自己満足作品ではありますが、少しの暇つぶしになれば幸いです
ふと目を覚ますと、彼の寝床に大量の烏天狗が押し寄せた。本格的に彼を始末するために動き出したのだろう。軽く30人を超える烏天狗が、殺意をむき出しにして彼に刀を構えていた。これだけの数の相手にしようと、彼の態度はなに一つ変わらなかった。
それからの起こった光景は阿鼻叫喚の血の池地獄。誰一人彼に一撃を当てることも叶わず羽虫を殺すかのように彼は次々と烏天狗を殺していった。
「・・・・。」
そして今回も、彼はその烏天狗達を喰らい尽くした。その後には骨も残らず全ての烏天狗は彼の腹に収められた。
烏天狗を食べて以来彼の山にはしばらく妖怪が寄らなくなっていた。まともな衣類を着ていなかった彼は天狗達の衣服を身につけて生活していた。彼にとっては二度目となる静かな生活だったが今回この生活は長く続かなかった。
「おい!妖怪がきてるぞ、逃げろ!」
妖怪が現れないので彼が山で木の実を取っていると、突然遠くから薄く青がかった銀髪の女の子が走ってきた。その後ろには巨大な蜘蛛が見え、その大きさは優に3メートルを超え、妖怪であることは確実だった。彼にとっては久々の獲物である。彼は今日も変わらず地面に手をかざすと蜘蛛の足元から針が生えた。しかしその針は蜘蛛の体を貫かず、そのバランスを崩すだけで終わった。蜘蛛が彼を敵と認識し糸を吐き出してきた。しかし彼の手前に今回も壁が地面から突出しその糸は壁に阻まれた。蜘蛛は逃げ回る女の子よりも攻撃して来る彼の方が危険と感じたのだろう。標的を彼に変えこちらに向かってきた。蜘蛛の動きはその巨体からは考えられないほど早い動きで彼に近づいた。彼もそれに対応すべく蜘蛛の上へ手を向けるとその先に巨大なつららのような物質が現れ蜘蛛に向かって落下した。だがその素早さから落下した時には蜘蛛はその場から移動しており、いくつ落としても蜘蛛に当たることはなく、ついに彼の目の前に蜘蛛が接近した。だが彼もこれに対し腰に下げていた天狗の刀を突き立てた。その刀の切れ味は恐ろしいほどに鋭く、頑丈な蜘蛛の外骨格をいとも容易く貫通した。
「********!」
蜘蛛が聞いたこともない苦痛の声をあげた。しかし致命傷にはならず蜘蛛も反撃のためその前脚の一本を彼に突き立てた。蜘蛛の脚は彼の肩に深く突き刺さり、そこからは血が吹き出していた。
「おい!大丈夫か!」
少女が声をあげるが、残念ながらここに言葉の通じるものはいない。戦いは変わらず続き、彼が肩の脚を力ずくに引き抜いて距離を取ると、蜘蛛に刺さった刀も彼についていくように独りでに蜘蛛から抜け、宙を舞い彼の手元に戻った。蜘蛛もこの時点で彼の危険性を感じ距離を取り直した。
「うわっ!」
不意の少女の声に彼も振り向いた。そこには目の前にいる蜘蛛より一回りほど小さい2メートル程度の蜘蛛がいた。突如現れた蜘蛛に彼も驚き、始末するために刀を手に走り出した。少女が蜘蛛に押し倒され、今にも牙が突き立てられそうな瞬間にその蜘蛛を叩き切った。しかしもう一方の蜘蛛はその隙を見逃さず彼に糸を吐きかけた。彼もこれには対応できず、彼の胴体に当たった糸は彼の上半身の動きを封じ、思わず刀も落としてしまった。彼がもがき始めたその一瞬で蜘蛛は一気に距離を詰め、鋭く尖った牙を見せつけるように大きな口を開けていた。彼もこの状態の危機を感じ取り、蜘蛛の口内を全力で蹴った。しかし蜘蛛はビクとも動かず、そのままガチリと大きな音を立てると、彼の脚は蜘蛛の体内へ持っていかれた。
「ひっ!」
少女にとっても恐ろしい光景だったのだろう。両手も使えず、片脚を失った彼はバランスを取れるはずもなくその場に倒れこんだ。勝利を確信したのか蜘蛛はじわりじわりと近づきその大きな口を見せつけるようにゆっくりと開いた。
「と、とにかく逃げるぞ。くそっ、この糸頑丈すぎる!」
