あれ?いつのまにか寝てたか。確かレミリアが酒に潰れてから…そこからの記憶がないな。迷惑かけたりしてないといいんだけど。
「もう起きてたんですね。」
目を覚まして少しすると咲夜が部屋に入ってきた。俺を起こしに来たのだろう。
「咲夜。昨日俺何かやらかしたか?途中から記憶がない。」
「この館のワインの多くを空にしましたね。凄かったですよ。」
「いや、そこまでは覚えてるんだ。レミリアが潰れたところまでははっきりと覚えてるんだが…。」
(全部覚えてるじゃないの。パチュリー様の睡眠薬がなかったらどれだけ飲んでたのかしら?)
「朝食の用意はできてますよ。」
「そうか、いただこう。」
俺がそう言うと目の前には朝食が並んでいた。本当に便利な能力だ。
「これが最後の食事だな。」
「最後というと、昼までにはここを出るんですか?」
「長々といても仕方ないからな。みんなにお礼だけ言って、家に帰るよ。」
「そうですか。」
会話も区切りがついたし、朝食をいただくとするか。
「いただきます。」
ここまで洋食が続いたのは初めてだったからな。洋食を美味しいと思う反面和食が恋しくもあるな。帰ったら自分への退院祝い、いや退館祝いか?なんにせよ、ちょっと奮発して何か食べようかな。
「あっ、そうだ。皆が起きるまでまだ時間があるよな。」
「そうですね。お嬢様たちが起きるのはもう少し後です。」
「なら、最後に恩返しさせてもらおう。」
「恩返し…ですか?」
「凄いですね。こんなにも早く屋敷の掃除が終わるなんて。それも私よりも綺麗です。」
「館の汚れと言えるものは全部取り除いたからな。今この紅魔館は新築と同等、いやそれ以上に綺麗だと言い切れる。」
「咲夜ー?」
廊下の奥からレミリアが走ってきた。パジャマのまんまだし、起きたばかりのようだな。
「どうしたのこれ?あなたの仕事はいつも完璧だけど、今日の館はより一層綺麗になってるじゃない?」
「智慧様の能力です。」
「長い間世話になったからな。ちょっとした恩返しだ。」
「……うちにも一人欲しいわね。」
「俺は生活日用品じゃないって。」
こんな会話、前にもあったな。
「そろそろ館を出るから、フランとパチュリーにも顔を合わせて起きたいんだけど。」
「パチェならもう起きてるんじゃないかしら?」
「そうか、なら図書館に行ってみるよ。」
俺は二人に別れを告げ図書館の方へ足を向けた。
「どうしたの?急に足を止めて?」
「そういえば、図書館ってどこにあるんだ?」
「…咲夜、案内してあげて。」
「かしこまりました。」
「パチュリー、起きてるか?」
「起きてるわよ。あなたがここに来るのは初めてね。」
「そうだな。もうすぐ館から出るから最後に顔を出しておこうと思ってな。」
「そう。律儀なのね。」
図書館は掃除してなかったし、ここの汚れも取り除いておくか。
「そう、律儀に恩返しをしたくてな。よっと。」
「……何をしたの?」
パチュリーにはこの変化がわからないか。
「パチュリー様!何か魔法使ったんですか?図書館の埃が一つ残らず消えちゃったんですけど⁉︎」
図書館の奥から赤い髪の女の子が現れた。こんな奴もいたのか。
「彼女は私の使い魔みたいなものよ。種族としては小悪魔ってところかしら。」
「小悪魔か。名前はないのか?」
「ないわね。好きに呼んであげなさい。しかし、言われてみれば空気が綺麗になったような気がするわね。」
「パチュリーは喘息持ちって聞いたし、こうすれば少しはマシになるだろう。」
「そうね。助かったわ。」
「ちょっと!私抜きで話を進めないでください。」
パチュリーとの会話に小悪魔が割って入ってきた。
