ロクでなし魔術講師と死神の魔術師   作:灰ノ愚者

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なんとか徹夜して書けた。。゚(゚´ω`゚)゚。

楽しんで呼んで頂けるとありがたいです‼︎
更に【感想】や【評価】と【お気に入り】、
【しおり】などよければお願いします‼︎

今回は『原作より』の予定です。


愚者の愚策

「痛ぇ……マジで痛ぇ……

こ、ここまでやるか? 普通……」

 

 

現在十二時過ぎ。昼休みの時間。

全身引っかき傷と痣だらけ、衣服ズタボロの姿と

なったグレンが、涙目でゾンビのようによろよろと

学院内廊下を徘徊していた。

 

 

すれ違う生徒達が無様な姿のグレンを見て

ぎょっとするが、人の目を気にしている余裕は

今のグレンにはない。

 

 

「しっかし、最近のガキ共は発育が良いな……

一体、何を食ったらあんなにすくすく育つんだ?

……一人発育不良なのもいたけど。

まぁ、いいや、メシだ、メシ」

 

 

と、当の本人に聞かれたら命を落としかねない

恐ろしいセリフをつぶやきながら、グレンは

魔術学院の食堂へと足を運んでいた。

 

 

アルザーノ帝国魔術学院の食堂は、巨大な貴族屋敷

のような学院校舎本館の一階に存在する。

 

 

「此処が…食堂……たかが食堂に金かけ

過ぎだろ…」

 

 

出される料理は安くて美味しいと、生徒達から

は伝統的に評判がある食堂だ。

 

 

「こう言う派手な場所は一番嫌いなんだがな……」

 

 

ノワールは躊躇いながらも料理を注文しようと

護衛対象のルミアにバレないように端っこの席

に陣取るとグレンが怠そうに食堂にやって来た。

 

 

「ここを利用するのも久しぶりだなー」

 

 

すると引っ掻き傷と痣だらけ、衣服ズタボロの姿

となったグレンが食堂にやって来る。

 

 

食堂内には、白いクロスがかけられ、燭台で

飾られた長大なテーブルが何列もあり、午前の

授業を終えて食事を取りに来た生徒達で混雑

していた。基本的に、食堂の利用者は奥の厨房

カウンターで料理を注文し、代金を支払って料理

を受け取る。そして、各自、自由にテーブルに

腰かけ、食事を取る。そういう方式だ。

 

 

グレンも奥のカウンターごしに、食堂のコックに

向かって料理の注文をした。

 

 

「あー、地鶏の香草焼き、揚げ芋添え。

ラルゴ羊のチーズとエリシャの新芽サラダ。

キルア豆のトマトソース炒め。ポタージュスープ。

ライ麦パン。全部、大盛りで」

 

 

グレンはいわゆる、やせの大食いと呼ばれる

人種だ。

 

 

「僕も注文するか……」

 

 

ノワールも奥のカウンターでサーモンのボイル焼き

とカステラとカルボナーラを注文していた。

 

 

「まぁ、セリカに愚痴を聞かされるよりは

マシかな………」

 

 

おかげで無職のスネかじりだった頃、

セリカに何度嫌みを言われたかわからない。

 

 

しばらく待っていると料理ができ上がった。

 

 

グレンは皮袋の財布からセルト銅貨を数枚

取り出して給仕の人に手渡し、木製お盆に

乗せられた料理を受け取る。

 

 

「さて、空いている席は……と」

 

 

食事をする生徒達で賑わい、ほとんどの席が

埋まっていたが、向かって右端のテーブルの隅、

隣り合う席が二つほど空いているのが見えた。

誰かに席を取られてはかなわない。グレンは早足で

そこに向かう。そして、ふと、気づいた。

 

 

 

「だからおかしいのよ、去年発表された

フォーゼル先生の魔導考古学論文の説は。

貴女もそう思わない? ルミア」

 

 

グレンが座ろうと思っていた席の正面に、

見覚えある顔が二つ並んでいる。

 

 

「僕は此処に座るとするか…」

 

 

ノワールは二人から少し離れた席で一人で昼食を

取っていた護衛対象のルミアの監視する為に。

 

 

「あの人の説だと、メルガリウスの天空城が

建造されたのは、聖暦前4500年くらいに

なっちゃうの。確かに次元位相に関する術式が

古代文明において本格的に確立したとされている

のが古代中期なんだけど、フェジテ周辺で多々

発見された古代遺跡の壁画や、発掘された

遺物からすると、聖暦前5000年には

もうすでにメルガリウスの天空城らしきものが

空に浮かんでいたってされてるの。この事実を

無視して、魔導技術的に不可能だからって

だけで、4500年説をごり押しするのは

どうかと思うわけ。あの人が新しく考案した

年代測定魔術は、どうもこの500年を

誤魔化すために作られたこじつけのような

気がしてならないわ! 机の上の思考や

文献調査を過剰に重視するあまり、

フィールドワークをおろそかにしがちな

現代の魔術師らしい説ね。」

 

 

「メルガリウスの天空城……か」

 

 

ノワールが呟くとシスティーナの話しがますます

悪化して言った。

 

 

「そもそも、古代中期の次元位相術式で、

本当に天空城が空に隠されているのだとしたら、

もうとっくに時間切れになってるはずじゃない?

