*あなたの足元に《鎮守府の権利書》が転がってきた。   作:秋乃落葉

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*職業の選択:『提督』

 《鎮守府》からしばらく歩き、あなた達はポート・カプールに到着した。街は船で賑わっている。街には水夫や交易商人、冒険者から乞食まで様々な人々が行き交い、活気付いた街だと一目でわかる。街道に軒を連ねる露店はあなたを散財の魅力に誘っているようだ。

 

 その人波の中を《時雨》はずんずん先に進んでいく。その背中を追っていくと、やがて埠頭のある区画にでた。ポート・カプールに軍令部が置かれているというから町中にあるものと思っていたが、意外と中央から離れているものだ。当然といえば当然か。

 

 迷いなく進んでいた《時雨》の足があるところで止まった。どうやらこのあたりで一番大きな倉庫のようだ。よく観察してみると扉には電子ロックであろう機械がついており、どことなくイェルスの雰囲気を感じさせる。一般の商会や交易商人が利用するような倉庫はもっと簡素な鍵が付いているのみだ。いかに扉が堅牢であろうと、倉庫の壁を破壊されて中身を抜き取られるのがノースティリス式の窃盗なのだ。

 

 《時雨》が機械に手をかざすと、すぐに解錠されたようで、あなたは《時雨》に続いて倉庫の中へと足を踏み入れた。倉庫内には多数の照明が設置されており、屋内でありながら外と変わらぬ明るさだ。当たりを見回すと、小さな人型の生き物が駆け回っているのが見えた。あれは妖精の一種だ。

 

 妖精というのはこの世界においてポピュラーな生物の一種に数えられる。その中でも当然種類があり、あなたが倉庫内で発見したのは親しみを込めて“妖精さん”と呼ばれる、人間にも友好的な可愛らしい種のものである。余談にはなるが、“妖精さん”と出会うのはほとんどが町中である。町の外で出会う妖精の大半は人間に敵対的な種であり、出会った途端に『幻影の光線』と呼ばれる魔法攻撃を仕掛けて来る上、その攻撃をかいくぐり、やっとの思いで接近したとしても、ショートテレポートを用いて逃げ出してしまう、悪魔のようなモンスターだ。

 

 そのような、町中で見かけることが珍しくない妖精さんにあなたが気を惹かれたのは、その存在に違和感を感じたからだ。彼女達はどうやらこの倉庫内で仕事に従事しているらしい。よくわからない機械の部品を運んでいたり、何かを組み立てたりしている。それ自体は何ら珍しいことではない。妖精さんは非力ではあるが、知能も高く、器用な作業ができ、人間と比べて多額の給料を要求しないことから簡単な仕事に付いている妖精さんも少なくない。だが妖精は豊富な魔力を有する種族であり、機械科学を自らの発展の礎としているイェルスにしてみればあまり好ましい存在ではないだろう。最も、イェルスとてこの世から魔術を消滅させようとしているわけではないので、そう気にすることでもないのかもしれない。

 

 ひょこひょこと動き回る妖精さんたちを横目に倉庫の奥に足を進めると、そこに一つの扉が見える。きっと小部屋があるのだろう。察するに、今あなたがいる場所は工廠に当たるところで、この先の小部屋が司令部となっているのだろう。さて、果たして生きてここを出ることができるだろうか。

 

 司令部に立ち入った途端、機械化兵共に組み伏せられ、念入りに脳みそをシェイクした上でポート・カプールに水揚げされる魚達の食料にされる事だってありえる。次第に早鐘を打ち始めた鼓動を落ち着けるために、腰に下げられたブロンズの短剣に触れた。なんとも心許ない武装だ。せめてこの短剣がルビナス製くらいの物であったら、もう少し安心もできようものなのだが。

 

 あなたの緊張を知ってか知らずか、《時雨》は少しも躊躇することなく扉を叩いた。中から返答の声が聴こえる。女の声だ。

 

「鎮守府付秘書艦の《時雨》です。《鎮守府》設営任務が完了しましたので、ご報告に参りました」

 

『うむ、入ってくれ!』

 

 入室の許可が出たようで、《時雨》が扉を開き、あなたに入室を促している。あなたは覚悟を決めて部屋へ踏み込んだ。幸い、伏兵の類は見当たらない。それどころか、この部屋の中にいたのはたった三人のみだったようだ。三人は部屋の中央に置かれた大きなテーブルを囲むように立っており、その上に広げられた紙に目を落としていた。

