あれから白玉楼は変わった。いくら季節が巡ろうと西行妖が花を咲かすことはなくなった。それに幽々子が亡霊になったことから冥界の管理人を任されるようになったらしい。今は死んだ魂は白玉楼に向かい、それから閻魔の判決とかを受けて転生するんだっけな?その辺りの細かいところはあんまり覚えていない。そして一番の変化、それは妖忌と妖夢の世代交代だ。ある日妖忌の孫がひょっこりでてきた。妖忌にも娘がいたようだが魂魄家は複雑な事情が多いらしく白玉楼とは別の場所で暮らしていたのだが、子供を育てられない状況なってしまったそうだ。それで白玉楼に預けられたのが魂魄妖夢。そりゃあもう小さくて可愛いこと。妖忌の手伝いも積極的にやってるし、剣術の指導も受けている。いつかは妖忌の後を継げるんじゃないかと思っていたが妖夢の成長も半ばに妖忌がいなくなってしまった。置き手紙もなく去ってしまった妖忌の後はまだ未熟な妖夢が継ぐことになった。だいたいこれが西行妖封印からしばらくの間に起こった出来事だ。
「どうした妖夢、まだまだ隙だらけだぞ。」
「すみません。もう一度お願いします。」
「もちろんだ。俺も口で説明するのは苦手だからな。かかってこい!」
今は妖夢の剣術指導は俺がやっている。しかし俺は妖忌ほどの腕は持っていないし、妖夢。この子には才能がある。俺が追い越される日も遠くないだろう。と言っても
「隙あり!」
「ひゃっ!」
今はまだまだ未熟だ。俺でも教えられることがあるうちは師範としてやっていこう。
「妖夢もまだまだね〜。」
「幽々子様。」
「幽々子、見にきてたのか。」
幽々子は冥界の管理人になっても忙しそうな様子はなく、時々こうして様子を見にくる。
・・・なんかこの光景は前にもあったな。
「よし妖夢、すこし休憩だ。お茶でも淹れよう。」
「は、はい。はぁ…はぁ。」
「部屋に戻るぞ。せっかくだし面白いもの見せてやるよ。」
幽々子と妖夢が席に着いたところで俺も妖夢の隣に座った。
「あの智慧さん、お茶を淹れるのでは…。」
「妖夢、俺の能力覚えてるか?」
「物質を操る程度の能力、でしたよね。」
「そうだ、今こうやって席に着いてるうちに、俺は台所でお茶を淹れ終わり、こちらに運んでいるところだ。」
そして障子が開かれると、そこには茶菓子のまんじゅうと湯のみ、そして緑に濁ったお湯が球体になって浮いていた。
「これは?」
「あら、綺麗ね。」
「お茶の形を丸めて浮かしてるんだよ。」
目の前の現象を説明しながら俺はそれぞれの湯のみにお茶を注いでいった。
「思うんですけど、智慧さんの能力でできないことってあるんですか?」
すこし呆れた顔をしながら妖夢がそんな事を聞いてきた。言いたい事はわかるがこの能力を万能と思ってるようでは妖夢はやはりまだ未熟者だな。
「当然あるわよ。智慧だって神様じゃないんだから。」
「そうだな、丁度いい機会だし二人に俺の能力について詳しく話しておくか。とは言っても細かく説明するときりがないから簡単にな。」
それからは俺の能力の詳細を二人に簡単に話したんだが幽々子は途中で退場しちゃうし妖夢も難しそうな顔をしている。
「まぁ簡単かつ簡潔にまとめると俺の能力でエネルギーに直接関与する事はできないわけだ。」
「は…はい。」
「ん?しまったもうこんな時間か。悪いが今日は紫に用があるって言われてるから帰らせてもらうぞ。」
俺は紫のリボンで一線を引き八雲家へと戻った。
「どうやら智慧は帰ったようね。」
「幽々子様、ひどいですよ。智慧さんの長話に私だけ置いていくなんて。」
「彼、時々時間を忘れて話しちゃうからね。」
「ただいま〜。紫はいるか?」
「智慧、遅かったな。紫様ならいつもの部屋で待っている。急いで行った方がいいぞ。」