だって、当時の大気のマナ密度からして、

エクステンション限界が―(略)

―古代文明が滅ぶ切欠になった

二度のマナの冬もあったし―(略)

―マナ半減期の値だって矛盾―(略)

ーそもそも表意系古代語の経時進化過程に三つの

素流分枝系統があるのは明らかで―(略)

―要するに紋章象徴学的な意味合いとしての

神と民間信仰の対立が―(略)

―テレックスの神話分解論でも古代文明が

単一文化じゃなくて―(略)

――(略)――(略)――」

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

食事も忘れてひっきりなしにまくし立てる

銀髪の少女に、聞き手に徹していた金髪の少女―

ルミアが、少し脂汗を垂らしながらあいまいな

笑みを浮かべていた。どうやら二人は

魔導考古学議論の真っ最中(やや一方的だが)

らしい。魔導考古学とは、超魔法文明を

築いたとされる聖暦前古代史を研究し、

当時の魔導技術を現代に蘇らせることを

目的とする魔術学問である。

 

 

その中でも、特にメルガリウスの天空城に

執心する魔術師達をメルガリアン、などと

呼んだりする。どうやら、あのシスティーナは

典型的なメルガリアンのようだった。

 

 

「…ルミア、なんか…可哀想だな同情するわ…」

 

 

ルミアはシスティーナのメルガリウスの

天空城の長話しを苦笑いや汗を流しながらも

親友の話しを聞いていく

 

 

「失礼」

 

 

一応、一言断って、グレンはルミアの正面、

システィーナの対角線上の席に、どかっと腰を

落ち着けた。

 

 

それでシスティーナはようやく我に返り、

グレンの存在に気づいたらしい。

 

 

「―ッ⁉︎ あ、あ、貴方は―」

 

 

「違います。人違いです」

 

 

(いや、違わないだろ……)

 

 

華麗にスルーして、グレンは食事を開始した。

鶏の香草焼きをナイフで適当な薄さに切り分け、

ライ麦パンに細切りの揚げ芋とチーズサラダを

挟んでかぶりついた。新芽サラダの苦みが

炭火焼き地鶏の香ばしい脂とマッチして、

さっぱりと食べられる。鼻孔をくすぐる

香草の匂いも実に食欲をそそる。

 

 

「美味ぇ。なんつーか、

この大雑把さが実に帝国式だなぁ…」

 

 

キルア豆のトマトソース炒めを

スプーンですくって口に含む。

 

唐辛子とニンニクが効いたトマトソースの

風味が実に良い。一方、先刻の事件から

この矢先、グレンのこのふてぶてしい態度に

システィーナは口をぱくぱくさせるしかなかった。

 

 

 

「おいおい!あの二人を混ぜるな‼︎

カオス的な危険以上の危険性があの二人には、

かなりあるぞ‼︎」

 

 

 

ノワールはそんな三人の絶望的でカオス過ぎて

誰も近寄らない席を見ながらノワールは

三人の行方をただ単に見守るしかなかった。

 

 

 

そんな中、三人の席で静寂ながらも

かちゃかちゃ、と食器が鳴る音が響いていく。

 

 

意外なことに、重苦しい沈黙のまま進む、

気まずい食事風景……とはならなかった。

 

 

「あの……先生ってずいぶん、

たくさん食べるんですね? 

ひょっとして食べるの好きなんですか?」

 

 

「ん? ああ、

食事は俺の数少ない娯楽の一つだからな」

 

 

 

「ふふっ、その炒め物、すごく美味しそう。

なんだか凄く良い匂いします」

 

 

というのも、グレンの登場により、

すっかり不機嫌そうに押し黙ってしまった

システィーナに代わり、なぜかルミアが積極的に

グレンへ話しかけるからだ。

 

 

「まぁシスティは愚者…いや…グレンの事を

目の敵のように写っているだろうしルミアは

二、三年前自分を助けてくれたグレン先生を

慕っている辺りか……まぁ、こんな紛い物で

死神に成り果てた暗殺者には、関係無いか…

それに僕の事を忘れているだろうしな……」

 

 

あからさまに敵意を向けてくるシスティーナと

違い、ルミアは、どうやら先ほどの事件を

あまり禍根に思っていないようである。

 

 

「ルミアは変な所で天然だからな……」

 

 

そう言えば、さっきもグレンに対する

折檻には参加してなかったようだった。

 

 

「お、わかるか? ちょうどこの時期、

学院に今年の新豆が入るんだ。キルアの新豆は

香りが良いんだ。これを食べるなら

今が旬ってやつさ」

 

 

グレンは自発的に人に話しかけるタイプでは

ないが、話しかけられればそれなりにきちんと

応じるタイプである。どうもルミアとの会話の

相性は良いらしかった。

 

 

(いつもそんな感じで話せば良いのに…

グレンもそこが幼稚だよなぁ………

何より彼奴は子供相手に大人気ない…)

 

 

「そうなんですか? 私も今度、

キルア豆の炒め物、食べてみますね」

 

 

「おう、マジお薦め。

なんなら今、一口食ってみるか?」

 

 

「え? いいんですか? 