 

「よくぞ任務を遂行してくれたな!開発主任の大馬鹿が《鎮守府の権利書》をブラックマーケットに流したと聞いた時はイェルス海軍もおしまいだと思ったが・・・首の皮一枚繋がった気分だよ」

 

 真ん中に立つ長身の女はそう言いながら、何やら紙に書き込んでいる。よく見てみれば、それはノースティリスの地図のようだ。彼女はペンを置くと、初めて顔を上げてこちらを向いた。

 

「これで前哨基地も・・・誰だお前は?」

 

 あなたは気づかれていなかったらしい。さすが軍人というべきか、女とは言え睨まれるとなかなかに迫力があって恐ろしい。あなたはとにかく説明せねば、と口を開こうとしたが、一足先に《時雨》が説明を始めた。

 

「《長門》司令官、この方は居所の不明だった《鎮守府の権利書》を入手して、建築した方です。冒険者をされているそうで・・・」

 

「冒険者だと?」

 

 《長門》司令官と呼ばれた女は突き刺さるように鋭い視線を向けたまま《時雨》の言葉に返答している。あなたの首筋を冷や汗が流れた。右手が落ち着かない。今にも短剣の柄を握りたい気分だ。しかしそれは賢明な判断でないことはわかっているのでじっと我慢する。《長門》は《艤装》こそ装備していないが、腰には拳銃の入ったホルスターが下がっているのが確認できる。両脇に立つ二人の女も同じだろう。一人くらいは始末できる自身はある。だが三人、場合によっては四人を相手することになれば、間違いなく蜂の巣のち、ミンチだろう。

 

「率直に聞こう、冒険者よ。貴様はイェルスに対して幾ら要求するつもりだ?」

 

 《長門》は低い声で、ゆっくりと言った。幾らとは当然金銭の額のことだろう。どうやらあなたは軍事機密たる鎮守府を出汁に、金銭を強請りとろうとしている冒険者だと思われているようだ。無理もない。この世で最も金に汚いのは商人だが、二番目は冒険者だから。その二つの職業を兼ねていることすらままある。あなたは声が裏返らぬよう、慎重に金銭を求めるつもりがないことを伝えた。

 

「金はいらぬ、と?ふん、ならば物か?それともイェルス軍の管理下にある未調査ネフィアの探索の権利でもよこせというのか?」

 

「いえ、あの、《長門》司令官、実はこの方、イェルス海軍に協力者として雇って頂きたいとお願いに来たんです」

 

「協力者だと?・・・解せんな。なぜ冒険者がわざわざ自らの自由を縛るような真似をする?自由な環境で自らの力を奮って生きるのが冒険者だと思っていたがな」

 

 彼女はなかなか警戒を解こうとしない。しかし気のせいか、あなたが協力者としてイェルス軍に参加したいと《時雨》が伝えた時、ほんの少しだけ《長門》の敵意が薄れた気がした。

 

「実は、この方はつい最近ノースティリスに来たばかりだそうです。ノースティリスには頼るつても何もない。だからイェルス軍に参加して、ノースティリスでの下地を作りたいということです」

 

「ふん、なるほど」

 

 《長門》はあなたを舐めるように見ている。しばらくして、右隣に立つ眼鏡をかけた女に「どう思う」と問いかけた。

 

「我が海軍パルミア軍団は慢性的に人員不足です。今は尚更。私としては断る理由はないと思いますが。ですが協力者として参加していただくにしても、どの程度出来る人物なのか、アピールしていただく必要があると思います」

 

 眼鏡の女はテーブルの端に積み重ねてある書類から一束抜き出し、《長門》に手渡した。

 

「ですので、この作戦の実行を以って、彼の入軍試験となさってはいかがですか?」

 

 《長門》は書類に軽く目を通し、頷いて眼鏡の女に返した。既に一通り読んだ書類だったのだろう。あなたは嫌な予感がした。大抵こういった時は面倒事を回されるものだ。

 

「いいだろう。《大淀》、作戦要綱を説明してやってくれ」

 

「畏まりました」

 

 この眼鏡の女は《大淀》というらしい。《長門》が司令官であるから、意見を求められた《大淀》は副官か、または参謀だろうか?地図を見てください、と《大淀》に促され、あなたは改めて地図に目を向けた。沿岸部の、サウスティリスとの国境付近の場所に印がつけてある。

