独立から少したち、師も走るほど忙しい十二月の中旬を迎えていたのだが、俺の商売は適度な客入りでまったりと商品を売っている。最近はただ物を売るだけじゃなく、包丁研ぎや鍋の修繕のサービスを始め、いろんな人から依頼も来ている。非常に順調な滑り出しなんだが、一つ問題がある。
「魔理沙、お前いつになったら代金払うんだ?」
「死ぬまでには払うさ。」
「いつだよそれ…。」
いつまでもツケを払わない魔理沙。代金も払わず欲しいものはどんどん持っていくので商売用の敬語を使うのも馬鹿らしくなって今では普通に話している。ちなみに俺が妖怪なのは話していない。しかしこいつはいつまでも金を持って来る気配はなく、お客さんでもなく友人でもなく、堂々と物を盗んでいく斬新な泥棒のように感じている。
仕方ない、俺の考えていた新しいサービスを紹介してやるか。
「なんだ智慧、その箱は?」
「新サービス、鉄くず買取だ。」
「鉄くず?そんなもの買いとるのかよ?」
「加工すれば鍋にも刀にもなる。俺としては価値のあるものなんだよ。」
「へぇ、でもそれなら私の家にもたくさんあるぜ。」
「そう、今溜まってるお前のツケをこれで返してもらおうと思ってな。」
「それは名案だな。これなら私でも払えそうだ。ん?」
魔理沙が突然外を見て不思議そうな顔をしていた。
「どうしたんだ?何か変なものでも飛んでたか?」
幻想郷では何かが飛んでるなんて日常茶飯事だが、魔理沙が不思議に思ったのもおかしくない。幻想郷の空を赤い霧が覆っていた。こんな天気は普通ありえない。何より俺の妖気を空まで飛ばして見たんだが霧を操ることができない。つまりあの霧は魔力や妖力などの特殊な力を宿している。もしくは霧自体が生きているという事だ。あれだけでかい霧が生きているとも思えないし恐らくは前者だろう。
「異変ってやつか。」
藍や紫から話は聞いている。幻想郷ではときどきこういった普通ではありえない事が起こり、その事を総じて異変と言うらしい。そしてそれを解決するのは、博麗の巫女。すなわち霊夢の出番ってわけだ。
「そうかもしれないな。よし、行ってくるぜ!」
「え?お前行くの?」
「当たり前だ!霊夢な負けてられないからな!」
そう言って魔理沙は箒にまたがった。
「次来た時は鉄くず持ってくる〜!」
そう言い残して魔理沙は空へと消えていった。空には赤い霧が分厚くどこまでも続いている。果たしていつになったらこの霧ははれるんだろうか。
霧の発生から五日、未だ太陽は顔を出さず赤い霧が空を覆っている。魔理沙もあれから店には来ないし、霊夢と一緒に原因解明を急いでいるんだろう。
太陽は本来当然のように空に輝いているが、あれも人にとっては必要不可欠で、人里も洗濯物が乾かなくて困ってるだろうし、この霧がこれからも続くなら体調を崩す者も現れるだろうし、農作物にも深刻な被害が出始めるだろう。そう考えると、恐らくは野菜の価格上昇が想像できるな。そこまで被害が出ると俺の生活にも支障があるな…。
この霧のせいで客足もすっかり減ってしまっている。こんな異変の中のんきに買い物なんてしてられないもんな。
「原因くらい探してみるか。」
とりあえず探すだけ。解決は霊夢や魔理沙に任せよう。
さて、原因といってもあてがある訳じゃないしな。とりあえず、人里とは反対方向に行ってみるか。
「あなたは食べられる人類?」
「悪いが俺は人類じゃないな。」
しばらく飛んでると金髪の女の子にそんな事を言われた。発言からして妖怪、もしくは頭の残念な人類だろう。
「そーなのかー。」
女の子は肩落としがっくりしていた。多分妖怪なんだろうな。俺は妖気を感じ取るとかできないからはっきりとはわからないけど。
「人里には行かないのか?あそこなら食べ放題だろ?」
「あそこは巫女がいるから無理だわ。」
「なるほど霊夢か。そりゃ敵わないな。」
異変解決のプロだもんな。並みの妖怪どころか、上級妖怪だって霊夢には敵わないだろう。
「最近は人里の西の門から人が出入りしてるらしいから、そこに行ってみようと思ってるの。」
「へぇ、食べれるといいな。」
「そうね。」
そうして女の子は進行方向を正しさっき言っていた人里の西の門を目指していた。ん?西の門?待てよ、最近西の門を出入りしてる人間って。
「ちょっっっと待った!」
「ど、どうしたの?」
それうちの客じゃねえか。人里と俺の店の間に人喰い妖怪なんて現れたらお客さん二度と来なくなっちゃうよ!
「えーとな、君。名前は?」
「ルーミア。」
「ありがとう。それでなルーミア。あそこは駄目だ。あそこの人間を食べられると俺が非常に困る!」
「でも…お腹空いたし。」
「それならその近くに俺の家があるから俺の家に来い!なんか作るからさ⁉︎」
「ほんと!それなら食べないわ!」
すごい食いつき。相当腹減ってるみたいだな。
「それなら、一旦戻ってなんか食うか。」
「美味しいわ!」
「それなら良かった。」
ルーミアは俺が作った和定食を頬張っている。白米に味噌汁、焼き鮭と出汁巻き卵。自信作はもちろん出汁巻き、出汁料理は俺の能力を一番使いやすい料理だからな。
さて、ルーミアも満足したみたいだし、異変について調べてみるか。
「そういえばルーミア、お前この霧について何か知らないか?」
「この霧なら多分あの館が関係してるんじゃないかしら?」
「館?幻想郷にそんな似合わないものあったのか?」
「何日か前に急に現れたのよ。霧の湖に。」
「多分っていうかほぼそれだな。」
「ごちそうさまでした。助かったわ。」
「もう食べ終わったのか。それじゃ、俺も再出発だな。」
「あの館に行くの?」
「様子だけ見にな。話してわかる相手なら霧を止めて欲しいんだが。」
「こんな派手なことする連中が話が通じるとは思えないわね。」
「だよな。とりあえず行くだけ行ってみるよ。」
俺は早々に皿を片付けルーミアとともに玄関を出た。
「お腹が空いたらまた食べに来るわ。」
「この道の人を食われるのは困るからな。食材はある程度用意しとくよ。」
「それじゃあまたね。」
ルーミアが飛んで行ったところで俺は進路を霧の湖に定め飛んで行った。