私と間接キスになっちゃいますよ?」

 

 

小さく笑いながら、いたずらっぽく首をかしげ、

指を唇に当てるルミア。

 

 

「ふん……ガキじゃあるまいし」

 

 

呆れたように肩をすくめ、グレンが豆炒めの皿を

差し出す。

 

ルミアは嬉しそうに自分のスプーンで一杯それを

すくって口に含んだ。

 

ルミアの気安く人懐っこい物腰や、常に笑みを

絶やさない柔らかな雰囲気も手伝ったのだろう。

 

 

 

グレンも気づかないうちに口元を笑みの形に

緩めていた。

 

 

「……………………」

 

 

だが、その場においてただ一人、重苦しい雰囲気

を放つ少女がいる。

 

 

(システィさん‼︎ 顔‼︎ 顔‼︎ 鬼みたいになってる‼︎)

 

 

システィーナである。

彼女だけはルミアとグレンの談笑に参加せず、

ただ刺々しい視線でグレンを射抜き続けている。

 

 

「……ところで、そっちのお前。

お前はそんなんで足りるのか?」

 

 

流石にそこまで凝視されていると食べにくいので、

グレンはため息混じりにシスティーナに

話しかけた。

 

 

突然、話しかけられたシスティーナは一瞬

動揺したようだが、すぐに平静を取り戻し、

きつめの言葉を投げ返してくる。

 

 

 

 

「食事に関して先生に文句言われる筋合いは

ないはずですけど?」

 

 

「とは言ってもな……」

 

 

グレンは少女二人の前の食事に眼を向ける。

 

 

ルミアのメニューはポリッジと呼ばれる麦粥と、

香辛料の効いた鳩のシチュー、そしてサラダ……

 

 

ルミアが比較的しっかり食べているのに対し、

システィーナのメニューはレッドベリージャムを

薄く塗ったスコーンが二つ、それだけである。

 

 

(スコーン二つとか、もしかして‼︎

ダイエット⁉︎ ……なのかな?)

 

 

 

そうノワールがそう考えているとシスティーナは

こちらを見て睨みつけていた。

 

 

(やべぇ⁉︎ ……分かったのかな?)

 

 

するとグレンはシスティーナに質問していた。

 

 

 

「お前、成長期だろ? 食わないと育たないぞ?」

 

 

 

実際に育ってねーし、とはこの状況において

流石のグレンも言えなかった。いや…それが

賢明な判断だと思う。

 

 

 

「余計なお世話です。私は午後の授業が

眠くなるから、昼はそんなに食べないだけです。

真面目ですから。まぁ、先生にはそんなこと、

関係なさそうですけどね」

 

 

システィーナはグレンの前に並んだ

大量の料理を一瞥して言い放った。

そんな挑発的な言葉に、グレンとシスティーナ

の間の空気が一気に重たくなる。

 

 

「……回りくどいな」

 

 

(いや…大体はお前のせいだからな?)

 

 

ノワールは内心グレンにツッコミを入れていた。

 

 

 

すると食事を続けるグレンの声が半オクターブ

下がる。敏感にそれを察知したシスティーナの

表情に緊張が走った。

 

 

「言いたいことがあるなら、

はっきり言ったらどうだ?」

 

 

「……わかりました。このままだとお互いの

ためになりませんからね。この際、はっきりと

言わせてもらいます。私は――」

 

 

システィーナが、きっとグレンを正面から

にらみつけて何か言いかけて…

 

 

「わかった、わかったよ。降参だ。

そんな必死な顔すんなって」

 

 

「……え?」

 

 グレンが突然、両手を上げた。

 

 

「そこまで思い詰めていたとは、

流石の俺も予想外だよ……俺の負けだ」

 

 

あっけに取られるシスティーナを前に、

グレンはスプーンでキルア豆を一粒すくうと、

それをシスティーナの口にスプーンを入れた。

 

 

「ほれ、お前も食いたいんだろ? そんなに

たくさんあるんだから少しくらい分けろ、だろ? 

……まったく、いやしんぼめ」

 

 

呆れたようにシスティーナを流し見て、グレンは

食事を再開した。

 

 

「……ち、ち、違いますッ! 

私が言いたいのはそんなんじゃなくて―」

 

 

グレンのひどい勘違いに、システィーナは

顔を真っ赤にして屈辱に肩を震わせ、

机を叩いて立ち上がる。

 

 

 

だが、グレンはそれに一向にかまうことなく――

 

 

 

「代わりにそっちも少し寄こせ」

 

 

 

フォークを伸ばし、ざくりと、システィーナの

スコーンの一つに突き立て、あっと言う間に

かっさらった。

 

 

「うむ、たまに食うとスコーンも美味いな……」

 

 

 

「ああ――――ッ⁉︎

何、勝手に取ってるのよ⁉︎」

 

 

 

「いや、まぁ、等価交換?」

 

 

 

「ど こ が 等価なの⁉︎ どこが⁉︎

ええい、もう許さないんだから! 

ちょっとそこに直りなさい――ッ!」

 

 

 

「うぉわッ⁉︎ 危っ⁉︎ ちょ、おま、

お食事はお静かにお願いします―ッ⁉︎」

 

 

 

テーブルごしにナイフとフォークで

チャンバラを始めるグレンとシスティーナ。

 

 

 

何事かと集まる周囲の痛い視線。

ルミアはそれを苦笑いで見守るしかなかった。

 

 

 

「お前等夫婦かよ…全くあの二人は…

それに餓鬼かよ……」

 

 

ノワールも呆れて何も言えなかった。

 

 

更に言えば、非常勤講師としてやってきた

グレン=レーダスという男にはとにかく、

やる気がなかった。

 

 

 

前任講師の後を引き継ぎ、二年次生二組の

必修授業を全て受け持つことになったグレン

だが、黒魔術に白魔術、錬金術に召喚術、

さらに神話学、魔導史学、数秘術、自然理学、

ルーン語学、占星術学、魔法素材学、

魔導戦術論に魔道具製造術……ありとあらゆる

授業が、いい加減で投げやりに行われた。

 