「それもそうだな。えーと、この館で世話になった智慧だ。はじめましてなんだが、もうすぐこの館を出る。」
「あなたが智慧さんですか。パチュリー様から話は聞いてましたよ…ってもう出ちゃうんですか⁉︎」
「この通り怪我はほとんど治ってるからな。」
「私は仕事でこの図書館からなかなか出られませんからねぇ。ちなみに、あなたが読んだ本を選んでいたのは私なんですよ。」
「そうだったのか。どれも面白かったよ。」
「そうですか!それならもう少しお話ししてみたかったですね。」
「別に、いつでも館を出てからでも遊びに来ればいいじゃない。ちゃんと返してくれるなら、本ぐらい貸してあげるわよ。その時にじっくりとお話ししましょう。」
「そうだな。それじゃあ俺はそろそろフランに会って来るよ。」
「わかったわ。また来るのを楽しみにしてるわ。」
「今度はゆっくりお話ししましょうね〜。」
二人に見送られ俺は図書館を後にした。
「おっフラン、レミリアと咲夜も揃ってるのか。」
図書館から出るとフランに加えレミリアと咲夜がいた。
「そろそろこの館を出る頃かと思って、見送りに来たわ。」
「智慧、もっとこの館にいてもいいんだよ?なんなら住んじゃえばいいのに。」
「魅力的な提案だけど、世話になりっぱなしってわけには行かないからな。あとは、これを渡しておこう。」
俺は咲夜にとある紙切れを手渡した。
「これは、なんでしょう?」
「簡単に書いただけだが、俺の店までの地図だ。」
「そういえば店をやってるんだったわね。」
レミリアたちに俺の店の事は話してあるが、場所も伝えないと店に来れないからな。営業、というやつだ。
「じゃあ今度は私が智慧のところに遊びに行くね。」
「おう、いつでも来てくれ。」
早速お客さんゲットだ。
「さて、フランの顔もみれたし、そろそろ帰るか。」
「そう、それじゃ門のところまで見送るわ。」
「久々の外!太陽が気持ちいい!」
「私たちにはわからない感覚ね。」
レミリアとフランは咲夜のさしている日傘の中にいる。そういえば吸血鬼は太陽が弱点だったか。
「zzz……。」
そういえば、門番もいたな。壁に寄りかかって眠っている。あの体制でよく眠れるな。
「……いったい何度言ったらわかるかしら。」
咲夜の発言からして、常習犯のようだな。異変の時はその緊張感からしっかりと起きていたけど、普段はこんな感じのようだな。
「実力は確かだから雇い続けてはいるけど、なんとかならないのかしら。」
レミリアもあきれた様子だが、やっぱりこの光景はいつもの事らしい。
「今敵が来たら美鈴って反応できるのかな?」
「試してみましょうか。」
フランの疑問に咲夜が反応した。試すって、軽く攻撃でもするのか?なんて考えていると、突然美鈴の前にナイフが現れ、美鈴の額に向かって飛んで行った。こんなの寝てなくても反応できるか怪しいぞ。
「いっっったぁ!!」
もちろんそのナイフに反応できるはずもなくナイフは額に突き刺さり鮮血が噴き出した。
「あの門番って、妖怪なんだよな?」
「もちろんです。じゃなきゃここまでしませんよ。」
「さ、咲夜さん、今日は私寝てませんよ!」
「寝てるからその額から血が出てるんでしょう。起きてるときは避けたり受け止めたりしてるじゃない。」
「やっぱり起きてたって投げてるじゃないですか!」
「日頃の行いよ。」
いつもナイフ投げられてるのに寝れるのか。そこまで行くともはや睡眠のプロだな。
「さて、咲夜は美鈴と話しているが、俺はそろそろ帰るぞ。」
「そうね。あなたの来訪ならいつでも歓迎するわ。」
「また遊びに来てね!」
後ろではまだ美鈴が咲夜に抗議してるみたいだ。この館ではまだまだ退屈しそうにないし、また遊びに来るか。