 

「この印は我々が前哨基地を設営した場所です。本当は《鎮守府の権利書》を使用して前線に泊地を設営し、ポート・カプールから少々遠い南方を制圧する予定だったのですが、肝心の権利書が行方不明になりましたので、発見されるまで、もしくは陸軍の工兵隊が設営を完了するまでの拠点として前哨基地を設営することにしました」

 

 この地域はあなたの知識が正しければ、イェルス軍とジューア軍の戦力がちょうどぶつかる当たりの地域のように思う。素人目ではあるが、ここに前哨基地を設営するのはなかなか骨が折れる作業なのではないだろうか。

 

「我々《海上型機械化兵》と言うのは、海上で船舶と同じように制海権を保持できる兵装を持ちながら、強襲上陸時には陸戦歩兵としての戦闘が可能という、いわば水陸両用がコンセプトです。よって海上からの攻勢によって前哨基地を設営したのですが、思いの外ジューア軍の反撃が強い。そこで、あなたには前哨基地の友軍と合流、その後あなたの設営した鎮守府まで撤退支援を行っていただきたいのです」

 

 あなたは息を呑んだ。撤退支援といえば聞こえがいいが、要するに《大淀》はイェルス軍の撤退が完了するまで敵を押し止める、つまり殿を勤めろと言っている。当然ながら攻撃を仕掛けてくる敵を背に全員が逃げては、まるで背中を撃ってくれと言っているようなものだ。誰かが一番後ろで敵を押しとどめる必要がある。

 

「具体的な方法は指定しません。現地で指揮を取っている司令官と相談していただければ結構です。・・・もしこの作戦が成功した暁には、あなたをあの鎮守府の提督にするのもやぶさかではない、と思っています」

 

「なっ・・・!《大淀》、それはやり過ぎだろう!」

 

 《大淀》の言葉に思わず《長門》が口を挟んだ。当然だ。ただの一冒険者を基地の司令官としていきなり雇おうという人間がどこにいる?それが高名な冒険者ならまだしも、自分にそんな名声がないことはあなたが一番良くわかっている。

 

「いいえ、《長門》司令官。私は本土から送られてくる、きっと無能な将校よりも、この作戦を成功に導くことの出来る冒険者の方がずっと役に立つと考えています。それほどまでに、我が海軍には余裕が無い」

 

「しかし・・・いや、分かった。仮にこの作戦を成功させることができれば、彼を鎮守府の提督として迎えよう。だが、何が何でも成功させなくてはならない作戦だ。最後に、貴様に選択肢を掲示する」

 

 そういうと《長門》は、部屋の隅に置かれた箱の元へ向かった。何やら操作しているところを見ると、あれは金庫か何かだろう。箱の中から一つの袋を取り出した《長門》は、それをこちらの目の前へ放り投げた。中身を見ずとも音でわかる。多額の金貨が入っているのだ。

 

「その中には貴様の功績に見合った額の金貨が入っている。設営してしまったとは言え、結果的にイェルス海軍の元に鎮守府が戻ったのだから、それくらいの価値はあるだろう。もし貴様にこれ以上首を突っ込む気がないというのなら、その金を持って去るといい」

 

 あなたは思いがけず、大金を目の前にした。正確な金額は分からないが、きっとかなりの金額が包まれているのだろう。やはりあなたは幸運だった。・・・あの人肉に食らいついたときから。そう、あなたが選択するのは。

 

 

 

 

 

「そうか・・・。いいだろう。君に正式に依頼する。我がイェルス海軍前哨基地に駐屯する友軍の撤退支援を遂行せよ!!」

 

 あなたは死地へ向かうことを選んだ。それは狂気の選択だ。

 

 だが、それでいい。ノースティリスで大望をつかむのならば、狂っていなければ愚にもつかぬ。

 

「威圧して悪かったな。私は軍人として、どうしても金で転ぶ冒険者が嫌いなんだ」

 

 《長門》は先程までと打って変わって柔らかい雰囲気で語りかけてきた。内心こちらも軍人は苦手だ、と思いつつも、穏やかに対応して見せる。

 

「そういえば、自己紹介もしていなかったな。私はイェルス軍パルミア駐屯軍団海軍部司令官《長門》だ。よろしく頼むぞ」

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