 

なぜなのかは誰も知るよしはなかったが、

不真面目に授業をやることに、ムキになっている

節すら感じられた。

 

 

とにかく、この学院に関わる全ての人間達が等しく

持っているはずである魔術に対する情熱、神秘に

対する探究心という物が、グレンにはまるで

なかったのである。

 

 

ゆえにグレンと生徒達、他の講師達の間には

凄まじいまでの温度差が生まれ、余計な軋轢が

生まれた。

 

 

特にグレンが受け持ったクラスのリーダー格で

あるシスティーナは毎日ようにグレンに小言を

ぶつけた。だが、グレンのやる気ない態度が改善

される気配は一向になかった。それどころか、

むしろ日に日に悪くなっていく一方であった。

 

 

最初のうちはグレンも教科書の内容を一応説明し、

要点を一応黒板に書き、授業のようなものを一応

していた。だが、そのうち面倒臭くなったらしい。

それが段々、黒板に教科書の内容をそっくり

そのまま書き写すだけの作業になった。

 

 

 

やがて、それも面倒臭くなったのか、ちぎった

教科書のページを黒板に貼りつけていくように

なった。最終的にそれすらも面倒臭くなった

らしい。グレンが黒板に教科書を釘で直接打ち

つけ始めた時、とうとうシスティーナの怒りは

頂点に達した。

 

 

グレンの講師着任から一週間、その日、

最後の授業となる第五限目のことである。

 

 

「いい加減にして下さいッ!」

 

 

システィーナは机を叩いて立ち上がった。

 

 

 

(全くだ……システィ言ってやれ‼︎)

 

 

 

ノワールは高みの見物気分でそう考えいると

 

 

 

「む? だから、お望み通りいい加減に

やってるだろ?」

 

 

 

グレンは抜け抜けとそんなことを言い放ち、

教科書を黒板に打ちつける作業を堂々と続けて

いる。金槌を肩に担ぎ、釘など口にくわえている

姿はまるで日曜大工だ。

 

 

「子供みたいな屁理屈こねないで!」

 

 

肩を怒らせ、システィーナは教壇に立つ

グレンにずかずかと歩み寄っていく。

 

 

 

「まぁ、そうカッカすんなよ? 白髪増えるぞ?」

 

 

 

「だ、誰が怒らせていると思っている

んですか⁉︎」

 

 

 

「ほら、そんなに怒るからその歳でもう白髪

だらけじゃないか……可哀想に」

 

 

「これは白髪じゃなくて銀髪です!

本当に哀れむような顔で私を見ないで!

ああ、もう! こんなこと、言いたく

ありませんけど、先生が授業に対する態度を

改める気がないと言うなら、こちらにも考え

がありますからね⁉︎」

 

 

 

(嘘⁉︎ 僕も白髪だと思ってた……)

 

 

 

「ほう? どんなだ?」

 

 

「私はこの学院にそれなりの影響力を持つ魔術

の名門フィーベル家の娘です。私がお父様に進言

すれば、貴方の進退を決することもできる

でしょう」

 

 

 

「え……マジで?」

 

 

 

「マジです! 

本当はこんな手段に訴えたくありません!

ですが、貴方がこれ以上、授業に対する態度を

改めないと言うならば――」

 

 

 

 

(システィは馬鹿だな……今の『愚者』に

そんな事言っても……)

 

 

 

 

「お父様に期待してますと、

よろしくお伝え下さい!」

 

 

 

グレンは紳士の微笑を満面に浮かべていた。

 

 

 

(はぁー、やっぱりな……)

 

 

 

「――な」

 

 

このグレンの反応に、システィーナは言葉を

失うしかない。

 

 

 

(やっぱりな……こいつ……今までで一番の

清々しいくらいのムカつく笑顔だよ……)

 

 

 

「いやー、よかったよかった!

これで一ヶ月待たずに辞められる! 

白髪のお嬢さん、俺のために本当に

ありがとう!」

 

 

 

「貴方って言う人は――ッ!」

 

 

 

もうシスティーナの忍耐も限界だった。

システィーナには、このグレンという男が

本当に講師を辞めたくてそんなことを

言ったのか、それともフィーベル家の力を

侮っているだけなのかは判断がつかない。

 

 

 

だが、どちらにせよシスティーナはもはや、

このグレンという男の素行を看過することは

できなかった。魔術の名門として誇り高き

フィーベルの名において、魔道と家の誇りを

汚す者を許しておくわけにはいかない。

 

 

 

(何て事を考えているんだろうな……)

 

 

と、ノワールが考えているとシスティは

決断は早かった。自分自身の若さと未熟さも

それを後押しした。システィーナは左手に

嵌めた手袋を外し、それをグレンに向かって

投げつけた。

 

 

「痛ぇ⁉︎」

 

 

 

手首のスナップをきかせて放たれた手袋は、

グレンの顔面に当たって床に落ちる。

 

 

 

「貴方にそれが受けられますか?」

 

 

 

しん、と静まり返る教室の中、システィーナは

グレンを指差し、力強く言い放った。

 

 

その様子を注視していたクラス中から、

徐々にどよめきがうねり始める。

 

 

「お前……マジか?」

 

 

グレンも眉をひそめ、柄になく真剣な表情で

床に落ちた手袋を注視している。

 

 

「私は本気です」

 

グレンを険しくにらみつける

システィーナの元へ、ルミアが駆け寄った。

 

 

「し、システィ! だめ!