俺は自宅に帰る前に人里に寄った。長い間店を休んでいたから、常連さんにだけでも営業再開を伝えに来たのだ。
「明日からまた営業しますから、必要なものや修理するものがあったら是非、いらしてください。」
「ええ、また行くわ。」
さて、常連のお客さんは大体まわったな。あとは…
「お、智慧じゃないか!久しぶりだな!」
「魔理沙か。」
魔理沙、一番俺の店に来てるのはこいつなんだが、こいつは払えるかもわからないツケばかりだからな。鉄くず買取はしてやるが、既に四つの商品を持っていかれこいつのツケは五貫文を超えている。山のような鉄くずを持ってこないとツケは払いきれない。
「そうそう、店に行っても智慧がいないから何個か商品持って行ったからな。」
「それ、泥棒だろ。」
「いやいや、お前言ってただろ。鉄くずを買い取るって。それで今までのツケと合わせて全部払えるはずだからさ。」
多分払えない。鉄くず買取ると言ってもこっちも商売なんだ。そこまで高値で買い取るつもりはない。このサービスは処理に困った鉄くずを俺が処理するというのがメインのサービスなのだ。収集癖の強そうな魔理沙なら鉄くずもたくさん持ってそうだと思ったが、どれだけ多く見積もっても買取値段は五貫文が限界だ。
「まぁいい。明日から営業再開するから、ありったけ持ってこいよ。じゃなきゃお前のツケは払いきれない。」
「わかったよ。あとお前、妖怪だったん、うぶっ!」
「こっちは人間相手に商売してるんだ!こんな人通りの多いところで口にするな!」
「わ、悪かったよ。だから手をどけてくれ。」
霊夢も魔理沙も、人里の中に妖怪が来てるなんてバレたら混乱するのがわからないのか?
「とにかく明日だ。鉄くずと代金を持ってこい。鉄くずだけで魔理沙のツケを払い切るのは無理だ。」
「言ったな?それなら明日お釣りがもらえるくらいの鉄くずを持って行ってやる。待ってろよ!」
飛んで行ってしまった。まぁ、魔理沙がツケを少しでも返してくれるならよしとするか。
これで本当に店の常連には営業再開は伝えたな。あとは、あそこにも顔を出してみるか。
チャリーン
小銭が賽銭箱に入り、お金独特の音が神社に響く。
鈴を鳴らし手を合わせ、目を瞑り願い事を心の中で唱える。
願い事、案外ないもんだな。商売は問題なさそうだし、異変も解決した。(霊夢と魔理沙が)『平穏に過ごせますように。』とかか?いや、霊夢と魔理沙が異変を解決してくれるのは今回で学んだし、次からは異変に首を突っ込まなければ平穏に過ごせるだろう。願い事、そうだなぁ。
「魔理沙がちゃんとツケを返してくれますように。」
「長い間考えて思い浮かんだ願い事がそれなのね…。」
「久しぶりだな、霊夢。」
「妖怪が参拝なんてどういう風の吹き回しかしら?」
「別にこの神社に妖怪が来るのは珍しくないんだろ?妖怪神社の噂は俺も聞いてるぞ。」
博麗神社は妖怪が蔓延っているという噂が人里では流れている。魔理沙からも話を聞いているが、実際ここに来る人間は基本的に魔理沙ぐらいらしい。あとはほとんど妖怪。
「ぐぅ、そのせいで参拝客が減ってるのよ。あんたはお賽銭入れてくれたから良かったけど、他の妖怪は神社を拝んだりもしないんだから。」
どうやらこの神社は経済的に苦しいようだな。異変を解決した英雄とも言える人間がこんな生活をしているのか。
「なんというか、苦労してるんだな。」
「そう思うならもっとお賽銭を入れてもいいのよ。」
がめつい発言だが、実際異変を解決したのに対しては見返りが少ない気がする。俺からの気持ちとして、もう少し賽銭を入れてもいいか。
