葉
あなたは驚きと後悔の念を感じた。このような施設を建設する権利書は初めて見た。おそらく貴重なものだったのだろう。つまり売り払えば大金が舞い込んできたということだ。宿を取り、食事を済ませればそれで140goldほどの金が飛ぶ。誰かの遺品から手に入れた物を処分したとして、今の手持ちでは一ヶ月も持たない。
*あなたの足元に《鎮守府運営マニュアル》という題名の本が落ちている。
マニュアル、か。そう思ってあなたはその本を拾い上げ、表紙を開いた。この施設が建設された時に同じく生成されたものだろう。実に親切なものだ。
*鎮守府運営マニュアル written by イェルス海軍造兵廠
栄えあるイェルス軍パルミア駐屯軍団で任務についているであろう君にこの書を送る!この度我がイェルス軍は激化するノースティリス大陸でのエウダーナ、ジューア両軍との戦闘に対応するため、新兵器の投入を決定した。それが仮称《海上型機械化兵艤装》及びそれを標準装備とした機械化兵である。その活動拠点となるのが、君に建設してもらった《鎮守府》というわけだ。
鎮守府は前述の通り海上型機械化兵を運用するための軍事拠点だ。建設初期段階では規模の関係で大型の船舶を乗り入れることは出来ないから注意して欲しい。それから初期段階から配備されているのは機械化兵一人であるので、十分に周辺の安全を確保してから建設することを推奨する。各施設の利用等についてはその機械化兵から説明を受けること。
では、君と、私達の開発した海上型機械化兵がノースティリスでのイェルス軍を勝利に導くことを祈っている!
ps.陸軍の猿どもが大型兵器の生産のために莫大な予算を要求してきた。そのせいで我々の新兵器配備計画は中止だと。私が会議で異を唱えたら、「制海権は現状問題ない」と抜かしやがった。ならば開発途中で生まれたこの“出来損ない”共をノースティリスに放ってやる。苦しみやがれ。
あなたは苦虫を噛み潰したような顔をした。これは厄介な代物だ。イェルスは言うまでもない。このノースティリス、パルミア国内でも最も大きな利権を保持する大国だ。そのイェルス軍の軍事拠点と新兵器だと?あなたは《時雨》と名乗った少女を見た。少女は澄んだ碧い瞳で世界を憂いている。
そもそもなぜそんな代物をあの肉塊が持っていたのか疑問ではあるが、このノースティリスで真相を見つけ出すことは不可能だ。何回の窃盗、強奪を繰り返されてきたものなのか想像もつかない。少なくともまともな方法で流れてきたものではないだろう。
厄介払いするべきだろうか。漂着した地点を推測するに、ここがノースティリスで間違いないのであれば、遠くに見えるのはパルミア最大の港町であるポート・カプールだろう。本当ならばあの街で商船から降りる予定だった。今もそこに向かっていた。だがポート・カプールに向かえば間違いなくイェルス兵に出会う。《時雨》を連れ歩けば必ず目をつけられるだろうし、この施設が見つかった時にどう対処されるかわかったものではない。
南に向かえばダルフィの街がある。あそこは犯罪者の唯一の拠り所のような街で、奴隷商人もいたはずだ。《時雨》を売り飛ばして、ここにはもう戻ってこないのが正解だろうか?・・・いや、そこまでたどり着けるだけの食料はない。飢えに耐えかねて、あなたが時雨をミンチにするのが先になるだろう。もしくは、反撃されたあなたがミンチになるか。
あなたは《時雨》に問いかけることにした。これからどう行動すべきなのか。
「どうするって・・・提督として鎮守府の運営をすべきだと思うけど・・・。君はイェルス軍の軍人じゃないの?・・・まさか敵兵!?」
《海上型機械化兵艤装》と呼ばれていた装備の砲門がこちらに向けられた。あなたはとっさに両手を上げ、《時雨》を静止する。自分がイェルスに敵対する意志はないこと、自分がノースティリスにたどり着いた経緯、誤ってこの鎮守府を建設してしまっただろうということを説明した。
「・・・そっか。冒険者としてノースティリスに来たんだね。そしてエウダーナ軍でもジューア解放軍でもないでもないとなると・・・。じゃあ、イェルス海軍に協力者として参加するのはどうかな?」