早くグレン先生に謝って、手袋を拾って!」

 

 

 

だが、システィーナは動かない。

烈火のような視線でグレンを射抜き続ける。

 

 

「……お前、何が望みだ?」

 

 

その視線を受け、グレンが半眼で静かに問う。

 

 

「その野放図な態度を改め、真面目に授業を

行ってください」

 

 

「……辞表を書け、じゃないのか?」

 

 

「もし、貴方が本当に講師を辞めたいなら、

そんな要求に意味はありません」

 

 

「あっそ、そりゃ残念。だが、お前が俺に要求する

以上、俺だってお前になんでも要求していいって

こと、失念してねーか?」

 

 

「承知の上です」

 

 

途端に、グレンが苦虫を噛みつぶしたような、

呆れたような表情になる。

 

 

「……お前、馬鹿だろ。嫁入り前の生娘が

何言ってんだ? 親御さんが泣くぞ?」

 

 

「それでも、私は魔術の名門フィーベル家の

次期当主として、貴方のような魔術をおとしめる

輩を看過することはできません!」

 

 

「あ、熱い……熱過ぎるよ、お前……

だめだ……溶ける」

 

 

グレンはうんざりしたように頭を押さえて

よろめいた。

 

 

 

(ウゼェーー‼︎ 顔面殴りたい‼︎

っていうか一発、殴らせろ‼︎)

 

 

 

あまり怒る事がないノワールもグレンの態度や

システィーナの貴族の肩書きや自分の理想を

他人に押し付けているのを見て

イラっとしていた。

 

 

(しかし……システィーナ…そんな絵空事や

綺麗事をよくペラペラと……)

 

 

しかし、そんな考えている中、どす黒いものが

奥から少しずつ溢れているものをなんとか

抑えているとクラス中がハラハラしていた。

 

 

 

(何故だろう…?

聞いているだけで胸糞が悪くなる……)

 

 

 

ノワールは何故かシスティーナの話を聞いていると

イライラが募っていく。

 

 

そんな中、逼迫した二人の動向を見守っている。

 

 

 

グレンはシスティーナを見た。

強気に見せてもシスティーナの身体は緊張で

こわばっていた。それもそのはずだ。

 

 

これから行う魔術儀礼の結果次第では、

システィーナはグレンに何を要求されても

文句は言えないのだから。

 

 

だが、それでもシスティーナはグレンに

立ち向かったのだ。

 

 

魔術への信念と、血の誇りにかけて。

システィーナ=フィーベルはこの年齢にして

誰よりも何よりも一流の魔術師だったらしい。

 

 

「やーれやれ。こんなカビの生えた古臭い儀礼

を吹っかけてくる骨董品がいまだに生き残って

いるなんてな……いいぜ?」

 

 

グレンは底意地悪そうに口の端を吊り上げた。

床に落ちている手袋を拾い上げ、それを頭上へ

と放り投げる。

 

 

「その決闘、受けてやるよ」

 

 

そして、眼前に落ちてくる手袋を横に薙いだ

手で格好良くつかみ取ろうとして――失敗。

グレンは気まずそうに手袋を拾い直した。

 

 

(カッコ悪い……)

 

 

「ただし、流石にお前みたいなガキに怪我

させんのは気が引けるんでね。この決闘は

【ショック・ボルト】の呪文のみで決着をつける

ものとする。それ以外の手段は全面禁止だ。

いいな?」

 

 

クラス中が固唾を呑む中、グレンはルールを

提示する。

 

 

「決闘のルールを決めるのは受理側に

優先権があります。是非もありません」

 

 

 

「で、だ。俺がお前に勝ったら……

そうだな?」

 

 

グレンはシスティーナを頭の天辺からつま先

まで舐め回すように見つめる。そして、顔を

近づけ、にやりと口の端を吊り上げて粗野な

笑みを見せた。

 

 

「よく見たら、お前、かなりの上玉だな。

よーし、俺が勝ったらお前、俺の女になれ」

 

 

「――っ!」

 

 

その一瞬。ほんの一瞬だけ、システィーナが

慄いた。ルミアも息を呑んで青ざめた。

 

 

 

こんな要求があるかもしれないことは、

システィーナも覚悟していたはずだ。が、

それでもいざそんな取り返しのつかない言葉を

聞くと思わず弱気が表に出たのだろう。

 

 

「わ、わかりました。 受けて立ちます」

 

 

(‼︎ あの馬鹿、まさか本当に⁉︎)

 

 

 

そんな一瞬の弱気を恥じるかのように気丈に

搾り出した言葉もほんの少し震えていた。

 

 

 

グレンはシスティーナが微かな後悔と恐怖を

強気の仮面で必死に取り繕い、一生懸命

にらみつけてくる様をじっくりと堪能し、

突然、腹を抱えて笑い出した。

 

 

 

「だははははッ! 冗談だよ、冗談! 