少女も彼の糸をほどこうと必死に引っ張っているが糸は少し伸びると、それより先はピクリともしなかった。しかし彼女の行動のおかげで彼の手首が糸から解放された瞬間、彼が落とした刀が再び宙に浮き、蜘蛛の口を貫き胴体を通って貫通した。蜘蛛にとっても相当な痛手だったようで、蜘蛛は逃げ帰ってしまった。
「・・・・そうだ!怪我は?」
少女が我に帰り彼の方を見るがその傷は痛々しいものだった。右肩はえぐられ、左脚を食い千切られたのだ。だがしばらくすると、彼の傷口に土が集まり、傷を覆い止血をしていた。左脚にはさらに土が集まり続け、それは細長い形となって彼の脚を形成した。そして彼は土でできた無機質な脚を使って立ち上がり、そのままいつもの寝床へと帰った。倒した2メートル程の蜘蛛も彼と同じ道を見えない何かに引きずられて行った。
「おい!待ってくれ!」
少女は何かに操られていることはなかったのだが、しかし少女もまた、彼の後を追うのだった。
「これは…どうなってるんだ。」
少女は彼の寝床にいた。入り口こそただのほら穴だったが驚きなのはその中身である。しばらく細く歪な道を進むと、床、壁、天井。全てが滑らかな表面をしており、綺麗な立方体の部屋が現れた。ここまで美しい表面を作る技術は現在の幻想郷には存在せず、彼の部屋の異質さは一目瞭然だった。少女が部屋に入ると、蜘蛛も部屋に無理矢理引きずり込まれ、彼はそれを食べ始めた。
「・・・お前は、どうして助けてくれたんだ?」
それは彼自身も分からなかった。彼ならこの少女の事も食べてもおかしくはなかっただろうし、彼が生き物を救うなど初めてのことだった。だがしかし、彼にとっては少女を救った意味よりも、少女の放った言葉の意味の方がわからなかった。
「・・・・?」
彼は手に持っていた蜘蛛の脚を少女に突き出した。
「いや、食べないよ…。」
少女も首を横に振り食べない意思を見せた。すると彼は何もない壁に向かって手をかざした。すると、
「これは、干し肉に木の実。食べていいのか?」
壁の一部の20センチ四方が自動扉のように開き、そこには空洞があり食料が保管されていた。彼はその食料を少女に突き出し、食べろという意思表示を見せた。
「ありがとう、いただきます。」
今度は少女の口にもあったようで、木の実を口にしたのを見ると、彼も自分の食事に戻り、蜘蛛にかじりついた。
二人の食事が終わると沈黙が続いていた。それもそうだ、彼は言葉を知らないのだから意思疎通などできるはずがない。
「あの…そんな見られると恥ずかしいんだが。」
しかし彼は少女に興味があるようで壁にもたれて座っている少女の周りを歩き回りながら、様々な角度から少女を眺めていた。
「ちょっと!近い近い⁉︎」
少女が顔を赤くしたのでそれを確認するため顔を覗き込むと突き放されてしまった。彼にとっては少女の一挙一動が新鮮で興味深かったが、少女にとってはその行動一つ一つに驚かされてしまった。言葉が通じないのでやめろと言ってもやめず、困り果てていた。
「少し待っててくれ。」
少女は立ち上がり通路の方から尖った石ころを拾ってきた。そしてそれを壁に押し付け一文字『あ』と書いた。
「あ。」
少女はそれを指差しその時が表す音を発音して見せた。
「もう一度言うぞ、あ。」
「あ。」
「よし、次だ。」
少女は続けて、い、う、え、お、と書き順番に発音して聞かせた。彼も流れを理解したようで続いて発音をしていった。
「よし、これは?」
「な。」
「ならこれは?」
「ん。」
彼も飲み込みが早く、一晩のうちに基本的なひらがなの五十音を理解した。壁には五十音のひらがなが綺麗に書かれていた。
「よし、それじゃあ最後。」
少女はさらに壁に三文字を書き、自分を指差し、発音して見せた。
「け、い、ね。私はけいねだ。」
「け、い、ね。」
けいね、それが少女の名前であり、彼が初めて覚えた言葉だった。
沈黙の時間
「・・・」
ぺたぺた
「ぺたぺた触るな。」
ぺろっ
「おい!舐めるな!」
「・・・?」
「はぁ…」