「わかった、ありがとな。」
藍が言っているいつもの部屋(居間)に行くとそこには紫が座っていた。あいつは胡散臭いと言われたりしているらしいが意味もなく俺を呼び出したりはしないだろう。
「紫、話っていうのは。」
「そんなに身構える必要はないわ。あなたのその妖気を封印する術式が完成したのよ。」
「え?完成したのか?」
「そうよ。なんなら今からでもできるわ。」
「そうか。それってつまり、俺はもうすぐ」
「晴れて自由の身よ。悪かったわね、長くなっちゃって。」
「別に退屈はしなかったし気にしなくていいって。それで段取りはどうするんだ?」
「明日に白玉楼で宴会でもどうかしら?封印はその後でもいいでしょう。」
「そうだな、最後にパーっと行くか。」
「決まりね。それじゃあ私はあなたと入れ替わりになるけど白玉楼に行ってくるわ。」
「こっちは今日の夕食の用意しとくよ。それじゃあよろしく。」
「ええ。」
紫がスキマヘ入ったのを確認した俺は藍のもとへ向かった。
「俺も手伝うよ。」
「智慧、話は終わったのか。早かったな。」
「まぁな。」
会話しながら俺は夕食の準備に加わった。
「俺、もうすぐ自由になるらしい。」
「そうか。こうして手伝ってくれるやつがいなくなると、少し大変になりそうだな。」
「紫はわがままなやつだからな。それより、紫が明日白玉楼で宴会を開くって言ってるから、お前もそのつもりでいろよ。」
「わかった。」
藍との会話はいつもよりも静かで、最後には無言で夕食の準備をしていた。
翌朝、俺は早々に白玉楼へ向かった。
「妖夢、早いな。」
早朝にもかかわらず妖夢は庭で刀を素振りしていた。
「智慧さん。おはようございます。智慧さんこそ早いですね。」
「わざわざ俺のために宴会してくれるんだから、手伝えること手伝おうと思ってな。主に料理とかさ。」
「智慧さんが作ってくださるんですか⁉︎」
妖夢が素振りをやめて目を輝かせてこちらを見ている。妖夢は俺の作った料理を気に入って食べてくれるからな。まぁ調理方法が俺独自のものだから味に自信はあるけど。
「手が止まってるぞ。」
俺が指摘すると妖夢は焦った様子で素振りを再開した。
「最後なんだし、気合い入れて料理してやるよ。」
「そうですね…最後ですもんね。」
「・・・妖夢、素振りはここまでにしてこの竹刀を構えろ。」
「は、はい。」
妖夢に竹刀を手渡し俺も持ってきた竹刀を妖夢に向かって構えた。
「こうして剣を教えるのもこれが最後だ。全力でかかってこい!」
「そうですね、わかりました。行きますよ智慧さん!」
結局俺と妖夢の試合は最後まで俺の全勝で終わった。しかしながら妖夢の腕は未だ成長を止めようとしない。すっかり成長を忘れた俺の剣の腕では抜かされるまであと少しだろう。
「妖夢はその辺りの魚を頼む。俺はこいつを捌こう。」
「はい。今回は紫様も張り切って外の世界の食材をたくさん持ってきてくれましたよ。」
最後の試合を終えた俺たちは台所で今晩の仕込みを進めていた。妖夢が捌いているのは海でとれるタイだ。めでタイという簡単な語呂合わせで縁起がいいとされているらしい。
「でも智慧さん、それ捌けるんですか?私でもそんなに大きな魚は捌いたことありませんよ?それにそんな魚を捌けるほどの包丁はありませんし。」
俺が目の前にしてるのはマグロと言われる二メートルは超える巨大魚だ。
「任せろ。能力フル活用で内臓に傷ひとつつけずに捌いてみせよう。」
俺は二本の包丁を用意し刃の部分を一本にまとめ長い包丁を作った。片方は持ち手部分だけになってしまったが、あとで直せばいいだろ。
「こいつなら切れるだろ。切れ味だって折り紙つきだ。」