そんな今にも泣きそうな顔すんなって!」

 

「……っ!」

 

 

「………………」

 

 

「ガキにゃ興味ねーよ。だから俺の要求は、

俺に対する説教禁止、だ。安心したろ?」

 

 

その言葉をそばで聞いていたルミアは胸を

なで下ろし、ほっと息をついた。

 

 

 

ついでにノワールは何も言えなかった。

 

 

 

「ば、……馬鹿にして⁉︎」

 

 

一方、自分がからかわれていたことを知った

システィーナは、顔を真っ赤にしてグレンに

食ってかかった。

 

 

「ほら、さっさと中庭行くぞ?」

 

 

それを適当にいなし、グレンは教室を出て行く。

 

 

「ま、待ちなさいよッ! もう、貴方だけは

絶対に許さないんだから!」

 

 

肩を怒らせてシスティーナはグレンの背中を

追った。

 

 

魔術師の決闘。それは古来より、連綿と続く

魔術儀礼の一つである。

 

魔術師とは世界の法則を極めた強大な力を持つ

者達だ。呪文と共に放つ火球は山を吹き飛ばし、

落とす稲妻は大地を割る。彼らが野放図に争い

あえば国が一つ滅びる。そんな魔術師達が互い

の軋轢を解決するために、争い方に一つの規律

を敷いた。それが決闘である。

 

 

 

心臓により近い左手は魔術を効率良く行使する

のに適した手であり、その左手を覆う手袋を

相手に向かって投げつける行為は、魔術による

決闘を 申し込む意思表示となる。

 

 

 

そして、その手袋を相手が拾うことで決闘が

成立する。もし、相手が手袋を拾わなければ

決闘は成立しない。

 

 

 

決闘のルールは決闘の受け手側が優先的に

決めることができ、決闘の勝者は自分の

要求を相手に一つ通すことができる。

 

 

 

この決闘方式を見ればわかる通り、決闘とは決闘

を申し込む側より受ける側に相当の有利がつく。

 

 

天と地ほどの実力差がない限り、誰もが

安易に決闘を仕掛けることをためらう。

 

 

 

古来より魔術師達は、こうやって魔術による私闘

を極力律してきたのである。

 

 

 

だが、この決闘も帝国が近代国家として法整備を

行った現在では形骸化された魔術儀礼に過ぎず、

魔術師同士の争いを決闘で解決するなどと言う

事態はめったに起こることではないそんなこと

をするなら弁護士を雇って法廷で争う方がよほど

効率的で拘束力がある。

 

 

それでも古き伝統を守る生粋の魔術師達の

間では今もなお、決闘は行われ続けている。

 

 

 

例えば――魔術の名門フィーベル家の令嬢、

システィーナのように。

 

 

等間隔に植えられた針葉樹が囲み、

敷き詰められた芝生が 広がる学院中庭にて。

グレンとシスティーナの二人は互いに十歩

ほどの距離を空けて向かい合っていた。

 

 

 

「ねぇ、カッシュ。 君はどっちが勝つと思う?」

 

 

 

「心情的にはシスティーナなんだけど……

でも、相手はあのアルフォネア教授、

イチ押しの奴だからな……うーん……

セシルはどう思う?」

 

 

などの話しをクラスの全員が

そんなをしていた。

 

 

「…ノワール君はどう思う?」

 

 

ルミアが不安そうな目でノワールにこれから

始まる二人の決闘について聞いてきた。

 

 

「普通なら……グレン先生が勝つと思うよ」

 

 

(だか、あの愚者があんな感じなら……システィが

もしくは……それに今の愚者の気持ちは分からん

でも無いがな……)

 

 

「普通なら……? それってどう言う事?」

 

 

ルミアは子犬のように近づきキャンキャン

とノワールに質問していた。

 

 

 

「まあ、行けば分かるよ? それに、ルミアが

思っている事には多分ならないと思うから大丈夫

だと思うよ?」

 

 

ノワールはそう言うとまた二度寝をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラスの生徒達や、講師と生徒が魔術決闘を

行うという噂を聞きつけて集まった野次馬達が

二人を遠巻きに取り囲み、そこはさながら即席の

闘技場のようだった。

 

 

「さて、いつでもいいぜ?」

 

 

グレンは指を鳴らしながら余裕の表情で

システィーナを睥睨している。対する

システィーナはグレンの挙動を注視しながら油断

なく身構えている。その額を脂汗が伝い落ちた。

 

 

 

黒魔【ショック・ボルト】は、この魔術学院に入学

した生徒が一番初めに手習う初等の汎用魔術だ。

微弱な電気の力線を飛ばして相手を撃ち、その相手

を電気ショックで麻痺させて行動不能にする、殺傷

能力を一切持たない護身用の術である。

 

 

 

呪文を唱えれば、指差した相手を目掛けて指先から

真っ直ぐに輝く力線が飛ぶ。なんの奇もてらわない

ストレートな術なだけに、【ショック・ボルト】

の撃ち合いの勝敗は、いかに相手より早く呪文を

唱えるかの否かの一点に集約される。

 

 

「ほら? どうした? かかってこないのか?」

 

 

 

「……くっ!」

 

 

 

基本的に魔術戦は後の先を取るのが定石と

される。現在の魔術には、あらゆる攻性呪文

(アサルト・スペル)に対し無数の対抗呪文

(カウンター・スペル)が存在するからだ。

 

 

だが、このグレンという男は【ショック・ボルト】

の呪文しか使えないこの決闘において、

システィーナに先に動くことを促している。

 

 

呪文を速く唱えることが勝敗を分ける

この決闘で、だ。

 

 

 

考えられることはただ一つ、グレンという男は

恐らく、自身の【ショック・ボルト】の詠唱速度

に絶対の自信を持っているのだ。

 

 