随分と突拍子もない提案が来た。なるほど、それができれば確かに合理的であろう。軍から依頼が回ってくれば金銭的にも大分余裕ができるし、イェルス軍に怯えながら生活しなくても住むのだから。最も、協力者としての参加を求めに言ったところで、その場で物言わぬ肉塊に変えられるリスクを許容出来ればの話だ。どうすべきか。あなたは懸念をそのまま口にした。
「うーん、確かにその可能性は否定できない。はっきり言って君はイェルスの軍事機密に触れてるわけだから、このままさよならとは行かないよ。こうなってしまった以上、僕には君をポート・カプールの司令部に連行する義務がある」
あなたは選択の余地がないことを悟った。指摘されるまで気が付かなかったのも不思議なものだが、このまま立ち去れる訳がない。《時雨》を切り伏せて逃げるとしても、片や数刻前まで海を漂っていた軽装の冒険者、片や少女とは言え完全武装した機械化兵だ。勝算があるとは思えない。というか、ポート・カプールに司令部が置いてあるというのも驚きだが。
パルミアは完全な中立国であり、文字通り必要最低限の軍備しか有していないが、それでも大きな町中に他国軍の駐屯地を設けたという話は聞いたことが無い。しかもポート・カプールは前述の通りパルミア最大の港町であり、貿易の要衝である。そんな重要な街に他国の兵士を招き入れ、更に司令部まで置いたとあっては、喉元にナイフを当てられているのと同義である。相手がその気になれば、即座に占領され、国家の貿易の大半が滞るのだから、普通ならそんなことはしない。
「・・・まあ、パルミアにも受け入れざるを得ない理由があるってことさ。詳しくは教えられないけどね」
《時雨》はごめんね、と言って微笑んだ。その仕草は可愛げのあるものだが、その実彼女に生殺与奪権を握られていると考えると、奇妙な錯覚に陥っているような気分だ。
「そう悪いことにはならないさ。イェルス海軍は今人員不足だから、協力の意志がある人を無碍に殺したりしないはずだよ。それに間違って建設したとは言え、君がこの鎮守府の提督だ。僕からもお願いしてみるよ」
あなたは最早覚悟を決めるしかない事実を受け入れ、《時雨》に頷いた。ああ、ミンチにだけはなりたくないな。あなたはせめてもの足掻きに神に祈りを捧げようとした。しかし、今更ながらあなたには信仰している神などいないことに気が付き、一言だけ悪態をついた。
今更ながらelonaの用語解説。
ガバガバ知識なのでゲーム本編の解説としては誤った内容になるかもしれませんが、この小説内のノースティリスはここの解説の内容で生成されたものとしてやってきます。
ノースティリス…elonaの舞台となる大陸。主にパルミアという国が支配している。定期的に地殻変動を起こし、ネフィアというダンジョンが生成される。そのため冒険者がたくさんいる。
パルミア…ノースティリスの大半を国土にする国。外交上手の永世中立国らしい。イェルス国にパルミアの国境守備と治安維持を代行することを条件に、古代文明の遺跡であるネフィアの探索と利益の権利を一部与えている。
イェルス…古代の機械文明の遺産の研究で近年台頭してきた大国。アセリア大陸という大陸に本土を構える。ノースティリスの南、サウスティリスにあるジューア国を支配下に置くため戦争してたりもする。魔法大国であるエウダーナと合わせて二大国と呼ばれる。魔術や宗教を否定しているのでエウダーナと対立している。
エウダーナ…過去に強大な魔力を持つ秘法を発見して超大国となった魔法国家。現在は秘法の力が弱まり、衰退してきている。その衰退を止めるべく世界各国に新たな秘法を求めて兵を送っている。
ジューア…サウスティリス大陸の大半を占める国。実際は遊牧民の群の集まりで出来ているので、国家というよりその遊牧民達をジューアと呼んでいる。
ポート・カプール…パルミアの北西に位置するパルミアで一番でかい港町。交易が盛ん。
ダルフィ…パルミアの南西に位置するジューア人の自治区。パルミア国の衛兵はこの町にはいないので、犯罪者となって、パルミアに居られなくなった人間が最後に行き着く町。