後は慎重に身を切り分けるだけだ。
「あの、智慧さん。」
しばらくの無言のあと妖夢が口を開いた。
「どうした妖夢?」
「私、強くなれたでしょうか?」
「それは、まだまだだろうな。」
「そう…ですか。」
「今のままでは妖忌の剣術には足元にも及ばないだろう。」
「はい。」
「だがお前はいつか届くよ。妖忌の剣術に。」
「え…?」
「お前は今にも俺を越えようとしているよ。俺の剣の腕はすっかり成長しなくなってしまったが、お前ならまだまだ伸びる。」
「はい、ありがとうございます!」
「おっと、喜ぶのはいいが手を切るなよ。」
「すみません、そろそろ作業に集中しますね。」
「そうだな。俺もここからは慎重な作業だし集中させてもらおう。」
作業は滞りなく進み妖夢も俺も一旦手を止めていた。
「作りすぎたな。」
「そうですね。」
俺たちの前にあるのは台所の机を埋め尽くす料理の山だった。これだけの量、5人には多すぎるだろう。
「まぁ、幽々子がいるか。」
どういうわけか幽々子は幽霊になってから食欲が爆発的に増えた。これだけある料理も幽々子にかかれば余裕だろう。
「あまり食べさせすぎないで欲しいのですが…。」
「宴会なんだし、いいじゃないか。」
大量にある料理を前に妖夢は困った様子を示したいたが、とりあえず宴会の準備は整った。
「それでは、智慧の自由を祝して、」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
紫の合図をはじめに皆で乾杯、宴会が始まった。俺の作った自信作の酒を片手に皆料理を楽しんでいる。
「そういえば智慧、幻想郷に行ってからどうやって過ごすつもりなの?」
俺のこれからについて幽々子が聞いて来た。確かにそんな話してなかったな。
「細々と物を売って生活しようと思ってるよ。いろんな人と関わりたいから人里の近くがいいな。」
「物って、何を売るつもりなんだ?今のお前は何の手持ちもないだろう?」
今度は藍が疑問を投げかけて来た。だがまぁ、当然の質問だな。
「ないなら作ればいい。ちょっとズルイかもしれないがそこは俺の能力を使えばいい。鉄製品ならやりやすそうかと考えてるんだ。」
「細々とって言う割には結構儲けるつもりなのね。あなたの能力なら自由の身になれば鉄はおろか金を集めることだって簡単でしょ。」
「紫、痛いところついてくるな。だがその通りだ。俺の能力があれば鉄の収集も余裕だからな。」
「智慧さんは大富豪になるつもりなんですか?」
「そこはバランスを取るつもりだ。まぁ考えはまとまってるからしばらく時間経ったら様子を見に来てくれよ。」
「智慧のお店、楽しみね〜。」
いつのまにか眠ってたみたいだな。俺以外も皆酔いつぶれてその場で眠っている。食事も散らかって…いないな。途中まで片付けられている。部屋を見渡していると廊下から藍が入ってきた。
「智慧、起きたのか。」
「ああ、片付け手伝うよ。」
「別にゆっくりしてたっていいんだぞ。」
「俺がやった方が効率がいいんだ。手伝うさ。」
皿を宙に浮かし洗い場へと運び分子レベルまで分解し再構成、こうすれば汚れは全て落ちる。
「やっぱり居なくなるのが惜しいな。」
「なら藍もついてくるか?」
「ははっ、それも悪くないかもしれないが紫様に仕えるのが私の役目だからな。」
「藍はいつも立派だな。さて、片付けも終わったな。紫たちが起きたら。」
「起きたわよー。」
「のわっ!紫⁉︎」
藍との会話にスキマから紫が割って入ってきた。
「妖夢も幽々子も起こしておいたからそろそろ封印を始めるわよ。藍も手伝いなさい。」
「はい、もちろんです。」
「それじゃ庭に行くわよ。二人も待ってるわ。」