システィーナが先に最速で呪文を唱えても、

それに競り勝てるくらいに節と句を

切り詰めた詠唱呪文を持っているのだ。

 

 

 

察するに、このグレンと言う男は魔術戦に特化

した魔術師なのだろう。

 

 

そう考えれば、どうしてこんなロクでもない男

が講師として学院に招かれたのか一応の辻褄は

合う。

 

 

全くなんの見所のない魔術師がこの学院で

講師をできるわけがないのだから。

 

 

 

魔術を研究する腕前と魔術を実践する腕前は

違う。魔術師としての位階は低くとも、魔術戦

においては恐ろしく強かった魔術師は歴史を

紐解けばいくらでもいる。

 

 

「おいおい、何も取って喰おうって

わけじゃねーんだ。胸貸してやっから

気楽にかかってきな?」

 

 

そう思い至ると、この余裕も歴戦の魔術師然と

したものに見えてくる。

 

 

 

グレンの言動が許せなかったとは言え、衝動的に

決闘を申し込んだことをシスティーナは少し

後悔した。

 

 

 

 

(でも、退けないわ)

 

 

 

 

システィーナは目前で余裕しゃくしゃくに構える

グレンを鋭くにらみつける。

 

 

(私が私である以上、こんな男を野放しに

するわけにはいかないわ。例え無様に地を

舐めることになっても、私はこいつに否を

突きつける。それが私の魔術師としての誇り。

……行くわよ!)

 

 

覚悟を決め、システィーナはグレンを指差し、

呪文を唱えた。

 

 

「《雷精の紫電よ》――ッ!」

 

 

刹那、システィーナの指先から放たれた輝く

力線が真っ直ぐグレンへ飛んでいき――

グレンは得意げな顔でそれを受け――

 

 

「ぎゃあああああ――っ!?」

 

 

バチンッと電気が弾ける音。

グレンはびくんッと身体を痙攣させ、あっさり

と倒れ伏した。

 

 

「……あ、あれ?」

 

 

システィーナは指を突き出した格好のまま

硬直し、脂汗を垂らした。

 

 

 

目の前にはシスティーナの呪文によって無様に

地を舐めるグレンの姿がある。

 

 

「これって……?」

 

 

「あ、ああ……システィーナの勝ち……

だよな……?」

 

 

決闘を遠巻きに眺めていた者達もこの結末に

ざわめいている。まさか、あれほどの大口を

叩いて、あれほど大物ぶっておいて、この程度

なのか。この男は実戦に特化した魔術師

じゃなかったのか。

 

 

「わ、私……なんかルール間違えた?」

 

 

助けを求めるようにシスティーナはルミアを

振り返るが、ルミアは困ったように首を振る

だけだ。

 

 

「ひ……卑怯な……」

 

 

(いや……今のは勝負あったぞ…)

 

 

と、その時、ようやく呪文のダメージから

回復したグレンがよろよろと起き上がる。

 

 

「あ、先生」

 

 

「こっちはまだ準備できてないというのに

不意討ちで先に仕掛けてくるとは……

お前、それでも誇り高き魔術師か⁉︎」

 

 

「え? いや、でも、

いつでもかかって来ていいって……」

 

 

「まぁいい。この決闘は三本勝負だからな。

一本くらいくれてやる。いいハンデだろ?」

 

 

「は? 三本勝負? 

そんなルールありましたっけ?」

 

 

「さぁ行くぞ! 二本目! 

いざ尋常に勝負だッ!」

 

 

強引に二本目の勝負が始まった。

あっけに取られるシスティーナの前で、

今度はグレンが先に動いた。

 

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃――」

 

 

「《雷精の紫電よ》――ッ!」

 

 

グレンの呪文が完成するより早く、

システィーナの呪文が完成した。

 

 

「うぎょぉおおおおお――ッ⁉︎」

 

 

バチバチと派手な音を立てて感電するグレン。

再び地面に倒れ、ぴくぴくと身体をけいれん

させている。さっきの光景の焼き直しだった。

 

 

「や、やるじゃねーか……」

 

 

よろよろとグレンが立ち上がる。膝はがくがく

と笑っており、見るからにやせ我慢だ。

 

 

「あの……グレン先生?」

 

 

「ふっ。いくらこの勝負が五本勝負だからって、

ちょっと遊び過ぎたかな。俺、反省」

 

 

「さっき、三本勝負だって……」

 

 

ジト目でシスティーナがぼやいたその時だ。

 

 

「あああああ――ッ⁉︎」

 

 

グレンが突然、声を張り上げる。

 

 

「嘘だろ!? あんな所に

女王陛下がいらっしゃるぞ――ッ⁉︎」

 

 

「えっ!?」

 

 

グレンが指差したあさっての方向を、

システィーナは思わず目で追った。

 

「ふはは、かかったなアホが! 