「えっ!本当にくれるの⁈」
俺がもう一度懐に手を入れると霊夢の目つきが変わった。こいつ、そんなに金が好きなのか。
「駄目よ智慧。霊夢を甘やかさないでちょうだい。」
「紫⁉︎」
「紫?」
今日も今日とて突如現れた紫。霊夢は俺より慣れた様子だな。
「霊夢にこれ以上のお賽銭必要ないわよ。」
「なによ紫?智慧がくれるって言ってるんだから放っておいてよ。さ、智慧お賽銭ちょーだい。」
「いや、紫が言うならやめておこう。」
「ちょ!なんでよ?というか、あんたたち仲良いの?」
「長い付き合いだな。」
「そうね。」
霊夢が不服そうにしているが、万が一紫を敵に回すと後が怖いからな。
「そうだな、それなら今日の夕食は俺が作ってやるよ。」
しかし霊夢をねぎらってやりたいのも事実。金じゃないなら多分大丈夫だろ。それに、こうやって言えば、
「それなら私もご馳走になろうかしら。」
こう言うだろうからな。こいつは俺の手料理が大好物だからな。
「お賽銭…まぁいいわ。夕飯作らなくていいなら楽になるし、それでいいわ。」
「よし、食材を買って来るから少し待っててくれ。」
「それで、なにを食べさせてくれるのかしら?」
紫が炬燵に入り質問してきた。俺は夕食のための鍋を用意している。もちろんこの炬燵に霊夢もいる。
「今日はご馳走、すき焼きだ。」
「すき焼き⁉︎」
霊夢が想像以上の反応だ。まぁ、牛肉は高級食材だからな。
「って、ここにその空っぽの鍋置いてどうするのよ。」
「外の世界じゃすき焼きは食卓で熱しながら食べるんだよ。火はなくても俺の能力で熱は与えられる。」
「霊夢、その鍋もう熱くなってるから触っちゃ駄目よ。」
「便利な能力、うちにも欲しいわね。」
「……だから俺は生活日用品じゃないって。」
「モテモテね、智慧。」
「そうだな。みんな俺の能力に夢中なのは間違いない。」
「そんな事より、早くすき焼き食べましょ!」
「そうだな。よし、それじゃ始めるぞ。」
「霊夢、お肉ばかり食べ過ぎよ。」
「すき焼きは戦争なのよ。牛肉なんて宴会の時にだって食べられるかわからないんだから、食べられるうちに食べないと。」
「まぁ、喜んでもらえてるなら何よりだ。」
「そうだ、智慧さっき割り下に入れてたお酒ちょうだい。」
「いや紫、さっきのは料理酒みたいなものでな。飲むならちょっと待ってろ、今作る。」
「なに智慧ってお酒も作れるの?」
「まぁな。」
「なんで、商売なんてやってるのよ?その力があったらお金なんてなくても不自由しなさそうじゃない?」
「俺は商売を楽しんでるんだよ。」
「智慧早くお酒ー。」
「わかったわかった。ちょっと待てって。」
「お肉もうないわよ。早く次入れて!」
「霊夢は野菜も食え!肉入れてやるけど、ちゃんと火を通して食えよ!」
はぁ、このすき焼きは霊夢へのねぎらいと同時に、俺の退館祝いのご馳走のつもりでもあったんだが、あまり食べられそうにないな。
「んー、やっぱり智慧の作るお酒は美味しいわね。智慧、これもっと度数強くできないの?」
「ほら、人間なら倒れるぐらいのアルコールぶち込んだぞ。霊夢は飲むなよ。」
「それなら私にも別の作ってよ。」
「俺ほとんどすき焼きに手をつけられてないんだけど…いった!!」
こいつ!針で刺しやがった!しかも針で刺されたところなんかすごい痺れるし。
「早く作って!」
「霊夢の針は妖怪ならよく効くわよ。」
紫は呑気に酒飲んでるし。畜生、霊夢にねぎらいなんて考えるんじゃなかった。
「ほら、飲め!」
「ありがとー。」
「智慧、またお肉なくなったわよ。野菜も少ないから足してちょうだい。」
これ、俺は肉には少しもありつけないんじゃないのか?