今は妖夢と幽々子が遠巻きに俺の封印を見守り俺が上の服を脱ぎその背中に紫が手を当て、すぐそばに紫を手伝うために藍もいる。
「今からあなたに施すのはフィルターみたいなものよ。」
「フィルター?」
「あなたの身体から溢れる妖気を元からあなたの身体の中にあったものだけを放出するようになるわ。」
「それは俺はどれだけ弱まるんだ?」
「能力の出力は今までとそう変わらないわ。でも妖力がすぐに底をつくようになる。その足も妖力が尽きると動かなくなるんでしょう?気をつけなさい。」
「わかった。それじゃあ頼む。」
「ええ。藍、始めるわよ。」
「はい。」
紫の手に力が入っている。俺は妖気の流れを感じ取ったりすることはできないが、後ろから聞こえる紫と藍の力の入った声を聞いていると今行っている封印がいかに複雑なものかがわかる。しばらくは何も感じなかったが、やがて俺の身体に急に負荷がかかった。身体に一気に重りをつけたような感覚だ。
「ぐぅっ!」
「大丈夫なんですか、紫様?」
「問題ないわ。智慧、もう少し耐えなさい。」
「もちろんだ。この程度なんでもない。」
それからどれだけの時間が経ったかはわからないが、この負荷に耐えていると紫が声をかけてきた。
「封印は終わったわ。あなたの身体への負荷も大きかったはずだけど、立てるかしら?」
「ああ、紫だって珍しく息を切らしてるじゃないか。」
大妖怪である紫が呼吸を乱している。藍なんて肩で息をしているじゃないか。
「それほどまでこの封印は複雑なものだったのよ。長い時間をかけて組み立てられたけど、上手くいったようで本当に良かったわ。」
「上手くいった、つまり今の俺は」
「そう、今のお前からはお前の妖気だけが流れ出ている。その程度ならここから出ても誰かから狙われることもないだろう。」
封印が終わったのを察したようで遠くから見守っていた二人もやってきた。
「終わったようね。」
「そうですね、智慧さんからはもう怖い気は無くなっていますね。」
「やっぱり俺の気って怖かったのか?」
「ここにいる私達が特殊なだけよ。」
「そうよ、妖夢だって小さな頃は智慧を見ただけで泣き叫んでたじゃない。」
「幽々子様!もうそんなこと言わないでください!今はもう大丈夫なんですから。」
皆それぞれに声をかけてくれる。封印は無事成功、これで俺の問題は長い時間をかけて解決したわけだ。
「しかし、成功ってことは…。」
「そうだな、出発の時間だ。」
「このスキマを通れば、あなたの望んだ世界よ。」
紫の隣には二メートルを超えるスキマが開かれていた。
「………お別れか。」
「私はこの白玉楼でいつでも待ってるわ。妖夢もそうよね?」
「はい!まだあなたを超えられていません。また稽古をつけてください。」
「私もお前とまた会えるのを楽しみにしているよ。私の教えてきたこと、忘れるなよ。」
「別に今生の別れってわけでもないわ。それに会いたいと思えばいつでも会えるんだし。」
「それはお前が会いたいときだろ。俺からすればお前が会いにきた時にしか会えなくなるんだ。」
「しばらくは何度か様子を見に行くわよ。いつまでも名残惜しそうにしてないで、早くいっちゃいなさい。」
「うわっと、わかったから押すなよ。」
スキマを前に最後にもう一度だけ顔を見てスキマへ体を向き直した。
「それじゃ、行ってくる。」
スキマへ踏み込み身体が全て入りきると入り口は閉まった。
妖夢の幼児時代の話(妖夢はでない)
「幽々子ー。妖忌ー。遊びに来たぞー。」
「いらっしゃい。今日もゆっくりしていってね。」
「おう幽々子。それで、妖夢は?」
「あなたが来て泣いて逃げちゃったわ。あなたの妖気、怖いもの。」
「…ちょっと傷つくな。」