《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒――」

 

 

「《雷精の紫電よ》――ッ!」

 

 

グレンの呪文が完成するより早く、

やはりシスティーナの呪文が完成した。

 

 

「ぴぎゃぁあああああああ―ッ⁉︎」

 

 

 

ビリビリと感電し、のたうち回るグレン。

システィーナはこめかみを押さえながら言う。

 

 

 

「あの……ひょっとしてグレン先生って……」

 

 

「か、構えろ! まだ終ってないぞ⁉︎

なにせ七本勝負なんだからなッ!」

 

 

「はぁ……」

 

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち――」

 

 

「《雷精の紫電よ》」

 

 

「ずぎゃぁああああああ――ッ⁉︎」

 

 

 …………。

 

グレンが呪文を唱える。

だが、それよりもいち早くシスティーナが

呪文を完成させ、グレンを撃ち倒す。

 

 

 

この単純作業が以下、延々と続いた。

と言うのも、グレンが長々とした呪文を詠唱

しようとするので、どんな奇策を用いようとも

システィーナが唱える短い呪文の方が早く

完成するのだ。

 

 

そして、グレンが四十七本勝負と言い張った

一戦が終った時。

 

 

「すみません。無理です。許して下さい。

もう立てません。ていうかこれ以上続けると

ボク、何かに目覚めちゃいます」

 

 

「はぁ……」

 

 

システィーナは大の字で痙攣するグレンを

見下ろしながら、深いため息をついた。

 

 

「いやー、【ショック・ボルト】のみでの

勝負なんて俺に超滅茶苦茶不利な不公平ルール

だからなーッ! こんなルールじゃなかったら

俺が圧倒的に圧勝したんだけどなーッ!」

 

 

「先生って本当に口が減りませんね」

 

 

もはや、呆れるしかない。

 

 

「そもそも、さっきから三節詠唱ばかり……

ひょっとしてグレン先生って、

【ショック・ボルト】の一節詠唱が

できないんですか?」

 

 

「ふ、ふはは、な、なんのことだか、わわわ私には

サパーリ⁉︎ そもそも呪文を省略する一節詠唱

なんて邪道だよね! 先人が練り上げた美しい呪文

に対する冒涜だよね! 別にできないからそう

言っているわけじゃなくて!」

 

 

「できないんだ……」

 

 

あまりもの情けなさにシスティーナは泣きたく

なってきたが、気を取り直して当初の目的を

思い出す。

 

 

「と、とにかく決闘は私の勝ちです! 

だから私の要求通り、先生は明日から――」

 

 

「は? なんのことでしたっけ?」

 

「え?」

 

 

予想外の返答にシスティーナは硬直する。

 

 

 

「俺達、なんか約束とかしましたっけ? 

覚えてないなぁ~? 誰かさんのせいで、

いっぱい電撃に撃たれたしなー?」

 

 

 

そう、目の前のグレンという男はシスティーナ

の想定を超えて遥かに最低だった。

 

 

 

このグレンの物言いに、システィーナは流石に

色めき立った。

 

 

「先生……まさか魔術師同士で交わした

約束を反故にするって言うんですか⁉︎

貴方、それでも魔術師の端くれですか⁉︎」

 

 

「だって、俺、魔術師じゃねーし」

 

 

「な……」

 

 

ぬけぬけとそんなことを言ってのけるグレンに、

システィーナはもう絶句するしかない。

 

 

「魔術師じゃねー奴に魔術師同士のルール

持ってこられてもなー、ボク、困っちゃう」

 

 

「貴方、一体、何を言ってるの……ッ⁉︎」

 

 

システィーナにはもうこのグレンという男が

全く理解できなかった。まさか、魔術の薫陶を

受けた身でありながら、魔術師であることを

否定するとは。この男には魔術師であることに

対する誇りはないのか。魔術という世界の神秘を

紐解く崇高なる智慧に対する敬意は欠片もないと

言うのか。

 

 

 

「とにかく今日の所は超ぎりぎり紙一重で

引き分けということで勘弁しておいてやる! 

だが、次はないぞ! さらばだ! 

ふははははははははははは――ッ! ぐはっ!」

 

 

まだ身体にダメージが残っているらしい。

グレンは何度も転びながら、それでも

高笑いだけは一人前に走り去って行く。

 

 

後に残されたのは、 しらけきった観客達

ばかりだ。

 

 

「なんなんだよ、あの馬鹿」

 

 

「まさか【ショック・ボルト】みたいな

初等呪文すら一節詠唱できないなんてね」

 

 

「ふん、見苦しい人ですわね……」

 

 

「魔術師同士の決め事を反故にするなんて

最低……」

 

 

誰も彼もがグレンを酷評する中、ルミアは

心配そうにシスティーナの隣に歩み寄る。

 

 

「大丈夫? システィ。怪我はない?」

 

 

「私は大丈夫……だけど」

 

 

システィーナは険しい表情でグレンが走り去った

方を見つめていた。

 

 

「心底、見損なったわ」

 

 

まるで親の敵のようにうめく。

 

 

システィーナはこう見えてグレンという男に

一応の敬意を払っていた。

 

 

グレンは先達の魔術師だ。確かに講師としての

やる気はないようだったけど、同じ魔術を志す者

として、それでも何か学べるものがあるはずだと

思っていたのだ。

 

 

だが、もうだめだ。あの男だけは許せなくなった。

 

 

あの男は魔術を侮辱している。あの男がこの学院に

いる限り、自分とあの男は不倶戴天の敵同士だ。

 

 

「グレン先生……」

 

 

(あの馬鹿……やっぱり…あいつは駄目人間

だったか……)

 

 

 

ルミアは激しく憤る親友を前に、途方に暮れる

しかなかった。

 

 

そしてノワールはグレンの事を『クズ以下』

だなと呆れて物が言えなかった。

 




次のお話の製作頑張ります。(>人<;)


暖かい目で見守ってください……ッ‼︎


出来れば【評価】や【感想】、【意見】を
どうかよろしくお願いします。m(_ _)m


たくさんの人に見てもらえると嬉しいです。(*゚∀゚*)
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